(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
レール方向に複数配置される台車と、その台車にそれぞれ配置された空気ばねにより支持される車体と、その車体の床下に配置される床下機器と、前記空気ばねの空気を給排して前記車体の高さを調整する高さ調整機構とを備える鉄道車両において、
車両の走行に影響を与える線路への侵入物の存在に関する侵入物情報を検出する侵入物検出手段と、
その侵入物検出手段により侵入物情報が検出された場合に、前記高さ調整機構を作動させて前記車体のレール方向に配置される複数の台車の空気ばねに給気する給気手段と、
先頭車両を構成する前記車体の先頭に装着される排障器と、
前記侵入物検出手段により侵入物情報が検出された場合に、前記高さ調整機構を作動させて前記先頭車両のレール方向に配置される複数の台車のうちの先頭の台車の空気ばねの空気を排気する排気手段と、
その排気手段または前記給気手段のいずれを動作させるかを切り替える切替手段とを備えていることを特徴とする鉄道車両。
前記侵入物情報は、駅構内で非常事態が発生したことを通報する保安装置が作動したこと、前記車両を制動する非常ブレーキが作動したこと、前記車両の警笛が鳴動したことのいずれか1以上であることを特徴とする請求項1記載の鉄道車両。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。まず、
図1を参照して鉄道車両1の構成について説明する。
図1は本発明の一実施の形態における鉄道車両1の側面図である。なお、
図1では鉄道車両1のうち先頭車両2の後尾に連結される後続車両3のレール方向の図示を省略している。
【0013】
図1に示すように鉄道車両1は、先頭車両2と、その先頭車両3の後尾に連結される後続車両3とを含む複数の客車により構成される。先頭車両2は、先頭(
図1左側)に運転室が設けられると共に乗客を収容する車体4と、レール方向(
図1左右方向)に間隔をあけて配置される複数の台車(第1台車10及び第2台車20)とを備えている。後続車両3は、乗客を収容する車体5と、車体5の先頭側および後尾側に配置される複数の台車(第3台車30)とを備えている。
【0014】
車体4は、先頭に排障器6が装着され、床下に床下機器7が配置されている。第1台車10は、車体4の先頭側を支持するものであり、台車枠11と、台車枠11に回転自在に軸支される車輪12とを備えている。第2台車20は、車体4の後尾側を支持するものであり、台車枠21と、台車枠21に回転自在に軸支される車輪22とを備えている。第3台車30は、後続車両3の車体5を複数箇所で支持するものであり、台車枠31と、台車枠31に回転自在に軸支される車輪32とを備えている。車体5は、車体4と同様に、床下に床下機器7(
図3(b)参照)が配置されている。
【0015】
次に
図2及び
図3を参照して、第1台車10及び第2台車20の動作と先頭車両2の姿勢との関係、第3台車30の動作と後続車両3の姿勢との関係について説明する。
図2(a)は第1台車10に配置された第1空気ばね13の空気を排気した状態を示す先頭車両2の模式図であり、
図2(b)は第2台車20に配置された第2空気ばね23に給気した状態を示す先頭車両2の模式図である。
図3(a)は第1空気ばね13及び第2空気ばね23に給気した状態を示す先頭車両2の模式図であり、
図3(b)は第3空気ばね33に給気した状態を示す後続車両3の模式図である。
【0016】
図2(a)及び
図2(b)に示すように、先頭車両2は、第1台車10に配置された第1空気ばね13により台車枠11との間で車体4の先頭側が支持され、第2台車20に配置された第2空気ばね23により台車枠21との間で車体4の後尾側が支持される。第1空気ばね13及び第2空気ばね23は、通常、水平線h上に上端が位置するように、台車枠11,21に対して略同一の高さに調整される。
【0017】
これに対し、
図2(a)に示すように、第1台車10に配置された第1空気ばね13の空気を排気して第1空気ばね13を収縮すると、第1空気ばね13の高さを第2空気ばね23の高さより小さくできる。これにより、車体4の先頭側を低くすることができるので、車体4の先頭に設けられた排障器6と線路(図示せず)との隙間を小さくできる。特に車体4は、第1台車10に対してオーバーハングしているので(第1空気ばね13の配置位置から前方(
図2(a)左側)に張り出しているので)、第1空気ばね13の収縮量に対して、排障器6の下方への移動量を拡大できる。
【0018】
さらに、
図2(b)に示すように、第2台車20に配置された第2空気ばね23に給気して第2空気ばね23を伸張すると、さらに第2空気ばね23の高さを第1空気ばね13の高さより大きくできる。これにより、さらに車体4の先頭側を低くすることができるので、車体4の先頭に設けられた排障器6と線路(図示せず)との隙間をさらに小さくできる。
【0019】
また、
図3(a)に示すように、第1台車10に配置された第1空気ばね13及び第2台車20に配置された第2空気ばね23に給気して第1空気ばね13及び第2空気ばね23を伸張すると、車体4の床下と台車枠11,21との間隔を大きくできる。これにより、車体4の床下に配置された床下機器7と線路(図示せず)との隙間を大きくできる。
【0020】
図3(b)に示すように、後続車両3についても同様に、第3台車30に配置された第3空気ばね33に給気して第3空気ばね33を伸張すると、車体5の床下と台車枠31との間隔を大きくできる。これにより、車体5の床下に配置された床下機器7と線路(図示せず)との隙間を大きくできる。
【0021】
次に
図4を参照して、第1空気ばね13、第2空気ばね23及び第3空気ばね33の高さを調整する高さ調整機構14,24,34について説明する。
図4は鉄道車両1の高さ調整機構14,24,34及び電気的構成を示すブロック図である。なお、
図4では、電気信号の流れを実線で図示し、空気の流れを破線で図示する。
【0022】
図4に示すように鉄道車両1は、第1空気ばね13の空気の給排を制御するための高さ調整機構14が、空気タンク15(元空気溜)と第1空気ばね13との間に介設され、第2空気ばね23の空気の給排を制御するための高さ調整機構24が、空気タンク15と第2空気ばね23との間に介設されている。高さ調整機構14,24は、それぞれ、空気配管により接続された高さ調整弁16,26、給気弁17,27、遮断弁18,28及び排気弁19,29を備えている。
【0023】
遮断弁18,28は、第1空気ばね13及び第2空気ばね23の給排気時に高さ調整弁16,26(後述する)と第1空気ばね13及び第2空気ばね23との間の空気配管を開閉する弁である。給気弁17,27は、第1空気ばね13及び第2空気ばね23に給気する弁である。給気弁17,27、遮断弁18,28及び排気弁19,29は、一方が第1空気ばね13及び第2空気ばね23に連通し、遮断弁18,28の他方は高さ調整弁16,26の一方に連通する。排気弁19,29の他方は開放状態とされ、高さ調整弁16,26及び給気弁17,27は他方が空気タンク15に連通する。
【0024】
また、鉄道車両1は、第3空気ばね33の空気の給排を制御するための高さ調整機構34が、空気タンク35(元空気溜)と第3空気ばね33との間に介設されている。高さ調整機構34は、空気配管により接続された高さ調整弁36、給気弁37、遮断弁38及び排気弁39を備えている。
【0025】
遮断弁38は、第3空気ばね33の給排気時に高さ調整弁36(後述する)と第3空気ばね33との間の空気配管を開閉する弁であり、給気弁37は、第3空気ばね33に給気する弁である。給気弁37、遮断弁38及び排気弁39は、一方が第3空気ばね33に連通し、遮断弁38の他方は高さ調整弁36の一方に接続される。排気弁39の他方は開放状態とされ、高さ調整弁36及び給気弁37は他方が空気タンク35に連通する。
【0026】
車体4,5(
図2及び
図3参照)は、第1空気ばね13、第2空気ばね23及び第3空気ばね33の伸縮に基づき下降または上昇移動し、高さ調整弁16,26,36は、車体4,5の下降または上昇移動に伴って傾動するリンク機構(図示せず)の傾動量に応じて開閉される。遮断弁18,28,38を開弁しておけば、高さ調整弁16,26,36の開度に応じて第1空気ばね13、第2空気ばね23及び第3空気ばね33に給排される空気量が調整され、車体4,5の高さが自動的に調整される。高さ調整弁16,26,36及びリンク機構は周知であるから、ここでの説明は省略する。
【0027】
次いで、制御装置40の詳細構成について説明する。
図4に示すように制御装置40は、CPU41、ROM42及びRAM43を備え、それらがバスライン44を介して入出力ポート45に接続されている。また、入出力ポート45には、高さ調整機構14,24,34等の装置が接続されている。なお、制御装置40は、鉄道車両1に搭載される。
【0028】
CPU41は、バスライン44により接続された各部を制御する演算装置であり、ROM42は、CPU41により実行される制御プログラム(例えば、
図5に図示されるフローチャートのプログラム)や固定値データ等を記憶する書き換え不能な不揮発性のメモリである。RAM43は、制御プログラムの実行時に各種のデータを書き換え可能に記憶するためのメモリである。
【0029】
非常ブレーキ51は、鉄道車両1を緊急に停止させるための装置であり、線路上への落石や倒木、線路内へ進入した動物(人を含む)、踏切に立ち往生した自動車等の侵入物がある場合に、ブレーキハンドル(図示せず)の操作または自動列車制御装置(信号保安装置)を介した車内信号の操作によって作動される。非常ブレーキ51は、非常ブレーキ51が作動したことをCPU41に出力する出力回路(図示せず)を備えている。
【0030】
なお、進路上の侵入物と鉄道車両1とに距離がある場合など、侵入物を運転士が目視により発見できないことがあるので、運転士の目視以外の手段によって進路上の侵入物が検出され、その検出結果が運転士に報知される。運転士が侵入物を発見するより先に運転士に侵入物の存在を知らせて、非常ブレーキ51を早期に作動させ、衝突を回避するためである。
【0031】
侵入物を検出する手段としては、例えば、落石検知装置、踏切障害物検知装置、踏切支障報知装置、列車非常停止警報装置が挙げられる。落石検知装置は、落石が発生する可能性のある防護壁に電線を配設し、落石によって断線されることで落石の発生を検出するものが例示される。踏切障害物検知装置は、踏切警報発令中に自動車等の障害物(侵入物)が踏切道に存在することを検出する装置であり、光センサ式、超音波センサ式、ループコイル式、レーザレーダ式等の各種方式が例示される。踏切支障報知装置は、押ボタンスイッチ、信号炎管および軌道短絡器を備えるものが例示される。踏切支障報知装置の押ボタンスイッチを通報者が操作することによって信号炎管が発火し、さらに軌道短絡器により軌道回路が短絡されることで侵入物が検出される。
【0032】
列車非常停止警報装置は、プラットホーム下の線路上に設置された転落検知装置により異常(侵入物の存在)が検出された場合や、プラットホームから線路へ転落した人などを発見した駅係員や乗客が、プラットホームに設置された非常停止ボタンを押下した場合に作動する。
【0033】
落石検知装置、踏切障害物検知装置、踏切支障報知装置、列車非常停止警報装置等によって障害物(侵入物)が検出されると、その検出結果は、信号機や特殊信号発光機、信号炎管の発火等の信号表示によって、走行中の鉄道車両1の運転士に報知される。その信号表示を視認した運転士によってブレーキハンドル(図示せず)が操作され、非常ブレーキ51が作動される。
【0034】
警笛52は、線路内へ進入した動物や鉄道車両1の乗客に警戒や注意を促すために鳴動される装置であり、運転室に配設されたペダル(図示せず)を運転士が操作することにより作動される。警笛52は、警笛52が作動(鳴動)したことをCPU41に出力する出力回路(図示せず)を備えている。
【0035】
保安装置53は、駅構内で非常事態が発生したことを通報する装置(列車非常停止警報装置)である。非常停止ボタンの押下や転落検知装置により保安装置53が作動すると、自動列車制御装置(信号保安装置)等を介して鉄道車両1の車内信号が絶対停止を現示する。これにより非常ブレーキ51が作動される。
【0036】
信号受信器54は、上述した落石検知装置、踏切障害物検知装置、踏切支障報知装置、列車非常停止警報装置等が発信した侵入物の検出結果(防護無線信号)を受信するための装置であり、受信装置(図示せず)と、その受信装置の受信結果を処理してCPU41に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。なお、信号受信器54は、落石検知装置、踏切障害物検知装置、踏切支障報知装置、列車非常停止警報装置等による検出結果を、自動列車制御装置(信号保安装置)を介して受信し、その受信結果を処理してCPU41に出力するものであっても良い。
【0037】
速度検出装置55は、鉄道車両1の速度を検出すると共にその検出結果をCPU41に出力するための装置であり、鉄道車両1の速度を検出する速度センサ55aと、その速度センサ55aの検出結果を処理してCPU41に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。なお、速度センサ55aは、車両駆動用の電動機(図示せず)からの出力信号に基づいて速度を検出するものでも良い。
【0038】
切替装置56は、非常ブレーキ51、警笛52、保安装置53、信号受信機54による侵入物情報が検出されたときの動作モードを切り替えるための装置である。動作モードとしては、侵入物情報が検出されたときに先頭車両2の車体4の先頭側を下降させる下降モード、及び、侵入物情報が検出されたとき先頭車両2及び後続車両3の車体4,5を上昇させる上昇モードがある。
【0039】
切替装置56としては、運転士や車掌等により手動で操作されることにより下降モード又は上昇モードに切り替える切替スイッチが例示される。切替スイッチにより、例えば、都市鉄道では上昇モードに、地方鉄道では下降モードに切り替えることができる。輸送需要の多い都市鉄道は、輸送需要の少ない地方鉄道と比較してプラットホームから線路へ転落する人が多いので、動作モードを上昇モードにすることで、線路に転落した人が車体4下に巻き込まれて床下機器7に接触する事故を減らすことができる。
【0040】
また、切替装置56としては、時刻情報や自動列車制御装置(信号保安装置)等による地点情報を利用して自動で下降モード又は上昇モードに切り替える自動切替装置が例示される。例えば、都市と山間部とを連絡する鉄道車両では、自動切替装置により、都市では上昇モードに切り替え、郊外や山間部では下降モードに切り替えるように設定される。これにより、郊外や山間部では落石等の侵入物があるので、動作モードを下降モードにすることで、進路上の侵入物を排障器6で押し退けて侵入物が車体4下に巻き込まれることを防止できる。
【0041】
他の入出力装置60のうち、入力装置としては、例えば、鉄道車両1が走行する地点情報を検出してRAM43(バッファメモリ)に出力する自動列車制御装置(信号保安装置)、進路上の侵入物を運転士が発見したときに操作される通報装置(図示せず)が挙げられる。通報装置は、運転士に操作される押ボタンスイッチ等の操作部と、操作部が操作されたことをCPU41に出力する出力回路とを主に備えている。また、出力装置としては、非常ブレーキ51や警笛52が作動したときや通報装置が操作されたときに、乗客に衝突告知や注意を促すためのアナウンスを行う表示装置やスピーカ(いずれも図示せず)が挙げられる。表示装置やスピーカは、乗客が収容される客室に配設される。
【0042】
次に
図5を参照して巻き込み防止処理について説明する。
図5は巻き込み防止処理を示すフローチャートである。この処理は、進路上の侵入物の存在に関する侵入物情報が検出されたことをトリガとしてCPU41によって実行される処理であり、線路と車体4,5との隙間の大きさを調整するための処理である。
【0043】
制御装置40は(
図4参照)、非常ブレーキ51、警笛52、保安装置53、信号受信器54及び他の入出力装置60(通報装置)からの出力信号を、入出力ポート45を介してRAM43の記憶領域(バッファメモリ)に一時的に保存する。非常ブレーキ51、警笛52、保安装置53、信号受信器54、他の入出力装置60(通報装置)の内の1つ以上の出力信号がCPU41によって検出されたことをトリガとして、CPU41によって巻き込み防止処理が開始される。
【0044】
図5に示すように、CPU41は巻き込み防止処理に関し、まず、切替装置56による動作モードの設定が上昇モードか否かを判断し(S1)、設定が下降モードの場合には(S1:No)、保安装置53が作動したか否かを判断する(S2)。保安装置53が作動していない場合には(S2:No)、鉄道車両1が駅付近の特定領域(駅構内およびその周辺領域)を走行中か否かを判断する(S3)。なお、S3の処理は、自動列車制御装置(信号保安装置)により検出される鉄道車両1の地点情報に基づいて判断する。
【0045】
S3の処理の結果、駅付近の特定領域を鉄道車両1が走行していない場合には(S3:No)、CPU41は第1空気ばね13の空気を排気する(S4)。なお、S4の処理は遮断弁18を閉止し排気弁19を開弁することにより行われる。これにより第1空気ばね13が収縮され、先頭車両2の車体4の先頭側を後尾側に対して下降させることができる(
図2(a)参照)。その結果、排障器6と線路との隙間を小さくできる。
【0046】
次にCPU41は、第2空気ばね23に給気する(S5、第2給気手段)。なお、S5の処理は給気弁27を開弁することにより行われる。これにより第2空気ばね23が伸張され、先頭車両2の車体4の後尾側を先頭側に対して上昇させることができる(
図2(b)参照)。その結果、排障器6と線路との隙間をさらに小さくできる。
【0047】
ここで、非常ブレーキ51、警笛52、信号受信器54、他の入出力装置60(通報装置)の内の1つ以上の出力信号が検出される場合には、進路上に侵入物が存在する可能性がある。従って、S4及びS5の処理によって排障器6と線路との隙間を小さくすることによって、鉄道車両1が侵入物と衝突した場合には、侵入物を排障器6で押し退けることができる。その結果、侵入物が車体4の下に巻き込まれることを防止できる。よって、車体4下に設けられた床下機器7やブレーキ管等の損傷を防止できる。
【0048】
次いでCPU41は、速度検出装置55の検出結果に基づいて、鉄道車両1の速度を取得する(S6)。S6の処理は、鉄道車両1が停車したと判断されるまで(S7:Yes)、繰り返し実行される。S7の処理の結果、鉄道車両1が停車したと判断される場合には(S7:Yes)、CPU41は遮断弁18を開弁し第1空気ばね13に給気して(S8、伸張手段)、この巻き込み防止処理を終了する。なお、S8の処理のうち、第1空気ばね13の給気は給気弁17を開弁することにより行われる。
【0049】
これにより第1空気ばね13が伸張され、車体4の先頭側を上昇させることができる。その結果、車体4の先頭側と線路との隙間を大きくすることができるので、鉄道車両1の停車後、車体4下を点検し易くできる。点検の結果、異常がなければ運転を再開できるので、侵入物に鉄道車両1が衝突した場合も、運転再開までの期間を短縮できる。
【0050】
一方、S1の処理の結果、動作モードの設定が上昇モードの場合には(S1:Yes)、第1空気ばね13、第2空気ばね23及び第3空気ばね33に給気して(S9、第1給気手段)、この巻き込み防止処理を終了する。なお、S7の処理は、給気弁19,29,39を開弁することにより行われる。その結果、車体4,5を上昇させて線路と車体4,5の床下との間隔を大きくできるので、線路と床下機器7との間隔を大きくできる。よって、レール間に侵入物が入り込んだ場合に、その上を通過する鉄道車両1の床下機器7と侵入物とが接触する事故を減らすことができる。
【0051】
また、S2の処理の結果、保安装置53(列車非常停止警報装置)が作動した場合には(S2:Yes)、切替装置56により下降モードに設定されていても、上昇モードと同様に第1空気ばね13、第2空気ばね23及び第3空気ばね33に給気して(S9)、この巻き込み防止処理を終了する。保安装置53(列車非常停止警報装置)が作動した場合には、プラットホームから線路に人が転落した等の非常事態が発生した可能性がある。よって、線路と床下機器7との間隔を大きくすることにより、レール間に侵入物が入り込んだ場合に、その上を通過する鉄道車両1の床下機器7と侵入物とが接触する事故を減らすことができる。
【0052】
また、S3の結果、鉄道車両1が駅付近の特定領域(駅構内および周辺領域)を走行する場合には(S3:Yes)、下降モードに設定されていても、上昇モードと同様に第1空気ばね13、第2空気ばね23及び第3空気ばね33に給気して(S9)、この巻き込み防止処理を終了する。鉄道車両1が駅構内および周辺領域を走行する場合には、線路内の侵入物が人である可能性が高い。よって、線路と床下機器7との間隔を大きくすることにより、レール間に侵入物(人)が入り込んだ場合に、その上を通過する鉄道車両1の床下機器7と侵入物(人)とが接触する事故を減らすことができる。
【0053】
なお、本実施の形態において、請求項1記載の侵入物情報としては、非常ブレーキ41を作動させたこと、警笛52を鳴動させたこと、保安装置53が作動したこと、落石検知装置、踏切障害物検知装置、踏切支障報知装置、列車非常停止警報装置等の出力信号を信号受信器54が受信したこと、運転士が目視により侵入物を発見したときに通報装置(図示せず)の操作部を操作したこと等が例示される。
【0054】
また、請求項1記載の侵入物検出手段としては、RAM43の記憶領域(バッファメモリ)に一時的に保存された出力信号(非常ブレーキ51、警笛52、保安装置53、信号受信器54及び通報装置からの出力信号)をCPU41により検出する手段が該当する。給気手段としては、
図5に示すフローチャート(巻き込み防止処理)におけるS9の処理が該当する。請求項3記載の排気手段としてはS4の処理が該当する。
【0055】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、各車体4,5を支持する複数の台車の数(本実施の形態では2台)は一例であり、適宜選択できる。
【0056】
上記実施の形態では、巻き込み防止処理において、鉄道車両1に搭載された速度検出装置55によって鉄道車両1が停止したことを検出する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、鉄道車両1に搭載された加速度センサや車軸等の回転数を検出する回転計等を用いて、停車したことを検出することは当然可能である。
【0057】
上記実施の形態では、巻き込み防止処理において、第1空気ばね13の空気を排気した後(S4)、第2空気ばね23に給気する場合(S5)について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、第2空気ばね23に給気するS5の処理を省略することは当然可能である。S5の処理を省略しても、第1空気ばね13の空気を排気するS4の処理によって、排障器6と線路との隙間を小さくできるからである。
【0058】
上記実施の形態では、巻き込み防止処理において、排障器6と線路との隙間の大きさを検出することなく、第1空気ばね13の空気を排気し(S4)、第2空気ばね23に給気する場合(S5)について説明した。しかし、必ずしもこれに限られるものではなく、線路との距離を非接触で検出できる距離センサ(図示せず)を排障器6に設けることは当然可能である。この場合には、距離センサによって排障器6と線路との隙間の大きさを検出して、排障器6と線路との隙間の大きさが一定値となるように第1空気ばね13や第2空気ばね23に給排気することができる。
【0059】
ここで、S4の処理における第1空気ばね13の収縮量を一定値とすれば、鉄道車両1が上り勾配路を走行するときには、鉄道車両1が平坦路を走行する場合と比較して排障器6と線路との隙間が小さくなる。そのため、勾配の大きさによっては排障器6が線路に接触することがある。また、鉄道車両1が下り勾配路を走行するときには、鉄道車両1が平坦路を走行する場合と比較して排障器6と線路との隙間が大きくなる。そのため、下り勾配路において進路上の侵入物と衝突した場合には、勾配の大きさによっては排障器6で侵入物を押し退けることができずに車体4下に侵入物が巻き込まれるおそれがある。
【0060】
これに対し、距離センサによって排障器6と線路との隙間の大きさを検出しながら第1空気ばね13の空気を排気する場合には、上り勾配または下り勾配の大きさに関わらず、排障器6と線路との隙間の大きさを、予め定めた一定値(侵入物が巻き込まれない程度の隙間の大きさ)にすることができる。これにより、排障器6が線路に接触したり、排障器6を線路に近づけているにも関わらず車体4下に侵入物が巻き込まれたりすることを防止できる。
【0061】
また、制御装置40により、距離センサによって排障器6と線路との隙間の大きさを検出しながら第1空気ばね13の空気を排気し、排障器6と線路との隙間の大きさが一定値に到達しないときに、第2空気ばね23に給気するように制御することは当然可能である。第1空気ばね13は、第2空気ばね23と比較して排障器6の近くに位置するので、第2空気ばね23を伸張させるより第1空気ばね13を収縮させる方が、排障器6を下降させるのに効果的だからである。なお、第1空気ばね13及び第2空気ばね23の両方に給排気して、排障器6と線路との隙間の大きさを一定値にすることも当然可能である。
【0062】
なお、距離センサ(図示せず)を排障器6に設ける代わりに、車体4及び台車(台車枠11,21)に、レール方向の傾斜を検出する傾斜センサ(図示せず)を設けることは当然可能である。この場合には、台車枠11,21に設けた傾斜センサによって線路のレール方向の勾配gを検出し、その勾配gに応じて第1空気ばね13(必要に応じて第2空気ばね23も)の空気を排気して、車体4のレール方向の傾斜角iを調整する。線路の勾配g及び車体4の傾斜角iと、排障器6と線路との隙間tとの関係を予め調べ、その関係(関係式やマップ)をROM42に保存しておけば、勾配g及び傾斜角iを検出しながら、隙間tが一定値となるように第1空気ばね13(及び第2空気ばね23)の伸縮量を調整できる。
【0063】
なお、この場合、台車枠11,21に設けた傾斜センサによって線路の勾配gを検出する代わりに、自動列車制御装置(信号保安装置)や鉄道制御システム等による地点情報を利用して、線路のレール方向の勾配を検出することは当然可能である。
【0064】
上記実施の形態では、非常ブレーキ51を作動させたこと、警笛52を鳴動させたこと、落石検知装置、踏切障害物検知装置、踏切支障報知装置、列車非常停止警報装置等の出力信号を信号受信器54が受信したこと、保安装置53が作動したこと、運転士が目視により侵入物を発見したときに通報装置(図示せず)の操作部を操作したこと等(侵入物情報)のいずれかが検出された場合に、高さ調整機構14,24,34を作動させる場合について説明した。しかし、必ずしもこれに限られるものではなく、警笛52を鳴動させたことを高さ調整機構14,24,34を作動させる必須の条件とすることは当然可能である。進路上に進入した動物(侵入物の一種、人を含む)を運転士が発見した場合には、運転士は反射的に警笛52を鳴動させるからである。
【0065】
警笛52の鳴動を巻き込み防止処理が実行される必須の条件とする場合には、例えば、侵入物情報が入力されるRAM43のバッファメモリとCPU41との間にAND回路(図示せず)を設け、そのAND回路の入力端子の一つに警笛52からの受信信号を入力する。AND回路の他の入力端子に非常ブレーキ51からの受信信号を入力すれば、警笛52が鳴動されて非常ブレーキ51が作動されたときに、AND回路から信号が出力される。これにより、侵入物を発見した以外の原因で非常ブレーキ51を作動させた場合等(警笛52が鳴動されないとき)に巻き込み防止処理が実行されることを防止できる。
【0066】
上記実施の形態では複数の客車が連結される鉄道車両1について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、先頭車両2だけで編成された1両編成(単行)の鉄道車両とすることは当然可能である。
【0067】
上記実施の形態では、先頭車両2の先頭部が線路に対して略垂直な切妻型車両(鉄道車両1)の場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、先頭部が流線形に形成される鉄道車両(新幹線(登録商標)車両など)とすることは当然可能である。