特許第6151477号(P6151477)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6151477
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】電気化学的デバイス電極バインダー
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20170612BHJP
   H01G 11/24 20130101ALI20170612BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   H01G11/24
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-45182(P2012-45182)
(22)【出願日】2012年3月1日
(65)【公開番号】特開2013-182765(P2013-182765A)
(43)【公開日】2013年9月12日
【審査請求日】2015年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】阿部 徹
(72)【発明者】
【氏名】室井 俊正
【審査官】 瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−169112(JP,A)
【文献】 特開2010−192434(JP,A)
【文献】 特開2011−009116(JP,A)
【文献】 特開2005−166756(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
H01G 11/00−11/86
C08C 19/00−19/44
C08F 6/00−246/00、301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2層構造のコアシェル構造を有する共重合体ラテックスであって、
共役ジエンをコア部とシェル部の双方に含有し、エチレン性不飽和カルボン酸をコア部とシェル部の少なくとも一方に含有しており、コア部のゲル含有率が97%〜100%、シェル部のゲル含有率が95%〜99%であり、コア部のゲル含有率がシェル部のゲル含有率より0.5%〜4.8%高い共重合体ラテックスを含有する電気化学的デバイス電極バインダー。
【請求項2】
示差走査熱量計により測定されるコアシェル共重合体ラテックス全体のガラス転移温度が1つだけである請求項1の共重合体ラテックスを含有する電気化学的デバイス電極バインダー。
【請求項3】
前記共重合体ラテックスの体積平均粒子径が100〜500nmである、請求項1または2に記載の電気化学的デバイス電極バインダー。
【請求項4】
前記共重合体ラテックスのコア部とシェル部に含まれる共役ジエン成分量の和が、前記共重合体ラテックス全体100質量部の内、20〜70質量部である、請求項1〜3のいずれかに記載の電気化学的デバイス電極バインダー。
【請求項5】
前記共重合体ラテックスのガラス転移温度が50℃〜−50℃である、請求項1〜4のいずれかに記載の電気化学的デバイス電極バインダー。
【請求項6】
前記コア部が、分子量調整剤に由来する単位を、0.1質量%以上1.8質量%以下含む、請求項1〜のいずれかに記載の電気化学的デバイス電極バインダー。
【請求項7】
エチレン性不飽和カルボン酸をコア部とシェル部の双方に含有している、請求項1〜6のいずれかに記載の電気化学的デバイス電極バインダー。
【請求項8】
前記共重合体ラテックスに対してシェル部の質量%が20〜80質量%である、請求項1〜7のいずれかに記載の電気化学的デバイス電極バインダー。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の電気化学的デバイス電極バインダーを用いた電気化学的デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気化学的デバイス電極に用いられるバインダーに関する。
【背景技術】
【0002】
これまでリチウムイオン二次電池などの電気化学的デバイスに用いられる電極を製造する方法としては、バインダーと電極活物質を含有してなる液状の組成物を、集電体表面に塗布して乾燥することによって、当該集電体の上に電極層を形成させる方法が知られている。
【0003】
その際に使用されるバインダーとしてはポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂が有機溶媒中に溶解されてなるものが知られている。然るにフッ素樹脂は集電体を構成する金属(集電体)との接着力が十分に高い物では無い上、柔軟性も十分に高い物ではなかった。電池を製造する際に電極層にクラックが入ったり集電体と活物質の剥離が生じるとの問題があった。
【0004】
一方、集電体を構成する金属との接着力が高く、しかも、柔軟性が高い電極層を形成することができるバインダーとして、スチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスが知られている。更に耐溶剤性などの性能を維持しつつ接着力を改善した共重合体ラテックスとしてコアシェル構造を有する共重合体ラテックスが提案されている。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−170852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載のコアシェルラテックスを用いて得られる電池を用いて、高温や低温に繰り返しさらされる環境下で充放電を行うと、集電体との結着力が低下するという問題があった。
本発明は高温低温の繰り返し充放電を行った際にも充放電効率が低下することのないコアシェルラテックスを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決する方法について検討を重ねた結果、以下のことを見出した。コアとシェルでガラス転移温度が異なる構造を有するラテックスをバインダを用いると集電体への接着力と耐溶剤性が増す。しかしながら、高温と低温下に繰り返し置かれた状態で電池を充放電すると、ラテックス粒子内部での変形性が不足し、集電体や活物質との接着点に歪が蓄積するため、活物質と極板の接着点の破壊が進み、結果として充放電効率の低下がおこりやすいことがわかった。そこで、コアとシェルそれぞれにおける共重合体ラテックスのゲル含有率の絶対値と差を特定の範囲にすると、バインダー粒子全体が変形するようになり、そのため高温低温を繰り返す条件下で充放電を行っても、接着点への歪の蓄積が小さく抑えられ、接着点の破壊が起こりにくくなることを見いだした。そして、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち本発明は下記のとおりである。
[1]コアシェル構造を有する共重合体ラテックスであって、共役ジエンをコア部とシェル部の双方に含有し、エチレン性不飽和カルボン酸をコア部とシェル部の少なくとも一方に含有しており、コア部のゲル含有率が90%〜100%、シェル部のゲル含有率が70%〜99%であり、コア部のゲル含有量がシェル部のゲル含有率より0.5%〜30%高い共重合体ラテックスを含有する電気化学的デバイス電極バインダー。
[2]示差走査熱量計により測定されるコアシェル共重合体ラテックス全体のガラス転移温度が1つだけである上記[1]に記載の共重合体ラテックスを含有する電気化学的デバイス電極バインダー。
[3]体積平均粒子径が100〜500nmである上記[1]または[2]に記載の共重合体ラテックスを含有する電気化学的デバイス電極バインダー。
[4]コア部とシェル部に含まれる共役ジエン成分量の和が共重合体ラテックス全体100質量部の内、20〜70質量部である上記[1]〜[3]のいずれかに記載の共重合体ラテックスを含有する電気化学的デバイス電極バインダー。
[5]ガラス転移温度が50℃〜―50℃である上記[1]〜[4]のいずれかに記載の共重合体ラテックスを含有する電気化学的デバイス電極バインダー。
[6]共重合体ラテックスに対してシェル部の質量%が20〜80質量%である上記[1]〜[5]のいずれかに記載の共重合体ラテックスを含有する電気化学的デバイス電極バインダー。
[7]請求項1〜5のいずれかに記載の電気化学的デバイス電極バインダーを用いた電気化学的デバイス。
【発明の効果】
【0009】
高温と低温下に繰り返し置かれた状態で電池を充放電しても、充放電効率が低下しないという効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
電気化学的デバイス電極とは、活物質を含有してなる組成物を集電体表面に塗布乾燥した電極であり、二次電池、電機二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタなどに用いられる電極をいう。本発明のバインダーに含まれるラテックスは、電極活物質(活物質)を添加した組成物を集電体表面に塗布後、乾燥させることにより集電体の上に電極層を形成させるバインダーとなる。
【0011】
上記の共重合体ラテックスは、コア部とシェル部を有するコアシェルラテックスである。この共重合体ラテックスは、共役ジエンをコア部とシェル部の双方に含有し、エチレン系不飽和カルボン酸をコア部とシェル部の少なくとも一方に含有している。また、該共重合ラテックスのコア部とシェル部のゲル含有率の差は0.5%〜30%である。
【0012】
電気化学的デバイス電極バインダーを構成する共重合体ラテックスに使用される単量体は、共役ジエン、エチレン性不飽和カルボン酸のほかに、その他共重合可能なビニル化合物が挙げられる。
【0013】
原料単量体を構成する共役ジエンとしては例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、クロロプレン等を1種単独または2種以上を組み合わせてもちうることができ、これらの中では、接着性の観点から1,3−ブタジエンが好ましい。
【0014】
コア部とシェル部に含まれる共役ジエン成分量の和が共重合体ラテックス全体100質量部の内、20〜70質量部が好ましく、更に好ましくは30〜60質量部である。20部より多く含まれることにより共重合体のやわらかさが十分となり、電池を成形する際の可撓性が高くなるので電極面の割れが発生しにくい傾向になる。70質量部以下とすることで塗工層表面のべたつき性が少なくなる傾向になりプレス加工時にロール表面を汚し難くなる。
(以下組成量は特に記載が無い限り、全共重合体を100質量部としたときの内数である)
【0015】
原料単量体を構成するエチレン性不飽和カルボン酸としては例えば、フマール酸、イタコン酸、アクリル酸、メタアクリル酸等を挙げることができ、1種単独または2種以上を組み合わせてもちいることができる。これらの中では、重合した共重合体ラテックスの安定性の観点からイタコン酸とアクリル酸が望ましい。エチレン性不飽和カルボン酸の使用量は好ましくは0.01以上20質量部以下であり、より好ましくは0.01以上15質量部以下、更に好ましくは0.01以上10質量部以下である。
【0016】
その他共重合可能なビニル化合物として芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリレート化合物、シアン化ビニル系化合物などが挙げられる。
芳香族ビニル化合物としては例えばスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレン、ジビニルベンゼン等を1種単独または2種以上を組み合わせてもちうることができ、これらの中では、重合した共重合体ラテックスの安定性の観点からスチレンが好ましい。芳香族ビニル化合物は30〜70質量部が好ましくより好ましくは35〜65質量部であり、更に好ましくは35〜60質量部である。
【0017】
(メタ)アクリレート化合物としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、i−アミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、i−ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、エチレングリコール(メタ)アクリレート等を1種単独または2種以上を組み合わせてもちうることができ、これらの中では、重合した共重合体ラテックスの安定性の観点からメチルメタアクリレートが望ましい。(メタ)アクリレート化合物は0.1〜30質量部が好ましく、より好ましくは0.1〜25質量部であり、更に好ましくは0.1〜20質量部である。
【0018】
シアン化ビニル系化合物としては、例えばアクリロニトリル、メタアクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル等を挙げることができ、これらの単量体を1種単独または2種以上を組み合わせてもちうることができ、これらの中では、アクリロニトリルが重合した共重合体ラテックスの安定性の観点から望ましい。シアン化ビニル系化合物は0.1〜30質量部が好ましく、より好ましくは0.1〜20質量部、更に好ましくは0.1〜15質量部である。
【0019】
上記以外に2−ヒドロキシエチルアクリレートなどのヒドロキシル基含有の単量体;アクリル酸アミノエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチル、などのアミノアルキルエステル類;2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンなどのピリジン類;アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルなどのグリシジルエステル類;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、グリシジルメタクリルアミド、N,N−ブトキシメチルアクリルアミドなどのアミド類;酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類;塩化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;ジビニルベンゼン、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等の多官能ビニル系単量体が挙げられる。これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。通常配合量は0.1〜30質量部である。 得られる共重合体ラテックスの安定性の観点からは、他の共重合可能な単量体として2−ヒドロキシエチルアクリレートを配合することが望ましい。
【0020】
コアシェル構造を有する共重合体ラテックスのコア部のゲル含有率は90%〜100%である。90%以上あれば共重合体の耐溶剤性が維持され、電池内部で電解液による膨潤することがないため、極板-活物質間および活物質−活物質間の接着力の低下が抑えられる。コアのゲル含有率は高ければ高いほど良い。95%〜100%であることが好ましく、さらに好ましくは97%〜100%がよく、特に好ましくは99%から100%である。
【0021】
シェル部のゲル含有率は70%〜99%である。70%以上あれば耐溶剤性が維持され、電池内部の非水系電解液への溶解が抑えられるので、電池寿命を長寿命化させる。また、99%以下であれば接着力の低下が抑えられる。好ましくは80%〜99%がよく、特に好ましくは90%から99%である。
【0022】
コア部のゲル含有率はシェル部のゲル含有率より0.5%〜30%高くする必要があり、この範囲にあると高温低温の繰り返し充放電での接着点への歪の蓄積が小さく抑えられ、接着点の破壊が起こりにくくなる。好ましくは0.5%〜20%がよく、特に好ましくは0.5%から10%である。
ゲル含有率とは共重合ラテックス粒子内の分子量や架橋度を表す値であり、以下の方法で測定される。ゲル含有率が高いほど耐溶剤性が高いと判断される。
【0023】
(ゲル含有率測定法)
共重合体ラテックスをガラス板上に0.5mm厚で塗布し、130℃、30分加熱で乾燥し得られた塗膜から、0.5gを秤量した後トルエン40mlに浸漬して3時間震とうした。震とう後の共重合体塗膜を325メッシュのステンレス金網でろ過し130℃、1時間乾燥した。乾燥後の重量と浸漬前の塗膜の重量から下記の式でゲル含有率を計算した。
【0024】
【数1】
【0025】
コア部、シェル部のゲル含有率はそれぞれの均一組成の共重合体ラテックスを作製しゲル含有率を測定して決定した。
上記ゲル含有率の調整にはメルカプタン類等の分子量調整剤などの使用や重合温度条件などで調整することができる。コア部とシェル部には分子量調整剤をそれぞれ使用しても良いし使用しなくても良い。コア部に比べてシェル部に分子量調整剤を多く使用することで本発明の共重合体を容易に製造できる。
【0026】
分子量調整剤としてはクロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類、n−ヘキシメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸等のメルカプタン類。ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイドなどのキサントゲン類、ターピノーレン、α−メチルスチレンダイマー、など通常の乳化重合で使用可能なものを全て使用できる。分子量調整剤の使用量は全単量体100質量部に対して外数で0以上5質量部以下が好ましく、α−メチルスチレンダイマー、t−ドデシルメルカプタンが好ましく使用される。
【0027】
上記の共重合体ラテックスの体積平均粒子径は、100nmから500nmであると好ましい。100nm以上あれば接着力が維持される。500nm以下であれば共重合体ラテックスの保存安定性が維持される。このような粒子径にするにはシード(例えば粒子径35nmのポリスチレンラテックス)粒子の量や乳化剤量などで調整することができる。粒子径はより好ましくは150nmから400nmであり、更に好ましくは250nmから350nmである。
【0028】
共重合体ラテックスに対してシェル部の質量%は20〜80質量%が好ましい。20質量%以上であると接着力が維持され、80質量%以下であれば耐溶剤性が維持される。より好ましくは25〜75質量%であり、更に好ましくは30〜70質量%である。
【0029】
上述の共重合体ラテックスは、示差走査熱量計によって測定されたガラス転移温度が1つであることが望ましい。ガラス点移温度は−50℃から50℃の間に1個存在することが望ましい。ガラス転移温度は1つであれば良く幅は問わない。ガラス転移温度が一個であることは、特に高温と低温下に繰り返しおかれる環境において充放電を行って電極が変形した際にも、バインダーの追従性が十分となるので、より活物質や集電体との接着点が破壊されにくくなる。
そのため充放電を繰り返したとしても充放電効率が低下することが少ない。
【0030】
上述のようにガラス転移温度を一個にするためには、分子量調整剤量以外のコア部とシェル部を構成する単量体の組成比を同じにする方法、コアシェルを構成する単量体の組成比を調整してガラス転移温度を一個にする方法などが挙げられる。
【0031】
本発明において共重合体ラテックスは上記単量体を乳化重合することで得ることができる。重合時には適当なシード粒子を用いることができ、シード粒子も通常の乳化重合により得ることができる。また、乳化重合に際しては公知の方法を採用することができ、水性媒体中で乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤、キレート化剤、PH調整剤等を適宜用いて製造することができる。
【0032】
ここで乳化剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、反応性界面活性剤などが単独で、あるいは2種以上を併用して使用できる。
【0033】
アニオン界面活性剤としては例えば高級アルコールの硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、ポリエチレングリコールアルキルエーテルの硫酸塩エステルなどが挙げられる。
【0034】
ノニオン性界面活性剤としてはポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型などが用いられる。
【0035】
両性界面活性剤としてはラウリルベタイン、ステアリルベタインなどのベタイン類、ラウリル−β−アラニン、ステアリル−β−アラニン、ラウリルジ(アミノエチル)グリシンなどのアミノ酸タイプのものなどが用いられる。
【0036】
反応性界面活性剤としては例えばポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル、α−〔1−〔(アリルオキシ)メチル〕−2−(ノニルフェノキシ)エチル〕―ω−ヒドロキシポリオキシエチレンなどが挙げられる。
【0037】
乳化剤の使用量は全単量体100質量部に対して好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.1〜8質量部さらに好ましくは0.1〜6質量部である。
【0038】
重合開始剤としては過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの水溶性重合開始剤、過酸化ベンゾイル、ラウリルパーオキサイドなどの油溶性重合開始剤、還元剤との組み合わせによるレドックス系重合開始剤などが、単独であるいは組み合わせて使用できる。
【0039】
重合開始剤の使用量は全単量体100質量部に対して0.1〜3質量部が好ましい。
コアシェル構造を有する共重合体の重合方法としては;1.あらかじめコア部組成の共重合体を別の容器で重合し、この共重合体をシード粒子として所定量を重合容器に添加した後、シェル部組成を与える単量体を重合する方法;2.コア部組成を重合し、同一重合容器内でシェル部組成を与える単量体の重合を行う方法などが挙げられる。なお、いずれの重合方法においてもコア部組成の重合率は50質量%以上である必要があり、より好ましくは80質量%以上である。
【0040】
コア部およびシェル部の共重合体を与える単量体を仕込む方法としては;1.単量体混合物を一括して仕込む方法;2.単量体の一部を重合した後、残りを連続的にあるいは断続的に添加する方法、;3.単量体混合物を重合のはじめから連続的あるいは断続的に添加する方法などを採ることができる。また、これらの方法を組み合わせることもできる。
重合温度は通常コアシェル共に60℃〜100℃であるとよい。
【0041】
(電池電極用組成物)
上述の電気化学的デバイス電極バインダーは電極活物質と配合して電気化学的デバイス電極用組成物として使用され、必要に応じて他の成分が含有される。
かかるその他の成分としては増粘剤、分散剤、共重合体ラテックスの安定剤としてのノニオン性またはアニオン性界面活性剤、消泡剤などの添加物などが挙げられる。
【0042】
本発明の共重合体ラテックスの分散媒としては水を用いることができ、前述のようにバインダー粒子を乳化重合して得る場合には、重合時に使用した水分散媒をそのまま用いたり、あるいはこれを濃縮して使用することができる。また、分散媒は必要に応じて活物質に最適な有機系溶媒に置換して用いることができる。かかる有機系分散媒については特に限定されず、置換の方法も特に限定されないが、例えば乳化重合して得られる共重合体ラテックスに有機分散媒を添加し、減圧蒸留で水を揮発させる方法、前記共重合体ラテックスより水を揮発させ、得られる固形分を有機分散媒に再分散させる方法等が挙げられる。負極電極バインダー組成物中には上記共重合体ラテックスが必須であり、適当な活物質、例えば、非水系電池に関しては、例えばハードカーボン、黒鉛、活性炭等が使用される。また、炭素繊維なども使用できる。ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン等の導電性高分子も使用できる。特にLiPF6、Li(1-x)CoO2、Li(1-x)NiO2、LixCoySnz2などのリチウムイオン含有酸化物を用いた場合、正負極共に放電状態で組み立てることが可能となり好ましい組み合わせとなる。
【0043】
上記電気化学的デバイス電極組成物において、本発明のバインダーは、電極活物質100質量部に対して固形分で0.1〜20質量部が好ましく、より好ましくは0.1〜10質量部、さらに好ましくは0.1〜8質量部が配合される。0.1質量部以上とすることにより集電体などに対する接着力が良好になり、20質量部以下であることにより、電池内部抵抗の上昇を抑えることができ、好ましい電気化学的デバイス電極特性が得られる。
【0044】
なお、前記バインダー中に、上記の共重合体ラテックスは50%以上含まれていることが好ましく、より好ましくは80%以上が共重合体ラテックスであることが好ましい。また、バインダー中には共重合体ラテックスのほかに、アクリル系ラテックス、ポリビニリデンフロリドやポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂系ラテックスなどが含まれていても良い。
【0045】
電気化学的デバイス電極バインダーを用いる電気化学的デバイス電極組成物には、必要に応じて水溶性増粘剤を用いることができる。上記水溶性増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。
【0046】
上記、電気化学的デバイス電極組成物は電気化学的デバイス電極バインダー、電極活物質および水溶性増粘剤からなるが、その他必要に応じて分散剤、共重合体ラテックスの安定剤としてのノニオン性またはアニオン性界面活性剤などの添加剤、電極の導電性付与の目的でカーボン繊維などを加えても良い。
【0047】
(電極電池)
本発明の共重合体ラテックスは、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタ等の電気化学デバイス電極バインダーとして利用できる。
電気化学的デバイス電極は上記電気化学的デバイス電極組成物を、スラリー状にして集電体に塗布し、加熱し、乾燥することによって得られる。集電体としてはたとえばリチウムイオン二次電池負極としては銅箔が用いられる。
【0048】
塗布方法としては、リバースロールコーター、コンマバーコーター、グラビヤコーター、エア−ナイフコーターなど任意のコーターヘッドをもちることができる。乾燥方法としては放置乾燥、送風乾燥、温風乾燥、赤外線加熱機、遠赤外過熱機などが使用できる。乾燥温度は通常60℃〜150℃で行う。
【0049】
たとえば、上記のようにして得られた電気化学的デバイス電極を用いてリチウムイオン電池を組み立てる場合電解質としてはLiClO4、LiBF4、LiPF6が挙げられる。また、用いられる電解質の有機溶媒としては例えばエーテル類、ケトン類、ラクトン類、ニトリル類、アミン類、アミド類、カーボネート類、塩素化炭化水素類などが挙げられ、代表例としてはテトラヒドロフラン、アセトニトリル、ブチロニトリル、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート等を挙げることができ、1種類または2種類以上の混合物として使用されるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
次に、実施例および比較例によって本発明を説明する。なお質量部は全て固形分換算値とした。
【0051】
[評価方法]
(1)ガラス転移温度
PH9.0に調整した共重合体ラテックスを130℃で30分乾燥し、乾燥物を得た。
示差走査熱量測定(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製;DSC6220)を 使用し、ASTM法(D3418−97)に従い、温度−120℃から+160℃まで 、20℃/minの速度で昇温し、共重合体ラテックスの示差走査熱量曲線を得て、付 属のソフトウエアでガラス転移温度を求めた。ガラス転移温度が1つあるいは2つ以上 であるかないかはソフトウエアの判定によってピークを求めて決めた。
【0052】
(2)バインダー粒子の体積平均粒子径
MICROTRACレーザー光散乱粒度分析計UPA150で測定した。
【0053】
(3)保存安定性
得られた共重合体ラテックスを1Lのメスシリンダーに入れて密栓して23℃で静 置し、目視で分離状態を確認すると共に固形分を測定した。
5:6ヶ月経過で分離無し
4:5ヶ月経過で分離が認められた。
3:4ヶ月経過で分離が認められた。
2:3ヶ月経過で分離が認められた。
1:2ヶ月経過で分離が認められた。
【0054】
(4)電極の作製
カルボキシメチルセルロース(1%溶液)80質量部に活物質として天然黒鉛100 質量部を分散し、その後得られた共重合体ラテックスを固形分で2固形分質量部を分散 して塗工液とした。得られた塗工液に水を加え、総固形分を50%に調整した。この塗 工液を乾燥後の厚みが100μmになるように銅箔に塗布した後、60℃で60分乾燥 した。塗布した電極層をソフトニップカレンダーで密度が2.5g/cm3になるよう にニップし、電極を作製した。
【0055】
(5)二次電池の作製
次に、上記で得られた電極を円形に打抜き、グローブボックス内で打抜いた負極を2 極式コインセル内に載置した。ついでこの上に円形に打ち抜いたポリプロピレン多孔膜 製からなるセパレーターを載置すると共に、空気が入らないように電解液を注入した。
その後、円形に打ち抜いた正極を載置し外装ボディーをねじで閉めて封止することによ り二次電池を作製した。ここで使用した電解液はエチレンカーボネート/ジエチルカー ボネート混合溶媒(質量比=1/1)にLiPF6が1モル/リットルの濃度で溶解さ れてなるものである。
【0056】
(6)ピール強度
(4)で得られた電極から巾2cm×長さ12cmの試験片を切り出し、この試験片 の集電体側の表面を両面テープでアルミ板に貼り付けた。また試験片の電極層側に巾1 8mmのテープ(商品名「セロテープ(登録商標)」(ニチバン社製))(JIS Z 1522に規定)を貼り付け180°方向に100mm/minの速度でテープを剥離 したときの強度を6回測定しその平均値(N/18mm)をピール強度として算出した 。この値が大きいほど集電体と電極層の接着強度が高く、集電体から電極層が剥離しが たいと評価することができる。
【0057】
(7)高温低温繰り返し充放電サイクル特性
得られた二次電池に対し、定電流(1C)−定電圧(4.2V)方式により2.5時 間充電し、定電流(1C)方式により放電するサイクルを、60℃と−10℃で交互に 繰り返し、3サイクル目の放電容量に対する60サイクル目の放電容量を測定した。
【0058】
【数2】
【0059】
◎:95%以上
〇:90%以上
△:80〜90%
×:80%以下
充放電サイクル適性の値が大きいほど高温低温繰り返し充放電サイクル特性が良好と 判断される。
【0060】
(8)電極層の可撓性
(4)で得られた電極から電極から幅2cm×長さ12cmの試験片を切り出し、こ の試験片の集電体の側の面を2mmφのステンレス製円筒に当てて屈曲させた後、電極 層の状態を光学顕微鏡で観察し電極層の割れの有無を調べた。
〇:電極層にわれが認められない
△:電極層の端部にのみ割れが認められる
×:電極層全面に割れが認められる
電極層の割れが認められないほど電極層の可撓性が高いと判断される。
【0061】
(9)べたつき性
(4)で得られた電極から幅2cm×長さ12cmの試験片を切り出し、この試験片 の電極層側を幅5cm長さ15mmのステンレス板に重ね合わせ、50kN/cm2で 5分間圧着した。サンプルを取り出して電極を剥がして電極表面を目視で観察して評価 した。
〇:電極表面に剥がれが見られない
△:隅の方だけ剥がれている
×:全面に剥がれが見られる。
【0062】
(10)コア部およびシェル部のゲル含有率の測定
コア部組成、シェル部組成で均一粒子を製造しそれぞれのゲル含有率を測定した。
【0063】
(実施例1)コアシェル同一組成/コアシェル比=コア50%/シェル部50%
反応器に初期水(イオン交換水75質量部、イタコン酸3.0質量部、シード(粒子径35nmのポリスチレンラテックス)、乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.3質量部)を仕込み、攪拌しながら80℃に昇温して保持した。ここへコア部組成の配合単量体(ブタジエン20質量部、スチレン24.5質量部、メチルメタアクリレート1.5質量部、アクリロニトリル1.5質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート0.5質量部、アクリル酸0.5質量部、α−メチルスチレンダイマー0.05質量部)を3時間かけて追添した。同時に触媒水(イオン交換水12質量部、過硫酸ソーダ0.6質量部、苛性ソーダ0.15質量部、乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.075質量部)を追添した。コア部組成の追添終了後1時間反応させ、シェル部組成の単量体(ブタジエン20質量部、スチレン24.5質量部、メチルメタアクリレート1.5質量部、アクリロニトリル1.5質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート0.5質量部、アクリル酸0.5質量部、α−メチルスチレンダイマー0.05質量部、t−ドデシルメルカプタン0.1質量部)を3.5時間で追添した。シェル部組成の追添時にも触媒水(イオン交換水12質量部、過硫酸ソーダ0.6質量部、苛性ソーダ0.15質量部、乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.075質量部)を同時に追添した。追添終了後温度を95℃に昇温して1時間反応させ重合を完結させた。得られた共重合体ラテックスは水蒸気蒸留して未反応単量体を除去した。得られた共重合体ラテックスを苛性カリウムでPH7.0±1.0に調整した時の体積平均粒子径は300nmであり、ゲル含有率は98.6%であった。示差走査熱量計で測定したガラス転移温度は0℃に1つ存在した。
【0064】
(実施例2)コアシェル同一組成/コアシェル比=コア部50%/シェル部50%
コア部、シェル部共に単量体組成のブタジエンを10質量部にしてスチレンを34.5質量部に変更した以外は実施例1と同様に重合した。得られた共重合体ラテックスを苛性カリウムでPH7.0±1.0に調整した時の体積平均粒子径は300nmであり、ゲル含有率は99.2%であった。示差走査熱量計で測定したガラス転移温度は48℃に1つ存在した。
【0065】
(実施例3)コアシェル同一組成/コアシェル比=コア部50%/シェル部50%
コア部、シェル部共に単量体組成のBDを35質量部にしてスチレンを9.5質量部に変更した以外は実施例1と同様に重合した。得られた共重合体ラテックスの得られた共重合体ラテックスを苛性カリウムでPH7.0±1.0に調整した時の体積平均粒子径は300nmであり、ゲル含有率は99.1%であった。示差走査熱量計で測定したガラス転移温度は−49℃に1つ存在した。また、コア部組成、シェル部組成で均一粒子を作製しゲルを測定した。
【0066】
(実施例4)コアシェル同一組成/コアシェル比=コア部50%/シェル部50%
体積平均粒子径を100nmにした以外は実施例1と同様に重合した。得られた共重合体ラテックスを苛性カリウムでPH7.0±1.0に調整した時の体積平均粒子径は100nmでありゲル含有率は99.4%であった。示差走査熱量計で測定したガラス転移温度は0℃に1つ存在した。また、コア部組成、シェル組成で均一粒子を作製しゲルを測定した。
【0067】
(実施例5)コアシェル同一組成/コアシェル比=コア部50%/シェル部50%
体積平均粒子径を500nmにした以外は実施例1と同様に重合した。得られた共重合体ラテックス得られた共重合体ラテックスを苛性カリウムでPH7.0±1.0に調整した時の体積平均粒子径は500nmであり、ゲル含有率は96.3%であった。示差走査熱量計で測定したガラス転移温度は0℃に1つ存在した。
【0068】
(実施例6)コアシェル同一組成/コアシェル比=コア部20%/シェル部80%
コアシェル比をコア部20%/シェル部80%にした以外は実施例1と同様に重合した。
反応器に所定の初期水(イオン交換水75質量部、イタコン酸3.0質量部、シード(粒子径35nmのポリスチレンラテックス)、乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.3質量部)を仕込み攪拌しながら80℃に昇温して保持した。ここへコア部組成の所定量の配合単量体(ブタジエン8質量部、スチレン9.8質量部、メチルメタアクリレート0.6質量部、アクリロニトリル0.6質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート0.2質量部、アクリル酸0.2質量部、α―メチルスチレンダイマー0.02質量部)を3時間かけて追添した。同時に触媒水(イオン交換水12質量部、過硫酸ソーダ0.6質量部、苛性ソーダ0.15質量部、乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.075質量部)を追添した。コア部組成の追添終了後1時間反応させ、シェル組成の所定量の単量体(ブタジエン32質量部、スチレン39.2質量部、メチルメタアクリレート2.4質量部、アクリロニトリル2.4質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート0.8質量部、アクリル酸0.8質量部、α−メチルスチレンダイマー0.08質量部、t−ドデシルメルカプタン0.16質量部)を3.5時間で追添した。シェル部組成の追添時にも触媒水(イオン交換水12質量部、過硫酸ソーダ0.6質量部、苛性ソーダ0.15質量部、乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.075質量部)を同時に追添した。
追添終了後温度を95℃に昇温して1時間反応させ重合を完結させた。得られた共重合体ラテックスは水蒸気蒸留して未反応単量体を除去した。得られた共重合体ラテックスを苛性カリウムでPH7.0±1.0に調整した時の体積平均粒子径は300nmであり、ゲル含有率は97.2%であった。示差走査熱量計で測定したガラス転移温度は0℃に1つ存在した。
【0069】
(実施例7)コアシェル同一組成/コアシェル比=コア部80%/シェル部20%
コアシェル比=コア部80%/シェル部20%にした以外は実施例1と同様に重合した。
反応器に所定の初期水(イオン交換水75質量部、イタコン酸3質量部、シード(粒子径35nmのポリスチレンラテックス)、乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.3質量部)を仕込み攪拌しながら80℃に昇温して保持した。ここへコア部組成の所定量の配合単量体(ブタジエン32質量部、スチレン39.2質量部、メチルメタアクリレート2.4質量部、アクリロニトリル2.4質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート0.8質量部、アクリル酸0.8質量部、α−メチルスチレンダイマー0.08質量部)を3時間かけて追添した。同時に触媒水(イオン交換水12質量部、過硫酸ソーダ0.6質量部、苛性ソーダ0.15質量部、乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.075質量部)を追添した。コア部組成の追添終了後1時間反応させ、シェル部組成の所定量の単量体(ブタジエン8質量部、スチレン10.6質量部、メチルメタアクリレート0.6質量部、アクリロニトリル0.6質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート0.2質量部、アクリル酸0.2質量部、α−メチルスチレンダイマー0.02質量部、t−ドデシルメルカプタン0.04質量部)を3.5時間で追添した。シェル部組成の追添時にも触媒水(イオン交換水12質量部、過硫酸ソーダ0.6質量部、苛性ソーダ0.15質量部、乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.075質量部)を同時に追添した。
追添終了後温度を95℃に昇温して1時間反応させ重合を完結させた。得られた共重合体ラテックスは水蒸気蒸留して未反応単量体を除去した。得られた共重合体ラテックスを苛性カリウムでPH7.0±1.0に調整した時の体積平均粒子径は300nmでありゲル含有量は99.1%であった。示差走査熱量計で測定したガラス転移温度は0℃に一つ存在した。
【0070】
(実施例8)コアシェル同一組成/コアシェル比=コア部50%/シェル部50%
実施例1のブタジエン含有量をコアシェル共に7.5部にし、スチレン含有量を37.0質量部にした以外は実施例1と同様に重合した。得られた共重合体ラテックスを苛性カリウムでPH7.0±1.0に調整した時の体積平均粒子径300nmであり、ゲル含有率は98.3%であった。示差走査熱量計で測定したガラス転移温度は64℃に1つ存在した。
【0071】
(実施例9)コアシェル同一組成/コアシェル比=コア部50%/シェル部50%
コア部、シェル部共に単量体組成のBDを37.5質量部にしてスチレンを7.0質量部に変更した以外は実施例1と同様に重合した。得られた共重合体ラテックスを苛性カリウムでPH7.0±1.0に調整した時の体積平均粒子径は300nmであり、ゲル含有率は98.3%であった。示差走査熱量計で測定したガラス転移温度は−56℃に1つ存在した。
【0072】
(実施例10)コアシェル同一組成/コアシェル比=コア部50%/シェル部50%
体積平均粒子径を70nmにした以外は実施例1と同様に重合した得られた共重合体ラテックスを苛性カリウムでPH7.0±1.0に調整した時の体積平均粒子径は70nmであり、ゲル含有率は99.0%であった。示差走査熱量計で測定したガラス転移温度は0℃に1つ存在した。
【0073】
(実施例11)コアシェル同一組成/コアシェル比=コア部50%/シェル部50%
体積平均粒子径を600nmにした以外は実施例1と同様に重合した。得られた共重合体ラテックスを苛性カリウムでPH7.0±1.0に調整した時の体積平均粒子径は600nmであり、ゲル含有率は98.0%であった。示差走査熱量計で測定したガラス転移温度は0℃に1つ存在した。
【0074】
(実施例12)コアシェル同一組成/コアシェル比=コア部10%/シェル部90%
コアシェル比=コア部10%/シェル部90%にした以外は実施例1と同様に重合した。
反応器に所定の初期水(イオン交換水75質量部、イタコン酸3.0質量部、シード(粒子径35nmのポリスチレンラテックス)、乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.3質量部)を仕込み攪拌しながら80℃に昇温して保持した。ここへコア部組成の所定量の配合単量体(ブタジエン4質量部、スチレン4.9質量部、メチルメタアクリレート0.3質量部、アクリロニトリル0.3質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート0.1質量部、アクリル酸0.1質量部、α−メチルスチレンダイマー0.01質量部)を3時間かけて追添した。同時に触媒水(イオン交換水12質量部、過硫酸ソーダ0.6質量部、苛性ソーダ0.15質量部、乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.075質量部)を追添した。コア部組成の追添終了後1時間反応させ、シェル部組成の所定量の単量体(ブタジエン36質量部、スチレン44.1質量部、メチルメタアクリレート2.7質量部、アクリロニトリル2.7質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート0.9質量部、アクリル酸0,9質量部、α−メチルスチレンダイマー0.09質量部、t−ドデシルメルカプタン0.18質量部)を3.5時間で追添した。シェル部組成の追添時にも触媒水(イオン交換水12質量部、過硫酸ソーダ0.6質量部、苛性ソーダ0.15質量部、乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.075質量部)を同時に追添した。追添終了後温度を95℃に昇温して1時間反応させ重合を完結させた。得られた共重合体ラテックスは水蒸気蒸留して未反応単量体を除去した。得られた共重合体ラテックスを苛性カリウムでPH7.0±1.0に調整した時の体積平均粒子径は300nmであり、ゲル含有率は96.0%であった。示差走査熱量計で測定したガラス転移温度は0℃に1つ存在した。
【0075】
(実施例13) コアシェル同一組成/コアシェル比=コア部90%/シェル部10%
コアシェル比=コア部90%/シェル部10%にした以外は実施例1と同様に重合した。
反応器に所定の初期水(イオン交換水75質量部、イタコン酸3.0質量部、シード(粒子径35nmのポリスチレンラテックス)、乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.3質量部)を仕込み攪拌しながら80℃に昇温して保持した。ここへコア部組成の所定量の配合単量体(ブタジエン36.0質量部、スチレン44.1質量部、メチルメタアクリレート2.7質量部、アクリロニトリル2.7質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート0.9質量部、アクリル酸0.9質量部、α−メチルスチレンダイマー0.27質量部、t−ドデシルメルカプタン0.27質量部)を3時間かけて追添した。同時に触媒水(イオン交換水12質量部、過硫酸ソーダ0.6質量部、苛性ソーダ0.15質量部、乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.075質量部)を追添した。コア部組成の追添終了後1時間反応させ、シェル部組成の所定量の単量体(ブタジエン4質量部、スチレン4.9質量部、メチルメタアクリレート0.3質量部、アクリロニトリル0.3質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート0.1質量部、アクリル酸0.1質量部、α−メチルスチレンダイマー0.01質量部、t−ドデシルメルカプタン0.01質量部を3.5時間で追添した。シェル部組成の追添時にも触媒水(イオン交換水12質量部、過硫酸ソーダ0.6質量部、苛性ソーダ0.15質量部、乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.075質量部)を同時に追添した。
追添終了後温度を95℃に昇温して1時間反応させ重合を完結させた。得られた共重合体ラテックスは水蒸気蒸留して未反応単量体を除去した。得られた共重合体ラテックスを苛性カリウムでPH7.0±1.0に調整した時の体積平均粒子径は300nmであり、ゲル含有率は100%であった。示差走査熱量計で測定したガラス転移温度は0℃に1つ存在した。
【0076】
(実施例14)コアシェル非同一組成/コアシェル比=コア部50%/シェル部50%
反応器に所定の初期水(イオン交換水75質量部、イタコン酸3.0質量部、シード(粒子径35nmのポリスチレンラテックス)、乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.3質量部)を仕込み攪拌しながら80℃に昇温して保持した。ここへコア部組成の所定量の配合単量体(ブタジエン20質量部、スチレン24.5質量部、メチルメタアクリレート1.5質量部、アクリロニトリル1.5質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート0.5質量部、アクリル酸0.5質量部、α−メチルスチレンダイマー0.05質量部、t−ドデシルメルカプタン0.05質量部)を3時間かけて追添した。同時に触媒水(イオン交換水12質量部、過硫酸ソーダ0.6質量部、苛性ソーダ0.15質量部、乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.075質量部)を追添した。コア部組成の追添終了後1時間反応させ、シェル部組成の所定量の単量体(ブタジエン28質量部、スチレン16.5質量部、メチルメタアクリレート1.5質量部、アクリロニトリル1.5質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート0.5質量部、アクリル酸0.5質量部、α−メチルスチレンダイマー0.05質量部、t−ドデシルメルカプタン0.1質量部)を3.5時間で追添した。シェル部組成の追添時にも触媒水(イオン交換水12質量部、過硫酸ソーダ0.6質量部、苛性ソーダ0.15質量部、乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.075質量部)を同時に追添した。追添終了後温度を95℃に昇温して1時間反応させ重合を完結させた。得られた共重合体ラテックスは水蒸気蒸留して未反応単量体を除去した。得られた共重合体ラテックスを苛性カリウムでPH7.0±1.0に調整した時の体積平均粒子径は300nmであり、ゲル含有率は96.0%であった。示差走査熱量計で測定したガラス転移温度は0℃と−28℃に2つ存在した。
【0077】
参考例15)コアシェル非同一組成/コアシェル比=コア部50%/シェル部50%
シェル部のt−ドデシルメルカプタンを1.0質量部にした以外は実施例14と同様に重合した。得られた共重合体ラテックスを苛性カリウムでPH7.0±1.0に調整した時の体積平均粒子径は300nmであり、ゲル含有率は90.0%であった。示差走査熱量計で測定したガラス転移温度は0℃と−28℃に2つ存在した。
【0078】
参考例16)コアシェル非同一組成/コアシェル比=コア部50%/シェル部50%
コア部のt−ドデシルメルカプタンを0.8質量部にした以外は実施例14と同様に重合した。得られた共重合体ラテックスを苛性カリウムでPH7.0±1.0に調整した時の体積平均粒子径は300nmであり、ゲル含有率は85.2%であった。示差走査熱量計で測定したガラス転移温度は0℃と−28℃に2つ存在した。
【0079】
(比較例1)均一粒子、実施例1のシェル部組成
反応器に所定の初期水(イオン交換水75質量部、イタコン酸3.0質量部、シード(粒子径35nmのポリスチレンラテックス)、乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.3質量部)を仕込み攪拌しながら80℃に昇温して保持した。ここへ実施例1のシェル部組成の2倍に当たる配合単量体(ブタジエン40質量部、スチレン50質量部、メチルメタアクリレート3質量部、アクリロニトリル3質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート1.0質量部、アクリル酸1.0質量部、α−メチルスチレンダイマー0.05質量部、t−ドデシルメルカプタン0.2質量部)を6時間30分かけて追添した。同時に触媒水(イオン交換水24質量部、過硫酸ソーダ1.2質量部、苛性ソーダ0.30質量部、乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.15質量部)を追添した。追添終了後温度を95℃に昇温して1時間反応させ重合を完結させた。得られた共重合体ラテックスは水蒸気蒸留して未反応単量体を除去した。得られた共重合体ラテックスの体積平均粒子径は300nmであり、ゲル含有率は97.0%であった。示差走査熱量計で測定したガラス転移温度は0℃に1つ存在した。
【0080】
(比較例2)均一粒子、実施例1のコア部組成
反応器に初期水(イオン交換水75質量部、イタコン酸3質量部、シード(粒子径35nmのポリスチレンラテックス)、乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.3質量部)を仕込み攪拌しながら80℃に昇温して保持した。ここへ実施例1のコア部組成単量体の2倍量(ブタジエン40質量部、スチレン49質量部、メチルメタアクリレート3質量部、アクリロニトリル3質量部、ヒドロキシエチルアクリレート1質量部、アクリル酸1.0質量部、α−メチルスチレンダイマー0.1質量部)を6.5時間で追添した。単量体追添時に触媒水(イオン交換水24質量部、過硫酸ソーダ1.2質量部、苛性ソーダ0.3質量部、乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.15質量部)を同時に追添した。追添終了後温度を95℃に昇温して1時間反応させ重合を完結させた。得られた共重合体ラテックスは水蒸気蒸留して未反応単量体を除去した。
得られた共重合体ラテックス得られた共重合体ラテックスを苛性カリウムでPH7.0±1.0に調整した時の体積平均粒子径は300nmでありゲル含有率は100%であった。示差走査熱量計で測定したガラス転移温度は0℃に1つ存在した。
【0081】
(比較例3)コアシェル非同一組成、コア/シェル比=50%/50%
実施例15のコア部のt−ドデシルメルカプタンを1.0質量部にした以外は実施例156と同様に重合した。得られた共重合体ラテックスを苛性カリウムでPH7.0±1.0に調整した時の体積平均粒子径は300nmであり、ゲル含有率は75.0%であった。示差走査熱量計で測定したガラス転移温度は0℃と−28℃に2つ存在した。
【0082】
(比較例4)コアシェル非同一組成、コア/シェル比=50%/50%
比較例3のコア部のt−ドデシルメルカプタンを1.5質量部にし、シェル部のt−ドデシルメルカプタンを2.0質量部にした以外は比較例3と同様に重合した。得られた共重合体ラテックスを苛性カリウムでPH7.0±1.0に調整した時の体積平均粒子径は300nmであり、ゲル含有率は61.0%であった。示差走査熱量計で測定したガラス転移温度は0℃と−28℃に2つ存在した。
【0083】
(比較例5)コアシェル非同一組成、コア/シェル比=50%/50%
比較例3のコア部のt−ドデシルメルカプタンを0.05質量部にし、シェル部のt−ドデシルメルカプタンを2.0質量部にした以外は比較例3と同様に重合した
得られた共重合体ラテックスを苛性カリウムでPH7.0±1.0に調整した時の体積平均粒子径は300nmであり、ゲル含有率は90.0%であった。示差走査熱量計で測定したガラス転移温度は0℃と−28℃に2つ存在した。
【0084】
(比較例6)コアシェル非同一組成、コア/シェル比=50%/50%
比較例3のコア部のt−ドデシルメルカプタンを1.5質量部にし、シェル部のt−ドデシルメルカプタンを0.05質量部にした以外は比較例3と同様に重合した
得られた共重合体ラテックスを苛性カリウムでPH7.0±1.0に調整した時の体積平均粒子径は300nmであり、ゲル含有率は92.0%であった。示差走査熱量計で測定したガラス転移温度は0℃と−28℃に2つ存在した。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
【表4】

【0089】
【表5】
【0090】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタ、リチウムイオン二次電池等の電気化学的デバイス電極バインダーとして利用できる。