(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1は、カットされた皮質骨サンプルを対象としてBUAを測定したものであり、生体内の皮質骨のBUAを測定していない。従って、非特許文献1は、臨床の現場においてBUAを測定できる手法を提案するには至っていない。
【0009】
非特許文献2も、生体内の骨を測定したものではなく、水槽内の骨のサンプルを測定したものである。非特許文献2は、生体内の骨の測定にも適用できる可能性を示唆しているが、そのためには骨周囲の軟組織の影響を考慮する必要がある。また、非特許文献2で骨音速を導出する際には骨の厚みの情報が必要であるが、非特許文献2では骨の厚みをd=30mmと仮定しているため実際の骨中の音速を算出できていない。
【0010】
また、非特許文献2は、2つの超音波振動子の間に骨のサンプルを配置して超音波信号の送受信を行い、骨を透過した信号に基づいて骨音速とBUAを導出している。
【0011】
非特許文献3は、生体内の骨を測定する技術を開示している。この非特許文献3は、非特許文献2と同じく、測定対象の骨を2つの超音波振動子に挟んで、当該骨を透過した信号に基づいて、骨音速とBUAを導出している。このように透過波を利用する手法は、骨内部の海綿骨の測定には利用できるものの、骨表面の皮質骨の測定には利用できない。
【0012】
以上のように、従来の超音波測定装置では、生体内の皮質骨の音速及びBUAを測定することができなかった。
【0013】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、生体内の皮質骨の音速及びBUAを測定できる測定装置を提供することにある。
【0014】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0015】
本発明の第1の観点によれば、以下の測定装置が提供される。即ち、この測定装置は、送信部と、受信部と、伝達関数設定部と、信号合成部と、一致度算出部と、パラメータ選択部と、を備える。前記送信部は、被測定体に向けて信号を送信する。前記受信部は、前記被測定体に入射した前記信号が前記被測定体を伝播して再び被測定体外に放射された第1信号と、前記第1信号とは違う経路で伝播して再び被測定体外に放射された第2信号と、を受信する。前記伝達関数設定部は、前記第1信号と前記第2信号の伝播経路の違いを、少なくとも第1のパラメータを含んでモデル化した伝達関数を設定する。前記信号合成部は、前記第1のパラメータの値を互いに異ならせた複数の伝達関数をそれぞれ前記第1信号に適用することにより、それぞれの第1のパラメータに対応する合成信号を生成する。前記一致度算出部は、前記各合成信号と、前記第2信号と、の一致度をそれぞれ算出する。前記パラメータ選択部は、前記一致度が最大となるときの前記第1のパラメータの値を求める。
【0016】
このように、第1信号に伝達関数を適用することにより合成信号を生成し、当該合成信号と第2信号の一致度を判定することで、伝達関数設定部が設定した伝達関数の妥当性を判定できる。そして、一致度を最大化するパラメータを探すことにより、当該パラメータの値を確定できる。伝達関数は、第1信号の伝播経路と第2信号の伝播経路の違いのみをモデル化すれば良いので、伝播経路全体をモデル化する場合に比べて伝達関数が簡単になり、測定精度も向上する。
【0017】
上記の測定装置において、前記受信部は、前記信号が送信された後、第1の時間経過後に、前記第1信号を受信し、前記第1の時間よりも長い第2の時間経過後に、前記第2信号を受信する。
【0018】
第1信号は、第2信号に比べて時間的に早く受信されているので、第2信号に比べて被測定体中を伝播する距離が短い。従って、第1信号は、第2信号に比べて、被測定体から受けた影響が少ない。そこで、この第1信号を基準として、当該第1信号と第2信号との伝播経路の違いをモデル化することにより、前記パラメータを精度良く求めることができる。
【0019】
上記の測定装置は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、この測定装置は、前記被測定体に向けて信号を送信し、当該被測定体で反射された反射信号に基づいて当該被測定体の形状を検出する形状検出部を備える。前記伝達関数設定部は、前記形状検出部が検出した前記被測定体の形状に基づいて、前記伝達関数を設定する。
【0020】
このように、被測定体の形状を予め検出しておくことにより、第1信号及び第2信号の伝播経路を求めることができるので、伝達関数を正確に設定できる。
【0021】
上記の測定装置において、前記信号は超音波信号であり、前記第1のパラメータは前記被測定体の音速とすることができる。
【0022】
この測定装置により、被測定体の音速を測定できる。
【0023】
上記の測定装置においては、前記信号は超音波信号であり、前記第1のパラメータは前記被測定体の広帯域超音波減衰係数とすることもできる。
【0024】
この測定装置により、被測定体の広帯域超音波減衰係数を測定できる。
【0025】
上記の測定装置は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記一致度算出部は、前記各合成信号と前記第2信号の内積をそれぞれ算出する。前記パラメータ選択部は、前記内積が最大値を示すときの前記第1のパラメータを求める。
【0026】
即ち、2つの信号が一致していれば両者の内積は最大となり、一致していなければ両者の内積は小さくなる。そこで、合成信号と第2信号の一致度の指標として、両者の内積の値を利用できる。
【0027】
上記の測定装置は、以下のように構成することもできる。即ち、前記伝達関数は、前記第1のパラメータとは異なる第2のパラメータを含む。前記信号合成部は、前記第1のパラメータ及び前記第2のパラメータの組み合わせを互いに異ならせた複数の伝達関数をそれぞれ前記第1信号に適用することにより、それぞれの前記組み合わせに対応する合成信号を生成する。
【0028】
このように、2つのパラメータの組み合わせを異ならせて伝達関数を適用していくことにより、それぞれの組み合わせに対応する合成関数を算出できる。
【0029】
上記の測定装置において、前記信号は超音波信号であり、前記第1のパラメータは前記被測定体の音速であり、前記第2のパラメータは前記被測定体の広帯域超音波減衰係数とすることができる。
【0030】
これにより、被測定体の音速と広帯域超音波減衰係数の組み合わせを異ならせて求めた複数の合成関数を得ることができる。
【0031】
上記の測定装置は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記一致度算出部は、前記各合成信号と前記第2信号の内積をそれぞれ算出する。前記パラメータ選択部は、前記内積が最大値を示すときの前記第1のパラメータと前記第2のパラメータの組み合わせを求める。
【0032】
このように、本発明の構成によれば、被測定体内の音速と、広帯域超音波減衰(BUA)係数を同時に測定できる。
【0033】
上記の測定装置において、前記被測定体は、軟組織中の皮質骨とすることができる。
【0034】
これにより、生体内の皮質骨の音速や広帯域超音波減衰係数などを本発明の測定装置によって測定できる。
【0035】
上記の測定装置においては、前記送信部が送信した前記信号が、前記皮質骨の表面近傍を伝播して前記受信部に受信されることが好ましい。
【0036】
このように、皮質骨の表面を伝播した信号に基づいて、当該皮質骨の音速や広帯域超音波減衰係数などを測定できる。
【0037】
本発明の第2の観点によれば、以下の測定方法が提供される。即ち、この測定方法は、送信工程と、受信工程と、伝達関数設定工程と、信号合成工程と、一致度算出工程と、パラメータ選択工程と、を含む。前記送信工程では、被測定体に向けて信号を送信する。前記受信工程では、前記被測定体に入射した前記信号が前記被測定体を伝播して再び被測定体外に放射された第1信号と、前記第1信号とは違う経路で伝播して再び被測定体外に放射された第2信号と、を受信する。前記伝達関数設定工程では、前記第1信号と前記第2信号の伝播経路の違いを、少なくとも第1のパラメータを含んでモデル化した伝達関数を設定する。前記信号合成工程では、前記第1のパラメータを互いに異ならせた複数の伝達関数をそれぞれ前記第1信号に適用することにより、それぞれの第1のパラメータに対応する合成信号を生成する。前記一致度算出工程では、前記各合成信号と、前記第2信号と、の一致度をそれぞれ算出する。前記パラメータ選択工程では、前記一致度が最大となるときの前記第1のパラメータの値を求める。
【0038】
上記の測定方法において、前記受信工程では、前記信号が送信された後、第1の時間経過後に、前記第1信号を受信し、前記第1の時間よりも長い第2の時間経過後に、前記第2信号を受信する。
【0039】
上記の測定方法は、以下のようにすることが好ましい。即ち、この測定方法は、前記被測定体に向けて信号を送信し、当該被測定体で反射された反射信号に基づいて当該被測定体の形状を検出する形状検出工程を含む。前記伝達関数設定工程では、前記形状検出工程で検出した前記被測定体の形状に基づいて、前記伝達関数を設定する。
【0040】
上記の測定方法において、前記信号は超音波信号であり、前記第1のパラメータは前記被測定体の音速とすることができる。
【0041】
上記の測定方法においては、前記信号は超音波信号であり、前記第1のパラメータは前記被測定体の広帯域超音波減衰係数とすることもできる。
【0042】
上記の測定方法は、以下のようにすることもできる。即ち、前記一致度算出方法では、前記各合成信号と前記第2信号の内積をそれぞれ算出する。前記パラメータ選択工程では、前記内積が最大値を示すときの前記第1のパラメータを求める。
【0043】
上記の測定方法は、以下のようにすることもできる。即ち、前記伝達関数は、前記第1のパラメータとは異なる第2のパラメータを含む。前記信号合成工程では、前記第1のパラメータ及び前記第2のパラメータの組み合わせを互いに異ならせた複数の伝達関数をそれぞれ前記第1信号に適用することにより、それぞれの前記組み合わせに対応する合成信号を生成する。
【0044】
上記の測定方法は、以下のようにすることができる。即ち、前記信号は超音波信号であり、前記第1のパラメータは前記被測定体の音速であり、前記第2のパラメータは前記被測定体の広帯域超音波減衰係数である。
【0045】
上記の測定方法は、以下のようにすることが好ましい。即ち、前記一致度算出工程では、前記各合成信号と前記第2信号の内積をそれぞれ算出する。前記パラメータ選択工程では、前記内積が最大値を示すときの前記第1のパラメータと前記第2のパラメータの組み合わせを求める。
【0046】
上記の測定方法において、前記被測定体は、軟組織中の皮質骨とすることができる。
【0047】
上記の測定方法においては、前記送信工程で送信する前記信号が、前記皮質骨の表面近傍を伝播して、前記受信工程で受信されることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0049】
次に、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る測定装置としての超音波診断装置1のブロック図である。
【0050】
本実施形態の超音波診断装置1は、人体の皮質骨10を診断対象としている。本実施形態の超音波診断装置1は、皮質骨10に向けて超音波信号を送信し、当該皮質骨10から返ってきた超音波信号に基づいて、皮質骨10中の音速(SOS:Speed Of Sound)と広帯域超音波減衰(BUA:Broadband Ultrasonic Attenuation)係数を測定する。測定したSOSとBUAは、骨の健全性の指標として利用できる。
【0051】
図1に示すように、超音波診断装置1は、超音波送受波器2と、装置本体3とから構成されている。
【0052】
超音波送受波器2は、超音波の送波及び受波を行うものである。この超音波送受波器2は、測定部位の軟組織11の表面(皮膚)に当接する当接面2aと、振動子アレイ22を備えている。振動子アレイ22は、当接面2aに沿って、等間隔で1列に並んで配列された複数の振動子24からなっている。
【0053】
振動子24は、電気信号を与えられるとその表面が振動して超音波を発生させるとともに、その表面に超音波を受波すると電気信号を生成して出力する。即ち、各振動子24は、超音波の送波と受波を行うことが可能に構成されている。
【0054】
装置本体3は、ケーブルによって超音波送受波器2と接続されており、当該超音波送受波器2との間で信号の送受信ができるように構成されている。この装置本体3は、送信回路31と、複数の受信回路33と、送受信分離部34と、演算部35と、表示部32と、を備えている。
【0055】
送信回路31は、振動子アレイ22の各振動子24を振動させて超音波を発生させるための電気パルス信号を生成するとともに、この電気パルス信号を各振動子24に印加できるように構成されている。電気パルス信号の中心周波数は、例えば1〜10MHz程度である。
【0056】
電気パルスが印加された振動子24は、当該電気パルス信号に応じて振動して超音波を発生させる。送信回路31は、振動子アレイ22の複数の振動子24それぞれに対して任意のタイミングの電気パルス信号を印加できるように構成されている。これにより、複数の振動子24から、一斉に、あるいは個別のタイミングで超音波を送波するように制御できる。
【0057】
複数の受信回路33は、振動子アレイ22を構成する複数の振動子24にそれぞれ接続されている。各受信回路33は、振動子24が超音波を受波することにより出力する電気信号を受信し、当該電気信号に対して、増幅処理や、フィルタ処理、デジタル変換処理などを施したデジタルの受信信号を生成して演算部35に送信するように構成されている。
【0058】
送受信分離部34は、振動子アレイ22と、前記送信回路31及び前記受信回路33と、の間に接続されている。この送受信分離部34は、送信回路31から振動子アレイ22に送られる電気信号(電気パルス信号)が受信回路33に直接流れるのを防止するとともに、振動子アレイ22から受信回路33に送られる電気信号が送信回路31側に流れるのを防止するためのものである。
【0059】
演算部35は、CPU、RAM、ROMなどのハードウェアを備えたコンピュータとして構成されており、各振動子24が受信した信号に基づいて皮質骨10のSOS及びBUAを算出するように構成されている。なお、演算部35で行われる処理の詳細については後述する。
【0060】
演算部35によって導出されたSOS及びBUAは、表示部32に適宜表示される。以上のように構成された超音波診断装置1により、皮質骨10のBUAとSOSを測定できる。
【0061】
次に、本実施形態の超音波診断装置1の動作を説明する前提として、伝達関数H
n(jω)について説明する。
【0062】
図5(a)に太線の矢印で示すように、皮質骨10に向けて斜め方向の超音波ビームを送信した場合を考える。なお、本実施形態の超音波診断装置1では、送信回路31が、隣り合う2つの振動子24に対して所定の時間差を与えて電気パルス信号を印加することにより、
図5(a)のような斜め方向の超音波ビームを送信する。このとき、超音波ビームを送信する2つの振動子24を、ビーム送信ペア(送信部)25と呼ぶ。ビーム送信ペア25から超音波ビームを送信する方向は、当該ビームが皮質骨10の表面に対して臨界角または臨界角に近い角度で入射するように設定されていれば好ましい。
【0063】
臨界角に近い角度で皮質骨10の表面に入射した超音波信号は、当該皮質骨10内の表面近傍を伝播する。このように皮質骨10の内部を伝播する超音波信号は、皮質骨10の音速SOSで進行し、かつ皮質骨10によって広帯域超音波減衰(BUA)の影響を受ける。また、皮質骨10内の表面近傍を超音波信号が伝播するとき、当該皮質骨10の表面から軟組織11中に向けて超音波信号が再放射される(
図5(b))。皮質骨10の表面から軟組織11に再放射される超音波信号を、漏洩波と呼ぶ。
【0064】
ビーム送信ペア25と、当該ビーム送信ペア25以外の他の振動子24は、皮質骨10から見て同じ側に位置している。従って、皮質骨10の表面から軟組織11中に再放射された漏洩波を、少なくとも何れかの振動子24で受信できる。なお、この漏洩波は、ビーム送信ペア25の近くの振動子24には受信されず、ビーム送信ペア25からある程度離れた位置の振動子24に受信される(
図5(b)参照)。そこで、皮質骨10からの漏洩波を受信した振動子24のうち、ビーム送信ペア25に一番近い振動子24を、基準受信部(第1受信部)24
0とする。また、漏洩波26を受信した他の振動子24を、基準受信部24
0に近い側から順に受信部24
1、24
2……とする。
【0065】
図5(b)に示すように、基準受信部24
0に受信された漏洩波は、他の受信部24
1、24
2…に受信された漏洩波26に比べて、皮質骨10中を伝播した距離が最も短い。従って、基準受信部24
0に受信された信号は、皮質骨10内を伝播したことによる影響が最も小さい信号であると言える。そこで、基準受信部24
0に受信された信号を、基準信号R(jω)とする。ビーム送信ペア25から超音波ビームが送信された後、基準受信部24
0に基準信号R(jω)が受信されるまでにかかった時間を第1時間とする。一方、他の受信部24
1、24
2……に受信された信号を、受信信号F
1(jω)、F
2(jω)……とする。なお、以下の説明において、特に断わらない限り、信号を記述する際には周波数領域表現を用いる。
【0066】
基準受信部24
0以外で漏洩波を受信した受信部24
1、24
2…のうち、任意の受信部を、注目受信部(第2受信部)24
nとして選択する。また、注目受信部24
nが受信した信号を受信信号F
n(jω)で表わす。なお、添字のnは、基準受信部24
0から数えて何番目の受信部かを表わしている。ビーム送信ペア25から超音波ビームが送信された後、注目受信部24
nに受信信号F
n(jω)が受信されるまでにかかった時間を第2時間とする。注目受信部24
nは、基準受信部24
0よりもビーム送信ペア25から遠い位置にあるので、前記第2時間は、前記第1時間よりも長い。
【0067】
ここで、
図5(b)に示すように、基準信号(第1信号)R(jω)の伝播経路を第1伝播経路27、受信信号(第2信号)F
n(jω)の伝播経路を第2伝播経路28とする。
図5(b)に示すように、第1伝播経路27において超音波信号が皮質骨10中を伝播する距離をx
0、第2伝播経路28において超音波信号が皮質骨10中を伝播する距離をx
nとする。また、第1伝播経路27において漏洩波が軟組織11中を伝播する距離をx
0soft、第2伝播経路28において漏洩波が軟組織11中を伝播する距離をx
nsoftとする。
【0068】
超音波信号は、皮質骨10の中を伝播する距離が長いほど、当該皮質骨10から受ける影響が大きくなる。同様に、超音波信号は、軟組織11の中を伝播する距離が長いほど、当該軟組織11から受ける影響が大きくなる。第1伝播経路27と第2伝播経路28では、超音波信号が皮質骨10中を伝播する距離と、軟組織11中を伝播する距離と、がそれぞれ異なるので、伝播する超音波信号が皮質骨10及び軟組織11から受ける影響の大きさも異なる。
【0069】
例えば、第2伝播経路28を伝播して注目受信部24
nに受信される受信信号F
n(jω)は、第1伝播経路27を伝播して基準受信部24
0に受信される基準信号R(jω)に比べて、皮質骨10中を伝播した距離の差(x
n−x
0)だけ皮質骨10の影響を多く受け、軟組織11中を伝播した距離の差(x
nsoft−x
0soft)だけ軟組織11の影響を多く受ける。
【0070】
以上の点を考慮すれば、基準信号R(jω)と受信信号F
n(jω)の関係は、伝達関数をH
n(jω)を用いて以下のように記述できる。伝達関数H
n(jω)は、基準信号R(jω)の伝播経路27と、受信信号F
n(jω)の伝播経路28と、の違いをモデル化したものである。
【0072】
ところで、皮質骨10の表面と、振動子24が並ぶ方向(
図5の左右方向)と、が平行とみなせる場合は、第1伝播経路27で超音波信号が軟組織11中を伝播する距離x
0softと、第2伝播経路28で超音波信号が軟組織11中を伝播する距離x
nsoftは、同じとみなせる。このようにみなすと、第1伝播経路27と第2伝播経路28の違いは、皮質骨10中を信号が伝播する距離の差(x
n−x
0)のみであると考えることができる。この場合、伝達関数H
n(jω)は軟組織11の影響を考慮する必要が無いので、伝達関数H
n(jω)が簡単になる。具体的には、当該伝達関数H
n(jω)は、皮質骨10の音速SOS[m/s]、皮質骨10の広帯域超音波減衰係数BUA[dB/Hz/m]、及び伝播距離の差(x
n−x
0)[m]を用いて以下の式で記述できる。
【0074】
ここで、数式2中の(a)の部分は、皮質骨10中のBUAによる周波数の減衰を表しており、数式2中の(b)の部分は、皮質骨10中を音速SOSで伝播することによる信号の位相の遅れを表している。なお、数式2中のt
0は、演算回路の遅延などに起因する位相の遅れである。
【0075】
次に、本実施形態の超音波診断装置1におけるSOS及びBUAの測定原理について説明する。
【0076】
上記のように、伝達関数H
n(jω)には4つのパラメータ(SOS、BUA、(x
n−x
0)、及びt
0)が含まれている。これらのパラメータを仮定することにより、仮の伝達関数H
n(jω)を設定することができる。本実施形態の演算部35は、このようにして仮の伝達関数H
n(jω)を設定する伝達関数設定部41としての機能を有している。
【0077】
また、演算部35は、信号合成部42としての機能を有している。信号合成部42は、伝達関数設定部41が設定した仮の伝達関数H
n(jω)を基準信号R(jω)に適用することにより、合成信号G
n(jω)を生成する。具体的には、信号合成部42は、以下の数式3によって合成信号G
n(jω)を生成する。なお、数式3の分母は、合成信号G
n(jω)を規格化するためのものである。
【0079】
数式3の伝達関数H
n(jω)が、伝播経路27と伝播経路28の違いを適切にモデル化したものであれば、合成信号G
n(jω)と受信信号F
n(jω)は一致する。しかし、数式3の伝達関数H
n(jω)は、伝達関数設定部41が設定した仮の伝達関数であるから、合成信号G
n(jω)と受信信号F
n(jω)が一致するとは限らない。そこで、演算部35は、合成信号G
n(jω)と受信信号F
n(jω)の一致度を求める一致度算出部43としての機能を有している。
【0080】
本実施形態において、一致度算出部43は、合成信号G
n(jω)と受信信号F
n(jω)の一致度の指標として、両者の内積<F
n,G
n>を以下の数式4で求める。合成信号G
n(jω)と受信信号F
n(jω)が規格化されている場合、両者が一致していれば内積<F
n,G
n>は1となり、両者が一致しなければ内積<F
n,G
n>は1よりも小さくなる。このように、内積<F
n,G
n>を、合成信号G
n(jω)と受信信号F
n(jω)の一致度の指標として利用できる。
【0082】
伝達関数設定部41が設定した仮の伝達関数H
n(jω)が、伝播経路27と伝播経路28の違いを適切にモデル化できていれば、合成信号G
n(jω)と受信信号F
n(jω)は一致するので、内積<F
n,G
n>は1となる。一方、適切にモデル化できていない場合は、合成信号G
n(jω)と受信信号F
n(jω)は一致しないので、内積<F
n,G
n>は1よりも小さくなる。そこで、内積<F
n,G
n>が最大になったときに、伝達関数H
n(jω)が、伝播経路27と伝播経路28の違いを適切にモデル化できていると判断できる。
【0083】
以上を踏まえたうえで、
図2及び
図3のフローチャートを参照して、本実施形態の超音波診断装置1を用いたSOS及びBUAの測定方法について説明する。
【0084】
本実施形態の超音波診断装置で皮質骨10のBUA及びSOSを測定する際には、まず、被測定体である皮質骨10の表面形状の検出を行う(ステップS101、形状検出工程)。オペレータは、診断対象である人体表面(皮膚)に、超音波送受波器2の当接面2aを当接させた状態で、所定の測定開始操作を行う。当該測定開始操作が行われると、送信回路31は、振動子アレイ22の各振動子24に対して、電気パルス信号を同じタイミングで印加する。これにより、各振動子24から同じタイミングで体内に向けて超音波が送波されるので、振動子24が並ぶ方向と直交する方向に進行する平面波が送信される(
図4(a))。
【0085】
振動子アレイ22から送信された平面波は、軟組織11中を進行し、皮質骨10の表面で反射して反射波を発生させる(
図4(b))。この反射波は、振動子アレイ22が備える複数の振動子24のうち、少なくとも一部の振動子24に受信される。各振動子24で受信された信号は、受信回路33でフィルタリング、サンプリング等適宜の処理を施されて、演算部35に出力される。
【0086】
演算部35は、皮質骨10の表面形状を検出する形状検出部40としての機能を備えている。形状検出部40は、各振動子24に受信された信号の到来角度を検出し、これに基づいて皮質骨10の表面形状を検出する。なお、皮質骨10の表面形状を検出する構成は特許文献1に記載されているので、詳細な説明は省略する。
【0087】
続いて、送信回路31が、皮質骨10に向けて
図5(a)のように超音波ビームを送信する(ステップS102、送信工程)。前記超音波ビームは皮質骨10の表面近傍を伝播し、当該皮質骨10の表面から軟組織11中に再放射された漏洩波(
図5(b))が、振動子24に受信される(ステップS103、受信工程)。
【0088】
前記漏洩波が複数の振動子24で受信されると、演算部35は、当該複数の振動子24の中から、基準受信部(第1受信部)24
0と注目受信部(第2受信部)24
nを選択する(ステップS104)。前述のように、基準受信部24
0は、漏洩波を受信した振動子24のうち、ビーム送信ペア25に一番近い振動子とする。注目受信部は、漏洩波26を受信した他の受信部24
1、24
2…のうちの何れかであれば良い。
【0089】
演算部35は、注目受信部24
nで受信された受信信号F
n(jω)を規格化しておく(ステップS105)。
【0090】
以上のように受信信号F
n(jω)を取得する処理(ステップS102〜S105)と並行して、演算部35は、複数の合成信号G
n(jω)を生成する処理(ステップS106〜ステップS108)を行う。
【0091】
複数の合成信号G
n(jω)を生成するために、まず、伝達関数設定部41が複数の仮の伝達関数H
n(jω)を設定する。前述のように、伝達関数設定部41は、4つのパラメータ(SOS、BUA、(x
n−x
0)、及びt
0)を仮定することにより、仮の伝達関数H
n(jω)を設定することができる。
【0092】
ところで、本実施形態では、ステップS101で皮質骨10表面形状を検出しているので、スネルの法則を適用して超音波ビームの伝播経路をシミュレーションすることができる。このシミュレーションにより、伝播距離の差(x
n−x
0)を求めることができる。
【0093】
スネルの法則を適用して超音波ビームの伝播経路をシミュレーションするためには、軟組織11中の音速SOS
softの値と、皮質骨10中の音速SOSの値が必要である。軟組織11中の音速SOS
softは、経験値を用いれば良い。しかし、皮質骨10中の音速SOSは、まさに超音波診断装置1が測定しようとしているものであるから、予めその値を知ることはできない。そこで、伝達関数設定部41は、伝達関数H
n(jω)のパラメータとして仮定したSOSの値を用いて上記シミュレーションを行い、伝播距離の差(x
n−x
0)を求める。
【0094】
伝達関数設定部41は、上記シミュレーションによって求めた伝播距離の差(x
n−x
0)と、仮定した3つのパラメータ(SOS,BUA,及びt
0)を数式2に代入することにより、仮の伝達関数H
n(jω)を設定する。伝播距離の差(x
n−x
0)はパラメータSOSに依存しているので、結局、仮の伝達関数H
n(jω)の独立したパラメータは3つ(SOS,BUA,及びt
0)となる。
【0095】
上記3つのパラメータのうち、超音波診断装置1として有用な情報はSOS及びBUAの値であり、t
0は有用な情報ではない。そこで、早い段階でt
0を確定しておくことが演算負荷を低減する観点から好ましい。
【0096】
そこで本実施形態では、まずt
0を確定し、その後でSOS及びBUAを求める、というように2段階の処理を行う。まず伝達関数設定部41は、上記3つのパラメータのうち、SOSを適当な値に固定しておき(ステップS106)、BUAとt
0の値の組み合わせを互いに異ならせた複数の伝達関数H
n(jω)を設定する(ステップS107)。
【0097】
続いて、信号合成部42は、伝達関数設定部41が設定した伝達関数H
n(jω)を、ステップS104で選択された基準受信部24
0が受信した信号(基準信号R(jω))に適用することにより、合成信号G
n(jω)を生成する(ステップS108)。前述のステップS107においては複数の伝達関数H
n(jω)が設定されているので、信号合成部42は、前記複数の伝達関数H
n(jω)それぞれを基準信号R(jω)に適用することで、複数の合成信号G
n(jω)を生成する。これにより、BUA及びt
0の組み合わせそれぞれに対応した合成信号G
n(jω)が得られる。
【0098】
一致度算出部43は、受信信号F
n(jω)と、信号合成部42が生成した複数の合成信号G
n(jω)と、の内積<F
n,G
n>をそれぞれ算出する(ステップS109)。これにより、前述のBUA及びt
0の組み合わせそれぞれに対応した内積<F
n,G
n>が得られる。このようにして得られた複数の<F
n,G
n>の値を、BUA−t
0座標の各点にプロットすることで、
図6に示すような3次元曲面が得られる。
【0099】
演算部35は、パラメータ選択部44としての機能を有している。パラメータ選択部44は、上記3次元曲面において、内積<F
n,G
n>が最大値を示すときのt
0座標を求める。このときのt
0の値が、実際のt
0(演算回路の遅延などに起因する位相の遅れ)に一致していると考えられる。そこでパラメータ選択部44は、内積<F
n,G
n>が最大になるときのt
0の値を、t
0の測定値として採用する(ステップS110)。以上のようにして、伝達関数H
n(jω)の3つのパラメータのうち、不要なt
0の値を確定できる。
【0100】
続いて演算部35は、SOSとBUAの値を求める。
【0101】
伝達関数設定部41は、伝達関数H
n(jω)の3つのパラメータのうち、t
0の値をステップS110で求めた値に固定し、SOS(第1のパラメータ)とBUA(第2のパラメータ)の値の組み合わせを互いに異ならせた複数の伝達関数H
n(jω)を設定する(ステップS111、伝達関数設定工程)。
【0102】
続いて、信号合成部42は、伝達関数設定部41が設定した複数の伝達関数H
n(jω)を、それぞれ基準信号R(jω)に適用することにより、複数の合成信号G
n(jω)を生成する(ステップS112、信号合成工程)。これにより、前述のSOS及びBUAの組み合わせそれぞれに対応した合成信号G
n(jω)が得られる。
【0103】
一致度算出部43は、受信信号F
n(jω)と、信号合成部42が生成した複数の合成信号G
n(jω)と、の内積<F
n,G
n>をそれぞれ算出する(ステップS113、一致度算出工程)。これにより、前述のSOS及びBUAの組み合わせそれぞれに対応した内積<F
n,G
n>が得られる。このようにして得られた複数の<F
n,G
n>の値をSOS−BUA座標の各点にプロットすることで、
図7に示すような3次元曲面が得られる。
【0104】
なお、上記の処理では、BUAとSOSの値を変化させて内積<F
n,G
n>の値をプロットしていくので、離散的で粗い3次元曲面しか得ることができない。そこで本実施形態において、パラメータ選択部44は、上記のようにして求めた3次元曲面のガウス補間を行うように構成されている(ステップS114)。例えば、パラメータ選択部44は、Levenberg−Marquardt法などを利用することにより、BUA−SOS座標の各点の内積<F
n,G
n>の値にフィッティングする2次元ガウス関数を求める。
【0105】
そして、パラメータ選択部44は、上記のようにして求めた2次元ガウス関数に基づいて、内積<F
n,G
n>の値を最大化するBUA−SOS座標を算出する。パラメータ選択部44は、このときのBUAとSOSの組み合わせを、SOS及びBUAの測定値として採用する(ステップS115、パラメータ選択工程)。
【0106】
以上のようにして、本実施形態の超音波診断装置1は、皮質骨10の音速SOS(第1のパラメータ)と広帯域超音波減衰BUA(第2のパラメータ)の値を測定することができる。
【0107】
以上で説明したように、実施形態の超音波診断装置1は、ビーム送信ペア25と、基準受信部24
0と、注目受信部24
nと、伝達関数設定部41と、信号合成部42と、一致度算出部43と、パラメータ選択部44と、を備えている。ビーム送信ペア25は、皮質骨10に向けて信号を送信する。基準受信部24
0は、皮質骨10に入射した前記信号が当該皮質骨10を伝播して再び皮質骨10外に放射された基準信号R(jω)を受信する。注目受信部24
nは、皮質骨10に入射した前記信号が当該皮質骨10を基準信号R(jω)とは違う経路で伝播して再び皮質骨10外に放射された受信信号F
n(jω)を受信する。伝達関数設定部41は、基準信号R(jω)の伝播経路27と受信信号F
n(jω)の伝播経路28の違いを、皮質骨のSOS及びBUAをパラメータとして含んでモデル化した伝達関数H
n(jω)を設定する。信号合成部42は、皮質骨のSOSとBUAの組み合わせを互いに異ならせた複数の伝達関数H
n(jω)をそれぞれ基準信号R(jω)に適用することにより、前記SOSとBUAの組み合わせに対応した合成信号G
n(jω)を生成する。一致度算出部43は、各合成信号G
n(jω)と受信信号F
n(jω)の内積<F
n,G
n>をそれぞれ算出する。そして、パラメータ選択部44は、内積が最大値を示すときのSOSとBUAの組み合わせを求める。
【0108】
このように、合成信号G
n(jω)と受信信号F
n(jω)の内積<F
n,G
n>を求めることで、伝達関数設定部41が設定した伝達関数のH
n(jω)妥当性を判定できる。そして、内積<F
n,G
n>を最大化するパラメータを探すことにより、当該パラメータの値を確定できる。伝達関数は、伝播経路27と伝播経路28の違いのみをモデル化すれば良いので、伝播経路全体をモデル化する場合に比べて伝達関数が簡単になり、測定精度も向上する。
【0109】
次に、上記実施形態の第1変形例について説明する。
【0110】
上記実施形態では、複数の受信部24
1、24
2…24
n…のうち、1つの受信部24
nを注目受信部として選択したうえで、当該注目受信部24
nが受信した受信信号F
n(jω)と、基準受信部24
0が受信した基準信号R(jω)と、に基づいてBUA及びSOSを導出している。つまり上記実施形態では、2つの振動子(注目受信部24
nと基準受信部24
0)が受信した信号の情報しか利用していない。
【0111】
しかし、本実施形態の超音波診断装置1が備える振動子アレイ22によれば、複数の受信部24
1、24
2…24
n…で受信信号F
1(jω)、F
2(jω)…F
n(jω)…を得ることができるので、これら複数の受信部で得られた複数の信号の情報を利用することにより、より安定してSOSとBUAを求めることができると考えられる。
【0112】
そこで、複数の受信部24
1、24
2…24
n…が受信した受信信号F
1(jω)、F
2(jω)…F
n(jω)…と、各受信部について求めた合成信号G
1(jω)、G
2(jω)、…G
n(jω)…と、の内積の平均<F,G>
aveを、以下の式で定義する。
【0114】
上記実施形態と同様に、SOSとBUAの値の組み合わせを互いに異ならせて内積の平均<F,G>
aveを求め、<F,G>
aveが最大値を示したときのSOSとBUAの組み合わせを求める。このように、複数の受信部24
1、24
2…24
n…で得られた複数の信号を利用することにより、より安定してSOS及びBUAを求めることができる。
【0115】
次に、上記実施形態の第2変形例について説明する。
【0116】
上記実施形態では、皮質骨10の表面が、振動子24が並ぶ方向に対して平行であるとみなして説明した。これにより、伝達関数を簡単にすることができる。しかし、皮質骨10の表面が湾曲している場合、基準受信部24
0に対する漏洩波の到来角度φ
0と、注目受信部24
nに対する漏洩波の到来角度φ
nは異なる(
図5(b)参照)。振動子24には指向性があるため、到来角度φ
0とφ
nが大きく違う場合には、指向性の影響を無視できない場合がある。
【0117】
基準信号R(jω)に対して、到来角度の違いによって受信信号F
n(jω)が受けた影響を表す伝達関数をH
directivity,?n(jω)とすれば、指向性の影響を組み込んだ伝達関数H'
n(jω)は、以下の数式6で定義できる。なお、伝達関数H
directivity,?n(jω)は、振動子24の受信特性と、注目受信部24
nに対する漏洩波の到来角度φ
nによって決まる。演算部35は、信号の伝播経路に基づいて到来角度φ
nを算出し、これに基づいて伝達関数H
directivity,?n(jω)を求めることができる。
【0119】
また、皮質骨10の表面が、振動子24が並ぶ方向に対して平行でない場合、第1伝播経路27と第2伝播経路で、軟組織11中の漏洩波の伝播距離を同じとみなせない場合がある。例えば
図5(b)の場合、第2伝播経路28は、第1伝播経路27に比べて、軟組織11中を漏洩波が伝播する距離が(x
nsoft−x
0soft)だけ短くなっている。軟組織11中を伝播する距離の差(x
nsoft−x
0soft)が大きい場合、軟組織11のBUA(軟組織BUA)と、軟組織11中のSOS(軟組織SOS)の影響を無視できない。
【0120】
基準信号R(jω)に対して、軟組織11中の漏洩波の伝播距離の差(x
nsoft−x
0soft)によって受信信号F
n(jω)が受けた軟組織BUAの影響を表す伝達関数をH
SoftAbsorption,?n(jω)、軟組織SOSの影響を表す伝達関数をH
SoftSpeed,n(jω)とすれば、軟組織BUAと軟組織SOSの影響を組み込んだ伝達関数H''
n(jω)は、以下の数式7で定義できる。なお、数式7中のBUA
softは、軟組織11中のBUAであり、経験値を用いることができる。ただし、このBUA
softをパラメータとしても良い。数式7中のSOS
softは、軟組織11中のSOSであり、経験値を用いることができる。ただし、このSOS
softをパラメータとしても良い。演算部35は、形状検出部40が検出した皮質骨10の形状に基づいて超音波ビームの伝播経路をシミュレーションすることにより距離x
nsoft−x
0softを算出し、これに基づいて伝達関数H
SoftAbsorption,?n(jω)と伝達関数H
SoftSpeed,n(jω)を求めることができる。
【0122】
更に、指向性の影響と、軟組織BUA及び軟組織SOSの影響と、の両方を組み込んだ伝達関数H'''
n(jω)を以下の数式8で定義することもできる。
【0124】
指向性の影響を組み込んだ伝達関数H'
n(jω)や、軟組織の影響を組み込んだ伝達関数H''
n(jω)、あるいは両者の影響を組み込んだ伝達関数H'''
n(jω)を、数式2の伝達関数H
n(jω)の代わりに用いることができる。これにより、皮質骨10の表面が大きく湾曲している場合であっても、SOS及びBUAを正確に測定できる。
【0125】
以上に本発明の好適な実施の形態及び変形例を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0126】
上記実施形態では、皮質骨10に対してビームを送信するための送信部として、隣り合う2つの振動子24からなるビーム送信ペア25を利用しているが、例えば特許文献1に記載の音速測定装置のように、ビームを送信するための専用の振動子(送信部)を備えていても良い。
【0127】
上記実施形態では、漏洩波を受信した振動子24のうち、ビーム送信ペア25に一番近い振動子24を基準受信部(第1受信部)24
0としたが、皮質骨10からの漏洩波を受信した振動子24であれば何れも基準受信部(第1受信部)とすることができる。
【0128】
上記実施形態ではSOS及びBUAを同時に測定しているが、SOSのみ、又はBUAのみを測定しても良い。
【0129】
上記実施形態では、受信信号F
n(jω)を取得する処理(ステップS102〜S105)と、複数の合成信号G
n(jω)を生成する処理(ステップS106〜ステップS108)と、を並行して行っているが、これらの処理は逐次実行しても良い。
【0130】
上記実施形態では、ステップS114においてガウス補間を行うものとしたが、3次元曲面に適用できる補間方法であれば、他の補間法を用いても良い。もっとも、ステップS114の補間は省略することもできる。
【0131】
上記実施形態では、合成信号G
n(jω)と受信信号F
n(jω)の一致度の指標として内積を求めているが、2つの信号の一致度としては内積以外の別の指標を用いても良い。
【0132】
上記実施形態の説明では、数式中で周波数領域表現を用いているが、各数式は時間領域で表現することもできる。従って、演算部35における実際の演算処理は、周波数領域で行ってもよいし、時間領域で行っても良い。
【0133】
上記実施形態では、皮質骨10中のSOS及びBUAを測定しているが、本願発明の測定装置が測定対象とする被測定体は皮質骨10に限定されない。例えば、軟組織11を被測定体とし、軟組織11の音速SOS
soft、及び軟組織11のBUA
softを本願発明の測定装置で測定することもできる。
【0134】
また、本願発明の測定装置は、人体を診断対象とした診断装置としての利用に限定されない。例えば、本願発明の測定装置を、非破壊検査の分野で利用できる。例えば、本願発明の測定装置でコンクリートのSOS及びBUAを測定することにより、コンクリート内部のクラックの有無などを判断できる。