特許第6152153号(P6152153)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6152153生体組織がスパーク発生電気手術器具による作用を受けるときの金属検知装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6152153
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】生体組織がスパーク発生電気手術器具による作用を受けるときの金属検知装置
(51)【国際特許分類】
   G01V 3/06 20060101AFI20170612BHJP
   A61B 18/12 20060101ALI20170612BHJP
【FI】
   G01V3/06
   A61B18/12
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-199481(P2015-199481)
(22)【出願日】2015年10月7日
(65)【公開番号】特開2016-85210(P2016-85210A)
(43)【公開日】2016年5月19日
【審査請求日】2016年1月19日
(31)【優先権主張番号】14190155.3
(32)【優先日】2014年10月23日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】592245823
【氏名又は名称】エルベ エレクトロメディジン ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Erbe Elektromedizin GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】サンドラ・ケラー
【審査官】 福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−520081(JP,A)
【文献】 特開平08−196543(JP,A)
【文献】 特開平09−154850(JP,A)
【文献】 特開2006−289061(JP,A)
【文献】 特表2010−534527(JP,A)
【文献】 特開2012−125571(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0215213(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 3/06
A61B 18/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織(11)がスパーク発生電気手術器具(10)による作用を受けるときの金属検知装置であって、
前記器具(10)を動作させる電源装置(26)が出力する電圧(u)を測定し、かつ、当該電源装置(26)から前記器具(10)に供給される電流(i)を測定する測定部(23)と、
前記電流(i)および前記電圧(u)に基づいて、前記器具(10)から発生するスパーク(18)が生体組織(11)に接触したのか、または、金属部分(19)に接触したのかを判断する金属検知部(22)とを備え
前記金属検知部(22)は、
組織抵抗(R)に応じた抵抗特性変数(R)と、スパークサイズに応じたスパーク特性変数(Frel)とを決定する分析部(24)と、
前記抵抗特性変数(R)を抵抗閾値(R)と比較し、かつ、前記スパーク特性変数(Frel)をスパークサイズ閾値(F)と比較する比較部(34)とを備え、
前記抵抗特性変数(R)が前記抵抗閾値(R)を下回り、かつ、前記スパーク特性変数(Frel)が前記スパークサイズ閾値(F)を上回る場合に、前記比較部(34)は、前記器具(10)から発生するスパーク(18)が金属に接触したことを示し、
前記分析部(24)は、
前記器具(10)と前記スパーク(18)と前記生体組織(11)とに対して等価な線形等価回路(31)を有し、
前記電流(i)実測値および前記電圧(u)実測値から、前記線形等価回路(31)の要素の値を決定し、
前記線形等価回路(31)は、前記電圧(u)を入力として電流計算値(isim)を求め、前記電流計算値(isim)と前記電流(i)との差分である電流誤差(i)を算出し、前記電流誤差(i)の実効値(Feff)を算出し、
前記抵抗特性変数(R)は、前記電流(i)の特性値と前記電圧(u)の特性値との商として与えられ、
前記スパーク特性変数(Frel)は、前記実効値(Feff)と前記電流(i)の実効値(ieff)との比である
金属検知装置。
【請求項2】
前記電源装置(26)は、高周波電源である
請求項1に記載の金属検知装置。
【請求項3】
前記測定部(23)は、電流(i)および電圧(u)の特性値(Ki、Ku)を少なくとも1個連続的に決定する
請求項1または2に記載の金属検知装置。
【請求項4】
電流(i)および電圧(u)の前記特性値(Ki、Ku)は、瞬時値(i(t)、u(t))、最大値(ipeak、upeak)、平均値(imean、umean)、または、実効値(ieff、ueff)である
請求項に記載の金属検知装置。
【請求項5】
前記測定部(23)は、電流(i)および電圧(u)によって定まる力率(cosΦ)を決定する
請求項1〜のいずれか1項に記載の金属検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電させる電気手術器具による作用を生体組織が受ける際に、生体組織内の異物、特に、金属異物を検知する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織に作用するために流体媒体内で行われる放電を利用する電気手術器具は、原理的に知られている。このような器具は、例えば、アルゴン雰囲気中またはプラズマジェット中でスパーク燃焼させるアルゴンプラズマ凝固器具や、スパーク発生メスなどを備える。また、非導電性液(Purisole(登録商標))または導電性液(生理食塩水)中において、液体が蒸発してその蒸気中で組織またはさらに電極構造に対してスパークするように当該液を加熱する単極切除器具および双極切除器具が知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
アルゴンプラズマ凝固器具を扱う際には、異物、特に金属異物が生体組織内に存在しないことに特に注意を払わなければならない。これら異物とは、例えば、過去に患者に埋め込まれていたり、現在の処置中に埋め込まれたステントまたは他の金属部分のことである。スパークまたはプラズマが意図的ではなく、生体組織内のステント、金属クランプ、または、他の金属体に作用してしまうと、金属部分の損傷を引き起こす可能性があり、当該金属部分はその機能を失ってしまう可能性がある。また、例えば、熱伝導が原因で、周辺組織も不必要に損傷を受けるかもしれない。
【0004】
一方、例えば、ステントを短くするために、または、ある外科的処置を行うために、スパークまたはプラズマが金属異物に作用することが望ましい場合もある。例えば、電気手術器具のスパークまたはプラズマジェットによって選択的に加熱させて血管凝固可能な解剖用ピンセットを用いて、出血している血管を凝固させる場合などである。
【0005】
また、TURにおいて単極切除ループおよび双極切除ループを利用する場合は、切除ループと切除用内視鏡との間の距離が短すぎて金属製の切除用内視鏡へ意図的ではなくスパークしてしまうことが知られている。この望ましくないスパークにより、金属製の切除用内視鏡に電流が流れる。そして、切除用内視鏡は生体組織に接触しているので、望ましくない凝固影響を組織に与えることになる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
したがって、本発明の目的は、スパーク発生電気器具の金属への作用が生体組織への作用と区別できる概念を生み出すことである。
【0007】
この目的は、請求項1に係る装置を用いて達成される。
【0008】
本発明に係る装置は、電気手術器具に属するものでもよいし、その一部でもよい。同様に、当該装置は、器具に給電することを目的とした電源装置に属するものでもよいし、そのような電源装置の一部でもよい。あるいは、当該装置は、電源装置と電気手術器具との間に別個のモジュールとして設けられてもよい。
【0009】
当該装置は、器具を動作させる電源装置が出力する電圧を測定し、かつ、電源装置から器具に供給される電流を測定する測定部を含む。電源装置の内部抵抗が小さいか、または、ゼロであって、かつ、出力電圧が周知であれば、電圧測定を省略することが可能であり、電流を測定することで事足りる。電流(電圧)は、連続的に測定されてもよいし、断続的に、例えば、短い間隔で測定されてもよい。電圧および電流は、短い間隔で、測定されることが好ましい。電気手術器具に給電するために、電源装置が交流電圧、好ましくは、高周波交流電圧を供給する場合、その間隔は、電圧または電流の周期長の半分より短いことが好ましい。電圧または電流を測定する際は、電圧および電流の適切な特性値を少なくとも1個測定する。このような特性値は、瞬時値、最大値、平均値、実効値、または、特性を示すのに適した他の値でもよい。
【0010】
当該装置に属する金属検知部は、電流に基づいて、また、電圧に基づいて、つまり、結局は、電流の1以上の特性値、および、電圧の1以上の特性値に基づいて、器具から発生するスパークが生体組織に接触したのか、または、金属部分に接触したのかを判断する。
【0011】
当該装置により、ユーザは、視界条件が悪かったとしても、スパークまたはプラズマが金属部分に作用したときをタイミングよく確実に特定できる。プラズマまたはスパークによる金属接触をユーザが特定できるよう、触覚信号、光信号、または、音声信号などをユーザに出力するために、金属検知部をシグナリング装置に接続してもよい。また、金属検知部で生成された信号を用いて、電源装置をオフにすること、または、別の方法で電源装置を制御することも可能である。例えば、金属を検知した場合には、電源装置の出力を下げて、望ましくない生体影響を回避してもよい。一方、金属に作用することが望ましい場合には、信号を用いて電源装置をオフにしないことができるが、スパークまたはプラズマを利用して金属切断の助けとなるよう、スパークまたはプラズマの金属接触を特定した際に電源装置の出力を増加させる。
【0012】
金属検知部は、抵抗特性変数とスパーク特性変数とを決定する分析部を含んでもよい。抵抗特性変数は、組織抵抗に応じた値である。スパーク特性変数は、スパークサイズに応じた変数であることが好ましい。両方の特性変数、つまり、抵抗特性変数およびスパーク特性変数を対応する閾値と比較して、この比較結果から有意な信号を生成してもよい。そして、電気抵抗特性変数、つまり、抵抗特性値が抵抗閾値を下回り、かつ、スパーク特性変数、つまり、スパーク特性値がスパークサイズ閾値を上回る場合に、プラズマまたはスパークによる金属接触が信号伝達されることが好ましい。その他の状況は、以下のような他の組み合わせ全てと関連付けられる。
【0013】
抵抗特性値が抵抗閾値を下回り、かつ、スパーク特性変数がスパークサイズ閾値より小さい場合、器具の電極と組織とは直接接している。
【0014】
抵抗特性変数が抵抗閾値より大きく、スパークサイズがスパークサイズ閾値を下回る場合、スパークまたは空気中へのスパーク放出はない。
【0015】
抵抗特性変数が抵抗閾値より大きく、かつ、スパーク特性変数がスパークサイズ閾値より大きい場合、スパークまたはプラズマは金属接触せずに組織に影響を及ぼす。
【0016】
抵抗特性変数およびスパーク特性変数を計算、つまり決定するために、適切な方法全てを用いることができる。例として、抵抗特性変数を、電気抵抗の線形成分と定めてもよい。この線形成分は、測定電流の特性値と測定電圧の特性値との商として与えられる。特に、電流と電圧の実効値からこの商を求め、そして、力率を乗じることにより、抵抗特性変数を求める。この抵抗特性変数には、組織抵抗だけでなく、さらなる成分、例えば、器具の給電配線の配線抵抗、および、該当すればスパークからの線形抵抗成分なども含まれる。しかしながら、このように決定される抵抗特性変数は、組織抵抗にふさわしい尺度である。
【0017】
スパークによって形成される非線形抵抗まで降下する電流の非線形成分を決定して、スパーク特性変数を決定してもよい。つまり、分析部は、電流iの非線形成分に基づいて、スパーク特性変数Frelを決定してもよい。具体的には、分析部は、電流iの非線形成分に対する推定値を決定する。このために、分析部は、線形等価回路と測定電圧(または対応する電圧特性値)とに基づいて、関連電流isim(t)を計算してもよい。電流計算値isim(t)と電流実測値i(t)との差分i(t)は、スパークの非線形性によって生じる電流の特性を示す。つまり、分析部は、線形等価回路に基づいた電流計算値isim(t)から電流i実測値のずれに基づいて、電流iの非線形成分に対する推定値を決定する。この差分i(t)の実効値Feffと電流実測値i(t)の実効値ieffとの比をスパーク特性変数Frelとして用いてもよい。このように、分析部は、電流i実測値および電圧u実測値から、線形等価回路の要素を決定する。
【0018】
抵抗特性変数と抵抗閾値との比較、および、スパーク特性変数とスパークサイズ閾値との比較の代わりに、急な経時変化に対する抵抗特性変数とスパーク特性変数とを調べることも可能である。スパーク特性変数の増加勾配dFrel/dtおよび抵抗特性変数の増加勾配dR/dtがある制限値を超えた場合には、同様に、金属接触と判定できる。
【0019】
本発明の実施形態の詳細は、図面、請求項、および、特に明細書から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、生体組織へ作用する際に電源装置から給電されるスパーク発生電気手術器具の概略図である。
図2図2は、器具の電源装置の構成要素と生体組織との回路図である。
図3図3は、金属検知装置のブロック図である。
図4図4は、図3における装置の等価回路である。
図5図5は、図3における装置の等価回路である。
図6図6は、抵抗閾値およびスパークサイズ閾値に基づく金属検知のフローチャートである。
図7図7は、抵抗特性変数およびスパーク特性変数の経時変化に基づく金属検知のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、電気手術器具10を用いて生体組織11に処置が行われる使用状況を概略的に示したものである。このために、当該器具10は、装置12から電流供給される。装置12が出力する電圧uおよび器具10に供給される電流iは、周波数が数100kHz、例えば、350kHzである周期的な変数であることが好ましい。本発明は、これに限定されないが、特に、単極の用途に適している。したがって、第1配線13が装置12から器具10につながっている。第2配線14は、装置12から、組織11の損傷していない表面、特に、患者の皮膚に取り付けられた大型中性極15につながっている。
【0022】
器具10は、生体組織11へ電流が流れる始点となる電極17を少なくとも1個有する。実際の状況に応じて、電流は、組織に直接触れることによって流れることもあるし、電極17と生体組織11との間で発生するスパーク18を介して流れることもある。なお、対象となる用途に応じて、スパーク18は、空気、および/または、水蒸気、および/または、Purisole(登録商標)や生理食塩水などの液体の気化ガス、および/または、窒素、二酸化炭素、または、特にアルゴンなどの希ガスといったその他のガスを含んだ空間を通過してもよい。存在するガスもしくは混合ガスまたは蒸気は、スパーク18範囲でイオン化してプラズマとなり、スパーク18が生体組織11と接触してそこに電流が流れる。
【0023】
生体組織11は、電気伝導性の異物、特に、食道などの中空管状器官21を広げたままにするステント20(図1)といった金属部分19を含んでもよい。さらに、金属部分19は、クランプ、ねじ、板、配線、または、患者の体に入れられたその他の部品でもよい。
【0024】
生体組織11を処置する際に、スパーク18を金属部分19に接触させてもよい。このような接触は、制御されていないところでは決して起こすべきでない。これは、例えば、ステントを短くするために金属部分を選択的に加熱または切断する、または、例えば、ピンセット間で組織を凝固させるために手術用ピンセットを加熱するには望ましいことであろう。しかしながら、例えば、金属部分19の加熱が、金属部分19の破損を引き起こし、また、周辺生体組織の損傷にもつながる場合には望ましいことではない。利用領域が見えづらく、いかにしてもいいタイミングでユーザが金属部分を検知することが難しい場合もある。特に、スパーク18が金属部分19に接触するのはあっという間で、いかにしても検知するのは難しい。
【0025】
スパーク18による金属接触を検知するために、図2に示すような金属検知部22が設けられる。この金属検知部22は、装置12の一部または器具10の一部であってもよいし、中間モジュールとして構成されてもよい。このような中間モジュールは、配線13、14の代わりに装置12に接続されるものであり、当該配線13、14は中間モジュールに取り付けられる。
【0026】
測定部23は、金属検知部22に属してもよく、器具10に出力される電圧uと器具10に供給される電流iとを測定する。また、測定部23は、電流iおよび電圧uによって定まる力率cosφを決定する。ここでは、少なくとも1つの電圧特性値Kuと、少なくとも1つの電流特性値Kiとを測定する。このような電流特性値Kiは、実効値ieff、平均値imean、最大値ipeak、または、瞬時値i(t)でもよいし、特性を示すのに適したその他の値でもよい。このような特性値は、連続的に測定されるか、サンプリング手法で測定される。瞬時値をサンプリングする場合、電流の周波数の2倍以上でサンプリングすることが好ましい(例えば、700kHz以上)。瞬時値u(t)、最大値upeak、平均値umean、実効値ueff、または、特性を示すのに適したその他の値は、電圧に対する特性値Kuとして同様に測定されてもよい。測定は、連続的または周期的に行われる。瞬時値をサンプリングする場合、電圧の周波数の2倍以上でサンプリングすることが好ましい。上記および下記において、「電流測定」または「電圧測定」と述べる場合は、説明した、電流または電圧の対応特性値の測定のことを指す。
【0027】
電圧および電流の測定された特性値Ku、Kiは、測定部23から分析部24に伝達される。分析部24は、電流および電圧の特性変数に基づいて、スパーク18が組織11に接触したのか、または、金属部分19に接触したのかを識別する。
【0028】
分析部24は、電源装置26の制御部25に後段で接続する。当該電源装置26は、図2に概略図示されており、高周波電気エネルギーを器具10に供給する。電源装置26は、通常、制御部25の他に、電源27と、当該電源27に接続された、共振回路29と無電位高周波デカップリングコイル30とを有する電力発振器28とを備える。制御部25は、電源装置26の動作を制御、つまり、電源装置26を起動および停止させ、電圧、電流、出力、波高率のうち少なくとも1つを規定する。制御部25は、操作部材(詳細な図示なし)とやりとりしてもよい。この操作部材は、装置12および器具10の少なくとも一方におけるスイッチまたは設定部として、および/または、さらに別個のスイッチまたは入力部として形成される。
【0029】
電流測定値と電圧測定値とに基づいて、スパーク18が組織11に接触したのか、または、金属部分19に接触したのかを検知するために、分析部24は、少なくとも2つの特性変数、具体的には、スパーク特性変数Frelと抵抗特性変数Rとを決定するように構成される。スパーク特性変数Frelとして、スパーク18のサイズおよび強度の少なくとも一方の特性を示す特性変数を選択することが好ましい。例として、器具10と、スパーク18と、生体組織11とで形成される電気回路網の非線形性の特性を示す特性変数を、スパーク特性変数Frelとして用いる。このように形成された電気回路網は、簡略化して図2に示されている。この回路網には、配線13、14のオーミック抵抗RKabelと、インダクタンスLKabelと、配線13、14間で測定される容量Cと、組織抵抗RG1またはRG2とが含まれる。組織抵抗RG1は、スパーク18が組織に接触した場合の生体組織抵抗値である。組織抵抗RG2は、スパーク18が金属部分19に接触した場合の、金属部分19の電流分布による、通常、より小さい組織抵抗値である。また、電気回路網には、スパーク18の非線形抵抗も含まれる。
【0030】
分析部24は、図3に示すような、内部等価回路31、つまり、電気回路網の内部回路網モデル31を有してもよい。回路網モデル31は、図2に従って実際に設けられる回路網を簡略化して表したものでもよく、生じるインダクタンスと容量と抵抗とを組み合わせて要素R、L、および、Cとする。回路網がその時点で、主に誘導的なのか、それとも、主に容量的なのかに応じて、回路網モデル31の代わりに図4または図5における簡易回路網モデル31aまたは31bを選択してもよい。この選択は、分析部24によって行われ、電流iが電圧uに対して遅れているか進んでいるかに基づいて判断されてもよい。
【0031】
分析部24は、回路網モデル31、31a、31bの要素L、R、Cの値をまず決定するように設計される。このために、要素L、R、Cの値は、回路網モデル31、31a、31bで数学的に得られる電流値および電圧値ができるだけ電流実測値および電圧実測値と合うように、例えば、回帰計算の範囲内の値とされるか、または、最小二乗法を用いて求められる。オーミック配線抵抗RKabelは、概ね1オームより小さいので、微々たるものである。したがって、図4または図5における回路網モデル31a、31bによる抵抗値Rは、組織抵抗値に相当する。線形回路網モデルと一致しない電流iの成分と電圧uの成分は、スパーク18の非線形抵抗値Fに割り当てられる。要素L、R、Cの値は、起動開始時、または、周期的もしくは連続的に決定されてもよい。
【0032】
図3に示すように、スパーク特性変数Frelは、実電流値i(t)と線形回路網によって求まる電流値isim(t)とから決定してもよい。このために、図3には、電流実測値i(t)および電圧実測値u(t)の処理を説明するためのブロックが複数示されている。これらのブロックは、プログラムコードまたは別の方法で実現されてもよい。ブロックの機能配置は単なる例であり、異なっていてもかまわない。
【0033】
ブロック32は、散発的、周期的、または、連続的に、図3図4、または、図5における回路網モデル31の要素R、L、および/または、Cを決定する。そして、回路網モデル31は、電圧実測値u(t)を入力として、電流値isim(t)を求め、電流実測値i(t)から差分i(t)を算出して、i(t)から実効値Feffを算出する。特に、スパーク18が発生した場合、電流値isim(t)は、測定された電流i(t)の実効値ieffと一致しない。
【0034】
電流誤差i(t)は、高周波外科用途向けに図4または図5における等価回路から算出された対象電流isim(t)と、高周波適用中に測定された高周波電流i(t)との差分として算出される。
【0035】
(t)=isim(t)−i(t)
【0036】
ブロック32は、電流誤差i(t)として、電流シミュレーション値isim(t)の電流実測値i(t)からのずれを算出する。あるいは、i(t)は、対象電流isim(t)の瞬時値と実電流i(t)の瞬時値とに基づいて算出されてもよい。Feffは、以下のような、電流誤差i(t)の実効値であり、
【数1】
ブロック32で算出される。
【0037】
高周波電流の実測値i(t)が、計算された回帰電流から最も外れている場合に、電流誤差i(t)は最大となる。このずれは、特に、スパークを伴う高周波外科用途において発生し、この場合、スパークが原因で高周波電流i(t)に大きな歪みが存在する。スパークが発生して、それに伴い電流が歪む場合は、回帰電流を計算する等価回路の非線形成分が特に大きい。図3から図5における等価回路の線形要素は、高周波電流の実測値i(t)を十分に説明することができず、回帰電流isim(t)が高周波電流の実測値i(t)からずれる原因となる。これは、電流誤差i(t)が大きいことと相関があり、それに応じて電流誤差の実効値Feffは増加する。実測された高周波電流の実効値ieffを用いて比をとることにより、スパーク発生の相対的な尺度をブロック35において求める。
【0038】
分析部24は、前述したように、図3における回路網モデル31、または、図4における回路網モデル31aもしくは図5における回路網モデル31bの線形値を回帰分析により算出する。抵抗成分Rは、抵抗特性変数として用いることができ、主に、生体組織11の抵抗値、つまり、図2における例で組織抵抗値RG1またはRG2に割り当てられるものの特性を示す。このために、回帰計算は、器具10の動作中ずっと抵抗特性変数Rの瞬時値を決定できるよう、ブロック32、つまり、回帰ブロックによって連続的に行われる。
【0039】
あるいは、図3に示したように、別個の抵抗計算ブロックにより組織抵抗を決定してもよい。このために、ブロック36、37は、まず、高周波電圧の実効値ueffおよび高周波電流の実効値ieffを瞬時値i(t)から決定し、力率cosΦも決定する(あるいは、抵抗計算ブロック33が、これらの実効値を測定部23から取得してもよい)。抵抗特性変数として、抵抗計算ブロック33は、高周波電圧u(t)の実効値ueffを実効値ieffで割った値に力率cosΦを乗じたものを形成する。
【0040】
比較部34は、ブロック35で決定されたスパーク特性変数Frelを、スパークサイズ閾値Fと比較する。さらに、比較部34は、抵抗特性変数Rを抵抗閾値Rと比較する。図6にそのプロセスを示す。スパーク特性変数Frelは、スパークサイズ閾値Fより小さいか、大きい可能性がある。また、抵抗特性変数Rも、抵抗閾値Rより小さいか、大きい可能性がある。結果として、4通りの可能性がある。Rを例えば300オームに、Fを例えば0.4に適切に選択すると、抵抗特性変数Rが抵抗閾値Rより小さく、かつ、スパーク特性変数Frelがスパークサイズ閾値Fより大きい場合に、スパーク18の金属接触が確認されると分かった。残りの3通りでは、例えば、スパーク発生を伴わない器具10と組織11の接触、スパーク発生がない空気中での電極17起動、または、スパーク発生を伴う組織11へのスパークなどの他の状況になっている。一方、金属部分に対して発生するスパークが検知されると、適切な対処を象徴的に示すブロック38へ分岐する。このような対処とは、認識できる信号を送信すること、または、制御部25へ影響を与えることでもよい。これにより、例えば、出力が増減してもよいし、電源装置26がオフになったり、波高率が変更されたりなどしてもよい。
【0041】
図7は、上記方法の変形例を示す。上述したように、抵抗特性変数Rとスパーク特性変数Frelとを同じく連続的に決定する。しかしながら、上述した方法と異なり、これらの変数を絶対閾値FおよびRと比較しない。むしろ、抵抗特性変数Rの経時変化dR/dtとスパーク特性変数Frelの経時変化dFrel/dtとを評価基準として決定し、制限値rおよびfと比較する。組織抵抗値の変化dR/dtが抵抗変化閾値rよりも小さく、かつ、スパーク特性変数Frelの変化dFrel/dtがスパークサイズ変化閾値fよりも大きい場合には、同じく対処ブロック38へ分岐する。このようにして、ランダムな実測値変動による、金属接触に関する誤った結論を避けることができる。
【0042】
本発明に係る、スパーク発生電気手術器具10を用いた金属検知装置は、器具10に供給される電流i(t)(および電圧も)に基づいて、器具10から発生するスパーク18が生体組織11に接触したのか、または、金属部分19に接触したのかを判断する金属検知部22を備える。これは、線形等価回路31と一致しない電流i(t)の成分を決定することにより実現されることが好ましい。線形等価回路31の各要素は、回帰計算の演算前、または、演算中に決定される。第1の判断基準として、スパーク特性変数Frelを電流i(t)から決定する。第2の判断基準として、組織抵抗の特性を示す抵抗特性変数Rを決定する。両方の特性変数を、閾値F、Rと比較する。抵抗特性変数Rが抵抗閾値Rを下回り、かつ、スパーク特性変数Frelがスパークサイズ閾値Fを上回る場合に、スパーク18が金属部分19に対して作用したという特性を示す信号が生成される。
【符号の説明】
【0043】
10 器具
11 生体組織
12 装置
13、14 配線
15 中性極
u 器具10への出力電圧
i 器具10への供給電流
17 電極
18 スパーク
19 金属部分
20 ステント
21 中空管状器官
22 金属検知部
23 測定部
Ki 電流iの特性値
i(t) 測定電流の瞬時値
mean 電流の平均値
eff 電流の実効値
peak 電流の最大値
(t) 電流計算値と電流実測値の差分
Ku 電圧の特性値
u(t) 測定電圧の瞬時値
mean 電圧の平均値
eff 電圧の実効値
peak 電圧の最大値
(t) 電圧計算値と電圧実測値の差分
24 分析部
25 制御部
26 電源装置
27 電源
28 電力発振器
29 共振回路
30 高周波デカップリングコイル
rel スパーク特性変数(Feffとieff(t)の比)
R 抵抗特性変数
Kabel オーミック配線抵抗
Kabel ケーブルインダクタンス
C 容量
、RG1、RG2 組織抵抗
31、31a、31b 等価回路、回路網モデル
R、L、C 等価回路の要素
F スパーク抵抗
sim(t) 回路網モデルで計算された電流
T 周期長
eff 電流誤差の実効値
eff 電流の実効値
32 回帰ブロック
33 抵抗計算ブロック
F0 スパークサイズ閾値
R0 抵抗閾値
34 比較ブロック
35〜38 ブロック
スパークサイズ変化閾値
抵抗変化閾値
cos Φ 力率
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7