特許第6152111号(P6152111)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6152111
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】非侵襲生体計測装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/1455 20060101AFI20170612BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20170612BHJP
【FI】
   A61B5/14 322
   G06T1/00 400B
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-538579(P2014-538579)
(86)(22)【出願日】2013年9月26日
(86)【国際出願番号】JP2013076013
(87)【国際公開番号】WO2014050945
(87)【国際公開日】20140403
【審査請求日】2016年2月26日
(31)【優先権主張番号】特願2012-217216(P2012-217216)
(32)【優先日】2012年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西本 直道
(72)【発明者】
【氏名】村山 武雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智明
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 太計雄
【審査官】 湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第1999/000053(WO,A1)
【文献】 特開2004−350863(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/133851(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/1455
G06T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象である被験者の指を載置するための基台と、
前記基台に載置された指の長手方向に沿って並ぶように配置された複数の発光部と、
前記複数の発光部の光量それぞれを調整する光量調整部と、
前記発光部から発せられた光が前記基台に載置された指を透過した透過光を受け、前記指の画像を得る撮像部と、
前記撮像部によって得られた画像を処理することにより、被験者の生体情報を検出する情報処理部と、
を備え、
前記光量調整部は、前記基台に載置された指の関節に近い位置に設けられた発光部の光量を、他の発光部の光量に比して低くするように構成されている、
非侵襲生体計測装置。
【請求項2】
前記光量調整部は、前記基台に載置された指の関節から離れるにしたがって、前記発光部の光量を高くするように構成されている、
請求項に記載の非侵襲生体計測装置。
【請求項3】
前記光量調整部は、前記基台に載置された指の関節から離れるにしたがって、非線形的に光量が増加するように前記発光部の光量を調整するように構成されている、
請求項に記載の非侵襲生体計測装置。
【請求項4】
前記光量調整部は、前記基台に載置された指の関節からの距離に対する前記発光部の光量の変化の程度を決定し、決定された光量の変化の程度にしたがって前記発光部の光量を調整するように構成されている、
請求項又はに記載の非侵襲生体計測装置。
【請求項5】
前記光量調整部は、前記基台に載置された指を透過した透過光の光量の平均値が所定値となるように、前記発光部の光量を調整するように構成されている、
請求項1乃至の何れか1項に記載の非侵襲生体計測装置。
【請求項6】
前記光量調整部は、前記撮像部により得られた前記指の透過画像に基づいて、前記発光部の光量を調整するように構成されている、
請求項1乃至の何れか1項に記載の非侵襲生体計測装置。
【請求項7】
前記光量調整部は、前記撮像部により得られた前記指の透過画像の輝度に基づいて、前記発光部の光量を調整するように構成されている、
請求項に記載の非侵襲生体計測装置。
【請求項8】
前記情報処理部は、前記撮像部による被験者の指の撮像処理に先だって、前記発光部の
光量調整処理を実行するように前記光量調整部を制御するように構成されている、
請求項1乃至の何れか1項に記載の非侵襲生体計測装置。
【請求項9】
前記発光部のそれぞれは、互いに異なる波長の光を発する複数の発光素子を具備し、同
一の波長の光を発する発光素子が、前記基台に載置された指の長手方向に沿って並ぶよう
に配置されている、
請求項1乃至の何れか1項に記載の非侵襲生体計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の指に光を照射して透過光を得、透過光を撮像部で受けて指を撮像し、得られた画像を処理して被験者の生体情報を検出する非侵襲生体計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被験者の手指に光を照射し、その透過光又は反射光を受光部で受光して光学情報を取得し、当該光学情報を解析して被験者の生体情報を得る非侵襲生体計測装置が知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1に開示されている無侵襲生体計測装置は、被験者の手指を載置する基台と、前記基台に載置された手指を覆うカバー部と、前記カバー部に取り付けられた2つの光源部と、撮像部とを備え、前記光源部から発せられた光が被験者の手指を透過した透過光を撮像部で受けて前記手指を撮像し、被験者の手指の透過画像を得て、当該画像を処理することで被験者のヘモグロビン濃度を検出する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−262496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されている無侵襲生体計測装置にあっては、カバー部に設けられた光源部から測定対象である被験者の手指の全体に光を均一に照射することができなかった。このため、得られる画像は局所的に暗い部分と明るい部分とが存在し、明瞭な画像ではなかった。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、被験者の指の明瞭な画像を得ることができ、従来に比して生体情報の検出精度が向上した非侵襲生体計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明の一の態様の非侵襲生体計測装置は、測定対象である被験者の指を載置するための基台と、前記基台に載置された指の長手方向に沿って並ぶように配置された複数の発光部と、前記複数の発光部の光量それぞれを調整する光量調整部と、前記発光部から発せられた光が前記基台に載置された指を透過した透過光を受け、前記指の画像を得る撮像部と、前記撮像部によって得られた画像を処理することにより、被験者の生体情報を検出する情報処理部と、を備え、前記光量調整部は、前記基台に載置された指の関節に近い位置に設けられた発光部の光量を、他の発光部の光量に比して低くするように構成されている
【0007】
これにより、指の長手方向についての透過光量が均一化されるので、被験者の指の画像が局所的に暗くなったり、明るくなったりすることが防止されて、明瞭な画像が得られる。また、画像が明瞭になることで、画像処理の対象となる注目領域が広くなるため、従来に比してより適切な注目領域を設定することが可能となる。その結果、処理対象の像である血管部分の像を検索可能な領域をより広くすることができ、従来に比して生体情報の検出精度が向上する。
【0009】
上記態様において、前記基台に載置された指の関節から離れるにしたがって、前記発光部の光量を高くするように構成されていてもよい。指では関節部分から離れるにしたがって光を透過しにくくなるので、このようにすることで、被験者の指の画像が局所的に暗くなったり、明るくなったりすることを防止することができる。
【0010】
上記態様において、前記光量調整部は、前記基台に載置された指の関節から離れるにしたがって、非線形的に光量が増加するように前記発光部の光量を調整するように構成されていてもよい。指では関節部分から離れるにしたがって非線形に光の透過率が変化するので、このようにすることで、指の長手方向についての透過光量がより一層均一化される。
【0011】
上記態様において、前記光量調整部は、前記基台に載置された指の関節からの距離に対する前記発光部の光量の変化の程度を決定し、決定された光量の変化の程度にしたがって前記発光部の光量を調整するように構成されていてもよい。
【0012】
上記態様において、前記光量調整部は、前記基台に載置された指を透過した透過光の光量の平均値が所定値となるように、前記発光部の光量を調整するように構成されていてもよい。
【0013】
上記態様において、前記光量調整部は、前記撮像部により得られた前記指の透過画像に基づいて、前記発光部の光量を調整するように構成されていてもよい。
【0014】
上記態様において、前記光量調整部は、前記撮像部により得られた前記指の透過画像の輝度に基づいて、前記発光部の光量を調整するように構成されていてもよい。
【0015】
上記態様において、前記情報処理部は、前記撮像部による被験者の指の撮像処理に先だって、前記発光部の光量調整処理を実行するように前記光量調整部を制御するように構成されていてもよい。
【0016】
上記態様において、前記発光部のそれぞれは、互いに異なる波長の光を発する複数の発光素子を具備し、同一の波長の光を発する発光素子が、前記基台に載置された指の長手方向に沿って並ぶように配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、被験者の指の明瞭な画像を得ることができ、生体情報の検出精度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施の形態に係る非侵襲生体計測装置の外観構成を示す斜視図。
図2】実施の形態に係る非侵襲生体計測装置の構成を示すブロック図。
図3】測定ユニットの構成を示す側面断面図。
図4】発光部の構成を示す底面図。
図5】発光部の構成を示す回路図。
図6】実施の形態に係る非侵襲生体計測装置の動作の手順を示すフローチャート。
図7】光量調整処理の手順を示すフローチャート。
図8】発光部の光量調整を説明するためのグラフ。
図9】発光部の光量調整を説明するためのグラフ。
図10】従来の照明方法による手指の透過画像の一例を示す図。
図11】実施の形態に係る非侵襲生体計測装置による光量調整処理を実行した後の手指の透過画像の一例を示す図。
図12A】ヘモグロビン濃度検出処理の手順を示すフローチャート(前半)。
図12B】ヘモグロビン濃度検出処理の手順を示すフローチャート(後半)。
図13】輝度プロファイルの一例を示すグラフ。
図14】吸収プロファイルの作成及びベースラインの決定処理の手順を示すフローチャート。
図15】吸収プロファイルの一例を示すグラフ。
図16】吸収プロファイルの一例を示すグラフ。
図17】血管プロファイルの一例を示すグラフ。
図18】静脈酸素化指標検出処理の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0020】
<非侵襲生体計測装置の構成>
図1は、本実施の形態に係る非侵襲生体計測装置1の外観構成を示す斜視図である。非侵襲生体計測装置1は、測定ユニット2と、情報処理ユニット7とを備えている。測定ユニット2は、被験者の手指を撮像するためのものであり、情報処理ユニット7は、測定ユニット2の撮像データ(画像データ)を処理して、被験者の生体情報(ヘモグロビン値、静脈酸素化指標)を検出し、検出結果としての生体情報を表示するためのものである。
【0021】
測定ユニット2は、被験者の手指8を載置可能な基台21と、基台21に載置された手指8を覆うためのカバー部22とを備えている。カバー部22は、基台21の上方に配置されており、基台21に枢着されている。カバー部22は、基台21に対して揺動することで開閉する(手指8を覆ったり、手指8を露出させたりする)ことが可能である。
【0022】
図2は、非侵襲生体計測装置1の構成を示すブロック図である。測定ユニット2は、発光装置3と、CCDからなる撮像部4と、発光装置3の発光量を調整する光量調整部5と、通信インタフェース6とを有している。
【0023】
図3は、測定ユニット2の構成を示す側面断面図である。発光装置3は、複数のLEDを具備しており、カバー部22に配置されている。基台21の内部には、基盤が設けられており、当該基盤上に撮像部4と光量調整部5と通信インタフェース6とが取り付けられている。撮像部4は、受光面が上方を向くように前記基盤上に設けられており、撮像部4の上方にはレンズ系41が配置されている。また、カバー部22が閉じられたときに、撮像部4の上方に発光装置3が位置するように構成されている。
【0024】
基台21には、上述したように被験者の手指8を載置することが可能である。このとき、被験者の手の中指8が撮像部4の直上に位置するように載置される。また、基台21は、被験者の手の中指8の形状に適合するように成形されており、被験者の手が基台21上に載置されたときに、被験者の手の中指8の第2関節が撮像部4の撮像範囲の中央に位置するように構成されている。
【0025】
基台21上に被験者の手指8が載置され、カバー部22が閉じられると、発光装置3と撮像部4とが被験者の手指8を上下に挟むように互いに対向する。発光装置3は、下方へ向けて光を照射するように構成されており、発光装置3から照射された光は被験者の手指8を透過する。この透過光がレンズ系41を介して撮像部4に到達する。こうして、撮像部4によって被験者の手指8の透過画像が得られる。
【0026】
光量調整部5は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)によって構成されている。かかる光量調整部5は、撮像部4の出力信号を受け、この出力信号に基づいて発光装置3の光量調整を行うようになっている。発光装置3の光量調整についての詳細は後述する。
【0027】
図2に示すように、通信インタフェース6は、撮像部4及び光量調整部5と通信可能に接続されている。かかる通信インタフェース6は、例えばUSBインタフェースにより構成されており、情報処理ユニット7と通信ケーブルを介して接続されている。つまり、測定ユニット2は、通信インタフェース6により、情報処理ユニット7に対してデータの送受信が可能となっている。
【0028】
情報処理ユニット7は、CPU71と、ROM72と、RAM73と、外部記憶装置74と、入力部75と、通信インタフェース76と、表示部77とを有する。
【0029】
CPU71は、ROM72に記憶されているコンピュータプログラム及びRAM72にロードされたコンピュータプログラムを実行する。RAM73は、ROM72および外部記憶装置74に記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、RAM73は、これらのコンピュータプログラムを実行するときに、CPU71の作業領域としても利用される。
【0030】
外部記憶装置74は、ハードディスク又はフラッシュメモリ等の不揮発性記憶装置によって構成されている。かかる外部記憶装置74には、オペレーティングシステム及びアプリケーションプログラムなど、CPU71に実行させるための種々のコンピュータプログラム及びコンピュータプログラムの実行に用いられるデータがインストールされている。
【0031】
入力部75は、図1に示すように複数のキーが設けられた操作部である。ユーザはこの入力部のキーを操作することにより、非侵襲生体検査装置1に各種の指示を入力したり、データを入力したりすることができる。表示部77は、CPU71から映像信号を受け付け、入力された映像信号をもとに、画像を表示する。また、通信インタフェース76は、USBインタフェースであり、測定ユニット2の通信インタフェース6と信号ケーブルを介して接続されている。情報処理ユニット7は、かかる通信インタフェース76により、測定ユニット2に対してデータの送受信が可能となっている。
【0032】
以下、発光装置3の構成について詳述する。図4は、発光装置3の構成を示す底面図である。図4に示すように、発光装置3の底面は一方向に長い長方形をなしている。かかる発光装置3には、6個のLEDブロック311〜316が設けられている。LEDブロック311〜316は、前記長方形の長手方向に沿って列状に並べられている。この長手方向は、基台21とカバー部22とを枢着する回転軸の軸長方向に対して直交する方向、即ち、基台21に載置される被験者の手指8の長手方向と一致している。つまり、LEDブロック311〜316は、前記長方形の長手方向に列状に並べられている。なお、カバー部3が閉じられた状態において、発光装置3の中央は、撮像部4の撮像範囲の中央に位置するようになっている。つまり、被験者の手が基台21上に載置されたときに、被験者の手の中指8の第2関節が発光装置3の中央に位置するように構成されている。
【0033】
各LEDブロック311〜316は、3個のLED311A,LED311B,LED311C〜LED316A,LED316B,LED316Cをそれぞれ有している。LEDブロック311〜316のそれぞれに含まれる、3個のLED311A,LED311B,LED311C〜LED316A,LED316B,LED316Cは、前述した発光装置3の長方形の短辺方向に沿って並べられている。つまり、発光装置3においては、18個のLEDがマトリックス状に配置されている。
【0034】
また、LED311A,312A,313A,314A,315A,316Aは、660nmの波長の光を発する様に構成されている。この660nmの波長の光は、酸化ヘモグロビンよりも還元ヘモグロビンにおいて吸収度が高い。LED311B,312B,313B,314B,315B,316Bは、805nmの波長の光を発する様に構成されている。この805nmの波長の光は、酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンとにおいて吸収度が等しい。また、LED311C,312C,313C,314C,315C,316Cは、880nmの波長の光を発する様に構成されている。660nmの波長の光を発するLED311A,312A,313A,314A,315A,316Aと、805nmの波長の光を発するLED311B,312B,313B,314B,315B,316Bとは、静脈酸素化指標の測定に用いられる。805nmの波長の光を発するLED311B,312B,313B,314B,315B,316Bと、880nmの波長の光を発するLED311C,312C,313C,314C,315C,316Cとは、ヘモグロビン濃度の測定に用いられる。
【0035】
また、660nmの波長の光を発するLED311A,312A,313A,314A,315A,316Aのそれぞれは、発光装置3の長手方向に沿って一列に並べられている。同様に、805nmの波長の光を発するLED311B,312B,313B,314B,315B,316Bのそれぞれも発光装置3の長手方向に沿って一列に並べられており、880nmの波長の光を発するLED311C,312C,313C,314C,315C,316Cも発光装置3の長手方向に沿って一列に並べられている。
【0036】
図5は、発光装置3の構成を示す回路図である。図5に示すように、発光装置3は、LED311A〜316A,311B〜316B,311C〜316Cを駆動するための駆動部32を具備している。駆動部32には、LEDブロック311〜316のそれぞれを駆動する駆動回路321〜326が設けられている。つまり、駆動回路321〜326により各LEDブロック311〜316が個別に駆動される。また、駆動部32には定電流電源部33が設けられており、当該定電流電源部33には、基台21に設けられた電源部23が接続されており、定電流電源部33から駆動回路321〜326に定電流が供給されるようになっている。また、電源部23は、発光装置3に設けられた3個のLED波長制御部341,342,343のそれぞれに接続されている。LED波長制御部341は、660nmの波長の光を発するLED311A,312A,313A,314A,315A,316Aに接続されており、これらのLED311A,312A,313A,314A,315A,316Aの発光波長が660nmとなるように制御する。同様に、LED波長制御部342は、805nmの波長の光を発するLED311B,312B,313B,314B,315B,316Bに接続されており、これらのLED311B,312B,313B,314B,315B,316Bの発光波長が805nmとなるように制御する。また、LED波長制御部343は、880nmの波長の光を発するLED311C,312C,313C,314C,315C,316Cに接続されており、これらのLED311C,312C,313C,314C,315C,316Cの発光波長が880nmとなるように制御する。
【0037】
光量調整部5は、駆動回路321〜326のそれぞれに接続されている。かかる光量調整部5は、駆動回路321〜326のそれぞれにPWM信号を出力する。各駆動回路321〜326は、与えられたPWM(Pulse Width Modulation)信号のデューティー比に応じた電流を対応するLEDブロック311〜316に供給する。これにより、LEDブロック311〜316の発光量が個別に調整される。ここで、同一のLEDブロックに設けられた3個のLEDのそれぞれには、同一値の電流が供給される。つまり、同一のLEDブロック内の3個のLEDは一体的に光量調整が行われる。
【0038】
<非侵襲生体計測装置の動作>
次に、本実施の形態に係る非侵襲生体計測装置1の動作について説明する。図6は、本実施の形態に係る非侵襲生体計測装置1の動作の手順を示すフローチャートである。被験者が非侵襲生体計測装置1を使用する場合、まず被験者の中指8を基台21に載置する。このとき、撮像部4の撮像範囲の中央位置に、被験者の中指8の第2関節が位置する。この状態で、被験者は情報処理ユニット7の入力部75を操作して、測定開始の指示を非侵襲生体計測装置1に入力する。非侵襲生体計測装置1に測定開始の指示が与えられると、情報処理ユニット7のCPU71は、測定ユニット2に対して発光装置3の光量調整処理の実行指示データを送信する(ステップS101)。
【0039】
測定ユニット2の光量調整部5は、上記の実行指示データを受け付けると、光量調整処理を実行する。図7は、光量調整処理の手順を示すフローチャートである。まず光量調整部5は、LEDブロック311〜316への電流値(光量)を初期値に設定する(ステップS201)。この初期値では、LEDブロック311〜316のうち、被験者の中指8の第2関節に最も近いLEDブロック313,314の光量が最も小さく、LEDブロック313,314から遠ざかるにしたがって光量が大きくなるように、各LEDブロック311〜316への電流値が設定される。この状態で撮像部4により、被験者の中指8の透過画像が得られ、この透過画像が光量調整部5に与えられる。透過画像には、被験者の中指8の第1関節の近傍から、第3関節(付け根)に至る範囲の透過像が含まれている。透過画像は256階調のモノクローム画像である。光量調整部5は、透過画像の全画素の平均輝度を求め、この平均輝度が256階調の中間値である127を中心とした所定の中間範囲に収まっているか否かを判別する(ステップS202)。
【0040】
光量調整部5は、平均輝度が中間範囲を外れる場合には(ステップS202においてNO)、各LEDブロック311〜316への電流値(光量)を増加又は減少させる(ステップS203)。つまり、平均輝度が中間範囲よりも低い場合、各LEDブロック311〜316の光量は増加され、平均輝度が中間範囲よりも高い場合、各LEDブロック311〜316の光量は減少される。図8は、ステップS203における発光装置3の光量調整を説明するためのグラフである。図8において、縦軸yは電流値を示し、横軸xはLEDブロックの位置を示している。図8に示すように、ステップS203の処理において、各LEDブロック311〜316に供給される電流値は、次の3次方程式(1)により与えられる。
y=αx3+αβx2+αγx+C …(1)
【0041】
ステップS203の処理においては、上記の式(1)のパラメータCを変化させて、各LEDブロック311〜316に供給される電流値が調整される。つまり、各LEDブロック311〜316間の光量の差が維持された状態で、LEDブロック311〜316の全体の光量が増減する。
【0042】
ステップS203の処理が行われた後、光量調整部5はステップS202へ処理を戻す。これにより、平均輝度が中間範囲内に収まるまで、ステップS202〜S203の処理が繰り返される。
【0043】
他方、ステップS202において、平均輝度が中間範囲内にある場合には(ステップS202においてYES)、光量調整部5は、透過画像から、被験者の中指8の長手方向に直交する方向に並ぶ所定の複数の画素列毎に平均輝度を求め、各平均輝度が上記の中間範囲内に収まるか否かを判別する(ステップS204)。
【0044】
ステップS204において、何れかの平均輝度が中間範囲から外れる場合には(ステップS204においてNO)、光量調整部5は、被験者の中指8の長手方向に直交する方向に並ぶ画素列毎に平均輝度を求め、これらの平均輝度の最大値と最小値との差を算出する(ステップS205)。次に光量調整部5は、算出した平均輝度の最大値と最小値との差に応じて、各LEDブロック311〜316への電流値を増加又は減少させる(ステップS206)。図9は、ステップS206における発光装置3の光量調整を説明するためのグラフである。図9において、縦軸yは電流値を示し、横軸xはLEDブロックの位置を示している。図9に示すように、ステップS206の処理において、各LEDブロック311〜316に供給される電流値は、次の2次方程式(2)により与えられる。
y=P(x−q)2 …(2)
【0045】
ステップS206の処理においては、上記の式(2)のパラメータPを変化させて、各LEDブロック311〜316に供給される電流値が調整される。つまり、図9に示すように、平均輝度の最大値と最小値との差が所定値よりも大きければ、放物線の曲率が小さくなるようにパラメータPが調整され、平均輝度の最大値と最小値との差が所定値よりも小さければ、放物線の曲率が大きくなるようにパラメータPが調整される。
【0046】
ステップS206の処理が行われた後、光量調整部5はステップS204へ処理を戻す。これにより、各平均輝度が中間範囲内に収まるまで、ステップS204〜S206の処理が繰り返される。
【0047】
ステップS204において、各平均輝度が中間範囲内にある場合には(ステップS204においてYES)、光量調整部5は情報処理ユニット7に対して光量調整処理の終了通知データを送信し(ステップS207)、光量調整処理を終了する。
【0048】
図10は、従来の照明方法による手指の透過画像の一例を示す図であり、図11は、本実施の形態に係る非侵襲生体計測装置1による光量調整処理を実行した後の手指の透過画像の一例を示す図である。手指においては関節部分が他の部分に比べて光を透過しやすいことが分かっている。図10に示すように、従来の照明方法では、全ての発光素子の光量を同じにするため、手指の関節部分が他の部分よりも極端に明るくなっている。後述するように、ヘモグロビン濃度の検出では、透過画像から血管部分の像(以下、「血管像」という。)を検索し、これを処理対象とする必要がある。従来の照明方法により得られた透過画像では、手指の関節部分の透過像から血管像を検索する必要がある。即ち、血管像を検索可能な領域が手指の関節部分に限定されるため、適切な血管像を検索できないおそれがある。これに対して、本実施の形態における光量調整処理を実行した後の手指の透過画像は、局所的に暗くなったり、明るくなったりすることがなく、全体において明瞭な画像となっている。このため、従来に比して血管像の検索範囲が大きく、適切な血管像を検索しやすい。
【0049】
図6に示すように、情報処理ユニット7が光量調整処理の終了通知データを受信すると(ステップS102)、CPU71は、以下に説明するようなヘモグロビン濃度検出処理を実行する(ステップS103)。
【0050】
図12A及び図12Bは、ヘモグロビン濃度検出処理の手順を示すフローチャートである。ヘモグロビン濃度検出処理において、まずCPU71は、LED311C,312C,313C,314C,315C,316Cにより880nmの波長の光を被験者の手指8に照射させ(ステップS301)、撮像部4に手指8を撮像させる(ステップS302)。CPU71は、撮像部4による880nmの波長光の透過画像(以下、「第1透過画像」という。)から最もコントラストが高い血管像の領域を検索し(ステップS303)、検索した領域を処理対象領域として設定する(ステップS304)。
【0051】
次にCPU71は、処理対象領域について血管を横切って分布する輝度分布を対数変換し、変換した画像輝度分布から血管の中心に対して極小となる谷状の輝度プロファイルを作成する(ステップS305)。図13は、輝度プロファイルの一例を示すグラフである。図13において、縦軸は対数輝度を示し、横軸は距離を示している。続いてCPU71は、得られた輝度プロファイルに基づいて、吸収プロファイルの作成及びベースラインの決定を行う(ステップS306)。
【0052】
ステップS306の処理について詳しく説明する。図14は、吸収プロファイルの作成及びベースラインの決定処理の手順を示すフローチャートである。まずCPU71は、定数a(例えば0.7)を設定する(ステップS401)。
【0053】
次にCPU71は、Hを所定の最小値(例えば輝度プロファイルの最大深さHmの10%)に設定する(ステップS402)。さらにCPU71は、輝度プロファイルについて谷底Pからの深さHまでの部分を切り出し(ステップS403)、切り出した部分を吸収プロファイルに変換する(ステップS404)。図15は、吸収プロファイルの一例を示すグラフである。
【0054】
次にCPU71は、吸収プロファイルを分布関数(確率密度関数)と見なし、その標準偏差σと、吸収プロファイルの高さaHにおける幅Wを算出する(ステップS405)。
【0055】
次にCPU71は、2σとWとが一致するか否か比較し(ステップS406)、一致しない場合には(ステップS406においてNO)、Hを若干大きい値に再設定し(ステップS407)、処理をステップS403へ戻す。
【0056】
ステップS403〜S406をくり返すと、Hが増大するに従って2σとWとのそれぞれが変化し、HがHmの75%になると、点Cで両者が一致し、2σ=Wとなる。この時の吸収プロファイルは図16に示すようになり、CPU71は、高さ0.7Hにおける水平線をベースラインBLとして決定し(ステップS408)、ヘモグロビン濃度検出処理における吸収プロファイルの作成及びベースラインの決定処理の呼出アドレスに処理をリターンする。
【0057】
次にCPU71は、図16の吸収プロファイルのベースラインBLから上の部分を図17に示すように切り出し、これを血管プロファイルとして決定する(ステップS307)。そして、図17の血管プロファイルの高さh1,幅W2,面積A1を算出する(ステップS308)。
【0058】
次にCPU71は、LED311B,312B,313B,314B,315B,316Bにより805nmの波長の光を被験者の手指8に照射させ(ステップS309)、撮像部4に手指8を撮像させる(ステップS310)。CPU71は、撮像部4による805nmの波長光の透過画像(以下、「第2透過画像」という。)において、ステップS304と同じ領域を処理対象領域として設定する(ステップS311)。
【0059】
以下、ステップS312〜S315において、第1透過画像についてステップS305〜S308において行った処理と同様の処理を第2透過画像について行い、805nmの波長に対応する血管プロファイルの高さh2、幅W2,面積A2を算出する。
【0060】
さらにCPU71は、組織表面から血管までの深さtを次式で算出する(ステップS316)。
t=(h2/W2n)/(h1/W1)m …(3)
但し、m,nは定数である。
【0061】
次にCPU71は、血管径φと血管を流れる血液のヘモグロビン濃度Hgbとヘマトクリット値Hctとのそれぞれを式(4)〜(6)で算出する(ステップS317)。
φ=A1p/h1=W1×f1(t) …(4)
Hgb=(h1/A1q)×f2(t)×g(φ) …(5)
但し、p,qは定数であり、関数f1,f2,gは実験的に決定される関数である。
Hct=k・h1/h2+L…(4)
但し、k,Lは定数である。
【0062】
上記のようにして血管深さ,血管径、ヘモグロビン濃度、及びヘマトクリット値が得られると、CPU71は、メインルーチンにおけるヘモグロビン濃度検出処理の呼出アドレスに処理をリターンする。
【0063】
ヘモグロビン濃度検出処理が終了すると、図6に示すように、CPU71は静脈酸素化指標検出処理を実行する(ステップS104)。図18は、静脈酸素化指標検出処理の手順を示すフローチャートである。静脈酸素化指標検出処理において、まずCPU71は、ヘモグロビン濃度検出処理において取得した第2透過画像から、805nmの波長光の吸光度Ab2を抽出する(ステップS501)。
【0064】
次にCPU71は、LED311A,312A,313A,314A,315A,316Aにより660nmの波長の光を被験者の手指8に照射させ(ステップS502)、撮像部4に手指8を撮像させる(ステップS503)。CPU71は、撮像部4による660nmの波長光の透過画像(以下、「第3透過画像」という。)を取得し(ステップS504)、取得した第3透過画像から、660nmの波長光の吸光度Ab3を抽出する(ステップS505)。
【0065】
さらにCPU71は、次式(5)にしたがって静脈酸素化指標VOIを算出する(ステップS506)。
VOI=−Ab3/Ab2 …(5)
【0066】
上記のようにして静脈酸素化指標が得られると、CPU71は、メインルーチンにおける静脈酸素化指標検出処理の呼出アドレスに処理をリターンする。
【0067】
静脈酸素化指標検出処理が終了すると、図6に示すように、CPU71は得られたヘモグロビン濃度、ヘマトクリット値、及び静脈酸素化指標を表示部77に表示させ(ステップS105)、処理を終了する。
【0068】
(その他の実施の形態)
なお、上述した実施の形態においては、光量調整部5によって発光装置3に設けられた複数のLEDブロック311〜316の光量を独立して制御する構成について述べたが、これに限定されるものではない。全てのLEDブロック311〜316の光量を一体的に増減する構成とすることもできる。この場合、被験者の手指の関節に最も近いLEDブロック313,314から離れるにしたがって光量が大きくなるようにLEDブロック311〜316を設定し、各LEDブロック311〜316間の光量の差が維持された状態で、LEDブロック311〜316の全体の光量を増減させるようにすることができる。
【0069】
また、上述した実施の形態においては、基台21に載置された手指の関節から離れるにしたがって、非線形的に光量が増加するようにLEDブロック311〜316の光量を調整する構成について述べたが、これに限定されるものではない。基台21に載置された手指の関節から離れるにしたがって、線形的に光量が増加するようにLEDブロック311〜316の光量を調整する構成とすることもできる。
【0070】
また、上述した実施の形態においては、基台21に載置された手指の関節から離れるにしたがって、光量が増加するようにLEDブロック311〜316の光量を調整する構成について述べたが、これに限定されるものではない。例えば、測定対象の部位に関節が含まれない場合には、中央のLEDブロック313,314の光量を小さくし、中央から離れるにしたがって増大するようにLEDブロック311,312,315,316の光量を決定する構成に限られず、撮像範囲において透過光量が均一化するように、各LEDブロックの光量を調整すればよい。
【0071】
また、上述した実施の形態においては、光量調整を行う光量調整部5と、画像処理を行う情報処理ユニット7のCPU71とを別々に設ける構成について述べたが、これに限定されるものではない。光量調整処理及び画像処理を1つの演算処理部により実行する構成とすることもできる。
【0072】
また、上述した実施の形態においては、列状に配置されたLEDブロック311〜316を設ける構成について述べたが、これに限定されるものではなく、例えば、複数のLEDブロックをジグザグ状に並べて配置した構成としてもよい。
【0073】
また、上述した実施の形態においては、被験者の手指を撮像対象とする構成について述べたが、これに限定されるものではない。被験者の足の指を撮像し、これによって得られた画像に基づいて被験者のヘモグロビン濃度を検出する構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明に係る非侵襲生体計測装置は、被験者の指に光を照射して透過光を得、透過光を撮像部で受けて指を撮像し、得られた画像を処理して被験者の生体情報を検出する非侵襲生体計測装置として有用である。
【符号の説明】
【0075】
1 非侵襲生体計測装置
2 測定ユニット
21 基台
3 発光装置
311〜316 LEDブロック
311A〜316A,311B〜316B,311C〜316C LED
4 撮像部
5 光量調整部
7 情報処理ユニット
71 CPU
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13
図14
図15
図16
図17
図18