(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
磁気センサに複数の磁束密度発生器を配置し、該磁束密度発生器が発生する磁束密度の強さを調整する複数の調整機能を備え、該磁気センサに与える磁束密度の強さを調整する請求項1記載の磁性体検知機。
【背景技術】
【0002】
近年の医療診断に欠かせない装置として、MRI(Magnetic Resonance Imaging)診断装置(以下単に「MRI」という)がある。このMRIは、核磁気共鳴現象を利用して生体内の内部の情報を画像化する方法であり、強力な磁石を必要とする。近年、分解能向上と処理速度の向上のために、3T(テスラ)といった極めて強力な磁石を使用したMRIが普及されつつある。このような強力な磁石は、一般的に超伝導磁石を使用する。超伝導磁石は、液体ヘリウムを使って絶対0度近くまで冷却する必要があり、起動させるまでに多くの時間と費用が掛かる。したがって、一度起動した超伝導磁石は常時動作させ、特別な理由がない限り停止しない。診断している時も診断していない時でも常に強力な磁場が発生し続けている。
【0003】
MRIの磁石が強力になるにしたがって、磁性体を引き付ける力も強くなる。磁性体を含む車椅子やストレッチャーなどの用品やボンベなどをMRI検査室に持ち込んだ場合、これらが吸着される危険性がある。磁性体が吸着される際、被験者や検査技師に衝突して怪我をしてしまう危険性もある。強力な磁力で吸着された磁性体を取り除くことは人間の力でできない場合がある。その場合、一旦超伝導磁石を停止しなければならないが、停止や再起動に数日かかってしまい、その間検査業務を行えない。また液体ヘリウムの再充填のために多額の費用がかかってしまう。
【0004】
磁性体をMRI本体に吸着させないためには、MRI検査室に入る前に磁性体を検知して告知し、使用者が磁性体を持って入室しないようにすれば良い。磁性体を検知するには、磁性体の動きによって発生する磁束密度の変化を磁気センサで検知し、その検知出力信号を設定された閾値で判定すれば可能である。かかる磁性体検知機に関する先行技術としての特許文献1では、ゲート状の筐体に一定の間隔を開けた2個のコイルから構成されるヘルムホルツコイルとセンサコイルを設置し、ヘルムホルツコイルによって発生した一定の磁束密度を、通過する磁性体によって変化した磁束密度をセンサコイルで捉えることによって、磁性体を検知する発明が提案されている。
【0005】
しかし実際の環境下において、磁束密度を変化させる要因は、通過する磁性体だけではない。道路を走る自動車などによる外乱要因によって磁束密度は常に変化している。磁気センサは外乱要因による磁束密度の変化も検知してしまう。外乱要因を排除する手段として、外乱要因が発生する磁束密度の変化を打ち消せばよい。かかる外乱要因によって発生する磁束密度の変化を打ち消す先行技術としての特許文献2では、複数の検知コイルを進行方向に間隔を開けて配置し、外乱要因によって発生した磁束密度の変化信号を反転して加算することにより打ち消すことができる。通過する磁性体によって発生する磁束密度の変化は、磁性体の移動速度と検知コイルの間隔に関連付けを行うことによって、増幅することができる。このように複数の検知コイルを等間隔に設置することによって通過する磁性体を検知する発明が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1記載の発明では、構造的に間隔が必要なヘルムホルツコイルが必要であるため、以下のような問題があった。間隔を開けて2つのコイルを設置するには、設置のための奥行きが必要になる。MRIが設置されている病院は一般的に狭いため、奥行きが必要な機器を設置することが困難であり、場合により全く不可能であった。ヘルムホルツコイルの間隔を狭くすれば、設置することが可能であるが、一定の磁場を得られなくなる。
【0008】
同様に、前記特許文献2記載の発明では、複数の検知コイルを進行方向に等間隔で配置する必要があるため、前記特許文献1記載の発明と同様に磁性体検知機を設置することが困難であったり不可能であったりする。検知コイルの間隔を狭くすれば、設置することが可能であるが、外乱要因による磁束密度の変化を十分に打ち消すことができない。また磁性体の動く速度が一定であれば、有効に検知することが可能であるが、人によって歩く速度は異なる。同じ人であっても常に一定速度で歩く訳ではない。移動速度が一定でない磁性体に対して、前記特許文献2記載の発明は有効ではない。
【0009】
上記した問題点に鑑み、本発明では、装置の奥行きを小さくして磁性体検知機の設置を容易にすると共に、一定でない速度で移動する磁性体についても検知を可能にすることによって、磁性体の入室を告知する磁性体検知機の開発を試みたのである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明では、従来の磁束密度を検知する複数の磁気センサから構成する磁気センサ組と、物体を通過させる通過部と、該通過部を物体が通過することを検知する通過センサと、閾値と、該磁気センサの出力を該閾値と比較する比較機能と、前記通過センサと該比較機能の結果の論理積を求める論理積機能と、該論理積機能の結果によって告知する告知機能を有する磁性体検知機において、複数の磁気センサ組を複数の磁気センサで構成し、その磁気センサの検出軸を相互に90±30°の角度で配置し、磁束密度
のベクトルのスカラ
量と角度
の変化を演算機能によって演算し、その演算結果が設定した判定閾値より大きく、かつ、
磁性体の物体がゲート
状の通過部を入室方向に移動することを通過センサが検知した時に、告知機能によって使用者に告知を行ない、磁性体の入室を阻止することを特徴とする磁性体検知機とした。このように、本発明の磁性体検知機は、磁気センサが検知した磁束密度の変化が閾値を超え、通過センサが物体を検知した時に告知機能を動作することができるのである。
【0011】
磁気センサ組は、各組毎に2又は3の磁気センサを備え、通過部の左右に複数箇所配置するとよい。磁束密度の変化は磁性体からの距離の2乗に反比例する法則がある。そこで、磁気センサ組を通過部の周囲に複数配置し、磁性体からの距離を可能な限り短くすることにより、検知信号を大きくすることができる。
【0012】
演算機能には、更に複数の該磁気センサの出力信号を演算し、この演算機能の演算結果を比較機能で判定閾値と比較する機能を備えている。演算機能を設けることにより、検出軸を直交する方向に配置した磁気センサ組の磁束密度の平面又は立体ベクトルの
スカラ量と角度を演算により得ることができる。
スカラ量と角度を演算により評価し、磁性体が入室方向に移動するのか、退室方向に移動するのか、通過しないのかを判断することができるのである。
【0013】
本発明の磁性体検知機には、磁気センサに配置する複数の磁束密度発生器と、該磁束密度発生器が発生する磁束密度の強さを調整する複数の調整機能を備え、磁気センサに与える磁束密度の強さを調整する。
【0014】
具体的には、磁気センサに磁束密度を与える磁束密度発生器と、磁束密度の強さを調整する調整機能を設けることによって、MRIからの強い漏洩磁束密度を打ち消し合い、磁気センサに与えられる直流磁束密度を弱くすることができる。直流磁束密度を弱くすることによって、飽和直流磁束密度は小さいが高感度の磁気センサを用いることによって、微弱な磁束密度の変化を捉えることができるのである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る磁性体検知機を2個のコイルから構成されるヘルムホルツコイルや等間隔に設置した検知コイルを廃し、ホール素子や巨大磁気抵抗素子などの小型の磁気センサを組み合わせた構造としたために、MRI検査室出入口に設置する場合にも奥行きを100(mm)以下にすることができ、その結果、これまでの従来品では奥行きが少なくとも500(mm)以上で設置が困難であった狭い場所であっても設置可能となる。
【0016】
また、磁束密度のベクトルの
スカラ量と角度を演算する機能を設けることによって、磁性体の通過速度が一定でなくても検知することができる。更に、入室する磁性体のみを告知できるので、不要な告知を出すことがなく、磁性体検知精度が高まる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る磁性体検知機の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る磁性体検知機の磁気センサ組1の配置の模式図である。すなわち、磁気センサ組1は3個の磁気センサ2、3、4から構成されており、それぞれの磁気センサ2、3、4の検知軸5、6、7を相互に角度90±30°の範囲φ1、φ2、φ3の角度で配置する。角度が±5°程度の傾きならば性能に大きな影響は出ないが、±30°以上傾いた場合、本特許の特徴を出すことができなくなる。現実には、90±0°に設置することはまず困難であり、多少誤差が発生する。その範囲は最大±30°である。
【0019】
それぞれの磁気センサ2、3、4は検知軸5、6、7方向の磁束密度Bx8、磁束密度By9、磁束密度Bz10を検知する。各磁束密度のベクトル合成を行ったものが、磁束密度のベクトルBv11である。検知軸3の相互の角度φ1、φ2、φ3は効率的に磁束密度を検知するために90°、すなわち直交が最も望ましく、以下断りのない限り直交で説明を行う。
【0020】
図1に示した磁気センサ2、3、4の形状は、具体的な磁気センサの物理的形状を示すものではなく、機能を模式的に表現したものである。磁束密度を検知する磁気センサにはホール素子や巨大磁気抵抗素子など色々なものが知られているが、ここでは限定はしない。検知軸5、6、7、磁束密度Bx8、磁束密度By9、磁束密度Bz10、磁束密度のベクトルBv11も、物理的形状を示すものではなく、物理量を模式的に表現したものである。
【0021】
図2は本発明に係る本発明に係る磁性体検知機の磁気センサ組1のうち、2個の磁気センサ2、3で構成する場合の模式図を示す。この場合、座標x方向の磁束密度Bx8を基準とした検知軸3の相互の角度をφ1、磁束密度のベクトルBv11の角度をθで示す。また磁束密度のベクトルBv11のスカラ量をBsで示す。
【0022】
図2に示した2個の磁気センサ2、3が検出した磁束密度Bx8,磁束密度By9によって、磁束密度のベクトルBv11の
スカラ量Bsと角度θは[数1]及び[数2]で求められる。なお3個の磁気センサ2、3、4で構成する場合も、基本的には[数1]と[数2]で示すことができる。
【0025】
図3に磁気センサ2、3の検知軸5、6の相互の角度φ1が90°でない場合の模式図を示す。磁気センサ3によって得られる検知軸6の方向の磁束密度By’12と座標y軸方向の磁束密度Byの関係は[数3]によって示すことができる。
【0027】
磁気センサ3によって得られる検知軸6の方向の磁束密度By’12から数3を用いてy座標方向の磁束密度By9を求め、[数1]及び[数2]によって磁束密度のベクトルBv11の座標xからの
スカラ量Bsと角度θを求めることができる。しかし、演算が複雑になるだけでなく、磁気センサ3が持っている磁束密度に対する感度が低下してしまう。角度φ1が60°又は120°のように90°から30°変わった場合、座標y方向の磁束密度Byと磁気センサ3によって得られる検知軸6方向の磁束密度By’12は[数4]に示す関係になる。
【0029】
[数4]から座標y方向の磁束密度に対する感度が相対的に87(%)まで低下してしまうことが判る。角度φ1を90±30°に設定することによって、[数1]及び[数2]の演算を簡素化すると共に、磁束密度に対する感度の低下を防ぐことができる。この効果は
図1に示した角度φ2、φ3も同様な効果がある。
【0030】
図4は複数の磁気センサ組1をゲート状の通過部13の外側の左右に2組宛配置した模式図を示す。通過部13には磁性体又は非磁性体の物体14が通過し、入室又は退室することができる。磁気センサ組1は通過部13の外側にあるため、物体14と衝突することはない。通過部13には通過センサ15を備え、物体14が通過したことを検知することができる。
図4は、2個の磁気センサ2、3からなる4組の磁気センサ組1で表しているが、3個の磁気センサ2、3、4からなる磁気センサ組1の場合でも同様である。
図4では4組の磁気センサ組1で表示しているが、必要に応じて数量を増減する。
【0031】
通過部13の形状は物理的形状を示すものではなく、物体を通過させる機能的なものを模式的に表現している。天井部分や床面部分の構造物は、必要に応じて削除しても問題はない。物体14は、通過部13を入室方向に移動して入室したり、通過部13を退室方向に移動したりして退室する。この入室方向及び退室方向は、使用者が定める便宜的な方向であり、物性的には意味を持たない。
【0032】
通過センサ15の検知方式として、超音波や赤外線などの方法がある。赤外線遮断型通過センサのように通過部13の両側に設置する場合や、反射型超音波通過センサのように一方向から通過を検知する方法があるが、ここでは限定しない。同一の手段を複数使用したり、複数の手段を併用したりする方法もある。
【0033】
図5に、磁気センサ組1の信号から磁束密度のベクトルBv11のスカラ量Bsと角度θを求め、複数のスカラ量Bsと複数の角度θによって演算される検知値Bdtと、磁性体の移動方向Dirを出力する演算機能16を示す。また、演算結果である検知値Bdtを閾値17の値Bthと比較機能18で比較し、比較結果Bcpと通過検知機(通過センサ)15と磁性体の移動方向Dirとの論理積を求める論理積機能19と、論理積機能19の論理積演算結果を告知機能20で告知する磁性体検知機21のブロック図を示す。なお
図5では、4組の磁気センサ組1から構成されたもので示すが、増減した磁気センサ組1で構成された場合も同様な構成となる。
【0034】
閾値17の値Bthは固定又は可変とする。可変抵抗器などを使って電気的な量を可変したり、メモリ上に書き込む数値で表現したりする方法などがある。
【0035】
告知機能20による告知手段は、音声のほか、振動、光、デジタル又はアナログ表示手段のいずれかを含む告知手段であり、使用者が本来の作業を行いつつ有効な告知を行えるように、告知方法として、音や光や振動などの複数の告知手段を用いることによって、作業中であっても告知に気が付くようになる。
【0036】
通過部13に非磁性体の物体14が通過した場合、磁束密度Bx8,磁束密度By9は影響を受けないので、[数1]で示す磁束密度のベクトルBv11のスカラ量Bsは変化しない。したがって演算機能16の演算出力Bdtには変化がないので、通過センサ15が物体14を検知しても告知機能20は動作しない。物体14がMRI診断室に入っても、非磁性体なのでMRI本体に吸着するようなことはないからである。
【0037】
通過部13に磁性体の物体14が通過した場合、磁束密度Bx8,磁束密度By9が変化する。磁束密度のベクトルBv11のスカラ量Bsが変化し、演算結果Bdtの値が大きくなる。演算結果Bdtの値が閾値17の値Bthを超えれば比較機能18の比較結果Bcpは有効になる。同時に通過センサ15が物体14の通過を検知し、磁性体の移動方向Dirが入室方向を示した場合、論理積機能19が有効になるため、告知機能20が動作する。告知動作によって、使用者は物体14が入室する磁性体であることを知ることができる。磁性体である物体14がMRI診断室に入るのを阻止することによってMRI本体へ磁性体の吸着を防止できる。磁性体の入室を阻止するためには、磁性体がゲート
状の通過部13を入室方向に移動すると判定して告知する必要がある。演算機能16は上記検知値Bdtの演算のほか、磁性体の入室、退室方向を演算して磁性体の移動方向Dirとして出力する機能も有する。これにより、無駄な告知を防止することができる。
【0038】
図6に、非磁性体である物体14が通過部13を通過すると同時に、磁性体22や磁性体23が通過部13を通過せずにMRI室外を移動する場合を示す。磁束密度は、通過部13を通過しない磁性体22や磁性体23の動きによっても変化する。磁性体22や磁性体23によって磁束密度Bx8,磁束密度By9が変化する。磁束密度のベクトルBv11の
スカラ量Bsが変化し、閾値17の値Bthを超え、同時に通過センサ15が非磁性体の物体14の通過を検知した場合、告知機能20が動作する。使用者は告知によって、物体14は磁性体であると誤って判断してしまう。しかし物体14は非磁性体である。したがって使用者は磁性体検知機21が誤動作したと判断してしまう。
【0039】
駐車場の自動車の移動やドアの開閉などによって、磁束密度は常に変化している。磁束密度の変化は壁などを簡単に通過してしまうため、磁束密度の変化の原因を特定することは困難である。非磁性体である物体14の通過部13の通過と、磁性体22や磁性体23の移動による告知機能20の動作が何度も発生した場合、使用者は磁性体検知機21の告知を信用しなくなってしまう。磁性体である物体14が通過部13を通過したことによって発生した告知についても信用しなくなり、吸着事故を発生させてしまう。
【0040】
磁束密度Bx8,磁束密度By9や磁束密度のベクトルBv11のスカラ量Bsの変化だけでは、原因となった物体14が磁性体なのか非磁性体なのか、磁性体22や磁性体23が通過部13を通過するのか通過しないのかを判断することはできない。
【0041】
そこで演算機能16の演算要素に[数2]で示した角度θを加味する。磁性体である物体14が通過部13を通過する場合と、通過部13通過しない磁性体22や磁性体23が動く場合で、角度θの変化が異なる特徴を持つ。磁性体である物体14が通過部13を通過する場合であっても、MRI診断室への入室方向と退室方向と通過しない場合では角度θが異なるという特徴を持つ。この特徴を抽出することによって、磁性体が通過部13を通過して入室するのか、退室するのか、通過しないのかを判断し、磁性体の移動方向Dirとして出力する。
【0042】
磁性体である物体14が通過部13を入室方向に移動するならば、告知機能20を動作させて使用者に告知を行う。磁性体である物体14が通過部13を退室方向に移動したり、通過部13を通過しない磁性体22や磁性体23が動いた場合ならば、演算機能16の磁性体の移動方向Dirによって告知を出さなかったり、別の種類の告知を出すようにする。
【0043】
角度θの変化の特徴は、磁性体の速度には関係がない。したがって、一定速度ではない移動速度の磁性体であっても、入室方向なのか、退室方向なのか、通過しない方向なのかを判定することができる。
【0044】
使用者にとって、磁性体の入室を阻止することが重要な事項であって、退室する磁性体や通過しない磁性体については告知しない方が良い。演算機能16に角度θの要素を加味することによって、これを実現することができる。
【0045】
図7に、磁気センサ2に磁束密度発生器24を付け加えたものを示す。磁束密度発生器24が発生する磁束密度の方向は、磁気センサ2の検知軸3と同じ方向にする。磁束密度発生器24には、永久磁石、電磁石のほか超伝導などの色々な種類があるが、ここではコイルを巻いた一般的な電磁石を模式的に示す。
【0046】
MRI装置は3(T)といった極めて強い直流磁束密度を発生しており、MRI装置から離れれば次第に直流磁束密度が弱くなるが、MRI診断室の外にもこの直流磁束密度は漏洩している。MRI診断室の外の漏洩直流磁束密度は、厚生労働省の規定により0.5(mT)以下にする必要がある。この漏洩直流磁束密度は、通常の地磁気の0.03(mT)より10倍以上強い直流磁束密度である。このような大きな値の磁束密度を検知するには、測定範囲の広い磁気センサでなければならない。
【0047】
一方、酸素ボンベなどが通過によって発生させる磁束密度の変化は、磁性体と磁気センサの距離によって異なるが100(nT)程度である。分解能を100倍程度持たせるならば、1(nT)単位で測定しなければならない。このような小さな値の磁束密度を検知するには、感度の高い磁気センサでなければならない。
【0048】
したがって、MRI装置の近くで酸素ボンベを検知するためには、直流磁束密度が0.5(mT)の環境で1(nT)の磁束密度の変化を測定できる磁気センサが必要になる。これは測定範囲が広くて高感度の極めて高い分解能の磁気センサが必要であることを意味する。分解能としては500,000倍が必要である。距離で例えるならば、500(m)の長さを1(mm)単位で測定する定規が必要になるという意味である。
【0049】
例えば、ホール効果を用いたホール素子ならば、測定範囲が広ため0.5(mT)の直流磁束密度を与えても飽和することはない。しかし、感度が低いために1(nT)といった微小な磁束密度の変化を検知することはできない。一方、高感度のジョセフソン効果を用いた超伝導量子干渉素子ならば、1(nT)といった微小な磁束密度の変化を容易に検知することができる。しかし測定範囲が狭いため、直流磁束密度が0.5(mT)の環境下では飽和してしまって磁束密度の変化を検知できない。測定範囲が広く、高感度な磁気センサは現在知られていない。
【0050】
酸素ボンベなどによって発生する磁束密度の変化は微小なものであり、この変化を捉えるためには高感度の磁気センサでなければならない。そこで、1(nT)といった微小な磁束密度の変化を検知する磁気センサ2に、磁束密度発生器24を付け加え、MRI装置からの直流漏洩磁束密度と逆方向にほぼ同じ大きさの直流磁束密度を発生させることによって、磁気センサ2に与えられる直流磁束密度を打ち消し合えば、飽和を防ぐことができる。磁束密度発生器24で発生する直流磁束密度が一定ならば、磁性体の移動によって発生する微小な磁束密度の変化を飽和せずに検知することができる。
【0051】
図8に磁束密度発生器24に調整機能25を加えた回路ブロック図を示す。磁束密度発生器24がコイルによる電磁石であれば、電流の向きや大きさの設定で直流磁束密度を調整することができる。MRI装置から漏洩する直流磁束密度の強さと極性は、磁気センサ2が設置されている位置や向きによって異なっている。したがって磁束密度発生器24で発生させる直流磁束密度の強さと極性は個別に調整する必要がある。調整手段としては、設置時に作業者が調整する方法や、起動時にマイクロコンピュータなどを使用して自動的に調整する方法などがある。
【0052】
磁束密度発生器24が発生する磁束密度の強さは、MRI装置から漏洩する直流磁束密度と同じ値にすればよい。前記のようにMRI診断室の外の漏洩直流磁束密度は、0.5(mT)以下にする規定があるため、磁束密度発生器24が発生する磁束密度の強さは最大0.5(mT)でよい。ただしマージンを見込み、最大1.0(mT)程度にしてもよい。