(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(X)構造単位が、N−置換マレイミド単量体由来の構造単位を含み、前記N−置換マレイミド単量体由来の構造単位の含有量が、前記メタクリル系樹脂を100質量%として、5〜40質量%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0023】
(メタクリル系樹脂組成物)
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物は、メタクリル系樹脂を含み、必要に応じて、他の熱可塑性樹脂、添加剤を含む。
【0024】
−メタクリル系樹脂−
本実施形態におけるメタクリル系樹脂は、メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位、及び主鎖に環構造を有する構造単位(X)を少なくとも含む。本実施形態におけるメタクリル系樹脂は、N−置換マレイミド単量体由来の構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の環構造を主鎖に有する構造単位(X)を含み、メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位も含むことが好ましい。
【0025】
以下、各単量体構造単位について説明する。
【0026】
−−メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位−−
まず、メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位について説明する。
メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位は、例えば、以下に示すメタクリル酸エステル類から選ばれる単量体から形成される。メタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロペンチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロオクチル、メタクリル酸トリシクロデシル、メタクリル酸ジシクロオクチル、メタクリル酸トリシクロドデシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸1−フェニルエチル、メタクリル酸2−フェノキシエチル、メタクリル酸3−フェニルプロピル、メタクリル酸2,4,6−トリブロモフェニル等が挙げられる。
これらの単量体は、単独で用いる場合も2種以上を併用する場合もある。
上記メタクリル酸エステルのうち、得られるメタクリル系樹脂の透明性や耐候性が優れる点で、メタクリル酸メチル及びメタクリル酸ベンジルが好ましい。
メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位は、一種のみ含有していても、二種以上含有していてもよい。
【0027】
以下に、特に、主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂における構造単位(X)ついて説明する。
【0028】
−−N−置換マレイミド単量体由来の構造単位−−
次に、N−置換マレイミド単量体由来の構造単位について説明する。
N−置換マレイミド単量体由来の構造単位は、下記式(1)で表される単量体及び/又は下記式(2)で表される単量体から選ばれた少なくとも一つとしてよく、好ましくは、下記式(1)及び下記式(2)で表される単量体の両方から形成される。
【0029】
【化1】
式(1)中、R
1は、炭素数7〜14のアリールアルキル基、炭素数6〜14のアリール基のいずれかを示し、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜14のアリール基のいずれかを示す。
また、R
2がアリール基の場合には、R
2は、置換基としてハロゲン原子を含んでいてもよい。
また、R
1は、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ニトロ基、ベンジル基等の置換基で置換されていてもよい。
【0030】
【化2】
式(2)中、R
4は、水素原子、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数1〜18のアルキル基のいずれかを示し、R
5及びR
6は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜14のアリール基のいずれかを示す。
【0031】
以下、具体的な例を示す。
式(1)で表される単量体としては、例えば、N−フェニルマレイミド、N−ベンジルマレイミド、N−(2−クロロフェニル)マレイミド、N−(4−クロロフェニル)マレイミド、N−(4−ブロモフェニル)マレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(2−エチルフェニル)マレイミド、N−(2−メトキシフェニル)マレイミド、N−(2−ニトロフェニル)マレイミド、N−(2、4、6−トリメチルフェニル)マレイミド、N−(4−ベンジルフェニル)マレイミド、N−(2、4、6−トリブロモフェニル)マレイミド、N−ナフチルマレイミド、N−アントラセニルマレイミド、3−メチル−1−フェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン、3,4−ジメチル−1−フェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン、1,3−ジフェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン、1,3,4−トリフェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン等が挙げられる。
これらの単量体のうち、得られるメタクリル系樹脂の耐熱性、及び複屈折等の光学的特性が優れる点から、N−フェニルマレイミド及びN−ベンジルマレイミドが好ましい。
これらの単量体は、単独で用いる場合も2種以上を併用して用いる場合もある。
【0032】
式(2)で表される単量体としては、例えば、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−n−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−n−ブチルマレイミド、N−イソブチルマレイミド、N−s−ブチルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド、N−n−ペンチルマレイミド、N−n−ヘキシルマレイミド、N−n−ヘプチルマレイミド、N−n−オクチルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N−ステアリルマレイミド、N−シクロペンチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、1−シクロヘキシル−3−メチル−1H−ピロール−2,5−ジオン、1−シクロヘキシル−3,4−ジメチル−1H−ピロール−2,5−ジオン、1−シクロヘキシル−3−フェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン、1−シクロヘキシル−3,4−ジフェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン等が挙げられる。
これらの単量体のうち、メタクリル系樹脂の耐候性が優れる点から、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドが好ましく、近年光学材料に求められている低吸湿性に優れることから、N−シクロヘキシルマレイミドが特に好ましい。
これらの単量体は、単独で用いる場合も2種以上を併用して用いることもできる。
【0033】
本実施形態のメタクリル系樹脂において、式(1)で表される単量体と式(2)で表される単量体とを併用して用いることが、高度に制御された複屈折特性を発現させ得る上で特に好ましい。
式(1)で表される単量体由来の構造単位の含有量(B1)の、式(2)で表される単量体由来の構造単位の含有量(B2)に対するモル割合、(B1/B2)は、好ましくは0超15以下、より好ましくは0超10以下である。モル割合(B1/B2)がこの範囲にあるとき、メタクリル系樹脂は透明性を維持し、黄変を伴わず、また耐環境性を損なうことなく、良好な耐熱性と良好な光弾性特性を発現する。
【0034】
N−置換マレイミド単量体由来の構造単位の含有量としては、特に限定されないが、メタクリル系樹脂を100質量%として、好ましくは5〜40質量%の範囲、より好ましくは5〜35質量%の範囲である。
この範囲内にあるとき、メタクリル系樹脂はより十分な耐熱性改良効果が得られ、また、耐候性、低吸水性、光学特性についてより好ましい改良効果が得られる。なお、N−置換マレイミド単量体由来の構造単位の含有量が40質量%以下とすることが、重合反応時に単量体成分の反応性が低下し未反応で残存する単量体量が多くなることによるメタクリル系樹脂の物性低下を防ぐのに有効である。
【0035】
本実施形態におけるN−置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂は、本発明の目的を損なわない範囲で、メタクリル酸エステル単量体及びN−置換マレイミド単量体と共重合可能な他の単量体由来の構造単位を含有していてもよい。
例えば、共重合可能な他の単量体としては、芳香族ビニル;不飽和ニトリル;シクロヘキシル基、ベンジル基、又は炭素数1〜18のアルキル基を有するアクリル酸エステル;グリシジル化合物;不飽和カルボン酸等を挙げることができる。
上記芳香族ビニルとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
上記不飽和ニトリルとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル等が挙げられる。
また、上記アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル等が挙げられる。
また、グリシジル化合物としては、グリシジルアクリレート、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。
不飽和カルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、及びこれらの半エステル化物又は無水物等が挙げられる。
上記共重合可能な他の単量体由来の構造単位は、一種のみ有していてもよく、二種以上を有していてもよい。
【0036】
これら共重合可能な他の単量体由来の構造単位の含有量としては、メタクリル系樹脂を100質量%として、0〜20質量%であることが好ましく、0.1〜15質量%であることがより好ましく、0.1〜10質量%であることがさらに好ましい。
他の単量体由来の構造単位の含有量がこの範囲にあると、主鎖に環構造を導入する本来の効果を損なわずに、樹脂の成形加工性や機械的特性を改善できるため好ましい。
【0037】
主鎖にN−置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂の製造方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法のいずれの重合方法が挙げられ、好ましくは懸濁重合法、塊状重合法、溶液重合法であり、さらに好ましくは溶液重合法である。
本実施形態における製造方法では、重合形式として、例えば、バッチ重合法、セミバッチ重合法、連続重合法のいずれも用いることができる。
本実施形態における製造方法では、ラジカル重合により単量体を重合することが好ましい。
【0038】
以下、N−置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂(以下、「マレイミド共重合体」と記す場合がある)の製造方法の一例として、溶液重合法を用いてラジカル重合で製造する場合について、具体的に説明する。
本実施形態においては、単量体の一部を重合開始前に反応器内に仕込み、重合開始剤を添加することによって重合を開始した後に、単量体の残部を供給する方法、いわゆるセミバッチ重合法を好ましく用いることができる。この方法を採用することにより、得られる重合物の分子量分布や組成分布を制御しやすくなる傾向にある。
【0039】
用いる重合溶媒としては、重合により得られるマレイミド共重合体の溶解度を高め、ゲル化防止等の目的から反応液の粘度を適切に保てるものであれば、特に制限はない。
具体的な重合溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素;メチルイソブチルケトン、ブチルセロソルブ、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン;ジメチルホルムアミド、2−メチルピロリドン等の極性溶媒;等を用いることができる。
また、重合時における重合生成物の溶解を阻害しない範囲で、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコールを重合溶媒として併用してもよい。
【0040】
重合時の溶媒量としては、重合が進行し、生産時に共重合体や使用モノマーの析出等が起こらず、容易に除去できる量であれば、特に制限はないが、例えば、配合する単量体の総量を100質量部とした場合に、10〜200質量部とすることが好ましい。より好ましくは25〜200質量部、さらに好ましくは50〜200質量部、さらにより好ましくは50〜150質量部である。
【0041】
重合温度としては、重合が進行する温度であれば特に制限はないが、生産性の観点から、50〜200℃であることが好ましく、より好ましくは80〜200℃である。さらに好ましくは90〜150℃、さらにより好ましくは100〜140℃、よりさらに好ましくは100〜130℃である。
【0042】
また、重合時間については、必要な転化率にて、必要な重合度を得ることができる時間であれば特に限定はないが、生産性等の観点から、0.5〜10時間であることが好ましく、より好ましくは1〜8時間である。
【0043】
重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤や連鎖移動剤を添加して重合してもよい。
【0044】
重合開始剤としては、一般にラジカル重合において用いられる任意の開始剤を使用することができ、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシイソノナノエート、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等の有機過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート等のアゾ化合物;等を挙げることができる。
これらは、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。
重合開始剤の添加量としては、重合に用いる単量体の総量を100質量部とした場合に、0.01〜1質量部としてよく、好ましくは0.05〜0.5質量部の範囲である。
【0045】
これらの重合開始剤は、重合反応が進行中であれば、いずれの段階に添加してもよい。
本実施形態では、反応系内に残存する未反応モノマー総量に対する重合開始剤より発生するラジカル総量の割合が、常時一定値以下となるように、開始剤の種類、開始剤量、及び重合温度等を適宜選択することが好ましい。
特に、本実施形態では、重合開始剤の添加開始から添加終了までの時間(重合開始剤添加時間)の前半に、少なくとも一度、重合開始剤の単位時間当たりの添加量を、添加開始時の単位時間当たりの添加量よりも小さくすることが好ましい。
この方法を採用することにより、重合後期におけるオリゴマーや低分子量体の生成量を抑制したり、重合時の過熱を抑制して重合の安定性を図ったりすることできる。
【0046】
連鎖移動剤としては、一般的なラジカル重合において用いる連鎖移動剤が使用でき、例えば、n−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−デシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルヘキシル等のメルカプタン化合物;四塩化炭素、塩化メチレン、ブロモホルム等のハロゲン化合物;α−メチルスチレンダイマー、α−テルピネン、ジペンテン、ターピノーレン等の不飽和炭化水素化合物;等が挙げられる。
これらは、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。
これらの連鎖移動剤は、重合反応が進行中であれば、いずれの段階に添加してもよく、特に限定されるものではない。
連鎖移動剤の添加量としては、重合に用いる単量体の総量を100質量部とした場合に、0.01〜1質量部としてよく、好ましくは0.05〜0.5質量部である。
【0047】
溶液重合においては、重合溶液中の溶存酸素濃度を出来る限り低減させておくことが重要であり、例えば、溶存酸素濃度は、10ppm以下の濃度であることが好ましい。溶存酸素濃度は、例えば、溶存酸素計DOメーターB−505(飯島電子工業株式会社製)を用いて測定することができる。溶存酸素濃度を低下する方法としては、重合溶液中に不活性ガスをバブリングする方法、重合前に重合溶液を含む容器中を不活性ガスで0.2MPa程度まで加圧した後に放圧する操作を繰り返す方法、重合溶液を含む容器中に不活性ガスを通ずる方法等の方法を適宜選択することができる。
【0048】
溶液重合により得られる重合液から重合物を回収する方法としては、特に制限はないが、例えば、重合により得られた重合生成物が溶解しないような炭化水素系溶媒やアルコール系溶媒等の貧溶媒が過剰量存在する中に重合液を添加した後、ホモジナイザーによる処理(乳化分散)を行い、未反応単量体について、液−液抽出、固−液抽出する等の前処理を施すことで、重合液から分離する方法;あるいは、脱揮工程と呼ばれる工程を経由して重合溶媒や未反応の単量体を分離し、重合生成物を回収する方法;等が挙げられる。
【0049】
ここで、脱揮工程とは、重合溶媒、残存単量体、反応副生成物等の揮発分を、加熱・減圧条件下で、除去する工程をいう。
脱揮工程に用いる装置としては、例えば、管状熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置;神鋼環境ソリューション社製ワイブレン、及びエクセバ、日立製作所製コントラ及び傾斜翼コントラ等の薄膜蒸発機;脱揮性能を発揮するに十分な滞留時間と表面積とを有するベント付き押出機;等を挙げることができる。
これらの中からいずれか2つ以上の装置を組み合わせた脱揮装置を用いた脱揮工程等も利用することができる。
【0050】
脱揮装置での処理温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは170〜300℃、さらに好ましくは200〜280℃である。この温度が150℃以上であると、残存揮発分が多くなることを防ぐのに有効である。逆に、この温度が350℃以下であると、得られるメタクリル系樹脂の着色や分解が起こる恐れが少ない。
脱揮装置内における真空度としては、10〜500Torrの範囲としてよく、中でも、10〜300Torrの範囲が好ましい。この真空度が500Torr以下であると、揮発分が残存しにくい傾向にあり、真空度が10Torr以上であると、工業的な実施がより容易である。
処理時間としては、残存揮発分の量により適宜選択されるが、得られるメタクリル系樹脂の着色や分解を抑えるためには、短いほど好ましい。
【0051】
脱揮工程を経て回収された重合物は、造粒工程と呼ばれる工程にて、ペレット状に加工されてもよい。
【0052】
造粒工程では、溶融状態の樹脂を多孔ダイよりストランド状に押出し、コールドカット方式、空中ホットカット方式、水中ストランドカット方式、及びアンダーウォーターカット方式にて、ペレット状に加工する。
【0053】
なお、脱揮装置としてベント付押出機を採用した場合には、脱揮工程と造粒工程とを兼ねてもよい。
【0054】
また、前述の通り、N−置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂の製造方法の別の例として、懸濁重合法を用いてラジカル重合で製造する場合もある。
懸濁重合法では、重合工程、洗浄工程、脱水工程、乾燥工程を経て、粒子状(ビーズ状)のメタクリル系樹脂を製造することができる。
懸濁重合法としては、水を媒体として用いる水系の懸濁重合法が好適に用いられる。ここでは、より具体的には、撹拌装置を用い、当該撹拌装置中に適宜、原料となる単量体、懸濁剤、必要に応じて重合開始剤、その他の添加剤を供給し、重合反応を行う。重合によりメタクリル系樹脂粒子を含むスラリーを得て、洗浄、脱水、乾燥を経て、メタクリル系樹脂粒子を分離回収する。
重合温度としては、生産性、凝集体の生成量を考慮すると、40〜90℃とすることが好ましく、重合時間としては、重合時の発熱を効果的に抑制し、且つ、凝集体の発生を低減する観点から、20〜240分が好ましい。
また、残存モノマーの低減化の観点から、上記重合の工程の後に、重合温度よりも高い温度に昇温し、その温度で一定時間保持する工程を施すことも好ましい。このとき保持する温度としては、重合温度より5℃以上高い温度以上、得られるメタクリル系樹脂のガラス転移温度以下の範囲とすることが、重合度が高く、安息角が小さい樹脂粒子が得られやすいため、好ましい。
【0055】
また、前述の通り、本実施形態では、溶液重合法により製造されたメタクリル系樹脂に、有機懸濁重合法や無機懸濁重合法等の懸濁重合法で製造されたメタクリル系樹脂を添加して、メタクリル系樹脂組成物の調製に用いてもよい。
【0056】
−−グルタルイミド系構造単位−−
主鎖にグルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂は、例えば、特開2006−249202号公報、特開2007−009182号公報、特開2007−009191号公報、特開2011−186482号公報、再公表特許2012/114718号公報等に記載されている、グルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂であり、当該公報に記載されている方法により形成することができる。
本実施形態のメタクリル系樹脂を構成するグルタルイミド系構造単位は、樹脂重合後に形成されてよい。
具体的には、グルタルイミド系構造単位は、下記一般式(3)で表されるものとしてよい。
【0057】
【化3】
上記一般式(3)において、好ましくはR
7及びR
8は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基であり、R
9は、水素原子、メチル基、ブチル基、シクロヘキシル基のいずれかであり、より好ましくは、R
7は、メチル基であり、R
8は、水素原子であり、R
9は、メチル基である。
【0058】
グルタルイミド系構造単位は、単一の種類のみを含んでいてもよいし、複数の種類を含んでいてもよい。
【0059】
グルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂において、グルタルイミド系構造単位の含有量については、本実施形態の組成物として好ましいガラス転移温度の範囲を満たすものであれば特に制限はないが、メタクリル系樹脂を100質量%として、好ましくは5〜70質量%の範囲、より好ましくは5〜60質量%の範囲である。
グルタルイミド系構造単位の含有量が上記範囲にあると、成形加工性、耐熱性、及び光学特性の良好な樹脂が得られることから好ましい。
【0060】
グルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂は、必要に応じて、芳香族ビニル単量体単位をさらに含んでいてもよい。
芳香族ビニル単量体としては特に限定されないが、スチレン、α−メチルスチレンが挙げられ、スチレンが好ましい。
【0061】
グルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂における芳香族ビニル単位の含有量としては、特に限定されないが、グルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂を100質量%として、0〜20質量%が好ましい。
芳香族ビニル単位の含有量が上記範囲にあると、耐熱性と優れた光弾性特性との両立が可能となり好ましい。
【0062】
−−ラクトン環構造単位−−
主鎖にラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂は、例えば、特開2001−151814号公報、特開2004−168882号公報、特開2005−146084号公報、特開2006−096960号公報、特開2006−171464号公報、特開2007−063541号公報、特開2007−297620号公報、特開2010−180305号公報等に記載されている方法により形成することができる。
【0063】
本実施形態のメタクリル系樹脂を構成するラクトン環構造単位は、樹脂重合後に形成されてよい。
【0064】
本実施形態におけるラクトン環構造単位としては、環構造の安定性に優れることから6員環であることが好ましい。
6員環であるラクトン環構造単位としては、例えば、下記一般式(4)に示される構造が特に好ましい。
【0065】
【化4】
上記一般式(4)において、R
10、R
11及びR
12は、互いに独立して、水素原子、又は炭素数1〜20の有機残基である。
有機残基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜20の飽和脂肪族炭化水素基(アルキル基等);エテニル基、プロペニル基等の炭素数2〜20の不飽和脂肪族炭化水素基(アルケニル基等);フェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜20の芳香族炭化水素基(アリール基等);これら飽和脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基における水素原子の一つ以上が、ヒドロキシ基、カルボキシル基、エーテル基、エステル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基;等が挙げられる。
【0066】
ラクトン環構造は、例えば、ヒドロキシ基を有するアクリル酸系単量体と、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル単量体とを共重合して、分子鎖にヒドロキシ基とエステル基又はカルボキシル基とを導入した後、これらヒドロキシ基とエステル基又はカルボキシル基との間で、脱アルコール(エステル化)又は脱水縮合(以下、「環化縮合反応」ともいう)を生じさせることにより形成することができる。
【0067】
重合に用いるヒドロキシ基を有するアクリル酸系単量体としては、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキル(例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸n−ブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチル)、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸アルキル等が挙げられ、好ましくは、ヒドロキシアリル部位を有する単量体である2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸や2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキルであり、特に好ましくは2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルである。
【0068】
主鎖にラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂におけるラクトン環構造単位の含有量は、例えば、メタクリル系樹脂100質量%に対して、5〜40質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜35質量%の範囲である。
ラクトン環構造単位の含有量がこの範囲にあると、成形加工性を維持しつつ、耐溶剤性向上や表面硬度向上等の環構造導入効果が発現できる。
なお、メタクリル系樹脂におけるラクトン環構造の含有量は、前述の、特許文献記載の方法を用いて決定できる。
【0069】
ラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂は、上述したメタクリル酸エステル単量体及びヒドロキシ基を有するアクリル酸系単量体と共重合可能な他の単量体由来の構成単位を有していてもよい。
このような共重合可能な他の単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタリルアルコール、アリルアルコール、エチレン、プロピレン、4−メチル−1−ペンテン、酢酸ビニル、2−ヒドロキシメチル−1−ブテン、メチルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾール等の重合性二重結合を有する単量体等が挙げられる。
これら他の単量体(構成単位)は、1種のみを有していてもよいし2種以上有していてもよい。
【0070】
これら共重合可能な他の単量体由来の構造単位の含有量としては、メタクリル系樹脂100質量%に対して、0〜20質量%であることが好ましく、耐候性の観点からは、10質量%未満であることがより好ましく、7質量%未満であることがさらに好ましい。
本実施形態におけるメタクリル系樹脂は、上記の共重合可能な他の単量体由来の構造単位を一種のみ有していてもよく、二種以上を有していてもよい。
【0071】
ラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂の製造方法としては、重合後に環化反応によりラクトン環構造を形成させる方法が用いられるが、環化反応を促進させる上で、溶媒を使用する溶液重合が好ましい。
【0072】
重合に用いる溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;等が挙げられる。
これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0073】
重合時の溶媒量としては、重合が進行し、ゲル化を抑制できる条件であれば特に制限はないが、例えば、配合する単量体の総量を100質量部とした場合に、50〜200質量部とすることが好ましく、より好ましくは100〜200質量部である。
【0074】
重合液のゲル化を充分に抑制し、重合後の環化反応を促進するためには、重合後に得られる反応混合物中における生成した重合体の濃度が50質量%以下になるように重合を行うことが好ましく、重合溶媒を反応混合物に適宜添加して50質量%以下となるように制御することが好ましい。
重合溶媒を反応混合物に適宜添加する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、連続的に重合溶媒を添加してもよいし、間欠的に重合溶媒を添加してもよい。
添加する重合溶媒は、1種のみの単一溶媒であっても2種以上の混合溶媒であってもよい。
【0075】
重合温度としては、重合が進行する温度であれば特に制限はないが、生産性の観点から50〜200℃であることが好ましく、より好ましくは80〜150℃、更に好ましくは90〜130℃である。
【0076】
重合時間としては、目的の転化率が満たされれば、特に制限されないが、生産性等の観点から、0.5〜10時間であることが好ましく、より好ましくは1〜8時間である。
【0077】
重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤や連鎖移動剤を添加して重合してもよい。
【0078】
重合開始剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、前記N−置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル樹脂の調製方法に開示した重合開始剤等が利用できる。
これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
重合開始剤の使用量は、単量体の組合せや反応条件等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではないが、重合に用いる単量体の総量を100質量部とした場合に、0.05〜1質量部としてよい。
【0079】
これらの重合開始剤は、重合反応が進行中であれば、いずれの段階に添加してもよい。
本実施形態では、反応系内に残存する未反応モノマー総量に対する重合開始剤より発生するラジカル総量の割合が、常時一定値以下となるように、開始剤の種類、開始剤量、及び重合温度等を適宜選択することが好ましい。
特に、本実施形態では、重合開始剤の添加開始から添加終了までの時間(重合開始剤添加時間)の前半に、少なくとも一度、重合開始剤の単位時間当たりの添加量を、添加開始時の単位時間当たりの添加量よりも小さくすることが好ましい。
この方法を採用することにより、重合後期におけるオリゴマーや低分子量体の生成量を抑制したり、重合時の過熱を抑制して重合の安定性を図ったりすることできる。
【0080】
連鎖移動剤としては、一般的なラジカル重合において用いる連鎖移動剤が使用でき、例えば、前記N−置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル樹脂の調製方法に開示した連鎖移動剤等が利用できる。
これらは、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。
これらの連鎖移動剤は重合反応が進行中であれば、いずれの段階に添加してもよく、特に限定されるものではない。
連鎖移動剤の使用量については、使用する重合条件において所望の重合度が得られる範囲であれば、特に限定されるものではないが、好ましくは重合に用いる単量体の総量を100質量部とした場合に、0.05〜1質量部としてよい。
【0081】
本実施形態におけるラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂は、上記重合反応終了後、環化反応を行うことにより得ることができる。そのため、重合反応液から重合溶媒を除去することなく、溶媒を含んだ状態で、ラクトン環化反応に供することが好ましい。
重合により得られた共重合体は、加熱処理されることにより、共重合体の分子鎖中に存在するヒドロキシル基(水酸基)とエステル基との間での環化縮合反応を起こし、ラクトン環構造を形成する。
【0082】
ラクトン環構造形成の加熱処理の際、環化縮合によって副生し得るアルコールを除去するための真空装置あるいは脱揮装置を備えた反応装置、脱揮装置を備えた押出機等を用いることもできる。
【0083】
ラクトン環構造形成の際、必要に応じて、環化縮合反応を促進するために、環化縮合触媒を用いて加熱処理してもよい。
環化縮合触媒の具体的な例としては、例えば、亜リン酸メチル、亜リン酸エチル、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル等の亜リン酸モノアルキルエステル、ジアルキルエステル又はトリエステル;リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸オクチル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジ−2−エチルヘキシル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル等のリン酸モノアルキルエステル、ジアルキルエステル又はトリアルキルエステル;等が挙げられる。
これらは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
環化縮合触媒の使用量としては、特に限定されるものではないが、例えば、メタクリル系樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01〜3質量部であり、より好ましくは0.05〜1質量部である。触媒の使用量が0.01質量部以上であると、環化縮合反応の反応率の向上に有効であり、触媒の使用量が3質量部以下であると、得られた重合体が着色することや、重合体が架橋して溶融成形が困難になることを防ぐのに有効である。
【0084】
環化縮合触媒の添加時期としては、特に限定されるものではなく、例えば、環化縮合反応初期に添加してもよいし、反応途中に添加してもよいし、その両方で添加してもよい。
【0085】
溶媒の存在下に環化縮合反応を行う際に、同時に脱揮を行うことも好ましく用いられる。
環化縮合反応と脱揮工程とを同時に行う場合に用いる装置については、特に限定されるものではないが、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置やベント付き押出機、また、脱揮装置と押出機を直列に配置したものが好ましく、ベント付き二軸押出機がより好ましい。
【0086】
用いるベント付き二軸押出機としては、複数のベント口を有するベント付き押出機が好ましい。
ベント付き押出機を用いる場合の反応処理温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。反応処理温度が150℃以上であると、環化縮合反応が不充分となって残存揮発分が多くなることを防ぐのに有効であり、反応処理温度が350℃以下であると、得られた重合体の着色や分解を抑制するのに有効ある。
ベント付き押出機を用いる場合の真空度としては、好ましくは10〜500Torr、より好ましくは10〜300Torrである。真空度が500Torr以下であると、揮発分が残存しにくい傾向にある。逆に、真空度が10Torr以上であると、工業的な実施が比較的容易である。
【0087】
上記の環化縮合反応を行う際に、残存する環化縮合触媒を失活させる目的で、造粒時に有機酸のアルカリ土類金属及び/又は両性金属塩を添加することも好ましい。
有機酸のアルカリ土類金属及び/又は両性金属塩としては、例えば、カルシウムアセチルアセテート、ステアリン酸カルシウム、酢酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、2−エチルヘキシル酸亜鉛等を用いることができる。
環化縮合反応工程を経た後、メタクリル系樹脂は、多孔ダイを附帯した押出機からストランド状に溶融し押出し、コールドカット方式、空中ホットカット方式、水中ストランドカット方式、及びアンダーウォーターカット方式にてペレット状に加工する。
【0088】
本実施形態におけるメタクリル系樹脂は、N−置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、ラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の環構造単位を有することが好ましく、N−置換マレイミド単量体由来の構造単位、ラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の環構造単位を有することがより好ましく、その中でも、特に、他の熱可塑性樹脂をブレンドすること無く、光弾性係数等の光学特性を高度に制御しやすい点から、N−置換マレイミド単量体由来の構造単位を有することが特に好ましい。
【0089】
(メタクリル系樹脂組成物の製造方法)
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物を製造する方法としては、本発明の要件を満たす組成物を得ることができれば、特に限定されるものではない。
組成物の調製法として溶融押出法を採用する場合においては、ベント付押出機を用い、残留する揮発成分を出来る限り除去しながらメタクリル系樹脂組成物を調製する方法を採用することが好ましい。
【0090】
また、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物をフィルム用途等に用いる場合には、異物を減少させる目的で、重合反応工程、液−液分離工程、液−固分離工程、脱揮工程、造粒工程、及び、成形工程のいずれか又は複数の工程において、例えば、濾過精度1.5〜20μmの焼結フィルター、プリーツフィルター、及び/又はリーフディスク型ポリマーフィルター等を濾過装置に付加して用いて、調製することも好ましい方法である。
【0091】
いずれの方法を選択した場合においても、メタクリル系樹脂組成物を製造する際には、酸素及び水分を可能な限り低減させた上で行うことが好ましい。
例えば、溶液重合での重合溶液中の溶存酸素濃度としては、重合工程においては、300ppm未満の濃度が、押出機等を利用した調製法においては、押出機内の酸素濃度としては、1容量%未満とすることが好ましく、0.8容量%未満とすることがさらに好ましい。
メタクリル系樹脂の水分量としては、好ましくは1000質量ppm以下、より好ましくは500質量ppm以下に調整することが推奨される。
これらの範囲内であれば、本発明の要件を満たす組成物を調製することが比較的容易となり、有利である。
【0092】
例えば、押出機を用いた製造方法を採用した場合、原料であるペレット化されたメタクリル系樹脂は、減圧下又は除湿空気下で加温し、予め十分に乾燥させることで、水分を出来る限り除去して用いることが好ましい。その際、後述する各種酸化防止剤や添加剤を配合する場合においては、これら各種酸化防止剤や添加剤自体も、含まれる水分量を十分に低減してから配合することが好ましい。
さらに、押出機内に酸素が混入することを極力低減し、溶融状態にある組成物の酸化を防止するため、押出機内に不活性ガス、例えば、窒素ガス等を流入させ、ベント付押出機を用い、減圧排気しながら実施することが好ましい。
その際の原料等の乾燥温度としては、40〜120℃が好ましく、より好ましくは70〜100℃である。
減圧度に関しては、特に制限はなく、減圧度を適宜選択すればよい。
【0093】
押出機を用い、溶融混練され溶融状態となったメタクリル系樹脂組成物は、多孔ダイから溶融押出しされペレット化される。
その際、用いることのできる造粒方式としては、例えば、空中ホットカット方式、ウォータリングホットカット方式、コールドカット方式、水中ストランドカット方式、アンダーウォーターカット方式等が挙げられる。
【0094】
本実施形態のように、高い温度域における損失正接の変化が高度に制御されたメタクリル系樹脂組成物を得ようとするためには、高温下で溶融状態にある組成物をできる限り空気に触れないようにして、素早く冷却固化させることができる造粒方式を採用することが好ましい。
かかる目的のためには、例えば、ウォータリングホットカット方式、コールドカット方式、水中ストランドカット方式、アンダーウォーターカット方式等が好ましいが、生産性及び造粒装置コストの面から、一般的には水冷ストランドカット方式がより好ましい。
その場合には、溶融樹脂温度を可能な範囲で低くし、且つ多孔ダイ出口から冷却水面までの滞留時間を極力少なくし、冷却水の温度も可能な範囲で高い温度にて、実施できる条件にて造粒を行うことがより好ましい。
例えば、溶融樹脂温度としては、240〜300℃が好ましく、より好ましくは250〜290℃であり、多孔ダイ出口から冷却水面までの滞留時間は5秒以内が好ましく、より好ましくは3秒以内であり、冷却水の温度としては、30〜80℃が好ましく、より好ましくは40〜60℃の範囲である。
【0095】
−他の熱可塑性樹脂−
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物を調製する際には、本実施形態の目的を損なわず、複屈折率の調整や可撓性を向上させる目的で、他の熱可塑性樹脂を配合することもできる。
他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリブチルアクリレート等のポリアクリレート類;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−ブチルアクリレート共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体等のスチレン系ポリマー;更には、例えば、特開昭59−202213号公報、特開昭63−27516号公報、特開昭51−129449号公報、特開昭52−056150号公報等に記載の、3〜4層構造のアクリル系ゴム粒子;特公昭60−17406号公報、特開平8−245854公報に開示されているゴム質重合体;国際公開第2014−002491号に記載の、多段重合で得られるメタクリル系ゴム含有グラフ卜共重合体粒子;等が挙げられる。
この中でも、良好な光学特性と機械的特性とを得る観点からは、スチレン−アクリロニトリル共重合体や、主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂と相溶し得る組成からなるグラフト部をその表面層に有するゴム含有グラフト共重合体粒子が好ましい。
前述のアクリル系ゴム粒子、メタクリル系ゴム含有グラフ卜共重合体粒子、及びゴム質重合体の平均粒子径としては、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物より得られるフィルムの衝撃強度及び光学特性等を高める観点から、0.03〜1μmであることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.5μmである。
【0096】
他の熱可塑性樹脂の含有量としては、メタクリル系樹脂を100質量部とした場合に、好ましくは0〜50質量部、より好ましくは0〜25質量部の範囲であることが好ましい。
【0097】
−酸化防止剤−
本実施形態に係るメタクリル系樹脂組成物には、本実施形態のメタクリル系樹脂が有する本来のポリマー特性を発揮させる上で、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等の酸化防止剤を添加することが好ましい。
これらは1種でも2種を組み合わせて用いることもできる。
【0098】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤の具体例としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、4,6−ビス(ドデシルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス[(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリン)メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミン)フェノール、アクリル酸2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−tert−ペンチルフェニル、アクリル酸2−tert−ブチル−4−メチル−6−(2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−5−メチルベンジル)フェニル等が挙げられる。
特に、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、アクリル酸2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−tert−ペンチルフェニルが好ましい。
【0099】
また、前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、市販のフェノール系酸化防止剤を使用してもよく、このような市販のフェノール系酸化防止剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、イルガノックス1010(Irganox 1010:ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、BASF社製)、イルガノックス1076(Irganox 1076:オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、BASF社製)、イルガノックス1330(Irganox 1330:3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−t−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、BASF社製)、イルガノックス3114(Irganox3114:1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、BASF社製)、イルガノックス3125(Irganox 3125、BASF社製)、アデカスタブAO−60(ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ADEKA社製)、アデカスタブAO−80(3、9−ビス{2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルキシオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、ADEKA社製)、スミライザーBHT(Sumilizer BHT、住友化学製)、シアノックス1790(Cyanox 1790、サイテック製)、スミライザーGA−80(Sumilizer GA−80、住友化学製)、スミライザーGS(Sumilizer GS:アクリル酸2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−tert−ペンチルフェニル、住友化学製)、スミライザーGM(Sumilizer GM:アクリル酸2−tert−ブチル−4−メチル−6−(2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−5−メチルベンジル)フェニル、住友化学製)、ビタミンE(エーザイ製)等が挙げられる。
これらの市販のヒンダードフェノール系酸化防止剤の中でも、樹脂への熱安定性付与効果の観点から、イルガノックス1010、アデカスタブAO−60、アデカスタブAO−80、イルガノックス1076、スミライザーGS等が好ましい。
これらは1種のみを単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0100】
リン系酸化防止剤としては、例えば、ホスファイト類、ホスホナイト類に分類されるものが挙げられる。
【0101】
ホスファイト類のリン系酸化防止剤の具体例としては、以下に限定されるものではないが、例えば、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチル−6−メチルフェニル)エチルホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリストールジホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト等が挙げられる。
【0102】
市販のリン系酸化防止剤であってもよく、例えば、イルガフォス168(Irgafos168:トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、BASF製)、イルガフォス12(Irgafos12:トリス[2−[[2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン−6−イル]オキシ]エチル]アミン、BASF製)、イルガフォス38(Irgafos38:ビス(2,4−ジ−tert−ブチル−6−メチルフェニル)エチルホスファイト、BASF製)、アデカスタブHP−10(ADKSTAB HP−10:2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト:株式会社ADEKA製)、アデカスタブPEP24G(ADEKASTAB PEP24G:サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト:株式会社ADEKA製)、アデカスタブPEP36(ADKSTAB PEP36:ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト:株式会社ADEKA製)、アデカスタブPEP36A(ADKSTAB PEP36A:ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト:株式会社ADEKA製)、アデカスタブPEP−8(ADKSTAB PEP−8:サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニルホスファイト:株式会社ADEKA製)、スミライザーGP(SumilizerGP:(6−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン、住友化学製)等が挙げられる。
【0103】
ホスホナイト類のリン系酸化防止剤の具体例としては、例えば、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチル−5−メチルフェニル)4,4’−ビフェニレンジホスホナイト等が例示できる。
市販のリン系酸化防止剤であってもよく、HostanoxP−EPQ(P−EPQ:テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)4,4’−ビフェニレンジホスホナイト:クラリアントCo.Ltd製)、GSY P101(テトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5メチルフェニル)4,4’−ビフェニレンジホスホナイト:堺化学製)等が挙げられる。
【0104】
また、硫黄系酸化防止剤の具体例としては、以下に限定されるものではないが、例えば、2、4−ビス(ドデシルチオメチル)−6−メチルフェノール(イルガノックス1726、BASF社製)、イルガノックス1520L、BASF社製)、2,2−ビス{〔3−(ドデシルチオ)−1−オキソポロポキシ〕メチル}プロパン−1,3−ジイルビス〔3−ドデシルチオ〕プロピオネート〕(アデカスタブAO−412S、ADEKA社製)、2,2−ビス{〔3−(ドデシルチオ)−1−オキソポロポキシ〕メチル}プロパン−1,3−ジイルビス〔3−ドデシルチオ〕プロピオネート〕(ケミノックスPLS、ケミプロ化成株式会社製)、ジ(トリデシル)3,3’−チオジプロピオネート(AO−503、ADEKA社製)等が挙げられる。
これらの市販の硫黄酸化防止剤の中でも、当該樹脂での熱安定性付与効果、多種の酸化防止剤との併用効果の観点、取り扱い性の観点から、アデカスタブAO−412S、ケミノックスPLSが好ましい。
これらの硫黄系酸化防止剤は、1種のみを単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0105】
酸化防止剤の含有量としては、熱安定性を向上させる効果が得られる量であればよく、含有量が過剰である場合、加工時にブリードアウトする等の問題が発生するおそれがあることから、メタクリル系樹脂100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましく、より好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは1質量部以下、さらにより好ましくは0.8質量部以下であり、よりさらに好ましくは0.01〜0.8質量部、特に好ましくは0.01〜0.5質量部である。
【0106】
−その他の添加剤−
本実施形態に係るメタクリル系樹脂組成物には、本実施形態の効果を著しく損なわない範囲内で、その他の添加剤を含有させてもよい。
その他の添加剤としては、特に制限はないが、例えば、無機充填剤;酸化鉄等の顔料;ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミド等の滑剤・離型剤;パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン、有機ポリシロキサン、ミネラルオイル等の軟化剤・可塑剤;ヒンダードアミン系光安定剤;ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;セチルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール;ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸ジグリセライド等のグリセリン高級脂肪酸エステル等の離型剤;難燃剤;帯電防止剤;有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤;着色剤;その他添加剤;あるいはこれらの混合物等が挙げられる。
【0107】
以下、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物の特性について詳細に記載する。
【0108】
−重量平均分子量−
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物は、GPC測定法により測定されるポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量(Mw)が90,000〜200,000であることが好ましく、より好ましくは100,000〜170,000、さらに好ましくは120,000〜150,000である。
重量平均分子量(Mw)がこの範囲にあると、機械的強度と成形加工性とのバランスに優れるため好ましい。
【0109】
−動的粘弾性特性−
本実施形態の主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂組成物は、動的粘弾性測定により求められる損失弾性率の温度分散スペクトルにおいて、極大値を示す温度(T
G”max)が、120〜160℃の範囲であり、120〜155℃の範囲にあることが好ましく、更に好ましくは120〜150℃の範囲である。損失弾性率の極大値を示した温度がこの範囲にあると、フィルムとしての十分な耐熱性が発現できるので好ましい。
【0110】
ここで、動的粘弾性測定は、試料に周期的な微小歪みを与え、それに対する応答を測定することにより、貯蔵弾性率(「E’」又は「G’」と記す場合がある。)、損失弾性率(「E”」又は「G”」と記す場合がある。)、並びに損失正接(「E”/E’」、「G”/G’」、又は「tanδ」と記す場合がある)を測定するものである。
貯蔵弾性率は、弾性的な指標として、外力と歪みにより生じたエネルギーが内部に蓄えられる程度を表し、損失弾性率は、粘性的な指標として、外力と歪みにより生じたエネルギーが熱として散逸する程度を表し、貯蔵弾性率に対する損失弾性率の割合で表される損失正接(tanδ)は、試料の状態が粘性的であるか弾性的であるかを示す指標として利用される。
【0111】
そして、動的粘弾性測定において、測定温度を等速にて変化させる方法を用いることにより、各指標の温度分散スペクトルを得ることができる。
例えば、測定する試料がアクリル樹脂等の非晶性高分子の場合、一般的には、低温側より、高分子の側鎖の運動に由来するγ分散、主鎖の局所的な運動に由来するβ分散、主鎖のミクロブラウン運動に由来するα分散(主分散とも呼ぶ)と称される緩和機構が観測される。
【0112】
以下、
図1を参照しながら、樹脂組成物の温度分散スペクトルについて説明する。
図1は、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物を動的粘弾性測定に供したときに得られる代表的な損失弾性率の温度分散スペクトル及び損失正接の温度分散スペクトルである。
図1中、特に縦軸について、右側の縦軸は、損失正接(―)を表し、左側の縦軸は、損失弾性率(Pa)を表す。
低温において、ガラス状態にある試料に与えられたエネルギーは、そのごく一部が分子鎖の局所的な運動に伴うエネルギーとして散逸されるが、そのほとんどが内部に蓄えられる。
ここから徐々に温度が上がりガラス転移温度付近になると、試料中の分子鎖全体が急に活発な運動を始め、温度上昇とともに散逸するエネルギーも増加してゆく。
そして、次第に、固体中での分子鎖の絡み合いが解かれ始め、その運動単位が試料全体に拡がると、損失弾性率の温度分散スペクトルに極大値が現れる。この損失弾性率の極大値を示す温度(T
G”max)は、通常、前述の損失正接(tanδ)の極大値を示す温度(T
tanδmax)よりも低い温度域に現れることが知られている。
更に温度が上昇すると、分子鎖の絡み合いが更に解かれ、貯蔵弾性率と損失弾性率とがともに低下するが、その傾きの大小とが入れ替わる温度において損失正接の温度分散スペクトルに極大値が現れる。この損失正接の極大値を示す温度(T
tanδmax)をもって、動的ガラス転移温度(一般に用いられるガラス転移温度と区別するために本実施形態においてはこの標記を用いる)とする場合がある。一般に、この動的ガラス転移温度におけるtanδ値が、大きいほど、樹脂組成物は塑性変形しやすく、小さいほど、反発力が大きいことを示唆する。そのため、この値の大小を用いて、ゴムやエラストマー製品の衝撃吸収性の評価に利用することもある。
【0113】
本発明者らは、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂組成物を用いて、延伸フィルムを調製する際に受ける熱履歴温度範囲内に、上述した動的粘弾性測定により得られる温度分散スペクトルに現れる2つの極大値を示す温度域が含まれていることに注目した。
特に損失弾性率の温度分散スペクトルは、損失弾性率が、外力と歪みにより生じたエネルギーが熱として散逸する程度を表す指標であることから、その極大値を示す温度に注目し、その付近の温度範囲における固体の高次構造変化を高度に制御することで、前述の種々の課題が解決できることを見出したのである。
【0114】
従来、ガラス転移温度の測定手法として広く用いられている、DSCを用いた比熱変化に基づくガラス転移温度と、この動的粘弾性により求まる損失弾性率の極大値を示す温度(T
G”max)及び損失正接の極大値を示す温度(T
tanδmax)に基づく動的ガラス転移温度との関係性については多くの研究が進められているが、現時点では関係性について明確な結論には至っていない。
一般に、ガラス転移温度の測定手段として利用されるDSC測定により得られる情報は、単に転移に伴う熱量の変化点の温度のみを含むものであるのに対し、動的粘弾性測定により得られる情報は、粘弾性の変化点の温度とともに、その変化点温度近傍での弾性率等のポリマー特性の変化をも含むため、固体状態での熱的加工を行うフィルム延伸加工等で用いる樹脂の最適化には有効に利用できるものとなると考えられる。
【0115】
動的粘弾性の温度分散スペクトルの測定方法としては以下に示す方法を用いることができる。
・試料の調整:長さ50mm、幅10mm、厚さ1mmの試験片に、所望の処理を行い、所定の環境においたもの
・測定装置:PHYSICA MCR301:Anton Paar社製
・温度制御システム:CTD450:Anton Paar社製
・解析ソフト:RheoPlus Anton Paar社製
・測定モード:ねじり測定システム(SRF)
・測定周波数:1Hz
・ひずみ量:0.2%
・ノーマルフォース:−0.3N
・クランプ間距離:38mm
・測定温度範囲:30〜190℃
・昇温速度:2℃/分
より具体的な動的粘弾性の温度分散スペクトルの測定方法は、実施例に記載の通りである。
【0116】
−パルスNMRを用いた固体の高次構造特性−
本実施形態の主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂組成物における、パルスNMRを用いて、ソリッドエコー法により得られる分散スペクトルを高運動成分と低運動成分との2成分に分離し求めた、高運動性成分の比率(F
m:%)、高運動性成分のスピン−スピン緩和時間(S
m:μ秒)、低運動性成分の比率(F
r:%)、及び低運動性成分のスピン−スピン緩和時間(S
r:μ秒)について、以下に説明する。
【0117】
第一に、前述の動的粘弾性測定により求めた損失弾性率の温度分散スペクトルにおいて極大値を示す温度(T
G”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン−スピン緩和時間(S
m2)が50〜90μ秒であり、好ましくは50〜80μ秒、更に好ましくは55〜70μ秒である。
損失弾性率の温度分散スペクトルにおいて極大値を示す温度(T
G”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン−スピン緩和時間(S
m2)が上記範囲にあると、高い品質の延伸フィルムを安定して製造できるため好ましい。
ここで、(T
G”max)より40℃高い温度を超えると、損失正接が極大値を示す温度に近付くため、固体状態のメタクリル系樹脂組成物は徐々に溶融流動を開始する。(T
G”max)より40℃高い温度における固体の高次構造特性は、溶融流動を開始する直前、又は溶融流動開始直後の特性を示している。本発明者らは、固体状態でフィルム延伸加工を行う際に用いるメタクリル系樹脂組成物において、(T
G”max)より40℃高い温度における固体の高次構造特性と延伸特性とに強い相関があることを見出し、本発明を完成させた。
【0118】
第二に、前述の動的粘弾性測定により求めた損失弾性率の温度分散スペクトルにおいて極大値を示す温度(T
G”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン−スピン緩和時間(S
m2)と、極大値を示す温度(T
G”max)より40℃高い温度における低運動性成分のスピン−スピン緩和時間(S
r2)と、の差(S
m2−S
r2)が40〜70μ秒であることが好ましく、より好ましくは40〜65μ秒、更に好ましくは40〜60μ秒である。
極大値を示す温度(T
G”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン−スピン緩和時間(S
m2)と、低運動性成分のスピン−スピン緩和時間(S
r2)と、の差(S
m2−S
r2)が上記範囲にあると、更に高い品質の延伸フィルムを安定して製造できるため好ましい。
【0119】
第三に、前述の動的粘弾性測定により求めた損失弾性率の温度分散スペクトルにおいて極大値を示す温度(T
G”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン−スピン緩和時間(S
m2)と、極大値を示す温度(T
G”max)における高運動性成分のスピン−スピン緩和時間(S
m1)と、の差(S
m2−S
m1)が30〜70μ秒であることが好ましく、より好ましくは30〜60μ秒、更に好ましくは30〜50μ秒である。
極大値を示す温度(T
G”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン−スピン緩和時間(S
m2)と、極大値を示す温度(T
G”max)における高運動性成分のスピン−スピン緩和時間(S
m1)と、の差(S
m2−S
m1)が上記範囲にあると、高い品位の延伸フィルムが得られる延伸温度の選択幅が拡大でき、更に、延伸時の微妙な温度変動にも影響されず、高い品質の延伸フィルムを安定に製造できるので好ましい。
【0120】
一般に、パルスNMRは、パルスの応答として得られる自由誘導減衰シグナル(FIDシグナル)を運動性の異なる成分別に分離して解析することができ、高分子の結晶部と非晶部の定量、エラストマーのハード成分とソフト成分の存在比率あるいは架橋度の決定、等に幅広く利用されている。
パルスNMRにおける緩和時間は、磁気緩和を示すものであり、高分子の動きやすさを示す指標として用いることができる。この値が小さいほど、運動性成分の自由度が小さく、この値が大きいほど、運動性成分の自由度が大きいことを示す。
【0121】
本実施形態における高運動性成分及び低運動性成分の存在比率並びにスピン−スピン緩和時間は、上述のFIDシグナルを解析することにより求めることができる。
一般に、FIDシグナルは、測定物質が自由誘導減衰挙動の異なる複数の運動性成分から構成されている場合には、得られる信号は各成分の和となる。そのため、信号強度比から各運動成分の量(相対的プロトン含有量:存在比率)の情報が、信号の傾きから各運動性成分の質(スピン−スピン緩和時間)の情報が得られる。
各運動成分に分離する手法としては、得られたFID信号を、ガウス型関数、ローレンツ型関数、又はワイブル型関数を用いて最小二乗法によって解析し、分子運動性の低いもの(本明細書では、「低運動性成分」と記す)と、分子運動性が高いもの(本明細書では、「高運動性成分」と記す)とに分離し、各成分の存在比率(単位:%)及びスピン−スピン緩和時間(単位:μ秒)を求める。
その際、低運動性成分、高運動性成分に加えて中間成分の3種に分離する方法も採用できるが、本実施形態においては、緩和時間の短い成分にワイブル型関数を、緩和時間の長い成分にローレンツ型関数をそれぞれ適用し、最小二乗法による近似によって低運動性成分と高運動性成分との2つの運動性成分に分離する方法を採用した。
具体的な測定方法として、
・測定装置:Minispec MQ20(ブルカーバイオスピン社製)
・核種:
1H
・測定:T2
・測定法:ソリッドエコー法
・積算回数:64回
・繰り返し時間:4秒
【0122】
本発明者らは、高い品質を有し、安定した延伸が可能なメタクリル系樹脂組成物の提供に向け、鋭意検討を重ねた結果、延伸フィルムを調製する際に用いられる延伸温度域にてパルスNMRを用いて固体の高次構造を解析することにより、解析により得られた情報がフィルムの延伸挙動と深い関連性を有していることを見出した。
その結果、損失弾性率の温度分散スペクトルにおける極大値を示す温度に注目し、その付近の温度範囲におけるパルスNMR測定により得られる固体の高次構造変化を特定の範囲に制御することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明に至ったのである。
パルスNMR測定により得られる固体の高次構造変化を特定の範囲に制御されたメタクリル系樹脂組成物は、その分子量、分子量分布、重量平均分子量10000未満の成分量、組成分布、並びに立体規則性分布等が複合的に作用した結果、得られると推定される。
主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂組成物の、上述の温度範囲における固体の高次構造を制御する具体的な方法としては、用いるメタクリル系樹脂の調製条件、例えば、重合温度、重合溶媒、重合時の単量体濃度、単量体の添加方法等を適宜選択することにより制御することができるが、これに限定されるものではなく、加えて、重合後の重合体を含む溶液から重合体を回収する際の条件(温度、滞留時間、せん断力)、更にはメタクリル系樹脂組成物を調製する際の調製条件(温度、滞留時間、せん断力等)等を組み合わせることもできる。
【0123】
−光弾性係数−
本実施形態の主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂組成物の光弾性係数C
Rの絶対値は3.0×10
−12Pa
−1以下であることが好ましく、2.0×10
−12Pa
−1以下であることがより好ましく、1.0×10
−12Pa
−1以下であることがさらに好ましい。
光弾性係数に関しては種々の文献に記載があり(例えば、化学総説,No.39,1998(学会出版センター発行)参照)、下記式(i−a)及び(i−b)により定義されるものである。光弾性係数C
Rの値がゼロに近いほど、外力による複屈折変化が小さいことがわかる。
C
R=|Δn|/σ
R・・・(i−a)
|Δn|=nx−ny・・・(i−b)
(式中、C
Rは、光弾性係数、σ
Rは、伸張応力、|Δn|は複屈折の絶対値、nxは、伸張方向の屈折率、nyは、面内で伸張方向と垂直な方向の屈折率、をそれぞれ示す。)
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物の光弾性係数C
Rの絶対値が3.0×10
−12Pa
−1以下であれば、フィルム化して液晶表示装置に用いても 、位相差ムラが発生したり、表示画面周辺部のコントラストが低下したり、光漏れが発生したりすることを抑制ないし防止することができる。
光弾性係数C
Rは、具体的には、後述の実施例記載の方法にて求めることができる。
【0124】
−成形体の製造方法−
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物は、射出成形、シート成形、ブロー成形、インジェクションブロー成形、インフレーションフィルム成形、Tダイフィルム成形、プレス成形、押出成形、発泡成形、キャスト成形等の公知の方法、更に、圧空成形、真空成形等の二次加工成形法を適用することにより、成形体とすることができる。
【0125】
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物を用いて延伸前フィルム(未延伸フィルム)及び延伸フィルムを製造する方法としては、公知の方法を用いることができる。
かかる方法としては、例えば、単軸又は二軸押出機に、原料樹脂を供給して、溶融混練し、次いで、Tダイより押し出したシートをキャストロール上に導いて、固化する。続いて、周速度の異なる一対のロールを用いて機械的流れ方向に延伸する縦一軸延伸を行ったり、機械的流れ方向に直交する方向(TD方向)に延伸する横一軸延伸を行ったりする一軸延伸;ロール延伸とテンター延伸とを用いた逐次二軸延伸、テンター延伸による同時二軸延伸、チューブラー延伸による二軸延伸、インフレーション延伸、テンター法逐次二軸延伸等の二軸延伸;が例示できる。その中でも、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物の特徴を最も発現することができ、機械的流れ方向(MD方向)及び機械的流れ方向に直交する方向(TD方向)での光学特性や機械的特性等バランスに優れた延伸フィルムが得られるため、ロール延伸とテンター延伸とからなる逐次二軸延伸が好ましい。
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物を用い、逐次二軸延伸により二軸延伸フィルムを得ることにより、機械的流れ方向(MD方向)及び機械的流れ方向に直交する方向(TD方向)での光学特性や機械的特性等バランスに優れた延伸フィルムが得られる。
【0126】
テンター延伸に関して、テンター装置とは、フィルムの幅方向の両端部を把持するクリップを搬送方向に走行させながら、このクリップの間隔を拡げることによって、フィルムを幅方向(横方向とも称する場合がある)に延伸する装置である。
テンターの内部には、予熱部、横延伸部、熱固定部、更には必要に応じて熱緩和部が設けられている。
テンターのクリップは多くの場合、駆動チェーンに組み合わせられ、無限軌道に設置される。この駆動チェーンとしては、往復ともテンター装置内を走行する形式のもの、復路はテンター装置外を走行する形式のものが知られている。一般的には、装置全体をコンパクトにできることから、往復ともテンター装置内を走行する形式のものが広く利用される現状がある。
テンター装置内のクリップは、テンター装置の入口でフィルムを把持した後、予熱温度、延伸温度、熱処理温度の熱履歴を受け、その後、冷却機構により冷却されながらターンし、再びテンター装置の入口に戻り、再びフィルムを把持する。
【0127】
ここで、テンターの内部は、異なる温度に制御された複数の区画から成り立っており、クリップ温度と各区画された環境温度との間に温度差が生じたり、テンターによる延伸操作が長時間継続されることに伴ってクリップ部が冷却不足になったり、更には、クリップがテンター装置の入口部へ戻る際のクリップ温度が安定しない場合があった。そのため、延伸時に、フィルムがクリップ近傍にて破断したり、クリップの把持力の均一性が低下して、膜厚分布が増大したりする可能性があるため、クリップ温度の制御とともに、クリップ温度の変化にも柔軟に対応できる樹脂の提案が期待されている。
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物は、上記延伸工程において、クリップ温度の変動に伴う延伸時のフィルム破断等のトラブルを解決する意味でも有用なものであり、本実施形態によれば、機械的流れ方向(MD方向)及び機械的流れ方向に直交する方向(TD方向)での光学特性や機械的特性等を優れたバランスで備える延伸フィルムを得ることができる。
【0128】
最終的な延伸倍率は、得られた成形・延伸体の熱収縮率より判断することができる。延伸倍率は、少なくともどちらか一方向に、0.1〜400%であることが好ましく、10〜400%であることがより好ましく、50〜350%であることがさらに好ましい。下限未満の場合、耐折強度が不足する傾向にあり、上限超の場合、フィルム作製過程で破断や断裂が頻発し、連続的に安定的にフィルムが作製できない傾向にある。この範囲に設計することにより、複屈折、耐熱性、強度の観点で好ましい延伸成形体を得ることができる。
【0129】
延伸温度としては、(T
G’’max)℃〜(T
G”max+50)℃であることが好ましい。
ここで、T
G”maxとは、フィルムを調製するために用いるメタクリル系樹脂組成物についての動的粘弾性測定により求められる損失弾性率の温度分散スペクトルにおける極大値を示す温度をいう。
延伸温度を上記範囲とすることにより、機械的流れ方向(MD方向)及び機械的流れ方向に直交する方向(TD方向)での光学特性や機械的特性等バランスに優れた延伸フィルムが得られる。
延伸温度の下限は、得られるフィルムにおいて、良好な膜厚均一性を得るために、より好ましくは(T
G”max+5℃)以上であり、更に好ましくT
G”max+10℃)以上であり、より更に好ましくは(T
G”max+15℃)以上であり、特に好ましくは(T
G”max+20℃)以上であり、また、延伸温度の上限は、より好ましくは(T
G”max+45℃)以下、更に好ましくは(T
G”max+40℃)以下である。
【0130】
なお、本実施形態のフィルムを光学フィルムとして用いる場合、その光学的等方性や機械的特性を安定化させるために、延伸処理後に熱処理(アニーリング)等を行うことが好ましい。熱処理の条件は、従来公知の延伸フィルムに対して行われる熱処理の条件と同様に適宜選択されてよく、特に限定されるものではない。
【0131】
成形体の用途としては、例えば、家庭用品、OA機器、AV機器、電池電装用、照明機器、テールランプ、メーターカバー、ヘッドランプ、導光棒、レンズ等の自動車部品用途、ハウジング用途、衛生陶器代替等のサニタリー用途や、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイに用いられる導光板、拡散板、偏光板保護フィルム、1/4波長板、1/2波長板、視野角制御フィルム、液晶光学補償フィルム等の位相差フィルム、ディスプレイ前面板、ディスプレイ基盤、レンズ、タッチパネル等が挙げられ、また、太陽電池に用いられる透明基盤等に好適に用いることができる。その他にも、光通信システム、光交換システム、光計測システムの分野において、導波路、レンズ、光ファイバー、光ファイバーの被覆材料、LEDのレンズ、レンズカバー等にも用いることができる。また、他の樹脂の改質材として用いることもできる。
【実施例】
【0132】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容を具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0133】
<1.構造単位の解析>
後述の各製造例において特に断りのない限り
1H−NMR測定及び
13C−NMR測定により、後述の製造例で製造したメタクリル系樹脂の構造単位を同定し、その存在量を算出した。
1H−NMR測定及び
13C−NMR測定の測定条件は、以下の通りである。
・測定機器:ブルーカー株式会社製 DPX−400
・測定溶媒:CDCl
3、又は、d
6−DMSO
・測定温度:40℃
なお、メタクリル系樹脂の環構造がラクトン環構造である場合には、特開2001−151814号公報記載の方法にて確認し、メタクリル系樹脂の環構造がグルタルイミド環構造である場合には、WO2012/114718号に記載の方法にて確認した。
【0134】
<2.重量平均分子量(Mw)>
後述の製造例で製造したメタクリル系樹脂、並びに後述の実施例及び比較例で製造したメタクリル系樹脂組成物の重量平均分子量(Mw)は、下記の装置、及び条件で測定した。
・測定装置:東ソー株式会社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(HLC−8320GPC)
・測定条件:
カラム:TSKguardcolumn SuperH−H 1本、TSKgel SuperHM−M 2本、TSKgel SuperH2500 1本、を順に直列接続して使用した。カラム温度:40℃
展開溶媒:テトラヒドロフラン、流速:0.6mL/分、内部標準として、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)を、0.1g/L添加した。
検出器:RI(示差屈折)検出器
検出感度:3.0mV/分
サンプル:0.02gのメタクリル系樹脂又はメタクリル系樹脂組成物のテトラヒドロフラン20mL溶液。注入量:10μL
検量線用標準サンプル:単分散の重量ピーク分子量が既知で分子量が異なる、以下の10種のポリメタクリル酸メチル(PolymerLaboratories製;PMMACalibration Kit M−M−10)を用いた。
重量ピーク分子量(Mp)
標準試料1 1,916,000
標準試料2 625,500
標準試料3 298,900
標準試料4 138,600
標準試料5 60,150
標準試料6 27,600
標準試料7 10,290
標準試料8 5,000
標準試料9 2,810
標準試料10 850
上記の条件で、メタクリル系樹脂又はメタクリル系樹脂組成物の溶出時間に対する、RI検出強度を測定した。
上記、検量線用標準サンプルの測定により得られた検量線を基に、メタクリル系樹脂及びメタクリル系樹脂組成物の重量平均分子量(Mw)を求めた。
【0135】
<3.動的粘弾性特性>
動的粘弾性の温度分散スペクトルの測定方法としては以下に示す方法を用いた。
・測定に用いる試験片の調製
実施例及び比較例にて得られたメタクリル系樹脂組成物を用いて、プレス成形法により、長さ50mm、幅10mm、厚さ1mmの試験片を調製した。そして、得られた試験片に温度100℃にて20時間熱処理することで、試験片に同じ熱履歴を与えた。その後、温度23℃、湿度50RH%の雰囲気下で48時間放置した後、幅及び厚さの寸法を測定し、動的粘弾性の温度分散スペクトルの測定に供した。
・測定装置:PHYSICA MCR301:Anton Paar社製
・温度制御システム:CTD450:Anton Paar社製
・解析ソフト:RheoPlus Anton Paar社製
・測定モード:ねじり測定システム(SRF)
・測定周波数:1Hz
・ひずみ量:0.2%
・ノーマルフォース:−0.3N
・クランプ間距離:38mm
・測定温度範囲:30〜190℃
・昇温速度:2℃/分
そして、得られた温度分散スペクトルから、極大値を示す温度(T
G”max)を得た。
【0136】
<4:パルスNMRの測定>
分子運動性の測定方法としては以下に示す方法を用いた。
・測定に用いる試験片の調製
実施例及び比較例にて得られたメタクリル系樹脂組成物を用いて、厚さ0.2mmのフィルムをプレス成形法により調製し、フィルムを細片状に裁断した後、測定用の試験管に投入した。温度110℃真空下にて5時間処理を行い、試料間にて水分量及び熱履歴に差異が発生しないように前処理を行った。全ての試験片の水分率が500ppm以下となるように、前処理条件を設定した。その後、温度23℃、湿度50RH%の雰囲気下で48時間放置した後、下記条件で測定に供した。
・測定装置:Minispec MQ20(ブルカーバイオスピン社製)
・核種:
1H
・測定:T2
・測定法:ソリッドエコー法
・積算回数:64回
・繰り返し時間:4秒
・測定温度範囲:100〜190℃内にて動的粘弾性測定により求まる損失弾性率の極大値を示す温度を基準に選定
・各運動成分に分離する手法:ソリッドエコー法による測定で得られた自由減衰信号(FID信号)を、ガウス型関数、ローレンツ型関数、又はワイブル型関数を用いて最小二乗法によって解析し、低運動性成分と高運動性成分との2成分に分離した。そして、損失弾性率の極大値を示す温度(T
G”max)より40℃高い温度における高運動性成分のスピン−スピン緩和時間(S
m2、単位:μ秒)、極大値を示す温度(T
G”max)より40℃高い温度における低運動性成分のスピン−スピン緩和時間(S
r2、単位:μ秒)、損失弾性率の極大値を示す温度(T
G”max)における高運動性成分のスピン−スピン緩和時間(S
m1、単位:μ秒)、極大値を示す温度(T
G”max)より40℃高い温度における高運動性成分の成分分率(F
m2、単位:%)、極大値を示す温度(T
G”max)より40℃高い温度における低運動性成分の成分分率(F
r2、単位:%)を求めた。
【0137】
<5.光弾性係数C
R>
実施例及び比較例にて得られたメタクリル系樹脂組成物を、真空圧縮成形機を用いてプレスフィルムとすることで、測定用試料とした。
具体的な試料調製条件としては、真空圧縮成形機(神藤金属工業所製 SFV−30型)を用い、260℃、減圧下(約10kPa)、10分間予熱した後、樹脂組成物を、260℃、約10MPaで5分間圧縮し、減圧及びプレス圧を解除した後、冷却用圧縮成形機に移して冷却固化させた。得られたプレスフィルムを、23℃、湿度60%に調整した恒温恒湿室内で24時間以上養生を行った上で、測定用試験片(厚み約150μm、幅6mm)を切り出した。
Polymer Engineering and Science 1999,39,2349−2357に詳細な記載のある複屈折測定装置を用いて、光弾性係数C
R(Pa
−1)を測定した。
フィルム状の試験片を、同様に恒温恒湿室に設置したフィルムの引張り装置(井元製作所製)にチャック間50mmになるように配置した。次いで、複屈折測定装置(大塚電子製、RETS−100)のレーザー光経路がフィルムの中心部に位置するように装置を配置し、歪速度50%/分(チャック間:50mm、チャック移動速度:5mm/分)で伸張応力をかけながら、試験片の複屈折を測定した。
測定より得られた複屈折の絶対値(|Δn|)と伸張応力(σ
R)の関係から、最小二乗近似によりその直線の傾きを求め、光弾性係数(C
R)(Pa
−1)を計算した。計算には、伸張応力が2.5MPa≦σ
R≦10MPaの間のデータを用いた。
C
R=|Δn|/σ
R
ここで、複屈折の絶対値(|Δn|)は、以下に示す値である。
|Δn|=|nx−ny|
(nx:伸張方向の屈折率、ny:面内で伸張方向と垂直な方向の屈折率)
【0138】
<6.延伸性評価>
後述の実施例及び比較例で得られたメタクリル系樹脂組成物から、押出機先端部に、樹脂濾過用のフィルター(リーフフィルター、長瀬産業社製)と480mm幅のTダイとを設置した50mmφ単軸押出機を用いて、フィルムを調製した。
その際の製膜条件として、押出機設定温度:(T
G”max+130)℃、Tダイ設定温度:(T
G”max+125)℃、吐出量:8kg/時、ドローダウン比:2.7倍、キャストロール設定温度:(T
G”max)℃を採用し、膜厚210μmの未延伸フィルムを得た。なお、キャストロールとしては、剥離性に優れたセラミック表面コート品を用いた。
【0139】
未延伸フィルムの調製に連続して、予熱ロール、1対の延伸ロール、この延伸ロール間に設置(フィルムまでの距離20mmの位置に設置)した赤外線ヒーター(4.2KW、230V)、及び搬送ロールを、この順に備えたロール延伸装置を用いて、未延伸フィルムについて縦延伸を行った。
その際、各ロールの温度としては、評価に用いる樹脂組成物のT
G”max(℃)を基準にして、予熱ロール温度:(T
G”max+20)℃、低速側延伸ロール温度:(T
G”max+40)℃、赤外線ヒーターの出力:60〜80%、高速側延伸ロール温度:(T
G”max+20)℃、搬送ロール温度:(T
G”max)℃とした。また、1対の延伸ロール間の距離は200mmとした。また、この温度条件下にて、高速側・低速側延伸ロールの周速差は2.5倍とした。
【0140】
上述の縦延伸に連続して、インナーリターン式クリップを有するテンター式横延伸機を用いて、縦延伸されたフィルムについて横延伸を行った。
ここで、インナーリターン式クリップとは、駆動チェーンに固定されたクリップが一連の横延伸操作を終え、延伸されたフィルムを離し、テンター装置内部を通って循環し、冷却装置にて冷却されながらターンし、再度テンター装置の入口に戻り、縦延伸後のフィルムを把持する、テンター装置用クリップのことを意味する。
また、テンター装置として、フィルムの入り口側から、予熱部、横延伸部、熱固定部から構成されているものを用いた。
テンター装置の内部の各部の温度は、それぞれ、評価に用いる樹脂組成物のT
G”max(℃)を基準として、予熱部:(T
G”max+20)℃、延伸部:(T
G”max+30)℃、熱固定部:(T
G”max+10)℃とした。
上述の条件にて、横延伸にて2.5倍に延伸し、平均厚さ40ミクロンの二軸延伸フィルムを得た。
【0141】
未延伸フィルムに縦延伸及び横延伸を施して二軸延伸フィルムを得るうえで、フィルム延伸性評価として、下記評価(6−1)及び下記評価(6−2)を行った。
【0142】
<評価(6−1)>
横延伸による二軸延伸フィルムを調製する前の段階における縦延伸工程を経た縦延伸フィルムを、長さ1000mmの分サンプリングし、その長手方向の厚みのばらつきを評価した。
具体的には、サンプリングした縦延伸フィルムについて、まず、その幅方向両端部より50mmの部分をトリミングし、トリミング後のフィルムから、幅方向長さ:50mm、長手方向長さ:1000mmの短冊状フィルムを切り出し、この短冊状フィルムの長手方向の厚みを連続厚み計(アンリツ製)を用いて連続測定した。そして、連続測定された厚みの平均(μm)を求めた。
そして、測定された厚みのうちの最大厚み(Dmax)の最小厚み(Dmin)に対する割合(Dmax/Dmin)を計算して、縦延伸フィルムの長手方向の厚みのばらつきを評価した。割合(Dmax/Dmin)が大きいほど、ばらつきが大きいことを意味する。
【0143】
<評価(6−2)>
横延伸による二軸延伸フィルムを調製する段階における横延伸工程での延伸安定性について評価した。
具体的には、テンターによる横延伸時のテンター内走行前のクリップ温度を、テンター装置に付随する冷却装置を用いることで、評価に用いた樹脂組成物の(T
G”max−40)℃から(T
G”max+20)℃まで、20℃刻みで変動させて、その4つの温度で横延伸を3時間継続した。
そして、得られたフィルムの品質に応じて、4つの温度のどれにおいても、フィルムが破断するような不良現象を起こすことなく、安定した横延伸を継続することができた場合を「◎」と、4つの温度のうち(T
G”max−40)℃の温度においてのみ、クリップ近傍でのフィルム破断を生じただけで、他の温度では安定した横延伸を継続することができた場合を「○〜◎」と、4つの温度のうち1つにおいてのみ、クリップ近傍でのフィルム破断を生じただけで、他の温度では安定した横延伸を継続することができた場合を「○」と、4つの温度のうち2つ以上において、クリップ近傍でのフィルム破断が生じた場合を「×」と、評価した。
なお、走行中のクリップ温度は、放射温度計を用いて測定した。その際、放射温度計は、放射温度計が備え付けられたクリップを停止させた状態において、接触式温度計で測定した温度と一致するように放射率を公正した上で、温度測定に用いた。また、測定精度を高めるために、クリップ表面に黒スプレー又は黒色耐熱テープを施工した上で、温度測定を行った。
【0144】
[原料]
後述する実施例及び比較例において使用した原料について以下に示す。
[[単量体]]
・メチルメタクリレート:旭化成ケミカルズ株式会社製
・N−フェニルマレイミド(phMI):株式会社日本触媒製
・N−シクロヘキシルマレイミド(chMI):株式会社日本触媒製
・2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA):Combi Blocks社製
[[他の熱可塑性樹脂]]
・スタイラックAS783(AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン樹脂)、旭化成ケミカルズ株式会社製)
[[酸化防止剤]]
・イルガノックス1010(BASF社製)
・アデカスタブPEP36(ADEKA製)
・アデカスタブAO−412S(ADEKA社製)
・トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(和光純薬社製)
【0145】
[製造例1−1]
メチルメタクリレート(以下「MMA」と記す)146.0kg、N−フェニルマレイミド14.6kg(以下「phMI」と記す)、N−シクロヘキシルマレイミド(以下「chMI」と記す)22.0kg、連鎖移動剤であるn−オクチルメルカプタンを0.21kg、トルエン(以下「TOL」と記す)147.0kgを計量し、ジャケットによる温度調節装置と撹拌翼を具備した1.25m
3の反応器に加え撹拌し、混合単量体溶液を得た。
次いで、MMA271.2kg、phMI27.1kg、chMI40.9kg、TOL273.0kgを計量して、タンク1に加え撹拌し、追添用混合単量体溶液を得た。さらに、タンク2にMMA58.0kgを計量した。
反応器、タンク1、タンク2のそれぞれについて10L/分の速度で窒素によるバブリングを30分間実施し、溶存酸素を除去した。
その後、50rpmで撹拌しながら反応器内温を95℃に上昇させ、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.35kgをTOL4.65kgに溶解させた重合開始剤溶液を(1)〜(5)のプロファイルにて添加し重合を行った。
原料溶液温度が100℃に到達したところで、開始剤溶液を
(1)0.0〜0.5時間:フィード速度2.0kg/時
(2)0.5〜3.5時間:フィード速度1.0kg/時
(3)3.5〜4.5時間:フィード速度0.5kg/時
(4)4.5〜6.0時間:フィード速度0.25kg/時
(5)6.0〜7.0時間:フィード速度0.125kg/時
なお、重合中は反応器内の溶液温度をジャケットによる温度調節で100±2℃で制御した。重合開始から30分後、さらにタンク1から306kg/時の添加速度で追添用混合単量体溶液を添加した。
次いで重合開始から3時間後にタンク2からMMAを116kg/時の添加速度で30分間かけて全量添加した。
その後、3時間重合反応を継続し、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂を含む重合溶液を得た。
この重合溶液に、溶液中に含まれる重合体100質量部に対して、0.2質量部のイルガノックス1010を撹拌下に添加した。
その後、予め170℃に加熱された管状熱交換器と気化槽からなる濃縮装置に供給し、溶液中に含まれる重合体の濃度を70質量%まで高めた。
得られた重合溶液は、伝熱面積が0.2m
2である薄膜蒸発機に供給し、脱揮を行った。この際の装置内温度は280℃、供給量30L/hr、回転数400rpm、真空度30Torrで実施し、脱揮後の重合物はギアポンプで昇圧し、ストランドダイから押し出され、水冷後、ペレット化して主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂(1−1)を得た。
得られたペレット状のメタクリル系樹脂(1−1)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、81.3質量%、7.9質量%、10.8質量%であった。また、重量平均分子量は149,000であった。
【0146】
[製造例1−2]
製造例1−1において、使用する重合溶媒をトルエンからメチルイソブチルケトンに変更し、重合開始剤をt−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートから1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサンに変更したこと以外は製造例1−1と同様の方法にて重合を行い、メタクリル系樹脂(1−2)を回収した。
得られたメタクリル系樹脂(1−2)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、81.3質量%、7.9質量%、10.8質量%であった。また、重量平均分子量は187,000であった。
【0147】
[製造例1−3]
製造例1−2において、連鎖移動剤の使用量を0.65kgに変更すること以外は製造例1−2と同様の方法にて重合を行い、メタクリル系樹脂(1−3)を回収した。
得られたメタクリル系樹脂(1−3)は重量平均分子量が115,000であった。
【0148】
[製造例1−4]
製造例1−1において、初期に反応器に投入する混合単量体溶液の組成をMMA176.5kg、phMI6.0kgに、chMI10.3kg、TOL147.0kgに変更し、且つ、追添用混合単量体溶液の組成をMMA327.3kg、phMI11.2kg、chMI19.2kg、及びTOL273kgに変更し、重合開始剤溶液の組成をt−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.52kg及びTOL4.48kgに変更した以外は製造例1と同様の方法にて重合を行い、メタクリル系樹脂(1−4)を回収した。
得られたメタクリル系樹脂(1−4)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、90.3質量%、4.0質量%、5.7質量%であった。また、重量平均分子量は155,000であった。
【0149】
[製造例1−5]
製造例1−1において、初期に反応器に投入する混合単量体溶液の組成をMMA123.0kg、phMI27.9kgに、chMI41.8kg、TOL147.0kgに変更し、且つ、追添用混合単量体溶液の組成をMMA228.2kg、phMI51.7kg、chMI77.6kg、及びTOL273kgに変更し、重合開始剤溶液の組成をt−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.27kg及びTOL4.73kgに変更し、加えて連鎖移動剤の使用量を0.12kgに変更した以外は製造例1と同様の方法にて重合を行い、メタクリル系樹脂(1−5)を回収した。
得られたメタクリル系樹脂(1−5)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、63.3質量%、15.8質量%、20.9質量%であった。また、重量平均分子量は139,000であった。
【0150】
[製造例2]
製造例1−1において、使用する重合溶媒をトルエンからメタキシレンに変更し、重合開始剤をt−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートから1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサンに変更し、更にn−オクチルメルカプタンの添加量を0.13kgに変更し、更に重合温度を124℃に変更したこと以外は製造例1−1と同様の方法にて重合を行い、メタクリル系樹脂(2)を回収した。
得られたメタクリル系樹脂(2)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、81.3質量%、7.9質量%、10.8質量%であった。また、重量平均分子量は150,000であった。
【0151】
[製造例3]
MMA450.7kg、phMI39.8kg、chMI59.7kg、連鎖移動剤であるn−オクチルメルカプタン0.54kg、メタキシレン450kgを計量し、予め窒素置換した1.25m
3反応器に加え、これらを撹拌し、混合単量体溶液を得た。
次いで、反応器に10L/分の速度で窒素によるバブリングを30分間実施し、溶存酸素を除去した後、温度を95℃に上昇させた。
次いで、重合開始剤であるt−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.30kgをメタキシレン3.85kgに溶解させた重合開始剤溶液を、0.8kg/時間の速度で追添することで重合をした。なお、重合中は反応器内の溶液温度をジャケットによる温度調節で100±2℃で制御した。重合開始から10時間経過した後、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂を含む重合溶液を得た。この重合溶液を用いて、製造例1−1と同様に、濃縮、脱揮、並びに造粒を行いペレット状のN−置換マレイミド構造単位を有するメタクリル系樹脂(3)を得た。
得られたメタクリル系樹脂(3)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、81.3質量%、7.9質量%、10.8質量%であった。また、重量平均分子量は145,000であった。
【0152】
[製造例4]
重合温度を124℃に変更した以外は製造例3と同様にして主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂を含む重合溶液を得た。この重合溶液を用いて、製造例1−1と同様に、濃縮、脱揮、並びに造粒を行いペレット状のN−置換マレイミド構造単位を有するメタクリル系樹脂(4)を得た。
得られたメタクリル系樹脂(4)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、81.3質量%、7.9質量%、10.8質量%であった。また、重量平均分子量は139,000であった。
【0153】
[製造例5]
撹拌装置、ジャケットによる温度調節装置を付した1m
3の反応器に、149.6kgのメタクリル酸メチル、37.4kgの2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、0.04kgトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、149.0kgのメチルイソブチルケトン、n−ドデシルメルカプタン90gを仕込み、原料溶液を調製した。これに窒素を通じつつ、撹拌し、反応器内温を95℃まで昇温した。
別途、重合開始剤として、t−アミルパーオキシイソノナノエート0.56kgと3.6kgのメチルイソブチルケトンを混合した開始剤溶液を調製した。
原料溶液温度が95℃に到達したところで、開始剤溶液を(1)〜(6)のプロファイルにて添加し重合を開始した。
(1)0.0〜0.5時間:フィード速度2.0kg/時
(2)0.5〜1.0時間:フィード速度1.0kg/時
(3)1.0〜2.0時間:フィード速度0.8kg/時
(4)2.0〜3.0時間:フィード速度0.7kg/時
(5)3.0〜4.0時間:フィード速度0.35kg/時
(6)4.0〜7.0時間:フィード速度0.27kg/時
開始剤の添加が完了した後、さらに2時間反応させて重合反応を完結させた。
重合反応中、内温は95〜100℃で制御した。
得られた重合体溶液に、メチルイソブチルケトンを85kgと環化触媒として有機リン化合物であるリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物170gとを添加し、還流下、約95〜100℃で2時間、環化縮合反応を行った。
次に得られた重合体溶液を、多管式熱交換機からなる加熱機にて240℃に加熱したのち、リアベント数1個、フォアベント数4個を有するベント付二軸押出機に導入することにより、脱揮を行いつつ環化反応を進行させた。
二軸押出機では、樹脂換算で15kg/時となるように、得られた共重合体溶液を供給し、バレル温度260℃、回転数100rpm、真空度10〜300Torrの条件とした。その際、二軸押出機の後半部分に備え付けられた2つのサイドフィードより、触媒失活剤(2−エチルヘキシル酸亜鉛;日本化学産業株式会社製:製品名ニッカオクチックス亜鉛18%)、及びAS樹脂(旭化成ケミカルズ株式会社製、アクリロニトリル−スチレン樹脂、製品名:スタイラックAS783)を投入した。
尚、失活剤は、30g/時、AS樹脂は1.65kg/時の供給速度にて添加した。
二軸押出機で溶融混練を行った樹脂を、ストランドダイから押出し、水冷後ペレット化し、樹脂組成物(5)を得た。
得られた樹脂組成物の組成を確認したところ、ラクトン環構造単位の含有量は28.3質量%であった。ラクトン環構造単位の含有量については、特開2007−297620号公報に記載の方法に従い求めた。また、得られた樹脂組成物の重量平均分子量は148,000であった。
【0154】
[製造例6]
予め内部を窒素にて置換した、攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素ガス導入管を備えた30リットル反応器に、メタクリル酸メチル8kg、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル2kg、トルエン10kg、有機リン化合物としてトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト2.0gを仕込んだ。
その後、窒素ガスを導入しながら、100℃まで昇温し、重合開始剤として、t−アミルパーオキシイソノナノエート5gを添加すると同時に、t−アミルパーオキシイソノナノエート10gを含むトルエン溶液を2時間かけて滴下しながら、還流下、約105〜110℃で溶液重合を行い、さらに4時間、重合を継続した。
得られた重合体溶液に、環化触媒として有機リン化合物であるリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物30gを添加し、還流下、約90〜102℃で2時間、環化縮合反応を行った。
次に得られた共重合体を含む溶液を多管式熱交換機からなる加熱機にて240℃に加熱することと、脱揮用に複数のベント口と下流に複数のサイドフィード口を装備した二軸押出機に導入することにより脱揮を行いつつ環化反応を進行させた。二軸押出機では、樹脂換算で2kg/時となるように、得られた共重合体溶液を供給し、バレル温度260℃、回転数100rpm、真空度10Torr〜300Torrの条件にて行った。その際、二軸押出機の後半部分に備え付けられた2つのサイドフィードより酸化防止剤(BASF社製イルガノックス1010)、触媒失活剤(2−エチルヘキシル酸亜鉛;日本化学産業株式会社製:製品名ニッカオクチックス亜鉛18%)を投入した。酸化防止剤及び触媒失活剤は重合体に対してともに4g/時の供給速度にて添加し、溶融混練を行い、ストランドダイから押出し、水冷後ペレット化し、樹脂組成物(6)を得た。
得られた組成物の組成を確認したところ、ラクトン環構造単位の含有量は30.7質量%であった。尚、ラクトン環構造単位の含有量については、特開2007−297620号公報に記載の方法に従い求めた。また、得られた組成物は重量平均分子量が129,000であった。
【0155】
[実施例1]
(メタクリル系樹脂組成物の調製)
製造例1−1にて得られたメタクリル系樹脂(1−1)を90℃、5時間真空乾燥し、窒素雰囲気下にて30℃まで冷却し、組成物の調製に用いた。
予め窒素置換されたタンブラー型ミキサーを用いて、メタクリル系樹脂(1−1)を100質量部と、アデカスタブPEP36を0.15質量部、並びにアデカスタブAO−412Sを0.05質量部とからなる混合物を調製した。
露点を−30℃に、且つ温度を80℃に調整した除湿空気を利用し、得られた混合物を58mmφベント付二軸押出機に供給し溶融混練を行った。その際、二軸押出機に附帯する原料ポッパーの下部には、窒素導入ラインを設けて、押出機内に窒素を導入しながら行った。原料ホッパー下での酸素濃度を測定したところ、約1容量%であった。
運転条件としては、押出機下部及びダイ設定温度270℃、回転数200rpm、ベント部での真空度は200Torr、吐出量20kg/時の条件にて実施した。
溶融混練された樹脂組成物は、多孔ダイを通じてストランド状に押出され、予め50℃に加温された冷却水が満たされた冷却バスに導入し冷却固化させ、カッターにより裁断され、ペレット状のメタクリル系樹脂組成物を得た。
重量平均分子量は142,000、T
G”maxは133℃、(S
m2)は56μ秒、(S
m2−S
r2)は40μ秒、(S
m2−S
m1)は30μ秒であり、光弾性係数は0.2×10
−12Pa
−1であった。
【0156】
[実施例2]
製造例1−1で得られたメタクリル系樹脂を製造例1−2で得られたメタクリル系樹脂(1−2)に変更した以外は実施例1と同様にしてメタクリル系樹脂組成物を調製した。
重量平均分子量は162,000、T
G”maxは132℃、(S
m2)は60μ秒、(S
m2−S
r2)は44μ秒、(S
m2−S
m1)は36μ秒であり、光弾性係数は0.2×10
−12Pa
−1であった。
【0157】
[実施例3]
製造例1−1で得られたメタクリル系樹脂を製造例1−3で得られたメタクリル系樹脂(1−3)に変更した以外は実施例1と同様にしてメタクリル系樹脂組成物を調製した。
重量平均分子量は108,000、T
G”maxは132℃、(S
m2)は86μ秒、(S
m2−S
r2)は69μ秒、(S
m2−S
m1)は59μ秒であり、光弾性係数は0.2×10
−12Pa
−1であった。
【0158】
[実施例4]
製造例1−1で得られたメタクリル系樹脂を製造例1−4で得られたメタクリル系樹脂(1−4)に変更した以外は実施例1と同様にしてメタクリル系樹脂組成物を調製した。
重量平均分子量は141,000、T
G”maxは120℃、(S
m2)は75μ秒、(S
m2−S
r2)は55μ秒、(S
m2−S
m1)は45μ秒であり、光弾性係数は0.4×10
−12Pa
−1であった。
【0159】
[実施例5]
製造例1−1で得られたメタクリル系樹脂を製造例1−5で得られたメタクリル系樹脂(1−5)に変更した以外は実施例1と同様にしてメタクリル系樹脂組成物を調製した。
重量平均分子量は123,000、T
G”maxは150℃、(S
m2)は81μ秒、(S
m2−S
r2)は67μ秒、(S
m2−S
m1)は59μ秒であり、光弾性係数は0.4×10
−12Pa
−1であった。
【0160】
[実施例6]
製造例1−1で得られたメタクリル系樹脂を製造例2で得られたメタクリル系樹脂(2)に変更した以外は実施例1と同様にしてメタクリル系樹脂組成物を調製した。
重量平均分子量は143,000、T
G”maxは132℃、(S
m2)は79μ秒、(S
m2−S
r2)は62μ秒、(S
m2−S
m1)は53μ秒であり、光弾性係数は0.2×10
−12Pa
−1であった。
【0161】
[実施例7]
製造例1−1で得られたメタクリル系樹脂を製造例3で得られたメタクリル系樹脂(3)に変更した以外は実施例1と同様にしてメタクリル系樹脂組成物を調製した。
重量平均分子量は137,000、T
G”maxは133℃、(S
m2)は83μ秒、(S
m2−S
r2)は68μ秒、(S
m2−S
m1)は57μ秒であり、光弾性係数は0.2×10
−12Pa
−1であった。
【0162】
[比較例1]
製造例1で得られたメタクリル系樹脂に代えて製造例4で得られたメタクリル系樹脂(4)を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製した。
重量平均分子量は131,000、T
G”maxは131℃、(S
m2)は102μ秒、(S
m2−S
r2)は84μ秒、(S
m2−S
m1)は74μ秒であり、光弾性係数は0.2×10
−12Pa
−1であった。
【0163】
[実施例8]
製造例1−1で得られたメタクリル系樹脂に代えて製造例5で得られた樹脂組成物(5)を用いた以外は実施例1と同様にしてメタクリル系樹脂組成物を調製した。
重量平均分子量は139,000、T
G”maxは123℃、(S
m2)は89μ秒、(S
m2−S
2r)は73μ秒、(S
m2−S
m1)は61μ秒であり、光弾性係数は1.5×10
−12Pa
−1であった。
【0164】
[比較例2]
製造例5で得られたメタクリル系樹脂に代えて製造例6で得られた樹脂組成物(6)を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製した。
重量平均分子量は121,000、T
G”maxは126℃、(S
m2)は105μ秒、(S
m2−S
r2)は89μ秒、(S
m2−S
m1)は79μ秒であり、光弾性係数は2.2×10
−12Pa
−1であった。
【0165】
[比較例3]
製造例1−1で得られたメタクリル系樹脂に代えて、ポリメチルメタクリレート(製品名:デルペット80N、旭化成製)をそのまま利用した。T
G”maxは115℃、(S
m2)は107μ秒、(S
m2−S
r2)は85μ秒、(S
m2−S
m1)は81μ秒であり、光弾性係数は5.0×10
−12Pa
−1であった。
【0166】
[比較例4]
特公昭63−1964号公報に記載の方法に従い、メタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体(共重合体A)を得た。
得られたメタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体は、メタクリル酸メチル74質量%、無水マレイン酸10質量%、スチレン16質量%であり、重量平均分子量は121,000であった。
製造例1−1で得られたメタクリル系樹脂に代えて、上記で得られた共重合体Aを用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製した。
重量平均分子量は119,000、T
G”maxは125℃、(S
m2)は95μ秒、(S
m2−S
r2)は74μ秒、(S
m2−S
m1)は70μ秒であり、光弾性係数は2.5×10
−12Pa
−1であった。
【0167】
【表1】
【解決課題】主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂を含むメタクリル系樹脂組成物であり、動的粘弾性測定により求められる損失弾性率の温度分散スペクトルにおいて極大値を示す温度(T