特許第6151656号(P6151656)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6151656鉄道車両の設計方法、鉄道車両の製造方法及び鉄道車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6151656
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】鉄道車両の設計方法、鉄道車両の製造方法及び鉄道車両
(51)【国際特許分類】
   B61D 27/00 20060101AFI20170612BHJP
   B61D 17/12 20060101ALI20170612BHJP
   B61D 17/00 20060101ALI20170612BHJP
【FI】
   B61D27/00 N
   B61D17/12
   B61D17/00 C
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-55080(P2014-55080)
(22)【出願日】2014年3月18日
(65)【公開番号】特開2015-174644(P2015-174644A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2016年1月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】391024951
【氏名又は名称】JR東日本テクノロジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000163372
【氏名又は名称】近畿車輌株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 博
(72)【発明者】
【氏名】戸嶋 和人
(72)【発明者】
【氏名】垂井 茂幸
(72)【発明者】
【氏名】山縣 勝善
【審査官】 諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−151224(JP,A)
【文献】 特開2005−138638(JP,A)
【文献】 特開2001−163217(JP,A)
【文献】 特開2007−137405(JP,A)
【文献】 特開2008−213579(JP,A)
【文献】 特開昭62−096169(JP,A)
【文献】 特開2010−241257(JP,A)
【文献】 特開昭55−079952(JP,A)
【文献】 特開2002−037061(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0087130(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 17/00−17/12
B61D 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋根構体と、前記屋根構体に取り付けられた空調機と、前記屋根構体の下方に配置された天井板と、前記天井板の下方に形成された客室と、前記屋根構体と前記天井板との間に形成されたダクトと、前記空調機と前記客室とを接続する接続路とを備えており、前記ダクトにはメインダクト及びチャンバが水平方向に並んで形成され、前記メインダクトと前記チャンバとの間には、鉄道車両の長手方向及び前記屋根構体から前記天井板に向かう方向に複数の孔が形成された風量調整板が配置され、前記天井板は、前記メインダクトと前記客室との間に設けられた開閉可能な扉と、前記チャンバ内の気体を前記客室へ吹き出す吹出口と、前記客室の気体を前記接続路を介して前記空調機に吸い込む吸込口とを有しており、車両外及び前記吸込口から前記空調機に吸い込まれて調整された気体が前記メインダクトに流れた後、前記チャンバを通過して前記客室に吹き出される鉄道車両を設計する方法において、
前記空調機の運転中に前記客室の温度が前記車両の長手方向について均一でない場合、
前記空調機の運転を停止し、前記扉を開く開扉工程と、
前記開扉工程によって開口した部分から前記風量調整板に形成された前記複数の孔の一部を塞ぐ孔調整工程と、
前記孔調整工程後、前記扉を閉じるとともに前記空調機の運転を開始し、前記空調機の運転中に前記客室の温度が前記車両の長手方向について均一であるかを確認する確認工程とを備えており、
前記確認工程で前記客室の温度が前記車両の長手方向について均一になるまで前記開扉工程と前記孔調整工程と前記確認工程とを繰り返し行うことを特徴とする鉄道車両の設計方法。
【請求項2】
屋根構体と、前記屋根構体に取り付けられた空調機と、前記屋根構体の下方に配置された天井板と、前記天井板の下方に形成された客室と、前記屋根構体と前記天井板との間に形成されたダクトと、前記空調機と前記客室とを接続する接続路とを備えており、前記ダクトにはメインダクト及びチャンバが水平方向に並んで形成され、前記メインダクトと前記チャンバとの間には、鉄道車両の長手方向及び前記屋根構体から前記天井板に向かう方向に複数の孔が形成された風量調整板が配置され、前記天井板は、前記メインダクトと前記客室との間に設けられた開閉可能な扉と、前記チャンバ内の気体を前記客室へ吹き出す吹出口と、前記客室の気体を前記接続路を介して前記空調機に吸い込む吸込口とを有しており、車両外及び前記吸込口から前記空調機に吸い込まれて調整された気体が前記メインダクトに流れた後、前記チャンバを通過して前記客室に吹き出される鉄道車両を製造する方法において、
請求項1の設計方法で決定した前記風量調整板の開口パターンと同じ開口パターンを有する風量調整板を作製する板作製工程と、
前記板作製工程で作製された前記風量調整板を鉄道車両のメインダクトとチャンバとの間に配置する板配置工程とを備えていることを特徴とする鉄道車両の製造方法。
【請求項3】
屋根構体と、
前記屋根構体に取り付けられた空調機と、
前記屋根構体の下方に配置された天井板と、
前記天井板の下方に形成された客室と、
前記屋根構体と前記天井板との間に形成されたダクトと、
前記空調機と前記客室とを接続する接続路とを備えており、
前記ダクトにはメインダクト及びチャンバが水平方向に並んで形成され、
前記メインダクトと前記チャンバとの間には風量調整板が配置され、
前記天井板は、前記メインダクトと前記客室との間に設けられた開閉可能な扉と、前記チャンバ内の気体を前記客室へ吹き出す吹出口と、前記客室の気体を前記接続路を介して前記空調機に吸い込む吸込口とを有しており、
車両外及び前記吸込口から前記空調機に吸い込まれて調整された気体が前記メインダクトに流れた後、前記チャンバを通過して前記客室に吹き出され、
前記風量調整板に、鉄道車両の長手方向及び前記屋根構体から前記天井板に向かう方向に複数の孔が形成されており、
前記複数の孔は前記車両の長手方向に均一に形成されておらず、
前記空調機の運転中に前記客室の温度が前記車両の長手方向に均一であることを特徴とする鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の天井構造を設計する方法、設計した構造を用いて鉄道車両を製造する方法、及びこれらの方法から製造した鉄道車両に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の天井構造の中には、空調機が取り付けられた屋根構体と、屋根構体の下方に配置された天井板と、屋根構体及び天井板の間に形成されたファンなどの収容部及びダクトとを有するものがある。収容部は車両の幅中央に形成され、その両側にダクトが形成されている。ダクトは車両長手方向に延在している。
【0003】
ダクト内にはメインダクト及びチャンバが車両の幅方向に並んで形成されている。メインダクトとチャンバとの間には風量調整板が配置され、風量調整板によりメインダクトからチャンバに流れる風量を調整することができる。チャンバの下方には吹出口が形成されている。
【0004】
空調機から吹き出された気体はメインダクト内を車両長手方向に流れつつチャンバに流れ、吹出口から客室に吹き出される。
【0005】
特許文献1には上述した天井構造が開示されている。特許文献1では天井板が取り外し可能であり、天井板を取り外したときにメインダクトを清掃することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3503058号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、空調機の運転中は、車両長手方向についてメインダクトの圧力分布に差が生じやすい。これにより、客室に吹き出される気体の量に差が生じることで、客室温度が不均一になる。
【0008】
そこで、1)メインダクトとチャンバとの間に配置される風量調整板の形状や設置位置を変更する方法や2)メインダクトの形状を工夫する方法等が提案されている。しかし、1)の方法では、形状や位置変更の調整に相当な時間と手間がかかる。また、このような調整は非常に難しく、客室温度を均一にすることは事実上困難である。また、2)では形状の調整に時間と手間がかかる上に、ダクトの製作コストが高い。
【0009】
特許文献1では上記問題が記載されておらず、客室温度を均一にする方法についても記載されていない。
【0010】
そこで、本発明の目的は、簡易に且つ確実に客室温度を均一にすることができる鉄道車両、並びに、その設計方法及び製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の鉄道車両の設計方法は、
屋根構体と、前記屋根構体に取り付けられた空調機と、前記屋根構体の下方に配置された天井板と、前記天井板の下方に形成された客室と、前記屋根構体と前記天井板との間に形成されたダクトと、前記空調機と前記客室とを接続する接続路とを備えており、前記ダクトにはメインダクト及びチャンバが水平方向に並んで形成され、前記メインダクトと前記チャンバとの間には、鉄道車両の長手方向及び前記屋根構体から前記天井板に向かう方向に複数の孔が形成された風量調整板が配置され、前記天井板は、前記メインダクトと前記客室との間に設けられた開閉可能な扉と、前記チャンバ内の気体を前記客室へ吹き出す吹出口と、前記客室の気体を前記接続路を介して前記空調機に吸い込む吸込口とを有しており、車両外及び前記吸込口から前記空調機に吸い込まれて調整された気体が前記メインダクトに流れた後、前記チャンバを通過して前記客室に吹き出される鉄道車両を設計する方法において、
前記空調機の運転中に前記客室の温度が前記車両の長手方向について均一でない場合、
前記空調機の運転を停止し、前記扉を開く開扉工程と、
前記開扉工程によって開口した部分から前記風量調整板に形成された前記複数の孔の一部を塞ぐ孔調整工程と、
前記孔調整工程後、前記扉を閉じるとともに前記空調機の運転を開始し、前記空調機の運転中に前記客室の温度が前記車両の長手方向について均一であるかを確認する確認工程とを備えており、
前記確認工程で前記客室の温度が前記車両の長手方向について均一になるまで前記開扉工程と前記孔調整工程と前記確認工程とを繰り返し行う。
【0012】
上記方法によると、メインダクトの下方の扉を開き(開扉工程)、開口した部分から風量調整板の複数の孔の一部を閉じ(孔調整工程)、客室温度が均一であるかを確認する(確認工程)という3つの工程を繰り返すだけで簡易に天井構造を設計することができる。また、客室温度を確実に均一にすることができる風量調整板の開口パターンが得られる。
【0013】
また、本発明の鉄道車両の製造方法は、
屋根構体と、前記屋根構体に取り付けられた空調機と、前記屋根構体の下方に配置された天井板と、前記天井板の下方に形成された客室と、前記屋根構体と前記天井板との間に形成されたダクトと、前記空調機と前記客室とを接続する接続路とを備えており、前記ダクトにはメインダクト及びチャンバが水平方向に並んで形成され、前記メインダクトと前記チャンバとの間には、鉄道車両の長手方向及び前記屋根構体から前記天井板に向かう方向に複数の孔が形成された風量調整板が配置され、前記天井板は、前記メインダクトと前記客室との間に設けられた開閉可能な扉と、前記チャンバ内の気体を前記客室へ吹き出す吹出口と、前記客室の気体を前記接続路を介して前記空調機に吸い込む吸込口とを有しており、車両外及び前記吸込口から前記空調機に吸い込まれて調整された気体が前記メインダクトに流れた後、前記チャンバを通過して前記客室に吹き出される鉄道車両を製造する方法において、
上記設計方法で決定した前記風量調整板の開口パターンと同じ開口パターンを有する風量調整板を作製する板作製工程と、
前記板作製工程で作製された前記風量調整板を鉄道車両のメインダクトとチャンバとの間に配置する板配置工程とを備えている。
【0014】
上記設計方法で決定した風量調整板の開口パターンを採用することにより、他の同一形状の車両でも客室温度を確実に均一にすることができる。また、風量調整板をメインダクトとチャンバとの間に配置した後は風量調整作業を行わなくてよいため、製造工程を簡素化できるとともに製造期間を大幅に短縮することができる。
【0015】
さらに、本発明の鉄道車両は、
屋根構体と、前記屋根構体に取り付けられた空調機と、前記屋根構体の下方に配置された天井板と、前記天井板の下方に形成された客室と、前記屋根構体と前記天井板との間に形成されたダクトと、前記空調機と前記客室とを接続する接続路とを備えており、
前記ダクトにはメインダクト及びチャンバが水平方向に並んで形成され、
前記メインダクトと前記チャンバとの間には風量調整板が配置され、
前記天井板は、前記メインダクトと前記客室との間に設けられた開閉可能な扉と、前記チャンバ内の気体を前記客室へ吹き出す吹出口と、前記客室の気体を前記接続路を介して前記空調機に吸い込む吸込口とを有しており、
車両外及び前記吸込口から前記空調機に吸い込まれて調整された気体が前記メインダクトに流れた後、前記チャンバを通過して前記客室に吹き出され、
前記風量調整板に、鉄道車両の長手方向及び前記屋根構体から前記天井板に向かう方向に複数の孔が形成されており、前記複数の孔は前記車両の長手方向に均一に形成されておらず、
前記空調機の運転中に前記客室の温度が前記車両の長手方向に均一である。
【0016】
ダクトから客室に送られる風量を調整することで、客室温度を車両の長手方向に均一にすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の設計方法によると、メインダクトの下方の扉を開き、風量調整板の孔の一部を閉じ、客室温度が均一であるかを確認するという工程を繰り返すだけで天井構造を簡易に設計できる。また、客室温度を確実に均一にできる開口パターンが得られる。さらに、得られた開口パターンを他の同一形状の鉄道車両に採用することでそれらの鉄道車両でも客室温度を均一にすることができるとともに、車両の製造工程の簡素化及び製造期間の短縮化を図ることができる。また、上記方法によって製造された鉄道車両では、客室温度が確実に均一になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】(a)は鉄道車両の天井構造を正面からみた断面図であり、(b)は鉄道車両の天井構造を上方からみた断面図(図1(a)のII-II線に沿った断面図)である。
図2】鉄道車両の天井構造の一部の底面図である。
図3】(a)は図1に示す風量調整板の正面図であり、(b)は従来の風量調整板の正面図である。
図4】(a)は空調機周辺の天井構造の模式図(図2のIVA-IVA線に沿った断面図)であり、(b)は空調機から離れた位置での天井構造の模式図(図2のIVB-IVB線に沿った断面図)である。
図5】(a)は扉を閉じた状態の天井構造の部分断面図であり、(b)は扉を開いた状態の天井構造の部分断面図である。
図6】(a)は扉を閉じた状態の天井構造の拡大断面図であり、(b)は扉を開いた状態の天井構造の拡大断面図である。
図7】鉄道車両の天井構造の設計方法を順に示した模式図である。
図8】風量調整板の孔を閉じる工程を順に示した模式図である。
図9】鉄道車両の天井構造の設計方法のフローチャートである。
図10】変形例の鉄道車両の天井構造を上方からみた断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。ここでは、本発明の1実施形態である鉄道車両について、図1図9を参照しつつ以下に説明する。
【0020】
鉄道車両100の天井構造110は、図1(a)に示すように、屋根構体1と、屋根構体1の下方に配置された天井板2と、屋根構体1と天井板2との間に形成されたファンなどの収容部3及びダクト4とを備えている。屋根構体1の中央部には空調機5が取り付けられている。天井板2の下方には客室6が形成されている。図1(b)には、1両の鉄道車両100に複数の空調機5が車両長手方向に所定の間隔で設置されている場合を示している。各空調機5の下方にはダクト4が配置されている。なお、鉄道車両100に設置する空調機5は1台でもよい。
【0021】
ダクト4は、図1(b)に示すように車両長手方向に延在した2本の第1ダクト管14,15と、これらを接続する複数の第2ダクト管16とを有している。2本の第1ダクト管14,15は収容部3を挟んで車両幅方向に並んで配置されている。第2ダクト管16は車両幅方向に延在しており、空調機5の下方に位置している。
【0022】
図1(a)に示すように、ダクト4内にはメインダクト17とその外側にチャンバ18とが形成されている。メインダクト17とチャンバ18との間には風量調整板7が配置されている。風量調整板7によりメインダクト17からチャンバ18に流れる風量を調整することができる。なお、図1(a)には図1(b)のIA-IA線に沿った図を示している。
【0023】
チャンバ18の下方には、図1(a)に示すように、天井板2に吹出口25が形成されている。また、チャンバ18の外側には、空調機5と客室6とを接続する接続路8が形成されている。
【0024】
図2には、図1(b)の一部を客室から視た図(天井の底面図)を示している。図2に示すように、ダクト4内には、車両幅中央から外側に向かって、メインダクト17、風量調整板7及びチャンバ18が並んで形成されている。メインダクト17、風量調整板7及びチャンバ18は車両長手方向に延在している。また、チャンバ18の下方に形成された吹出口25も車両長手方向に延在している。ダクト4の外側に形成された接続路8は、車両幅方向からみて空調機5と重なる位置に配置されている。
【0025】
メインダクト17は全長に亘って同じ大きさ(太さ)である。メインダクト17の車両長手方向に垂直な断面積は全て同じ面積である。
【0026】
ここで、空調機5から吹き出される空調空気の流れの一例を説明する。空調機5から吹き出された空調空気はメインダクト17内を車両長手方向に流れつつチャンバ18に流れ、吹出口25から客室6に吹き出される。空調機5周辺ではメインダクト17内に多くの空調空気が送られるが、空調機5から離れるにつれてメインダクト17内を流れる空調空気が少ない。これが原因でメインダクト17内に圧力差が生じる。ここでは空調機5で調整された空気を「空調空気」と呼んでいる。
【0027】
風量調整板7には、図3(a)に示すように、貫通孔7aが不均一に形成されている。図3(a)には、一例として貫通孔7aが空調機5から遠ざかるにつれて多い場合を示している。風量調整板7をダクト4に設置すると、空調機5周辺では貫通孔7aがやや少ないが空調機5から離れた位置では貫通孔7aが多い。風量調整板7には、例えばパンチングメタルを用いることができる。
【0028】
図4(a)に示すように、空調機5周辺ではメインダクト17内に多くの空調空気が送られる。しかし、風量調整板7の貫通孔数が少ないため、メインダクト17からチャンバ18へ移動する空調空気は少ない。チャンバ18へ移動した空調空気は客室6に吹き出された後、一部が接続路8から空調機5へ吸い込まれる。したがって、客室6に残る空調空気はやや少ない。
【0029】
一方、空調機5から離れた位置では、図4(b)に示すようにメインダクト17内に送られる空調空気が少ない。しかし、風量調整板7の貫通孔数が多いため、メインダクト17内の空調空気は殆どチャンバ18に移動し、客室6に吹き出される。この辺りは接続路8から遠いため、客室6に吹き出された空調空気は殆ど客室6に残る。
【0030】
これらを総合すると、客室6には空調機5からの距離に関係なくどの位置でも略同じ量の空調空気が存在する。これにより、空調機5の運転中にメインダクト17内で圧力分布の差が生じても、客室6の温度が均一になる。
【0031】
なお、図3(b)に示すように、風量調整板207として貫通孔207aが長手方向に均一に形成された板をダクト4に設置した場合、空調機5周辺ではメインダクト17内の多量の空調空気が殆どチャンバ18に移動し、客室6に吹き出される。客室6に吹き出された空調空気の一部は空調機5へ吸い込まれるが、殆どが客室6に残る。一方、空調機5から離れた位置ではメインダクト17内の空調空気が少ないが、これらの空調空気は貫通孔207aから全てチャンバ18に流れ、客室6に吹き出される。しかし、空調機5から離れた位置で客室6に存在する空調空気量は空調機5周辺の客室6に残った空調空気量に比べてはるかに少ない。このため、客室6に存在する空調空気量が不均一になる。その結果、客室6の温度も不均一となる。
【0032】
次に、鉄道車両100の天井板2及びその周辺構造について説明する。なお、鉄道車両100は幅中央を中心に略左右対称であるため、以下では幅中央より左側の構造について説明し、右側の構造について説明を省略する。
【0033】
図5に示すように、天井板2には、メインダクト17の下方に開閉可能な扉21が設けられている。扉21は、図2に示すように、メインダクト17の長手方向に連続して設置されている。図5(a)に示すように、閉状態において扉21の左端部(チャンバ18に近い一端部)21Lは支持具10に引掛けられている。扉21の右端部(チャンバ18に遠い他端部)21Rは天井板2にボルトで止められている。右端部21Rを天井板2から外すと、扉21は左端部21Lを中心に右回転する(図5(b)参照)。扉21が開くことでメインダクト17と客室6とが連通する。
【0034】
扉21の左隣には吹出口25が形成されている。吹出口25はチャンバ18の下方に形成されている。吹出口25の左側には吸込口26が形成されている。吸込口26は接続路8の入口である。
【0035】
メインダクト17の内壁及びチャンバ18の内壁には結露防止材31,32が貼り付けられている。また、扉21の上面にも結露防止材33が貼り付けられている。結露防止材31,32,33には、ポリエチレン等を用いることができる。
【0036】
風量調整板7の上端部はやや水平方向に折れ曲がり、折れ曲がった部分がダクト4の上壁4aにボルトで固定されている。風量調整板7の下端部は支持具10にボルトで固定されている。
【0037】
図6には、扉21の左端部21L周辺を図示している。扉21の左端部には、支持具10に引掛けられた掛止具41が取り付けられている。
【0038】
支持具10は、鉛直方向に延在した鉛直部11と、鉛直部11の下端からチャンバ18に向かって延在した支持部12と、鉛直部11の途中からメインダクト17に向かって延在した水平部13とを有している。支持部12の先端部12tは上方に向かって湾曲し、先端部12tに掛止具41が引っ掛けられている。水平部13の底面にはパッキン51が取り付けられている。パッキン51により水平部13と扉21の上面に貼り付けられた結露防止材33との隙間が密閉される。
【0039】
図6(a)に示すように、掛止具41には支持部12の先端部12tが嵌まる凹部41aと、凹部41aの一部を塞ぐように突出した突部41bとが形成されている。
【0040】
突部41bの先端は半円状に形成され、半円となった部分が支持具10の先端部12tの湾曲面に沿って回転する。これにより、掛止具41及び扉21が回転する。扉21が閉状態のとき、先端部12tは掛止具41の凹部41aに嵌まっている(図6(a)参照)。ここから掛止具41を右回転させると、図6(b)に示すように、先端部12tが凹部31aから外れるとともに扉21が開状態となる。
【0041】
次に、鉄道車両100の天井構造を設計する方法について、図7図9を参照しつつ説明する。
【0042】
先ず、図7(a)に示すように、メインダクト17とチャンバ18との間に風量調整板307を設置する。風量調整板307には、複数の貫通孔307aが長手方向に均一に形成されている(図8(a)参照)。風量調整板307を設置後、空調機5を運転し(図9のS1)、客室6の温度が均一であるか、特に車両長手方向に温度が均一であるかを確認する。
【0043】
客室6の温度が均一でない場合(図9のS2:NO)、空調機5の運転を停止する(図9のS3)。そして、空調機5周辺の天井板2の扉21を開き(図9のS4、開扉工程)、開口した部分から作業員が風量調整板307に形成された貫通孔の一部を金属板410で塞ぐ(図7(b)、図8(b)、図9のS5参照、孔調整工程)。
【0044】
その後、扉21を閉じ(図9のS6)、図7(c)に示すように再び空調機5を運転する(図9のS1)。そして、客室6の温度が均一であるかを確認する(確認工程)。客室6の温度が均一でない場合(図9のS2:YES)、空調機5の運転を停止し(図9のS3)、再び空調機5周辺の天井板2の扉21を開いて(図9のS4、開扉工程)、風量調整板307に形成された孔の一部を金属板420で塞ぐ(図9のS4、図8(c)参照、孔調整工程)。
【0045】
その後、扉21を閉じ(図9のS1)、図7(c)に示すように再び空調機5を運転し(図9のS1)、客室6の温度が均一であるかを確認する(確認工程)。
【0046】
確認工程で客室6の温度が車両長手方向に均一になるまで「開扉工程」と「孔調整工程」と「確認工程」とを繰り返す。客室6の温度が車両長手方向に均一になると(図9のS2:YES)、風量調整板の開口パターンが決定したと判断し、天井構造の設計を終了する。
【0047】
客室6の温度が均一であるかの判断は、例えば客室6に設置した複数の温度計61,62から判断する。本実施形態では、図1(a)に示すように、客室6の左右両壁に温度計61,62を設置している。温度計61,62は車両長手方向に所定の間隔で配置されている。また、温度計61,62は、床面から所定の高さに設置されている。温度計61,62で測定した温度が全て所定の温度範囲にあるとき又はこれらの温度差が全て±所定の範囲内にあるとき、客室6の温度が均一であると判断する。なお、客室6の温度が均一であるかの判断は上記に限られず、様々な方法を利用することができる。
【0048】
また、孔調整工程として、例えば空調機5が冷房運転する場合、客室6の温度が低い場所の空調空気が少なくなるように風量調整板307の孔を塞ぐ。一方、空調機5が暖房運転する場合、客室6の温度が高い場所の空調空気が少なくなるように風量調整板307の孔を塞ぐ。なお、孔調整方法は上記に限られず、様々な方法を利用することができる。
【0049】
次に、上記設計方法で得た天井構造を用いて鉄道車両を製造する方法を説明する。
【0050】
設計方法で決定した風量調整板307の開口パターンと同じ開口パターンを金属板に形成し、図3(a)に示す風量調整板7を得る(板作製工程)。
【0051】
風量調整板7を鉄道車両のメインダクト17とチャンバ18との間に配置し(図9のS2、板配置工程)、図1に示す天井構造110を組み立てる。車両のその他の部位も組み立てると、鉄道車両100が完成する。
【0052】
以上に述べたように、本実施形態の鉄道車両の設計方法によると、メインダクト17の下方の扉21を開き(開扉工程)、開口した部分から風量調整板307の貫通孔の一部を閉じ(孔調整工程)、客室6の温度が均一であるかを確認する(確認工程)という3つの工程を繰り返すだけで天井構造110を設計することができる。また、客室温度を確実に均一にすることができる風量調整板7の開口パターンが得られる。
【0053】
また、上記設計方法で決定した風量調整板307の開口パターンと同じ開口パターンを形成した風量調整板7を他の同一形状の鉄道車両に採用することにより、客室温度が均一である鉄道車両を短期間で大量に製造することができる。また、風量調整板7をメインダクト17とチャンバ18との間に配置した後は風量調整作業を行わなくてよいため、製造工程を簡素化できるとともに製造期間を大幅に短縮することができる。
【0054】
さらに、本実施形態の鉄道車両100では、風量調整板7の貫通孔7aを不均一にすることで、客室6に残る空調空気量を均一にすることができるため、客室温度を確実に均一にすることができる。
【0055】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0056】
例えば、本発明は上述の実施形態の車種に限られず、様々な車種に利用可能である。
【0057】
また、上述の実施形態では、鉄道車両の設計方法において、孔調整工程を空調機5周辺で行う場合を例示したが、空調機5から離れた位置で孔調整工程を行ってもよい。
【0058】
また、上述の実施形態では、図2に示すように、メインダクト17が全長に亘って同じ大きさ(太さ)であるが、メインダクト17の形状は変更可能である。例えば、メインダクト17が空調機5から遠ざかるにつれて細くなってもよい。この場合、メインダクト17の長手方向に垂直な断面積が空調機5から遠ざかるにつれて小さくなる。
【0059】
また、上述の実施形態では、メインダクト17、風量調整板7及びチャンバ18が車両長手方向に延在しているが、これらを車両幅方向に延在させてもよい。
【0060】
さらに、上述の実施形態では、鉄道車両を設計した際、風量調整板307の貫通孔を金属板410,420で塞いだが、貫通孔を塞ぐ方法は他の方法でもよい。例えば、板状の部材を風量調整板307にボルトで固定してもよく、フイルム状の部材を風量調整板300に両面テープで貼り付けてもよい。また、貫通孔を塞ぐ部材として結露防止材を用いてもよい。これにより、貫通孔を塞ぎつつ、結露が生じるのを防止できる。
【0061】
また、上述の実施形態では、客室6の温度を均一にするために、空調機5の運転中に客室6に存在する空調空気量をどの位置でも略同じ量にする場合を例示したが、客室6の温度を均一にする方法及びそのときの風量調整板の開口パターンは上記実施形態に限られない。例えば、客室6の温度を均一にすることができれば、鉄道車両の長手方向端部から多くの空調空気を客室6に吹き出すようにしてもよい。
【0062】
また、上述の実施形態では、メインダクト17内壁、チャンバ18内壁及び扉21の上面に結露防止材を貼り付けたが、結露防止材を貼り付けなくてもよい。また、上述の実施形態では風量調整板7に結露防止材を貼り付けていないが、風量調整板7の貫通孔が形成されていない部分に結露防止材を貼り付けてよい。さらに、風量調整板300の貫通孔を塞ぐ金属板410,420に結露防止材を貼り付けてもよい(図8(b)及び図8(c)参照)。
【0063】
さらに、上述の実施形態では、扉21が回転する構成として支持具10に掛止具41を引っ掛けたが、このような構成に限られない。例えば蝶番を用いてもよい。
【0064】
また、上述の実施形態では、扉21がチャンバ18に近い一端部(図5では「左端部21L」)を中心に回転したが、扉21はチャンバ18に遠い一端部(図5の「右端部21R」)を中心に回転してもよい。
【0065】
さらに、上述の実施形態では、1両の鉄道車両100に複数の空調機5が設置されているが(図1(b)参照)、1両の鉄道車両100に設置する空調機5の数は変更可能である。例えば、図10に示すように1両の鉄道車両100に空調機5が1台だけ設置されてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 屋根構体
2 天井板
3 収容部
4 ダクト
5 空調機
6 客室
7,207,307 風量調整板
7a,207a,307a 貫通孔
8 接続路
17 メインダクト
18 チャンバ
21 扉
25 吹出口
26 吸込口
61,62 温度計
410,420 金属板
100 鉄道車両
110 天井構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10