(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
先端に先細部が形成された棒状インサート部品に樹脂をインサート成形して前記棒状インサート部品の前記樹脂からの突出部である棒状部が形成されるインサート成形品の製造方法であって、
前記棒状インサート部品が軸方向に挿入される挿入孔が形成された第1成形型の前記挿入孔に、前記先細部の中心軸線に直交する断面において前記先細部の外周面と線状に当接する支持部を有するピン部材を配置することと、
前記挿入孔に前記棒状インサート部品を挿入し、前記先細部の外周面を前記ピン部材の前記支持部に線状に当接させ、その状態で前記棒状インサート部品に樹脂をインサート成形することによって、前記棒状インサート部品の前記棒状部の長さのバラツキを抑制することと、
を含む、インサート成形品の製造方法。
前記棒状インサート部品を前記挿入孔に挿入してから前記先細部が前記支持部に当接するまでの間に、前記挿入孔に空気の流れを形成して、前記棒状インサート部品の移動速度を調節すること、
を含む、請求項1に記載のインサート成形品の製造方法。
先端に先細部が形成された棒状インサート部品に樹脂をインサート成形して前記棒状インサート部品の前記樹脂からの突出部である棒状部が形成されるインサート成形品の製造装置であって、
前記棒状インサート部品が軸方向に挿入される挿入孔が形成された第1成形型と、
前記挿入孔に配置され、前記先細部の中心軸線に直交する断面において前記先細部の外周面と線状に当接する支持部を有するピン部材と、
を備え、
前記挿入孔に前記棒状インサート部品を挿入し、前記先細部の外周面を前記ピン部材の前記支持部に線状に当接させ、その状態で前記棒状インサート部品に樹脂をインサート成形することによって、前記棒状インサート部品の前記棒状部の長さのバラツキを抑制する、インサート成形品の製造装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、本発明の実施形態のインサート成形品の製造方法およびインサート成形品の製造装置について添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態のインサート成形品の製造方法で製造されるインサート成形品の一例を示す模式的な部分断面図である。
なお、
図1は模式図のため、寸法や形状は誇張または簡略化されている(以下の図面も同様)。
【0014】
本実施形態のインサート成形品の製造方法で製造されるインサート成形品3の例を
図1に示す。
インサート成形品3は、棒状部材1(棒状インサート部品)と、フランジ部2(樹脂)とを備える。
インサート成形品3の用途は特に限定されない。例えば、インサート成形品3は、放電電極として用いられてもよい。
【0015】
棒状部材1は、円柱状の本体部1bと、本体部1bの第1端部(
図1の図示下側の端部)から漸次縮径する外周面1aを有する先細部1Aと、を備える。
以下では、本体部1bの外径寸法はDであるとする。
【0016】
先細部1Aの外周面1aは、本体部1bの中心軸線Oを回転中心とする回転面(任意角度回転の回転対称面)である。外周面1aの形状は、第1端部から漸次縮径する形状であれば、特に限定されない。外周面1aは、例えば、円錐面でもよいし、円錐面以外の回転曲面でもよい。すなわち、外周面1aの径の変化率は、一定(円錐面の場合)でもよいし、連続的に変化したり、段階的に変化したりしてもよい。
本実施形態では、外周面1aは、一例として、円錐面である。以下では、外周面1aの頂角(中心軸線Oを含む平面と外周面1aとの2交線が挟む角)をθで表す。
【0017】
先細部1Aの先端1cの形状は、特に限定されないが、本実施形態では、外周面1aが収束する円錐の頂点である。
【0018】
棒状部材1の材質は、金属であれば特に限定されない。例えば、棒状部材1の材質は、ステンレス等の金属が用いられてもよい。
【0019】
フランジ部2は、本体部1bにおいて、上述の第1端部と反対側の第2端部の方に形成される。フランジ部2は、本体部1bの外周面を囲んで径方向外側に延びている。
図1では、フランジ部2は中心軸線Oと同軸の円柱状に描かれているが、フランジ部2の形状は、この形状には限定されない。
本体部1bは、フランジ部2を貫通していてもよいが、本実施形態では、一例として、本体部1bの第2端部が埋め込み部1Bとしてフランジ部2に埋め込まれている。
本実施形態のインサート成形品3において、棒状部材1は、先細部1Aを先端に有する棒状部として、フランジ部2の端面2aからフランジ部2の外側に突出している。
フランジ部2の端面2aは、本実施形態では、一例として、中心軸線Oに直交する平面である。端面2aから棒状部材1の先端1cまでの棒状部材1の突出長さをLで表す。
後述するように、棒状部材1の突出長さLは、主として、棒状部材1の先細部1Aの外形の製造バラツキによって変化する。
【0020】
フランジ部2の材質は、インサート成形可能な樹脂であれば特に限定されない。例えば、フランジ部2の材質は、ポリプロピレン(PP)などの樹脂が用いられてもよい。
【0021】
次に、本実施形態のインサート成形品の製造方法に用いる本実施形態のインサート成形品の製造装置について説明する。
図2は、本発明の実施形態のインサート成形品の製造装置の構成例を示す模式的な断面図である。
図3は、本発明の実施形態のインサート成形品の製造装置の構成例を示すブロック図である。
図4は、本発明の実施形態のインサート成形品の製造方法に用いるピン部材の主要部の一例を示す模式的な断面図である。
図5は、
図2におけるA部の部分拡大図である。
【0022】
図2に示す成形装置10(インサート成形品の製造装置)は、本実施形態のインサート成形品の製造方法に用いることができる製造装置の一例である。
成形装置10は、棒状部材1を棒状インサート部品としてフランジ部2を形成するインサート成形を行う。
成形装置10は、下型12(第1成形型)と、上型13(第2成形型)と、を備える。
図3に示すように、成形装置10は、さらに、駆動部18、ポンプ17、制御部16、および操作部19を備える。
【0023】
下型12は、インサート成形において棒状部材1を配置する成形型である。
上型13は、インサート成形の型締め時(二点鎖線参照)において下型12に固定され、下型12との間にフランジ部2を成形する成形空間を形成する成形型である。上型13のキャビティには、フランジ部2を成形する樹脂を射出する射出成形部(図示略)が接続されている。
下型12と上型13とは、鉛直方向において互いに対向して配置される。下型12と上型13とは、図示略のガイド支柱などによって鉛直方向に互いに相対移動可能に支持されている。
下型12および上型13のうちの可動型は、駆動部18(
図2では図示略、
図3参照)によって駆動される。下型12および上型13はいずれが可動型でもよい。例えば、上型13が固定型、下型12が可動型であってもよい。
図3に示すように、駆動部18は、後述する制御部16と通信可能に接続されており、制御部16からの制御信号に応じて可動型を移動する。
下型12および上型13は、駆動部18によって互いに協働し、インサート成形品3を成形するための型締め型開き動作を行えるようになっている。
【0024】
下型12は、
図2に示される構造を有している。ただし、
図2には、インサート成形後のキャビティからまだ取り出されていない状態のインサート成形品3も記載されている。
下型12は、本体部K1と、上本体部K2と、スリーブを介して上本体部K2に嵌合されたコアスリーブK9と、を有している。
コアスリーブK9には、棒状部材1が軸方向に挿入される挿入孔K9aが形成されている。
挿入孔K9aの内径は、棒状部材1の本体部1bの外径Dよりも、例えば、ΔDだけ大きい。このため、後述するように、棒状部材1が挿入孔K9aに挿入される場合には、挿入孔K9aとの間に、棒状部材1の全周にわたってΔD/2程度の隙間を形成することができる。
【0025】
挿入孔K9aには、エジェクタピン4(ピン部材)が下端部側から上方に向け挿入されている。
挿入孔K9aに挿入されたエジェクタピン4の下端部は、エジェクタ保持部K5によって保持される。エジェクタ保持部K5は、エジェクタピン4を後述する成形時の定位置(以下、「成形時位置」という)に位置決めして保持する。エジェクタ保持部K5は、後述するようにインサート成形品3の取り出し動作と連動してエジェクタピン4の挿入孔K9a内の位置を軸方向に沿って移動する。エジェクタ保持部K5は、成形品取り出し終了後にエジェクタピン4を成形時位置に戻す。
【0026】
図4に示すように、エジェクタピン4の上端部には、上端側から下端側に向かって、ガイド穴部4bと、穴部4aとが形成されている。
ガイド穴部4bは、上端側から下端側に向かって縮径するテーパ状(円錐面状)に形成されている。ガイド穴部4bは、外周面4cの中心軸線C4と同軸である。
ガイド穴部4bのテーパの頂角(中心軸線C4を含む平面とガイド穴部4bとの2交線が挟む角)は、φである。ガイド穴部4bの軸方向の長さをH0で表す。
頂角φは、棒状部材1の先細部1Aの頂角θよりも大きな角度である。例えば、先細部1Aの頂角θが、製造バラツキによって、θ1≦θ≦θ2の範囲に分布する場合、角度φは、角度θ2よりも大きな角度に選ばれる。
エジェクタピン4の外周面4cの外径は、挿入孔K9aの内径よりも小さく、かつ棒状部材1の外径D以下である。このため、ガイド穴部4bの上端部における開口部4fの内径もD以下である。
【0027】
穴部4aは、中心軸線C4と同軸に形成される。穴部4aの上端部には、棒状部材1の先細部1Aの外周面1aに線状に当接するため、中心軸線C4に直交する平面上の円形開口である支持部4dが形成されている。
支持部4dの内径dは、本体部1bの外径Dよりも小さい。
穴部4aの穴形状は、
図5に示すように、支持部4dに棒状部材1の先細部1Aの外周面1aが線状に当接する際に、当接部よりも先端側の先細部1Aと接触しない形状であれば特に限定されない。
本実施形態では、一例として、穴部4aは、中心軸線C4に沿って延びる内径dの円穴で構成される。穴部4aの長さは、先細部1Aにおいて、半径d以下となる部位の長さよりも長い。
例えば、穴部4aの他の形状の例としては、支持部4dから穴底に向かって頂角θ1未満で縮径するテーパ穴でもよい。
【0028】
支持部4dの内径dの大きさは、後述する挿入、成形、脱型の各動作において支持部4dに当接する先細部1Aが受けるおそれのある外力によっても、先細部1Aが破損しない程度の大きさとする。
支持部4dの内径dは、本実施形態では、ガイド穴部4bの下端部の内径と一致している。このため、ガイド穴部4bと穴部4aとは、支持部4dを境界として連続している。
支持部4dは、ガイド穴部4bと穴部4aとが交差して構成される円状のエッジ部である。
【0029】
図3に示すように、ポンプ17は、後述する制御部16と通信可能に接続される。ポンプ17は、制御部16からの制御信号に応じて、空気吸引のための負圧または空気吐出のための正圧を選択的に発生する。図示略のポンプ17の配管は、挿入孔K9aに連通している。
ポンプ17は、挿入孔K9a内に空気を吐出して挿入孔K9a内を正圧にしたり、挿入孔K9aから空気を吸引して、挿入孔K9a内を負圧にしたりすることができる。
【0030】
図3に示すように、制御部16には、操作入力を行う操作部19と、上述のポンプ17、および駆動部18とが接続されている。
制御部16は、操作部19を介した操作入力に基づいて、成形装置10の動作を制御する。制御部16による制御の詳細は、後述する成形装置10の動作とともに説明する。
【0031】
本実施形態のインサート成形品の製造方法について、成形装置10を用いて行う例で説明する。
図6は、本発明の実施形態のインサート成形品の製造方法の動作フローの例を示すフローチャートである。
図7(a)、(b)、(c)は、本発明の実施形態のインサート成形品の製造方法の動作説明図である。
【0032】
本実施形態のインサート成形品の製造方法によって、インサート成形品3を製造するには、
図6に示すステップS1〜S4を実行する。
ステップS1では、エジェクタ保持部K5によって、ピン部材であるエジェクタピン4が、第1成形型である下型12の挿入孔K9aにおける成形時位置に配置される。
エジェクタピン4は、ガイド穴部4bおよび穴部4aを上側に向けて挿入孔K9aの下側から、挿入孔K9aに挿入されている。エジェクタピン4の中心軸線C4は、挿入孔K9aの中心軸線CK9と同軸になる。
【0033】
本ステップにおけるエジェクタピン4の成形時位置は、エジェクタ保持部K5により変更することができる。
図7(a)に示すように、エジェクタピン4の成形時位置は、コアスリーブK9の上端面K9bとエジェクタピン4の支持部4dとの距離が一定値hになるようにする。ここで、上端面K9bは、フランジ部2における端面2aの成形面である。
距離hは、先細部1Aの形状が設計中央値になっている棒状部材1をエジェクタピン4の支持部4dで支持したときに、上端面K9bから棒状部材1の先端1cまでの距離が、棒状部材1の突出長さLの設計中央値L0になる寸法である。
距離hは、下記式(1)のように表せる。
【0035】
ここで、dは上述した支持部4dの内径、θ0は先細部1Aの頂角の設計中央値である。
エジェクタピン4の成形時位置は、形状の公称値が同一のインサート成形品3を製造する間は、変える必要はない。
以上で、ステップS1が終了する。
【0036】
ステップS1の後、ステップS2を行う。ステップS2では、棒状インサート部品である棒状部材1をエジェクタピン4で位置決めする。
本ステップでは、まず、
図7(a)に示すように、棒状部材1が挿入孔K9a上に保持される。
このとき、棒状部材1は、その中心軸線Oが挿入孔K9aの中心軸線CK9と略同軸(同軸の場合を含む)となるように保持される。
ここで、略同軸の範囲は、棒状部材1を落下させる場合に、棒状部材1の先細部1Aを挿入孔K9aの内部に円滑に挿入できるような範囲として予め決めておく。
棒状部材1の高さは、先端1cと上端面K9bとの間の距離が所定の距離h1(ただし、h1>0)になる高さである。
【0037】
棒状部材1の保持手段は、特に限定されない。例えば、本実施形態では、棒状部材1は保持部20によって保持される。
保持部20は、棒状部材1の埋め込み部1B側の端部を空気圧によって保持または放出する空気圧着脱機構と、空気圧着脱機構の下型12に対する位置を水平面内および鉛直方向に移動する移動機構と、を備える。
保持部20は、作業者が直接的に操作できる構成でもよいし、制御部16と通信可能に接続され、制御部16からの制御信号によって動作制御が行われる構成でもよい。
【0038】
作業者は、棒状部材1が挿入孔K9aの中心軸線CK9上に位置合わせされるまでの間に、ポンプ17を動作させる。ポンプ17が動作すると、予め決められた流量の空気が挿入孔K9a内に吐出される。
図7(b)に示すように、この状態で、保持部20から棒状部材1が放出される。
この放出は、保持部20による空気吸引を停止することによって行ってもよいし、保持部20による空気吸引を空気吐出に切り換えて行ってもよい。空気吸引を停止する場合には、棒状部材1は自重によって初速度0で自由落下する。空気吐出を行う場合には、棒状部材1は下方に付勢され、空気吐出による鉛直下方に向く付勢力と自重による重力との合力によって鉛直下方に放出される。空気吐出を行う場合には、棒状部材1の放出をより確実に行える。
【0039】
棒状部材1の先細部1Aが挿入孔K9aの近傍に達すると、挿入孔K9a内に吐出される空気による抵抗をうけて、棒状部材1の落下速度が変化する。
図7(c)に示すように、先細部1A全体が挿入孔K9a内に進入すると、挿入孔K9a内の空気は、本体部1bと挿入孔K9aとの間の隙間Sを通して、挿入孔K9aの上方に流出する(図示矢印参照)。
隙間Sからの空気の流出に伴って、隙間Sの大きさが周方向に均等化し、棒状部材1は挿入孔K9aの中心に移動して、自ずと芯出しされる(いわゆる自動調芯)。
【0040】
棒状部材1がさらに落下すると、先細部1Aがエジェクタピン4のガイド穴部4bの内部に進入する。ガイド穴部4bのテーパの頂角φは、先細部1Aの頂角θの最大値θ2よりも大きい。このため、先細部1Aは、開口部4fによって係止されることはなく、ガイド穴部4bの内側に移動できる。
【0041】
隙間Sの最大値ΔDが支持部4dの内径dより大きい場合であって、万一、自動調芯がうまくいかないときには、先細部1Aの先端1cの径方向の位置が、支持部4dの外側になる可能性がある。しかし、本実施形態では、棒状部材1が偏芯した場合でも、支持部4dよりも先端側にガイド穴部4bが形成されている。この結果、偏芯した先端1cは、ガイド穴部4bに接触する。この結果、先端1cは、ガイド穴部4bの傾斜に沿って案内されて、支持部4d内に円滑に進入することができる。
【0042】
先細部1Aの外周面1aが支持部4dに当接すると棒状部材1の落下が停止する。
このとき、
図5に示すように、支持部4dは、全周にわたって、外周面1aと線状に当接する(線接触する)。このため、棒状部材1の中心軸線Oは、中心軸線C4、CK9と同軸に配置される。
このようにして、棒状部材1は、エジェクタピン4によって、挿入孔K9a内で、挿入孔K9aの軸方向に沿う位置が位置決めされる。
棒状部材1は、挿入孔K9aの内部に、挿入される長さが略L0になっている。本体部1bの第2端部は、埋め込み部1Bとなる部位が、挿入孔K9a上に突出している。
以上で、ステップS2が終了する。
【0043】
本ステップでは、ポンプ17によって挿入孔K9a内の空気吐出量を調節すると、棒状部材1に作用する空気抵抗が変化するため、棒状部材1の落下速度を調節することができる。
棒状部材1の落下速度は、棒状部材1の質量、棒状部材1の挿入孔K9aへの進入初速度、隙間Sの流路面積、棒状部材1の先細部1Aの形状およびポンプ17による空気吐出量に依存する空気抵抗などの条件によって変化する。これらの条件のうち、進入初速度は棒状部材1の質量と距離h1とが一定のため、棒状部材1の放出時に保持部20の空気圧によって制御される。先細部1Aの形状が一定であるため、棒状部材1が受ける空気抵抗は、ポンプ17による挿入孔K9a内の空気流量によって制御される。
このため、棒状部材1の落下速度は必要に応じて変化させることができる。
例えば、棒状部材1の落下速度を、エジェクタピン4に近づくにつれて、減速することで、外周面1aと支持部4dとの当接時の落下速度を、外周面1aが塑性変形したり破損したりしない大きさにすることができる。
また例えば、棒状部材1の放出時の速度を増加したり、ポンプ17の空気吐出量を低減したりすることで、棒状部材1が自由落下する場合に比べてより短時間で、棒状部材1の位置決めを行うことができる。この場合、ステップS2の工程時間を短縮することができ、生産性を向上できる。
例えば、先細部1Aが支持部4dに略当接するタイミングで、ポンプ17によって空気吸引を行ってもよい。この場合、空気吸引によって、先細部1Aが、エジェクタピン4側に付勢されるため、外周面1aをより確実に支持部4dと接触させることができる。
【0044】
ステップS2の後、ステップS3を行う。ステップS3では、下型12に第2成形型である上型13を固定してインサート成形を行う。
作業者は、操作部19から操作入力することにより、制御部16を介して駆動部18を駆動する。駆動部18は、下型12と上型13との間の型締め動作を行う(
図2参照)。これによって、上型13が下型12に密着して固定される。コアスリーブK9から突出した棒状部材1の周囲には、フランジ部2を成形する成形空間が形成される。
型締め動作が終了したら、作業者は、射出成形部から成形空間に樹脂を射出させる。これにより、インサート成形が行われる。
成形空間に射出された樹脂が硬化すると、成形装置10内にインサート成形品3が形成される。
以上で、ステップS3が終了する。
【0045】
ステップS3の後、ステップS4を行う。ステップS4では、成形装置10内に形成されたインサート成形品3を脱型する。
作業者は、操作部19から操作入力することにより、制御部16を介して駆動部18およびポンプ17を駆動する。
駆動部18は、下型12と上型13との間の型開き動作を行う。
型開き動作には、下型12および上型13を鉛直方向に離間させる動作と、エジェクタ保持部K5によってコアスリーブK9に対してエジェクタピン4を相対移動してインサート成形品3の棒状部材1をエジェクトする動作と、ポンプ17から挿入孔K9a内に空気を吐出する動作とが含まれる。
これらの動作は、一部または全部が同時並行的に実行されてもよい。
ポンプ17から挿入孔K9a内に空気が吐出されると、棒状部材1と挿入孔K9aとの間の隙間Sにおける空気圧が増大し、端面2aと挿入孔K9aとが離間すると、それらの間の隙間から空気が流出する。流出する空気は、インサート成形品3のフランジ部2の端面2aを付勢するため、エジェクタピン4によるエジェクト力を低減することができる。このため、空気の付勢力に応じて、エジェクト時に発生する先細部1Aと支持部4dとの間の接触力を低減することができる。この結果、支持部4dが先細部1Aに線接触した状態でも、接触部位におけるエジェクト時の応力集中を抑制することができる。
フランジ部2が、上端面K9bから離間したらインサート成形品3を下型12の外部に取り出す。その後、所定の手順によりゲートカット等の後処理が行われる。
以上で、ステップS4が終了し、本実施形態のインサート成形品の製造方法も終了する。
【0046】
本実施形態のインサート成形品の製造方法の作用について説明する。
図8(a)、(b)は、本発明の実施形態のインサート成形品の製造方法の作用を説明する模式図である。
図9(a)、(b)は、比較例の作用を説明する模式図である。
【0047】
図8(a)、(b)を参照して、本実施形態のインサート成形品の製造方法で製造したインサート成形品3における棒状部材1の突出長さLのバラツキについて説明する。
一方、先細部1Aの頂角θは、例えば、θ1(=θ0−δθ)以上、θ2(=θ0+δθ)以下の範囲でばらつく。ここで、2・δθは、頂角θの許容される誤差幅である。
図8(a)は、頂角θ1の先細部1Aがエジェクタピン4によって位置決めされた様子を示す。この場合の支持部4dと先端1cとの間の距離はH1とする。
図8(b)は、頂角θ2の先細部1Aがエジェクタピン4によって位置決めされた様子を示す。この場合の支持部4dと先端1cとの間の距離はH2とする。
H1、H2は、下記式(2)、(3)で表される。
【0049】
上記式(2)、(3)において、θ2>θ1であるため、H2<H1となる。
図8(b)における符号1c’は、頂角θ1の棒状部材1の先端1cの位置を示す。
このため、インサート成形品3における棒状部の長さLは、L0−Δ/2≦L≦L0+Δ/2になる。ここで、Δ=H2−H1である。
本実施形態では、ガイド穴部4bの頂角φが、先細部1Aの頂角の最大値θ2より大きいため、棒状部の長さLのバラツキは、Δの範囲に収まる。
【0050】
ここで、
図9(a)、(b)に示す比較例のエジェクタピン40の場合について検討する。エジェクタピン40は、上記実施形態のエジェクタピン4のガイド穴部4bに代えてガイド穴部40bを備える。ガイド穴部40bは、テーパの頂角がφ1(ただし、φ1<θ2<φ)である点がガイド穴部4bと異なる。ガイド穴部40bの軸方向の長さは、ガイド穴部4bと同様H0とする。
このため、ガイド穴部40bの開口部40fの内径は、d+2・H0・tan(φ1/2)で表される。
【0051】
図9(a)に示すように、先細部1Aの頂角がθ1の場合、先細部1Aは、支持部4dに当接して位置決めされる。この場合、本実施形態と同様、支持部4dと先端1cとの間の距離はH1である。
図9(b)に示すように、先細部1Aの頂角がθ2の場合、φ1<θ2であることによって、先細部1Aは、支持部4dに当接することなく、開口部40fに当接して位置決めされる。この場合、支持部4dと先端1cとの間の距離をH4とすると、H4は、下記式(4)で表される。
【0053】
ここで、φ1/2<θ2/2<π/2であるから、上記式(4)のかっこ内は、常に負になり、H4<H2である。このため、Δ’=H4−H1とすると、Δ’>Δとなる。
したがって、比較例のエジェクタピン40によって位置決めすると、インサート成形品3の棒状部の長さLのバラツキが、本実施形態のエジェクタピン4を用いる場合に比べて確実に増大してしまうことが分かる。
【0054】
本実施形態のインサート成形品の製造方法によれば、成形装置10においてエジェクタピン4を用いるため、支持部4dが外周面1aに線状に当接して棒状部材1の位置決めを行うことができる。その際、先細部1Aの製作誤差によって、頂角θが所定範囲でばらついても、常に支持部4dで位置決めできるため、インサート成形品3において、フランジ部2から突出する棒状部材1の長さのバラツキを抑制することができる。
さらに、先端1cがエジェクタピン4に接触しない状態で、インサート成形を行うことができるため、先細部1Aの先端1cおよびその近傍が塑性変形したり欠けたりすることを防止できる。
【0055】
さらに、本実施形態によれば、棒状部材1を位置決めする際、ポンプ17によって、挿入孔K9a内に空気の流れを形成することによって、棒状部材1の移動速度を調節することができる。このため、先細部1Aの位置決め時に先細部1Aに加わる衝撃力を低減することができる。また、棒状部材1の移動速度を速めて工程時間を短縮することができる。
【0056】
なお、上記実施形態の説明では、ピン部材がインサート部品をエジェクトするエジェクタである場合の例で説明したが、ピン部材は、軸状インサート部品を位置決めする支持部を有していればよく、エジェクタには限定されない。
【0057】
上記実施形態の説明では、棒状部材1の埋め込み部1Bが本体部1bと同様の円柱状の場合の例で説明したが、埋め込み部1Bの形状は、円柱状には限定されない。例えば、埋め込み部1Bの表面には、凹凸部や段部などが設けられてもよい。
【0058】
上記実施形態の説明では、ピン部材において支持部よりも先端側に、テーパ状のガイド穴部が形成される場合の例で説明したが、先細部が支持部に当接することを妨げない形状であれば、テーパ状以外のガイド穴部が形成されていてもよい。
さらに、先端部の端部が確実に支持部の内側に挿入できる場合には、ガイド穴部自体が削除されてもよい。
【0059】
上記実施形態の説明では、先細部1Aの外周面1aが円錐面の場合の例で説明したが、先細部1Aが円錐面以外の場合には、外周面1aがガイド穴部4bのいずれの部位にも係止されることなく支持部4dに当接することができるように、ガイド穴部4bの形状を選べばよい。
【0060】
上記実施形態の説明では、軸状インサート部品を第1成形型の挿入孔に挿入する際に、挿入孔内に空気の流れを形成する場合の例で説明したが、軸状インサート部品の移動速度を調節する必要がない場合には、空気の流れを形成しなくてもよい。
【0061】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明はこれら実施形態及びその変形例に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
また、本発明は前述した説明によって限定されることはなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。