(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6152097
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】ハロアルカン化合物の製造において用いた鉄触媒を捕捉及び再循環する方法
(51)【国際特許分類】
B01J 38/00 20060101AFI20170612BHJP
C07C 17/275 20060101ALI20170612BHJP
C07C 19/01 20060101ALI20170612BHJP
C07C 17/278 20060101ALI20170612BHJP
B01J 31/28 20060101ALI20170612BHJP
B01J 31/40 20060101ALI20170612BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20170612BHJP
【FI】
B01J38/00 301U
C07C17/275
C07C19/01
C07C17/278
B01J31/28 Z
B01J31/40 Z
!C07B61/00 300
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-513673(P2014-513673)
(86)(22)【出願日】2012年5月31日
(65)【公表番号】特表2014-527458(P2014-527458A)
(43)【公表日】2014年10月16日
(86)【国際出願番号】US2012040070
(87)【国際公開番号】WO2012166836
(87)【国際公開日】20121206
【審査請求日】2015年5月22日
(31)【優先権主張番号】61/492,907
(32)【優先日】2011年6月3日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】13/471,601
(32)【優先日】2012年5月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500575824
【氏名又は名称】ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】クローズ,ジョシュア
(72)【発明者】
【氏名】ウォン,ハイユー
(72)【発明者】
【氏名】トゥン,シュー・スン
(72)【発明者】
【氏名】コットレル,スティーヴン・エイ
【審査官】
岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】
特表2010−506848(JP,A)
【文献】
特表2004−524272(JP,A)
【文献】
特開2009−221301(JP,A)
【文献】
特開昭55−111836(JP,A)
【文献】
特開平06−170245(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第101851014(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上の電磁気分離ユニット(EMSU)を用いることによって、鉄触媒及び共触媒として1種類以上のトリアルキルホスフェート化合物を用いることによる四塩化炭素及びアルケンからのハロアルカン化合物の製造中に用いた反応器流出流から鉄触媒を捕捉して再循環する方法であって、
アルケンが、塩化ビニル、エチレン、及び2−クロロプロペンからなる群から選択されるか、又はハロアルカン化合物が、HCC−240fa、HCC−250、及びHCC−360からなる群から選択され、
鉄触媒が、鉄粉、鉄球、鉄線、鉄屑、及びこれらの混合物からなる群から選択される形態を有し、
共触媒が、トリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリプロピルホスフェート、及びこれらの2以上の混合物からなる群から選択され、
製造装置が反応器、反応器に接続した少なくとも2つの流路、及び各流路に沿って設けられている少なくとも1つのEMSUを含み、
前記方法は、
四塩化炭素、アルケン、鉄触媒及び1種類以上のトリアルキルホスフェート化合物を含む第1の反応混合物を反応器に供給し;
第1の反応混合物を反応させてハロアルカン化合物及び鉄触媒を含む第1の生成物混合物を形成し;
第1の生成物混合物を第1の流路を通過させて、電圧を加えられたEMSUの周りに鉄触媒を保持し;
第1の生成物混合物をEMSUに電圧が加えられている別の流路に向け、
第1の流路のEMSUの電圧を解除し;
四塩化炭素、アルケン、及び1種類以上のトリアルキルホスフェート化合物を含む第2の反応混合物を第1の流路を通じて反応器に供給して、第2の反応混合物が鉄触媒を第1の流路のEMSUから除くようにする;
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、同じ出願人に所有され、共に係属している2011年6月3日出願の米国仮特許出願61/492,907(その開示事項を参照として本明細書中に包含する)に対する国内優先権を主張する。
【0002】
本発明は、ハロアルカン化合物の製造方法、より詳しくは化合物1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン(HCC−240fa)を製造するための改良された方法に関する。本発明はまた、HCC−250及びHCC−360のような他のハロアルカン化合物に関する製造方法においても有用である。
【背景技術】
【0003】
化合物1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン(HCC−240fa)は、非オゾン層破壊化学物質であり、発泡剤、エネルギー伝達媒体などとして用いることができる1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)を製造するための原材料である。HCC−240faのような有用なハロアルカンを製造するための付加反応は当該技術において公知である。例えば、米国特許6,313,360においては、四塩化炭素(CCl
4)と塩化ビニル(VCM)を、有機ホスフェート、例えばトリブチルホスフェート(TBP)、金属鉄、及び塩化第二鉄を含む触媒混合物の存在下、HCC−240faを含む生成物混合物を生成させるのに十分な条件下において反応させることによってHCC−240faを製造する方法が教示されている。次に、240fa生成物を、反応物質、触媒、及び副生成物から分離することによって回収する。また、米国特許5,902,914、6,187,978、6,198,010、6,235,951、6,500,993、6,720,466、7,102,041、7,112,709、及び7,265,082、並びに米国特許公開2004/0225166及び2008/0091053も参照。これらの参照文献の全ての開示事項を参照として本明細書中に包含する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許6,313,360
【特許文献2】米国特許5,902,914
【特許文献3】米国特許6,187,978
【特許文献4】米国特許6,198,010
【特許文献5】米国特許6,235,951
【特許文献6】米国特許6,500,993
【特許文献7】米国特許6,720,466
【特許文献8】米国特許7,102,041
【特許文献9】米国特許7,112,709
【特許文献10】米国特許7,265,082
【特許文献11】米国特許公開2004/0225166
【特許文献12】米国特許公開2008/0091053
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉄粉は、CCl
4とVCMとの間のカップリング反応によるHCC−240faの合成中において主要な触媒として用いられる。CCl
4、TBP、及び240faから構成される液体媒体が、鉄粉と共にスラリーを形成する。したがって。反応器流出流は相当量の懸濁している固体を含み、これは下流のユニットの機械的及び化学的運転を混乱させる可能性がある。更に、流出流から触媒が取り出されるにつれて反応性が悪化して、損失した鉄粉の必要な補給量が増加する。したがって、それによって鉄触媒を捕捉して反応器に再循環して戻すことができる手段に対する必要性が存在する。本発明はこの問題に対する解決策を与える。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、CCl
4とVCMからのハロアルカン化合物の接触形成中において、反応器流出流から鉄粒子を連続的に取り出し、捕捉した鉄粒子を再循環することができるように構成されている電磁気分離ユニット(EMSU)を用いる。
【0007】
一態様においては、本発明は、概して、電磁気分離ユニット(EMSU)を用いて反応を促進させる、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンの製造において用いた鉄触媒を捕捉して再循環する方法として示すことができる。EMSUは、電圧を加えると反応器流出流から鉄粒子を取り出すように機能し、電圧を解除すると、EMSUによって捕捉された鉄粒子を再使用のために反応器中に流入して戻すことができる。
【0008】
而して、本発明の一態様は、
(a)CCl
4及びVCMを、鉄粉及びTBPを含む触媒と共に反応器中に供給してHCC−240faを形成し;
(b)電圧を加えた電磁気分離ユニット(EMSU)を用いることによって、HCC−240fa反応器流出流から鉄粒子を取り出し;そして
(c)EMSUを電圧解除し、鉄粒子を再循環して、鉄粒子を工程(a)において再使用するために反応器に戻す;
工程を含む、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンの製造中において鉄触媒を捕捉して再循環する方法である。
【0009】
本発明はまた、HCC−250及びHCC−360のような他のハロアルカン化合物に関する鉄で触媒した製造方法においても有用である。
(1)HCC−250は、CCl
4及びエチレンから次の反応:
【0010】
【化1】
【0011】
にしたがって製造することができる。
(2)HCC−360は、CCl
4及び2−クロロプロペンから次の反応:
【0012】
【化2】
【0013】
にしたがって製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、連続撹拌タンク反応器(CSTR)中でのHCC−240fa及び他のハロアルカン化合物の製造において、触媒固体を連続的に取り出して再循環するためのプロセスの構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
鉄は多くの触媒用途において広く用いられており、そこでは、その粉末形態を化学反応物質から構成される液体混合物中に懸濁している。しばしば、これらのスラリーは連続的に処理され、存在する固体の注意深い取扱いが必要な可能性がある。下流の装置(即ち、ポンプ、バルブ、配管)は、大量の固体物質を含む流れを取り扱うことができない場合がある。更に、鉄の存在下においては望ましくない化学反応(分離、側反応)が起こる可能性がある。鉄粉が好ましいが、鉄球、鉄線、鉄屑などのような任意の鉄物体を用いることができる。
【0016】
固体が下流にキャリーオーバーされるのを抑止するために、フィルターがしばしば用いられて効果を考慮して配置されている。しかしながら、これらのフィルターは一般に、鉄で飽和された場合には使用状態から取り外す必要がある。その結果、高価な触媒が失われる可能性があり、及び/又はこれらのフィルターの洗浄及びメンテナンスの結果としてプロセスの停止時間が生じる可能性がある。
【0017】
本発明は、CCl
4からのハロアルカン化合物の鉄で触媒した形成中における鉄のキャリーオーバー及びプロセスの停止時間を最小にし、並びに1以上の電磁気分離ユニット(EMSU)を用いることによって鉄固体の懸濁液を用いるプロセスにおける触媒保持率を最大にするようにデザインされる。かかる装置は商業的に入できる。1つの商業的な製造者はErie, PAのEriezである。
【0018】
より詳しくは、本発明は、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンの製造中に用いた鉄触媒を捕捉して再循環するようにデザインされ、ここでは、CCl
4及びVCMを所望の比で反応器中に連続的に供給し、鉄粉及び共触媒のTBPは反応器中に周期的又は連続的に加えることができる。本発明において有用な更なる共触媒としては、以下の有機ホスフェート化合物:トリフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリプロピルホスフェート、又は任意の同様の有機ホスフェート化合物、並びにこれらの2以上の混合物が挙げられる。
【0019】
CCl
4とVCMの反応は、好ましくは、約0.01時間〜約24時間、好ましくは約1時間〜約12時間の滞留時間で行う。反応条件は、高いVCM効率、高いHCC−240faの収率、及び低い副生成物の生成が得られるように慎重に選択する。本発明の反応のためにバッチ処理を用いることができるが、本発明においては連続製造処理を用いることが好ましい。
【0020】
連続運転においては、液体スラリー中に浸漬している管を通して、反応器の内容物を連続的に引き抜く。スラリーを反応器から取り出しながら、下流の処理の前にEMSUを用いて鉄を取り出すことによって流れを調製する。この流れは単一のEMSUによって処理することができるが、好ましい態様においては、
図1において示すように、2つ(又はそれ以上)のタンデムのEMSUを設置して並行に運転する。
【0021】
始動時においては、バルブ1を開放し、バイパスを通して供給材料を240fa反応器に供給し、流出流はEMSU「A」を通して流す。連続運転する際には、EMSU「A」に電圧を加える。この電圧を加えられたEMSUが反応器流出流を受容し、懸濁している鉄粒子を捕捉するように運転される。次に、鉄を含まない液体部分は下流に流すことができる。EMSU「A」が鉄で飽和し始めたら、バルブ1を閉止し、3を開放して、EMSU「B」が反応器流出流を受容できるようにして、鉄の取り出しを開始する。
【0022】
EMSU「B」を運転しながら、飽和したEMSU「A」を電圧解除する。次に、反応器供給流を飽和したEMSU「A」に再び流して、鉄触媒を反応器中に流入して戻すようにすることができる。このようにして、EMSU「A」が飽和した際にはバルブ3を開放し、或いはEMSU「B」が飽和した際にはバルブ2を開放することにより、それぞれのEMSUの役割を交換することによって連続プロセスを維持して、下流への鉄の損失を阻止し、触媒の使用を最大にし、プロセスの停止時間を減少させることができる。
【0023】
EMSUを通過させてそこで鉄粒子を捕捉した後、反応器流出流をフラッシュ蒸留して、未反応のCCl
4及びVCM(存在する場合)の供給材料、並びにHCC−240fa反応生成物を含む「塔頂」流を取り出し、一方で触媒/共触媒混合物を残留させる。蒸留は、当該技術において周知の1以上の蒸留カラム内で行うことができる。
【0024】
好ましくは、フラッシュ蒸留は2段階で行う:まず、所定の圧力下、好ましくは真空下において、反応温度よりも低い温度でフラッシュ蒸留を行って、未反応のCCl
4及び/又はVCMを除去し、次により低い圧力において他の真空フラッシュ蒸留を行って、HCC−240fa反応生成物を取り出す。「塔底」流は反応器に再循環して戻す。留出した未反応のCCl
4及びVCMは、反応器に再循環して戻すことができる。周期的なパージを行って、HCC−470異性体のような重質の副生成物が触媒再循環流中に蓄適されるのを回避することができる。
【0025】
本方法のその後の工程において、本発明は蒸留による粗生成物の精製を与える。約5〜約200mmHg、及び約50℃〜約150℃の温度において、分別真空蒸留を行って生成物を回収する。この精製工程をトリブチルホスフェートのような有機ホスフェート化合物又は他の金属キレート化合物の存在下で行うと、精製した生成物の蒸留収率が大きく向上することが見出された。
【0026】
いかなる特定の理論にも縛られることは望まないが、トリブチルホスフェートはHCC−240fa生成物の分解を抑止するように機能すると考えられる。而して、好ましい態様においては、精製工程は、HCC−240fa生成物の収率を向上させるのに十分な量の金属キレート化合物を加えることを含む。好ましくは、5重量%のトリブチルホスフェートを用いる。
【0027】
本明細書において用いる単数形の「a」、「an」、及び「the」は、記載が他に明確に示していない限りにおいて、複数のものを包含する。更に、量、濃度、又は他の値若しくはパラメーターを、範囲、好ましい範囲、又はより高い好ましい値とより低い好ましい値のリストのいずれかとして与える場合には、これは、範囲が別々に開示されているかどうかにかかわらず、任意のより高い範囲限界又は好ましい値と、任意のより低い範囲限界又は好ましい値の任意の対から形成される全ての範囲を具体的に開示すると理解すべきである。本明細書において数値の範囲が示されている場合には、他に示されていない限りにおいて、この範囲はその端点及びこの範囲内の全ての整数及び小数を含むと意図される。本発明の範囲を、範囲を規定する際に示される具体的な値に限定することは意図しない。
【0028】
上記の記載は本発明の例示のみのものであると理解すべきである。種々の代替及び修正は、本発明から逸脱することなく当業者によって想到しうる。したがって、本発明は、特許請求の範囲内の全てのかかる代替、修正、及び変更を包含すると意図される。
本発明は以下の態様を含む。
[1]
電磁気分離ユニット(EMSU)を用いることによって、鉄触媒及び共触媒として1種類以上のトリアルキルホスフェート化合物を用いることによる四塩化炭素及びアルケンからのハロアルカン化合物の製造中に用いた鉄触媒を捕捉して再循環する方法。
[2]
アルケンが、塩化ビニル、エチレン、及び2−クロロプロペンからなる群から選択される、[1]に記載の方法。
[3]
ハロアルカン化合物が、HCC−240fa、HCC−250、及びHCC−360からなる群から選択される、[1]に記載の方法。
[4]
鉄触媒が、鉄粉、鉄球、鉄線、鉄屑、及びこれらの混合物からなる群から選択される形態を有する、[1]に記載の方法。
[5]
共触媒が、トリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリプロピルホスフェート、及びこれらの2以上の混合物からなる群から選択される、[1]に記載の方法。
[6]
連続運転として行う、[1]に記載の方法。
[7]
バッチ運転として行う、[1]に記載の方法。
[8]
2以上の電圧を加えた電磁気分離ユニットを用いる、[1]に記載の方法。
[9]
2以上のEMSUをタンデムに設置して並行して運転する、[8]に記載の方法。