特許第6152139号(P6152139)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ インドゥストリエ・デ・ノラ・ソチエタ・ペル・アツィオーニの特許一覧

<>
  • 特許6152139-電解用途用の電極 図000005
  • 特許6152139-電解用途用の電極 図000006
  • 特許6152139-電解用途用の電極 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6152139
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】電解用途用の電極
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/04 20060101AFI20170612BHJP
   C25B 11/10 20060101ALI20170612BHJP
   C23C 18/02 20060101ALI20170612BHJP
【FI】
   C25B11/04 A
   C25B11/10 C
   C23C18/02
【請求項の数】10
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-128555(P2015-128555)
(22)【出願日】2015年6月26日
(62)【分割の表示】特願2012-522139(P2012-522139)の分割
【原出願日】2010年7月27日
(65)【公開番号】特開2015-206125(P2015-206125A)
(43)【公開日】2015年11月19日
【審査請求日】2015年7月27日
(31)【優先権主張番号】61/229,057
(32)【優先日】2009年7月28日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507128654
【氏名又は名称】インドゥストリエ・デ・ノラ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100104374
【弁理士】
【氏名又は名称】野矢 宏彰
(72)【発明者】
【氏名】グッラ,アンドレア・フランチェスコ
(72)【発明者】
【氏名】アブラハム,ソバ
【審査官】 宮本 靖史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−154237(JP,A)
【文献】 特開昭57−192281(JP,A)
【文献】 特開平05−148675(JP,A)
【文献】 特開2004−360067(JP,A)
【文献】 特開2005−089779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 11/00 − 11/18
C23C 18/00 − 20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン又はチタン合金から製造された基材と
一次及び二次バリア層を含む二重バリア層であって、
前記二次バリア層は、前記基材と直接接触し、酸化タンタル及び酸化チタンの包含物で改質された非化学量論的酸化チタンからなり、前記一次バリア層は、前記二次バリア層と直接接触し、前記一次バリア層は、酸化チタン及び酸化タンタルを含有する熱緻密化された混合酸化物相を含み、かつ酸化チタン及び酸化タンタルの複数の粒子を含有し、前記一次バリア層は、10,000nm表面あたり25粒子を超える前記粒子の面密度を有する、二重バリア層と、そして
白金族金属又はその酸化物を含む触媒層と
を含む電解用途用の電極の製造法であって、
− チタン又はチタン合金の基材を用意し
− 前記基材を、水のモル含有量1〜10%を有し、かつチタン及びタンタル種を含有する前駆体含水アルコール溶液を前記基材に適用することによって1コート又は複数コートの混合酸化物層で被覆し、各コート毎に120〜150℃で乾燥させ、そして前記前駆体溶液を400〜600℃で5〜20分間熱分解し
− 被覆基材を400〜600℃の範囲の温度で1〜6時間、前記二重バリア層が形成されるまで熱処理に付し
− 前記触媒層を前記二重バリア層上に、白金族金属化合物を含有する溶液を1コート又は複数コート適用し、熱分解することによって形成する
ステップを含む方法。
【請求項2】
前記一次バリア層が、10,000nm表面あたり80〜120粒子の密度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記混合酸化物相におけるTi:Taのモル比が60:40〜80:20である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記一次バリア層における前記混合酸化物相がさらに、Ce、Nb、W及びSrの酸化物からなる群から選ばれる2〜10mol%のドーピング剤を含有し、前記二次バリア層がさらに、Ce、Nb、W又はSrの酸化物の包含物を含有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記一次バリア層が3〜25マイクロメートルの厚さを有し、前記二次バリア層が0.5〜5マイクロメートルの厚さを有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記触媒層が、酸化イリジウム及び酸化タンタルを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記前駆体含水アルコール溶液が、Tiイソプロポキシドを含有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記前駆体含水アルコール溶液がさらにCe、Nb、W又はSr種を含有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
チタン及びタンタル種を含有する前記前駆体含水アルコール溶液の前記熱分解ステップの後にクエンチングステップが続く、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記クエンチングステップの冷却速度が少なくとも200℃/sである、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解用途用の電極に関し、特に水性電解質中で酸素発生アノードとして使用するのに適切な電極に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の電極は、何の制限もなしに広範囲の電解プロセスに使用できるが、特に電解プロセスで酸素発生アノードとして動作するのに適している。
酸素発生プロセスは、工業電気化学の分野で良く知られており、セメント質構造のカソード防食のほか、電解採取、電気精錬、電気メッキなどの多種多様な電気冶金プロセス及びその他の非冶金プロセスなどを含む。
【0003】
酸素は、通常、触媒被覆されたバルブ金属アノードの表面上で発生する。バルブ金属のアノードは、ほとんどの電解質環境中でのそれらの容認可能な耐化学性(耐薬品性)を考慮すると、適切な基材を提供している。この性質は、それらの表面上に形成された、良好な導電性を保持している非常に薄い酸化物の皮膜によって与えられている。チタン及びチタン合金が、それらの機械的特性及びコストの点から、バルブ金属基材の最も一般的な選択肢である。触媒コーティングは、酸素発生反応の過電圧を低下させるために施され、通常白金族金属又はその酸化物、例えば酸化イリジウムを含有する。所望により、酸化チタン、タンタル又はスズなどの皮膜形成金属酸化物が混合されていてもよい。
【0004】
この種のアノードは、一部の工業用途では容認可能な性能及び寿命を有しているが、大部分の電気メッキプロセスの場合など、特に高電流密度で実施されるプロセスでは、一部の電解質の攻撃性に耐えるのに不十分であることが多い。
【0005】
特に1kA/mより高い電流密度における酸素発生アノードの故障メカニズムは、コーティング−基材界面での局所攻撃が関与していることが多く、厚い絶縁性バルブ金属酸化物層の形成(基材不動態化)及び/又は触媒コーティングの亀裂及び基材からの剥離がもたらされる。そのような現象を防止又は実質的に減速するための一つの方法は、基材と触媒コーティングとの間に保護バリア層を設けることである。適切なバリア層は、所要の導電性を保持しつつ、基材金属への水及び酸性の接近を妨げるべきものである。チタン金属基材は、例えば、基材と触媒コーティングとの間に、金属酸化物ベースのバリア層、例えば酸化チタン及び/又は酸化タンタルのバリア層を間置することによって保護できる。そのような層は非常に薄いことが必要とされる(例えば数マイクロメートル)。そうでなければ、酸化チタン及びタンタルの非常に限られた導電性のために、電極は電気化学セルで働くのに不適切なものとなる。又はいずれにしてもセル電圧が増大しすぎて、所要の電解プロセスを実施するのに必要な電気エネルギー消費が増大する結果となる。他方、極めて薄いバリア層は、プロセス電解質の侵入を許す割れ又は他の欠陥を提示しやすく、結局のところ有害な局所攻撃を招く。
【0006】
金属酸化物ベースのバリア層はいくつかの異なる方法で得ることができる。例えば、金属前駆体塩、例えば塩化物又は硝酸塩の水溶液を基材に例えば刷毛塗り又は浸漬によって適用し、熱分解して対応する酸化物を形成すればよい。この方法は、チタン、タンタル又はスズなどの金属の混合酸化物層を形成するのに使用できるが、得られたバリア層は、一般的に十分緻密でなく、亀裂及び割れを示し、ほとんどの厳しい用途にとって不適切なものになる。保護酸化物膜を堆積させる別の方法は、様々な成膜技術によるものである。例えば、プラズマ又は火炎スプレー、アークイオンプレーティング又は化学/物理気相成長法などであるが、これらは、当業者には容易に分かるとおり、本来スケールアップが困難となりうる煩雑で高価なプロセスである。さらに、これらの方法は、導電性とバリア効果の有効性との間の微妙なバランスを特徴とし、多くの場合、十分に満足のいく解決をもたらしていない。
【0007】
腐食攻撃に対する保護手段としてのバリア層の単純な使用は、バリア構造に不可避の局所欠陥が、下部の基材への選好的な化学攻撃又は電気化学攻撃の部位に容易に変わるという不利益を常に有している。基材の局所部分への破壊的攻撃は、多くの場合、バリア−基材の界面で広がりうる結果、塊状の酸化物成長による基材の電気的絶縁、及び/又は基材からの被覆成分の広範な剥離をもたらす。
【発明の概要】
【0008】
上記考察は、電解プロセスで酸素発生アノードとして動作できる電極のためのより効率的な保護バリア層を確認することがいかに非常に望ましいかを示している。
本発明のいくつかの側面は、添付の特許請求の範囲に示されている。
【0009】
一側面において、電解用途のための電極は、チタン又はチタン合金から製造された基材と、白金族金属又はその酸化物に基づく触媒層と、それらの間に二重バリア層とを含む。二重バリア層は、
− 触媒層と直接接触し、チタン−タンタル酸化物の熱緻密化(thermally-densified)混合相からなる、より外側の一次バリア層と、そして
− 基材と直接接触し、本質的に一次バリア層から拡散してくる酸化タンタル及び酸化チタンの包含物(inclusions)で改質された非化学量論的酸化チタンからなる、より内側の二次バリア層と
を含む。
【0010】
一次バリア層は極めて緻密(comapact)であることを特徴とし、例えば先行技術の酸化物バリアの2倍緻密である。一態様において、一次バリア層の密度は、その構成粒子の緻密度(degree of comapactness)で表すと、X線分光技術による検出で、10,000nm表面あたり25粒子を超える。別の態様において、一次バリア層の密度は、その構成粒子の緻密度で表すと、10,000nm表面あたり80粒子を超え、例えば10,000nm表面あたり80〜120粒子を含む。この範囲は、チタン−タンタル酸化物混合相で得られる最大緻密度に近づく又は相当するので、非常に低減された厚さでも優れた保護を提供する実質的に無欠陥のバリアを提供するという利点を有しうる。非常に限られた厚さを有する効果的な一次バリア層の提供は、電極全体の導電性の改良を可能にする。
【0011】
二次バリア層は高導電性であることを特徴とし、その本体(bulk)は本質的に下の金属表面から成長した非化学量論的酸化チタンからなる。これは化学量論的TiOよりも本来より導電性である。Ta+5包含物がこの層の導電性をさらに高める。この増強された導電性は、酸化物層を越えるTiイオンの輸送速度の低下、ひいては不動態化層の成長速度の低下をもたらす。他方、酸化タンタル及び酸化チタン包含物は、固溶体(solid-state solutions)を形成できる。このことは、酸化チタン形成電位をよりアノード側の値にシフトさせるという利点を有しうる。
【0012】
一態様において、一次バリア層の混合チタン−タンタル酸化物相におけるTi:Taのモル比は、60:40〜80:20である。この組成範囲は、酸素発生アノードの高性能バリア層を提供するのに特に有用である。他の態様において、異なるガス発生電極、例えば塩素発生電極は、異なるモル組成の混合チタン−タンタル酸化物バリア層を含んでいてよい。
【0013】
一態様において、一次バリア層は、Ce、Nb、W及びSrの酸化物からなる群から選ばれるドーピング剤で改質されている。驚くべきことに、60:40〜80:20のTi:Taモル比を有する混合チタン−タンタル酸化物の組成物に基づくバリア層中にそのような種が2〜10mol%の量で存在すると、電極の総寿命に有益効果を有しうることが観察された。これらの条件下では、二次バリア層も対応酸化物の包含物を含有する。
【0014】
上記密度の一次バリア層は、数マイクロメートルの厚さでも、酸素発生アノードが最も攻撃的な工業運転条件に耐えることを可能にする。一態様において、一次バリア層は、少なくとも3マイクロメートルの厚さを有する。この厚さは、可能な貫通欠陥の存在を最小化するという利点を有しうる。一次バリア層の厚さは、電極寿命をなるべく増大することが目的であれば、より厚くすることもできる。一態様において、一次バリア層は、過剰な抵抗不利益の招来を回避するために25マイクロメートルを超えない厚さを有する。二次バリア層は、一次バリア層の熱緻密化ステップ中に酸化タンタル及び酸化チタン包含物で酸化チタン層が改質されて得られるのであるが、その厚さは、通常一次バリア層の厚さより約3〜約6倍低い。一態様において、二次バリア層は0.5〜5マイクロメートルの厚さを有する。
【0015】
上記電極は広範囲の電気化学用途に使用できるが、特に高電流密度での電解用途における酸素発生アノードとして特に有用である(例えば金属電気メッキなど)。この場合、二重バリア層の上に混合金属酸化物ベースの触媒層を設けるのが好都合であろう。一態様において、触媒層は酸化イリジウム及び酸化タンタルを含む。これは、特に酸性電解質中での酸素発生反応の過電圧を低減するという利点を有しうる。
【0016】
一態様において、電極は、適切なチタン及びタンタル種を含有する前駆体溶液をチタン基材に適用し、溶媒が除去されるまで120〜150℃で乾燥させ、そしてチタンとタンタルの混合酸化物層が形成されるまで(通常3〜20分で得られる)400〜600℃で前駆体を熱分解することによって製造される。このステップは、所要厚のチタンとタンタルの混合酸化物層が得られるまで数回繰り返すことができる。次のステップで、チタンとタンタルの混合酸化物層で被覆された基材を、上記のような二重バリア層が形成されるまで400〜600℃で後焼付け(post-bake)する。後焼付け熱処理は、チタンとタンタルの混合酸化物層を極度に緻密化し、その一方で下のチタン基材への酸化チタン及び酸化タンタル種の移動を促進するという利点を有する。それによって、正の値にシフトされた酸化電位(酸化チタン形成電位に相当)も有しうる増強された導電性の二次バリア層が形成される。最終ステップで、白金族金属化合物を含有する溶液を1コート又は複数コート適用し、熱分解することによって前記二重バリア層上に触媒層を形成する。
【0017】
一態様において、チタンとタンタルの前駆体溶液は、水のモル含有量1〜10%を有し、Tiアルコキシド種、例えばTiイソプロポキシドを含有する含水アルコール溶液である。この溶液は、例えば、市販のTi−イソプロポキシド溶液をTaCl溶液と混合し、HCl水溶液の添加によって水分含有量を調整することによって得ることができる。前駆体溶液中の水分含有量がそのように少ないことは、一次バリア層のチタン−タンタル混合酸化物層の緻密化プロセスに役立ちうる。別の態様において、前駆体溶液は、Tiエトキシド又はブトキシド種を含有する。
【0018】
一態様において、チタンとタンタルの前駆体溶液はさらに、Ce、Nb、W又はSrの塩、所望により塩化物を含有する。
一態様において、チタンとタンタルの前駆体溶液の熱分解ステップ後、得られたチタンとタンタルの混合酸化物層は、電極を適切な媒体中でクエンチングすることによって予備緻密化される。一態様において、クエンチングステップの冷却速度は少なくとも200℃/sである。これは、例えば、チタンとタンタルの混合酸化物層で被覆された基材をオーブン(400〜600℃)から取り出し、それをすぐに冷水に浸漬することによって得られる。その後、二重バリア層を形成するために、400〜600℃での後焼付けを十分な時間実施する。クエンチングステップは、他の適切な液体媒体、例えば油中でも、又は所望により強制換気下で空気中でも実行できる。クエンチングは、混合チタン−タンタル酸化物相の緻密化を補助し、その後の後焼付けステップの時間をある程度削減可能にするという利点を有しうる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明による電極の断面の走査型電子顕微鏡画像を示す。
図2図2は、本発明による一次バリア層のサンプルのXRDスペクトル集を示す。
図3図3は、先行技術による一次バリア層のサンプルのXRDスペクトル集を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下の実施例は、本発明の特別の態様を例示するために含められる。当業者には、以下の実施例中に開示されている組成物及び技術は、本発明の実施に際してうまく機能するように発明者らが見出した組成物及び技術を表していること、従ってその実施のための好適な様式を構成していると見なせることは理解されるはずである。しかしながら、当業者であれば、本開示に照らして、本発明の範囲から逸脱することなく、開示されている特定の態様に多くの変更が可能であり、しかも類似した結果が得られることは理解されるはずである。
【0021】
実施例1
グレード1のチタンの0.89mm厚シートを18体積%のHCl中でエッチングし、アセトンで脱脂した。シートを5.5cm×15.25cm片にカットした。各片を電極基材として使用し、Ti−イソプロポキシド溶液(2−プロパノール中175g/l)とTaCl溶液(濃HCl中56g/l)を異なるモル比で混合することによって得た前駆体溶液で被覆した(組成物1:100%Ti;組成物2:80%Ti、20%Ta;組成物3:70%Ti、30%Ta;組成物4:60%Ti、40%Ta;組成物5:40%Ti、60%Ta;組成物6:20%Ti、80%Ta;組成物7:100%Ta)。上記組成物のそれぞれにつき3個の異なるサンプルを以下のように製造した。7種類の前駆体溶液を対応する基材サンプルに刷毛塗りによって適用し、次いで該基材を130℃で約5分間乾燥させ、その後515℃で5分間硬化した。この操作を5回繰り返した後、各被覆基材を515℃で3時間の最終熱処理に付した。
【0022】
各組成物につき2個のサンプルを、多重に塗ったイリジウムとタンタルの塩化物のアルコール溶液の熱分解によって、イリジウムとタンタルの酸化物の混合物からなる触媒層で最終的に被覆した(イリジウムの総装填量7g/m)。
【0023】
このステップの終了時、被覆サンプルの半数を走査型電子顕微鏡法(SEM)で特徴付けした。すべてが図1に示されている断面の特徴を示した。図1は、組成物3から得られた二重バリア層で、1はチタン金属基材であり、3(薄灰色領域)は熱緻密化された混合チタン−タンタル酸化物(Ti/Ta)層からなる一次バリア層であり、2(濃灰色領域)は基材1から成長し、一次バリア層3由来のTi酸化物及びTa酸化物の包含物で改質された非化学量論的酸化チタンからなる二次バリア層であり、4はIr及びTa酸化物の混合物からなる触媒層である。
【0024】
触媒層で被覆されなかったサンプルの組をX線回折(XRD)に付し、図2に収集されたスペクトルを得た。ピーク10はチタン基材に帰属でき、ピーク20及び21は酸化チタン種の特徴であり、ピーク30、31及び32はタンタルに帰属できる。
【0025】
特徴的XRDピークの積分により、各組成物のTi/Ta平均粒径、並びに対応する体積及び表面積を、粒子はほとんど球形であるという仮定の下、得ることが可能である。そのようなパラメーターは、結晶格子に詰め込まれた酸化物粒子が占める平均空間の測定値である。各組成物の粒子面密度は、10,000nmの面積に詰め込まれた粒子の数として表すことができ、得られたバリア層の緻密度の指標となる。表1に報告されたデータは、ある範囲の組成物(約80%Ti、20%Ta〜約60%Ti、40%Ta)では、粒子面密度が理論的限界に非常に近いことを示している。
【0026】
【表1】
同じXRD特徴付けを被覆サンプルの一組に対しても繰り返し、類似の結果を得たが、触媒由来のタンタルピークの存在が計算をより難しくしている。
【0027】
被覆サンプルの他の組に対しては促進寿命試験を、酸素発生下、150g/lのHSO中、65℃、電流密度20kA/m、及び対電極としてジルコニウムカソードを電極ギャップ1.27cmで使用して実施した。試験は、特定条件下の酸素発生下で、初期セル電圧が1V増加するのに要した時間と定義される電極寿命を測定する。試験下の全サンプルが1400時間を超える寿命を示した。組成物2、3及び4に対応するバリア層を有するサンプルは、貴金属g/mあたり250時間を超える時間に相当する1800〜2000時間の寿命を示した。
【0028】
実施例2
グレード1のチタンの0.89mm厚発泡シートを18体積%のHCl中でエッチングし、アセトンで脱脂した。シートを5.5cm×15.25cm片にカットした。各片を電極基材として使用し、Ti−イソプロポキシド溶液(2−プロパノール中175g/l)とTaCl溶液(濃HCl中56g/l)を、前の実施例の組成物1及び3に対応する異なるモル比で混合することによって得た前駆体溶液で被覆した。各組成物につき3個の異なるサンプルを以下のように製造した。2種類の前駆体溶液を対応する基材サンプルに刷毛塗りによって適用し、次いで該基材を130℃で約5分間乾燥させ、その後515℃で5分間硬化した。硬化後、サンプルを20℃の脱イオン水に浸漬することによってクエンチングした。このようにして約250℃/sのクエンチング速度を得た。全操作を5回繰り返した後、各被覆基材を515℃で3時間の最終熱処理に付した。
【0029】
各組成物につき2個のサンプルを、多重に塗ったイリジウムとタンタルの塩化物のアルコール溶液の熱分解によって、イリジウムとタンタルの酸化物の混合物からなる触媒層で最終的に被覆した(イリジウムの総装填量7g/m)。
【0030】
実施例1のSEM及びXRD特徴付けを繰り返し、類似の結果を得た。特に、XRDスペクトルから抽出したデータを表2に報告する。
【0031】
【表2】
実施例1のように、SEM及びXRD特徴付けに使用されなかった被覆サンプルに対して促進寿命試験を実施した。両サンプルとも約2000時間の寿命を示した。
【0032】
比較例
グレード1のチタンの0.89mm厚発泡シートを18体積%のHCl中でエッチングし、アセトンで脱脂した。シートを5.5cm×15.25cm片にカットした。各片を電極基材として使用し、TiCl水溶液とTaCl塩酸溶液を実施例1の7種類の組成物に対応する異なるモル比で混合することによって得た前駆体溶液で被覆した。各組成物につき3個の異なるサンプルを以下のように製造した。7種類の前駆体溶液を対応する基材サンプルに刷毛塗りによって適用し、次いで該基材を130℃で約5分間乾燥させ、その後515℃で5分間硬化した。この操作を5回繰り返した。最終熱処理もクエンチングステップも適用しなかった。
【0033】
前の実施例のように、各組成物につき2個のサンプルを、多重に塗ったイリジウムとタンタルの塩化物のアルコール溶液の熱分解によって、イリジウムとタンタルの酸化物の混合物からなる触媒層で最終的に被覆した(イリジウムの総装填量7g/m)。
【0034】
このステップの終了時、被覆サンプルの半数を走査型電子顕微鏡法(SEM)で特徴付けした。すべてが一重Ti/Taバリア層を示した。
触媒層で被覆されなかったサンプルの組をX線回折(XRD)に付し、図3に収集されたスペクトルを得た。ピーク11はチタン基材に帰属でき、ピーク22及び23は酸化チタン種の特徴であり、ピーク33、34及び35はタンタルに帰属できる。
【0035】
前の実施例のように、特徴的XRDピークの積分により、各組成物のTi/Ta平均粒径を得た。XRDスペクトルから抽出したデータを表3に報告する。
【0036】
【表3】
前の実施例のように、SEM及びXRD特徴付けに使用されなかった被覆サンプルに対して促進寿命試験を実施した。試験下の全サンプルとも、貴金属g/mあたり100時間をわずかに超える時間に相当する700〜800時間の範囲の寿命を示した。
【0037】
実施例3
グレード1のチタンの0.89mm厚発泡シートを18体積%のHCl中でエッチングし、アセトンで脱脂した。シートを5.5cm×15.25cm片にカットした。各片を電極基材として使用し、Ti−イソプロポキシド溶液(2−プロパノール中175g/l)とTaCl溶液(濃HCl中56g/l)を70%Ti及び30%Taのモル比で混合し、選択量のNbClを加えることによって得た前駆体溶液で被覆した。総Nbモル含有量が2、4、6、8及び10%の5種類の異なる組成物を製造した。
【0038】
各組成物につき3個の異なるサンプルを以下のように製造した。5種類の前駆体溶液を対応する基材サンプルに刷毛塗りによって適用し、次いで該基材を130℃で約5分間乾燥させ、その後515℃で5分間硬化した。この操作を5回繰り返した後、各被覆基材を515℃で3時間の最終熱処理に付した。
【0039】
各組成物につき2個のサンプルを、多重に塗ったイリジウムとタンタルの塩化物のアルコール溶液の熱分解によって、イリジウムとタンタルの酸化物の混合物からなる触媒層で最終的に被覆した(イリジウムの総装填量7g/m)。
【0040】
実施例1のSEM及びXRD特徴付けを繰り返し、類似の結果を得た。特に、SEM分析は、実施例1及び2のように、熱緻密化された混合チタン−タンタル−ニオブ酸化物からなる一次バリア層と、基材から成長し、一次バリア層由来のTi酸化物、Ta酸化物及びNb酸化物の包含物で改質された非化学量論的酸化チタンからなる二次バリア層とを含む二重バリア層が得られたことを示していた。粒子面密度は、10,000nmあたり100粒子を超えていた。
【0041】
実施例1及び2のように、SEM及びXRD特徴付けに使用されなかった被覆サンプルに対して促進寿命試験を実施した。全サンプルとも、Nb添加のない類似サンプルより少なくともわずかに長い寿命を示し、ピークの2450時間はニオブのモル含有量4%のサンプルであった。
【0042】
実施例4
グレード1のチタンの0.89mm厚発泡シートを18体積%のHCl中でエッチングし、アセトンで脱脂した。シートを5.5cm×15.25cm片にカットした。各片を電極基材として使用し、Ti−イソプロポキシド溶液(2−プロパノール中175g/l)とTaCl溶液(濃HCl中56g/l)を70%Ti及び30%Taのモル比で混合し、選択量のCeClを加えることによって得た前駆体溶液で被覆した。総Ceモル含有量が2、4、6、8及び10%の5種類の異なる組成物を製造した。
【0043】
各組成物につき3個の異なるサンプルを以下のように製造した。5種類の前駆体溶液を対応する基材サンプルに刷毛塗りによって適用し、次いで該基材を130℃で約5分間乾燥させ、その後515℃で5分間硬化した。この操作を5回繰り返した後、各被覆基材を515℃で3時間の最終熱処理に付した。
【0044】
各組成物につき2個のサンプルを、多重に塗ったイリジウムとタンタルの塩化物のアルコール溶液の熱分解によって、イリジウムとタンタルの酸化物の混合物からなる触媒層で最終的に被覆した(イリジウムの総装填量7g/m)。
【0045】
実施例1のSEM及びXRD特徴付けを繰り返し、類似の結果を得た。特に、SEM分析は、実施例1及び2のように、熱緻密化された混合チタン−タンタル−セリウム酸化物からなる一次バリア層と、基材から成長し、一次バリア層由来のTi酸化物、Ta酸化物及びCe酸化物の包含物で改質された非化学量論的酸化チタンからなる二次バリア層とを含む二重バリア層が得られたことを示していた。粒子面密度は、10,000nmあたり100粒子を超えていた。
【0046】
実施例1及び2のように、SEM及びXRD特徴付けに使用されなかった被覆サンプルに対して促進寿命試験を実施した。全サンプルとも、Ce添加のない類似サンプルより少なくともわずかに長い寿命を示し、ピークの2280時間はセリウムのモル含有量4%のサンプルであった。
【0047】
実施例3及び4は、酸化チタンと酸化タンタルを含有する混合酸化物相に対するニオブ及びセリウムの有益なドーピング効果を示していた。程度は低いが、2〜10%のモル含有量のタングステン又はストロンチウムで混合酸化物相をドーピングすることによっても類似の結果を得ることができた。
【0048】
上記の記載を本発明の制限とするつもりはない。本発明はその範囲から逸脱することなく異なる態様に従って実施でき、その範囲は専ら添付の特許請求の範囲によって定義される。
【0049】
本願の記載及び特許請求の範囲全体にわたって、“含む(comprise)”という用語並びに“comprising”及び“comprises”などのその変形は、その他の要素又は添加物の存在を排除しないものとする。
【0050】
文献、行為、材料、装置、物品などの考察は、本発明の背景を提供する目的のためだけに本明細書に含められている。これらの事項のいずれか又はすべてが先行技術の基礎の一部を形成していた、又はそれらが本願の各クレームの優先日より前に本発明の関連分野で共通の一般的知識であった、ということを示唆又は表しているのではない。[発明の態様]
[1]
電解用途用の電極であって、
− チタン又はチタン合金から製造された基材と
− 一次及び二次バリア層を含む二重バリア層であって、
前記二次バリア層は、前記基材と直接接触し、本質的に酸化タンタル及び酸化チタンの包含物で改質された非化学量論的酸化チタンからなり、前記一次バリア層は、前記二次バリア層と直接接触し、酸化チタン及び酸化タンタルを含有する熱緻密化された混合酸化物相を含む二重バリア層と、そして
− 白金族金属又はその酸化物を含む触媒層と
を含む電極。
[2]
前記一次バリア層が、10,000nm表面あたり25粒子を超える密度を有する、1に記載の電極。
[3]
前記一次バリア層が、10,000nm表面あたり80〜120粒子の密度を有する、1に記載の電極。
[4]
前記混合酸化物相におけるTi:Taのモル比が60:40〜80:20である、1〜3のいずれか1項に記載の電極。
[5]
前記一次バリア層における前記混合酸化物相がさらに、Ce、Nb、W及びSrの酸化物からなる群から選ばれる2〜10mol%のドーピング剤を含有し、前記二次バリア層がさらに、Ce、Nb、W又はSrの酸化物の包含物を含有する、4に記載の電極。
[6]
前記一次バリア層が3〜25マイクロメートルの厚さを有し、前記二次バリア層が0.5〜5マイクロメートルの厚さを有する、前記のいずれか1項に記載の電極。
[7]
前記触媒層が、酸化イリジウム及び酸化タンタルを含む、前記のいずれか1項に記載の電極。
[8]
1〜7のいずれか1項に記載の電極の表面上での酸素のアノード発生を含む電解プロセス。
[9]
電解採取、電気精錬及び電気メッキからなる群から選ばれる、1〜7のいずれか1項に記載の電極の表面上での酸素のアノード発生を含む電気冶金プロセス。
[10]
1〜7の電極の製造法であって、
− チタン又はチタン合金の基材を用意し
− 前記基材を、チタン及びタンタル種及び所望によりCe、Nb、W又はSr種を含有する前駆体溶液を前記基材に適用することによって1コート又は複数コートの混合酸化物層で被覆し、各コート毎に120〜150℃で乾燥させ、そして前記前駆体溶液を400〜600℃で5〜20分間熱分解し
− 被覆基材を400〜600℃の範囲の温度で1〜6時間、前記二重バリア層が形成されるまで熱処理に付し
− 前記触媒層を前記二重バリア層上に、白金族金属化合物を含有する溶液を1コート又は複数コート適用し、熱分解することによって形成する
ステップを含む方法。
[11]
前記前駆体溶液が、水のモル含有量1〜10%を有し、Tiアルコキシド種、所望によりTiイソプロポキシドを含有する含水アルコール溶液である、10に記載の方法。
[12]
チタン及びタンタル種を含有する前記前駆体溶液の前記熱分解ステップの後にクエンチングステップが続く、10又は11に記載の方法。
[13]
前記クエンチングステップの冷却速度が少なくとも200℃/sである、12に記載の方法。
図1
図2
図3