(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、電極群の製造に際し、正極、セパレータ及び負極を巻回する作業にともない、正極における電極群の径方向内側の面の正極合剤層が、電極群の周方向に沿った方向に圧縮されて内側の負極に向かって局部的に盛り上がることがある。このように正極合剤層の盛り上がった部分は、先端が比較的鋭角な突起となる。そして、このような突起は、セパレータを負極側へ部分的に押圧する。このとき、負極に粒径が大きな水素吸蔵合金粒子が含まれていると、負極の表面の凹凸が大きくなるため、表面の凹凸が大きな負極と突起を有する正極とに挟まれたセパレータは突き破られ易くなる。その結果、電池の短絡不良が起こることがある。上記したように、電池の中心部、即ち、電極群の中心部に粒径の大きな水素吸蔵合金を分布させる場合、電極群の中心部は、曲率が大きいため曲がり具合がきつく、上記したような短絡不良はより起こり易い。
【0008】
このような短絡不良を避けるため、水素吸蔵合金粒子の粒径を小さくすることが考えられる。しかしながら、水素吸蔵合金粒子の粒径を小さくするとアルカリ電解液に対する水素吸蔵合金の耐食性が低下し、電池の寿命が短くなってしまう。つまり、電池の短絡不良を抑制しようとすると、電池の寿命がある程度犠牲になり、電池の長寿命化を図ろうとすると、短絡不良の発生率が上昇してしまうという不具合がある。
【0009】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、電池の短絡不良の発生率の低減と電池の長寿命化の両立を図ることができるニッケル水素蓄電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明によれば、容器と、正極及び負極がセパレータを間に挟んだ状態で巻回されてなり、前記容器内にアルカリ電解液とともに密閉状態で収容された電極群と、を備え、前記負極は、前記電極群の径方向外側に位置する第1面及び前記電極群の径方向内側に位置する第2面を有する帯状の負極芯体と、前記負極芯体の第1面に形成された第1負極合剤層と、前記負極芯体の第2面に形成された第2負極合剤層とを有し、前記第1負極合剤層に含まれる水素吸蔵合金粒子の平均粒径が前記第2負極合剤層に含まれる水素吸蔵合金粒子の平均粒径よりも小さいことを特徴とするニッケル水素蓄電池が提供される。
【0011】
この態様によれば、正極における電極群の径方向内側の面と相対する負極における電極群の径方向外側の面に形成された第1負極合剤層に含まれる水素吸蔵合金粒子の粒径が、負極における電極群の径方向内側の面に形成された第2負極合剤層に含まれる水素吸蔵合金粒子の粒径よりも小さいので、全ての水素吸蔵合金粒子につき粒径が大きなものを用いる場合に比べて、巻回作業にともなって正極の正極合剤層の盛り上がった部分がセパレータを突き破る不具合は発生し難くなる。しかも、第2負極合剤層に含まれる水素吸蔵合金粒子の粒径は、比較的大きいので、アルカリ電解液に対する耐食性に優れている。つまり、この態様の場合、短絡が起きやすい部分には、短絡発生の防止に貢献する比較的粒径が小さい水素吸蔵合金粒子が配置され、それ以外の部分には、耐食性に優れる比較的粒径が大きい水素吸蔵合金粒子が配置されている。これにより、電池の短絡の発生を抑制でき、しかも、電池の寿命も延ばすことができる。
【0012】
また、前記負極芯体は、無孔の金属製シートである構成とすることが好ましい。
【0013】
この態様の場合、負極芯体における第1面側の第1負極合剤層に含まれる水素吸蔵合金粒子と、負極芯体における第2面側の第2負極合剤層に含まれる水素吸蔵合金粒子とが互いに混ざり合うことを確実に防止することができる。これにより、第1面側に粒径の大きな水素吸蔵合金粒子が存在し、第2面側に粒径の小さい水素吸蔵合金粒子が存在するといった不具合は発生しないので、短絡不良の発生率はより低くなり、電池の寿命もより長くなる。
【0014】
好ましくは、前記負極芯体は、前記負極芯体の単位面積当たりの貫通孔の面積の比率で表される開孔率が10%以下の金属製シートである構成とする。
【0015】
この態様の場合、負極芯体の第1面側の水素吸蔵合金粒子と負極芯体の第2面側の水素吸蔵合金粒子とが互いに混ざり合うことをある程度抑えつつ負極芯体への負極合剤層の結着性が高められる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るニッケル水素蓄電池は、電池の短絡不良の発生率の低減と電池の長寿命化の両立を図ることができる優れた電池となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るニッケル水素蓄電池(以下、単に電池と称する)2を、図面を参照して説明する。
電池2は、例えば、
図1に示すAAサイズの円筒型の電池である。
【0019】
図1に示すように、電池2は、上端が開口した有底円筒形状をなす外装缶10を備えている。外装缶10は導電性を有し、その底壁35は負極端子として機能する。外装缶10の開口内には、導電性を有する円板形状の蓋板14及びこの蓋板14を囲むリング形状の絶縁パッキン12が配置され、絶縁パッキン12は外装缶10の開口縁37をかしめ加工することにより外装缶10の開口縁37に固定されている。即ち、蓋板14及び絶縁パッキン12は互いに協働して外装缶10の開口を気密に閉塞している。
【0020】
ここで、蓋板14は中央に中央貫通孔16を有し、そして、蓋板14の外面上には中央貫通孔16を塞ぐゴム製の弁体18が配置されている。更に、蓋板14の外面上には、弁体18を覆うようにしてフランジ付き円筒形状の正極端子20が固定され、正極端子20は弁体18を蓋板14に向けて押圧している。なお、この正極端子20には、図示しないガス抜き孔が開口されている。
【0021】
通常時、中央貫通孔16は弁体18によって気密に閉じられている。一方、外装缶10内にガスが発生し、その内圧が高まれば、弁体18は内圧によって圧縮され、中央貫通孔16を開き、この結果、外装缶10内から中央貫通孔16及び正極端子20のガス抜き孔を介して外部にガスが放出される。つまり、中央貫通孔16、弁体18及び正極端子20は電池のための安全弁を形成している。
【0022】
外装缶10には、電極群22が収容されている。この電極群22は、それぞれ帯状の正極24、負極26及びセパレータ28からなり、これらは正極24と負極26との間にセパレータ28が挟み込まれた状態で渦巻状に巻回されている。即ち、セパレータ28を介して正極24及び負極26が重ね合わされている。電極群22の最外周は負極26の一部(最外周部)により形成され、外装缶10の内周壁と接触している。即ち、負極26と外装缶10とは互いに電気的に接続されている。
【0023】
そして、外装缶10内には、電極群22と蓋板14との間に正極リード30が配置されている。詳しくは、正極リード30は、その一端が正極24に接続され、その他端が蓋板14に接続されている。従って、正極端子20と正極24とは、正極リード30及び蓋板14を介して互いに電気的に接続されている。なお、蓋板14と電極群22との間には円形の上部絶縁部材32が配置され、正極リード30は絶縁部材32に設けられたスリット39を通して延びている。また、電極群22と外装缶10の底部との間にも円形の下部絶縁部材34が配置されている。
【0024】
更に、外装缶10内には、所定量のアルカリ電解液(図示せず)が注入されている。このアルカリ電解液は、電極群22に含浸され、正極24と負極26との間での充放電反応を進行させる。なお、アルカリ電解液の種類としては、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム水溶液をあげることができ、またアルカリ電解液の濃度についても、適当な充放電反応を進行させることができる濃度であれば特には限定されない。
【0025】
セパレータ28の材料としては、例えば、ポリアミド繊維製不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維製不織布が挙げられる。
【0026】
正極24は、多孔質構造を有する導電性の正極芯体と、この正極芯体の空孔内に保持された正極合剤とからなる。
正極合剤は、正極活物質粒子と、導電材と、これら正極活物質粒子及び導電材を正極芯体に結着するための結着剤とからなる。また、必要に応じて正極の特性を改善するための種々の添加剤を加えても構わない。この添加剤としては、例えば、酸化イットリウムが好適に用いられる。
【0027】
正極活物質粒子は、水酸化ニッケル粒子又は高次水酸化ニッケル粒子である。なお、これら水酸化ニッケル粒子は、コバルト、亜鉛、カドミウム等を固溶していてもよく、あるいは表面がコバルト化合物で被覆されていてもよい。
【0028】
導電材としては、一酸化コバルト、金属コバルト等を用いることができる。
【0029】
結着剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)ディスパージョン、HPC(ヒドロキシプロピルセルロース)ディスパージョンなどを用いることができる。
【0030】
正極24は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、正極活物質粒子からなる正極活物質粉末、導電材、結着剤及び水を含む正極合剤ペーストを調製する。得られた正極合剤ペーストは、ニッケルフォームに充填され、乾燥させられる。乾燥後、水酸化ニッケル粒子等が充填されたニッケルフォームは、ロール圧延されてから所定寸法に裁断される。これにより、正極合剤を保持した所定形状の正極24が作製される。
【0031】
次に、負極26について説明する。
負極26は、帯状をなす導電性の負極芯体を有し、この負極芯体に負極合剤が保持されている。
【0032】
負極芯体は、金属製シートからなる。この金属製シートとしては、後述する理由から、貫通孔が設けられていない無孔の金属製シート、或いは、多数の貫通孔が分布されている金属製シートであって、開孔率が10%以下の金属製シートを用いることが好ましい。
ここで、開孔率とは、金属製シートを平面視した際の単位面積当たりの貫通孔の面積の比率で表される。ここで、金属製シートをパンチング加工により打ち抜いた開孔部を貫通孔とし、開孔部以外の部分、即ち、貫通孔と貫通孔との間の金属製シートが残った部分を骨部とした場合、開孔率が低いほど貫通孔の占める割合は低くなり骨部の面積が大きくなることを表す。
【0033】
上記した金属製シートとしては、ニッケルめっき鋼板が好適に用いられる。また、貫通孔が分布された金属製シートとしては、例えば、ニッケルめっき鋼板のパンチングメタルシートが好適に用いられる。
【0034】
ここで、負極芯体として無孔の金属製シートを用いる場合、負極合剤は、かかる金属製シートの両面上に層状にして保持されている。一方、負極芯体としてパンチングメタルシートを用いる場合、負極合剤は、パンチングメタルシートの両面上に層状にして保持されるばかりでなく、貫通孔内にも充填される。
【0035】
負極合剤は、負極活物質としての水素を、吸蔵及び放出可能な水素吸蔵合金粒子を含み、更に導電材及び結着剤を含む。この結着剤は水素吸蔵合金粒子及び導電材を互いに結着させると同時に負極合剤を負極芯体に結着させる働きをなす。ここで、結着剤としては親水性若しくは疎水性のポリマー等を用いることができ、導電材としては、カーボンブラックや黒鉛を用いることができる。
【0036】
水素吸蔵合金粒子は、電池の充電時にアルカリ電解液中で電気化学的に発生させた水素を吸蔵でき、なおかつ放電時にその吸蔵した水素を容易に放出できるものであればよい。このような水素吸蔵合金としては、特に限定されないが、例えば、希土類−Ni系水素吸蔵合金、希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金等を用いることができる。
【0037】
ここで、水素吸蔵合金粒子は、例えば、以下のようにして得られる。
まず、所望の水素吸蔵合金を得るべく各種の金属原材料を準備する。そして、所定の組成となるよう各金属原材料を計量したのち、これらを混合して金属原材料の混合物を得る。ついで、この混合物を例えば誘導溶解炉で溶解した後、冷却してインゴットにする。得られたインゴットには、900〜1200℃の不活性ガス雰囲気下にて5〜24時間加熱する熱処理を施す。この後、室温まで冷却したインゴットを粉砕し、水素吸蔵合金粒子を得る。得られた水素吸蔵合金粒子は、篩にかけられ、所望する粒径の水素吸蔵合金粒子が選別される。
【0038】
本発明においては、平均粒径が第1の粒径である第1水素吸蔵合金粒子と、平均粒径が第2の粒径である第2水素吸蔵合金粒子とが選別される。ここで、第1の粒径は、第2の粒径よりも小さい。好ましくは、第1水素吸蔵合金粒子の平均粒径(第1の粒径)は、20μm〜60μmとし、第2水素吸蔵合金粒子の平均粒径(第2の粒径)は、70μm〜120μmとする。ここで、本発明において平均粒径とは、レーザー回折・散乱法により求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。
【0039】
次に、負極26は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、第1水素吸蔵合金粒子からなる水素吸蔵合金粉末、導電材、結着剤及び水を混練して第1負極合剤ペーストを調製する。更に、第2水素吸蔵合金粒子からなる水素吸蔵合金粉末、導電材、結着剤及び水を混練して第2負極合剤ペーストを調製する。
【0040】
得られた第1及び第2の負極合剤ペーストは、準備された金属製シートに以下のようにして塗布される。
【0041】
上記した金属製シート40は、
図2に示すように、第1面42及びこの第1面42とは反対側の第2面44を有しており、まずは、金属製シート40の第1面42に対し、例えば、塗布装置としてのダイコーターを用いて、第1負極合剤ペースト46が塗布される。このとき、第1負極合剤ペースト46は、厚さが、例えば、0.25mm〜0.35mmとなるように塗布される。ここで、
図2では、金属製シート40の第1面42に第1負極合剤ペースト46が塗布された状態が概略的に示されている。次いで、金属製シート40の第2面44に対して第2負極合剤ペースト48が塗布される。このとき、第2負極合剤ペースト48は、厚さが、例えば、0.25mm〜0.35mmとなるように塗布される。この場合も塗布装置としてのダイコーターを用いて塗布作業が行われる。ここで、金属製シート40の第1面42及び第2面44に第1及び第2負極合剤ペースト46,48がそれぞれ塗布された状態を概略的に示すと
図3のようになる。
【0042】
以上のように金属製シート40に塗布された第1及び第2負極合剤ペースト46,48は、この後、乾燥装置により乾燥処理が施され、水素吸蔵合金粒子等が含まれた負極合剤層となる。乾燥後、負極合剤層を保持した金属製シートは、ロール圧延されてから所定寸法に裁断される。これにより負極合剤を保持した所定形状の負極26が作製される。
【0043】
ここで、
図4から明らかなように、負極26は、金属製シート40の第1面42側において第1負極合剤ペースト46が乾燥させられてなる第1負極合剤層54と、金属製シート40の第2面44側において第2負極合剤ペースト48が乾燥させられてなる第2負極合剤層56とを有している。そして、第1負極合剤層54に含まれる第1水素吸蔵合金粒子50の粒径は、第2負極合剤層56に含まれる第2水素吸蔵合金粒子52の粒径よりも小さい。
【0044】
負極26においては、
図4に示すように、金属製シート40の第1面44に対応する側を第1面58、金属製シート40の第2面44に対応する側を第2面60とする。ここで、
図4においては、第1負極合剤層54及び第2負極合剤層56の表面部分にのみ第1水素吸蔵合金粒子50及び第2水素吸蔵合金粒子52が存在していないように描かれているが、
図4においては、負極26の構成を概略的に示しており、表面部分以外の第1水素吸蔵合金粒子50及び第2水素吸蔵合金粒子52は省略しているので、実際には負極合剤層中にもこれら粒子は存在している。
【0045】
上記したように金属製シート40として無孔の金属製シート40を用いた場合、金属製シート40により第1面42側の第1負極合剤ペースト46と第2面44側の第2負極合剤ペースト48とは隔離され、これらが混ざることはない。よって、第1面42側に第2水素吸蔵合金粒子52が存在すること及び第2面44側に第1水素吸蔵合金粒子50が存在するといった不具合は有効に防止される。
【0046】
また、本発明においては、金属製シート40として、多数の貫通孔を有するパンチングメタルシートを使用することもできる。この場合、貫通孔内にも負極合剤層54,56が入り込むので、金属製シート40への負極合剤層54,56の結着性は向上する。ところで、金属製シート40に多数の貫通孔が存在する場合、これらの貫通孔を介して第1面42側の第1負極合剤ペースト46と第2面44側の第2負極合剤ペースト48とが接する。このとき、パンチングメタルシートの開孔率を10%以下に規定すると、第1面42側の第1負極合剤ペースト46と第2面44側の第2負極合剤ペースト48とが貫通孔を介して接したとしても、その接する範囲は極めて小さく、これら第1負極合剤ペースト46と第2負極合剤ペースト48とが混ざり合って、第1負極合剤層54の表面(第1面58)側にまで第2水素吸蔵合金粒子52が進出し、第2面60側の第2負極合剤層56の表面(第2面60)側にまで第1水素吸蔵合金粒子50が進出することはない。
【0047】
一方、パンチングメタルシートの開孔率が10%を超えると、第1負極合剤ペースト46と第2負極合剤ペースト48とが貫通孔を介して接する範囲が大きくなり、これらペーストの混ざり合いがより進行して第1負極合剤層54の表面(第1面58)に第2水素吸蔵合金粒子52が存在し、第2負極合剤層56の表面(第2面60)に第1水素吸蔵合金粒子50が存在する不具合が生じるおそれがある。よって、パンチングメタルシートの開孔率は10%以下に規定することが好ましい。なお、パンチングメタルシートの開孔率の下限値は、0%を超えた値であればよい。
【0048】
以上のようにして作製された正極24及び負極26は、セパレータ28を介在させた状態で、渦巻き状に巻回され、電極群22に形成される。
【0049】
このとき、負極26は、粒径が小さい第1水素吸蔵合金粒子50を含む第1負極合剤層54が電極群22の径方向外側に位置付けられ、粒径が大きい第2水素吸蔵合金粒子52を含む第2負極合剤層56が電極群22の径方向内側に位置付けるように配置される。つまり、
図4に示すように、矢印Aで示す方向が電極群22の径方向外側に相当し、矢印Bで示す方向が電極群22の径方向内側に相当するので、負極26においては、矢印A方向側に第1面58が、矢印B方向側に第2面60が配置され、この状態で巻回作業が行われる。
【0050】
具体的には、
図4に示すように、セパレータ28を2枚準備し、下から、セパレータ28、正極24、セパレータ28、負極26の順に積層して積層体を形成する。このとき、負極26は、第1面58を上側、第2面60を正極24側となるように配置する。そして、最下層のセパレータ28の一方の端部に巻き芯62を配置し、負極26を外側にして、巻き芯62を矢印C方向に回転させ、積層体を巻回する。これにより、電極群22が形成される。得られた電極群22においては、第1水素吸蔵合金粒子50が含まれる第1負極合剤層54と、正極24における電極群22の径方向内側に位置する径方向内側面64とが相対し、第2水素吸蔵合金粒子52が含まれる第2負極合剤層56と、正極24における電極群22の径方向外側に位置する径方向外側面66とが相対する。
【0051】
このため、巻回作業にともない正極24の径方向内側面64が局部的に盛り上がったとしても、負極26における対応する部分に存在する第1水素吸蔵合金粒子50は粒径が比較的小さいので、負極26の第1面58(第1負極合剤層54の表面)の凹凸は小さくなりセパレータ28は突き破られ難い。一方、正極24の局部的な盛り上がりの影響を受けない負極26における電極群22の径方向内側(第2負極合剤層56)には、粒径が比較的大きい耐食性に優れる第2水素吸蔵合金粒子52を存在させることができる。
【0052】
このようにして得られた電極群22は、外装缶10内に収容される。引き続き、当該外装缶10内にはアルカリ電解液が所定量注入される。その後、電極群22及びアルカリ電解液を収容した外装缶10は、正極端子20を備えた蓋板14により封口され、本発明に係る電池2が得られる。
【0053】
本発明の電池2は、上記したように、負極26の第1負極合剤層54に含まれる第1水素吸蔵合金粒子50が、負極26の第2負極合剤層56に含まれる第2水素吸蔵合金粒子52よりも粒径が小さい。そして、負極26の第1負極合剤層54は、電極群22の径方向外側に位置し、負極の第2負極合剤層56は、電極群22の径方向内側に位置している。このため、第1負極合剤層54は正極24における電極群22の径方向内側の面に相対し、負極26の第2負極合剤層56は正極24における電極群22の径方向外側の面に相対している。よって、正極24における電極群22の径方向内側の面が負極26側に盛り上がったとしても負極26の第1負極合剤層54の表面(第1面58)は凹凸が小さいのでセパレータ28が破られることは抑制され短絡を起こし難い。一方、正極24における電極群22の径方向外側の面は負極26の第2負極合剤層56側に盛り上がることはなく、セパレータ28を破る不具合は起こり難い。このため、負極26の第2負極合剤層56には、第1水素吸蔵合金粒子50よりも粒径が大きい第2水素吸蔵合金粒子52を配置することができる。かかる第2水素吸蔵合金粒子52は、粒径が大きいことからアルカリ電解液に対する耐食性に優れ、電池の長寿命化に貢献する。よって、本発明のニッケル水素蓄電池は、電池の短絡不良の発生率の低減と電池の長寿命化の両立を図ることができる優れた電池となる。
【0054】
[実施例]
1.電池の製造
実施例1
(1)正極の作製
目付が400g/cm
2であり、厚さが約2mmであるニッケルフォームを準備した。
【0055】
ついで、水酸化ニッケル粒子からなるニッケル正極活物質粉末10質量部、導電材としての一酸化コバルト粉末0.01質量部、結着剤としてのカルボキシメチルセルロース0.003質量部及び水5質量部を混合して正極合剤ペーストを作製した。
【0056】
そして、得られた正極合剤ペーストを上記したニッケルフォームに充填した。正極合剤が充填されたニッケルフォームを乾燥後、ロール圧延した。圧延加工された正極合剤が付着したニッケルフォームは、所定形状に裁断され、AAサイズ用の正極24に形成された。
【0057】
(2)負極の作製
負極芯体として、厚さが25μmの冷間圧延鋼板(SPCC鋼板)に厚さ1.5μmのニッケルめっきを施した無孔のニッケルめっき鋼板を準備した。
【0058】
ついで、組成が、Nd
0.36Sm
0.54Mg
0.10Ni
3.33Al
0.17である水素吸蔵合金を製造した。得られた水素吸蔵合金を粉砕し、平均粒径が35μmの第1水素吸蔵合金粒子からなる第1水素吸蔵合金粉末と、平均粒径が100μmの第2水素吸蔵合金粒子からなる第2水素吸蔵合金粉末とを準備した。そして、第1水素吸蔵合金粉末10質量部に対し、結着剤としてのカルボキシメチルセルロース0.005質量部、導電材としてのカーボンブラック0.05質量部、水2.5質量部を添加して混練し、第1負極合剤ペーストを調製した。一方、第2水素吸蔵合金粉末10質量部に対し、結着剤としてのカルボキシメチルセルロース0.005質量部、導電材としてのカーボンブラック0.05質量部、水2.5質量部を添加して混練し、第2負極合剤ペーストを調製した。
【0059】
次に、準備した負極芯体としての無孔のニッケルめっき鋼板の第1面にダイコーターを用いて第1負極合剤ペーストを厚さが0.29mmとなるように塗布した。引き続きこのニッケルめっき鋼板の第2面にダイコーターを用いて第2負極合剤ペーストを厚さが0.29mmとなるように塗布した。
第1及び第2負極合剤ペーストの乾燥後、水素吸蔵合金の粉末等が付着した無孔のニッケルめっき鋼板を更にロール圧延したのち裁断し、AAサイズ用の負極26を作成した。
【0060】
(3)ニッケル水素蓄電池の組み立て
厚みが0.1mm(目付は40g/m
2)のポリプロピレン繊維製不織布からなるセパレータ28を2枚準備した。そして、下からセパレータ28、正極24、セパレータ28、負極26の順序でこれらを積層し、積層体を形成した。このとき、負極26は、第1面58を上側とし、第2面60を正極24側に向けて配置した。そして、最下層のセパレータ28の一方の端に巻き芯62を配置し、負極26を外側にして上記した積層体の巻回を行った。これにより渦巻状の電極群22を作製した。
【0061】
次いで、得られた電極群22を外装缶10内に収容した。この外装缶10は、ニッケルめっきが施された冷間圧延鋼板からなる有底円筒形状なしている。そして、この外装缶10内に30質量%の水酸化ナトリウム水溶液からなるアルカリ電解液を2.2g注入した。この後、蓋板14等で外装缶10の開口を塞ぎ、AAサイズの円筒型のニッケル水素蓄電池2を組み立てた。このニッケル水素蓄電池を電池aと称する。そして、この電池aは1000個製造した。
【0062】
比較例1
以下に示すような従来型負極を用いたこと以外は、実施例1と同様なニッケル水素蓄電池(電池b)を1000個製造した。
従来型負極は、以下のようにして製造した。
まず、負極芯体として、厚さが60μmの冷間圧延鋼板(SPCC鋼板)に直径1mmの貫通孔を格子状に多数あけ、更に厚さ1.5μmのニッケルめっきを施して形成したパンチングメタルシートを準備した。なお、このパンチングメタルシートの開孔率は、43%である。
【0063】
ついで、組成が、Nd
0.36Sm
0.54Mg
0.10Ni
3.33Al
0.17である水素吸蔵合金を製造し、得られた水素吸蔵合金を粉砕して平均粒径が65μmの水素吸蔵合金粒子からなる水素吸蔵合金粉末を準備した。そして、この水素吸蔵合金粉末10質量部に対し、結着剤としてのカルボキシメチルセルロース0.005質量部、導電材としてのカーボンブラック0.05質量部、水2.5質量部を添加して混練し、負極合剤ペーストを調製した。
【0064】
そして、この負極合剤ペーストを、準備したパンチングメタルシートの両面にダイコーターを用いてそれぞれ0.25mmの厚さで塗布した。負極合剤ペーストの乾燥後、水素吸蔵合金の粉末等が付着したパンチングメタルシートを更にロール圧延したのち裁断し、AAサイズ用の従来型負極を作成した。
【0065】
2.ニッケル水素蓄電池の評価
(1)短絡不良の発生率
1000個の電池a及び1000個の電池bに対し、それぞれ100Vの電圧を印加し、そのときの短絡の有無を検査した。そして、短絡が生じた電池の個数を計数し、電池1000個のうち短絡が発生した電池の割合を求め、その値を短絡不良の発生率として表1に示した。
【0067】
(2)考察
表1の結果から明らかなように、比較例1の電池bの短絡不良の発生率が0.4%であるのに対し、実施例1の電池aの短絡不良の発生率は0.2%であり、実施例1の電池aの方が比較例1の電池bよりも短絡不良の発生率が0.2%改善されていることがわかる。これは、実施例1の電池aにおいては、負極の第1負極合剤層に含まれている第1水素吸蔵合金粒子の平均粒径が負極の第2負極合剤層に含まれている第2水素吸蔵合金粒子の平均粒径よりも小さく設定されているため、負極の第1負極合剤層は、表面の凹凸は比較的小さくなっている。そして、この第1負極合剤層は、正極における電極群の径方向内側と相対するように配置されている。このため、電極群の巻回作業にともない正極における電極群の径方向内側が負極側に盛り上がったとしても、対応する負極の第1負極合剤層の表面は凹凸が小さいためセパレータの破れは発生し難くなっている。これにより実施例1の電池aの短絡発生率は低く抑えられた。
【0068】
また、実施例1の電池aでは、短絡が発生し難い部分である正極における電極群の径方向外側部分と対応する負極の第2負極合剤層に、比較的大きな粒径の水素吸蔵合金粒子を配置することができた。つまり、粒径が大きくアルカリ電解液に対する耐食性に優れる水素吸蔵合金粒子を短絡の起こり難いところに配置できているので、実施例1の電池aは短絡の発生を抑えつつ電池の長寿命化を図ることが可能である。