(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6151570
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】手術冶具及び確認冶具並びにこれらの冶具を製造する方法
(51)【国際特許分類】
A61B 17/56 20060101AFI20170612BHJP
【FI】
A61B17/56
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-112773(P2013-112773)
(22)【出願日】2013年5月29日
(65)【公開番号】特開2014-230635(P2014-230635A)
(43)【公開日】2014年12月11日
【審査請求日】2016年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】502435513
【氏名又は名称】株式会社大野興業
(73)【特許権者】
【識別番号】511137035
【氏名又は名称】松本 希
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100186897
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 さやか
(72)【発明者】
【氏名】大野 秀則
(72)【発明者】
【氏名】松本 希
(72)【発明者】
【氏名】杉山 久幸
(72)【発明者】
【氏名】松本 徹
【審査官】
槻木澤 昌司
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/149106(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0041381(US,A1)
【文献】
特開2009−061132(JP,A)
【文献】
特開昭61−209654(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0058819(US,A1)
【文献】
特開2010−075394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の側頭骨の表面に埋込型骨導補聴器のトランスデューサを収容するための主凹所と該トランスデューサを固定するための締結ネジを螺着するための少なくとも2個の副凹所とを形成する手術のための手術冶具にして、患者の側頭骨の表面形状に合致した内面を有すると共に、該主凹所を形成すべき部位に対応して形成された主貫通開口と該副凹所を形成すべき部位に対応して形成された少なくとも2個の副貫通開口とを有する、ことを特徴とする手術冶具。
【請求項2】
外面も患者の側頭骨の表面形状に合致している、請求項1記載の手術冶具。
【請求項3】
外面には該主貫通開口の周縁から突出する筒状突条が付設されている、請求項1又は2記載の手術治具。
【請求項4】
患者の手術対象骨の表面に形成された凹所が所要とおりであるか否かを確認するための確認冶具にして、形成すべき凹所に対応して内面から突出する凸部を有する、ことを特徴とする確認冶具。
【請求項5】
該内面は患者の手術対象骨の表面形状に合致している、請求項4記載の確認冶具。
【請求項6】
該手術対象骨は側頭骨であり、該内面は患者の側頭骨の表面形状に合致しており、該凹所は埋込型骨導補聴器のトランスデューサを収容するための主凹所と該トランスデューサを固定するための締結ネジを螺着するための少なくとも2個の副凹所とを含み、該凸部は該主凹所に対応する主凸部を含む、請求項4記載の確認冶具。
【請求項7】
外面は該手術対象骨の表面形状に合致している、請求項4から6までのいずれかに記載の確認冶具。
【請求項8】
該確認冶具の該内面が該手術冶具の該外面に重ね合わされ且つ該確認冶具の該主凸部が該手術冶具の該主貫通開口内に挿入される、請求項2記載の手術冶具と請求項6記載の確認冶具との組み合わせ。
【請求項9】
請求項1から3までのいずれかに記載の手術冶具を製造する方法にして、患者の側頭骨の断層撮影情報から生成される3次元画像データに基づき患者の側頭骨の表面形状に関する3次元画像データを得ると共に、該主凹所と該副凹所とを形成すべき部位に関する3次元画像データを得て、これらの画像データに基いて造形する、ことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項4から7までのいずれかに記載の確認冶具を製造する方法にして、患者の手術対象骨の断層撮影情報から生成される3次元画像データに基づき患者の手術対象骨の表面形状に関する3次元画像データを得ると共に、該凹所を形成すべき部位に関する3次元画像データ及び該凹所自体の形状に関する3次元画像データを得て、これらの画像データに基いて造形する、ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の手術対象骨の表面に凹所を形成する手術、それに限定されるものではないが特に患者の側頭骨の表面に埋込型骨導補聴器のトランスデューサを埋込むための凹所を形成する手術、のための手術冶具、及び形成された凹所が所要とおりであるか否かを確認するための確認冶具、並びにこれらの冶具を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
難聴者のための補聴器として、難聴者即ち患者の側頭骨に埋込むトランスデューサを含む所謂埋込型骨導補聴器が提案され実用に供されている。埋込型骨導補聴器は、外耳及び/又は中耳の異常に起因する難聴患者、外耳及び/又は中耳が先天的に形成されていない難聴患者、及び内耳の異常が比較的軽微な難聴患者に特に有効である。かような埋込型骨導補聴器を利用するためには、患者の側頭骨の表面所要部位に所要凹所、通常はトランスデューサを収容するための主凹所及びトランスデューサを固定するための締結ネジを螺着するための少なくとも2個の副凹所、を形成し、トランスデューサを所要部位に収容し固定することが必要である。トランスデューサは所要重量を高速で振動させて骨に伝導する要素であり、所要質量及び体積を有することが必要であり、従ってトランスデューサを埋込むための凹所は比較的大きいことが必要である。トランスデューサは、通常、脳の側頭葉と大きな静脈であるS状静脈洞の間に埋込まれる。かかる部位には比較的大きな側頭骨が存在し、先天的奇形がなく且つ過去の手術歴がない正常側頭骨の場合には、上記凹所を形成する手術は熟達の医師にとっては必ずしも困難な手術ではないが、上記難聴患者の場合には先天性側頭骨奇形、先天性中耳奇形、活動性中耳炎症、或いは側頭骨手術歴があることが少なくなく、かような難聴患者の場合には、側頭骨の所要部位に所要凹所を正確且つ精密に形成することは、熟達の医師にとっても著しく困難な手術である。露呈した側頭骨の如何なる部位に凹所を形成すべきか、そしてまた形成された凹所は所要とおりの形態か否か、を適切に認知することは不可能ではないにしても極めて困難である。
【0003】
周知の如く、手術中の患者の手術対象部位と手術用メス、ドリル、及びロボットハンド等の手術具との位置関係を表示する医療用ナビゲーションシステムが開発されている。そして、下記特許文献1及び2には、かかる医療用ナビゲーションシステムにおいて、患者の所要部位の形態、例えば骨表面の形態、を正確に認識するために使用されるレジストレーション用テンプレート及びその製造方法が開示されている。しかしながら、手術に直接的に使用して患者の手術対象骨の表面における凹所を形成すべき位置を正確に認識することを可能にする手術冶具、そしてまた形成した凹所が所要とおりの形態か否かを適切に確認するための確認冶具は、これまで全く提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4423362号公報
【特許文献2】WO2012/169642A1公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その第一の技術的課題は、手術に直接的に使用して患者の
側頭骨の表面における
埋込型骨導補聴器のトランスデューサを収容するための主凹所とトランスデューサを固定するための締結ネジを螺着するための少なくとも2個の副凹所とを形成すべき位置を正確に認識することを可能にする手術冶具を提供することである。
【0006】
本発明の第二の技術的課題は、手術に直接的に使用して患者の手術対象骨の表面に形成した凹所が所要とおりの形態であるか否かを精密に確認することを可能する確認冶具を提供することである。
【0007】
本発明の第三の技術的課題は、上述したとおりの手術冶具と確認冶具の組み合わせ、従って手術に直接的に使用して患者の
側頭骨の表面における
埋込型骨導補聴器のトランスデューサを収容するための主凹所とトランスデューサを固定するための締結ネジを螺着するための少なくとも2個の副凹所とを形成すべき位置を正確に手術対象骨の表面における凹所を形成すべき位置を正確に認識することを可能にすると共に患者の
側頭骨の表面に形成した凹所が所要とおりの形態であるか否かを適切に確認することを可能にする組み合わせを提供することである。
【0008】
本発明の第四の技術的課題は、上述したとおりの手術冶具を製造する方法を提供することである。
【0009】
本発明の第五の技術的課題は、上述したとおりの確認冶具を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一の局面によれば、上記第一の技術的課題を達成する手術冶具として、患者の
側頭骨の表面に
埋込型骨導補聴器のトランスデューサを収容するための主凹所と該トランスデューサを固定するための締結ネジを螺着するための少なくとも2個の副凹所とを形成する手術のための手術冶具にして、
患者の側頭骨の表面形状に合致した内面を有すると共に、
該主凹所を形成すべき部位に対応して形成された主貫通開口と該副凹所を形成すべき部位に対応して形成された少なくとも2個の副貫通開口とを有する、ことを特徴とする手術冶具が提供される。
【0011】
外面も
患者の側頭骨の表面形状に合致しているのが好ましい。外面には該貫通開口の周縁から突出する筒状突条が付設されているのが好適である。
【0012】
本発明の第二の局面によれば、上記第二の技術的課題を達成する確認冶具として、患者の手術対象骨の表面に形成された凹所が所要とおりであるか否を確認するための確認冶具にして、形成すべき凹所に対応して内面から突出する凸部を有する、ことを特徴とする確認冶具が提供される。
【0013】
確認冶具の内面は患者の手術対象骨の表面形状に合致しているのが好適である。好適形態においては、該手術対象骨は側頭骨であり、該凹所は埋込型骨導補聴器のトランスデューサを収容するための主凹所と該トランスデューサを固定するための締結ネジを螺着するための少なくとも2個の副凹所とを含み、該凸部は該主凹所に対応する主凸部を含む。外面も該手術対象骨の表面形状に合致しているのが好ましい。
【0014】
本発明の第三の局面によれば、上記第三の技術的課題を達成する組み合わせとして、該確認冶具の
患者の側頭骨の表面形状に合致した該内面が該手術冶具の
患者の側頭骨の表面形状に合致した該外面に重ね合わされ且つ該確認冶具の該主凸部が該手術冶具の該主貫通開口内に挿入される、上記のとおりの手術冶具と上記のとおりの確認冶具との組み合わせが提供される。
【0015】
本発明の第四の局面によれば、上記第四の技術的課題を達成する方法として、上記のとおりの手術冶具を製造する方法にして、
患者の側頭骨の断層撮影情報から生成される3次元画像データに基づき
患者の側頭骨の表面形状に関する3次元画像データを得ると共に、該凹所を形成すべき部位に関する3次元画像データを得て、これらの画像データに基いて造形する、ことを特徴とする方法が提供される。
【0016】
本発明の第五の局面によれば、上記第五の技術的課題を達成する方法として、上記のとおりの確認冶具を製造する方法にして、該手術対象骨の断層撮影情報から生成される3次元画像データに基づき該手術対象骨の表面形状に関する3次元画像データを得ると共に、該凹所を形成すべき部位に関する3次元画像データ及び該凹所自体の形状に関する3次元画像データを得て、これらの画像データに基いて造形する、ことを特徴とする方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
患者の
側頭骨の表面に凹所を形成する際には、露呈せしめた
側頭骨の表面に本発明の手術冶具を当接せしめる。かくすると、手術冶具に形成されている
主貫通開口
及び副貫通開口が
主凹所
及び副凹所を形成すべき部位を正確に示すことになり、手術冶具の
主貫通開口
及び副貫通開口を通して骨の表面に手術具を作用せしめることによって充分容易に且つ充分正確に
主凹所
及び副凹所を形成することができる。形成した
主凹所が所要とおりのものであるか否かは、確認冶具の凸部を形成した
主凹所に没入せしめることによって確認することができ、凸部が適切に没入せしめられる状態まで骨に作業を加えることによって所要とおりの
主凹所を充分精密に形成することができる。本発明の手術冶具を製造する方法においては、
患者の側頭骨の断層撮影情報から生成される三次元画像データに基づいて得られる
患者の側頭骨の表面形状に関する3次元画像データと共に
主凹所
及び副凹所を形成すべき部位に関する3次元画像データに基いて造形され、かくして個々の患者の
側頭骨の表面に充分精密に対応した手術冶具が製造される。また、本発明の確認冶具を製造する方法においては、手術対象骨の断層撮影情報から生成される三次元画像データに基づいて得られる手術対象骨の表面形状に関する3次元画像データと共に凹所を形成すべき部位に関する3次元画像データ及び凹所自体の3次元画像データに基いて造形され、かくして個々の患者の手術対象骨の表面に充分精密に対応した確認冶具が製造される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】埋込型骨導補聴器が患者に装備された状態を示す簡略図
【
図3】本発明に従って構成された手術冶具の好適実施形態を示す斜面図。
【
図4】本発明に従って構成された確認冶具の好適実施形態を示す斜面図。
【
図5】
図3に示す手術冶具の使用様式を示す正面図。
【
図6】患者の側頭骨の表面に形成された凹所を示す正面図。
【
図7】
図1に示す埋込型骨導補聴器の埋込本体を患者に装備した状態を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に従って構成された手術冶具及び確認冶具ついて詳細に説明するのに先立って、埋込型骨導補聴器について言及する。
図1には埋込型骨導補聴器の典型例が図示されている。図示の補聴器は、患者の側頭に埋込まれる埋込本体2と患者の側頭外面に装着される外側補助具4とから構成されている。埋込本体2はトランスデューサ6、柔軟な接続部8を介してトランスデューサ6に接続された電子パッケージ10、及び電子パッケージ10に接続された受信具12を有する。受信具12はコイル及び磁石を含んでいる。
図1と共に
図2を参照することによって理解される如く、トランスデューサ6は後に更に詳細に説明するとおりにして側頭骨14に部分的に埋込まれて側頭骨14に固定され、接続部8、電子パッケージ10及び受信具12は側頭骨14と皮膚16との間に収容される。側頭骨14に部分的に埋込まれ固定されるトランスデューサ6は円盤形状主部18とこの主部18の上端部周縁から半径方向外方に延出する一対の締結突出片20を有し、締結突出片20の各々には貫通孔22が形成されている。一方、外側補助具4は、埋込本体2の受信具12に装備されている磁石によって磁気的に吸引されることによって患者の側頭外面上に保持される。
【0020】
上述したとおりの埋込型骨導補聴器においては、外側補助具4が音を感知して電気信号に変換し、埋込本体2の受信具12に送信する。受信具12は受信した電気信号を電子パッケージ10に供給し、電子パッケージ10は受信した電気信号に応じて振動信号をトランスデューサ6に送信してトランンスデューサ6を振動せしめる。そして、トランスデューサ6の振動が側頭骨14を通して内耳(図示していない)に伝えられる。埋込本体2への電力供給も外側補助具4から受信具12を介して行われる。本発明はかような埋込型骨導補聴器自体に関するものではなく、そしてまたかような埋込型骨導補聴器自体はオーストリアのMED EL Medical Electronics社から商品名「BONEBRDIGE」として販売されている周知の形態のものであり、それ故に埋込型骨導補聴器自体の詳細な説明は本明細書においては省略する。
【0021】
図3には、上述した埋込型骨導補聴器における埋込本体2のトランスデューサ6を患者の側頭骨14に部分的に埋込んで固定するために、側頭骨14の表面に凹所を形成する際に使用することができる、本発明に従って構成された手術冶具の好適実施形態が図示されている。全体を番号24で示す図示の手術冶具は、患者の手術対象骨の表面形状、図示の実施形態においては患者の側頭骨14の表面形状、に合致した形状の内面26を有することが重要である。後述するとおりの手術手順における違和感を回避するという見地から、手術冶具24の外面28も患者の手術対象骨の表面形状、図示の実施形態においては患者の側頭骨14の表面、に合致した形状であり、従って手術冶具24の内面26と外面28とは実質上平行に延在するのが好ましい(更に、後述する確認冶具を手術冶具24に重ね合わせて使用する場合には、手術冶具24の外面28も患者の手術対象骨の表面形状、図示の実施形態においては患者の側頭骨14の表面、に合致した形状にせしめると共に、後述する確認冶具の内面も患者の手術対象骨の表面形状、図示の実施形態においては患者の側頭骨14の表面、に合致した形状にせしめるのが好都合である)。手術冶具24には、更に、患者の手術対象骨の表面に形成すべき凹所の部位に対応して貫通開口が形成されていることが重要である。図示の実施形態においては、上記埋込本体2におけるトランスデューサ6の円盤形状主部18を収容するための主凹所(主凹所については後に更に言及する)を形成すべき部位に対応して形成された主貫通開口30と2個の締結突出片20の各々の貫通孔22を通して螺合される締結ネジを螺着するための副凹所(締結ネジ及び副凹所については後に更に言及する)を形成すべき部位に対応して形成された2個の副貫通開口32が形成されている。主貫通開口30の内径はトランスデューサ6の円盤形状主部18の外径より若干大きく、副貫通開口32の内径は貫通孔22の内径より若干大きいのが好都合である。後述するとおりの手術手順における便宜上、手術冶具24は透明乃至半透明であるのが好都合である。
【0022】
次に、上述したとおりの手術冶具24の好適製造方法について説明する。最初に、患者の手術対象骨の表面形状、図示の実施形態においては側頭骨14の表面形状、に関する三次元画像データを得る。かかる三次元画像データは、患者の手術対象骨を含む部位のCT、MRI等のスライス画像から断層撮像情報を入手し、かかる断層撮像情報に基いて生成することができる。次いで、医学的見地から患者の手術対象骨の表面におけるどの部位に上記トランスデューサ6の円盤形状主部18を部分的に埋込むのが適切であるかを検討し、かかる部位に関する3次元画像データを得る。そして、これらの3次元画像データに基いて、適宜の立体造形法により手術冶具24を造形する。適宜の立体造形法としては、光造形法、インクジェット造形法、粉末造形法、粉末焼結造形法、紙積層造形法、粉末焼結積層造形法を挙げることができる。手術冶具24を造形する材料としては、生体適合性がある任意の材料を使用することができ、例えば適宜の合成樹脂、合成ゴム、適宜の無機材料、無機材料粉末と合成樹脂とを含む複合材料を使用することができる。
【0023】
図4には、患者の側頭骨14の表面に形成した凹所が所要とおりであるか否かを確認するための、本発明に従って構成された確認冶具の好適実施形態が図示されている。全体を番号34で示す確認冶具は、上記手術冶具24と同様に、患者の手術対象骨の表面形状、図示の実施形態においては患者の側頭骨14の表面、に合致した形状の内面36を有するのが好適である。後述するとおりの手術手順における違和感を回避するという見地から、確認冶具34の外面38も患者の手術対象骨の表面形状、図示の実施形態においては患者の側頭骨14の表面、に合致した形状であり、従って確認冶具34の内面36と外面38とは実質上平行に延在するのが好ましい。確認冶具34には、更に、患者の手術対象骨の表面に形成すべき凹所に対応して内面36から突出する凸部が形成されていることが重要である。図示の実施形態においては、上記埋込本体2におけるトランスデューサ6の円盤形状主部18を収容するための主凹所(主凹所については後に更に言及する)に対応して内面36から突出する主凸部40と2個の締結突出片20の各々の貫通孔22を通して螺合される締結ネジを螺着するための副凹所(締結ネジ及び副凹所については後に更に言及する)に対応して内面36から突出する2個の副凸部42が形成されている。主凸部40の外径はトランスデューサ6の円盤形状主部18の外径と実質上同一でよく、主凸部40の突出長さは、締結突出片20の下面からトランスデューサ6の円盤状主部18の先端即ち下端までの長さに上記手術冶具24の厚さを加えたものであるのが好都合である。副凸部42の各々は、締結突出片20の貫通孔22の内径と実質上同一の基端部(この基端部の長さは上記手術冶具24の厚さと実質上同一である)から先端に向かって漸次外径が減少する円錐形状であって、その突出長さは締結ネジの長さに応じて適宜に設定することができる。所望ならば、副凹所自体の形状は必ずしも正確である必要はなく、締結ネジを螺着することができる形態であればよい故に、確認治具34の内面36に2個の副凸部42を形成するのを省略することもでき、或いは2個の副凸部42の形成に代えて副凹所の形成を視認するための孔を形成することもできる。後述するとおりの手術手順における便宜上、手術冶具24と同様に、確認冶具34も透明乃至半透明であるのが好都合である。
【0024】
上述したとおりの確認冶具34は、上記手術冶具24の製造方法に近似した製造方法によって製造することができる。即ち、患者の手術対象骨の表面形状、図示の実施形態においては側頭骨14の表面形状に関する三次元画像データと共に、凹所(主凹所及び副凹所)を形成すべき部位に関する3次元画像データ及び凹所(主凹所及び副凹所)自体の形状に関する3次元画像データに基いて、適宜の立体造形法により製造することができる。手術冶具24を造形する材料と同様に、確認冶具34を造形する材料も、生体適合性がある任意の材料でよく、例えば適宜の合成樹脂、合成ゴム、適宜の無機材料、無機材料粉末と合成樹脂とを含む複合材料を挙げることができる。
【0025】
次に、上記手術冶具24及び確認冶具34を利用した手術手順の典型例について説明する。
図5を参照して説明を続けると、埋込型骨導補聴器の埋込本体2を患者の側頭に埋込む手術の際には、患者の側頭を切開して側頭骨14の所要領域を露呈せしめる。そして、露呈せしめた側頭骨14の表面上に手術冶具24を密着せしめる。手術冶具24の内面26は側頭骨14の表面形状に合致している故に、手術冶具24はその内面26を側頭骨14の表面に隙間なく密着せしめられる。次いで、側頭骨14の表面に所要凹所、即ち1個の主凹所と2個の副凹所を形成するが、この際には手術冶具24に形成されている主貫通開口30を通して側頭骨14を切削して主凹所44(
図6を参照されたい)形成し、そしてまた2個の副貫通開口32を通して側頭骨14を切削して2個の副凹所46を形成する。主凹所44の形成部位及び寸法は主貫通開口30によって明確に規制され、そしてまた2個の副凹所46の形成部位及び寸法は2個の副貫通開口32によって明確に規制され、それ故に充分容易に且つ精密に主凹所44及び2個の副凹所46を形成することができる。所望ならば、切削ドリルに規制フランジを付設し、かかる規制フランジが手術治具24の外面28に当接することにより、主凹所44を過剰深さに切削することを確実に回避することもできる。この場合、
図8に図示する如く、手術治具24の外面28に主貫通開口30の周縁から突出する円筒状突条33を一体に形成し、かかる突条33に切削ドリルの上記規制フランジが当接するようになすこともできる。更にまた、主貫通開口30内に別個に形成した円筒状スリーブを固定し、かかるスリーブが手術治具24の外面28側に突出するようになすこともできる。形成された主凹所44及び2個の副凹所46の深さが適切であるか否かは、手術冶具24の外面28上に確認冶具34を重ね合わせて確認冶具34の主凸部40及び2個の副凸部42を形成した主凹所44及び2個の副凹所46内に挿入することによって判断することができる。確認冶具34の主凸部40及び2個の副凸部42が形成した主凹所44及び2個の副凹所46内に充分緊密に挿入された場合には、所要とおりの主凹所44及び2個の副凹所46が形成されたことが確認されたことになる。手術冶具24に確認冶具34を重ね合わせて確認冶具34の主凸部40及び2個の副凸部42を主凹所44及び2個の副凹所46内に挿入することに代えて、手術冶具24を側頭骨14の表面から離脱せしめた後に、側頭骨14に直接的に確認冶具34を密着せしめて確認冶具34の主凸部40及び2個の副凸部42を主凹所44及び2個の副凹所46内に挿入することもできる(この場合、主凸部40及び2個の副凸部42の突出長さは図示の形態の突出長さから手術冶具24の厚さを減じたものであるのが好都合である)。
【0026】
主凹所44及び2個の副凹所46が所要とおりに形成されたことが確認されると、側頭骨14の表面上から確認冶具34及び手術冶具24を離脱せしめる。次いで、
図7に図示する如く、埋込本体2のトランスデューサ6の円盤形状主部18を主凹所44内に収容し、側頭骨14の表面に密接せしめられる2個の締結突出片20に形成されている貫通孔22の各々を2個の副凹所46の各々に整合せしめる。そして、締結突出片20の貫通孔22を通して締結ネジ48を側頭骨14に螺着し、かくして側頭骨14にトランスデューサ6を固定する。埋込本体2の接続部8、電子パッケージ10及び受信具12は側頭骨14と皮膚16との間に収納する。しかる後に、切開した皮膚16を縫合する。
【符号の説明】
【0027】
2:埋込型骨導補聴器の埋込本体
4:埋込型骨導補聴器の外側補助具
6:トランスデューサ
14:患者の側頭骨
18:トランスデューサの円盤形状主部
20:トランスデューサの締結突出片
22:貫通孔
24:手術冶具
26:手術冶具の内面
28:手術冶具の外面
30:主貫通開口
32:副貫通開口
33:円筒状突条
34:確認冶具
36:確認冶具の内面
38:確認冶具の外面
40:主凸部
42:副凸部
44:主凹所
46:副凹所