(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6152054
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】電気化学セルへの酸素消費電極の組み込み方法、および電気化学セル
(51)【国際特許分類】
C25B 11/04 20060101AFI20170612BHJP
C25B 11/08 20060101ALI20170612BHJP
C25B 9/00 20060101ALI20170612BHJP
C25B 15/00 20060101ALI20170612BHJP
【FI】
C25B11/04 Z
C25B11/08
C25B11/08 A
C25B9/00 E
C25B15/00 302A
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-542494(P2013-542494)
(86)(22)【出願日】2011年12月5日
(65)【公表番号】特表2014-502314(P2014-502314A)
(43)【公表日】2014年1月30日
(86)【国際出願番号】EP2011071759
(87)【国際公開番号】WO2012076472
(87)【国際公開日】20120614
【審査請求日】2014年11月27日
(31)【優先権主張番号】102010054159.1
(32)【優先日】2010年12月10日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512137348
【氏名又は名称】バイエル・インテレクチュアル・プロパティ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Bayer Intellectual Property GmbH
(73)【特許権者】
【識別番号】515214822
【氏名又は名称】ティッセンクルップ・ウーデ・クロリン・エンジニアーズ(イタリア)ソシエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【弁理士】
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・ブラン
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル・グロスホルツ
(72)【発明者】
【氏名】ランドルフ・キーファー
(72)【発明者】
【氏名】ペーター・ヴォルタリング
【審査官】
内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−239880(JP,A)
【文献】
特開2000−273677(JP,A)
【文献】
特表2007−533841(JP,A)
【文献】
特開2004−353064(JP,A)
【文献】
特表2005−506459(JP,A)
【文献】
特開2006−328534(JP,A)
【文献】
特開平08−013179(JP,A)
【文献】
特開2000−239875(JP,A)
【文献】
特開2000−239878(JP,A)
【文献】
特開平07−296817(JP,A)
【文献】
特表2004−513241(JP,A)
【文献】
特開平11−121047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00−15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学半セル(2)に1つ以上の隣接した酸素消費電極(1、1a)を気密および液密に組み込む方法であって、酸素消費電極(1、1a)の屈曲領域(5)および/または割れ領域(6)、および/または酸素消費電極(1、1a)をセル(2)の気体室(4)のフレーム(3)に並置すると発現する隣接した酸素消費電極(1、1a)の隣接エッジ領域(7)および/または重なり領域(8)を、酸素消費電極(1、1a)と同等の組成を有しており、酸素消費電極(1、1a)の層厚さより薄い付加フィルム(9)で覆う方法であって、ここで、付加フィルム(9)が酸素消費電極(1、1a)と同じ触媒活性成分を含有し、付加フィルム(9)および/または酸素消費電極(1、1a)が互いに独立に、フッ素化ポリマー、および銀含有触媒活性成分に基づいており、付加フィルム(9)における触媒活性成分が、少なくとも50重量%の酸化銀を含んでなることを特徴とする方法。
【請求項2】
付加フィルム(9)および/または酸素消費電極(1、1a)における触媒活性成分が、銀、酸化銀(I)、酸化銀(II)、または銀と酸化銀との混合物を含んでなることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
付加フィルム(9)および/または酸素消費電極(1、1a)が、互いに独立して、触媒活性成分として、70〜95重量%の酸化銀、0〜15重量%の金属銀粉、および3〜15重量%のフッ素化ポリマーを含有する混合物を含んでなることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
付加フィルム(9)の適用後、付加フィルム(9)および酸素消費電極(1、1a)を一緒にプレスすることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
セル(2)を起動するときに、付加フィルム(9)の適用後の接触点で付加フィルム(9)と酸素消費電極(1、1a)が結合していることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
付加フィルム(9)が10μm〜800μmの層厚さを有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
酸素消費電極(1、1a)が0.1〜0.8mmの層厚さを有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
1つ以上の隣接した酸素消費電極(1、1a)を有する電気化学セル(2)であって、酸素消費電極(1、1a)が、酸素消費電極(1、1a)の屈曲領域(5)および/または割れ領域(6)、および/またはセル(2)の気体室(4)のフレーム(3)に組み込むと発現する隣接した酸素消費電極(1、1a)の隣接エッジ領域(7)および/または重なり領域(8)を有しており、該屈曲領域(5)および/または該割れ領域(6)および/または該隣接エッジ領域(7)および/または該重なり領域(8)が、酸素消費電極(1、1a)と同等の組成を有し、酸素消費電極(1、1a)の層厚さより薄い付加フィルム(9)で覆われている電気化学セル(2)であって、ここで、付加フィルム(9)が酸素消費電極(1、1a)と同じ触媒活性成分を含有し、付加フィルム(9)および/または酸素消費電極(1、1a)が互いに独立に、フッ素化ポリマー、および銀含有触媒活性成分に基づいており、付加フィルム(9)における触媒活性成分が、少なくとも50重量%の酸化銀を含んでなることを特徴とする電気化学セル(2)。
【請求項9】
酸素消費電極(1、1a)の気体拡散層にフッ素化ポリマーを含有することを特徴とする、請求項8に記載の電気化学セル(2)。
【請求項10】
酸素消費電極(1、1a)および/または付加フィルム(9)に、付加的な支持要素として、導電性可撓性繊維構造体を有することを特徴とする、請求項8または9に記載の電気化学セル(2)。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれかに記載の方法に従って酸素消費電極(1、1a)が組み込まれる電気化学セル(2)の製造方法。
【請求項12】
塩素アルカリ電気分解における、請求項8〜10のいずれかに記載の電気化学セル(2)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に塩素アルカリ電気分解に使用するための電気分解装置への酸素消費電極の組み込み方法、および特に塩素アルカリ電気分解に使用するための電気分解装置に関する。本発明では、気密であることが重要な領域は特定の方法で覆われている。
【0002】
本発明は、気体拡散電極として構成されており、導電性支持体および触媒活性成分含有気体拡散層を通常含んでなる、自体既知の酸素消費電極から出発している。
【背景技術】
【0003】
工業規模で電解セルにおいて酸素消費電極を稼働するための様々な提案は、先行技術から基本的に知られている。基本的な考え方は、電気分解(例えば塩素アルカリ電気分解)の水素発生陰極を酸素消費電極(陰極)に置き換えることである。可能な電解セルの設計および方法の概説は、Moussallemらの文献“Chlor-Alkali Electrolysis with Oxygen Depolarized Cathodes: History, Present Status and Future Prospects”, J. Appl. Electrochem. 38 (2008) 1177-1194に見られる。
【0004】
酸素消費電極(以下、OCEとも略称する)は、工業用電解槽に用いられるために多くの要件を満たさなければならない。例えば、使用する触媒および全ての他の材料は、典型的には80〜90℃の温度で、約32重量%の濃度を有する水酸化ナトリウム溶液および純酸素に対して化学的に安定でなければならない。また、電極は、通常2m
2を越える面積(工業規模)を有する電解槽に組み込んで稼働させるので、高度の力学的安定性が要求される。更なる特性は、以下である:高い導電性、小さい層厚さ、大きい内部表面積、および電解触媒の高い電気化学活性。気体空間および液体空間が互いに分離されたままとなる程度に漏れがないように、気体および電解液が導通するのに適した疎水性および親水性細孔並びに適当な細孔構造も必要とされる。長期安定性および低い製造コストは、工業的に使用可能な酸素消費電極が満たさなければならない更なる特有の要件である。
【0005】
加えて、OCEは、電気分解装置に組み込み可能でなければならず、簡単な方法で交換可能でなければならない。様々な組み込み方法が、これまでに記載されている。
【0006】
US 7,404,878には、例えば、ペルフルオロカルボン酸、ペルフルオロスルホニルフルオリドまたはアルキルペルフルオロカルボキシレートを含有する層を用いて、2つのOCEの隣接エッジを結合することが記載されている。その後に、層は、熱処理によってOCEに結合しなければならない。OCEが熱処理において損傷を受けることがあるので、この方法を採用することは難しい。また、この方法は、得られた電気化学的に不活性な被覆エッジおよび重なり領域においてOCEが稼働しないので、残りの領域が高い電流密度で稼働し、その結果、電圧が上昇し、全体として高いエネルギーを消費するという欠点を有する。
【0007】
DE 4444114 A1には、クランプで接触させることによって電気化学反応装置の基礎構造物と接触させることによる、OCEの組み込み方法が開示されている。しかしながら、クランプまたはプレスで接触させると、装置の稼働中に電気接触抵抗がしばしば増大し、その結果、望ましくない電気エネルギー消費量の増加が起こることがわかっている。別の欠点は、クランプのバーの領域が電気化学的に不活性なので、OCEの面積が小さくなることである。
【0008】
電極と電気化学反応装置との、より電気的耐久性の高い接続は、EP 1041176 A1に記載されているような溶接法によって達成することができる。金属製無孔周縁を有する気体拡散電極を使用すると、電極の基礎構造物に直接溶接することができる。しかしながら、EP 1041176 A1に記載されている、電極基礎構造物の連続エッジは、支持構造体として、有孔または有長孔金属板を必要とする。従って、一体化される電極は、多くの場合、全領域に孔が開けられており、その空間に電気化学的活性組成物(以下、被覆剤と称する)が埋め込まれており、金属のような伝導性を有する基礎構造物で構成されている。被覆した電極を溶接する試みは、高い結合温度で通常起こる被覆組成物の分解の故にまさしく失敗する。質的に欠陥のない結合を達成するためには、被覆組成物は溶接領域に存在してはならない。従って、電極の有孔基礎構造物は、この領域に被覆組成物を有さないので、シーリング作用を達成するための処理を伴わなければ、稼働中に、電気化学反応装置において、電極の両面に存在する媒体、即ち電解液と気体の混合が起こる。
【0009】
媒体の混合を回避するため、未被覆溶接領域は、しばらくの後に固化して、適用時にはこの場所で有孔構造物をシールする液体またはペースト状材料を有する。シーリング材料の固化は、例えば、液体またはペースト状適用物質の化学的硬化によって達成することができる。電気化学反応装置において一般的である、通常は極めて化学的に進行しやすい条件の故に、このように製造されたシールの寿命は極めて短いことがわかっている。それは数週間から数ヶ月の範囲で変化し、その結果、電気化学反応装置の効率的な長期使用を妨げる。
【0010】
また、加熱によって可塑性になり、冷却すると再び固化する組成物のシーリング材料としての使用は、EP 1029946 A2に開示されている。PTFEのような化学的に不活性な物質を使用することもできるが、この物質を基礎構造物に永続的に結合するためには、高温を使用しなければならない。同特許文献の教示によれば、この方法の実施には、それに応じて複雑な装置/機械を必要とする。
【0011】
DE 10152792 A1には、電気化学反応装置の気体拡散電極と基礎構造物との結合部を製造する方法であって、電極の縁と周縁フレームの金属製屈曲構造との間に、電気抵抗の低い接合部を形成することによって(周縁フレームは、電極の縁および周縁フレームの電気抵抗の低い接合部を、電気化学反応装置の基礎構造物に適合させる)、電極の前側および後側に存在する媒体の分離を確保することができる方法が開示されている。DE 10152792 A1の方法は、フレームの屈曲部が、対角接合のためにエッジ領域で切断されてレーザー溶接または他の溶接またははんだ付けによって互いに結合された形材からなることを特徴とする。この方法の全体としての欠点は、組み込み方法が非常に複雑かつ高価なことである。OCEの交換も非常に複雑であり、適当な作業場および道具がなければ実施することができない。性能に影響する別の欠点は、屈曲領域/形材が電気化学的に不活性であり、従って活性OCE面積が失われることである。その結果、OCEが対電極(陽極)より高い電流密度で稼働し、それによって、電解電圧が上昇し、経済性が悪化する。
【0012】
EP 10299946 A2は、反応性層および気体拡散層および集電板(例えば銀製網)で構成された気体拡散電極を記載している。被膜は、集電板を完全には覆っておらず、被覆されていない縁が残されている。金属フレームが電気化学的活性被膜の非常に小さい領域を覆い、シーリング作用も達成されるように、好ましくは銀である薄いフレーム状金属板が気体拡散電極に適用されている。OCEを超えて突出しているフレームは、例えば溶接によって、OCEを電気分解装置に接合するのに役立つ。この接合は、複雑であり、OCE領域の一部を覆う。その結果、覆われていないOCE領域の局所的な電流密度が増大し、より高い電解電圧の故に電解槽の性能が低下する。更に、組み込みが複雑なので、電解槽の製造コストが高くなったり、OCEの交換コストが高くなったりする。
【0013】
DE 10330232 A1は、OCEの組み込み方法であって、一工程で、OCEと電気分解装置との電気的接触部を製造し、気体空間と電解液空間の間のシールを確立する方法を開示している。同方法では、OCEの未被覆縁およびOCEの触媒被覆領域の両方の上に金属片を配置し、レーザー溶接によって電気分解装置の支持構造体に接合する。この方法は、金属片の領域だけでなく溶接部の領域も電気化学的に不活性であり、選択する工程が非常に複雑であるという欠点を有する。
【0014】
それぞれの電気分解装置にOCEを1つだけ組み込めばよいような寸法でOCEを入手することはできないので、それぞれの電気分解装置には、複数のOCEを組み込まなければならない。OCEは僅かに重ねて、または隣接して、組み込むことができる。1つの電気分解装置につき1つだけ組み込めばよいOCEを入手できる場合であっても、組み込みによってOCEが折り曲げられる領域が存在し得る。
【0015】
OCEにおいて製造または使用によって生じた割れまたは孔をシールする特定の方法は、先行技術からは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】US 7,404,878
【特許文献2】DE 4444114 A1
【特許文献3】EP 1041176 A1
【特許文献4】EP 1029946 A2
【特許文献5】DE 10152792 A1
【特許文献6】EP 10299946 A2
【特許文献7】DE 10330232 A1
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Moussallem、“Chlor-Alkali Electrolysis with Oxygen Depolarized Cathodes: History, Present Status and Future Prospects”, J. Appl. Electrochem. 38 (2008) 1177-1194
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
従って、本発明の目的は、組み込みによって生じたOCEの隣接エッジまたは重なり領域または屈曲領域をシールする新規な方法、およびOCEにおいて製造または使用によって生じた割れまたは孔をシールする方法を提供することである。電気分解装置の構成に応じて、OCEは時として、角部周辺に導入しなければならない。その結果、OCEに強い力学的応力が作用し、漏れが生じることがある。先に記載したように、漏れによって、電解液が電解液空間から気体空間に移動するか、または気体が気体空間から電解液空間に移動することができる。
【0019】
また、気体空間が電解液空間から分離されている電気分解装置へのOCEの組み込みは、気体が気体空間から電解液空間に移動できず、電解液が電解液空間から気体空間に移動できないようにしなければならない。OCEでは、気体空間と液体空間の圧力差1〜170mbarで漏れがあってはならない。ここで、「漏れがない」とは、気泡の電解液空間への可視的な出口が観察されないことを意味する。本発明において、「液密」とは、10g/(h・cm
2)以下の液体がOCEを通過することを意味する(ここで、gは液体の質量であり、hは時間であり、cm
2は幾何学的な電極表面積である)。過度の量の液体がOCEを通過すると、液体は気体側に面する側をもっぱら流れ落ちる。これにより、気体のOCEへの進入を防ぎ、その結果OCEの性能に著しい悪影響を及ぼす液膜が生じ得る(酸素の供給不足)。過度の量の気体が電解液空間に移動する場合は、電解液空間から気泡を排出できなければならない。どのような場合でも、気泡によって、電極および膜表面は見えなくなる。これにより、電流密度、従ってセルの定電流操作がシフトし、電流密度が局所的に増大し、セル全体でセル電圧が好ましくないことに増大する。
【0020】
更に、組み込みによって、気体拡散電極の非常に小さい電気化学的活性領域しか失われてはならない。組み込みは、技術的に簡単に実施できなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の目的は、例えば、組み込みの際に、OCEの重なり領域/屈曲または隣接エッジを、ポリマー成分および酸化銀を含んでなるフィルムで覆うことによって達成することができる。
【0022】
本発明は、電気化学半セルに1つ以上の隣接した酸素消費電極を気密に組み込む方法であって、酸素消費電極の屈曲領域および/または割れ領域、および/または酸素消費電極を半セルの気体室のフレームに並置すると発現する隣接した酸素消費電極の隣接エッジ領域および/または重なり領域を、酸素消費電極と同等の組成を有しており、酸素消費電極の層厚さより薄い付加フィルム(以下、シーリングフィルムとも称する)で覆うことを特徴とする方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】隣接領域7が記載されている、半開状態の実験室用セル(2)、(10)の概略断面図を示す。
【
図2a】酸素消費電極(1)および(1a)が互いに隣接している領域(7)におけるシーリングフィルム(9)と2つの酸素消費電極(1)および(1a)との重なり、およびシーリングフィルム(9)と酸素消費電極(1a)の割れ(6)との重なりの概略図を示す。
【
図3】重なり領域が記載されている、実験室用セル(2)、(10)の概略断面図を示す。
【
図3a】酸素消費電極(1)および(1a)が重なった領域(8)におけるシーリングフィルム(9)と2つの酸素消費電極(1)および(1a)との重なりの概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
この新規な方法は特に、触媒活性成分として銀および/または酸化銀を含有する気体拡散電極に適用することができる。本発明は好ましくは、気体拡散電極を、気体空間が電解液空間から分離されている電気分解装置に組み込む方法に関する。特に、銀に基づいており、例えばDE 3710168 A1 またはEP 115 845 A1に記載されている方法に従って製造されたOCEを使用する。銀が炭素に担持されている触媒に基づいたOCEを使用することも可能である。
【0025】
好ましい方法では、シーリングフィルムは、酸素消費電極と同じ触媒活性成分を含有する。
【0026】
シーリングフィルムおよび/または酸素消費電極は、互いに独立して、好ましくは完全フッ素化ポリマーまたは部分フッ素化ポリマー、特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、および銀含有触媒活性成分に基づく。
【0027】
本発明の新規な方法の別の好ましい態様では、シーリングフィルムおよび/または酸素消費電極の触媒活性成分は、独立して、銀、酸化銀(I)、酸化銀(II)、または銀と酸化銀との混合物を含んでなる。
【0028】
シーリングフィルムにおける触媒活性成分は、好ましくは少なくとも50重量%の酸化銀、特に好ましくは少なくとも80重量%の酸化銀を含んでなる。
【0029】
本発明の別の好ましい方法は、シーリングフィルムおよび/または酸素消費電極が、互いに独立して、触媒活性成分として、70〜95重量%の酸化銀、0〜15重量%の金属銀粉、および3〜15重量%のフッ素化ポリマー、特にPTFEを含有する混合物を含んでなることを特徴とする。
【0030】
シーリングフィルムの適用後、シーリングフィルムおよび酸素消費電極を一緒にプレスすることが好ましい。
【0031】
本発明の新規な方法である改良法では、セルを起動するときに、シーリングフィルムの適用後の接触点でシーリングフィルムと酸素消費電極は結合している。本発明の新規な方法を実施する際、重なり領域および/または隣接領域および/または屈曲領域は、特に好ましくは、電気分解装置において、組み立て後に上記シーリングフィルムに電気分解装置が力学的力を及ぼす場所に位置する。
【0032】
本発明の新規な方法に適したシーリングフィルムの好ましい形態の説明:
シーリングフィルムを製造するため、1〜30μmのD50を有する粒度分布を有する酸化銀を使用するが、より粗いまたはより細かい粉末を使用することもできる。使用するポリマーは、OCEを使用する条件の下で化学的に安定でなければならない。例えば、塩素アルカリ電気分解において、ポリマーは、純酸素の存在下90℃で、32重量%濃度のNaOHに対して安定でなければならない。例えば、フッ素化ポリマーまたは部分フッ素化ポリマー、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を使用することができる。また、ポリマーは、特に製造条件下で、酸化銀の酸化作用に対してもほぼ安定でなければならない。
【0033】
好ましく使用されるシーリングフィルムを製造するため、ポリマー成分は、力学的負荷に耐えることができる取扱い可能なフィルムが製造される量で使用する。本発明において、「力学的負荷に耐えることができる」とは、シーリングフィルムが破壊されずに、即ちシーリングフィルムが比較的大きい孔または幅広の割れを形成する折れや破断を伴わずに、工業用電気分解装置に組み込まれることを意味する。
【0034】
力学的負荷に耐える能力を高めるため、強化用織物をシーリングフィルムに組み込むことができる。強化用織物は、酸化銀の酸化作用に対して、ある程度の安定性を有さなければならない。即ち、強化用織物は、検知できる腐食または機械的性質の低下を伴わず、シーリングフィルムが完成するまで製造工程に耐えなければならない。使用条件下での強化用織物の耐薬品性は必要とは限らない。従って、例えば、水酸化ナトリウムに対して安定ではない材料、例えばポリエステルを使用することもできる。例えば導電性支持体、例えば、金属(特に、ニッケル、銀、ニッケルと銀との混合物、またはニッケル銅合金)で構成された網、織物、編組、編物、不織繊維製品または発泡体を使用することができる。強化用織物に、非金属抵抗材料、例えばポリプロピレン系材料を使用することもできる。
【0035】
シーリングフィルムのための酸化銀との混合物におけるポリマー成分の割合は、好ましくは、電気分解装置においてOCEが稼働する条件下で、シーリングフィルム中の酸化銀の電気化学的還元がなお起こり得るように選択する。従って、好ましい方法において、酸化銀の割合は、50重量%超、特に好ましくは80重量%超である。シーリングフィルムのためのポリマーとして、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を使用することが特に好ましい。
【0036】
シーリングフィルムは、OCEを製造するための、先行技術から基本的に知られている方法と同様の方法で、ポリマー成分および酸化銀から製造することができる。これは例えば、以下の様々な方法によって実施することができる。
【0037】
1つの可能な方法では、粉末状のポリマー成分および酸化銀を押し出してフィルムを製造する。
【0038】
PTFEの場合、EP 951500 A1に記載されているようなOCEの製造方法と同様の方法で、ペースト押出によって、酸化銀を充填材のようにポリマー成分に配合して多孔質シーリングフィルムを製造することも可能である。
【0039】
酸化銀を多孔質PTFEフィルム上に例えば散布して、次いで圧入することも可能である。
【0040】
また、ポリマーをDE 2941774に記載されている混合法と類似した方法で製造し、次いで、強化用織物を伴ってまたは伴わずに圧延またはプレスしてフィルムを製造することもできる。
【0041】
OCEを製造するためのEP 115845 A2から知られている方法によれば、銀触媒をPTFE上に沈澱させることが好ましい。この場合、得られた酸化銀を直接銀に還元するために、水酸化ナトリウムによる硝酸銀の沈澱において、還元剤を添加する。還元剤を使用しないと、酸化銀がPTFE上に沈澱し得る。この材料を、濾取および乾燥し、DE 2941774 A1に従った混合法によって加工して粉末を得、その後、DE 3710168 A1またはEP 115 845 A2に記載されているようにプレスしてフィルムを得ることができる。
【0042】
上記特許公報に記載されている製造方法の特定の内容の全てを引用して、本特許出願の開示内容に組み込む。
【0043】
シーリングフィルムは、特に好ましくは、60〜99重量%の酸化銀および1〜40重量%のPTFEを含んでなる。加えて、場合により銀粉を添加してよい。銀粉は、特に50μm未満の平均粒径を有すべきである。付加的な銀粉の量は、特に好ましくは0〜15重量%である。
【0044】
本発明の新規な方法で好ましく使用するシーリングフィルムの厚さは、10μm〜800μm、好ましくは50μm〜600μmである。シーリングフィルムは、特に好ましくは薄い、即ち500μm未満の厚さを有する。
【0045】
シーリングフィルムを伴わない酸素消費電極の層厚さは、典型的には0.1〜0.9mm、好ましくは0.2〜0.7mmである。
【0046】
本発明はまた、1つ以上の隣接した酸素消費電極(1、1a)を有する電気化学半セルであって、酸素消費電極が、酸素消費電極の屈曲領域および/または割れ領域、および/またはセルの気体室のフレームに組み込むと発現する隣接した酸素消費電極の隣接エッジ領域および/または重なり領域を有しており、これらの領域が、酸素消費電極と同等の組成を有し、酸素消費電極の層厚さより薄い付加フィルムで覆われていることを特徴とする電気化学半セルを提供する。
【0047】
好ましい電気化学セルは、酸素消費電極の気体拡散層にフッ素化ポリマー、特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含有することを特徴とする。
【0048】
電気化学セルの別の好ましい態様は、酸素消費電極および/またはフィルムに、付加的な支持要素として、特に金属糸で構成された、好ましくはニッケルまたは銀被覆ニッケルで構成された導電性可撓性繊維構造体を有する。
【0049】
強化用織物を使用する場合は、この織物は好ましくは、金属織物、例えば、網の目が0.1mmより大きく、ワイヤーが60μmより太い、ニッケル製網、銀製網、または銀メッキニッケル製網を包含する。別の材料を使用することもできる。
【0050】
シーリングフィルムは、20〜70%の計算多孔率を有さなければならない。計算多孔率は、使用する材料の密度比および完成シーリングフィルム中に存在する量および製造された(強化用織物を伴わない)シーリングフィルムの密度から算出される。
【0051】
圧縮比は、フィルム密度(強化用織物を伴わない)の粉末嵩密度に対する比に基づいて、2〜5の範囲である。
【0052】
また、先に記載した本発明の新規な方法の1つに従って酸素消費電極を組み込むことによって得られた電気化学セルの変種も好ましい。
【0053】
以下において、実施例および図を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0054】
図の説明:
図1は、電気化学半セル(2)の概略断面図を示す。
図2は、隣接領域7が記載されている、半開状態の実験室用セル(2)、(10)の概略断面図を示す。
図2aは、酸素消費電極(1)および(1a)が互いに隣接している領域(7)におけるシーリングフィルム(9)と2つの酸素消費電極(1)および(1a)との重なり、およびシーリングフィルム(9)と酸素消費電極(1a)の割れ(6)との重なりの概略図を示す。
図3は、重なり領域が記載されている、実験室用セル(2)、(10)の概略断面図を示す。
図3aは、酸素消費電極(1)および(1a)が重なった領域(8)におけるシーリングフィルム(9)と2つの酸素消費電極(1)および(1a)との重なりの概略図を示す。
【0055】
図における各符号は、下記意味を有する。
1、1a 酸素消費電極
2 電気化学半セル(2)
3 フレーム(3)
4 気体室(4)
5 屈曲領域(5)
6 割れ領域(6)
7 隣接エッジ領域(7)
8 重なり領域(8)
9 シーリングフィルム(9)
10 陽極を有する陽極半セル
11 イオン交換膜
12 スペーサー
13 支持構造体
14 シーリング形材
15 陽極
【実施例】
【0056】
フィルムの製造:
88重量%の酸化銀、5重量%のPTFEおよび7重量%の銀粉の混合物2kgを、Eirich RO2ミキサーで5分間激しく混合し、次いで混合物を室温まで放冷し、続いて3分間再び激しく混合した。室温まで冷却した後、厚さ1mmの粉末層が強化用織物上に形成されるように、ニッケル製網(ワイヤー太さ0.14mm、網の目0.5mm)で構成された強化用織物上に混合物を散布した。この粉末層を、強化用織物と一緒に圧延によって圧縮した。圧縮比は3.4であった。得られたフィルム(9)の厚さは290μmであり、計算多孔率は44%であった。
このようにして得られるフィルム(9)は、連続フィルムとして製造することができる。その幅は、圧延カレンダーのロールの幅によって制限される。使用の際、フィルム(9)を、適当なシーリング/屈曲および/または重なり領域の寸法に切断することができる。
【0057】
有効性試験:
フィルム(9)のシーリング作用を電解セルにおいて試験した。陰極半セル(2)において、支持構造体(13)を介して陰極(1、1a)に電力を供給した。このために、2つの酸化銀ベース酸素消費陰極(1、1a)(OCE)を、それらが隣接し、フレーム(3)の側面エッジにシーリング形材(14)によって固定されるように、一緒に配置した(
図2参照)。先に記載した酸化銀ベースフィルム(9)が隣接エッジ(7)のそれぞれの面に約3mm重なるように、フィルム(9)を隣接エッジ(7)の上に置いてプレスした。
図2aは、
図2に対応する概略側面図における、隣接エッジ領域(7)に関するOCE(1、1a)およびフィルム(9)の位置を示している。陽極半セル(10)は、市販の貴金属酸化物ベースDSA(登録商標)被覆剤(Denora製)で被覆されたエキスパンドチタンで作られた陽極(15)を有していた。電解液および気体の流入および流出は切断面外なので、図には示されていない。電解セルは流下薄膜セルとして稼働するので、陰極入口は半セルの上部に位置し、出口はスペーサー(12)の下端に位置する。次いで、電解セルを組み立てると起動した。OCEの下端におけるアルカリの圧力は、20mbarであった。気体室(4)における気圧(酸素)は60mbarであった。塩化ナトリウム含量210g/Lを有する塩化ナトリウム溶液がアノード液となり、30%濃度の水酸化ナトリウム溶液がカソード液となった。電解液の温度は約85℃であり、電流密度は4kA/m
2であった。セル電圧の増大が観察された。
【0058】
膜(11)と銀ベースOCE(1、1a)の間の距離を3mmで一定に保つスペーサー(12)が、隣接エッジ(7)に沿って走っていた。起動後、気体または液体の漏出は観察されなかった。実験室用セルのセル電圧は、隣接エッジ(7)を有さない連続した酸素消費陰極を有するセルと比べて変化しなかった。
【0059】
フィルム(9)により、半セル(2)の気体室(4)のフレーム(3)において発現した酸素消費電極(1、1a)の屈曲領域(5)(
図1参照)、または隣接する酸素消費電極(1、1a)の重なり領域(8)(
図3および3a参照)、または酸素消費電極(1a)における割れ領域(6)の割れ(
図2a参照)を、先に記載したようにシールすることができた。
【符号の説明】
【0060】
1、1a 酸素消費電極
2 電気化学半セル
3 フレーム
4 気体室
5 屈曲領域
6 割れ領域
7 隣接エッジ領域
8 重なり領域
9 シーリングフィルム
10 陽極を有する陽極半セル
11 イオン交換膜
12 スペーサー
13 支持構造体
14 シーリング形材
15 陽極