特許第6151567号(P6151567)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6151567氷点下で氷飽和以上の空気の含水量計測方法および計測装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6151567
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】氷点下で氷飽和以上の空気の含水量計測方法および計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/56 20060101AFI20170612BHJP
   F25C 3/04 20060101ALI20170612BHJP
【FI】
   G01N25/56 B
   F25C3/04
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-112379(P2013-112379)
(22)【出願日】2013年5月28日
(65)【公開番号】特開2014-231937(P2014-231937A)
(43)【公開日】2014年12月11日
【審査請求日】2016年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149790
【氏名又は名称】株式会社大気社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100177149
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 浩義
(74)【代理人】
【識別番号】100109449
【弁理士】
【氏名又は名称】毛受 隆典
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 暢規
(72)【発明者】
【氏名】日野原 昌信
【審査官】 山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−329380(JP,A)
【文献】 特開平05−026828(JP,A)
【文献】 特開2008−298330(JP,A)
【文献】 特開2011−022015(JP,A)
【文献】 遠藤辰雄、小西啓之、若浜五郎,“マイクロコンピュータを用いた雲や霧の含水量の連続測定システム”,低温科学 物理篇,日本,北海道大学低温科学研究所,1982年 3月22日,第41巻,pp.117-128,URL,http://eprints2008.lib.hokudai.ac.jp/dspace/handle/2115/18463
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00 − 25/72
F25C 3/04
G01N 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
氷点下で氷飽和以上の空気の含水量計測方法であって、
計測対象空気を含む空間から一定量の空気を吸入し、
吸入した空気を加熱部によって加熱して氷飽和以下の空気にし、
前記の氷飽和以下の空気の湿度と温度を測定し、
前記の測定した湿度と温度の測定値から、計測対象空気の含水量を求め、
前記加熱部は、
前記加熱部の、前記の吸入した空気が接する加熱体表面の温度を測定し、
前記加熱体表面温度の測定値に基づいて、前記加熱体表面温度の測定値が、前記計測対象空気に含まれる水分の全量を水蒸気にすることができる加熱体表面温度設定値Ts以上になるように前記加熱体表面温度を制御し、
前記制御は、
前記加熱体表面温度の測定値が加熱体表面温度設定値Ts未満の場合は、加熱部に供給するエネルギー量を増やし、
前記加熱体表面温度の測定値が加熱体表面温度設定値Ts以上の場合は、加熱部に供給するエネルギー量を維持し、
更に、前記の加熱後空気の湿度の測定値が設定値Hsより大きいときは、加熱体表面温度設定値Tsを上げ、
前記湿度の測定値が設定値Hs以下のときは、加熱体表面温度の測定値を加熱体表面温度設定値Tsに維持するように制御する、氷点下で氷飽和以上の空気の含水量計測方法。
【請求項2】
前記計測対象空気は、過冷却水滴および/または氷結粒が飛散しており、
前記の吸入した空気の加熱は、過冷却水滴および/または氷結粒の全量を気化させ、かつ氷飽和以下の空気にする、請求項1に記載の氷飽和以上の空気の含水量計測方法。
【請求項3】
前記の加熱後空気の温度測定値が氷点下のときは、加熱体表面温度設定値Tsを上げ、
前記の加熱後空気の温度測定値が氷点より高いときは、加熱体表面温度の測定値を加熱体表面温度設定値Tsに維持するように制御する、請求項1又は2に記載の氷飽和以上の空気の含水量計測方法。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載の氷飽和以上の空気の含水量計測方法により計測した計測対象空気から結晶雪を生成させることを含む、結晶型人工降雪方法。
【請求項5】
計測対象の空気を吸入するための吸入口と、
吸入した空気を加熱するための加熱体を備える加熱部と、
前記加熱体の、吸入した空気が接触する表面の温度を測定するための加熱体表面温度測定部と、
加熱した空気の湿度を測定するための湿度測定部と、
加熱した空気の温度を測定するための加熱後空気温度測定部と、
前記加熱体表面温度の測定値を入力し、演算処理し、測定対象空気の含水量の値を出力し、加熱部に供給するエネルギー量を調節して加熱体表面温度を制御するための演算部と、
測定した空気を排出するための排出口と、
を備え、前記制御は、
加熱体表面温度の測定値が設定値Ts未満であるときは加熱部に供給するエネルギー量を増やし、
加熱体表面温度の測定値が設定値Ts以上であるときは加熱部に供給するエネルギー量を維持
更に、前記湿度測定部による測定値が設定値Hsより大きいときは加熱体表面温度の設定値Tsを上げ、
前記湿度測定部による測定値が設定値Hs以下のときは加熱体表面温度の設定値Tsを維持する、
氷点下で氷飽和以上の空気の含水量計測装置。
【請求項6】
記制御は、
加熱後空気温度測定部による測定値が氷点下であるときは加熱体表面温度の設定値Tsを上げ、
加熱後空気温度測定部による測定値が氷点より高いときは加熱体表面温度の設定値Tsを維持する、
請求項に記載の氷飽和以上の空気の含水量計測装置。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の氷飽和以上の空気の含水量計測装置を備える結晶型人工降雪装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気の含水量の計測方法および計測装置に関し、特に、氷点下で氷飽和以上の空気の含水量の計測方法および計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶型の人工雪を製造する人工降雪装置は、含水量の多い低温空気の中で結晶雪を生成させ、成長させる。このような降雪装置に好適な空気は、より具体的には、低温でかつ氷飽和以上、またはそれを更に超えた水飽和以上の水分量を含有し、過飽和蒸気、過冷却水滴、およびそれが氷結した氷結粒が、単独または複数混合した状態の空気である。また、降雪装置で製造する結晶雪の量や結晶形状は、用いる空気の含水量に影響を受ける。例えば、非特許文献1には、結晶型人工雪を造る方法が開示されており、また、雪の結晶形状が、結晶が成長している場所の気温と空気の過飽和度との組み合わせによって変化することを示した図(ナカヤ・ダイヤグラム)が記載されている。従って、結晶雪を生成させる降雪装置には、特定含水量の空気を供給することが望まれる。
【0003】
しかし、飛散している水滴や氷結粒を含む空気の含水量は、例えば、その空気中に従来の湿度計や露点計を単独で設置しても、正確に測定することが困難である。例えば、特許文献1は、人工結晶雪製造装置が開示されており、この装置が氷飽和以上の飽和雰囲気をつくり出す加湿装置を備えていることが記載されている。しかし、この装置は、その氷飽和以上の飽和雰囲気の含水量を測定する手段を備えていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−329380号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】中谷宇吉郎著、「雪」岩波書店、1994年10月17日、p.176
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常の湿度計や露点計は、氷飽和以下の湿度を測定するセンサを備えた計測器である。言い換えれば、通常の湿度計や露点計は、湿度が100%未満で、水滴や氷結粒を含まない空気だけを測定できるものである。従って、前述のような、水滴や氷結粒が存在し、低温でかつ氷飽和以上の空気の測定は、それらの計測器の計測仕様から外れるものである。このような空気を、そのまま通常の湿度計や露点計で測定すると、センサ表面には、空気中の氷結粒や過冷却水滴が付着したり、過飽和蒸気の影響で霜が形成したりする。そのため、湿度計ではレンジオーバー(測定不能)と表示される。また、露点計が示す露点温度の値は、その空気の正確な露点温度でなく、それに基づいて求められた湿度の値も正確でない。
【0007】
特許文献1に記載の人工結晶雪製造装置が氷飽和以上の飽和雰囲気の含水量を測定する手段を備えていないのは、その値を正確に測定できないためと考えられる。特許文献1には、供給する空気を氷飽和以上の空気湿度にするために、流路全体に少しずつ加湿するように加湿パンを多段に設けると記載されている。特許文献1では、供給する空気が氷飽和以上の空気湿度であることは、パンへの水の投入量や降雪量から推定していると考えられる。このような、供給する空気の含水量をパンへ投入する水の量から推定する手法は、あくまでも予測であり、供給する空気そのものを測るものではない。しかし、所望の形状や量の結晶雪を安定的に得るためには、供給する空気の含水量を計測し、その計測値から、パンへ投入する水の量や温度を調整することが好ましい。
【0008】
また、供給する空気の含水量を降雪量から推定する手法は、供給する空気の含水量の現在値を得る方法ではなく、降雪結果から求めた過去の値を得る方法である。このような手法では、所望の形状の結晶雪を安定的に得るまでに、水の投入量の調整と雪の分析を繰り返す必要があり、長期間を要することになる。特に、外気の水分を利用するために外気と冷気を混合させて降雪用の空気を作製するような降雪装置の場合、供給する空気の含水量に基づいて冷気の混合量を調整する必要がある場合もあり、このような手法では、タイムラグが大きく、所望の降雪用空気を作製することが困難である。
【0009】
このように、例えば結晶型人工降雪の結晶雪を生成させる装置では、前述の状態にある空気を供給する必要があり、氷点下で氷飽和以上の空気の含水量を正確に連続的に計測することは、その装置で安定的に品質良く降雪させるために重要である。本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その課題は、正確な氷点下で氷飽和以上の空気の含水量計測方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は前記課題を解決するため以下の態様を含む。
(1)氷点下で氷飽和以上の空気の含水量計測方法であって、
計測対象空気を含む空間から一定量の空気を吸入し、
吸入した空気を加熱部によって加熱して氷飽和以下の空気にし、
前記の氷飽和以下の空気の湿度と温度を測定し、
前記の測定した湿度と温度の測定値から、計測対象空気の含水量を求め、
前記加熱部は、
前記加熱部の、前記の吸入した空気が接する加熱体表面の温度を測定し、
前記加熱体表面温度の測定値に基づいて、前記加熱体表面温度の測定値が、前記計測対象空気に含まれる水分の全量を水蒸気にすることができる加熱体表面温度設定値Ts以上になるように前記加熱体表面温度を制御し、
前記制御は、
前記加熱体表面温度の測定値が加熱体表面温度設定値Ts未満の場合は、加熱部に供給するエネルギー量を増やし、
前記加熱体表面温度の測定値が加熱体表面温度設定値Ts以上の場合は、加熱部に供給するエネルギー量を維持し、
更に、前記の加熱後空気の湿度の測定値が設定値Hsより大きいときは、加熱体表面温度設定値Tsを上げ、
前記湿度の測定値が設定値Hs以下のときは、加熱体表面温度の測定値を加熱体表面温度設定値Tsに維持するように制御する、氷点下で氷飽和以上の空気の含水量計測方法。
(2)前記計測対象空気は、過冷却水滴および/または氷結粒が飛散しており、
前記の吸入した空気の加熱は、過冷却水滴および/または氷結粒の全量を気化させ、かつ氷飽和以下の空気にする、前記(1)に記載の氷飽和以上の空気の含水量計測方法。
(3)前記の加熱後空気の温度測定値が氷点下のときは、加熱体表面温度設定値Tsを上げ、
前記の加熱後空気の温度測定値が氷点より高いときは、加熱体表面温度の測定値を加熱体表面温度設定値Tsに維持するように制御する、前記(1)又は(2)に記載の氷飽和以上の空気の含水量計測方法。
(4)前記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の氷飽和以上の空気の含水量計測方法により計測した計測対象空気から結晶雪を生成させることを含む、結晶型人工降雪方法。
(5)計測対象の空気を吸入するための吸入口と、
吸入した空気を加熱するための加熱体を備える加熱部と、
前記加熱体の、吸入した空気が接触する表面の温度を測定するための加熱体表面温度測定部と、
加熱した空気の湿度を測定するための湿度測定部と、
加熱した空気の温度を測定するための加熱後空気温度測定部と、
前記加熱体表面温度の測定値を入力し、演算処理し、測定対象空気の含水量の値を出力し、加熱部に供給するエネルギー量を調節して加熱体表面温度を制御するための演算部と、
測定した空気を排出するための排出口と、
を備え、前記制御は、
加熱体表面温度の測定値が設定値Ts未満であるときは加熱部に供給するエネルギー量を増やし、
加熱体表面温度の測定値が設定値Ts以上であるときは加熱部に供給するエネルギー量を維持
更に、前記湿度測定部による測定値が設定値Hsより大きいときは加熱体表面温度の設定値Tsを上げ、
前記湿度測定部による測定値が設定値Hs以下のときは加熱体表面温度の設定値Tsを維持する、
氷点下で氷飽和以上の空気の含水量計測装置。
(6)前記制御は、
加熱後空気温度測定部による測定値が氷点下であるときは加熱体表面温度の設定値Tsを上げ、
加熱後空気温度測定部による測定値が氷点より高いときは加熱体表面温度の設定値Tsを維持する、
前記(5)に記載の氷飽和以上の空気の含水量計測装置。
(7)前記(5)又は(6)に記載の氷飽和以上の空気の含水量計測装置を備える結晶型人工降雪装置。
【発明の効果】
【0011】
前記構成の含水量計測方法および装置によれば、正確に、場合により水滴や氷結粒を含むような氷点下で氷飽和以上の空気の含水量を計測する方法およびその装置を提供することが可能となる。また、湿度計・露点計で測定する空気を、必ず氷飽和以下の測定器仕様に合致した空気状態にできるので、通常の湿度計・露点計を用いて測定した値に基づいて、氷点下で氷飽和以上の空気の含水量を正確に計測できる。また、連続的に計測対象の空気の一部を吸入して現在値の含水量を計測できるので、降雪装置の制御等に組み込んで使用すると降雪品質の確保のための制御機構に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る含水量計測装置の一態様を示すブロック図である。
図2】本発明に係る加熱部の制御処理の一態様を示すフローチャートである。
図3】本発明に係る加熱部の制御処理の別の態様を示すフローチャートである。
図4】本発明に係る加熱部の制御処理の別の態様を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の氷点下で氷飽和以上の空気の含水量計測方法は、氷点下で氷飽和以上の空気(以下、「計測対象空気」と記載することがある。)を含む空間から一定量の空気を吸入し、吸入した空気を加熱部によって加熱して氷飽和以下の空気にし、その氷飽和以下の空気の湿度を測定し、測定した湿度の測定値から、計測対象空気の含水量を求める。
【0014】
本発明の含水量計測方法の計測対象である空気は、氷点下で氷飽和以上の空気である。氷点下で氷飽和以上の空気とは、温度が氷点下であり、かつ氷飽和以上の過飽和蒸気を含むもの、若しくは、温度が氷点下であり、かつ氷飽和蒸気または氷飽和以上の過飽和蒸気、および飛散した過冷却水滴および/または氷結粒を含むものである。ここで、氷点下とは、常圧で0℃以下をいう。
【0015】
この計測対象空気は、例えば、水飽和以下の空気と、その空気より低温の空気とを混合して冷却することによって、または、引用文献1に記載されているように、40℃以下の温度の水を入れたパンに氷点下の空気を送風することによって、得られるものである。具体的に前者の方法では、例えば、温度20℃、相対湿度65%(絶対湿度0.01kg/kg(DA))の空気を、−20℃の空気と混合することによって冷却していくと、8℃程度で水飽和状態の空気となる。ここで、kg(DA)は、乾き空気の質量を示す。更に冷却すると、水飽和蒸気または水過飽和蒸気を含み、場合により水滴が飛散している水飽和以上の空気という過渡的な状態の空気になる。更に冷却して氷点下になると、水滴は過冷却状態または氷結粒となり、氷飽和蒸気または氷過飽和蒸気を含む、過渡的な状態である氷点下で氷飽和以上の空気が得られる。より具体的には、氷点下で氷飽和以上の空気は、例えば、温度が−16℃で、水分が質量1kgの乾き空気中に0.0015kg含まれる空気である。
【0016】
本発明の氷点下で氷飽和以上の空気の含水量計測方法を、図を参照しながら更に説明する。図1は、本発明の含水量計測方法に用いられる装置の一態様を示すブロック図である。図1に示す含水量計測装置は、測定対象の空気を吸入するための吸入口5と、吸入した空気を加熱するための加熱体を備える加熱部3と、前記加熱体の、吸入した空気が接触する表面の温度を測定するための加熱体表面温度測定部8と、加熱した空気の湿度を測定するための湿度測定部6と、前記加熱体表面温度の測定値を入力し、演算処理し、測定対象空気の含水量の値を出力し、加熱部に供給するエネルギー量を調節して加熱体表面温度を制御するための演算部9と、測定した空気を排出するための排出口10とを備える。
【0017】
本発明の氷点下で氷飽和以上の空気の含水量計測方法では、まず、計測対象である氷点下で氷飽和以上の空気を含む空間2から吸入口5を通して一定量の空気を含水量計測装置1内に吸入する。吸入手段は特に限定されないが、通常、ファン4などを用いて、含水量計測装置1内の気圧を、計測対象空気を含む空間より負圧にして、吸入口5からその一部を吸入する。単位時間当たりの吸入量は、ファン4の出力並びにダンパ10およびダンパ11の開度を変えて調整できる。ファン4は、測定対象空気が加熱部3で加熱される前に、衝撃などによって、過飽和状態が解除されたり、過冷却水滴が過冷却解除されたり、水滴が壁面に付着したりしないように、加熱部3より下流側に設けることが好ましい。
【0018】
次に、吸入した測定対象空気を、加熱部3によって加熱して湿度が氷飽和以下の空気にする。測定対象空気に、水滴および/または氷結粒が飛散している場合には、加熱部3によって、その水滴および/または氷結粒の全量を気化させる。加熱部3は、氷点下で氷飽和以上の空気を湿度が氷飽和以下の空気にすることができるものであれば特に限定されず、例えば、電気ヒーター、熱交換器(蒸気コイルなど)が挙げられる。特に、加熱部は、加熱部が備える加熱体の表面であって、測定対象空気が接する部分の温度を温度測定部8で測定して、その表面温度測定値に基づいて、加熱部に供給するエネルギー量を調整して、加熱体表面温度を制御できることが好ましい。
【0019】
加熱体表面温度を測定する温度測定部8としては、特に限定されないが、例えば、測温抵抗体、熱電対、サーミスタなどの接触式温度センサや、赤外線センサなどの非接触式温度センサを用いることができる。温度測定部8は、加熱体表面温度を測定して温度信号を出力できるセンサであることが好ましい。接触式温度センサは、加熱体表面に半田付けなどにより固定して測定できる。
【0020】
次に、加熱部3の下流に設けた湿度測定部6を用いて、加熱部3によって加熱されて氷飽和以下となった空気の湿度を測定する。湿度測定部6は、特に限定されないが、乾湿計、伸縮式湿度計、電気式湿度計、露点計、高分子湿度センサなどを用いることができる。中でも、湿度を測定して湿度信号を出力できる湿度センサが好ましい。
【0021】
この様にして得られた湿度の測定値から、計測対象空気の含水量を求める。具体的には、湿度の測定値が絶対湿度x(kg/kg(DA))として得られる場合、計測対象空気の含水量は、乾き空気1(kg)に対してx(kg)である。また、湿度の測定値が相対湿度φ(%RH)で得られる場合、例えば、「空気調和・衛生工学便覧第13版」空気調和・衛生工学会、丸善出版、2001年11月、第1巻、p.76−80に記載された関係式により、その相対湿度φとその湿度を測定した空気の温度T(K)から絶対湿度x(kg/kg(DA))を演算して求めることができ、計測対象空気の含水量は、乾き空気1(kg)に対してx(kg)である。
具体的には、温度T(K)とウェクスラー・ハイランド(Wexler−Hyland)の式(1)により、その温度における水の飽和蒸気圧P(kPa)を得、
液体の水と接する場合(0.01℃以上):ln(10)=−0.58002206×10/T+0.13914993×10−0.48640239×10−1T+0.41764768×10−4−0.14452093×10−7+0.65459673×10×lnT、氷と接する場合(0.01℃以下):ln(10)=−0.56745359×10/T+0.63925247×10−0.96778430×10−2T+0.62215701×10−6+0.20747825×10−8−0.94840240×10−12+0.41635019×10×lnT ・・・式(1)
前記Pと式(2)により、その温度Tにおける飽和空気の水蒸気分圧pws(kPa)を得、
ws=P ・・・式(2)
前記pwsおよび相対湿度φと式(3)により、水蒸気分圧p(kPa)を得、
φ=100p/pws ・・・式(3)
海抜Z(m)および標準大気圧P(=101.325(kPa))と式(4)により、大気圧P(kPa)を得、
P=P(1−2.2558×10−5Z)5.2559 ・・・式(4)
前記p、前記P、乾き空気の平均分子量M(=28.9645(g/mol))、および水蒸気の分子量M(=18.0153(g/mol))と式(5)により、絶対湿度x(kg/kg(DA))を得ることができ、計測対象空気の含水量は、乾き空気1(kg)に対してx(kg)である。
x=M/M×p/(P−p) ・・・式(5)
【0022】
加熱後の空気の温度は、特に限定されないが、氷点以上であると好ましい。氷点以上であると、計測装置の躯体による冷却などによって加熱後の空気の温度が下がる場合であっても、水蒸気が水滴や氷結粒になることを防ぐことができる。加熱後の空気の温度は、加熱部の下流側に設けた温度測定部7で測定できる。温度測定部7としては、特に限定されないが、例えば、測温抵抗体、熱電対、サーミスタなどの接触式温度センサや、赤外線センサなどの非接触式温度センサを用いることができる。温度測定部7は、加熱体表面温度を測定して温度信号を出力できるセンサであることが好ましい。
【0023】
本発明の計測方法では、図2に示すように、加熱部の加熱体表面の温度を温度測定部8で測定し、温度測定部8が出力する温度信号を演算部9に入力し、その加熱体表面温度測定値に基づいて、加熱体表面温度の測定値が、計測対象空気に含まれる水分の全量を水蒸気にすることができる加熱体表面温度設定値Ts以上になるように制御することが好ましい。ここで、加熱体表面温度設定値Tsは、吸入する計測対象空気の量、含水量、温度により異なるが、例えば、50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃またはそれ以上の温度である。この制御は、例えば、加熱体表面温度の測定値が加熱体表面温度設定値Ts未満の場合は、加熱部3に供給するエネルギー量を増やし、加熱体表面温度の測定値が設定値Ts以上の場合は、加熱部に供給するエネルギー量を維持または減らすことによりおこなう。加熱体へ供給するエネルギー量は、例えば、加熱体が電気ヒーターなどの場合には電流を、加熱体が熱交換器などの場合は水蒸気の温度や流量を調節して、増減させることができる。
【0024】
加熱体表面温度の初期測定値は、例えば、常温である。また、加熱体表面温度は、計測対象空気を吸入する前に、設定値Tsまで昇温しておくこともでき、計測対象空気を吸入しながら設定値Tsまで昇温することもできる。
【0025】
計測対象空気を吸入すると、加熱体表面に計測対象空気が接触する。加熱体へ供給するエネルギー量が一定の場合、顕熱や潜熱により加熱体表面温度は低下して設定値Ts未満となる。加熱体表面温度を測定し、加熱体表面温度測定値が設定値Ts未満の場合、演算部9により加熱体へ供給するエネルギー量を増やす。この処理を繰り返し、加熱体表面温度測定値が設定値Ts以上になったら、加熱体へ供給するエネルギー量をその値に維持または減らし、その後継続して加熱体表面温度測定値を監視して、一定値を維持するように、加熱部の加熱体へ供給するエネルギー量を制御する。このように、加熱体表面温度の測定値に基づいて、加熱体へ供給するエネルギー量を徐々に増やして加熱体表面温度を設定値Tsにすると、計測対象空気に含まれる水分の全量を水蒸気にするために必要な、加熱体へ供給するエネルギー量を最低限にすることができる。従って、このような制御によれば、例えば、加熱体へ供給するエネルギー量を、計測対象空気を吸入しない状態で加熱体表面の温度が250℃程度になるような値に固定する場合に比べて、少なくて済むので省エネである。また、水分量や風量に対して加熱量が足りなくなる場合や、経路外からの熱のリーク等によって、水滴や氷結粒の気化が不十分となることが防げるので、含水量を正確に計測できる。
【0026】
更に、本発明の計測方法では、図3に示すように、湿度測定部6で測定した加熱後空気の湿度の測定値が設定値Hsより大きいときは、加熱体表面温度設定値Tsを上げ、湿度の測定値が設定値Hs以下のときは、加熱体表面温度の測定値を加熱体表面温度設定値Tsに維持するように演算部9で制御することが好ましい。設定値Hsは、例えば、飽和湿度である相対湿度100%や、それに準ずる高湿度(例えば、相対湿度90%)である。加熱後空気の湿度の測定値が高湿度を示す場合、加熱部による加熱が不十分で、水滴などが全量蒸発していないおそれや、湿度の測定精度が低下するおそれがあるが、前述の制御を行うことにより、氷点下で氷飽和以上の空気中に含まれる水滴や氷結粒の全量が蒸発することを保証し、湿度の測定精度を向上させることができる。また、前述の制御により、湿度測定値に基づいて加熱体表面温度設定値Tsを徐々に上げると、最低限のエネルギー量で含水量を正確に計測できる状態にすることができるので、省エネである。
【0027】
更に、本発明の計測方法では、図4に示すように、加熱部下流に設けた温度測定部7で、加熱後空気の温度を測定し、加熱後空気の温度測定値が氷点下のときは、加熱体表面温度設定値Tsを上げ、加熱後空気の温度測定値が氷点より高いときは、加熱体表面温度の測定値が設定値Tsを維持するように制御することが好ましい。このような制御を行うことにより、水分量や風量に対して加熱量が足りない場合や、経路外からの熱のリーク等により、加熱部下流で蒸気が再凝縮して水滴になることや、その水滴の凍結を防ぎ、水分量を正確に計測できる。また、このように、加熱後空気の温度測定値が氷点より高くなるまで徐々に加熱体表面温度設定値Tsを上げる制御を行うことにより、最低限のエネルギー量で含水量を正確に計測でき、省エネである。
【0028】
本発明の含水量計測方法に用いて加熱された空気は、本発明に係る含水量計測装置1に備えられたダンパ10を介して、外部に排出する。また、図1に示すように、含水量計測装置1に備えられたダンパ11を介して、計測対象空気を含む空間2に戻して循環させることができる。本発明の含水量計測方法は、計測対象空気の一部を、正確に含水量を計測できる最低限のエネルギー量で加熱しているので、その加熱した空気を、計測対象空気に戻す際に特に優れている。循環させる場合には、必要によりファン12で、氷飽和以上の空気を作製する装置13を通して、冷却や加湿をして氷飽和以上の空気にしてから、計測対象空気を含む空間2に戻すことができる。氷飽和以上の空気を作製する装置13は、湿度測定部6で測定した湿度測定値を制御値として使用することができる。計測対象空気を含む空間2は、例えば、結晶型人工降雪装置が備える降雪用空気を含む空間とすることができる。
【0029】
本発明の含水量計測方法で測定した、氷点下で氷飽和以上の空気を用い、その空気から結晶雪を生成させて降雪させることができる。この結晶型人工降雪方法によれば、温度と含水量が特定の値であることを正確にかつ連続的に計測して確認した、氷点下で氷飽和以上の空気を用いることができるので、結晶形状が均一で品質の優れた人工降雪を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の含水量計測方法および装置は、降雪装置における降雪用空気の含水量の計測に適しているが、その測定対象によって限定されず、氷飽和以上の過飽和蒸気、過冷却水滴、またはそれが氷結した状態が単独または複数混合した状態の空気を測定する全ての場合、例えば、気球などに搭載して雲の中の空気の測定に用いたり、自然降雪中の雪を含む空気の測定に用いることもできる。
【符号の説明】
【0031】
1 含水量計測装置
2 氷飽和以上の空気(測定対象空気)を含む空間
3 加熱部
4、12 ファン
5 吸入口
6 湿度測定部
7、8 温度測定部
9 演算部
10、11 ダンパ(排出口)
13 氷飽和以上の空気を作製する装置
図1
図2
図3
図4