(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気センサ装置に用いられる磁気抵抗素子やホール素子に用いられる感磁膜は、温度によって抵抗値が変化する。なお、磁気抵抗素子に用いられる磁気抵抗膜としてパーマロイを用いた場合、InSbやInAs等の半導体材料を用いた場合に比して温度に起因する抵抗変化が小さいが、それでも、温度が変化すると抵抗値が変動する。但し、感磁膜によってブリッジ回路を構成した場合、各感磁膜において温度変化に起因する抵抗値変化が発生しても、かかる変化が等しければ、出力に変化は発生しないはずである。
【0005】
しかしながら、基板に形成された感磁膜を利用した磁気センサ装置では、たとえ、感磁膜によってブリッジ回路を構成した場合でも、温度が変化すると、検出誤差が大きくなるという知見を得た。かかる原因は明確になっていないが、温度変化に伴う膨張収縮が基板等と感磁膜との間で相違することに起因する応力が各感磁膜によって異なることの影響や、基板に感磁膜を成膜した際の各感磁膜の膜質の差に起因するものと推測される。
【0006】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、環境温度が変化しても安定した検出精度を得ることのできる磁気センサ装置、および当該磁気センサ装置を備えたロータリエンコーダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明に係る磁気センサ装置は、基板と、該基板に形成され、ブリッジ回路を構成する感磁膜を備えた感磁領域と、前記基板に形成された温度監視用抵抗膜と、前記基板に形成された加熱用抵抗膜と、を有
し、前記加熱用抵抗膜と前記感磁膜とは、前記基板の面内方向でずれた領域に形成されて平面視で重なっておらず、前記加熱用抵抗膜と前記温度監視用抵抗膜とは、前記基板の面内方向でずれた領域に形成されて平面視で重なっていないことを特徴とする。
【0008】
本発明では、感磁膜が形成された基板に、温度監視用抵抗膜および加熱用抵抗膜が形成されている。このため、設定温度との温度差や温度変化を温度監視用抵抗膜の抵抗値によって監視し、その監視結果に基づいて加熱用抵抗膜に給電すれば、感磁膜を設定温度にまで加熱することができる。それ故、設定温度で高い精度が得られるように、感磁膜の抵抗バランスを設定しておけば、温度変化が発生しても安定した検出精度を得ることができる。
また、本発明では、加熱用抵抗膜と感磁膜とは、基板の面内方向でずれた領域に形成されて平面視で重なっておらず、加熱用抵抗膜と温度監視用抵抗膜とは、基板の面内方向でずれた領域に形成されて平面視で重なっていない。このため、加熱用抵抗膜と感磁膜との短絡や、加熱用抵抗膜と温度監視用抵抗膜との短絡等を防止することができる。また、加熱用抵抗膜と感磁膜とが平面視で重なっていないので、感磁膜が局所的に加熱されることを防止することができる。また、加熱用抵抗膜と温度監視用抵抗膜とが重なっていないので、温度監視用抵抗膜が局部的に加熱されることがないので、加熱用抵抗膜に対する給電を適正に行うことができる。
【0009】
本発明において、前記感磁膜、前記温度監視用抵抗膜、および前記加熱用抵抗膜は、前記基板の一方面側に形成されていることが好ましい。かかる構成によれば、成膜等を基板の一方面側に対して行えばよいので、基板の両面を利用する場合に比して、製造しやすいという利点がある。
【0010】
本発明において、平面視で、前記加熱用抵抗膜は、前記感磁領域を囲む閉ループ状に形成されていることが好ましい。かかる構成によれば、感磁領域全体を適正に加熱することができる。
【0011】
本発明において、前記温度監視用抵抗膜は、磁気抵抗効果を示さない導電膜であることが好ましい。かかる構成によれば、温度監視用抵抗膜に対する磁束密度が変化しても、温度を正確に監視することができる。
【0013】
本発明において、平面視で、前記温度監視用抵抗膜は、前記加熱用抵抗膜と前記感磁領域との間に形成されていることが好ましい。かかる構成によれば、温度監視用抵抗膜によって感磁領域の温度を適正に監視することができる。
【0014】
本発明において、前記感磁膜と前記加熱用抵抗膜とは、絶縁膜を介して別の層に形成されている構成を採用することができる。かかる構成によれば、感磁膜と加熱用抵抗膜とを種類が異なる膜によって形成するのに都合がよい。
【0015】
本発明において、前記感磁膜と前記温度監視用抵抗膜とは、絶縁膜を介して別の層に形成されている構成を採用することができる。かかる構成によれば、感磁膜と温度監視用抵抗膜とを種類が異なる膜によって形成するのに都合がよい。
【0016】
本発明において、前記温度監視用抵抗膜と前記加熱用抵抗膜とは、同一の層に形成されていることが好ましい。かかる構成によれば、温度監視用抵抗膜と加熱用抵抗膜とを同一種類の膜によって構成するのに都合がよい。
【0017】
本発明において、前記感磁膜、前記温度監視用抵抗膜、および前記加熱用抵抗膜のうち、前記感磁膜は、最も前記基板側の層に形成されていることが好ましい。かかる構成によれば、感磁膜を段差の少ない平坦面に形成することができる。それ故、感磁膜に不要な応力が加わることを防止することができる。
【0018】
本発明において、前記温度監視用抵抗膜の抵抗変化に基づいて前記加熱用抵抗膜への給電を制御する温度制御部を有することが好ましい。すなわち、温度制御部が磁気センサ装置に設けられていることが好ましい。かかる構成によれば、温度制御部を別途、設ける必要がないという利点がある。
【0019】
本発明に係る磁気センサ装置は、例えばロータリエンコーダに用いられる。この場合、ロータリエンコーダは、前記基板に対向配置された着磁面がNS一極着磁されたマグネットを有し、前記ブリッジ回路により得られたA相とB相の2相出力に基づいて、前記基板と前記マグネットとの相対的な角度位置を検出する。
【0020】
この場合、前記ブリッジ回路は、前記感磁膜によって前記着磁面の面内方向の磁界変化を検出した結果に基づいて前記2相出力を生成することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、感磁膜が形成された基板に、温度監視用抵抗膜および加熱用抵抗膜が形成されている。このため、設定温度との温度差や温度変化を温度監視用抵抗膜の抵抗値によって監視し、その監視結果に基づいて加熱用抵抗膜に給電すれば、感磁膜を設定温度にまで加熱することができる。それ故、設定温度で高い精度が得られるように設定しておけば、温度変化が発生しても安定した検出精度を得ることができる。
また、加熱用抵抗膜と感磁膜とは、基板の面内方向でずれた領域に形成されて平面視で重なっておらず、加熱用抵抗膜と温度監視用抵抗膜とは、基板の面内方向でずれた領域に形成されて平面視で重なっていない。このため、加熱用抵抗膜と感磁膜との短絡や、加熱用抵抗膜と温度監視用抵抗膜との短絡等を防止することができる。また、加熱用抵抗膜と感磁膜とが平面視で重なっていないので、感磁膜が局所的に加熱されることを防止することができる。また、温度監視用抵抗膜が局部的に加熱されることがないので、加熱用抵抗膜に対する給電を適正に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した磁気センサ装置、およびロータリエンコーダの実施の形態を説明する。なお、ロータリエンコーダにおいて、固定体に対する回転体の回転を検出するにあたっては、固定体にマグネットを設け、回転体に感磁素子を設けた構成、および固定体に感磁素子を設け、回転体にマグネットを設けた構成のいずれの構成を採用してもよいが、以下の説明では、固定体に磁気センサ装置を設け、回転体にマグネットを設けた構成を中心に説明する。
【0024】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係る磁気センサ装置10およびロータリエンコーダ1における原理を示す説明図であり、
図1(a)、(b)、(c)は感磁素子4等に対する信号処理系の説明図、感磁素子4から出力される信号の説明図、およびかかる信号と回転体2の角度位置(電気角)との関係を示す説明図である。
図2は、本発明の実施の形態1に係る磁気センサ装置10およびロータリエンコーダ1に用いた感磁素子4の感磁膜41〜44(磁気抵抗膜)の電気的な接続構造の説明図である。
【0025】
図1に示すロータリエンコーダ1は、固定体(図示せず)に対する回転体2の軸線周り(回転軸線周り)の回転を磁気センサ装置10によって磁気的に検出する装置であり、固定体は、モータ装置のフレーム等に固定され、回転体2は、モータ装置の回転出力軸等に連結された状態で使用される。回転体2の側には、N極とS極とが周方向において1極ずつ着磁された着磁面21を回転軸線方向Lの一方側に向けるマグネット20が保持されており、マグネット20は回転体2と一体に回転軸線周りに回転する。
【0026】
固定体の側には、マグネット20の着磁面21に対して回転軸線方向Lの一方側で対向する感磁素子4、および後述する処理を行う制御部90等を備えた磁気センサ装置10が設けられている。また、磁気センサ装置10は、マグネット20に対向する位置に、第1ホール素子61と、第1ホール素子61に対して周方向において機械角で90°ずれた箇所に位置する第2ホール素子62とを備えている。
【0027】
感磁素子4は、基板40と、マグネット20の位相に対して互いに90°の位相差を有する2相の感磁膜(A相(SIN)の感磁膜、およびB相(COS)の感磁膜)とを備えた磁気抵抗素子である。かかる感磁素子4において、A相の感磁膜は、180°の位相差をもって回転体2の移動検出を行う+A相(SIN+)の感磁膜43、および−A相(SIN-)の感磁膜41を備えており、B相の感磁膜は、180°の位相差をもって回転体2の移動検出を行う+B相(COS+)の感磁膜44、および−B相(COS-)の感磁膜42を備えている。
【0028】
+A相の感磁膜43および−A相の感磁膜41は、
図2(a)に示すブリッジ回路を構成しており、一方端がA相用の電源端子VccAに接続され、他方端がA相用のグランド端子GNDAに接続されている。+A相の感磁膜43の中点位置には、+A相が出力される出力端子+Aが設けられ、−A相の感磁膜41の中点位置には、−A相が出力される出力端子−Aが設けられている。また、+B相の感磁膜44および−B相の感磁膜42も、+A相の感磁膜44および−A相の感磁膜41と同様、
図2(b)に示すブリッジ回路を構成しており、一方端がB相用の電源端子VccBに接続され、他方端がB相用のグランド端子GNDBに接続されている。+B相の感磁膜44の中点位置には、+B相が出力される出力端子+Bが設けられ、−B相の感磁膜42の中点位置には、−B相が出力される出力端子−Bが設けられている。なお、
図2では便宜上、A相用の電源端子VccAおよびB相用の電源端子VccBの各々を記載したが、A相用の電源端子VccAとB相用の電源端子VccBとが共通になっていてもよい。また、
図2では便宜上、A相用のグランド端子GNDAおよびB相用のグランド端子GNDBの各々を記載したが、A相用のグランド端子GNDAとB相用のグランド端子GNDBとが共通になっていてもよい。
【0029】
かかる構成の感磁素子4は、
図1(a)に示すように、マグネット20において着磁境界部分に回転軸線方向Lで重なる位置に配置されている。このため、感磁素子4の感磁膜41〜44は、各感磁膜41〜44の抵抗値の飽和感度領域以上の磁界強度で、着磁面21の面内方向で向きが変化する回転磁界を検出することができる。すなわち、着磁境界線部分では、各感磁膜41〜44の抵抗値の飽和感度領域以上の磁界強度で面内方向の向きが変化する回転磁界が発生する。ここで、飽和感度領域とは、一般的に、抵抗値変化量kが、磁界強度Hと近似的に「k∝H
2」の式で表すことができる領域以外の領域をいう。また、飽和感度領域以上の磁界強度で回転磁界(磁気ベクトルの回転)の方向を検出する際の原理は、感磁膜41〜44に通電した状態で、抵抗値が飽和する磁界強度を印加したとき、磁界と電流方向がなす角度θと、感磁膜41〜44の抵抗値Rとの間には、下式
R=R0−k×sin2θ
R0:無磁界中での抵抗値
k:抵抗値変化量(飽和感度領域以上のときは定数)
で示す関係があることを利用するものである。このような原理に基づいて回転磁界を検出すれば、角度θが変化すると抵抗値Rが正弦波に沿って変化するので、波形品質の高いA相出力およびB相出力を得ることができる。
【0030】
本形態の磁気センサ装置10およびロータリエンコーダ1において、感磁素子4、第1ホール素子61、および第2ホール素子62には、増幅回路91、92、95、96や、これらの増幅回路91、92,95、96から出力される正弦波信号sin、cosに補間処理や各種演算処理を行うCPU(演算回路)等を備えた制御部90が構成されており、感磁素子4、第1ホール素子61、および第2ホール素子62からの出力に基づいて、固定体に対する回転体2の回転角度位置が求められる。
【0031】
より具体的には、ロータリエンコーダ1において、回転体2が1回転すると、感磁素子4(磁気抵抗素子)からは、
図1(b)に示す正弦波信号sin、cosが2周期分、出力される。従って、正弦波信号sin、cosを増幅回路91、92により増幅した後、制御部90において、
図1(c)に示すリサージュ図を求め、正弦波信号sin、cosからθ=tan
-1(sin/cos)を求めれば、回転出力軸の角度位置θが分かる。また、本形態では、マグネット20の中心からみて90°ずれた位置に第1ホール素子61および第2ホール素子62が配置されている。このため、第1ホール素子61および第2ホール素子62の出力の組合せにより、現在位置が正弦波信号sin、cosのいずれの区間に位置するかが分かる。従って、ロータリエンコーダ1は、感磁素子4での検出結果、第1ホール素子61での検出結果、および第2ホール素子62での検出結果に基づいて回転体2の絶対角度位置情報を生成することができ、アブソリュート動作を行うことができる。
【0032】
(感磁素子4の平面構成)
図3は、本発明の実施の形態1に係る磁気センサ装置10およびロータリエンコーダ1に用いた感磁素子4の説明図であり、
図3(a)、(b)、(c)は感磁素子4の平面構成を示す説明図、断面構成を示す説明図、および断面構成の変形例を示す説明図である。なお、
図3(b)、(c)では、感磁膜41〜44、温度監視用抵抗膜47、および加熱用抵抗膜48の層構造を模式的に示してある。また、
図3(a)では、温度監視用抵抗膜47については右下がりの斜線を付し、加熱用抵抗膜48については右上がりの斜線を付してある。
【0033】
図3(a)に示すように、本形態の磁気センサ装置10およびロータリエンコーダ1において、感磁素子4は、基板40と、基板40の一方面40aに形成された感磁膜41〜44とを備えており、感磁膜41〜44は、互いに折り返しながら延在している部分によって、基板40の中央に円形の感磁領域45を構成している。本形態において、基板40は四角形の平面形状を有するシリコン基板である。
【0034】
感磁膜41〜44からは配線部分が一体に延在しており、配線部分の端部には、A相用の電源端子VccA、A相用のグランド端子GNDA、+A相出力用の出力端子+A、−A相出力用の出力端子−A、B相用の電源端子VccB、B相用のグランド端子GNDB、+B相出力用の出力端子+B、および−B相出力用の出力端子−Bが設けられている。
【0035】
また、本形態の感磁素子4では、基板40の一方面40aに温度監視用抵抗膜47および加熱用抵抗膜48が形成されている。ここで、加熱用抵抗膜48は、基板40の辺に沿って四角枠状に延在して閉ループを構成した状態で、感磁膜41〜44が形成されている領域の全体を囲んでいる。このため、加熱用抵抗膜48と感磁膜41〜44とは、基板40の面内方向でずれた領域に形成されており、平面視で重なっていない。また、加熱用抵抗膜48の相対向する2つの辺部分の一方からは配線部分481が延在し、その端部には、加熱用抵抗膜48に対する給電用の電源端子VccHが形成されている。これに対して、2つの辺部分の他方から延在する配線部分482の端部は、A相用のグランド端子GNDAに接続している。このため、A相用のグランド端子GNDAは、加熱用抵抗膜48に対するグランド端子GNDHとしても利用されている。ここで、配線部分481と加熱用抵抗膜48との接続位置と、配線部分482と加熱用抵抗膜48との接続位置は、感磁領域45に対して点対称位置にある。このため、配線部分481と加熱用抵抗膜48との接続位置から配線部分482と加熱用抵抗膜48との接続位置に向かって右回りした際の加熱用抵抗膜48の長さと、配線部分481と加熱用抵抗膜48との接続位置から配線部分482と加熱用抵抗膜48との接続位置に向かって左回りした際の加熱用抵抗膜48の長さが等しい。
【0036】
温度監視用抵抗膜47は、加熱用抵抗膜48の内側領域のうち、加熱用抵抗膜48の4つの角の1つの角付近に設けられており、感磁領域45と加熱用抵抗膜48との間に位置する。温度監視用抵抗膜47は、複数回、折り返しながら延在した平面形状になっている。このため、占有面積が狭くても、温度監視用抵抗膜47を長く形成することができる。ここで、温度監視用抵抗膜47は、感磁膜44の配線部分と部分的に重なっているが、感磁領域45とは基板40の面内方向でずれた領域に形成されており、感磁領域45とは重なっていない。温度監視用抵抗膜47一方の端部には、温度監視用の電源端子VccSが形成されている。また、温度監視用抵抗膜47の他方の端部は、B相用のグランド端子GNDBに接続している。このため、B相用のグランド端子GNDBは、温度監視用抵抗膜47に対するグランド端子GNDSとしても利用されている。
【0037】
(感磁素子4の断面構成)
本形態の感磁素子4は、
図3(b)に示す断面構造、あるいは
図3(c)に示す断面構造をもって構成されている。具体的には、
図3(b)に示すように、まず、基板40の一方面40aには、シリコン酸化膜からなる第1絶縁膜51、シリコン酸化膜からなる第2絶縁膜52、およびポリイミド樹脂等からなる第3絶縁膜53が形成されている。本形態において、感磁膜41〜44はスパッタ法等により形成されたパーマロイ膜であり、温度監視用抵抗膜47および加熱用抵抗膜48はいずれも、スパッタ法等により形成されたチタン膜等、磁気抵抗効果を示さない導電膜である。
【0038】
ここで、感磁膜41〜44、温度監視用抵抗膜47、および加熱用抵抗膜48のうち、感磁膜41〜44が最も基板40の側(下層側)に形成されている。より具体的には、感磁膜41〜44は、基板40と第1絶縁膜51との層間に形成されている。温度監視用抵抗膜47は、第1絶縁膜51と第2絶縁膜52との層間に形成されている。加熱用抵抗膜48は、感磁膜41〜44と同様、基板40と第1絶縁膜51との層間に形成されている。このため、感磁膜41〜44は、加熱用抵抗膜48と同一の層に形成され、温度監視用抵抗膜47とは第1絶縁膜51を介して別の層に形成されている。
【0039】
図3(c)に示す形態でも、感磁膜41〜44は、基板40と第1絶縁膜51との層間に形成されている。温度監視用抵抗膜47は、第1絶縁膜51と第2絶縁膜52との層間に形成されている。加熱用抵抗膜48は、温度監視用抵抗膜47と同様、第1絶縁膜51と第2絶縁膜52との層間に形成されている。このため、感磁膜41〜44は、温度監視用抵抗膜47および加熱用抵抗膜48とは第1絶縁膜51を介して別の層に形成され、温度監視用抵抗膜47と加熱用抵抗膜48とは同一の層に形成されている。
【0040】
(感磁素子4の温度調節)
図4は、本発明の実施の形態1に係る磁気センサ装置10の制御部90に構成した温度制御部の概略構成を示す説明図である。
【0041】
図4に示すように、本形態の磁気センサ装置10の制御部90には、温度監視用抵抗膜47の抵抗変化に基づいて加熱用抵抗膜48への給電を制御する温度制御部が構成されている。より具体的には、温度監視用抵抗膜47には抵抗81が直列に接続されており、抵抗81において温度監視用抵抗膜47が接続されている側とは反対側は温度監視用の電源端子VccSに接続され、温度監視用抵抗膜47において抵抗81が接続されている側とは反対側は温度監視用のグランド端子GNDSに接続されている。
【0042】
加熱用抵抗膜48にはバイポーラトランジスタからなるスイッチング素子83が直列に接続されており、スイッチング素子83において加熱用抵抗膜48が接続されている側とは反対側は加熱用の電源端子VccHに接続され、加熱用抵抗膜48においてスイッチング素子83が接続されている側とは反対側は加熱用のグランド端子GNDHに接続されている。
【0043】
ここで、温度監視用抵抗膜47と抵抗81との接続点は、オペアンプ82の一方の端子に入力されており、オペアンプ82の他方の端子にはスイッチング素子83をオンオフするための閾値となる電圧Voが入力されている。この状態で、基板40の温度が下がると、温度監視用抵抗膜47の抵抗値が低下し、抵抗81とで分圧された接続点の電圧が下がる。そのときオペアンプ82の他方の端子に入力されている閾値Voより低くなるとオペアンプ82がオン状態となりスイッチング素子83をオンするので加熱用抵抗膜48へ給電される。
【0044】
この状態で、基板40の温度が上がると、温度監視用抵抗膜47の抵抗値が上昇し、抵抗81との接続点の電圧が上昇する。そのときオペアンプ82の他方の端子に入力されている閾値Voより高くなるとオペアンプ82がオフ状態となりスイッチング素子83をオフするので加熱用抵抗膜48への給電が停止される。それ故、感磁素子4(感磁膜41〜44)の温度は、温度監視用抵抗膜47および抵抗81の抵抗値等によって規定された所定の温度に維持される。
【0045】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態の磁気センサ装置10では、感磁膜41〜44が形成された基板40に、温度監視用抵抗膜47および加熱用抵抗膜48が形成されている。このため、設定温度との温度差や温度変化を温度監視用抵抗膜47の抵抗値によって監視し、その監視結果に基づいて加熱用抵抗膜48に給電し、感磁膜41〜44を設定温度にまで加熱することができる。従って、各感磁膜41〜44において、温度変化が発生した際、応力の影響に起因する抵抗変化や、膜質の差に起因する抵抗変化が相違している場合でも、設定温度で高い精度が得られるように、感磁膜41〜44の抵抗バランスを設定しておけば、環境温度の変化が発生しても安定した検出精度を得ることができる。すなわち、温度変化が発生しても、
図1(c)に示すリサージュ図の原点位置が移動しないので、回転体2の回転角度位置を精度よく検出することができる。
【0046】
また、感磁膜41〜44、温度監視用抵抗膜47、および加熱用抵抗膜48は、基板40の一方面40a側に形成されている。このため、成膜等を基板40の一方面40a側に対して行えばよいので、基板40の両面を利用する場合に比して、製造しやすいという利点がある。
【0047】
また、温度監視用抵抗膜47は、磁気抵抗効果を示さない導電膜である。このため、温度監視用抵抗膜47に対する磁束密度が変化しても、温度を正確に監視することができる。
【0048】
また、加熱用抵抗膜48と感磁膜41〜44とは、基板40の面内方向でずれた領域に形成されて平面視で重なっておらず、加熱用抵抗膜48と温度監視用抵抗膜47とは、基板40の面内方向でずれた領域に形成されて平面視で重なっていない。このため、加熱用抵抗膜48と感磁膜41〜44との短絡や、加熱用抵抗膜48と温度監視用抵抗膜47との短絡等を防止することができる。また、加熱用抵抗膜48と感磁膜41〜44とが平面視で重なっていないので、感磁膜41〜44が局所的に加熱されることを防止することができる。また、加熱用抵抗膜48と温度監視用抵抗膜47とが重なっていないので、温度監視用抵抗膜47が局部的に加熱されることがない。従って、加熱用抵抗膜48に対する給電を適正に行うことができる。
【0049】
また、加熱用抵抗膜48は、感磁領域45を囲む閉ループ状に形成されている。このため、感磁領域45全体を適正に加熱することができる。
【0050】
また、平面視で、温度監視用抵抗膜47は、加熱用抵抗膜48と感磁領域45との間に形成されている。このため、温度監視用抵抗膜47によって感磁領域45の温度を適正に監視することができる。
【0051】
また、
図3(c)に示す構成では、感磁膜41〜44と加熱用抵抗膜48とは、第1絶縁膜51を介して別の層に形成されている。また、感磁膜41〜44と温度監視用抵抗膜47とは、第1絶縁膜51を介して別の層に形成されている。このため、感磁膜41〜44と、温度監視用抵抗膜47および加熱用抵抗膜48とを種類が異なる膜によって形成するのに都合がよい。また、温度監視用抵抗膜47と加熱用抵抗膜48とは、同一の層に形成されている。このため、温度監視用抵抗膜47と加熱用抵抗膜48とを同一種類の膜によって構成するのに都合がよい。
【0052】
また、感磁膜41〜44、温度監視用抵抗膜47、および加熱用抵抗膜48のうち、感磁膜41〜44は、最も基板40側の層に形成されている。このため、感磁膜41〜44を段差の少ない平坦面に形成することができるので、感磁膜41〜44に不要な応力が加わることを防止することができる。
【0053】
[実施の形態2]
図5は、本発明の実施の形態2に係る磁気センサ装置10およびロータリエンコーダ1に用いた感磁素子4の説明図であり、
図5(a)、(b)、(c)は感磁素子4の平面構成を示す説明図、断面構成を示す説明図、および断面構成の変形例を示す説明図である。なお、
図5(b)、(c)では、感磁膜41〜44、温度監視用抵抗膜47、および加熱用抵抗膜48の層構造を模式的に示してある。また、
図5(a)では、温度監視用抵抗膜47については右下がりの斜線を付し、加熱用抵抗膜48については右上がりの斜線を付してある。また、本形態の基本的な構成は、実施の形態1と同様であるため、共通する部分には同一の符号を付してそれらの説明を省略する。
【0054】
図5(a)に示すように、本形態の磁気センサ装置10においても、実施の形態1と同様、感磁素子4は、基板40と、基板40の一方面40aに形成された感磁膜41〜44とを備えており、感磁膜41〜44は、互いに折り返しながら延在している部分によって、基板40の中央に円形の感磁領域45を構成している。本形態において、基板40は四角形の平面形状を有するシリコン基板である。感磁膜41〜44からは配線部分が一体に延在しており、配線部分の端部には、A相用の電源端子VccA、A相用のグランド端子GNDA、+A相出力用の出力端子+A、−A相出力用の出力端子−A、B相用の電源端子VccB、B相用のグランド端子GNDB、+B相出力用の出力端子+B、および−B相出力用の出力端子−Bが設けられている。
【0055】
また、本形態の感磁素子4では、基板40の一方面40aに温度監視用抵抗膜47および加熱用抵抗膜48が形成されている。ここで、加熱用抵抗膜48は、感磁領域45を囲むように感磁領域45と同心状の円形枠状に延在して閉ループを構成している。このため、加熱用抵抗膜48は、平面視で感磁膜41〜44の配線部分と部分的に重なっている。また、感磁領域45に対して点対称位置からは配線部分481、482が延在している。配線部分481の端部には、加熱用抵抗膜48に対する給電用の電源端子VccHが形成されている。これに対して、配線部分482の端部は、A相用のグランド端子GNDAに接続している。このため、A相用のグランド端子GNDAは、加熱用抵抗膜48に対するグランド端子GNDHとしても利用されている。ここで、配線部分481と加熱用抵抗膜48との接続位置と、配線部分482と加熱用抵抗膜48との接続位置は、感磁領域45に対して点対称位置にある。このため、配線部分481と加熱用抵抗膜48との接続位置から配線部分482と加熱用抵抗膜48との接続位置に向かって右回りした際の加熱用抵抗膜48の長さと、配線部分481と加熱用抵抗膜48との接続位置から配線部分482と加熱用抵抗膜48との接続位置に向かって左回りした際の加熱用抵抗膜48の長さが等しい。
【0056】
温度監視用抵抗膜47は、加熱用抵抗膜48が形成されている領域を囲むように矩形枠状に延在している。このため、温度監視用抵抗膜47は、感磁膜41〜44とは基板40の面内方向でずれた領域に形成されており、感磁膜41〜44が形成されている領域とは重なっていない。ここで、温度監視用抵抗膜47は、A相用のグランド端子GNDAが形成されている領域で途切れており、一方の端部には、温度監視用の電源端子VccSが形成されている。また、温度監視用抵抗膜47の他方の端部は、B相用のグランド端子GNDBに接続している。このため、B相用のグランド端子GNDBは、温度監視用抵抗膜47に対するグランド端子GNDSとしても利用されている。
【0057】
本形態の感磁素子4は、
図5(b)に示す断面構造、あるいは
図5(c)に示す断面構造をもって構成されている。具体的には、
図5(b)に示すように、まず、基板40の一方面40aには、シリコン酸化膜からなる第1絶縁膜51、シリコン酸化膜からなる第2絶縁膜52、およびポリイミド樹脂等からなる第3絶縁膜53が形成されている。本形態において、感磁膜41〜44はパーマロイ膜であり、温度監視用抵抗膜47および加熱用抵抗膜48はいずれもチタン膜等、磁気抵抗効果を示さない導電膜である。
【0058】
ここで、感磁膜41〜44、温度監視用抵抗膜47、および加熱用抵抗膜48のうち、感磁膜41〜44が最も基板40の側(下層側)に形成されている。より具体的には、感磁膜41〜44は、基板40と第1絶縁膜51との層間に形成されている。温度監視用抵抗膜47は、感磁膜41〜44と同様、基板40と第1絶縁膜51との層間に形成されている。加熱用抵抗膜48は、第1絶縁膜51と第2絶縁膜52との層間に形成されている。このため、感磁膜41〜44は、温度監視用抵抗膜47と同一の層に形成され、加熱用抵抗膜48とは、第1絶縁膜51を介して別の層に形成されている。
【0059】
図5(c)に示す形態でも、感磁膜41〜44は、基板40と第1絶縁膜51との層間に形成されている。温度監視用抵抗膜47は、第1絶縁膜51と第2絶縁膜52との層間に形成されている。加熱用抵抗膜48は、温度監視用抵抗膜47と同様、第1絶縁膜51と第2絶縁膜52との層間に形成されている。このため、感磁膜41〜44は、温度監視用抵抗膜47および加熱用抵抗膜48とは第1絶縁膜51を介して別の層に形成され、温度監視用抵抗膜47と加熱用抵抗膜48とは同一の層に形成されている。
【0060】
このように構成した磁気センサ装置10でも、実施の形態1と同様、感磁膜41〜44が形成された基板40に、温度監視用抵抗膜47および加熱用抵抗膜48が形成されているため、設定温度との温度差や温度変化を温度監視用抵抗膜47の抵抗値によって監視し、その監視結果に基づいて加熱用抵抗膜48に給電し、感磁膜41〜44を設定温度にまで加熱することができる。それ故、設定温度で高い精度が得られるように、感磁膜41〜44の抵抗バランスを設定しておけば、温度変化が発生しても安定した検出精度を得ることができる等、実施の形態1と同様な効果を奏する。
【0061】
[他の実施の形態]
上記実施の形態では、2つの電源端子VccA、VccBを別々に形成したが、これらの2つをまとめて1つの端子としてもよい。また、上記実施の形態では、2つのグランド端子GNDA、GNDBを別々に形成したが、これらの2つをまとめて1つの端子としてもよい。
【0062】
上記実施の形態では、感磁膜41〜44としてパーマロイを用いた場合を例示したが、感磁膜41〜44としてInSbやInAs等の半導体材料を用いた場合に本発明を適用してもよい。かかる半導体材料は、パーマロイに比して抵抗の温度係数が大きいので、本発明を適用した場合の効果が顕著である。また、上記実施の形態では、感磁素子4として磁気抵抗素子を例示したが、感磁素子4としてホール素子を構成した場合に本発明を適用してもよい。
【0063】
上記実施の形態では、帯状に延在する加熱用抵抗膜48を用いたが、感磁領域45全体を覆う面状の加熱用抵抗膜48を形成してもよい。また、上記実施の形態では、感磁膜41〜44、温度監視用抵抗膜47、および加熱用抵抗膜48を全て、基板40の一方面40aに形成したが、温度監視用抵抗膜47および加熱用抵抗膜48の一方を基板40の他方面に印刷等の方法で形成してもよい。