特許第6152103号(P6152103)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6152103
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】金属酸化物を含む粒体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/146 20060101AFI20170612BHJP
   C01B 13/14 20060101ALI20170612BHJP
   C01G 23/04 20060101ALI20170612BHJP
【FI】
   C01B33/146
   C01B13/14 B
   C01G23/04 Z
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-524653(P2014-524653)
(86)(22)【出願日】2013年7月9日
(86)【国際出願番号】JP2013004245
(87)【国際公開番号】WO2014010230
(87)【国際公開日】20140116
【審査請求日】2016年4月13日
(31)【優先権主張番号】特願2012-154748(P2012-154748)
(32)【優先日】2012年7月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【弁理士】
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】下川 幸正
(72)【発明者】
【氏名】堂下 和宏
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−042217(JP,A)
【文献】 特開平08−208213(JP,A)
【文献】 特開2007−297224(JP,A)
【文献】 特開2006−076841(JP,A)
【文献】 特開2000−169133(JP,A)
【文献】 国際公開第11/102548(WO,A1)
【文献】 米国特許第02605228(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00−33/193
C01B 13/14−13/36
C01G 23/00−23/08
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散質として金属酸化物コロイド粒子を含み、水を分散媒とし、pHが7以上である金属酸化物ゾルを、1mg〜500mgの液滴として、電解質の水溶液中に供給して前記金属酸化物コロイド粒子を凝集させて前記水溶液中に前記金属酸化物を含む凝集体を生成させ、前記水溶液中に前記凝集体を沈降させる工程と、
前記凝集体の生成後に前記水溶液から前記凝集体を分離する工程と、を含み、
前記水溶液には、水100重量部に対して0.3重量部以上の電解質が添加されている、
金属酸化物を含む粒体の製造方法。
【請求項2】
前記電解質が、NaCl、CaCl2、CH3COONa、NaNO3、KCl、(CH3COO)2Mg・4H2O、及びKNO3から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1に記載の粒体の製造方法。
【請求項3】
前記凝集体の生成後であって前記凝集体を分離する前に、前記水溶液を加熱する工程をさらに含む、請求項1に記載の粒体の製造方法。
【請求項4】
分離された前記凝集体を加熱して乾燥させる工程をさらに含む、請求項1に記載の粒体の製造方法。
【請求項5】
前記水溶液は、水に溶解し、かつ比誘電率が水の比誘電率よりも小さい溶媒を含んでいる、請求項1に記載の粒体の製造方法。
【請求項6】
前記凝集体を生成させる工程において、前記水溶液を攪拌しながら前記金属酸化物ゾルを前記水溶液中に供給する、請求項1に記載の粒体の製造方法。
【請求項7】
前記電解質がCaCl2であり、前記CaCl2の添加量が水100重量部に対し0.3〜2重量部である、請求項1に記載の粒体の製造方法。
【請求項8】
前記粒体の少なくとも一部がフレーク状である、請求項1に記載の粒体の製造方法。
【請求項9】
前記金属酸化物ゾルがチタン酸化物粒子を含み、前記粒体が前記チタン酸化物粒子を含む、請求項1に記載の粒体の製造方法。
【請求項10】
前記電解質としてNaNO3及びKClを含む請求項9に記載の粒体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を分散媒とする金属酸化物ゾルを原料として、金属酸化物を含む粒体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゾルゲル法により金属酸化物の粒体を製造する方法は公知である。例えば、フレーク状シリカは、1)アルコール水溶液中でシリコンアルコキシドを加水分解及び縮重合してシリカゾルを生成させ、2)このシリカゾルを基体上に塗布して薄膜を形成し、3)この薄膜を基体から剥離させることにより、製造される。アルカリ性のシリカゾルを用いると、薄膜が脆くなって歩留まりが低下する。このため、上記の方法には酸性のシリカゾルが適している。
【0003】
上述のフレーク状シリカは、フレーク状ガラスと呼ばれ、他の材料からなるマトリックス中に分散させて使用されている。例えば、樹脂成形体は、フレーク状ガラスの添加により、強度及び寸法精度が向上する。フレーク状ガラスの表面を金属又は金属酸化物の膜で覆って反射率を高めた光輝性顔料も知られている。光輝性顔料は、化粧料、インクなどに配合され、その商品価値を高めている。
【0004】
ゾルゲル法を用いたフレーク状ガラスの製造方法の詳細は、例えば、特許文献1〜4に開示されている。
【0005】
また、水性媒体相と水不溶性媒体相との二液相界面で金属アルコキシドを加水分解させてセラミック前駆体薄膜を形成し、得られたセラミック前駆体薄膜を焼結させてセラミック薄膜を得る方法が提案されている(特許文献5参照)。
【0006】
また、化学修飾した金属アルコキシドを部分加水分解することによりポリマー化し、このポリマーを水に対して溶解性を有する溶媒に溶かして溶液を得、この溶液を水面上に展開してゲルナノシートを形成し、このゲルナノシートを乾燥焼結させて酸化物セラミックナノシートを得る方法が提案されている(特許文献6参照)。
【0007】
ゾルゲル法により現実に量産されている金属酸化物の粒体としてはシリカの粒体が最も多い。しかし、チタン、ジルコニウムなどその他の金属元素を含む金属アルコキシドを用いることによっても、ゾルゲル法は実施可能である。ゾルゲル法により得られたチタン酸化物の微粒子については、その紫外線遮蔽機能及び光触媒機能が注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3151620号公報
【特許文献2】特許第2861806号公報
【特許文献3】特開平4−42828号公報
【特許文献4】特開平7−315859号公報
【特許文献5】特許第2592307号公報
【特許文献6】特開2004−224623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1〜4に記載の方法では、基板上にシリカゾルを塗布する必要があり、さらに基板上に形成された薄膜を剥離する必要もある。このため、これらの方法では生産性の向上が難しい。特許文献5に記載の方法は、得られるセラミック前駆体の薄膜の大きさが水性媒体相と水不溶性媒体相との二液相界面の面積に依存する。また、粒体を作製するためにはセラミック前駆体の薄膜を粉砕する必要がある。このため、この方法には、金属酸化物の粒体の生産性を向上させる余地がある。特許文献6に記載の方法は、酸化物セラミックスのナノシートを得ることができるが、粒体を作製するためには酸化物セラミックスのナノシートを粉砕する必要がある。このため、この方法には、金属酸化物の粒体の生産性を向上させる余地がある。
【0010】
かかる事情に鑑み、本発明は、生産性が良好な、金属酸化物を含む粒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、分散質として金属酸化物コロイド粒子を含み、水を分散媒とし、pHが7以上である金属酸化物ゾルを、電解質の水溶液中に供給して前記金属酸化物コロイド粒子を凝集させて前記水溶液中に前記金属酸化物を含む凝集体を生成させ、前記水溶液中に前記凝集体を沈降させる工程と、前記凝集体の生成後に前記水溶液から前記凝集体を分離する工程と、を含む、金属酸化物を含む粒体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
詳しくは後述するが、本発明の製造方法では、金属酸化物ゾルと上記水溶液とが相互に拡散する過程において、金属酸化物コロイド粒子間の電気的反発力が低下してコロイド粒子が凝集し、水溶液中で凝集体が沈降する現象が粒体形成機構として利用される。この形成機構においては、電解質の水溶液に金属酸化物が供給されると、金属酸化物のコロイド粒子同士が凝集して金属酸化物を含む粒体が得られる。従って、金属酸化物の粒体を製造するにあたって、金属酸化物ゾルの基板への塗布が不要である。さらに、粉砕工程を経なくても金属酸化物の粒体を作製できるので、金属酸化物の粒体の生産性が良い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1に係る粒体のSEM(走査型電子顕微鏡)による写真
図2】実施例5に係る粒体のSEMによる写真
図3】実施例8に係る粒体のSEMによる写真
図4】実施例11に係る粒体のSEMによる写真
図5】実施例13に係る粒体のSEMによる写真
図6】実施例14に係る粒体のSEMによる写真
図7】実施例15に係る粒体のSEMによる写真
図8】実施例16に係る粒体のSEMによる写真
図9】実施例17に係る粒体のSEMによる写真
図10】実施例20に係る粒体のSEMによる写真
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本発明の製造方法において、金属酸化物を含む粒体が生成されるメカニズムを説明する。
【0015】
水を分散媒とする金属酸化物ゾルを電解質の水溶液中に供給すると、そのゾルとゾルを受け入れた水溶液との界面では液相の相互拡散が始まる。水溶液中には、電解質が電離したイオンが存在している。このイオンによりゾルのコロイド粒子の表面電荷が中和され、コロイド粒子同士の電気的反発力が低下し、コロイド粒子同士が凝集し、金属酸化物を含む凝集体が生成される。凝集体が水溶液中で分散できないほどの大きさに成長すると、この凝集体は水溶液中で沈降する。この凝集体を水溶液中から分離することで金属酸化物を含む粒体が得られる。
【0016】
金属酸化物ゾルに電解質又は電解質の水溶液を投入して、金属酸化物の凝集体を形成させることも考えられる。しかしながら、電解質又は電解質の水溶液が投入された金属酸化物ゾルにおいて、電解質又は電解質に由来するイオンが均一に拡散するためにはある程度の時間が必要である。混合する金属酸化物ゾルと電解質の水溶液の量が多い場合には、電解質の均一な拡散により多くの時間を必要とする。このため、電解質又は電解質の水溶液を金属酸化物ゾルに投入する位置等によって、生成される凝集体の大きさや形状がばらついてしまう可能性がある。これに対し、電解質が既に均一に溶解した水溶液中に金属酸化物ゾルを投入すれば、生成される凝集体の大きさ及び形状は均一なものとなりやすい。そこで、本発明に係る方法では、電解質の水溶液に金属酸化物ゾルを供給する。
【0017】
酸性の金属酸化物ゾルは、一般に、水和エネルギーの寄与によりコロイド粒子が互いに接近できず、安定している。このため、酸性の金属酸化物ゾルにおいては、少量の電解質の添加によっては電気的反発力の低下によるコロイド粒子の凝集は生じがたい。これに対し、アルカリ性の金属酸化物ゾルでは、水和エネルギーの影響は小さく、コロイド粒子の表面における−MO‐H及び−MO‐R(ただし、MはSi、Ti、Zrなどの金属元素、RはNaに代表されるアルカリ金属元素)により示される電気二重層によってコロイド粒子が安定している。このため、アルカリ性の金属酸化物ゾルでは、比較的少量の電解質の添加でもコロイド粒子間の反発力が十分に低下して、金属酸化物の凝集体が生成される。水溶液に添加する電解質の添加量を比較的少なくするためには、アルカリ性の金属酸化物ゾルを用いることが望ましい。厳密に言うと、コロイド粒子が凝集するゾルはアルカリ性である必要はなく、そのpHが7以上であればよい。
【0018】
以下、本発明の製造方法を構成する各ステップの実施形態について説明する。
【0019】
金属酸化物ゾルは、周知のとおり、金属アルコキシドを加水分解して調製することができるが、既に調製された市販品を用いてもよい。ただし、いずれの場合であっても、pHが7以上のゾルを準備する必要がある。ゾルのpHは、金属酸化物の種類などによって好適な範囲を適宜選択すればよいが、例えば7.5以上、特に8〜12が好ましい。金属酸化物ゾルを構成する金属酸化物コロイド粒子は、例えば、シリコン酸化物、チタン酸化物、ジルコニウム酸化物、アルミニウム酸化物、タンタル酸化物、ニオブ酸化物、セリウム酸化物及びスズ酸化物から選ばれる少なくとも1種のコロイド粒子である。また、金属酸化物コロイド粒子同士の凝集が発生しない限り、2種類以上のコロイド粒子が併存している金属酸化物ゾルを用いてもよいし、2種類以上の金属酸化物ゾルを混合したものを用いてもよい。
【0020】
水に添加される電解質は、陽イオンと陰イオンとがイオン結合により結合したもの、又は、その水和物である。電解質を構成する陽イオンとしては、例えば1〜3価の陽イオンであり、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アルミニウムイオン、銅イオン、2価又は3価の鉄イオン、銀イオン、アンモニウムイオンなどが例示される。電解質を構成する陰イオンとしては、塩化物イオン、酢酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、クエン酸イオン、酒石酸イオンなどが例示される。
【0021】
水に添加される電解質の一例として、NaCl、CaCl、CHCOONa、NaNO、KCl、(CHCOO)Mg・4HO、及びKNOが挙げられる。しかしながら、本発明の方法に用いる電解質はこれに限られない。添加される電解質は、NaCl、CaCl、CHCOONa、NaNO、KCl、(CHCOO)Mg・4HO、及びKNOから選ばれる少なくとも1種であってもよい。これらの電解質を2種以上含んでもよく、これら以外の電解質を含んでいてもよい。
【0022】
上述の機構により粒体を生成させるためには、水100重量部に対して電解質を0.3重量部以上添加した水溶液を用いることが好ましい。水溶液への電解質の添加量が0.3重量部よりも少ないと、コロイド粒子を十分に凝集させることができない。このため、凝集体を水溶液中で沈降させて金属酸化物を含む粒体を生成することは難しくなる。凝集体を沈降させて金属酸化物を含む粒体の生成を確実なものとするため、水溶液は、水100重量部に対して0.5重量部以上の電解質が添加されたものであることが望ましい。
【0023】
金属酸化物コロイド粒子としてチタン酸化物のコロイド粒子を含む場合、チタン酸化物のコロイド粒子は凝集しにくいので、金属酸化物を含むフレーク状の粒体を得ることができない場合がある。水溶液の電解質の濃度を増加させることによってチタン酸化物のコロイド粒子を含む金属酸化物のコロイド粒子をある程度は凝集させることができる。しかし、金属酸化物ゾルにおけるチタン酸化物のコロイド粒子の含有率が比較的高い場合、一つの電解質の水に対する溶解度は限られているので、水溶液における一つの電解質の濃度を増加させてチタン酸化物のコロイド粒子を含む金属酸化物のコロイド粒子を凝集させることには限界がある。そこで、水に複数の電解質を添加した水溶液を用いることにより、チタン酸化物のコロイド粒子を含む金属酸化物コロイド粒子がフレーク状に凝集しやすくなる。水に添加される複数の電解質の組み合わせは、例えば、NaNO3及びKClである。水に添加される複数の電解質の組み合わせとしては、例えば、KNO3及びNaClを挙げることもできる。これに限らず、水に添加される電解質の組み合わせは、上記の電解質を任意に組み合わせてもよい。
【0024】
また、水溶液の温度を昇温させつつ水溶液に含まれる電解質の濃度を高めて、チタン酸化物のコロイド粒子を含む金属酸化物コロイド粒子の凝集を促進してもよい。これにより、チタン酸化物のコロイド粒子を含む金属酸化物コロイド粒子がフレーク状に凝集しやすくなる。
【0025】
金属酸化物コロイド粒子をフレーク状に凝集させるために、水溶液は、水に溶解し、かつ比誘電率が水の比誘電率(約80)よりも小さい溶媒を含んでいてもよい。溶媒と水との相互拡散により、金属酸化物コロイド粒子の間に存在する液相媒体の誘電率が低下し、これに伴ってコロイド粒子間の電気的反発力も低下する。この反発力の低下により、コロイド粒子間に作用する普遍的な引力に基づく凝集力が反発力を上回る状態に至れば、コロイド粒子は凝集する。電解質の作用に加えて溶媒による作用によって水溶液中におけるコロイド粒子の凝集を促進できるので、水溶液に含まれる電解質の濃度を抑制しつつ、金属酸化物コロイド粒子をフレーク状に凝集させることができる。
【0026】
水溶液に含まれる溶媒の水に対する溶解度は、例えば、5g/100ml以上であることが望ましく、8g/100ml以上であることがより望ましい。水溶液に含まれる溶媒は、例えば、炭素数2以上の1価のアルコール(エーテル結合を含んでいてもよい)又は炭素数4以上の2価のアルコールである。水溶液に含まれる溶媒は、例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ヘキシレングリコール、1,3ブタンジオール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、tert−ブチルアルコール、1プロパノール、2−プロパノール、エタノール等の有機溶媒である。
【0027】
水溶液への金属酸化物ゾルの供給は、投入されたゾルが水溶液により囲まれた液滴として存在するように実施することが好ましい。これを実現するための最も確実な手段は、ゾルを液滴として投入する、言い換えれば滴下することである。製造効率を考慮して、単位時間あたりのゾルの投入量を大きくする必要があれば、2以上の滴下装置を用いて液体にゾルを滴下してもよい。本発明の好ましい実施形態では、容器に保持された液体に2以上の滴下装置から、好ましくは並行して、ゾルが滴下される。
【0028】
ただし、水溶液の攪拌などにより供給されたゾルに応力を加えれば、チューブのような導入管からゾルを水溶液に供給することによっても、供給されたゾルを水溶液中に分散させ、液滴として存在させることは可能である。この場合、導入管の排出口の内径は、5mm以下、好ましくは2mm以下、例えば0.1mm〜1mmに制限することが好ましい。本発明の好ましい実施形態では、液体が攪拌されながら、ゾルが導入管を経由して当該水溶液中に供給され、ゾルが水溶液中において液滴として分散する。
【0029】
水溶液の量に対してゾルの供給量が過剰となると、コロイド粒子が凝集しにくくなり凝集体の収率が低下することがある。したがって、質量基準により表示して、ゾルの供給量の総量の適切な範囲は、液体の量の30%以下、好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下である。
【0030】
供給されるゾルの液滴の大きさもまた、粒体の形状及び大きさに影響を与える。ゾルの液滴が小さいことは、金属酸化物を含むより薄いフレーク状の粒体を得るのに有利である。一方、ゾルの液滴が大きすぎると、粒体の大きさのバラツキが大きくなることがある。このような観点から、ゾルの液滴の大きさは、1つあたり1mg〜500mgであることが好ましく、1つあたり1mg〜50mgであることがより好ましい。
【0031】
なお、液滴の投入は、スポイト、ピペットその他公知の滴下装置を用いて行えばよく、量産に際しては各種ディスペンサを用いて液滴を連続して投入することとすればよい。市販のスポイトやピペットは大きな液滴の形成に適していないため、これらを用いる場合にはその先端を適宜加工するとよい。液滴は、これらの滴下装置を用いて連続して投入していけばよく、複数の滴下装置から並行して投入してもよい。
【0032】
金属酸化物ゾルを水溶液に供給する際に水溶液を攪拌することは、生成される粒体の形状に影響を与えうる。水溶液を攪拌させることにより、凝集体が引き伸ばされ、フレーク状の粒体が得られやすい。ここで、フレーク状とは、主面を平面又は曲面とみなすことができる板状の形状を意味し、その厚みに対する主面の直径の比が2以上である形状である。また、その主面の直径は、その主面を面積が等しい円とみなした時の当該円の直径である。液体の攪拌は、マグネティックスターラー、回転軸となるシャフトと攪拌翼とを備えた攪拌器など公知の攪拌機を用いて行うとよい。
【0033】
内径22mmの円筒状の容器に、水:100重量部にCaCl:0.5重量部を溶解させたCaCl水溶液10gを入れた状態で、直径:7mm、長さ:20mmの撹拌子を1000rpmの回転速度で回転させるのに要する動力をP1とする。P1をCaCl水溶液の体積で除して求まる水溶液の単位体積あたりの攪拌の所要動力をQ1とする。電解質水溶液を攪拌させるときに、水溶液の単位体積あたりの所要動力がQ1以上であると、フレーク状の粒体がより得られやすい。この水溶液の単位体積あたりの所要動力Q1は、例えば以下のようにして求めることができる。
【0034】
撹拌部材の回転数n[1/s]、動力数をNp[‐]、水溶液の粘度をρ[kg/m]、攪拌部材の径をd[m]とし、乱流状態において攪拌の所要動力P[W]は以下の式で示される。
P=Np・ρ・n・d・・・(式1)
ここで、Pは例えば攪拌中に攪拌部材を回転させるモーターの電力を測定することで求めることができる。このようにして求めたPを用いて(式1)の逆算により、Npを実験的に求めることができる。乱流状態においてNpはほぼ一定を示す。従って、Npが実験的に分かれば、攪拌の所要動力は、(式1)を用いて簡易的に求めることができる。さらに、(式1)で求めた攪拌の所要動力Pを水溶液の体積で除すことにより、水溶液の単位体積あたりの攪拌の所要動力Qを求めることができる。このようにして、上記の条件で攪拌しているときの水溶液の単位体積あたりの攪拌の所要動力Q1を求めることができる。
【0035】
水溶液の単位体積あたりの攪拌の所要動力Qが等しい2つの攪拌条件の攪拌効果は、近似すると考えられる。従って、攪拌すべき水溶液の量が変化しても、水溶液の単位体積あたりの攪拌の所要動力がQ1以上となるように攪拌の所要動力を定めて水溶液を攪拌することにより、フレーク状の粒体が得られやすくなると考えられる。
【0036】
電解質の種類及び電解質の添加量は生成される粒体の形状に影響を与えうる。特に、電解質がCaClであり、CaClの添加量が水100重量部に対して0.2〜2重量部である水溶液を用いると、フレーク状の粒体が得られやすい。一方、CaClの添加量が水100重量部に対し2重量部より大きい水溶液を用いると、塊状の粒体が出現する。ここで、塊状とは、フレーク状に分類されない塊である形状を意味し、塊状の粒体の最小径に対する最大径の比が2未満のものをいう。
【0037】
CaClの添加量が水100重量部に対し2重量部より大きい水溶液を用いるとき、水溶液の単位体積あたりの攪拌の所要動力がQ1よりも大きい攪拌の所要動力となるように水溶液を攪拌することが望ましい。例えば、水溶液の単位体積あたりの攪拌の所要動力が以下の条件で定まる水溶液の単位体積あたりの攪拌の所要動力Q2以上となる攪拌の所要動力で水溶液を攪拌するとよい。
<単位体積あたりの所要動力Q2>
内径50mmの円筒状の容器に、水:100重量部にCaCl:5重量部を溶解させたCaCl水溶液3000gを入れた状態で、羽根の径が45mm、羽根幅が10mmである2枚羽根の攪拌部材を2000rpmの回転速度で回転させるのに要する撹拌の所要動力をP2とし、P2をCaCl水溶液の体積で除して求まる水溶液の単位体積あたりの攪拌の所要動力をQ2とする。
【0038】
使用される電解質がNaClであり、水100重量部に対し12重量部以上であると、フレーク状の粒体が得られやすい。このとき、水溶液の単位体積あたりの所要動力がQ1以上の所要動力で水溶液を攪拌していることが、フレーク状の粒体を得る観点から好ましい。
【0039】
水溶液へのゾルの供給が終了すると、水溶液から凝集体が分離される。凝集体の分離は、ろ過、遠心分離、デカンテーションなど公知の固液分離操作を適用して行うことができる。また、水溶液から分離した凝集体を乾燥処理して、金属酸化物を含む粒体が得られる。乾燥処理は、自然乾燥であってもよい。しかしながら、自然乾燥により凝集体を乾燥させる場合、凝集体同士が二次凝集してしまう可能性がある。また、凝集体を加熱して乾燥させると、凝集体を構成する粒子同士の結着力を強化することができる。これらの観点から、凝集体を加熱して乾燥させるのが望ましい。例えば、凝集体を90℃以上の雰囲気で加熱して乾燥させることが望ましい。得られた粒体の機械的強度を増加させるために、得られた粒体を焼成してもよい。
【0040】
凝集体が生成された後に水溶液を加熱すると、凝集体を構成する粒子同士の結着力が増す。従って、本発明の方法は、凝集体の生成後であって、凝集体を分離する前に前記水溶液を加熱する工程を含んでいてもよい。水溶液の温度が例えば90℃以上となるように加熱するのが好ましく、水溶液を沸騰させるように加熱してもよい。
【0041】
本発明により得られる粒体は、通常、その粒体における最大寸法が500μmである。粒体の形状がフレーク状である場合には、粒体の主面の直径は例えば、1〜500μmの範囲であり、好ましくは、2〜500μmの範囲である。また、フレーク状の粒体の厚みは、例えば、0.1〜10μmであり、好ましくは0.2〜2μmである。
【0042】
本発明の方法において金属酸化物の供給源となるpH7以上の金属酸化物ゾルの市販品には、含まれているカチオンがアルカリ金属イオン、特にナトリウムイオン(Na)であるものが多い。そして、このような市販品を用いると、得られる粒体にはナトリウムイオンが混入することになる。この粒体におけるナトリウム濃度は、酸化物換算(NaO換算)で典型的には1〜2質量%に過ぎない。しかし、特に電子デバイス材料としての使用など特定の用途においては許容されるナトリウム濃度がさらに低い場合がある。このような要求に対処する必要がある場合には、塩酸などの酸を用いて洗浄することによりナトリウム濃度をある程度低下させることもできるが、洗浄工程の追加は製造コストを引き上げる。したがって、ナトリウム濃度を低下させるべき場合は、主たるカチオンがアルカリ金属イオン以外のイオン種、例えばアンモニウムイオン(NH)、である金属酸化物ゾルを使用することが好ましい。ここで、「主たるカチオン」は、質量基準で最も多いカチオンを意味する。
【0043】
金属酸化物ゾルには機能性材料を加えておいてもよい。機能性材料としては、撥水剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、色素、導電体、熱伝導体、蛍光体、及び触媒から選ばれる少なくとも1つとして機能する材料が挙げられる。ここで、「熱伝導体」は、金属酸化物コロイド粒子を構成する酸化物として上記に列挙したシリコン酸化物からスズ酸化物までのいずれの酸化物よりも高い熱伝導率を有する材料を意味するものとする。また、ここでは、「触媒」を、光触媒を含む用語として使用している。なお、機能性材料によっては、複数の機能が発揮されることに留意するべきである。例えば、チタン酸化物(チタニア)は、紫外線吸収剤及び触媒(光触媒)として機能する材料であり、カーボンブラックは、色素、導電体及び熱伝導体として機能する材料である。
【0044】
機能性材料を以下に例示する。
撥水剤:フルオロアルキルシラン系化合物、アルキルシラン系化合物、フッ素樹脂。
抗菌剤:銀、銅、銀化合物、銅化合物、亜鉛化合物、第四級アンモニウム塩、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン。
紫外線吸収剤:酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化鉄、桂皮酸系化合物、パラアミノ安息香酸系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸系化合物、フェノールトリアジン系化合物、アルキル又はアリールベンゾエート系化合物、シアノアクリレート系化合物、ジベンゾイルメタン系化合物、カルコン系化合物、カンファー系化合物。
赤外線吸収剤:アンチモンドープ酸化スズ、スズドープ酸化インジウム、ジイモニウム系化合物、フタロシアニン系化合物、ベンゼンジチオール系金属化合物、アントラキノン化合物、アミノチオフェノレート系金属化合物。
色素:微結晶性セルロース;二酸化チタン、酸化亜鉛などの無機白色系顔料;酸化鉄(ベンガラ)、チタン酸鉄などの無機赤色系顔料;γ酸化鉄などの無機褐色系顔料;黄酸化鉄、黄土などの無機黄色系顔料;黒酸化鉄、カーボンブラックなどの無機黒色系顔料;マンガンバイオレット、コバルトバイオレットなどの無機紫色系顔料;酸化クロム、水酸化クロム、チタン酸コバルトなどの無機緑色系顔料;群青、紺青などの無機青色系顔料;アルミニウムパウダー、カッパーパウダーなどの金属粉末顔料;赤色201号、赤色202号、赤色204号、赤色205号、赤色220号、赤色226号、赤色228号、赤色405号、橙色203号、橙色204号、黄色205号、黄色401号、青色404号などの有機顔料;赤色3号、赤色104号、赤色106号、赤色227号、赤色230号、赤色401号、赤色505号、橙色205号、黄色4号、黄色5号、黄色202号、黄色203号、緑色3号及び青色1号のジルコニウム、バリウム又はアルミニウムレーキなどの有機顔料;コチニール色素、ラック色素、ベニコウジ色素、ベニコウジ黄色素、クチニシ赤色素、クチニシ黄色素、ベニバナ赤色素、ベニバナ黄色素、ビートレッド、ウコン色素、アカキャベツ色素、クロロフィル、β−カロチン、スピルリナ色素、カカオ色素などの天然色素。
導電体:銅、金、白金などの金属;酸化スズ、アンチモンドープ酸化スズ、スズドープ酸化インジウム、金属ドープ酸化亜鉛、金属ドープ酸化チタンなどの金属酸化物。
熱伝導体:銅を始めとする金属、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、ダイヤモンド、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、黒鉛。
蛍光体:フルオレセイン系色素、ピラジン系色素、クマリン系色素、ナフタルイミド系色素、トリアジン系色素、オキサジン系色素、ジオキサジン系色素、ローダミン系色素、スルホローダミン系色素、アゾ化合物、アゾメチン系化合物、スチルベン誘導体、オキサゾール誘導体、ベンゾオキサゾール系色素、イミダゾール系色素、ピレン系色素、テルビウム賦活酸化ガドリニウム、タングステン酸カルシウム蛍光体、ユーロピウム賦活塩化フッ化バリウム蛍光体。酸化亜鉛系蛍光体。
触媒:白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、酸化鉄、金、金属錯体、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化カドミウム、酸化タングステン。
【0045】
機能性材料を加えた場合、得られる粒体は、金属酸化物とともに機能性材料を含むものとなる。本発明によれば、機能性材料を含みながらも外部に露出している機能性材料の比率が小さい粒体を得ることも可能である。本発明による方法では、金属酸化物のコロイド粒子が、機能性材料を取り込みながら凝集体を形成する。これにより、機能性材料が均一に分散した粒体を得ることができる。例えば機能性材料としてチタン酸化物の粒子を用いた場合、得られるチタン酸化物を含む粒体は、高い紫外線遮蔽能、高い光触媒作用効果を示すと考えられる。
【実施例】
【0046】
具体的な実施例の説明の前に、実施例の評価方法について説明する。
【0047】
<凝集体の沈降の発生の有無>
実施例及び比較例において、シリカゾルの供給が終了した後の電解質水溶液の状態を目視で確認して凝集体の沈降の発生の有無を評価した。シリカゾル供給後の電解質水溶液に濁りが生じておらず透明とみなせる場合を「沈降する」と評価した。また、シリカゾル供給後の電解質水溶液に濁りが見られる場合を「沈降しない」と評価した。
【0048】
<粒体の形状観察>
SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて、以下の実施例及び比較例で得られた粒体の形状観察を行った。各実施例及び各比較例について粒子の形状を上述の定義に基づき、フレーク状又は塊状に分類し、個数基準で70%以上の粒体がフレーク状である実施例をフレーク状と評価した。
【0049】
(実施例1)
水:100重量部にCaCl:0.5重量部を溶解させて電解質水溶液を得た。得られた電解質水溶液10gを内径22mmの円筒状の容器に入れた。シリカゾル(日本化学工業社製:「シリカドール30S」)0.2gを、20℃±5℃の電解質水溶液に滴下速度1g/分で供給した。シリカゾルを電解質水溶液へ供給する期間において、マグネティックスターラー(撹拌子:直径:7mm、長さ20mm)を1000rpmの回転速度で回転させることにより電解質水溶液を攪拌した。シリカゾルの供給が終了した後、攪拌を停止した。電解質水溶液中には凝集体が沈降していることが目視により確認された。また、電解質水溶液は濁りが生じておらず透明であることが目視により確認された。その後、電解質水溶液を加熱し沸騰させた。電解質水溶液の加熱を中止し、ろ紙(目開き1μm)を用いて電解質水溶液をろ過することにより、電解質水溶液から沈降した凝集体を含む固形分を分離した。また、この固形分を乾燥させて金属酸化物を含む粒体を得た。得られた粒体の質量は、シリカゾルに含まれる固形分の90質量%以上であった。
【0050】
(実施例2〜5)
CaClの添加量を表1の通りとし、実施例1と同様にして実施例2〜実施例5の粒体を得た。実施例2〜実施例5においても、得られた粒体の重量は、シリカゾルに含まれる固形分の90質量%以上であった。
【0051】
(比較例1及び比較例2)
比較例1及び比較例2において、CaClの添加量を表1の通りとし、実施例1と同様にしてシリカゾルを電解質水溶液中に供給した。比較例1及び比較例2において、シリカゾルの供給が終了した電解質水溶液を目視により確認したところ濁りが生じていた。その後、ろ紙(目開き1μm)を用いて電解質水溶液をろ過することにより、電解質水溶液から固形分を分離した。さらに、この固形分を乾燥させた。乾燥後の固形分の質量は、シリカゾルに含まれる固形分の90質量%未満であった。例えば、比較例2においては、乾燥後の固形分の質量は、シリカゾルに含まれる固形分の73質量%であった。
【0052】
(実施例6〜8)
水100重量部に対する、CaClの添加量を表2の通りとして電解質水溶液を得た。得られた電解質水溶液3000gを内径50mmの円筒状の容器に入れた。シリカゾル(日本化学工業社製:「シリカドール30S」)100gを電解質水溶液に滴下速度1g/分で供給した。シリカゾルを電解質水溶液へ供給する期間において、羽根の径が45mm、羽根幅が10mmである2枚羽根の攪拌部材を2000rpmの回転速度で回転させて電解質水溶液を攪拌した。それ以外は、実施例1と同様にして、実施例6〜8の粒体を得た。得られた粒体の質量は、シリカゾルに含まれる固形分の90質量%以上であった。
【0053】
(実施例9〜19)
用いた電解質及び電解質の添加量を表3の通りとし、実施例1と同様にして実施例9〜19の粒体を得た。得られた粒体の質量は、シリカゾルに含まれる固形分の90質量%以上であった。ただし、実施例19においては、ゾル液を滴下するときの電解質水溶液の温度を約60℃とした。
【0054】
(実施例20)
シリカゾル(日本化学工業社製:「シリカドール30S」)90質量%及び微粒子チタン酸化物水分散液(テイカ株式会社製:「MT−100AQ」、酸化チタン濃度30質量%)10質量%を混合してゾル液を得た。このゾル液0.2gを、水100重量部に対してNaCl30重量部を添加した電解質水溶液10gに、滴下速度1g/分で供給して、実施例1と同様にして実施例20の粒体を得た。得られた粒体の質量は、ゾル液に含まれる固形分の90質量%以上であった。
【0055】
(実施例21〜23)
シリカゾル(日本化学工業社製:「シリカドール30S」)80質量%及び微粒子チタン酸化物水分散液(テイカ株式会社製:「MT−100AQ」、酸化チタン濃度30質量%)20質量%を混合してゾル液を得た。このゾル液0.2gを、表4に示す電解質を添加した電解質水溶液10gに、滴下速度1g/分で供給して、実施例1と同様にして実施例21〜23の粒体を得た。実施例21及び実施例22において、ゾル液滴下時の電解質水溶液の温度は20℃±5℃とした。また、実施例23において、ゾル液滴下時の電解質水溶液の温度は約100℃とした。得られた粒体の質量は、ゾル液に含まれる固形分の90質量%以上であった。
【0056】
(実施例24)
電解質としてNaCl10重量部を水100重量部に溶解させた電解質水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例24の粒体を得た。得られた粒体の質量は、ゾル液に含まれる固形分の90質量%以上であった。
【0057】
(実施例25〜実施例34)
電解質としてNaCl10重量部及び表5に示す各溶媒10重量部を水100重量部に溶解させた電解質水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例25〜実施例34の粒体を得た。得られた粒体の質量は、ゾル液に含まれる固形分の90質量%以上であった。
【0058】
表1〜表5に各実施例及び各比較例について得られた粒体の形状又は凝集体の沈降の有無についての評価を示す。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
【表5】
【0064】
表1に示す通り、比較例1及び比較例2は、シリカゾル添加後の電解質水溶液に濁りが確認されたので、「沈降しない」と評価された。一方、実施例1〜19においては、シリカゾル添加後の電解質水溶液に濁りがほとんど見られず透明とみなすことができたので、「沈降する」と評価された。また、実施例1〜19において、シリカゾル添加後の電解質水溶液には凝集体の沈降が目視により確認された。
【0065】
比較例1及び比較例2が示す通り、水100重量部に対し、CaClの添加量が0.3重量部未満であると、凝集体は沈降しなかった。従って、金属酸化物の凝集体が完全に沈降して金属酸化物の粒体が得られるためには、CaClの添加量が、水100重量部に対して0.3重量部以上である必要がある。実施例1〜5から、CaClの添加量が、水100重量部に対して0.3重量部以上であると、金属酸化物の凝集体が完全に沈降して金属酸化物を含む粒体が得られることが分かる。CaClの添加量は、水100重量部に対して0.5重量部以上であることが好ましい。
【0066】
図1に実施例1に係る粒体のSEM写真を、図2に実施例5に係る粒体のSEM写真をそれぞれ示す。実施例1〜5において、CaClの添加量が水100重量部に対して0.3〜2重量部であるとフレーク状の粒体が得られたのに対し、CaClの添加量が水100重量部に対して2重量部より大きいと、塊状の粒体が生成した。従って、フレーク状の粒体が生成される割合を高めるためには、CaClの添加量は水100重量部に対して0.3〜2重量部が望ましく、0.5〜2重量部がより望ましく、0.5〜1重量部がさらに望ましい。
【0067】
図3に、実施例8に係る粒体のSEM写真を示す。実施例6〜8に示す通り、電解質水溶液を攪拌する際の水溶液の単位体積あたりの攪拌の所要動力を増加させることにより、CaClの添加量が水100重量部に対して2重量部より大きいときでも、フレーク状の粒体を得られやすくなる。従って、CaClの添加量が水100重量部に対して2重量部より大きいときは、水溶液の単位体積あたりの攪拌の所要動力が上述したQ1よりも大きくなるように攪拌することが望ましい。
【0068】
図4図9に、実施例11、実施例13〜17に係る粒体のSEM写真を示す。表3及び図4図9に示す通り、CaCl以外の電解質を使用することによっても、フレーク状の粒体を得ることができた。実施例17に示す通り、2種類の電解質を混合してもフレーク状の粒体を得ることができた。実施例18に係る粒体はフレーク状ではなく、塊状であった。一方、実施例19に係る粒体はフレーク状であった。これにより、ゾル液を滴下するときの電解質水溶液の温度を高めつつ電解質水溶液の電解質濃度を高めることによって、金属酸化物のフレーク状の粒体が得られることが示された。
【0069】
図10に、実施例20に係る粒体のSEM写真を示す。図10に示す通り、チタン酸化物粒子を含む金属酸化物の粒体を得ることができた。実施例20に係る粒体の一部はフレーク状であった。粒体を構成する粒子同士の凝集力が弱いと、粒体の表面には図10のような皺が観察されやすい。チタン酸化物粒子は凝集力が弱いので、実施例20に係る粒体の表面には図10に示すような皺が発生したと考えられる。換言すると、実施例20に係る粒体の一部はチタン酸化物粒子を含んでいると考えられる。
【0070】
実施例21に係る粒体の形状は塊状であった。NaNOの25℃における水に対する溶解度は92.1g/100mlであるので、実施例21で用いた電解質水溶液は飽和状態に近かった。実施例22に係る粒体の形状はフレーク状であった。複数の電解質を添加した電解質水溶液を用いることにより、金属酸化物のフレーク状の粒体が得られることが示された。また、実施例23に係る粒体の形状はフレーク状であった。ゾル液を滴下するときの電解質水溶液の温度を高めつつ電解質水溶液の電解質濃度を高めることによって、金属酸化物のフレーク状の粒体が得られることが示された。
【0071】
実施例24に係る粒体の形状は塊状であった。これに対し、実施例25〜実施例34に係る粒体の形状はフレーク状であった。これにより、電解質に加えて、水の誘電率よりも低い誘電率を示し、水に溶解する溶媒を添加した電解質水溶液を用いることにより、金属酸化物のフレーク状の粒体が得られることが示された。
【0072】
上述の実施例及び比較例で使用したシリカゾル(日本化学工業社製:「シリカドール30S」)は、主たるカチオンとしてナトリウムイオン(Na)を含む。これに対して、主たるカチオンとしてアンモニウムイオン(NH)を含むシリカゾルを使用することによっても、金属酸化物を含む粒体を得ることは可能である。主たるカチオンとしてアンモニウムイオン(NH)を含むシリカゾルとしては、日産化学工業社製:「スノーテックスN」などを挙げることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10