(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
環状のタイヤの全体、又は前記タイヤの少なくとも一部の解析対象部に基づいて、数値解析用の三次元のタイヤモデルを、コンピュータを用いて作成するための方法であって、
前記コンピュータに、有限個の三次元の要素を用いて、前記解析対象部をタイヤ回転軸の回りの曲率を持たないように真っ直ぐにモデル化した第1タイヤモデルを入力する工程と、
前記コンピュータが、前記第1タイヤモデルを、前記解析対象部の前記タイヤ回転軸の回りの曲率に基づいて湾曲した第2タイヤモデルに変形させる変形工程とを含むことを特徴とするタイヤモデルの作成方法。
前記解析対象部は、踏面と、前記踏面から凹む溝とを有するトレッドパターンを具えたトレッド部の少なくとも一部である請求項1乃至5のいずれかに記載のタイヤモデルの作成方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トレッド部等の解析対象部は、タイヤ回転軸の回り及びタイヤ子午線断面方向の両方向に曲率を持っている。このような解析対象部では、要素潰れを防ぎつつ、タイヤ周方向及びタイヤ軸方向の両方向で隣り合う分割面を、例えば、平行に揃えることができない。このため、従来では、解析対象部の全ての範囲を自動分割するのに多くの処理時間が必要になるか、又は全ての範囲を自動分割できないという問題があった。また、コンピュータが要素分割できなかった部分は、オペレータが手動で分割する必要があり、オペレータの熟練、及び多くの時間が必要になるという問題があった。
【0006】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、オペレータの熟練を必要とすることなく、数値解析用のタイヤモデルを短時間で作成しうる方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、環状のタイヤの全体、又は前記タイヤの少なくとも一部の解析対象部に基づいて、数値解析用の三次元のタイヤモデルを、コンピュータを用いて作成するための方法であって、前記コンピュータに、有限個の三次元の要素を用いて、前記解析対象部をタイヤ回転軸の回りの曲率を持たないように真っ直ぐにモデル化した第1タイヤモデルを入力する工程と、前記コンピュータが、前記第1タイヤモデルを、前記解析対象部の前記タイヤ回転軸の回りの曲率に基づいて湾曲した第2タイヤモデルに変形させる変形工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る前記タイヤモデルの作成方法は、前記第1タイヤモデルの前記要素は、全て六面体要素であるのが望ましい。
【0009】
本発明に係る前記タイヤモデルの作成方法は、前記第1タイヤモデルの前記要素の各節点は、直交座標系に基づいた座標値が前記コンピュータに入力されており、前記変形工程では、前記第1タイヤモデルの前記節点の前記座標値が変換された円筒座標系の座標値から、前記第2タイヤモデルが設定されるのが望ましい。
【0010】
本発明に係る前記タイヤモデルの作成方法は、前記変形計算の後、前記第2タイヤモデルの前記節点の前記座標値を直交座標系に変換する工程をさらに含むのが望ましい。
【0011】
本発明に係る前記タイヤモデルの作成方法は、前記第1タイヤモデルは、タイヤ周方向で隣り合う前記要素の分割面が複数設けられ、前記分割面は、前記第1タイヤモデルの踏面に直交する平面であるのが望ましい。
【0012】
本発明に係る前記タイヤモデルの作成方法は、前記解析対象部は、踏面と、前記踏面から凹む溝とを有するトレッドパターンを具えたトレッド部の少なくとも一部であるのが望ましい。
【0013】
本発明に係る前記タイヤモデルの作成方法は、前記溝は、タイヤ周方向に真っ直ぐにのびている縦溝を含むのが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のタイヤモデルの作成方法は、コンピュータに、有限個の要素を用いて、環状のタイヤの全体、又は前記タイヤの少なくとも一部の解析対象部を、タイヤ回転軸の回りの曲率を持たないように真っ直ぐにモデル化した第1タイヤモデルを入力する工程と、コンピュータが、第1タイヤモデルを、解析対象部のタイヤ回転軸の回りの曲率に基づいて湾曲した第2タイヤモデルに変形させる変形工程とを含む。
【0015】
第1タイヤモデルは、タイヤ回転軸の回りの曲率を持たないため、タイヤ周方向で隣り合う要素の分割面を、平行に揃えることができる。これにより、第1タイヤモデルの要素分割には、例えば、タイヤ回転軸の回り及びタイヤ子午線断面方向の両方向に曲率を持つモデルに比べて、全ての範囲を短時間で自動分割することができる。従って、本発明の作成方法では、オペレータの熟練を必要とすることなく、解析対象部を容易かつ短時間で分割することができる。さらに、第1タイヤモデルは、解析対象部の曲率に基づいて変形されるため、第2タイヤモデルを解析対象部に精度良く近似させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本発明のタイヤモデルの作成方法(以下、単に「作成方法」ということがある)は、環状のタイヤの全体、又はタイヤの少なくとも一部の解析対象部に基づいて、数値解析用の三次元のタイヤモデルを、コンピュータを用いて作成するための方法である。本実施形態の解析対象部は、タイヤのトレッド部の一部である場合が例示される。
【0018】
図1に示されるように、コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含む。この本体1aには、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリー、磁気ディスクなどの記憶装置及びディスクドライブ装置1a1、1a2などが設けられる。なお、記憶装置には、本実施形態の作成方法を実行するための処理手順(プログラム)が予め記憶されている。
【0019】
図2に示されるように、タイヤ2のトレッド部3は、カーカス(図示省略)のタイヤ半径方向外側に配されるトレッドゴム3Gが設けられている。トレッドゴム3Gには、踏面5と、踏面5から凹む溝6とを有するトレッドパターンが設けられている。溝6には、例えば、タイヤ周方向に真っ直ぐにのびる縦溝6A、及び縦溝6Aと交差する向きにのびる横溝6Bが含まれている。
【0020】
図3には、本実施形態の作成方法の具体的な処理手順が示される。
本実施形態の作成方法では、先ず、コンピュータ1に、
図2に示す解析対象部7(本実施形態では、トレッド部3の一部)を、真っ直ぐにモデル化した第1タイヤモデルが入力される(初期工程S1)。
図4には、本実施形態の初期工程S1の具体的な処理手順が示される。
【0021】
本実施形態の初期工程S1では、先ず、コンピュータ1に、解析対象部7(
図2に示す)の輪郭データが入力される(工程S11)。
図5に示されるように、本実施形態の輪郭データ11は、例えば、二次元で描かれたトレッドパターン設計図に基づいて、タイヤ回転軸4(
図2に示す)の回りの曲率を持たない三次元のトレッド部3(
図2に示す)の一部の輪郭が設定される。輪郭データ11の入力には、例えば、CAD等のソフトウェアが用いられる。
【0022】
輪郭データ11には、タイヤ2(
図2に示す)の縦溝6A及び横溝6Bを含むトレッドパターンが設定されている。本実施形態の輪郭データ11は、上述のように、タイヤ回転軸4(
図2に示す)の回りの曲率を持たない。このため、輪郭データ11は、二次元の設計図に基づいて、例えば、サイピング等が設けられたトレッドパターンも忠実に再現しうる。本実施形態の輪郭データ11は、縦溝6A及び横溝6Bの溝底が省略されている。
【0023】
輪郭データ11には、トレッド部3の輪郭形状を特定しうる複数個の座標値が含まれる。本実施形態の座標値は、X軸、Y軸及びZ軸を含む直交座標系に基づいて定義されている。本実施形態では、輪郭データ11のタイヤ周方向の位置がX軸の座標値で特定される。また、輪郭データ11のタイヤ半径方向の位置は、Y軸の座標値で特定される。さらに、輪郭データ11のタイヤ軸方向の位置は、Z軸の座標値で特定される。
【0024】
次に、コンピュータ1が、輪郭データ11を、数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素に分割する(工程S12)。
図6に示されるように、工程S12では、輪郭データ11の内部空間が、有限個の要素12によって分割される。これにより、タイヤ回転軸4(
図2に示す)の回りの曲率を持たない第1タイヤモデル13が設定される。数値解析法としては、例えば有限要素法、有限体積法、差分法又は境界要素法が適宜採用できるが、本実施形態では有限要素法が採用される。
【0025】
第1タイヤモデル13は、タイヤ周方向及びタイヤ軸方向で隣り合う要素12、12の分割面14が複数設けられている。
図6及び
図7に示されるように、本実施形態の要素12は、全て、三次元の六面体要素12Aである。第1タイヤモデル13は、タイヤ回転軸4(
図2に示す)の回りの曲率を持たないため、タイヤ周方向で隣り合う要素12、12の分割面14を、平行に揃えることができる。これにより、第1タイヤモデル13は、分割面14、14の重なりによる要素潰れを防ぐことができる。
【0026】
従って、工程S12では、例えば、タイヤ回転軸4(
図2に示す)の回り及びタイヤ子午線断面方向の両方向に曲率を持つタイヤモデル(輪郭データ)を要素分割する場合に比べて、コンピュータ1が、輪郭データ11の全ての範囲を短時間で自動分割することができる。これにより、工程S12では、オペレータが手動で分割する必要がないため、オペレータの熟練を必要とすることもない。
【0027】
タイヤ周方向で隣り合う要素12、12の分割面14は、第1タイヤモデル13の踏面5に直交する平面であるのが望ましい。これにより、工程S12では、分割面14の重なりによる要素潰れを確実に防いで、輪郭データ11の内部空間を自動分割することができる。
【0028】
各要素12には、要素番号、節点16の番号、節点16の座標値、並びに、材料特性(例えば密度、ヤング率又は減衰係数等)などの数値データが定義される。また、各節点16i(i=1、2、3、…)の座標値は、直交座標系に基づいて、座標値(Xi、Yi、Zi)で定義されている。これらの各要素12の数値データは、コンピュータ1に記憶される。なお、節点16は、第1タイヤモデル13(
図6に示す)の幅方向の中心点に、少なくとも配置されるのが望ましい。これにより、後述する変形工程S2において、第1タイヤモデル13から第2タイヤモデル18(
図10に示す)に、精度良く湾曲させることができる。
【0029】
輪郭データ11の要素分割は、コンピュータ1が、メッシュ化ソフトウェア(例えば、米国Pointwise社製メッシュジェネレータ「Gridgen 」等)を用いて処理することができる。
【0030】
次に、コンピュータ1が、第1タイヤモデル13を第2タイヤモデル18に変形させる(変形工程S2)。本実施形態の変形工程S2では、第1タイヤモデル13の各節点16i(
図6に示す)の座標値(Xi、Yi、Zi)が、解析対象部7(本実施形態では、トレッド部3)のタイヤ回転軸の回りの曲率に基づいて、円筒座標系の座標値に変換される。この変換された円筒座標系の座標値により、湾曲する第2タイヤモデル18(
図8及び
図10に示す)が設定される。
【0031】
図9に示されるように、円筒座標系は、例えば、Y軸の正の方向から測った角度θ1と、原点pを基準とする二次元平面上の半径r1と、原点pを基準とするZ軸の正の座標値z1とで定義される座標系である。このような円筒座標系は、例えば、軸対象な輪郭形状を特定するのに有効である。
【0032】
図10に示されるように、第2タイヤモデル18の各節点16iのタイヤ周方向の位置は、Y軸を基準とする角度θiで特定される。また、第2タイヤモデル18の各節点16iのタイヤ半径方向の位置は、原点19を基準とする半径Riで特定される。さらに、第2タイヤモデル18のタイヤ軸方向の位置は、第1タイヤモデル13と同様に、Z軸の座標値Ziで特定される。従って、第2タイヤモデル18の各節点16iは、円筒座標系において、座標値(Ri、θi、Zi)で定義される。
【0033】
図11には、本実施形態の変形工程S2の具体的な処理手順が示される。
本実施形態の変形工程S2は、先ず、第1タイヤモデル13の各節点16のX軸の座標値Xi(
図6に示す)が、第2タイヤモデル18の各節点16の角度θi(
図10に示す)に変換される(工程S21)。この工程S21での変換には、下記式(1)が用いられる。
θi=α/L1×Ai … (1)
ここで、
L1:第1タイヤモデルのタイヤ周方向の長さ
α:長さL1に対するタイヤの中心角
Ai:長さL1に対する各節点16の座標値Xiの相対距離
【0034】
上記式(1)において、比α/L1は、第1タイヤモデル13のタイヤ周方向の長さL1に対するタイヤ2(
図2に示す)の中心角αの比である。このような比α/L1は、解析対象部7(本実施形態では、トレッド部3)の曲率に基づくものである。比α/L1は、例えば、第1タイヤモデル13のタイヤ周方向の任意の長さが乗じられることにより、任意の長さに対するタイヤ2の中心角を求めることができる。
【0035】
長さL1に対するタイヤ2の中心角αは、例えば、下記式(2)を用いて計算することができる。
α=L1×360/2πr … (2)
ここで、定数及び変数は、下記に示すものを除いて、上記式(1)と同一である。
r:タイヤの半径(
図2に示す)
【0036】
タイヤの半径rは、タイヤ2(
図2に示す)が試作されていない場合、設計図面(構造図)に基づいて特定されるのが望ましい。また、タイヤ2が試作されている場合は、正規リムにリム組みされ、かつ正規内圧が充填された無負荷の正規状態において特定されてもよい。
【0037】
「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば標準リム、TRAであれば "Design Rim" 、或いはETRTOであれば "Measuring Rim" を意味する。
【0038】
「正規内圧」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" とする。
【0039】
上記式(1)において、相対距離Aiは、第1タイヤモデル13の一端13sを基準(相対距離Ai=0)として、各節点16iのX軸の座標値Xiのタイヤ周方向の相対長さである。なお、第1タイヤモデル13の他端13tを構成する節点16の相対距離Aiは、L1になる。
【0040】
本実施形態では、第2タイヤモデル18の一端18s(第1タイヤモデル13の一端13s)を構成する節点16の角度θiが、0度に設定される。即ち、第2タイヤモデル18の一端18sの節点16が、Y軸上に配置される。このため、上記式(1)の比α/L1に、各節点16iの相対距離Aiが乗じられることにより、Y軸(1タイヤモデル13の一端13s)を基準とする第2タイヤモデル18の各節点16iの角度θiが求められる。各節点16iの角度θiは、コンピュータ1に記憶される。
【0041】
このように、本実施形態の工程S21では、解析対象部7(本実施形態では、トレッド部3)の曲率に基づいて、第1タイヤモデル13の各節点16のX軸の座標値Xi(
図6に示す)が、第2タイヤモデル18の各節点16の角度θi(
図10に示す)に変換される。このため、第2タイヤモデル18は、踏面5での各要素12のタイヤ周方向の長さ(直線長さ)L2の合計を、第1タイヤモデル13のタイヤ周方向の長さ(第2タイヤモデル18において円弧の長さ)L1に近似させることができる。従って、第2タイヤモデル18のトレッドパターンは、第1タイヤモデル13のトレッドパターンとの寸法誤差を最小限に抑えることができる。
【0042】
次に、第1タイヤモデル13の各節点16のY軸の座標値Yi(
図6に示す)が、第2タイヤモデル18の各節点16の半径Ri(
図10に示す)に変換される(工程S22)。
図2に示されるように、タイヤの半径rは、踏面5のタイヤ赤道C付近で測定される。このため、工程S22では、先ず、タイヤ赤道C付近の踏面5の節点16iのY軸の座標値Yiが、タイヤ2の半径rに変換される。
【0043】
次に、タイヤ赤道C付近の踏面5以外の節点16iの座標値Yiが変換される。この節点16iの座標値Yiは、該節点16iと、タイヤ赤道C付近の踏面5の節点16iとのタイヤ半径方向の距離L3(
図7に示す)を、タイヤ2の半径r(
図2に示す)から減じた値(r−L3)に変換される。
【0044】
これにより、第1タイヤモデル13の全ての節点16のY軸の座標値Yiが、第2タイヤモデル18の半径Riに変換される。第2タイヤモデル18の各要素12は、第1タイヤモデル13の前記距離L3を維持することができるため、要素潰れを防ぐことができる。各節点16iの半径Riは、コンピュータ1に記憶される。
【0045】
次に、第1タイヤモデル13の各節点16のZ軸の座標値Zi(
図6に示す)が、第2タイヤモデル18の各節点16のZ軸の座標値Zi(
図10に示す)に変換される(工程S23)。本実施形態において、直交座標系のZ軸(
図6に示す)は、円筒座標系のZ軸(
図10に示す)と一致している。このため、第2タイヤモデル18の各節点16の座標値Ziには、第1タイヤモデル13の各節点16の座標値Ziがそのまま設定される。各節点16iの座標値Ziは、コンピュータ1に記憶される。
【0046】
次に、第2タイヤモデル18の各節点16iの座標値(Ri、θi、Zi)に基づいて、第1タイヤモデル13を湾曲させた第2タイヤモデル18が設定される(工程S24)。
【0047】
工程S24では、先ず、円筒座標系において、第2タイヤモデル18の各節点16iが、変換された座標値(Ri、θi、Zi)に基づいて配置される。そして、第2タイヤモデル18の各要素12は、座標値(Ri、θi、Zi)に基づいて、節点16、16間の距離、及び要素12の大きさが再定義される。これにより、
図10に示されるように、湾曲した第2タイヤモデル18が設定される。
【0048】
このように、変形工程S2では、解析対象部7(本実施形態では、トレッド部3)の曲率に基づいて変換された各節点16iの座標値(Ri、θi、Zi)を用いて、第2タイヤモデル18の変形が計算される。このため、変形工程S2では、オペレータによる手動分割を必要とすることなく、第2タイヤモデル18を、タイヤ2の解析対象部7に精度良く近似させることができる。
【0049】
次に、コンピュータ1が、路面をモデル化した路面モデル(図示省略)に接地させた第2タイヤモデル18の変形を計算する(シミュレーション工程S3)。このシミュレーション工程S3では、第2タイヤモデル18に予め定められた荷重条件が定義され、第2タイヤモデル18の物理量が計算される。
【0050】
このような第2タイヤモデル18の変形計算は、各要素の形状及び材料特性などをもとに、各要素12の質量マトリックス、剛性マトリックス及び減衰マトリックスがそれぞれ作成され、これらの各マトリックスを組み合わせて全体の系のマトリックスが作成される。そして、コンピュータ1が、各種の条件を当てはめて運動方程式を作成して、これらを単位時間Tx(x=0、1、…)ごと(例えば、1μ秒ごと)に、第2タイヤモデル18の変形計算を行う。このような転動計算は、例えば、LSTC社製のLS-DYNAなどの市販の有限要素解析アプリケーションソフトを用いて計算できる。
【0051】
次に、コンピュータ1が、第2タイヤモデル18の物理量が許容範囲内か否かが判断する(工程S4)。工程S4では、第2タイヤモデル18の物理量が許容範囲内と判断された場合、第2タイヤモデル18に基づいて、タイヤ2が製造される(工程S5)。一方、第2タイヤモデル18の物理量が許容範囲外と判断された場合には、例えば、溝6の各寸法等のタイヤ2が設計変更され(工程S6)、工程S1〜S4が再度実行される。これにより、本発明では、物理量が許容範囲内となるタイヤ2を確実に設計することができる。
【0052】
また、シミュレーション工程S3では、直交座標系に基づいて計算される場合がある。この場合、本実施形態の作成方法では、シミュレーション工程S3に先立ち、第2タイヤモデル18の節点16iの座標値が、円筒座標系から直交座標系に変換されるのが望ましい。
【0053】
円筒座標系から直交座標系への変換には、下記式(3)〜(5)を用いることができる。これにより、本実施形態では、第2タイヤモデル18の円筒座標系の座標値(Ri、θi、Zi)を、直交座標系の座標値(Xi、Yi、Zi)に変換することができる。従って、シミュレーション工程S3では、第2タイヤモデル18を用いた変形計算等を、迅速かつ正確に実施することができる。
Xi=Ri×sinθi … (3)
Yi=Ri×cosθi … (4)
Zi=Zi … (5)
【0054】
本実施形態の解析対象部7は、トレッド部3の一部である場合が例示されたが、これに限定されるわけではない。解析対象部7は、例えば、タイヤ周方向に連続するトレッド部3の全体であってもよい。これにより、トレッド部3の全体がモデル化された第2タイヤモデル18は、例えば、路面モデル(図示省略)上を転動する状態を計算する転動シミュレーションを実施するのに役立つ。
【0055】
また、解析対象部7は、例えば、タイヤ周方向に長さを有し、かつタイヤ回転軸の回りの曲率を持つものであれば、トレッド部3に限定されない。本発明では、
図2に示されるサイドウォール部8、ビード部9、カーカス(図示省略)、又はベルト層(図示省略)を解析対象部7として、タイヤモデルを設定することができる。
【0056】
さらに、
図12に示されるように、トレッド部3、サイドウォール部8、ビード部9、カーカス20a、及びベルト層20bを含むタイヤ全体を、解析対象部7として、タイヤモデル18を設定することができる。本発明によれば、このような解析対象部7も、オペレータの熟練を必要とすることなく、タイヤモデルを短時間で作成することができる。
【0057】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0058】
図3、
図4及び
図11に示した処理手順に従って、トレッド部の一部を、有限個の三次元の要素を用いて、真っ直ぐにモデル化した第1タイヤモデル(
図6に示す)が入力された。この第1タイヤモデルの要素の分割面は、第1タイヤモデルの踏面に直交する平面に設定された。さらに、タイヤの曲率に基づいて、第1タイヤモデルを湾曲させた第2タイヤモデル(
図10に示す)が作成された(実施例)。
【0059】
また、比較のために、タイヤ回転軸の回り及びタイヤ子午線断面方向の両方向に曲率を持つトレッド部の輪郭を、有限個の三次元の要素で分割したタイヤモデルが作成された(比較例)。
【0060】
そして、実施例及び比較例のタイヤモデルの作成過程において、オペレータによる手動分割の要否、及び作成時間が測定された。なお、共通仕様は、次のとおりである。
タイヤ:
サイズ:205/55R16
半径r:330.8mm
第1タイヤモデル:
タイヤ周方向の長さL1:216.389mm
長さL1に対するタイヤの中心角α:39度
第2タイヤモデル:
踏面での各要素のタイヤ周方向の長さL2の合計:16.3436mm
要素:六面体要素
【0061】
テストの結果、実施例では、第1タイヤモデルの要素分割において、全ての範囲を短時間で自動分割できた。また、第1タイヤモデルから第2タイヤモデルへの変形も、スムーズに計算できた。実施例の作成時間は、1時間であった。従って、実施例の作成方法では、オペレータの熟練を必要とすることなく、タイヤモデルを短時間で作成しうることが確認できた。
【0062】
さらに、実施例では、第1タイヤモデルの長さL1と、第2タイヤモデルの各要素の長さL2の合計との誤差が0.01mmであった。従って、第2タイヤモデルは、タイヤのトレッド部に精度良く近似しうることが確認できた。
【0063】
一方、比較例では、要素分割の処理が中断した。要素分割できなかった部分は、オペレータが手動で分割した。このため、比較例では、オペレータの熟練が必要であった。また、比較例の作成時間は、4時間であった。従って、実施例は、比較例に比べて、タイヤモデルの作成時間を短縮しうることが確認できた。