特許第6152007号(P6152007)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6152007
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】鉄道車両用衝突エネルギー吸収装置
(51)【国際特許分類】
   B61G 11/16 20060101AFI20170612BHJP
   B61D 15/06 20060101ALI20170612BHJP
   F16F 7/00 20060101ALI20170612BHJP
   F16F 7/12 20060101ALI20170612BHJP
【FI】
   B61G11/16
   B61D15/06
   F16F7/00 J
   F16F7/12
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-160177(P2013-160177)
(22)【出願日】2013年8月1日
(65)【公開番号】特開2015-30340(P2015-30340A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2016年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐野 淳
(72)【発明者】
【氏名】川上 直朗
(72)【発明者】
【氏名】吉田 直弘
(72)【発明者】
【氏名】畑 晋一郎
(72)【発明者】
【氏名】矢木 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】冨澤 雅幸
(72)【発明者】
【氏名】内田 啓
【審査官】 志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−210441(JP,A)
【文献】 特許第4943905(JP,B2)
【文献】 特開2008−239083(JP,A)
【文献】 特開2011−057158(JP,A)
【文献】 特開2013−044407(JP,A)
【文献】 特開平08−276804(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0000506(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61G 11/16
B61D 15/06
F16F 7/12
B61F 19/00 − 19/10
B60R 19/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間プレートを挟んで車両長手方向に並べられた、衝突時に圧壊される第1エネルギー吸収体および第2エネルギー吸収体を備え、
前記第1エネルギー吸収体は、互いに離間するように配置された複数の筒状体を含み、
前記第2エネルギー吸収体は、前記中間プレート上に、車両長手方向において前記複数の筒状体と重ならないように立てられた少なくとも1つの隔壁を含む、
鉄道車両用衝突エネルギー吸収装置。
【請求項2】
前記第2エネルギー吸収体は、前記隔壁で仕切られた空間を囲繞するように前記中間プレートから立ち上がる周壁を含む、請求項1に記載の鉄道車両用衝突エネルギー吸収装置。
【請求項3】
前記周壁は、前記中間プレートから遠ざかる方向に先細りとなるコーン状である、請求項2に記載の鉄道車両用衝突エネルギー吸収装置。
【請求項4】
前記複数の筒状体は、前記中間プレートの中心を取り巻くように2つ以上配置されており、
前記周壁の先端の大きさは、前記複数の筒状体で囲まれる多角形領域の面積よりも小さい、請求項3に記載の鉄道車両用衝突エネルギー吸収装置。
【請求項5】
前記第2エネルギー吸収体は、前記隔壁を複数含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の鉄道車両用衝突エネルギー吸収装置。
【請求項6】
前記中間プレートと共に前記第1エネルギー吸収体を挟持する第1プレートと、
前記中間プレートと共に前記第2エネルギー吸収体を挟持する第2プレートと、をさらに備え、
前記第1プレートが鉄道車両の主構造物に取り付けられる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の鉄道車両用衝突エネルギー吸収装置。
【請求項7】
前記中間プレートと共に前記第1エネルギー吸収体を挟持する第1プレートと、
前記中間プレートと共に前記第2エネルギー吸収体を挟持する第2プレートと、をさらに備え、
前記第2プレートが鉄道車両の主構造物に取り付けられる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の鉄道車両用衝突エネルギー吸収装置。
【請求項8】
前記隔壁における前記第2プレートに接触する頂き部には、切欠きが設けられている、請求項6または7に記載の鉄道車両用衝突エネルギー吸収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用衝突エネルギー吸収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鉄道車両では、衝突エネルギー吸収装置が用いられている。例えば、特許文献1には、継ぎ板を挟んで車両長手方向に並べられた2つのエネルギー吸収部材を備えた鉄道車両用衝突エネルギー吸収装置が開示されている。
【0003】
各エネルギー吸収部材は、車両長手方向に延びる断面八角状の筒状体であり、衝突時には蛇腹状に変形しながら軸方向に圧壊される。より詳しくは、エネルギー吸収部材は、外管と内管の二重管構造を有しており、外管と内管の頂点同士が径方向壁によって連結されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4943905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、エネルギー吸収部材として機能する筒状体は、衝突時には上述したように蛇腹状に変形する、換言すれば圧壊により形成される折れ重なり部が軸方向に並ぶように変形するため、衝突エネルギーの吸収に用いられる有効ストロークはエネルギー吸収部材の全長の60〜65%程度である。特許文献1に開示された衝突エネルギー吸収装置では同じ構造のエネルギー吸収部材が直列に並んでいるため、装置全体の有効ストロークも装置全長の60〜65%である。限られた空間でより多くの衝突エネルギーを吸収するには、装置全長に対する有効ストロークの割合である有効圧縮率をより高くすることが望まれる。
【0006】
そこで、本発明は、有効圧縮率を高くすることができる鉄道車両用衝突エネルギー吸収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の鉄道車両用衝突エネルギー吸収装置は、中間プレートを挟んで車両長手方向に並べられた、衝突時に圧壊される第1エネルギー吸収体および第2エネルギー吸収体を備え、前記第1エネルギー吸収体は、互いに離間するように配置された複数の筒状体を含み、前記第2エネルギー吸収体は、前記中間プレート上に、車両長手方向において前記複数の筒状体と重ならないように立てられた少なくとも1つの隔壁を含む、ことを特徴とする。
【0008】
上記の構成によれば、衝突時には第2エネルギー吸収体の隔壁が第1エネルギー吸収体の筒状体間に形成される隙間に入り込むため、装置全体としての有効ストロークを大きくすることができる。その結果、装置全長に対する有効ストロークの割合である有効圧縮率を高くすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、有効圧縮率を高くすることができる鉄道車両用衝突エネルギー吸収装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る鉄道車両用衝突エネルギー吸収装置の側面図である。
図2】(a)〜(c)はそれぞれ図1のIIA−IIA線〜IIC−IIC線に沿った断面図である。
図3】(a)は図1に示す衝突エネルギー吸収装置の衝突変形後の状態を示す斜視図、(b)は(a)のIIIB−IIIB線に沿った断面図である。
図4図1に示す衝突エネルギー吸収装置の荷重と圧縮率の関係を示すグラフである。
図5】(a)および(b)はそれぞれ変形例の鉄道車両用衝突エネルギー吸収装置の正面図および側面図である。
図6】(a)および(b)はそれぞれ他の変形例の鉄道車両用衝突エネルギー吸収装置の正面図および側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1および図2(a)〜(c)に、一実施形態に係る鉄道車両用衝突エネルギー吸収装置1Aを示す。衝突エネルギー吸収装置1Aは、中間プレート4と、この中間プレート4を挟んで車両長手方向に並べられた第1エネルギー吸収体2および第2エネルギー吸収体3を備えている。また、衝突エネルギー吸収装置1Aは、中間プレート4と共に第1エネルギー吸収体2を挟持する第1プレート5と、中間プレート4と共に第2エネルギー吸収体3を挟持する第2プレート6を備えている。
【0012】
本実施形態では、第1プレート5が鉄道車両の主構造物に取り付けられる。このため、鉄道車両の進行方向において、第2エネルギー吸収体3が前方(車両長手方向の外方側)、第1エネルギー吸収体2が後方(車両長手方向の内方側)に位置する。ただし、第2プレート6が鉄道車両の主構造物に取り付けられ、鉄道車両の進行方向において第1エネルギー吸収体2が前方、第2エネルギー吸収体3が後方に位置してもよい。
【0013】
第1エネルギー吸収体2および第2エネルギー吸収体3は、共に衝突時に圧壊されて座屈により衝突エネルギーを吸収する。本実施形態では、第1エネルギー吸収体2および第2エネルギー吸収体3は、共に、上下対象かつ左右対象に構成されている。
【0014】
より詳しくは、第1エネルギー吸収体2は、互いに離間するように配置された複数の筒状体21を含む。各筒状体21の前端部は例えば溶接により中間プレート4に固定されており、各筒状体21の後端部は例えば溶接により第1プレート5に固定されている。筒状体21のプレート(4または5)への固定方法としては、溶接以外にも、例えば接着やボルト止めなどを利用できる。
【0015】
本実施形態では、4つの筒状体21が、中間プレート4の中心を取り巻くようにマトリクス状に配置されている。ただし、筒状体21の数は必ずしも4つである必要はなく、筒状体21の数が2つ以上(好ましくは3つ以上)であれば中間プレート4の中心を取り巻くように筒状体21を配置することは可能である。また、本実施形態では、各筒状体21の断面形状が角が丸められた正方形状であるが、各筒状体21の断面形状は四角形以外の多角形状や円形状、あるいは特定方向に引き延ばされた形状(例えば、長方形状や楕円状)であってもよい。
【0016】
第1プレート5および中間プレート4の形状は、特に限定されるものではないが、例えば、車両長手方向から見たときに(以下、単に「正面視で」という。)、全ての筒状体21に外接する矩形よりも僅かに大きな矩形状である。
【0017】
一方、第2エネルギー吸収体3は、中間プレート4上に垂直に立てられた複数の隔壁31と、中間プレート4から前方に向かって立ち上がる周壁35を含む。隔壁31および周壁35の頂き部(前端部)は例えば溶接により第2プレート6に固定されており、隔壁31および周壁35の基部(後端部)は例えば溶接により中間プレート4に固定されている。隔壁31および周壁35のプレート(6または4)への固定方法としては、溶接以外にも、例えば接着やボルト止めなどを利用できる。
【0018】
本実施形態では、上下に延びる隔壁31と左右に延びる隔壁31の2つの隔壁31が、正面視で筒状体21の間を通るように配置されている。換言すれば、隔壁31は車両長手方向において筒状体21と重ならないように配置されており、隔壁31同士が互いに垂直に交差している。これらの隔壁31によって、中間プレート4に面する4つの空間が仕切られている。上下に延びる隔壁31と左右に延びる隔壁31は同じ形状であり、その形状は前方に向かって尖る略台形状である。
【0019】
周壁35は、隔壁31で仕切られた4つの空間を囲繞するように、各隔壁31の両辺に沿って中間プレート4から立ち上がっている。すなわち、周壁35は、中間プレート4から遠ざかる方向に(すなわち、前向きに)先細りとなるコーン状である。
【0020】
周壁35の断面形状は、本実施形態では矩形状である。ただし、周壁35の断面形状は、四角形以外の多角形状であってもよいし、円形状であってもよい。
【0021】
本実施形態では、周壁35の頂き部および基部以外では隔壁31の幅が周壁35の幅よりも大きく設定されており、周壁35が全長に亘って隔壁31によって4つのピースに分割されている。ただし、周壁35が全長に亘って周方向に連続していて、周壁35内に各隔壁31の全体が収容されていてもよい。
【0022】
各隔壁31における第2プレート6に接触する頂き部には、隔壁31の頂き部の強度を低下させるための切欠き32が設けられている。本実施形態では、切欠き32が各隔壁31の頂き部の中央に形成されており、図2(a)に示すように双方の隔壁31の切欠きの底部同士が十字状に交わっている。
【0023】
本実施形態では、周壁35の先端の大きさは、筒状体21で囲まれる多角形(本実施形態では四角形)領域Rの面積(図2(c)中に間隔の広いハッチングで示す面積)よりも小さく設定されている。このため、周壁35の先端は、車両長手方向に投影したときに、多角形領域R内に収まる。
【0024】
第2プレート6の形状は、特に限定されるものではないが、例えば、周壁35の先端よりも僅かに大きな矩形状である。ただし、第2プレート6が鉄道車両の主構造物に取り付けられる場合は、第2プレート6が周壁35の先端よりも十分に大きくてもよい。
【0025】
図3(a)は、本実施形態の衝突エネルギー吸収装置1Aの衝突変形後の状態を示す斜視図であり、図3(b)は(a)のIIIB−IIIB線に沿った断面図である。なお、図3(b)では、各部材を一本の線で描いている。
【0026】
図3(a)および(b)に示すように、本実施形態の衝突エネルギー吸収装置1Aでは、衝突時には第2エネルギー吸収体3の隔壁31が第1エネルギー吸収体2の筒状体21間に形成される隙間に入り込むため、装置全体としての有効ストロークを大きくすることができる。その結果、装置全長に対する有効ストロークの割合である有効圧縮率を高くすることができる。
【0027】
図4は、衝突エネルギー吸収装置1Aの荷重と圧縮率の関係を示すグラフである。なお、図4には、第1エネルギー吸収体2のみを用いたときの荷重と圧縮率の関係を破線で示す。図4に示すように、本実施形態の衝突エネルギー吸収装置1Aでは、第1エネルギー吸収体2のみを用いた場合に比べて有効圧縮率(図4中の実線および破線の最も右側の落ち込み部分)が10〜15%程度高くなる。
【0028】
また、本実施形態では、第2エネルギー吸収体3の周壁35がコーン状であるので、衝突時には図3(a)および(b)に示すように周壁35が放射状に(同心円状に)波打つように、換言すれば中心側の折れ重なり部が外周側の折れ重なり部内に収まるように変形する。このため、周壁35を非常に薄い板状に圧壊させることができ、中間プレート4を挟んで各筒状体21の前方に維持される厚さを小さく抑えることができる。しかも、第2エネルギー吸収体3から第1エネルギー吸収体2に伝えられる荷重は中間プレート4の中央に集中するため、各筒状体21に偏心荷重をかけることができる。これにより、各筒状体21の座屈開始荷重を低減させることができる。その結果、第1エネルギー吸収体2の変形初期のピーク荷重(図4中の実線の中央の盛り上がり部分)を、第1エネルギー吸収体2のみを用いたときの変形初期のピーク荷重(図4中の破線の左端の盛り上がり部分)のおよそ40%と小さくすることができる。
【0029】
さらに、周壁35の先端の大きさは筒状体21で囲まれる多角形領域Rの面積よりも小さいので、周壁35の先端が第1エネルギー吸収体2の筒状体21間に形成される隙間に向かって押し込まれるように周壁35が変形する。このため、装置全体としての有効ストロークをより大きくすることができる。しかも、車両長手方向において周壁35の先端が筒状体21と重ならないため、各筒状体21により大きな偏心荷重をかけることができる。
【0030】
また、各隔壁31の頂き部には切欠き32が設けられているので、第2エネルギー吸収体3の変形初期のピーク荷重を小さくすることができる。
【0031】
(その他の実施形態)
隔壁31が複数設けられている場合は、周壁35は必ずしも必要ではない。例えば、図5(a)および(b)に示す変形例の鉄道車両用衝突エネルギー吸収装置1Bのように、6つの筒状体21が縦3列、横2行で配置されている場合は、第2エネルギー吸収体3は、正面視で筒状体21の間を通るように配置された3つの隔壁31のみを有していてもよい。ただし、前記実施形態のように周壁35が設けられていれば、周壁35の変形によっても衝突エネルギーを吸収することができる。
【0032】
また、周壁35が設けられている場合は、隔壁31は、必ずしも複数設けられている必要はなく、少なくとも1つ設けられていればよい。例えば、図6(a)および(b)に示す変形例の鉄道車両用衝突エネルギー吸収装置1Cのように、断面が横長長方形状の2つの筒状体21が上下に並んで配置されている場合は、第2エネルギー吸収体3は、隔壁31を1つだけ有していてもよい。また、図6(a)および(b)に示すように、周壁35は車両長手方向にストレートに延びていてもよい。
【0033】
また、第2プレート6が鉄道車両の主構造物に取り付けられる場合は、周壁35は、前記実施形態とは逆に、中間プレート4から遠ざかる方向に拡大するコーン状であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の鉄道車両用衝突エネルギー吸収装置は、種々の車両に有用である。
【符号の説明】
【0035】
1A〜1C 鉄道車両用衝突エネルギー吸収装置
2 第1エネルギー吸収体
21 筒状体
3 第2エネルギー吸収体
31 隔壁
32 切欠き
35 周壁
4 中間プレート
5 第1プレート
6 第2プレート
図1
図2
図3
図4
図5
図6