特許第6152214号(P6152214)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6152214
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】加飾樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/42 20060101AFI20170612BHJP
【FI】
   B29C33/42
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-219880(P2016-219880)
(22)【出願日】2016年11月10日
【審査請求日】2016年11月10日
(31)【優先権主張番号】特願2016-71076(P2016-71076)
(32)【優先日】2016年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000147350
【氏名又は名称】株式会社精工技研
(74)【代理人】
【識別番号】100121658
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 昌義
(72)【発明者】
【氏名】安田 崇志
(72)【発明者】
【氏名】日置 政秀
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 憲宏
【審査官】 関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5798233(JP,B2)
【文献】 特開昭49−043718(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3127285(JP,U)
【文献】 特開昭57−163523(JP,A)
【文献】 特許第4261957(JP,B2)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0128748(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性のある板状部分を有する樹脂成形品であって、前記樹脂成形品は、平坦面を有する第一の面と、凸部が形成されている複数の幅のある区画を有する第二の面と、を備え、
前記樹脂成形品を外部から第一の面に向かって見たときに、金属色様の外観が得られる前記樹脂成形品において、前記第二の面は、各々の区画幅内に前記第一の面からの高さが同じである直線の稜線が複数平行に並んだ凸部を備えており、前記稜線の方向が互いに異なる一の区画と他の区画を備え、かつ、前記一の区画と前記他の区画において、前記第一の面から前記稜線の頂点までの高さも異なる構造を備える加飾樹脂成型品。
【請求項2】
請求項1に記載の加飾樹脂成型品であって、前記第二の面において構成する区画のうち、少なくとも一つの区画幅が0.1mm以上であることを特徴とする加飾樹脂成型品。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の加飾樹脂成形品であって、前記第二の面において平坦状の透明部分を配置し、その透明部分の形状が文字、図形、記号となっており、前記透明部分によって文字、図形、記号を表示する、又は、
前記凹凸のある一つ又は複数の区画の領域形状が文字、図形、記号、絵柄、模様となっており、前記凸部における全反射によって文字、図形、記号、絵柄、模様を表示し、異なる稜線の前記区画では視認する角度方向及び照明の方向によって金属色様の外観の光沢の見え方が変化する、ことを特徴とする加飾樹脂成型品。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載の加飾樹脂成形品であって、前記第一の面及び前記第二の面の少なくとも一方の面が曲面、凸面及び凹面のうちの少なくとも一つで構成されていることを特徴とする加飾樹脂成型品。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項に記載の加飾樹脂成形品であって、
隣り合わない区画に少なくとも一つ以上の同一の稜線方向となる前記区画を備えたことを特徴とする加飾樹脂成型品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装やコーティング等を施すことなく、金属色(メタリック)様の外観が得られる樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂は、所望の形状に成形することが可能であり、日常のありとあらゆる物品に用いられている。そして、この樹脂成形品に2次工程のめっき等により金属色のような(金属色様の)外観を付することで、樹脂成形品に高級感を与えて商品価値を高めることができる。
【0003】
この樹脂成形品に金属色のような外観を付する(加飾する)技術に関する文献としては、例えば下記特許文献1及び2がある。
【0004】
また一方で、下記特許文献3乃至5には、金属色様のような外観光沢は得られないが、光入射面に装飾模様パターンの凹凸を付与することにより、視線方向あるいは照明方向を変えていくと、明るく光って見える位置と暗く陰って見える位置が順次移動していく、または絵柄が変化していく特長がある。つまり、視線方向あるいは照明方向によってパターンが変化する独特の意匠感を有する、趣向のある装飾成形品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4748470号公報
【特許文献2】特許第5798233号公報
【特許文献3】特許第4261957号公報
【特許文献4】特許第5594641号公報
【特許文献5】実用新案登録第3127285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術は、2種以上の金属を主成分とした蒸着膜が表面に形成された加飾樹脂成形品であって、金属材料を別途用いる必要があり、また、蒸着工程が必要であるため、工程の複雑化及びコストアップが避けられない。
【0007】
上記特許文献2に記載の技術は、上記特許文献1の課題を解決し、光の全反射を利用することによって金属材料を蒸着せずに金属色様の外観を実現している。しかしながら、光の全反射を利用している構造上、視認する角度方向によっては全反射が起こらず、金属光沢が見えないといった課題があった。また、加えて、模様に立体感や陰影がなく、模様が単調になりやすいという課題があった。
【0008】
また、同じく上記特許文献2に、金属光沢色様の視認できる角度範囲を広くする改善方法として、全反射させる凹凸形状を四角錐等の錐形状にすることで改善を試みているが、曇ったシボ面のような外観となり、金属光沢感が比較的劣る(輝度が劣る)といった課題があった。また同じく模様に立体感や陰影がなく、視線方向あるいは照明方向によって加飾パターン模様が変化しないため、模様が単調になりやすいという課題が依然として残っている。
【0009】
一方の、上記特許文献3乃至5は、金属光沢様の外観効果は無く、加えて印刷やコーティング等の前工程または後工程が必要であり、一体成形のみで効果を実現できない課題はあるが、視線方向あるいは照明方向によって加飾パターン模様が変化し、結果としてより趣向に富んだ付加価値のある成形品を実現している。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑み、工程の複雑化及びコストアップを抑えつつ、金属色様の外観と共に、視線方向あるいは照明方向によって金属色様の加飾パターン模様が変化する効果のある加飾樹脂成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明の一の観点に係る加飾樹脂成形品は、光透過性のある板状部分を有し、平坦面を有する第一の面と、複数の凸部が形成されている第二の面に、幅のある複数の区画を備え、各々の区画幅内には隣り合う凸部の稜線が同方向である複数の凸部を備えており、他の区画と稜線角度方向が異なる方向で構成された区画が少なくとも一区画以上ある(前記凸部の稜線方向が他の区画幅内における稜線方向と異なっている)ことを特徴とする成形品であり、第一の面側から侵入してきた光の少なくとも一部が、区画内の凸部の対となる傾斜面同士で全反射することで、成形品本体の外面部となる第一の面側に向かって全反射させることによって金属色様の外観が得られるものであり、また凸部の稜線方向が異なる前記区画があることにより、第一の面側に向かって全反射できる角度範囲に差異が区画ごとに生じ、視認する角度方向及び照明の方向によって金属色様の外観の見え方が変わるものとなっている。ここで言う稜線とは自然界の山脈のように同一稜線上に高低差があっても峰から峰へと一続きの尾根を稜線として扱い、以下稜線と定義称する。
【0012】
また、本観点において、前記第二の面に形成された異なる区画同士の稜線角度方向は異なる角度方向であればよく、必ずしも90°の交差である必要はない。また、前記稜線は曲線であってもよい。また、製品の断面Z軸方向に曲線であっても稜線角度方向が異なっていても構わない。
【0013】
また、第二の面に形成された区画内の凸部の稜線の高さは、各々の区画で異なっていてもよい。
【0014】
また、本観点において、第一の面または第二の面が曲面であってもよい。
【0015】
また、本観点において、第二の面には凸部を備えた区画以外に平坦状の透明部分を配置し、その透明部分の形状が文字、図形、記号、幾何学模様(以下「文字等」という。)となっており、透明部分によって文字、図形、記号を表示してもよいし、又は、凸部を備えた区画を組み合わせた境界領域が曲線等でもよく、凸部の全反射によって見え方の変わる文字、図形、記号を表示してもよい。
【発明の効果】
【0016】
したがって、本発明により、工程の複雑化及びコストアップを抑えつつ、金属色様を呈する外観と共に、金属めっき等では表現できない、視線方向あるいは照明方向によって金属色様の加飾パターン模様が変化する効果のある加飾樹脂成形品を提供することができる新たな効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態に係る加飾樹脂成形品の概略を示す図である。
図2】実施形態に係る加飾樹脂成形品の概略を示す斜映図である。
図3】実施形態に係る加飾樹脂成形品の概略の断面図である。
図4】実施形態に係る加飾樹脂成形品の一適用分野の例を示す図である。
図5】実施形態に係る凸部稜線方向の異なる区画の組合せ例を示す図である。
図6】実施形態に係る凸部稜線方向のZ方向に異なる例を示す図である。
図7】実施形態に係る凸部稜線高さの高低差例を示す図である。
図8】実施形態に係る凸部区画の2段以上の段差例を示す図である。
図9】実施形態に係る区画間の境界部の例を示す図である。
図10】実施形態に係る加飾樹脂成形品内を通る光線の例を示す断面図である。
図11】本発明の加飾樹脂成形品の一実施例を撮影した外観画像である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例の例示にのみ狭く限定されるわけではない。以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。係る実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0019】
図1は、本実施形態に係る加飾樹脂成形品(以下「本成形品」という。)1の概略を示す図であり、図2は、本成形品1の板状部分の概略斜視図であり、図3図2の概略断面図であり、区画1(S1)、区画2(S2)および区画1の稜線方向(SR1)、区画2の稜線方向(SR2)、各々の幅をW1、W2を例に、各々の図で対応させて説明している。
【0020】
より具体的に説明すると、本成形品1は、単一の材料から構成された光透過性のある板状部分を有する金属色様の外観が得られる樹脂成形品であって、平坦面21が形成された第一の面2と、複数の凸部31が形成された第二の面3と、を備えている。ここでいう単一の材料とは、少なくとも光透過性のある材料であれば良く、その材料内に着色剤や金属/非金属等の不透明な粉・フレーク・フィラー・繊維状などの物質、または帯電防止剤や耐候性添加剤等、その他の添加剤等を任意に組み合わせて添加するなど、光透過性を保てる程度に他の物質材料が適宜添加された材料であってもよい。
【0021】
また、本成形品1において、第二の面3において、複数の凸部31の幅P以上の幅Wをもつ複数の区画を備え、異なる区画(S1、S2)では凸部の稜線方向の角度方向が異なる構造(SR1、SR2)を備えた構成としている。区画の形状は図1のような四角形領域の帯状に限らず、丸や多角形および自由曲線で囲まれた領域でもよく、稜線方向に対して直角、垂直の直交方向の最大となる部分の長さを区画幅と定義する。幅内には少なくともピッチ一個分以上の凸溝が構成されていればよい。上記定義により曲線や多角形等で囲まれた領域であっても最小となる幅の長さも決まるので他の区画の幅との長さを比較することもでき、面積に置き換えても他の区画と比較することができる。また、稜線が曲線であれば、同一の曲率中心の稜線を構成した並設する前記凸部は同じ区画とし、稜線と直交方向となる方向、言い換えれば曲率半径(法線)方向における長さを幅とすれば同様に区画の幅を定義することができる。同様の定義に基づくと、複数の稜線が並走し平行直線の場合も、直線の直交方向に曲率半径は無限であるので、同一方向の無限の曲率中心とし、同じ区画とみなすことができる。また、稜線が放射状に配置された場合は、稜線方向が異なるためそれぞれの稜線部は別の区画として扱うこととなる。並走する複数の凸溝が構成されている場合、稜線方向が同じであれば同じ金属色様の効果となる領域になるので、凸溝の深さが異なっていても同じ区画領域内と定義する。これらの幅の方向の定義から逆に稜線方向を定義することもできる。
【0022】
そして、本成形品1は、第一の面2側から進入してきた光の少なくとも一部を、第二の面3における、複数の凸部31にて全反射させて第一の面2から光を放出させることで金属色様の外観が得られるようになっている。なおここで「金属色様」とは、本成形品1を観測した者( 以下「観測者」という。)が、金属によるコーティングがなされているかのように見える状態のことをいう。
【0023】
本成形品1において、主要な部材である樹脂は、透過性を有し、所望の形状に加工、成形できる高分子材料である。本成形品1において用いることのできる樹脂としては、後述するように、所望の屈折率を得ることができる限りにおいて限定されるわけではないが、例えば、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル、ポリエステル(PET)、アクリル(PMMA)、シクロオレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS)、ABS樹脂等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミドなどの熱硬化性樹脂、又は光硬化性樹脂を例示することができる。また、樹脂は、無色透明、無色半透明、有色透明、有色半透明のいずれかであっても構わない。
【0024】
本成形品1の板状部分では、上記のとおり第二の面3には複数の凸部31で形成された複数の区画領域が構成されている。凸面や凹面内の裏面内側や側面に上記複数の区画領域が形成されていてもよい。また本成形品1の板状部分は、必ずしも平行平板状である必要はなく、前記第一の面または前記第二の面の少なくとも一方の面が曲面、凸面、凹面、平面、等の面で、少なくともそれらの面のうち一つで構成されていてもよいし、それらの面の組合せで構成されていてもよい。曲面等の場合の同一区画とは、凸部の高低差や深さが異なっていても、稜線方向が同じであり、同一方向から観察した場合に、同じ金属色様の効果となる領域になるので、同じ区画の領域内と定義する。また、凸部を形成するために切削工具により加工した場合は、同一方向に工具を走査して形成された同じ稜線方向の複数の凸部のある領域と言い換えることもできる。または、区画内の稜線に対して直交となる各々の凸部断面において、対となる斜面と斜面のなす角度の中心線の方向が、同一方向の向きとなっていれば同一の区画内となる。例えば、図4で示すように、化粧品や飲料の容器等のキャップの側壁部の曲面にも付加できる。その他には、棒状部材が付された車等の機械装置に付されるエンブレム等の静的な部品や、時計の針等の動的な部品等、様々な用途に用いることができる。また木目調や金属加工面模様、和洋の伝統的模様を付加することもできる。
【0025】
また本成形品1において、樹脂は光透過性を備えている。ここで「光透過性」とは、入射された光の少なくとも一部を透過する性質をいう。この限りにおいて限定されるわけではないが、具体的には、樹脂の板状部分であって、凹部近傍ではあるが凸部が形成されていない部分における光(633nm)の透過率が0%より高く60%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以上50%以下である。0%より高くすることによって、樹脂内部で光が伝播、反射することが可能となって観測者に金属色様の外観を認識させる効果を得ることが可能となり、5%以上とすることでこの効果が顕著となる。一方、光の透過率を60%以下とすることで金属色様の度合いを高くし美観を維持することが可能となり、50%以下とすることでこの効果が顕著となる。
【0026】
また本成形品1では、上記のとおり平坦面21が形成された第一の面2を備えている。本成形品1では、第一の面2から光が入射され、樹脂内を伝播し、少なくとも一部の光が全反射され、再びこの第一の面2から光が放出され、観測者の目に入ることで金属色を認識させることが可能となる。ここで「平坦面」は、第二の面の凸部等と異なり、光を散乱させてしまうような凹凸を有しておらず、鏡面程度の滑らかさを有している面をいう。
【0027】
本成形品1では、微小凹凸部31と別の平坦状の透明部分の区画を配置し、その透明部分の形状を文字、図形、記号とし、その透明部分によって文字、図形、記号を表示することもできる。又、微小凹凸部の区画形状を文字、図形、記号とし、微小凹凸部における全反射によって文字、図形、記号を表示することもできる。ここでいう前記透明部分の区画例としては図1での、微小凹凸部31と同一面側の区画S1、S2(灰色部)以外の色が異なる白抜きの領域を指し示す。
【0028】
なお、各区画の複数の凸部の稜線の方向は例えば図5の斜視図で示すように、直角交差のみに限定されず、同芯円状等の任意の曲線の稜線を持つ、異なる曲率中心の区画や直線区画との組み合わせでもよい。また、各区画幅の周期は規則的でなくともよい。3つ以上の区画の場合も同様で、例えば3区画の場合の例としては、それぞれの区画で稜線角度がXY平面上で必ずしも120°ごとの交差である必要はない。また、図6のように凸部の方向が同じであっても、Z軸方向に稜線が異なっていてもよい。角度方向が異なっていれば良いが、一例としては、Z軸方向に対して稜線の向きの角度が+15°、−15°といった向きの違いで区画を構成するのも良い。これにより±X方向または±Y方向に照明や製品角度を傾けることで、本発明の効果が得られる。
【0029】
また、図7の成形品の概略断面図で示すように、各区画の凸部の稜線の段差となる高低差が異なっていても発明の効果に差はないが、成形品または成形品金型の微小凸部を切削加工する場合の製作上において有利な形状である。一例としてここでいう、より好ましい高低差とは、ある区画をX軸またY軸方向である水平面方向32に工具を動かし切削加工をした場合に、切削工具先端が別の稜線方向の異なる区画の微小凸部の稜線に干渉しない程度に凸部高さ分の高低差があることをいう。また、ある区画の稜線の延長線上に、隣接しない別の区画に同じ稜線方向の区画があれば、稜線の異なる隣り合う区画、または離れた異なる稜線方向の区画の凸部の頂点に工具が干渉せずに、一度に工具を走査し加工できるので、より微細で細やかな前記同一の稜線となる複数の区画を有する模様等を形成したい場合も加工しやすくなり、また他にはZ軸方向に工具の上げ下げをする必要が無く、大面積を加工する場合の時間を短縮できることが考えられ、製法上のメリットがある。上記の通り、より好ましくは高い方の区画の凸部同士の間の谷(高い区画の最も低い谷同士の面)と、稜線方向の異なる低い方の区画の凸部の山の頂点の高さ(低い区画の最も高い山同士の面)が重ならないことが、加工上好ましいが、加工具が多少は別の区画の稜線に干渉したとしても本発明における同様の効果が得られる。金属色様の効果が低減するが、異なる区画でZ軸の正の方向に前記凸部同士の間の谷と前記凸部の山の頂点の高低差が、低い方の区画の凸部高さの1/3の高低差しかなく、頂点部から1/3が削られる加工干渉があったとしても、一つの区画領域を見た場合に、全反射による金属色様の効果が得られ、より好ましくは低い方の区画の凸部高さの3/5以上で高い方の区画の凸部の谷部の方が高い高低差であれば光の透過率を50%以下に抑制することが可能となり、同様の発明の効果が得られる。逆に製品として透過率を高めたい場合は、任意に上記構成を取り入れられることはいうまでもない。また一方で、同一区画内において並走する複数の凸部が構成されている場合に、各凸部の高さや凸部同士の溝(谷)の深さが異なっていても構わないが、稜線方向が同じとなるので本発明に置いて同じ金属色様の効果となる区画領域となるため、同一区画領域内と定義する。また、図8の斜視図のように区画の高低差が2段以上であっても構わない。これにより、一例としてZ軸回転方向の変化により、より細やかな変化のある本発明効果が得られる。また前記文字等の透明部に関しても製法上で干渉しない高低差を設けることで、上記同様の理由で製作上の利点がある。
【0030】
また、図9の概略平面図(a)と斜視図(b)で示すように、隣り合う各区画間の境界部は厳密に凸部構造が切り替わらずに、不明瞭な領域があっても良い。ここでいう不明瞭な領域を定義すると、具体的には、凸部の稜線が交差するような四角錐の構造や、平坦部があっても構わない。不明瞭な領域を設けた方が、製法上有利な場合があり、区画間の不明瞭な領域があっても、各々の区画の幅が確保されていれば、発明の効果がある。
【0031】
本成形品における複数の凸部は、上記の機能を有することができる限りにおいて様々な形状を採用することができるが、全反射部分を備えこれが周期的に配置された構造を備えていることが好ましく、より具体的には90°のV溝構造となっていることが好ましい。この詳細な断面について図10に示すとともに、本成形品が発揮する機能の原理について説明する。なお、本図では、説明を簡単にする観点から、樹脂の板状部分における平坦面21に平行な面を水平面Hと定義し、この水平面Hに対し垂直な方向を観測者が本成形品1を見る角度(光が入射する角度)として説明していく。ただし、本成形品の機能を発揮できる限りにおいて幾何学的構造は適宜調整可能であることはいうまでもない。
【0032】
図10で示すように、本成形品1において、区画1、区画2を例にすると、水平面Hに入射する光の光線経路の概略を示しており、断面に対して、入射光角度をθ1、θ2と定義すると、凸部の稜線方向に対しては、全反射可能な入射角度の範囲が広く、区画1と区画2では異なること示している。具体的には、図の実施形態を例に計算すると角度θ1が10°程度までしか全反射しないのに対して、角度θ2では少なくとも45°以内で入射した場合でも全反射が可能であり、広い全反射範囲を持っている。本図のように稜線方向が直角に交差している場合、当然ながら、水平面Hに沿って成形品を90°回転させることにより、区画1と区画2の全反射可能な入射角度範囲が逆転する。この全反射可能な範囲が異なる原理を利用することで、視認する角度方向及び照明の方向によって金属色様の外観の見え方が変えられる効果が実現できる。なお、樹脂の屈折率をn、この外側の屈折率をnと定義する。なおn>nとし、全反射とは、θt≧arcsin(n/n)〔rad〕によって定義される、臨界角θtよりも大きな角度で前記凸部の傾斜面へ入射した場合に光の反射が生じる一般的な現象である。
【0033】
なお、本成形品1において凸部31のサイズとしては、上記の所望の範囲に収めることができる限りにおいて限定されず適宜調整可能であることはいうまでもないが、例えば、凸部31のピッチPとしては、光を十分に反射させることができる範囲として、例えば、10μm以上200μm以下であることが好ましく、より好ましくは20μm以上100μm以下である。凸部のピッチPを200μm以下とすることで、観測者の目の分解能以下の範囲となり、一本の溝として認識しにくくすることができ、100μm以下とすることでこの効果が顕著となり、より金属光沢観に近づけることができる。一方、凸部の幅を10μm以上とすることで微小凹凸部のピッチを十分に確保することができるようになる。
【0034】
なお、本成形品1において区画幅Wのサイズとしては、上記の所望の範囲に収めることができる限りにおいて限定されず適宜調整可能であることはいうまでもないが、例えば、凸部31のピッチPのサイズ1個分よりも大きく(区画幅W>V溝ピッチP)、光を十分に反射させることができる範囲として、例えば、10μm以上であることが好ましく、より好ましくは100μm以上とすることで、観測者の目の分解能よりも大きくなり、金属光沢色様のある区画として識別しやすくすることができ、区画の配置によって、視認角度により変化のある外観模様を呈することができる。
【0035】
また本成形品1は、必要に応じて、第一の面及び第二の面の第一の傾斜面の少なくともいずれかに保護膜又は反射防止膜等を設ける構成とすることも好ましい。
【0036】
また本製品1において、凸部31の形状は、全反射可能な傾斜面を有している限りにおいて限定されず、上記の例で示すように頂点が鋭利な三角形に近い形状であってもよいが、例えば頂点が平坦な台形に近い形状や先端R形状であってもよい。この場合、先端の一番高い箇所・面を、稜部・稜面として稜線と同様に定義して扱う。また、複数の凸部31同士は、隙間なく隣接していてもよいが、ある程度の隙間をあけて配置することも可能である。具体的な一例としては、凸部同士の谷部に意図しない光を透過する部分、または任意に金属色様の反射率を設定するために平坦部を構成してもよいが、好ましくは凸部幅一個分または凸部ピッチ分の幅、好ましくは0.1mm以下の隙間幅とすることで、一区画内における光透過率を50%以下とすることができ、金属色様の効果が得られる。それ以上の光を透過する隙間の間隔となると、肉眼でも隙間が認識できるようになるため平坦状の透明部分となる前記文字等を形成する領域となる。
【0037】
以上の記載から明らかであるように、本成形品では、凸部において金属色様の外観を得ることができるため、この部分を文字、図形及び記号、幾何学模様(以下「文字等」という。)の形状にすることで文字等として表示することが可能であり、一方、所定の領域にこの凸部を設ける一方、一部この凸部を設けない平坦な部分を文字等の形状としておくことで、いわゆる白抜きの文字等表現を行うことができるようになることはいうまでもない。
【実施例】
【0038】
上記実施形態に係る加飾樹脂成形品に関し、実際に作製してその効果を確認した。以下具体的に説明する。
【0039】
まず、射出成形法にて、平坦な一対の面を有する厚さ0.8mmのアクリル板の一方の面に、稜線方向が直角に交差する2種類の区画を、区画幅1mmで交互に周期的に複数形成した。また、2つの区画において凸部の仕様は、高さ0.025mm、ピッチ0.05mm、V溝角度90°と同様としたが、2種類の区画間において凸部の高さ分だけ、高低差となるように段差を設けて各区画を形成した。そして、可視領域の光を用いて観察したところ、金属色様の外観を得ることができると共に、視認する角度方向によって帯状の金属色様の外観パターンが現れたり、消えたりする効果が得られることを確認した。また凸部の無い平坦な領域を複数形成することによって図柄や輪郭模様を表現できることが確認された。また成形品の上記凸部のV溝角度90°先端形状が、成形品転写の低下により先端Rが5μm程度となっても同様の効果が得られた。
【0040】
また、実施した成形品の材料は、アクリルをシクロオレフィンポリマー(COP)、AS、PP樹脂に変えた場合においても同様であった。また半透明で赤色、青色等の色の樹脂に変えた場合においても同様の効果が得られた。
【0041】
上記の実施例とは別の射出成形品を作製してその効果を確認した。平坦な一対の面を有する厚さ1mmのアクリル板の一方の面に、稜線方向が直角に交差する2種類の区画を、区画幅0.25mmで交互に周期的に複数形成した。また、2つの区画において凸部の仕様は、高さ0.025mm、ピッチ0.05mm、V溝角度90°と同様としたが、2種類の区画間において凸部の高さ分だけ、高低差となるように段差を設けて各区画を形成した。図11は折り鶴の図柄をZ軸方向に回転させることにより、鶴の翼の開きが変わることから、本発明の効果が確認された。区画の違いによる図柄の光の明暗(強い:弱い)の比率は解析から10:1程度となり(a)・(c)、90°回転させている途中では3:2程度の光のコントラストが確認された(b)。
【0042】
上記の実施例とは別の射出成形品を作製してその効果を確認した。平坦な一対の面を有する厚さ3mmのPC板の一方の面に、領域形状を地図の海岸線とした領域内に、稜線方向が±60°ずつで交差するダイヤ模様となる3種類の区画を、区画幅0.5mmで複数形成した。視線方向により金属色調の宝石様ダイヤ模様が移り変わる様が確認できた。
【0043】
以上、本発明の効果は実際の樹脂成形品において十分に達成できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は加飾樹脂成形品及びその製造方法として産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0045】
1・・・樹脂成形品
2・・・第一の面
3・・・第二の面
4・・・側壁部
21・・・平坦面
31・・・複数の凸部
32・・・凸部の高低差
33・・・不明瞭な領域例
51・・・入射光
52・・・出射光
S1・・・区画1
S2・・・区画2
SR1・・・区画1の稜線方向
SR2・・・区画1の稜線方向
W・・・区画の区画幅
P・・・凸部ピッチ
H・・・水平面
【要約】      (修正有)
【課題】めっき等の金属コーティングをせずに工程の複雑化、コストアップを抑え異方向から見た場合でも金属色様を呈する外観を得られ、見る方向に応じて金属様の光沢が変化する特徴のある、一様な金属メッキ面では再現できない加飾デザインを有する加飾樹脂成形品を提供する。
【解決手段】単一材料から構成され、光透過性のある板状部を有し、平坦面21と、複数の凸部31が形成されている凸面を備え、該凸面に幅のある複数の区画を備え、各々の区画幅内には隣り合う凸部の稜線が同方向の複数の凸部31を備え、他区画との稜線角度方向を異ならせ構成された区画が一区画以上あり、平坦面21側から侵入してきた光の一部が、凸部31の対となる傾斜面で全反射することで、成形品1本体の外面部となる平坦面21側に向かって全反射させることによって金属色様の外観が得られ、見る方向に応じて金属様の光沢が変化する樹脂成形品1。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11