(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、この種の振動抑制装置として、例えば本出願人がすでに出願し、特許された特許文献1に開示したものが知られている。この振動抑制装置は、回転マスを用いて振動を抑制するマスダンパを備えている。このマスダンパは、高層ビルなどの構造物と支持フレームとの間に設置され、構造物の振動に伴って発生する両者の間の相対変位を、回転マスの回転運動に変換することにより、構造物の振動を抑制するものである。具体的には、マスダンパは、一端部が構造物及び支持フレームの一方に連結されたねじ軸と、このねじ軸に多数のボールを介して螺合するナットと、ねじ軸の他端部を収容するとともにナットに回転自在に連結され、構造物及び支持フレームの他方に連結された内筒と、ナット及び内筒の外周を覆った状態に設けられ、ナットに回転滑り材を介して支持されるとともに内筒にベアリングを介して回転自在に支持された円筒状の回転マスとを有している。この回転マスと内筒の間には、シリコンオイルなどから成る粘性体が充填されている。
【0003】
また、このマスダンパには、マスダンパからの過大な反力が構造物や支持フレームに作用することによるそれらの損傷などを防止するために、マスダンパの軸線方向に作用する荷重(以下「軸力」という)を制限するための軸力制限機構が設けられている。この軸力制限機構は、ナットと回転マスの間に設けられたリング状の前記回転滑り材と、回転マスに周方向に沿って配置されかつねじ込まれた複数のねじと、これらのねじと回転滑り材の間にそれぞれ配置された複数のばねとで構成されている。
【0004】
以上のように構成されたマスダンパでは、例えば地震時に、構造物と支持フレームの間に相対変位が発生すると、ねじ軸と内筒の相対的な直線運動が、ねじ軸に螺合するナット及び回転滑り材を介して、回転マスの回転運動に変換されることによって、回転マスが回転する。これにより、回転マスの回転慣性効果が得られ、回転マスの見かけの質量(等価質量)が実際の質量(実質量)に対して増幅されることにより、構造物の制振効果を得ることができる。また、回転マスと内筒の間に設けられた粘性体のせん断力によって、回転マスの回転速度に応じた粘性減衰効果を発揮させることにより、構造物の振動を速やかに収束させることができる。以上により、構造物の振動を適切に抑制することができる。
【0005】
また、上記の軸力制限機構において、ねじが強く締め付けられた状態では、回転滑り材がばねの付勢力でナットに強く押し付けられることにより、回転マスが、回転滑り材を介して、ナットと一体に連結された状態になる。また、上記の状態から、ねじが緩められ、その締付け度合が低い状態では、マスダンパの軸力が、ねじの締め付け度合いに応じて定まる制限荷重に達するまでは、上記と同様に、回転マスがナットと一体に回転する。一方、マスダンパの軸力が制限荷重に達すると、回転滑り材とナットの間に滑りが発生することによって、マスダンパにおける回転運動への変換動作が制限される。これにより、マスダンパの軸力が制限荷重を越えて過大になることが防止される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のマスダンパにおける軸力制限機構では、回転滑り材をナットに押し付け、両者の間に生じる摩擦抵抗を利用して、マスダンパの軸力を、制限荷重以下になるよう、いわゆる頭打ちにしている。しかし、摩擦抵抗を利用した上記の軸力制限機構では、以下の理由から、安定した制限荷重を確保できないおそれがある。すなわち、回転滑り材では、その摩擦係数がナットに対する回転滑り材の相対速度によって変化しやすい。また、摩擦による発熱や摩耗によって、回転滑り材の性状変化が生じたり、ばねの付勢力が変化したりするので、ナットに対する回転滑り材の摩擦力を、長期間にわたって一定に保つことが困難である。このように、摩擦抵抗を利用した軸力制限機構では、安定した制限荷重を確保できないことがある。
【0008】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、軸力の制限荷重の安定化を長期間にわたって確保しながら、構造物の振動を適切に抑制することができる振動抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、構造物を含む系内の2つの部位の間に設けられ、構造物の振動を抑制する振動抑制装置であって、一端部が2つの部位の一方に連結されたねじ軸と、このねじ軸にボールを介して螺合し、ねじ軸の軸線方向への往復動を回転運動に変換するナットと、ねじ軸と同軸状に延び、一端部が2つの部位の他方に連結されるとともに、他端部がナットに回転自在に連結され、ナットを介してねじ軸を支持するボールねじ支持体と、ナット及びボールねじ支持体の外周を覆う筒状に形成されるとともに、ナット及びボールねじ支持体に対して回転自在に構成され、2つの部位の間の相対変位を回転運動に変換するための回転マスと、ナットと回転マスの間に設けられた所定の作動流体を有し、作動流体を利用して、振動抑制装置において軸線方向に作用する荷重が所定の制限荷重に達したときに、2つの部位の間の相対変位から回転マスの回転運動への変換を制限する制限手段と、を備えていることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、構造物の振動などにより、2つの部位の間の相対変位が発生すると、両部位にそれぞれ連結されたねじ軸及びボールねじ支持体が、それらの軸線方向に沿って直線運動し、この直線運動が、ナットを介して、回転マスの回転運動に変換される。回転マスが回転すると、その回転慣性効果により、回転マスの等価質量が実質量に対して増幅されることによって、回転マスの実質量に対して非常に大きな回転マスによる反力(回転慣性力)が発生し、それにより、構造物の振動が抑制される。
【0011】
また、ナットと回転マスの間に設けられた所定の作動流体を有する制限手段により、その作動流体を利用して、振動抑制装置において軸線方向に作用する荷重が所定の制限荷重に達したときに、2つの部位の間の相対変位から回転マスの回転運動への変換を制限する。このように、上記の作動流体を利用して、回転マスの回転運動への変換を制限するので、摩擦抵抗を利用する従来と異なり、振動抑制装置において、その軸力の制限荷重の安定化を長期間にわたって確保しながら、構造物の振動を適切に抑制することができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の振動抑制装置において、制限手段は、ナットと回転マスの間に作動流体を充填した状態に画成する作動流体充填室と、この作動流体充填室を軸線方向に互いに隣接する第1室及び第2室に仕切るように設けられ、ナット及び回転マスの一方に螺合しかつ他方に軸線方向に移動自在に係合し、ナットと回転マスが相対的に回転することによって、軸線方向に移動する可動体と、この可動体に設けられ、可動体の移動に伴い、第1室及び第2室の一方の圧力が所定値に達したときに開弁することにより、第1室及び第2室の一方から他方への作動流体の移動を許容するリリーフ弁と、をさらに有することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、ナットと回転マスの間に画成された作動流体充填室内に作動流体が充填され、この作動流体充填室が、可動体によって、軸線方向に互いに隣接する第1室及び第2室に仕切られている。また、この可動体は、ナット及び回転マスの一方に螺合しかつ他方に軸線方向に移動自在に係合している。2つの部位の間の相対変位によってナットが回転する場合、可動体がナットと一体に回転しかつ軸線方向に移動しない状態、つまり振動抑制装置の軸線方向に作用する荷重が所定の制限荷重に達していない状態では、リリーフ弁が閉じており、流体の移動がないため、回転マスがナットと一体に回転する。一方、振動抑制装置の軸線方向に作用する荷重が所定の制限荷重に達した状態(第1室及び第2室の一方の上昇した圧力が所定値に達したとき)では、リリーフ弁が開弁し、第1室及び第2室の一方から他方に作動流体が流れ、ナットが回転マスに対して相対的に回転し、可動体は、ナット又は回転マスと一体に回転しながら、軸線方向に沿って移動し、それにより、作動流体充填室の第1室及び第2室の一方の圧力が制限荷重で頭打ちとなる。その結果、回転マスの回転慣性力のそれ以上の増大が抑制され、振動抑制装置における軸力を適切に制限することができる。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の振動抑制装置において、制限手段は、ナットの外周を覆った状態に設けられるとともに回転マスに連結され、内部に作動流体が充填されたギヤケースと、このギヤケース内においてナットの外周に設けられ、ギヤケースの内周面に摺接する駆動ギヤ部と、ギヤケース内において回転自在に設けられ、駆動ギヤ部に噛み合うとともにギヤケースの内周面に摺接する従動ギヤ部と、ギヤケースに設けられ、ナットの回転に伴う駆動ギヤ部及び従動ギヤ部の回転により、ギヤケースに対して作動流体を流出又は流入させるための第1出入口及び第2出入口と、これらの第1出入口と第2出入口をギヤケースの外部において接続し、作動流体が通流可能な作動流体通路と、この作動流体通路に設けられ、作動流体通路の第1出入口側及び第2出入口側の一方の圧力が所定値に達したときに開弁することにより、作動流体の通流を許容するリリーフ弁と、をさらに有することを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、ナットの外周を覆った状態に設けられたギヤケースが回転マスに連結され、そのギヤケース内に作動流体が充填されている。また、ギヤケース内には、ナットの外周に設けられた駆動ギヤ部、及びこの駆動ギヤ部に噛み合う従動ギヤ部が回転自在に設けられており、これらの駆動ギヤ部及び従動ギヤ部は、ギヤケースの内周面に摺接している。2つの部位の間の相対変位によってナットが回転する場合、そのナットとギヤケースが一体に回転している状態、つまり振動抑制装置の軸線方向に作用する荷重が所定の制限荷重に達していない状態では、リリーフ弁が閉じており、流体の移動がないため、ギヤケースが連結された回転マスも、ナットと一体に回転する。一方、振動抑制装置の軸線方向に作用する荷重が所定の制限荷重に達した状態(作動流体通路の第1出入口側及び第2出入口側の一方の上昇した圧力が所定値に達したとき)では、リリーフ弁が開弁し、ギヤケース内の作動流体が作動流体通路を介して循環するように流れ、ナットがギヤケースに対して相対的に回転し、ナットの駆動ギヤ部及びこれに噛み合う従動ギヤ部が、作動流体を搬送するギヤポンプと同様に動作することにより、作動流体通路の第1出入口側及び第2出入口側の一方の圧力が制限荷重で頭打ちとなる。その結果、前述した請求項2と同様、回転マスの回転慣性力のそれ以上の増大が抑制され、振動抑制装置における軸力を適切に制限することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態による振動抑制装置としてのマスダンパを含む免震装置を、これを適用した構造物とともに概略的に示している。同図に示すように、この免震装置1は、地面に固定された基礎2と、この基礎2上に立設された高層ビルなどの構造物3との間に設けられている。具体的には、免震装置1は、複数(
図1では2つのみ図示)の積層ゴム4と、複数(
図1では1つのみ図示)のマスダンパ5とで構成されている。
【0018】
積層ゴム4は、基礎2上に固定されるとともに構造物3の底面に固定され、構造物3を下方から支持している。一方、マスダンパ5は、その両端部が、基礎2上に突設された支持部材2a、及び構造物3の下面に突設された支持部材3aにそれぞれ連結されている。
【0019】
図2は、第1実施形態のマスダンパ5を示している。このマスダンパ5は、内筒11(ボールねじ支持体)、ボールねじ12、回転マス13及び制限・減衰機構14を備えている。内筒11は、鋼材から成り、一端部(
図2(a)の左端部)が開口し、他端部(
図2(a)の右端部)が閉じた円筒状に形成されている。また、この内筒11の他端部は、マスダンパ5の反力によっては回転しない程度の摩擦を有する自在継手15aを介して、第1フランジ15に回転自在にかつ移動不能に取り付けられている。
【0020】
ボールねじ12は、ねじ軸12aと、このねじ軸12aに多数のボール12bを介して螺合するナット12cを有しており、内筒11と同軸状でかつ直列に配置されている。ねじ軸12aは、所定長さを有しており、その一端部が内筒11の開口に収容されている。また、このねじ軸12aの他端部は、マスダンパ5の反力によっては回転しない程度の摩擦を有する自在継手16aを介して、第2フランジ16に回転自在にかつ移動不能に取り付けられている。ナット12cは、内筒11側の端部がクロスローラベアリング17を介して内筒11に嵌合しており、それにより、内筒11に回転自在に支持されている。
【0021】
回転マス13は、比重が比較的大きな材料(例えば鉄)から成り、肉厚の円筒状に形成されている。また、回転マス13は、内筒11及びボールねじ12の外側に同軸状に配置され、両者11、12を覆っている。回転マス13の第1フランジ15側の端部は、ラジアルベアリング18を介して、内筒11に嵌合しており、したがって、回転マス13は、内筒11に対し、回転自在になっている。
【0022】
制限・減衰機構14は、マスダンパ5における回転運動への変換動作を制限するとともに、粘性減衰効果を発揮させるものである。この制限・減衰機構14は、ボールねじ12のナット12cと回転マス13との間に、所定の作動流体(例えばシリコンオイル)を充填した状態に画成する作動流体充填室21と、この作動流体充填室21をマスダンパ5の軸線方向(
図2(a)の左右方向)に互いに隣接する第1室21a及び第2室21bに仕切るように設けられ、軸線方向に移動可能な可動体22と、この可動体22に設けられた複数(本実施形態ではそれぞれ2つ)の調整弁23及びリリーフ弁24とを有している。
【0023】
作動流体充填室21は、ナット12cの軸線方向の両端部にそれぞれ位置する、シール機能を有する2つのベアリング25、25を備えている。これらのベアリング25、25によって、回転マス13がナット12cに回転自在に支持されるとともに、作動流体充填室21がシールされている。
【0024】
可動体22は、ナット12cの外径とほぼ同じ内径、及び回転マス13の内径とほぼ同じ外径を有するドーナツ状に形成され、軸線方向に所定の厚さを有している。また、可動体22の内周部には、ナット12cの外周面に形成された雄ねじ部26に螺合する雌ねじ部(図示せず)が形成されている。さらに、
図2(b)に示すように、可動体22の外周部には、外方に開放するコ字状の係合凹部22aが、所定角度(本実施形態では90度)ごとに複数(本実施形態では4つ)形成されており、これらの係合凹部22aが、回転マス13の内周面に形成された複数のガイド凸部13aにそれぞれ摺動自在に係合している。これらのガイド凸部13aは、作動流体充填室21内において、軸線方向に沿って延び、周方向に所定角度(本実施形態では90度)ごとに内方に突出している。したがって、これらのガイド凸部13aに係合凹部22aを介して摺動自在に係合する可動体22は、回転マス13に対し、一体に回転するとともに軸線方向に移動自在になっている。
【0025】
また、可動体22には、複数(本実施形態ではそれぞれ2つずつ)の調整弁23及びリリーフ弁24が設けられている。調整弁23は、マスダンパ5において、所定の減衰係数を得られるように調整するためのものである。具体的には、調整弁23は、作動流体充填室21の第1室21aと第2室21bとを連通するとともに、可動体22の軸線方向の移動に伴い、その移動速度に応じた量の作動流体を、第1室21a及び第2室21bの一方から他方に移動させるように構成されている。一方、リリーフ弁24は、常時は閉鎖しており、可動体22の軸線方向の移動に伴い、作動流体充填室21の第1室21a及び第2室21bの一方の圧力が所定値に達したときに開弁し、それにより、第1室21a及び第2室21bの一方から他方への作動流体の移動を許容するように構成されている。
【0026】
図3は、マスダンパ5をモデル化して示している。同図に示すように、マスダンパ5は、前記回転マス13を有する慣性接続要素10と、前記制限・減衰機構14を有する粘性減衰要素20とが、互いに直列に接続されたものと同等である。したがって、このマスダンパ5では、回転マス13の回転慣性効果及び制限・減衰機構14の粘性減衰効果によって、構造物3の振動が以下のようにして抑制される。
【0027】
すなわち、マスダンパ5では、地震などにより、基礎2と構造物3との間の相対変位が発生すると、それらにそれぞれ連結された内筒11及びねじ軸12aが、それらの軸線方向に沿って直線運動し、その直線運動が、回転するナット12cを介して、回転マス13の回転運動に変換される。回転マス13が回転すると、その回転慣性効果により、回転マス13の等価質量が実質量に対して増幅されることによって、回転マスの実質量に対して非常に大きな回転マス13による反力(回転慣性力)が発生し、それにより、構造物3の振動が抑制される。
【0028】
また、制限・減衰機構14における可動体22は、次のように動作する。すなわち、基礎2と構造物3との間の相対変位によって、マスダンパ5のナット12cが回転する場合、回転マス13がナット12cと一体に回転するときには、可動体22は、軸線方向に移動することなく、回転マス13及びナット12cと一体に回転する。
【0029】
図4は、可動体22の移動速度Vと、マスダンパ5の軸線方向に作用する荷重Fとの関係を示しており、グラフの勾配C1、C2が可動体22における減衰係数を表している。ナット12cが、回転マス13に対して相対的に回転するときには、可動体22は、回転マス13と一体に回転しながら、相対回転量に応じて、軸線方向に移動する。この場合、可動体22の調整弁23による減衰係数C1に基づき、作動流体充填室21の第1室21aと第2室21bの間を、調整弁23を介して流れる作動流体の移動速度に応じた粘性減衰効果が発揮される。加えて、軸線方向への可動体22の移動により、第1室21a及び第2室21bの一方の圧力が上昇する。これに伴い、マスダンパ5において、回転マス13の回転慣性力及び作動流体による減衰力も次第に大きくなる。
【0030】
そして、第1室21a及び第2室21bの一方の上昇した圧力が所定値に達したとき、すなわち、マスダンパ5の軸線方向に作用する荷重Fが所定の制限荷重F1に達したときに、リリーフ弁24が開弁する。これにより、第1室21a及び第2室21bの一方から他方に作動流体が流れ、作動流体充填室21の全体が、所定値よりも低い一定の圧力になる。その結果、可動体22における減数係数C1が、減衰係数C2に低下する。そして、回転マス13の回転慣性力及び作動流体による減衰力のそれ以上の増大が抑制され、マスダンパ5における軸力を適切に制限することができる。
【0031】
また、この場合、回転マス13の回転慣性力による反力は、制限・減衰機構14による粘性減衰効果によって低減され、それにより、基礎2や構造物3への作用が抑制される。これにより、マスダンパ5を備えた免震装置1により、構造物3の振動を適切に抑制することができる。
【0032】
図5は、上述した第1実施形態のマスダンパ5の変形例を示している。この変形例のマスダンパ5Aは、マスダンパ5に対し、制限・減衰機構14における可動体22とナット12c及び回転マス13との係合関係のみが異なっており、その他の構成部分については、マスダンパ5と同様である。したがって、以下の説明では、マスダンパ5と同じ構成部分については同一の符号を付して、その詳細な説明を省略するものとする。
【0033】
図5に示すように、このマスダンパ5Aの制限・減衰機構14は、作動流体充填室21と、この作動流体充填室21を第1室21a及び第2室21bに仕切るように設けられ、軸線方向に移動可能な可動体22Aと、この可動体22Aに設けられた複数の調整弁23及びリリーフ弁24とを有している。
【0034】
可動体22Aは、前記可動体22と同様のサイズを有するドーナツ状に形成されている。また、可動体22Aの外周部には、回転マス13の内周面に形成された雌ねじ部13bに螺合する雄ねじ部(図示せず)が形成されている。さらに、
図5(b)に示すように、可動体22Aの内周部には、内方に開放するコ字状の係合凹部22bが、所定角度(本実施形態では90度)ごとに複数(本実施形態では4つ)形成されており、これらの係合凹部22bが、ナット12cの外周面に形成された複数のガイド凸部12dにそれぞれ摺動自在に係合している。これらのガイド凸部12dは、作動流体充填室21内において、軸線方向に沿って延び、周方向に所定角度(本実施形態では90度)ごとに外方に突出している。したがって、これらのガイド凸部12dに係合凹部22bを介して摺動自在に係合する可動体22Aは、ナット12cに対し、一体に回転するとともに軸線方向に移動自在になっている。
【0035】
このように構成されたマスダンパ5Aも、前述したマスダンパ5と同様の作用、効果、すなわち、マスダンパ5Aにおける軸力を適切に制限することができるとともに、回転マス13の回転慣性力による反力が基礎2や構造物3に作用するのを抑制しながら、構造物3の振動を適切に抑制することができる。
【0036】
次に、
図6を参照しながら、本発明の第2実施形態による振動抑制装置としてのマスダンパについて説明する。なお、このマスダンパ6は、前述した第1実施形態のマスダンパ5に対し、制限・減衰機構14の構成のみが異なっており、その他の構成部分については、マスダンパ5と同様である。したがって、以下の説明では、マスダンパ5と同じ構成部分については同一の符号を付して、その詳細な説明を省略するものとする。
【0037】
図6に示すように、このマスダンパ6は、前記マスダンパ5の制限・減衰機構14と同様の機能を有する制限・減衰機構31を備えている。この制限・減衰機構31は、ナット12cの外周を覆った状態に設けられるとともに、回転マス13の内周面に複数(
図6(b)では2つ)の連結部32cを介して連結され、内部に所定の作動流体(例えばシリコンオイル)が充填されたギヤケース32と、このギヤケース32内においてナット12cの外周に設けられた駆動ギヤ部33と、ギヤケース32内において回転自在に設けられ、駆動ギヤ部33に噛み合う従動ギヤ部34と、ギヤケース32に対して作動流体を流出又は流入させるための第1出入口32aと第2出入口32bを、ギヤケース32の外部において接続し、作動流体が通流可能な作動流体通路35と、この作動流体通路35に設けられ、前記調整弁23及びリリーフ弁24と同様の機能(調整機能及びリリーフ機能)を有する調整・リリーフ弁36とを備えている。
【0038】
ギヤケース32は、ナット12cの駆動ギヤ部33、及び従動ギヤ部34を覆う所定形状に形成され、これらの駆動ギヤ部33及び従動ギヤ部34がギヤケース32の内周面に摺接している。また、ギヤケース32の周壁には、両ギヤ部33及び34の噛み合い部分の両側に、前記第1出入口32a及び第2出入口32bが形成されている。したがって、これらのギヤケース32、駆動ギヤ部33及び従動ギヤ部34などにより、いわばギヤポンプと同様の機構が構成されている。また、作動流体通路35は、両端部がギヤケース32の第1出入口32a及び第2出入口32bにそれぞれ連結されており、途中に前記調整・リリーフ弁36が設けられている。そして、これらの作動流体通路35及び調整・リリーフ弁36は、ナット12と回転マス13の間のスペースにおいて、ギヤケース32と一体に回転可能になっている。
【0039】
このように構成された制限・減衰機構31を備えたマスダンパ6では、第1実施形態のマスダンパ5と同様に、前記免震装置1に適用された場合、基礎2と構造物3との間の相対変位の発生によって、ナット12cが回転すると、そのナット12cとギヤケース32が一体に回転している状態では、ギヤケース32が連結された回転マス13も、ナット12cと一体に回転する。また、ナット12cがギヤケース32に対して相対的に回転すると、ナット12cの駆動ギヤ部33及び従動ギヤ部34が、ギヤケース32内の作動流体を搬送するギヤポンプと同様に動作し、その作動流体を、第1出入口32a及び第2出入口32bの一方からギヤケース32の外部、すなわち作動流体通路35側に送り出す。
【0040】
この場合、調整・リリーフ弁36の調整機能による減衰係数に基づき、調整・リリーフ弁36を通過する作動流体の移動速度に応じた粘性減衰効果が発揮される。加えて、ギヤケース32から作動流体通路35への作動流体の流出量が次第に多くなることにより、調整・リリーフ弁36の両側、すなわち作動流体通路35の第1出入口32a側及び第2出入口32b側の一方の圧力が上昇する。これに伴い、マスダンパ6において、回転マス13の回転慣性力及び作動流体による減衰力も次第に大きくなる。
【0041】
そして、作動流体通路35の第1出入口32a側及び第2出入口32b側の一方の圧力が所定値に達したとき、すなわち、マスダンパ6の軸線方向に作用する荷重が所定の制限荷重に達したときに、調整・リリーフ弁36のリリーフ機能(開弁)により、ギヤケース32内の作動流体が作動流体通路35を介して循環するように流れる。これにより、ギヤケース32内及び作動流体通路35内の圧力が、所定値よりも低い一定の圧力になり、減衰係数も低下する。そして、回転マス13の回転慣性力及び作動流体による減衰力のそれ以上の増大が抑制され、マスダンパ6における軸力を適切に制限することができる。
【0042】
また、この場合、回転マス13の回転慣性力による反力は、制限・減衰機構31による粘性減衰効果によって低減され、それにより、基礎2や構造物3への作用が抑制される。これにより、第1実施形態のマスダンパ5と同様、構造物3の振動を適切に抑制することができる。
【0043】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、本発明の振動抑制装置としてのマスダンパ5を、基礎2と構造物3の間に設置し、免震装置として用いているが、これに限らず、構造物3の層間などに設置し、制振装置として用いてもよい。また、各実施形態では、制限・減衰機構14及び31に用いられる作動流体として、シリコンオイルを例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各マスダンパに要求される特性などに応じて、他の種々の作動流体(例えばビンガム流体、ダイラタント流体)を使用してもよい。さらに、第1実施形態では調整弁23を、第2実施形態では調整機能を有する調整・リリーフ弁36を設けたが、第1実施形態において調整弁23を省略することが可能であり、また、第2実施形態において調整・リリーフ弁36から調整機能を省略、すなわちリリーフ弁のみを設けるようにしてもよい。
【0044】
また、例えば、地震動の大きさに応じて、マスダンパにおける粘性減衰性能が可変になるように構成してもよい。この場合には、地震動のレベルごとに設定される設計クライテリアを対象としてきめ細かく設計することが可能になる。具体的には、中小地震時の応答加速度を低減しつつ、巨大地震時の過大な免震層変位を抑制するように、マスダンパを設計することが可能になる。
【0045】
また、実施形態で示したマスダンパ5、5A及び6の細部の構成などは、あくまで例示であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することができる。