特許第6151938号(P6151938)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6151938-熱放射材 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6151938
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】熱放射材
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20170612BHJP
   H05B 3/10 20060101ALI20170612BHJP
【FI】
   C23C26/00 C
   H05B3/10 B
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-54466(P2013-54466)
(22)【出願日】2013年3月17日
(65)【公開番号】特開2014-181345(P2014-181345A)
(43)【公開日】2014年9月29日
【審査請求日】2016年3月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】309017747
【氏名又は名称】株式会社 日本熱放射材研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100151471
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】小倉 豊史
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−221653(JP,A)
【文献】 特開昭56−121661(JP,A)
【文献】 特開2001−099497(JP,A)
【文献】 特公昭47−030085(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/10
C09D 1/00− 10/00
C09D 101/00−201/10
C23C 24/00− 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄マンガン酸化物の粉末とシリカの粉末を主原料とし、さらに少なくとも、炭化ケイ素.9〜8.4%、酸化鉄9.5〜10.1%、酸化アルミニウム2.3〜2.5%を混合した組成物を基材とし、溶剤として水を加えたことを特徴とする鉄板表面に塗装可能な熱放射材。
【請求項2】
請求項1に記載の熱放射材であって、
鉄マンガン酸化物とシリカの重量比が略3対2であることを特徴とする熱放射材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温の炉の内壁面に塗布して、炉の温度を上昇させ、炉内の放射伝熱を増大する熱放射材に関する。
【背景技術】
【0002】
熱放射材は、化学反応炉はじめ、加熱炉など高温となる各種設備の内部で放射伝熱の向上のために、炉内壁に塗布して、主に使用するものであるが、石油化学部門ではチューブの外表面に塗布し、輻射熱吸収によりチューブ内の媒体の昇温にも使われる。
【0003】
従来、熱放射材としては、炭化ケイ素(SiC)、クロマイト(Cr)及び酸化チタン(TiO2)を基材とするものが知られている。炭化ケイ素を基材とする熱放射材としては、例えば、H.R.CIII(株式会社日本熱放射材研究所の商品名)が販売されているが、炉内温度800℃程度までが適用領域である。また、クロマイトを基材とする熱放射材としては、例えば、H.R.C(同じく上記研究所の商品名)が販売されているが、炉内温度1、000℃以上まで適用できる。
【0004】
さらに、酸化チタン(TiO)を基材とする熱放射材としては、例えば、H.R.CII(同じく上記研究所の商品名)が販売されているが、基材の酸化チタン(TiO2)は、H、またはCO雰囲気の炉内で、高温で加熱されると、還元酸化チタン(Ti3、Ti、・・・Ti2n-1)に変化し、近赤外線をよく吸収し、高放射性であって、加熱炉の内壁表面に還元酸化チタンの塗膜を焼付け形成すると、炉内における放射伝熱は飛躍的に増大し、その適用領域は1,000℃以上となる。
【0005】
これらの熱放射材のそれぞれの特徴を生かして、選択することが重要であるが、いずれの熱放射材も、鉄板に塗布しようとすると鉄板表面との親和性が悪く、剥離が生じるという問題がある。
一方、鉄板の表面に塗装可能で、かつ輻射率の高い赤外線輻射コーティング材としては、いくつか知られている。その一つは、有機系の材料を基材とした塗料が提案されている(特許文献1)が、輻射率は高々0.8以上であり、耐熱性は500℃とあまり高温には耐えられるものでなく、熱放射材としては限定的な使用しかできない。また耐熱性でみると、オキツモ(オキツモ株式会社商品名)が耐熱塗料として知られているが、耐熱は高々650℃以下であり、錆止め、美観用に使用されるに過ぎない。輻射率については、ハンガリー製のものに、0.9位のものが報告されているが、耐熱は350℃であり、熱放射材としては、これも適用範囲が限定的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−288152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、鉄板表面に塗装可能な熱放射材であって、輻射率が0.9以上と高く、かつ700℃から1,500℃の高温に耐えることができ、コスト的にも十分低く提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、係る問題に鑑みなされたものであって、鉄マンガン酸化物とシリカの混合した組成物を基材とし、希釈剤として水を加えたことを特徴とする鉄板表面に塗装可能な熱放射材である。
【0009】
反応炉、加熱炉や熱交換器では、反応や加熱を効率良く行って経済性を上げるために、バーナーなどの熱源からのエネルギー投入量を抑えて、炉の温度をできるだけ高くすることが望まれている。
【0010】
炉の内壁を熱放射材で覆うと、輻射率が高い材質の方が、より多くの熱を吸収するので、炉壁の温度が上がり、内壁からの放射伝熱量が増大して、内部の構造物や被加熱材の温度を上げることができる。このとき、熱放射材自身も高熱にさらされるので、耐熱性も同時に求められる。
【0011】
炉の温度がより高温になる結果、被加熱物の温度をより短時間で上昇させることができるので、エネルギーの投入量と時間が短くなり、トータルの消費エネルギーは減少する。また、このとき、排気の温度が著しく下がり、無駄に廃棄されるエネルギーが減少するので、高効率であり、省エネルギーを実現できる。
【0012】
また、炉内での使用以外では、例えば、太陽熱発電に使われる集光管の外部表面に塗布することが考えられる。この例では、太陽光を集光して鉄管に照射し、管内の媒体の温度をあげ、この媒体の熱で水蒸気を発生して発電タービンを回して発電するのである。したがって、エネルギー源である太陽光を高い吸収率で吸収することが望まれる。
【0013】
物質に光を照射すると一部は反射され、一部は吸収される。したがって、
反射率+吸収率=1 式1
が成立する。一方吸収された光は、熱エネルギーに変換され、物質を温める働きをするが、物資は、その絶対温度Tの4乗に比例する電磁波を輻射する。定常状態では、吸収エネルギーと輻射エネルギーは等しいので、
吸収率=輻射率 式2
従って、式1と式2より
反射率+輻射率=1 式3
が成立する。
【0014】
要は、輻射率の高い物質は、それだけ光の吸収率も高いことを意味する。
従って、輻射率の高い熱放射材を集光管の外部表面に塗ると、太陽光を高い吸収率で吸収し、その結果、集光管の表面に塗られた熱放射材がその分高温になり、鉄管が高温になった熱放射材より、熱伝導により熱をうけて高温になり、その結果、鉄管内を流れる媒体も、高温となった鉄管より熱伝導により熱を受けて、高温になる。管内に流れる媒体を高温に加熱できればできるほど発電効率を上げることができることになるので、鉄管表面に塗られる熱放射材は、当然、耐熱性が同時に求められる。
【0015】
これらの炉の内壁や集光管の外部表面などに、本発明の鉄板表面に塗装可能な熱輻射材を用いれば、簡易に、低コストで、より高温が得られて、無駄になるエネルギーを少なくできて、経済性を上げられる。
本発明の熱輻射材の材料は、鉄、マンガン、シリコンの酸化物であり、いずれも容易に入手できて、資源としての量も多く、コストも安い。
【発明の効果】
【0016】
輻射率が高く、摂氏700から1、500℃の高温に耐えることができ、かつ鉄板表面に塗装可能な熱放射材を安価に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】輻射率のグラフ
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0018】
本発明の熱放射材は、主成分として、鉄マンガン酸化物と、シリカと、無機結合材とを含み、水を希釈剤とした塗料である。
【0019】
まず、鉄マンガン酸化物の粉末と、シリカの粉末を主原料とし、さらに少量の炭化ケイ素、酸化鉄、酸化アルミニウム等を混合して、中間混合物を作成する。該中間混合物の成分を、蛍光X線分析装置(リガク社製、ZSX100e)を用いて、ブリケット法による蛍光X線分析を行った。具体的には、プレス機を用いて黒色顔料と該中間混合物を円盤状サンプルに成型し、該円盤状サンプルを蛍光X線分析装置のホルダーにセットし、蛍光X線強度を測定した。FP定量法にて定量値を求め、あらかじめ測定しておいた黒色顔料のIg
loss値を用いて補正し、各元素の含有量を求めた。
【0020】
その結果、該中間混合物は、鉄マンガン酸化物(FeMn) 24.8〜25.3%、炭化ケイ素SiC 7.9〜8.4%、酸化鉄Fe 9.5〜10.1%、酸化アルミニウムAl 2.3〜2.5%、酸化カルシウムCaO 1.7〜1.9%、酸化カリウムKO 0.7〜0.9%、酸化マンガンMnO 0.3〜0.5%、シリカSiO 16.3〜16.8%であった。
【0021】
該中間混合物の上記主成分に加えて、通常の耐熱塗装材と同様に、副成分として無機接着材を加える。
【0022】
さらに希釈剤としては水を用い、固形分65重量%に対して、残量は水となるように稀釈する。
【0023】
またさらに、上記の主成分と副成分に加えて、可塑剤、増粘剤等の通常塗装材に用いられる添加剤を必要に応じて適宜添加してもよい。
【0024】
以上の説明による熱放射材を鉄板としてのステンレスの板に塗装して、厚み30〜40μmの塗膜とし、塗膜の乾燥後に、摂氏710度以上で焼付けを行い、試験材を作成した。この試験材の耐熱試験を行なったところ、連続加熱試験及び間歇運転試験(昇温1、350℃〜下温700℃の繰り返し試験)を15回行った結果、塗膜の亀裂や剥離などの変化は無かった。
【0025】
また、この試験材の輻射率を、神奈川県産業技術センターにおいて測定した結果を図1に示す。図1より、摂氏710度で、1.50〜14.00μmの波長において、平均して輻射率0.89と高い輻射率が得られた。当センターでは710℃しか測定できず、弊社の輻射計(米国製カンタムロジック社型式1310)では1、250℃で0.92の値を示している。
【産業上の利用可能性】
【0026】
各種プラントにおいては、効率あるいは収率を高めるために、高温で運転する反応炉などの装置がある。また、太陽熱発電装置では、高温溶融塩を使った、効率の高い方式が開発されている。本発明の鉄板に塗装可能な熱放射材を上記装置に使用することで、同じエネルギーで、より高温での運転が可能であり、効率の改善が図れる。
図1