特許第6152052号(P6152052)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6152052水分散性に優れたダイヤモンド微粒子の製造方法、及びダイヤモンド微粒子水分散体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6152052
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】水分散性に優れたダイヤモンド微粒子の製造方法、及びダイヤモンド微粒子水分散体
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/28 20170101AFI20170612BHJP
【FI】
   C01B32/28
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-273765(P2013-273765)
(22)【出願日】2013年12月13日
(65)【公開番号】特開2015-113278(P2015-113278A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】藤村 忠正
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 茂
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−519623(JP,A)
【文献】 特開2003−146637(JP,A)
【文献】 特開2001−329252(JP,A)
【文献】 特開2009−166231(JP,A)
【文献】 特開2010−126669(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/191633(WO,A2)
【文献】 特開2002−060733(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0315212(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0209642(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0033188(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B32/00−32/991
C09K3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンド微粒子を不活性ガス雰囲気下で700〜900℃の範囲で熱処理を施すことを特徴とし、
前記不活性ガスが、窒素、アルゴン又は炭酸ガスである、水分散性に優れたダイヤモンド微粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の水分散性に優れたダイヤモンド微粒子の製造方法において、前記不活性ガス雰囲気下での熱処理温度が750〜850℃であることを特徴とする水分散性に優れたダイヤモンド微粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水分散性に優れたダイヤモンド微粒子の製造方法において、熱処理時間が30分以上であることを特徴とする水分散性に優れたダイヤモンド微粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の水分散性に優れたダイヤモンド微粒子の製造方法において、前記ダイヤモンド微粒子が、2.55〜3.48g/cmの比重を有することを特徴とする水分散性に優れたダイヤモンド微粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜のいずれかに記載の水分散性に優れたダイヤモンド微粒子の製造方法において、ダイヤモンド水分散液のゼータ電位が20mV以上であることを特徴とする水分散性に優れたダイヤモンド微粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項に記載の水分散性に優れたダイヤモンド微粒子の製造方法において、前記ダイヤモンド微粒子が、爆射法で得られたことを特徴とする水分散性に優れたダイヤモンド微粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分散性に優れたダイヤモンド微粒子の製造方法、及びダイヤモンド微粒子水分散体に関し、詳しくは不活性ガス雰囲気下で加熱処理して得られる水分散性に優れたダイヤモンド微粒子の製造方法、及び前記方法によって得られるダイヤモンド微粒子水分散体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ダイヤモンド微粒子、特に爆射法によるダイヤモンド微粒子はコアがSP3ダイヤモンド、シェルがSP2グラファイト構造から成るコア・シェル構造を有しており、シェル構造に−COOH、−OH等の水性の官能基を有しており、ダイヤモンド微粒子の1〜2重量%の低濃度領域では水に比較的分散するが、3〜10重量%の高濃度領域では水に均一に分散せず沈殿するので、高濃度の水分散液体の加工領域では問題を抱えていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、本発明の目的は、高濃度で水分散性に優れたダイヤモンド微粒子の製造方法を提供することにあり、さらに前記ダイヤモンド微粒子水分散体を使用した研磨用スラリー、繊維及びフイルム表面等に塗布して硬度や耐摩耗性を与えるダイヤモンド微粒子水分散体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、ダイヤモンド微粒子を不活性ガス雰囲気下で700〜900℃の範囲で熱処理を施し高濃度の水分散性に優れたダイヤモンド微粒子を製造し、前記ダイヤモンド微粒子の有する高い硬度、耐磨耗性、高い熱伝導率、高い屈折率等を利用することにより、溶媒を使用しないで高濃度の水分散の状態で研磨用スラリーとして、また繊維及びフイルム表面等に水分散型熱硬化樹脂、UV効果樹脂等と組合せ、塗布して使用出来ることを見出し、本発明に想到した。
【0005】
すなわち、本発明の方法は、ダイヤモンド微粒子を不活性ガス雰囲気下で700〜900℃の範囲で熱処理を施すことにより水分散性に優れたダイヤモンド微粒子を製造する方法である。
【0006】
前記不活性ガス雰囲気下での熱処理温度が750〜850℃の範囲で施すのが好ましい。
【0007】
前記不活性ガスが窒素、アルゴン、炭酸ガス、及びアルゴンと水素の組合せであるのが好ましい。
【0008】
前記熱処理時間が30分以上であるのが好ましい。
【0009】
前記爆射法で得られたダイヤモンド微粒子は、2.55〜3.48g/cmの比重を有するのが好ましい。
【0010】
前記ダイヤモンド水分散液のゼータ電位が20mV以上であるのが好ましい。
【0011】
前記ダイヤモンド微粒子は、爆射法で得られたものであるのが好ましい。
【0012】
前記ダイヤモンド微粒子は、研磨用ダイヤモンドスラリーに好ましい。
【0013】
前記ダイヤモンド微粒子は、ダイヤモンド水分散体に好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の水分散性に優れたダイヤモンド微粒子の製造方法は、ダイヤモンド微粒子の水への分散が非常に良好で、このダイヤモンド微粒子水分散体を使用した研磨用スラリーは水への分散性が良いので、研摩効率、生産性が高く、ダイヤモンド微粒子の使用量が少なくて済み、傷の発生量も劇的に減少するという特徴を有する。また繊維及びフイルム表面等に、凝集の少ないダイヤモンド微粒子を均一に塗布して、優れた硬度や耐摩耗性を与える繊維及びフイルムを提供することができる。いずれにしろ水に良く分散したダイヤモンド微粒子水分散体は、その用途は特に限定されず、すべての用途で有効に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は高濃度で水分散性に優れたダイヤモンド微粒子の製造方法であって、ダイヤモンド微粒子を不活性ガス雰囲気下で高温熱処理を施すことにより水分散性に優れたダイヤモンド微粒子が得られる。
【0016】
[1]ダイヤモンド微粒子の製造方法
本発明のダイヤモンド微粒子の製造方法の好ましい実施の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0017】
(1)ダイヤモンド微粒子の合成
ダイヤモンド微粒子の製造方法は、爆薬を不活性ガスで満たした容器に充填し、その容器ごと耐圧性容器中に設置し、前記爆薬を爆発させ空冷又は水冷で冷却する爆射法である。前記爆薬は、有機系爆薬を使用する。爆薬を充填するための容器は、不活性ガスを満たした状態を保持できる程度に密閉できるものであれば特にどのような材質及び構造であってもよい。
【0018】
爆薬3は、図1に示すように、不活性ガスで満たした容器2に充填した状態で、耐圧性容器1の内部に吊材4で吊設して設置する。吊設する位置は、得られるダイヤモンド微粒子の収率ができるだけ高くなるように、容器の形状、爆薬の種類・量等によって、適宜調節する。図1に示すような球状の耐圧性容器1の場合、前記耐圧性容器1のほぼ中央部に位置するように吊設するのが好ましい。前記吊材4として、銅線等の金属線を使用することにより、爆薬に取り付けた電気雷管への電流を供給するための導線として使用することができる。
【0019】
爆薬3を、不活性ガスで満たした容器2に充填して爆発させることによって、爆発時に発生する圧力を効果的に高めることができると共に、不活性ガスで爆薬3の周囲が満たされているため、精製するダイヤモンド微粒子の酸化が効率的に抑止される。使用する不活性ガスとしては、炭素原子に対して不活性なものが好ましく、窒素、アルゴン、二酸化炭素、ヘリウム等のガスが好ましい。前記容器内を満たす不活性ガスの圧力は、常圧でかまわないが、常圧よりも高い圧力としてもよい。なお、ダイヤモンド微粒子表面に存在する親水性官能基の量を増やすという観点で、使用する爆薬の種類、耐圧製容器の形状等の条件によっては、容器2内の酸素濃度がゼロであるよりも、1容量%以下の範囲で微量含有しているのが好ましい場合がある。
【0020】
前記有機系爆薬由来の炭素から生成されるダイヤモンド微粒子は、爆発後の高温の状態から室温に冷却される過程で、1200℃付近から室温に冷却されるスピードが遅いと生成されたダイヤモンド微粒子が容易にグラファイトへ相転換する。従って、前記相転移を抑止しダイヤモンド微粒子の純度及び収率を高めるため、耐圧性容器内をすみやかに冷却するのが好ましい。耐圧性容器内の冷却は、自然冷却でも可能であるが、より効率よく冷却するために、例えば、耐圧製容器の外壁に風を送る等の方法により、耐圧製容器自体を周囲から冷却するのが好ましい。
【0021】
爆発によって得られた生成物は、前記耐圧性容器1の内壁を水で洗い流して、水分散物として回収する。生成物の回収は、1回の爆発を実施した後で行っても良いが、2回以上の爆発を連続して実施した後でまとめて回収した方が効率的である。このように連続して2回以上の爆発を繰り返し実施することにより、作業性が向上すると共に、ダイヤモンド微粒子の収率が向上する。連続して2回以上爆発を実施した場合、1回目の爆発で耐圧性容器内の酸素が消費されるので、2回目以降の爆発においてダイヤモンド微粒子の酸化が抑止されるという効果も得られる。
【0022】
連続して2回以上の爆発を実施する場合、1回目の爆発後、耐圧製容器を冷却し、不活性ガスで満たした容器2に充填した爆薬3を新たに設置し、2回目以降の爆発を実施する。このとき、不活性ガスで満たした容器2に充填した爆薬3を爆発の回数分だけあらかじめ準備しておき、爆発及び冷却を繰り返し実施する。このように、不活性ガスで満たした容器2に充填した爆薬3をあらかじめ準備して空冷式爆射法を実施することにより、2回目以降の爆発のために耐圧性容器1の上蓋7を開けて爆薬を仕込む際に外気(酸素)が耐圧性容器1内に混入しても、爆薬3の周囲は容器2に満たされた不活性ガスが存在するため、外気混入による酸素濃度上昇の影響、すなわち、生成するダイヤモンド微粒子の酸化をごく小さいものにすることができ、その結果ダイヤモンド微粒子の収率が向上する。
【0023】
新たな爆薬3を耐圧製容器1に設置するために耐圧性容器1の上蓋7を解放したときに、耐圧製容器1内へ流入する空気をできるだけ少なくするため、耐圧性容器1に設けたガス流入口(図示せず。)から耐圧製容器1内に不活性ガスを流入させ、耐圧性容器1内を大気圧よりも高圧にした状態で爆薬3の設置作業を行ってもよい。ただし、生成したダイヤモンド微粒子の粉末が飛散してしまわない程度の、少量の不活性ガスを流入させるようにする必要がある。
【0024】
爆薬3を充填するための容器2は、前述のように不活性ガスを満たした状態を保持できる材質及び構造のものが好ましい。材質としては、樹脂、金属、ガラス、セラミック等が挙げられるが、生成したダイヤモンド微粒子を回収する際に分離が容易であるという観点から、樹脂又は金属が好ましい。樹脂としては、特に限定されず、広くどのようなものでも使用することができるが、ポリエチレン、ポリプロピレン、PET等が好ましい。金属としては、アルミニウム、ステンレス、銅、金等のものが使用できる。構造としては、容易に破壊される程度の壁厚及び/又は形状を有しているのが好ましく、例えば図2に示すように、箱状(図2(a))、カプセル状(図2(b))、袋状(図2(c))等が好ましい。容器の大きさは、作業時にハンドリングしやすい大きさであれば特に限定されない。
【0025】
前記耐圧性容器の内部は、酸素を含まない状態又は微量の酸素(1容量%以下)を含んだ状態にするのが好ましい。そのためには、前記耐圧性容器の内部の空気をあらかじめ前述の不活性ガスで置換した状態で1回目の爆発を実施するのが好ましい。不活性ガスで充填する場合、酸素の含有量が10容量%以下であるのが好ましく、5容量%以下であるのがより好ましく、1容量%以下であるのが最も好ましい。前述したように爆発を複数回連続して行う場合、2回目以降の爆発時にも不活性ガスでの置換を行っても良いが、本発明の方法で爆射を実施する場合は、爆薬は不活性ガスに満たされた容器内に充填されているので、2回目以降の不活性ガスの置換は省略してもかまわない。
【0026】
前記耐圧性容器は、前記爆薬1kgに対して5〜500mの容積を有するのが好ましい。5mより小さい場合、爆発時に高温高圧になりすぎるため、効率よく熱を発散させることが困難な場合があり、500mより大きくなると爆発による生成物を回収するのに手間がかかり収率が低下する。
【0027】
本発明には、高性能爆薬として知られている公知の有機系爆薬を用いることができる。有機系爆薬としては、トリニトロトルエン(TNT)、トリニトロベンゼン(TNB)、トリメチレントリニトラミン(RDX)、テトラメチレンテトラニトラミン(HMX)、テトラニトロメチルアニリン(テトリル)、トリアミノトリニトロベンゼン(TATB)、ジアミノトリニトロベンゼン(DATB)、ヘキサニトロスチルベン(HNS)、ヘキサニトロアゾベンゼン(HNAB)、ヘキサニトロジフェニルアミン(HNDP)、ピクリン酸、ピクリン酸アンモニウム、ベンゾトリアゾール(TACOT)、エチレンジニトラミン(EDNA)、ニトログアニジン(NQ)、ペンタエリスリトールテトラナイトレート(ペンスリット)、ベンゾトリフルオキサン(BTF)等が挙げられ、これらを単独又は混合して使用する。特に、RDX(60%)とTNT(40%)との混合爆薬であるコンポジションB、HMX(75%)とTNT(25%)との混合爆薬であるオクトール等を使用するのが好ましい。
【0028】
これらの有機系爆薬は、炭素原子含有率が15質量%以上、好ましくは20〜35質量%、密度が1.5g/cc以上、好ましくは1.6g/cc以上、爆速は7000m/s以上、好ましくは7500m/s以上であり、酸素バランスが負、好ましくは−0.2〜−0.6であり、爆轟圧が18GPa以上、好ましくは20〜30GPa、爆轟温度が3000K以上、好ましくは3000〜4000Kである。そのため、爆薬中の炭素原子を効率よくダイヤモンド微粒子に転換することができ、また酸素バランスが負であることから爆発時にダイヤモンド微粒子が酸化されて収率を低下させることがない。
【0029】
有機系爆薬として、RDXとTNTとの混合物であるコンポジションBを用いた場合には、溶填により、所望の形状に成型することができる。有機系爆薬として、粉状体の爆薬(例えば、平均粒径が100μm程度のもの)を用いる場合には、高分子等の有機系結合剤と併用することによって、所定形状に成型して用いるのが好ましい。この有機系結合剤としては、コンポジット系推進薬のバインダ成分として知られているポリブタジエン系(ポリブタジエン)、ポリウレタン系(ポリウレタン)、ポリエーテル系(ポリエチレングリコール)等の高分子物質を用いてもよいし、それ自身の燃焼熱が大きなポリマーとして知られているグリシジルアジドポリマー(GAP)、ポリニトラトメチルメチルオキタセン、ポリグリシジルナイトレート等、又はワックスを用いてもよい。この有機系結合剤の割合は1〜40質量%、粉状体の有機系爆薬の割合が60〜99質量%程度であるのが好ましい。
【0030】
(2)爆発生成物の精製
回収した爆発生成物は、ナノオーダーサイズのダイヤモンド微粒子の表面をグラファイト系炭素が覆ったコア/シェル構造を有しており、黒く着色している。この未精製のダイヤモンド微粒子は、2.4〜2.6g/cm程度の密度を有し、メジアン径(動的光散乱法)は50〜500nm程度である。この未精製のダイヤモンド微粒子を後述の方法で酸化処理することにより、グラファイト系炭素のシェル層を除去し、ダイヤモンド微粒子を得ることができる。酸化処理により精製したダイヤモンド微粒子は、2〜10nm程度の一次粒子からなるメジアン径5〜250nm程度の二次粒子である。
【0031】
未精製のダイヤモンド微粒子の酸化処理方法としては、(a)硝酸等の共存下で高温高圧処理する方法(酸化処理A)、(b)水及び/又はアルコールからなる超臨界流体中で処理する方法(酸化処理B)、(c)水及び/又はアルコールからなる溶媒に酸素を共存させて、前記溶媒の標準沸点以上の温度及び0.1MPa(ゲージ圧)以上の圧力で処理する方法(酸化処理C)、又は(d)380〜450℃で酸素を含む気体により処理する方法(酸化処理D)が挙げられる。これらの酸化処理は、単独で行ってもよいし、組合せて行っても良い。酸化処理を組合せる場合は、爆射法で得られた未精製のダイヤモンド微粒子にまず酸化処理Aを施し、さらに酸化処理B〜Cのいずれかを施すのが好ましい。
【0032】
爆射法で得られた未精製のダイヤモンド微粒子に酸化処理Aを施すことによりグラファイト相の一部が除去されたダイヤモンド微粒子(グラファイト‐ダイヤモンド微粒子)が得られ、このグラファイト‐ダイヤモンド微粒子に酸化処理B〜Cのいずれかの処理を施すことにより前記グラファイト層をさらに除去することができる。
【0033】
酸化処理したダイヤモンド微粒子の密度は、ダイヤモンド微粒子中のダイヤモンドとグラファイトとの量によって決まる。すなわち、未精製のダイヤモンド微粒子に施す酸化処理の程度によって、ダイヤモンド微粒子中のダイヤモンドとグラファイトとの量を変え、ダイヤモンド微粒子の密度を調節することができる。グラファイト系炭素(グラファイトの密度:2.25g/cm)の残存量が少なくなればなるほどダイヤモンドの密度(3.50g/cm)に近づく。従って、精製度が高くグラファイト系炭素の残存量が少ないほど密度が高くなる。
【0034】
本発明で用いるダイヤモンド微粒子の比重は2.55g/cm(ダイヤモンド24体積%)以上3.48g/cm(ダイヤモンド98体積%)であるのが好ましい。3.0g/cm(ダイヤモンド84体積%)以上3.48g/cm(ダイヤモンド98体積%)以下であるのが最も好ましい。なおダイヤモンド微粒子中のダイヤモンドの体積%は、前記ダイヤモンドの比重3.50g/cm及びグラファイトの比重2.25g/cmを用いて、ダイヤモンド微粒子の比重から算出した。
【0035】
(3)粒子の比重測定法
本発明で用いるダイヤモンド微粒子の真比重は以下の操作により測定できる。
1.試料を比重ビンに入れ、蓋をした状態で秤量し重量を求める。
2.蒸留水を試料の少し上位まで入れ、煮沸法で気泡を完全に除去する。
3.25℃蒸留水を入れ、恒温槽(25℃)に10分間入れて、基線まで満たす。
4.恒温槽から比重ビンを取り出し、外側の水分を良く拭き取った後秤量し重量を測る。
5.比重ビンをよく洗浄し、25℃の蒸留水のみを入れ、恒温槽(25℃)に10分間入れて、基線まで満たし、4と同様に重量を測定する。
6.上記操作で得た値から以下の式(1)により真比重ρを求める。
ρ=[(W―P)・dw]/[(W1―P)−(W2―P)] ・・・(1)
(ここで、W:比重ビン+試料の重量、
W1:比重ビンに蒸留水のみを満たしたときの重量、
W2:比重ビンに試料と蒸留水を満たし、完全に気泡を満たした(空気を除いた)時の重量、
P:比重ビンの重量、及び
dw:測定時の温度における水の比重である。)
【0036】
本発明は高濃度で水分散性に優れたダイヤモンド微粒子の製造方法であって、上述のダイヤモンド微粒子を不活性ガス雰囲気、特に窒素、アルゴン、炭酸ガス、及びアルゴンと水素の組合せた不活性ガス雰囲気下で700〜900℃の範囲で熱処理を施すことにより水分散性に優れたダイヤモンド微粒子が得られる。熱処理温度が750〜850℃の範囲で施すことで、より高濃度で水分散性に優れたダイヤモンド微粒子が得られる。
【0037】
上記温度範囲での熱処理時間は、30分以上、好ましくは45分以上実施するのが好ましい。熱処理時間の上限は特に限定されないが、6時間程度で、処理時間と効果の関係から2時間程度が好ましい。
【0038】
上記温度範囲、熱処理時間で得られたダイヤモンド微粒子が、2.55〜3.48g/cmの比重を有する事が好ましい。ダイヤモンド微粒子の比重が2.55g/cm未満、すなわち酸化処理を行わない場合であっても、その表面にカルボキシル基、スルホン酸基、水酸基等の官能基を有しているが、さらに酸化処理を施すことによって、それらの数を増加させることができるが、相対的にダイヤモンドの占める量が少ないので、硬度、優れた熱伝導率、大きな屈折率と言ったダイヤモンドの有する優れた特性が失われる。また過剰に酸化処理を施した場合、ダイヤモンド微粒子のシェル部分のグラファイト系炭素がほとんど除去されるため、逆にカルボキシル基、スルホン酸基、水酸基等の官能基が少なくなってしまう。その結果、水、アルコール等の親水的な溶剤への分散性が低下することがあるので、比重は3.48g/cmを越えない程度であるのが好ましい。また必要に応じて水への分散性を高める効果を有する官能基−OH,−COOH等で表面修飾を行うのが好ましい。なおダイヤモンド微粒子中のダイヤモンドの体積%は、ダイヤモンドの比重3.50g/cm及びグラファイトの比重2.25g/cmを用いて、ダイヤモンド微粒子の比重から算出した値である。
【0039】
このようにして得られるダイヤモンド微粒子水分散液のゼータ電位が20mV以上になる。上限は特に限定されないが、50mV程度である。ダイヤモンド微粒子水分散液のゼータ電位がプラスで大きければ大きい程水分散性が良い。
【0040】
その理由は次のように考えられる。すなわち、ゼータ電位は界面の性質を評価する上で重要な値で、特にコロイドの分散・凝集性、相互作用、表面改質を評価する上での指標となる。コロイド粒子は構成分子/原子間のファンデルワールス力を総和した引力を持ち、これは常にコロイド粒子を凝集させようとする作用を与える。一方、コロイド粒子は溶媒中で対イオンによる電気二重層まとっており、粒子同士がある程度接近すると互いの二重層が重なり、浸透圧による斥力が生じる。この斥力が粒子間ファンデルワールス力に打ち勝てば、コロイド粒子が分散することによると考えられる。
【0041】
本発明の水分散性に優れたダイヤモンド微粒子の製造方法は、ダイヤモンド微粒子の水への分散が高濃度で非常に良好で、このダイヤモンド微粒子水分散体を使用した研磨用スラリーは分散性が良く研摩効率、生産性に優れていて、ダイヤモンド微粒子の使用量が少なく、傷の発生量も劇的に減少するという特徴を有する。また繊維及びフイルム表面等に、凝集の少ないダイヤモンド微粒子を均一に塗布して、優れた硬度や耐摩耗性を与える繊維及びフイルムを提供することができる。
【実施例】
【0042】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0043】
実施例1
(1)ダイヤモンド微粒子の作製
TNT(トリニトロトルエン)とRDX(シクロトリメチレントリニトロアミン)を60/40の比で含む0.65kgの爆発物を3mの爆発チャンバー内で爆発させて生成するBDを保存するための雰囲気を形成した後、同様の条件で2回目の爆発を起こしBDを合成した。爆発生成物が膨張し熱平衡に達した後、15mmの断面を有する超音速ラバルノズルを通して35秒間ガス混合物をチャンバーより流出させた。チャンバー壁との熱交換及びガスにより行われた仕事(断熱膨張及び気化)のため、生成物の冷却速度は280℃/分であった。サイクロンで捕獲した生成物(黒色の粉末、BD)の比重は2.55g/cm、メジアン径(動的光散乱法)は220nmであった。このBDは比重から計算して、76体積%のグラファイト系炭素と24体積%のダイヤモンド微粒子からなっていると推定された。
【0044】
このBDを60質量%硝酸水溶液と混合し、160℃、14気圧、20分の条件で酸化性分解処理を行った後、130℃、13気圧、1時間で酸化性エッチング処理を行った。酸化性エッチング処理により、BDからグラファイトが一部除去された粒子が得られた。この粒子を、アンモニアを用いて、210℃、20気圧、20分還流し中和処理した後、自然沈降させデカンテーションにより35質量%硝酸での洗浄を行い、さらにデカンテーションにより3回水洗し、遠心分離により脱水し、120℃で加熱乾燥し、グラファイト相を有するダイヤモンド微粒子の粉末を得た。このダイヤモンド微粒子の粉末の比重は3.38g/cmであり、メジアン径は5.5μm(動的光散乱法)であった。比重から計算して、90体積%のダイヤモンドと10体積%のグラファイト系炭素からなっていると推定された。
【0045】
(2)窒素ガス雰囲気下での熱処理
得られたダイヤモンド微粒子の粉末を容器に各1g、7本取り、窒素ガスを毎分1リットル流しながら、600,700,750,800,850,900,1000℃の各温度で3時間、加熱処理した。比較のため未処理品も入れた。この窒素雰囲気下で加熱処理したダイヤモンド微粒子粉末及びダイヤモンド微粒子未処理粉末を、蒸留水に3,7,10重量%添加し、28KHz、30分超音波にかけて分散し、ダイヤモンド微粒子粉末の沈降状態を追跡した。その結果、上記濃度で、600℃及び1000℃で加熱処理したもの、及び未処理品は60分で全てのダイヤモンド微粒子が沈殿した。これに対し、700℃と900℃で加熱処理したものは、60分経過後、分散液の上端が僅かに希薄化したが、沈殿は見られなかった。750,800,850℃で加熱処理したものは60分経過後も殆ど沈殿せず、きれいに分散していた。特に800℃で加熱処理したものは均一に分散しており、沈殿は見られなかった。この評価結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
なお、BDを酸化処理した比重は3.38g/cmであり、メジアン径は5.5μm(動的光散乱法)、ダイヤモンド微粒子の粉末(比重から計算して、90体積%のダイヤモンドと10体積%のグラファイト系炭素からなると推定)を容器に各1g、3本取り、窒素ガスを毎分1リットル流しながら、600,800,1000℃の各温度で3時間、加熱処理した。比較のため加熱未処理品も入れた。この窒素雰囲気下で加熱処理したダイヤモンド微粒子粉末及びダイヤモンド微粒子加熱未処理粉末を、蒸留水に7重量%試験管に添加し、28KHz、30分超音波にかけて分散し、ダイヤモンド微粒子粉末の沈降状態を追跡した。超音波で分散した直後のダイヤモンド微粒子水分散液の分散上端の位置の変化をもって沈降速度の目安とした。数値が小さいほど沈降速度が速い事を意味する。この結果より800℃の窒素雰囲気下で加熱処理したダイヤモンド微粒子粉末の水分散性が極めて良いことが理解される。その結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
実施例2
(3)窒素ガス以外の不活性ガス雰囲気下での熱処理
実施例1で使用の精製ダイヤモンド微粒子を使用して、不活性ガスとして、窒素ガスに代えてアルゴン、炭酸ガス、及びアルゴンと水素の組合せにした以外全く同じ条件で加熱処理して、蒸留水に添加して、ダイヤモンド微粒子粉末の沈降状態を追跡したが、同じ結果が得られた。
【0050】
実施例3
(4)精製条件を変えた密度の異なるダイヤモンド微粒子の熱処理
実施例1で作製のダイヤモンド微粒子生成物(黒色の粉末、BD)の比重は2.55g/cm、メジアン径(動的光散乱法)は220nmであった。このBDをジルコニアを用いて粉砕し、メジアン径50nmのBDを得た。このメジアン径50nm、比重2.55g/cmのBDと、このBDを酸化性分解処理を行って得た、比重3.0、3.48g/cmの試料を得た。比重は2.55g/cm、メジアン径(動的光散乱法)50nmのダイヤモンド微粒子は、比重から計算して、76体積%のグラファイト系炭素と24体積%のダイヤモンドからなっていると推定される。同様に、比重3.0の試料は、16体積%のグラファイト系炭素と84体積%のダイヤモンドからなっており、比重3.48g/cmの試料は、2体積%のグラファイト系炭素と98体積%のダイヤモンドからなっていると推定される。
【0051】
得られた密度の異なったダイヤモンド微粒子の各々の粉末を容器に各1g、各7本(合計21本)取り、窒素ガスを毎分1リットル流しながら、600,700,750,800,850,900,1000℃の各温度で3時間、加熱処理した。比較のため加熱未処理品(3本)も入れた。この窒素雰囲気下で加熱処理したダイヤモンド微粒子及びダイヤモンド微粒子未処理粉末を、蒸留水に5重量%添加し、28KHz、30分超音波にかけて分散し、60分後のダイヤモンド微粒子水分散液の沈降状態を追跡した。その結果、上記密度のものは、上記濃度で、600℃及び1000℃で加熱処理したもの、及び未処理品は60分で全てのダイヤモンド微粒子が沈殿した。これに対し、700℃と900℃で加熱処理したものは、60分経過後、分散液の上端が僅かに希薄化したが、沈殿は見られなかった。750,800,850℃で加熱処理したものは60分経過後も殆ど沈殿せず、きれいに分散していた。特に800℃で加熱処理したものは均一に分散しており、沈殿は見られなかった。この評価結果を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
実施例4
(5)ゼータ―電位の異なったダイヤモンド微粒子の水分散性
実施例1で作製のダイヤモンド微粒子生成物(黒色の粉末、BD)の比重は2.55g/cm、メジアン径(動的光散乱法)は220nmであった。このBDをジルコニアを用いて粉砕し、メジアン径50nmのBDを得た。このメジアン径50nm、比重2.55g/cmのBDを酸化性分解処理を行って、比重3.38g/cmの試料を得た。比重が3.38g/cm、メジアン径50nmのダイヤモンド微粒子は、比重から計算して、10体積%のグラファイト系炭素と90体積%のダイヤモンドからなっていると推定される。
【0054】
得られたダイヤモンド微粒子の粉末を容器に各1g、各7本取り、窒素ガスを毎分1リットル流しながら、600,700,750,800,850,900,1000℃の各温度で3時間、加熱処理した。比較のため加熱未処理品も入れた。この窒素雰囲気下で加熱処理したダイヤモンド微粒子粉末及びダイヤモンド微粒子未処理粉末を、蒸留水に7重量%添加し、28KHz、30分超音波をかけて分散し、ダイヤモンド微粒子水分散溶液のゼータ―電位を測定し、60分後のダイヤモンド微粒子水分散液の沈降状態を追跡した。その結果、上記密度のものは、上記濃度で、600℃及び1000℃で加熱処理したもの、及び未処理品は60分で全てのダイヤモンド微粒子が沈殿した。これに対し、700℃と900℃で加熱処理したものは、60分経過後、分散液の上端が僅かに希薄化したが、沈殿は見られなかった。750,800,850℃で加熱処理したものは60分経過後も殆ど沈殿せず、きれいに分散していた。特に800℃で加熱処理したものは均一に分散しており、沈殿は見られなかった。この評価結果を表3に示す。以上の結果から、ダイヤモンド微粒子水分散液のゼータ―電位は20mV以上であれば、水分散性が良いことが理解される。
【0055】
【表3】
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】本発明の水分散性に優れたダイヤモンド微粒子の製造に用いるダイヤモンド粒子の製造工程の一例を示す模式図である。
図2図1の容器2に爆薬を装填する容器2の形状の1例を示す。
【符号の簡単な説明】
【0057】
図1に、ダイヤモンド粒子の製造工程の一例を示す。爆薬3は、容器2に充填した状態で、耐圧性容器1の内部に吊材4で吊設して設置する。なお耐圧性容器1の上蓋7とノズル5を併せて記載した。
図2に、図1の容器2に爆薬を装填する容器2の形状の1例を示す。図2(a)は箱状、図2(b)はカプセル状、図2(c)は袋状の形状を示す。
図1
図2