特許第6152220号(P6152220)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6152220
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び塗工液
(51)【国際特許分類】
   C08K 3/00 20060101AFI20170612BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20170612BHJP
   C01F 7/16 20060101ALI20170612BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20170612BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20170612BHJP
【FI】
   C08K3/00
   C08L101/00
   C01F7/16
   C09D201/00
   C09D7/12
【請求項の数】10
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-507835(P2016-507835)
(86)(22)【出願日】2015年3月12日
(86)【国際出願番号】JP2015057385
(87)【国際公開番号】WO2015137468
(87)【国際公開日】20150917
【審査請求日】2016年7月12日
(31)【優先権主張番号】特願2014-52618(P2014-52618)
(32)【優先日】2014年3月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】西尾 章
(72)【発明者】
【氏名】川上 徹
(72)【発明者】
【氏名】山根 健一
(72)【発明者】
【氏名】山村 尚嗣
(72)【発明者】
【氏名】冨永 慎吾
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−307107(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/173108(WO,A1)
【文献】 特開2014−009140(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/039103(WO,A1)
【文献】 特開2013−209278(JP,A)
【文献】 特開平07−061814(JP,A)
【文献】 特開昭64−045716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00
C01F 7/16
C08L 101/00
C09D 7/12
C09D 201/00
C01G 9/00
C04B 35/443、35/626
H01L 35/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、熱伝導性複合酸化物と、を含有する樹脂組成物であって、
前記熱伝導性複合酸化物が、アルミナ系化合物と、アルミニウム以外の金属の化合物との焼成物であるとともに、主成分金属としてアルミニウムと、アルミニウム以外の金属とを含有するスピネル構造を有
前記アルミニウム以外の金属が、マグネシウム、亜鉛、カルシウム及びストロンチウムからなる群から選択される少なくとも1種であり
記アルミナ系化合物のアルミニウム元素のモル数(a)と、前記アルミニウム以外の金属の化合物を構成する前記アルミニウム以外の金属のモル数(b)との比(bモル)/(aモル)が、0.1以上1.0以下であり、
そのモース硬度が9未満の複合酸化物であることを特徴とする樹脂組成物
【請求項2】
前記熱伝導性複合酸化物を構成する全ての金属の合計に対する各金属の含有割合は、前記アルミナ系化合物に起因するアルミニウムが50〜90モル%、前記アルミニウム以外の金属が10〜50モル%である請求項1に記載の樹脂組成物
【請求項3】
前記アルミナ系化合物が、アルミナ、水酸化アルミニウム又はアルミナ水和物である請求項1又は2に記載の樹脂組成物
【請求項4】
前記アルミニウム以外の金属の化合物が、前記アルミニウム以外の金属の、酸化物、水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、炭酸塩、塩基性炭酸塩、蓚酸塩及び酢酸塩から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物
【請求項5】
前記熱伝導性複合酸化物の形状が粉末状、或いは、その平均長軸が5〜40μm、かつ、その平均短軸が0.1〜30μmの、薄片状又は針状である請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物
【請求項6】
熱伝導性複合酸化物を含有する塗工液であって、
前記熱伝導性複合酸化物が、アルミナ系化合物と、アルミニウム以外の金属の化合物との焼成物であるとともに、主成分金属としてアルミニウムと、アルミニウム以外の金属とを含有するスピネル構造を有し、
前記アルミニウム以外の金属が、マグネシウム、亜鉛、カルシウム及びストロンチウムからなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記アルミナ系化合物のアルミニウム元素のモル数(a)と、前記アルミニウム以外の金属の化合物を構成する前記アルミニウム以外の金属のモル数(b)との比(bモル)/(aモル)が、0.1以上1.0以下であり、
そのモース硬度が9未満の複合酸化物であることを特徴とする塗工液。
【請求項7】
前記熱伝導性複合酸化物を構成する全ての金属の合計に対する各金属の含有割合は、前記アルミナ系化合物に起因するアルミニウムが50〜90モル%、前記アルミニウム以外の金属が10〜50モル%である請求項6に記載の塗工液。
【請求項8】
前記アルミナ系化合物が、アルミナ、水酸化アルミニウム又はアルミナ水和物である請求項6又は7に記載の塗工液。
【請求項9】
前記アルミニウム以外の金属の化合物が、前記アルミニウム以外の金属の、酸化物、水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、炭酸塩、塩基性炭酸塩、蓚酸塩及び酢酸塩から選ばれる少なくとも1種である請求項6〜8のいずれか1項に記載の塗工液。
【請求項10】
前記熱伝導性複合酸化物の形状が、粉末状、或いは、その平均長軸が5〜40μm、かつ、その平均短軸が0.1〜30μmの、薄片状又は針状である請求項6〜9のいずれか1項に記載の塗工液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性を有するアルミナ系の複合酸化物を用いた樹脂組成物及び塗工液に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、エレクトロニクス分野において、シリカ素子の発熱密度は上昇の一途をたどっている。また、パワー半導体として期待されるSiC、GaN素子の開発においては、従来よりもはるかに高い放熱性と絶縁性を持つ材料が不可欠となっている。このような要求を満たす材料として、樹脂中に高い熱伝導性を持つフィラーを練り込んだコンポジット材料がある。この際に用いられるフィラーとして、シリカよりも熱伝導率が高く、アルミナよりも硬度が低い酸化マグネシウムが検討されている。酸化マグネシウムは、融点が高く、熱伝導性が高く、無毒である等の性質を有することから、耐熱材料、充填材等として広く用いられている。近年では、酸化マグネシウムの表面に各種処理を施すことで、その性能の向上も図られている。しかし、本発明者らの検討によれば、酸化マグネシウムは、シリカ又はアルミナ等に比べ吸湿性が高いことから、樹脂組成物のフィラーとしての使用では、吸湿した水との水和から、フィラーの体積膨張によるクラックが発生し、熱伝導性の低下等の問題を生じる。更に、半導体の長期的な安定を付与する上でも課題があった。
【0003】
その他のフィラー用途の熱伝導材料としては、一般には、カーボンナノチューブ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化亜鉛或いは酸化アルミニウム(アルミナ)等が使用されている。しかしながら、これらの材料には、下記のような問題がある。例えば、酸化アルミニウムの使用は、硬度が高く、製造装置の摩耗が問題になる。逆に、硬度が低い窒化ホウ素の使用は、材料に求められる強度への影響を生じる。他の材料にも、窒化アルミニウムや、酸化マグネシウムや、酸化亜鉛には、耐水性が悪いという欠点があり、カーボンナノチューブ等では、電気絶縁性が悪いという欠点がある。
【0004】
これに対し、特許文献1では、成形加工性、熱伝導性及び耐水性に優れる成形品を与える樹脂配合用酸化マグネシウムフィラーを開示している。また、特許文献2では、酸化マグネシウム表面に、ケイ素及び/又はアルミニウムとマグネシウムとの複合酸化物を含む被覆層を有する被覆酸化マグネシウムを開示している。特許文献3では、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、ガラスビーズ、アルミナ等の熱伝導性フィラー表面に、粒状、角状、繊維状或いは平板状からなる形状を持つベーマイト、又は酸化亜鉛が結合又は付着して構成される無機フィラー複合体を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−70608号公報
【特許文献2】特許第3850371号公報
【特許文献3】国際公開第2013/039103号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、上記した従来技術には下記の問題があった。特許文献1によって開示された酸化マグネシウムフィラーは、成形加工性、熱伝導性及び耐水性を改善した酸化マグネシウムフィラーであるが、硬度面を含め、全体的な物性が未だ不十分である。特許文献2によって開示された酸化マグネシウム粉末の充填剤は、耐湿性(耐候性)及び熱伝導性改善のために表面処理を行ったものであるが、その表面を形成する金属種が、マグネシウムとケイ素、或いはマグネシウムとアルミニウムとの複合酸化物であり、下記の課題が挙げられる。すなわち、耐水性改善の点から、ケイ素の使用は効果的であるものの、耐酸性の点からは不十分である。更に、特許文献2におけるアルミニウム塩を使用した改善策は、硝酸アルミニウム等を使用した湿式法による酸化マグネシウムの表面改質に留まっている。従って、基材となる酸化マグネシウム本来の耐水性や耐酸性を改善するものではなく、改善策としては不十分である。また、十分な熱伝導性が得られない。この熱伝導性が十分でないという欠点を補うために多量のフィラー添加を行うと、成形性が損なわれるという問題がある。この点の課題解決に向けた対応策である特許文献3の技術は、様々なフィラーの特徴を活かそうとした方法ではあるものの、耐水性や熱伝導性を改善するには不十分である。
【0007】
本発明者らは、上記した従来技術の課題を解決するために鋭意検討した結果、下記に述べるように、材料特性の一つである硬度面も、使用にあたっては極めて重要であるとの認識を持つに至った。具体的には、例えば、アルミナのような高硬度材料は、混練機や成形機及び金型の摩耗を生じるという点が問題となる。逆に酸化マグネシウムのような低硬度材料は、成形体の強度への影響が課題となる。そこで、これらの問題点をも同時に改善するため、本発明者らは、アルミナよりも硬度が低く、酸化マグネシウムよりも硬度が高いスピネル構造を有する複合酸化物に注目し、開発を行った。
【0008】
従って、本発明の目的は、高い熱伝導性を持ち、アルミナよりも硬度が低く、酸化マグネシウムより硬度が高い、使用した場合に従来の材料に見られた種々の課題のない、実用上、極めて有用な新規な複合酸化物を用いた樹脂組成物及び塗工液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した従来技術の課題は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、以下に示す樹脂組成物を提供する。
[1]樹脂と、熱伝導性複合酸化物と、を含有する樹脂組成物であって、前記熱伝導性複合酸化物が、アルミナ系化合物と、アルミニウム以外の金属の化合物との焼成物であるとともに、主成分金属としてアルミニウムと、アルミニウム以外の金属とを含有するスピネル構造を有、前記アルミニウム以外の金属が、マグネシウム、亜鉛、カルシウム及びストロンチウムからなる群から選択される少なくとも1種であり、前記アルミナ系化合物のアルミニウム元素のモル数(a)と、前記アルミニウム以外の金属の化合物を構成する前記アルミニウム以外の金属のモル数(b)との比(bモル)/(aモル)が、0.1以上1.0以下であり、そのモース硬度が9未満の複合酸化物であることを特徴とする樹脂組成物
[2]前記熱伝導性複合酸化物を構成する全ての金属の合計に対する各金属の含有割合は、前記アルミナ系化合物に起因するアルミニウムが50〜90モル%、前記アルミニウム以外の金属が10〜50モル%である[1]に記載の樹脂組成物
[3]前記アルミナ系化合物が、アルミナ、水酸化アルミニウム又はアルミナ水和物である[1]又は[2]に記載の樹脂組成物
[4]前記アルミニウム以外の金属の化合物が、前記アルミニウム以外の金属の、酸化物、水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、炭酸塩、塩基性炭酸塩、蓚酸塩及び酢酸塩から選ばれる少なくとも1種である[1]〜[3]のいずれかに記載の樹脂組成物
[5]前記熱伝導性複合酸化物の形状が粉末状、或いは、その平均長軸が5〜40μm、かつ、その平均短軸が0.1〜30μmの、薄片状又は針状である[1]〜[4]のいずれかに記載の樹脂組成物
【0010】
さらに、本発明は、以下に示す塗工液を提供する。
[6]熱伝導性複合酸化物を含有する塗工液であって、前記熱伝導性複合酸化物が、アルミナ系化合物と、アルミニウム以外の金属の化合物との焼成物であるとともに、主成分金属としてアルミニウムと、アルミニウム以外の金属とを含有するスピネル構造を有し、前記アルミニウム以外の金属が、マグネシウム、亜鉛、カルシウム及びストロンチウムからなる群から選択される少なくとも1種であり、前記アルミナ系化合物のアルミニウム元素のモル数(a)と、前記アルミニウム以外の金属の化合物を構成する前記アルミニウム以外の金属のモル数(b)との比(bモル)/(aモル)が、0.1以上1.0以下であり、そのモース硬度が9未満の複合酸化物であることを特徴とする塗工液。
[7]前記熱伝導性複合酸化物を構成する全ての金属の合計に対する各金属の含有割合は、前記アルミナ系化合物に起因するアルミニウムが50〜90モル%、前記アルミニウム以外の金属が10〜50モル%である[6]に記載の塗工液。
[8]前記アルミナ系化合物が、アルミナ、水酸化アルミニウム又はアルミナ水和物である[6]又は[7]に記載の塗工液。
[9]前記アルミニウム以外の金属の化合物が、前記アルミニウム以外の金属の、酸化物、水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、炭酸塩、塩基性炭酸塩、蓚酸塩及び酢酸塩から選ばれる少なくとも1種である[6]〜[8]のいずれかに記載の塗工液。
[10]前記熱伝導性複合酸化物の形状が、粉末状、或いは、その平均長軸が5〜40μm、かつ、その平均短軸が0.1〜30μmの、薄片状又は針状である[6]〜[9]のいずれかに記載の塗工液。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱伝導性複合酸化物は、表面処理等の改良策を必須とすることなく、また、単独使用によって必要とする物性を得ることができる。より具体的には、本発明によれば、熱伝導性、耐水性、耐酸性、電気絶縁性に優れ、塗料や樹脂組成物に配合して得られる塗膜、フィルム、成形物における成形性に関わる課題が解決される熱伝導性組成物の提供が可能になる。一例を示して具体的に述べれば、耐水性・耐酸性に劣る酸化マグネシウムと、モース硬度が9と高い酸化アルミニウムの欠点を補うため、耐水性・耐酸性が良好で、酸化アルミニウムよりもモース硬度の低いスピネル構造の複合酸化物を用いることで、上記した従来技術の課題の解決が達成される。更に、より物性を充実する施策として、特に、原料に、その形状が薄片状或いは針状のアルミナ系化合物を使用し、これを焼成することが有効であり、このようにすれば、形状が薄片状或いは針状となる熱伝導性複合酸化物を高純度で得ることができる。更に、上記した本発明の熱伝導性複合酸化物を用いることで、有効な熱伝導性を持った、より有用な物品の提供が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、好ましい実施の形態を挙げ、本発明の熱伝導性複合酸化物の詳細について説明する。
本発明の熱伝導性複合酸化物は、少なくとも、アルミナ系化合物と、アルミニウム以外の金属の化合物とを焼成して得られた、主成分金属としてアルミニウムと、アルミニウム以外の金属を少なくとも1種含有するスピネル構造を有するものである。そして、主成分金属のアルミニウム以外の金属として、マグネシウム、亜鉛、カルシウム及びストロンチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有し、モース硬度(以下、単に硬度とも呼ぶ)を9未満に制御されたものであることを特徴とする。以下、本発明を構成する成分についてそれぞれ説明する。
【0014】
(アルミナ系化合物)
本発明の熱伝導性複合酸化物の原料用に用いられるアルミナ系化合物として、好ましく使用されるものの1つがアルミナ(Al23)である。アルミナは、耐熱性や化学安定性に優れ、アルミニウム塩、水酸化アルミニウム、アルミニウムアルコキシドの熱分解、金属アルミニウムの酸化などで合成される。出発原料と焼成温度の違いから、異なった結晶組成(α、γ、η、θ、χ等)の中間アルミナが得られるが、最終的にはα−Al23となる。工業的なα−アルミナの製造方法は、原料であるボーキサイトから苛性ソーダ等のアルカリ溶液でアルミナ分を抽出し、アルミニウム水和物である水酸化アルミニウムとし、さらにこれを焼成する方法である。上記のボーキサイトから苛性ソーダ溶液で水酸化アルミニウムを抽出する方法は、バイヤー法と呼ばれ、この方法によって製造される水酸化アルミニウムは、通常、3水和物であるギブサイト(A123・3H2O)である。一般によく知られているように、ダイアスポア以外の、ギブサイト、バイヤライト、ベーマイト〔一般式AlO(OH)で表される水酸化酸化アルミニウムを少なくとも90%以上含有した無機化合物の水和物である。〕等の水酸化アルミニウムや、アルミナゲル等の非晶質アルミナ水和物は、焼成により脱水し、η−アルミナ、χ−アルミナ、γ−アルミナ、κ−アルミナ、θ−アルミナ等々の種々の中間アルミナを経て、最終的には最も安定なα−アルミナになる。この遷移には、出発物質と焼成条件や雰囲気に固有の遷移系列があることもよく知られている。
【0015】
本発明者らは、その原料に用いるアルミナ系化合物として、安定なα−Al23、遷移アルミナであるγ−アルミナ、θ−アルミナ、更に、ベーマイトを出発原料として使用することにより、容易に反応を制御でき、目的とする本発明の熱伝導性複合酸化物とできることを確認した。更に、使用するアルミナ系化合物は、最終的に、得られる複合酸化物における強度や熱伝導性等の物性をも左右することが確認できた。従って、使用するアルミナ系化合物の粒子径が0.1〜100μmであれば好ましく、アスペクト比(長軸平均径/短軸平均径)が1〜500であるとより好ましい。形状は特に限定なく、球状、無定形のものが使用できる。最も好ましくは、異方性形状を示す、薄片状、板状、針状のものを使用するとよい。このような異方性形状を示す材料を原料に使用することは、得られる複合酸化物の機械的強度や熱伝導性を良好にする点で効果的である。上記異方性となるアルミナ系化合物を原料とした製法によって、その平均長軸が5〜40μm、その平均短軸が0.1〜30μmであり、更に、その形状が、厚さ0.1〜1μmの薄片状或いは針状となる熱伝導性複合酸化物を容易に高純度で得ることができる。その熱伝導性、分散性を考慮すれば、長短軸ともに、上記した下限よりも小さいと熱伝導性が低下する懸念があり、一方、上記した上限よりも大きいと分散が困難となる傾向が生じる。
【0016】
(アルミニウム以外の金属の化合物)
上記で説明したようなアルミナ系化合物と組み合わせて焼成するアルミニウム以外の金属種は、安全面と、各金属種単体における物理的な特徴も加味して、本発明では、マグネシウム、亜鉛、カルシウム及びストロンチウムからなる群から選択される少なくとも1種とした。焼成する原料に、アルミナ系化合物と共に、これらの金属の化合物を含有させることで、スピネル構造を有する複合酸化物を構成する。これらの金属は、原料を混合させると、酸化物、水酸化物或いは炭酸塩等の化合物としてアルミナ系化合物の表面に形成され、これを焼成することで本発明の複合酸化物が得られる。焼成する原料に用いる塩の種類は、合成方法に応じて選択することができるが、好ましくは、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、炭酸塩、塩基性炭酸塩、蓚酸塩及び酢酸塩から選ばれる少なくとも1種である。本発明の熱伝導性複合酸化物を調製する際において、原料として用いるこれらのアルミニウム以外の金属の化合物は、先に記載したアルミナ系化合物のアルミニウム元素のモル数(a)と、上記したアルミニウム以外の金属の化合物を構成する金属のモル数(b)との比(bモル)/(aモル)が、0.1以上1.0以下となるように構成することを要する。
【0017】
(アルミニウムとアルミニウム以外の金属の使用割合)
本発明の熱伝導性複合酸化物を構成する全ての金属の合計に対する各金属の含有割合は、アルミナ系化合物に起因するアルミニウムが50〜90モル%、アルミニウム以外の金属が10〜50モル%の範囲で好適に調製できる。その中で更に好ましくは、アルミニウム60〜80モル%、その他の金属が20〜40モル%である。例えば、アルミニウムが90モル%を超えるとアルミナの性質が支配的となり、硬度が高くなり、製造装置の摩耗が問題となるといった場合があるので好ましくない。一方、例えば、アルミニウムが50モル%を下回ると、アルミニウム以外の金属成分が酸化物を形成し、耐水性、耐酸性、電気絶縁性等の諸物性に悪影響を及ぼす場合があるので好ましくない。
【0018】
上記したように、各金属の含有割合が上記の範囲にあると、安定して、耐水性、耐酸性、電気絶縁性に優れ、更に強度(硬度)を保ちつつ、合成樹脂等への配合後の成形性にも優れた複合酸化物とすることができるので、より好ましい。特に、各金属の含有割合を上記の範囲とした本発明の複合酸化物は、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウムと比較しても、熱伝導性は良好で、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛と比較しても耐水性、耐酸性が優れたものであった。
【0019】
(熱伝導性複合酸化物の表面改質)
本発明の熱伝導性複合酸化物において、表面処理を行って、その表面を改質した形態も好ましく、その機能性がより向上したものとなる。具体的には、例えば、樹脂に添加した際に、表面処理を施すことで樹脂に対する親和性を向上させた複合酸化物は、複合酸化物の分散性を高める効果によって、熱伝導性をより良好なものとすることができる。
【0020】
表面処理に使用する化合物としては、例えば、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、リン酸エステル、リン酸エステル金属塩、シランカップリング剤、界面活性剤、高分子凝集剤、チタネート及びシリコン等が挙げられ、これらの中から1種以上を選択することができる。これらの化合物の使用量としては、好ましくは複合酸化物100質量%に対して、0.01〜20質量%の割合で使用し、表面処理を行うことが好ましい。
【0021】
表面処理の方法としては、特に限定されず、例えば、90℃以上の水に溶解させたステアリン酸ナトリウムの水溶液を、複合酸化物をホモミキサーにて解膠した懸濁液中に滴下し、複合酸化物表面にステアリン酸を析出させることによって行うことができる。
【0022】
(熱伝導性複合酸化物の製造方法)
次に、本発明の熱伝導性複合酸化物の製造方法について説明する。本発明の熱伝導性複合酸化物を製造する方法には、湿式法と乾式法があり、どちらも十分な物性の熱伝導性複合酸化物が得られる。しかし、例えば、より高い物性効果を追求するための施策として、薄片状或いは針状形状の複合酸化物とすることが求められるが、この点を考慮すると、湿式法を用いることで、より高い純度でこのような形状のものが得られる。このため、本発明の熱伝導性複合酸化物の製造方法では、より好ましい形態のものが得られる湿式法を用いることとした。具体的には、アルミナ系化合物の形状が薄片状或いは針状である原料を使用した湿式法によれば、より好ましい形態の、平均長軸が5〜40μm、平均短軸が0.1〜30μmであり、形状が薄片状或いは針状となる均一な、より有用な複合酸化物を高純度で得ることができる。すなわち、このような形態の本発明の熱伝導性複合酸化物は、適度な硬度と、高い熱伝導性を示すより好適なものとなる。
【0023】
湿式法を利用した本発明の熱伝導性複合酸化物の製造方法は、アルミナ系化合物の懸濁水溶液に、アルミニウム以外の金属の化合物の水溶液とアルカリ剤を添加して、上記アルミナ系化合物の表面に沈殿物を析出させて前駆体を生成させる工程と、生成した前駆体を焼成し、その後に焼成物を粉砕処理する工程を有することを特徴とする。より具体的には、本発明の複合酸化物の製造方法では、まず、主成分金属を含む原料として、アルミナ系化合物と、マグネシウム、亜鉛、カルシウム及びストロンチウムから選ばれる金属の化合物、例えば、各金属の、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、炭酸塩、塩基性炭酸塩、蓚酸塩及び酢酸塩等を使用し、アルミナ系化合物を水中に懸濁させ、そこに、上記から選択される金属の化合物を含有する水溶液をアルカリ剤と同時に滴下し、アルミナ系化合物上に沈殿物または共沈物を析出させるとともに、前駆体を生成させる。次に、濾過乾燥により生成した前駆体を焼成した後に粉砕処理することで、スピネル構造を有する粉体(スピネル粉体)を得る。その使用において、得られたスピネル粉体を塗料或いは樹脂中に練りこむことにより、高い熱伝導性を持たせることが達成される。
【0024】
この際に使用するアルミナ系化合物としては、先に挙げたように、ベーマイト等が使用できる。ベーマイトは、AlO(OH)で表される含水無機化合物の水和物であるが、擬ベーマイトとして知られている含水量の多いタイプのものでも同様に使用できる。また、遷移アルミナとして知られるγ−アルミナやθ−アルミナ、安定なα−アルミナをアルミニウム源として使用してもベーマイトを用いた場合とほぼ同等のスピネル粉体を得ることができた。
【0025】
本発明の製造方法において重要な点は、前駆体としてアルミナ系化合物の表面上に、アルミニウム以外の金属の沈殿物を形成することにあり、このためには、上記の沈殿法(共沈法)以外にもアルカリ源となる物質を液中で分解してアルカリを生じさせて沈殿を形成する均一沈殿法や、水酸化物の懸濁液中に炭酸ガスを吹き込み炭酸塩の沈殿を形成するガス法等、一般的に利用される合成法であればいずれも適用可能である。
【0026】
先に述べたように、本発明の複合酸化物は、上記した湿式法に限らず、下記のような乾式法によっても製造することもできる。具体的には、原料となるアルミナ系化合物として、アルミナ、ベーマイト、または遷移アルミナと、アルミニウム以外の他の金属源としてマグネシウム、亜鉛、カルシウム及びストロンチウムからなる金属群のうち1種または2種以上の金属を含有する化合物である、酸化物、水酸化物又は炭酸塩とを用い、その所定量をミキサーにて混合し、得られた混合物を600℃以上の温度で焼成した後、粉砕処理することでスピネル粉体を得ることができる。ただし、ミキサー混合時に、アルミナ系化合物の形状が壊れるおそれがあるため混合条件には注意が必要である。また、混合は一般に空気中で行うが、水、アルコール等の溶媒を用いて混合を行うこともできる。このようにして得られたスピネル粉体は、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウムと比較しても、熱伝導性は良好で、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛と比較しても、耐水性、耐酸性が優れるものであった。湿式法と乾式法を比較した場合、乾式法は簡便で多量に合成するのに適した方法であるのに対し、湿式法は均質性に優れた高品位のものを合成するのに適した方法である。
【0027】
本発明の熱伝導性複合酸化物を製造する方法として特に有用な湿式法としては、アルミナ系化合物の懸濁液中に、アルミニウム以外の主成分金属を含む水溶液(2種以上の金属の塩を含む場合にはその混合水溶液)と、アルカリ剤を同時に添加して沈殿物を析出させて前駆体を生成させる工程(1)と、生成した前駆体を、例えば、600〜1500℃で焼成した後に粉砕処理する工程(2)とを有する方法が挙げられる。以下、本発明の複合酸化物の湿式製造法の詳細について説明する。
【0028】
上記工程(1)では、アルミナ系化合物の懸濁液と、アルミニウム以外の主成分金属の化合物を含有する水溶液を調製する。金属の化合物としては、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、炭酸塩、蓚酸塩及び酢酸塩等の工業用として一般的に使用されている塩類や塩化物等を用いることができる。以下、金属塩を例にとって説明する。上記水溶液中の金属塩の濃度は、約0.1〜10モル/リットルとすることが適当である。この金属塩の水溶液は、例えば、沈殿剤である炭酸ナトリウム等のアルカリ水溶液とともに、予め用意した沈殿媒体中に同時に滴下される。金属塩換算の反応濃度は、沈殿生成物(共沈殿物)に対して特に悪い影響を及ぼす程度ではなければよいが、作業性及びその後の工程を考慮すると、0.05〜1.0モル/リットルとすることが好ましい。0.05モル/リットル未満であると、収量が少なくなるため好ましくない。一方、1.0モル/リットルを超えると、合成物が不均一になる場合がある。共沈殿物を析出させる温度(合成温度)は、湿式法における通常の温度とすればよい。具体的には、0〜100℃で共沈殿物を析出させる(合成する)ことが好ましい。
【0029】
上記したように、金属塩の水溶液と、沈殿剤であるアルカリ剤の水溶液を同時に添加して、アルミナ系化合物の懸濁液に加えて共沈殿物を析出させる際には、そのpHを5〜12の範囲とすることが好ましい。共沈殿物が析出する際のpHが12を超えると、アルミナ系化合物の表面が溶解するおそれがあるので、組成が目的のものと異なってしまうおそれがあるので好ましくない。一方、沈殿物(共沈殿物)が析出する際のpHが5未満でも、同様に成分金属が沈殿物を形成しなくなるおそれがあるので好ましくない。
【0030】
上記工程(2)では、析出した前駆体を水洗及び乾燥する。水洗することで、合成中に副生した水溶性の塩を除去することができる。水洗は、濾液の電気伝導率が、1000μS/cm以下となるまで行うことが好ましく、500μS/cm以下となるまで行うことがさらに好ましい。濾液の電気伝導率が上記の範囲を超える時、焼成物に不均一が生ずる場合があり、また焼成時に残留した塩が分解し、有毒なガスを生じるおそれもあるため好ましくない。
【0031】
更に、工程(2)では、水洗及び乾燥した前駆体を、例えば、600〜1500℃、より好ましくは、1000〜1500℃の温度で焼成する。焼成することで前駆体を結晶化させることができる。焼成温度が上記の温度範囲よりも低いと、スピネル構造を形成しにくくなるので好ましくない。一方、焼成温度を上記の温度範囲よりも高くしても生成物に大きな変化がないため、エネルギーを無駄に消費することになり、経済的な面で好ましくない。焼成後は、焼成により副生した水溶性の塩を除去するために水洗することが好ましい。水洗は、濾液の電気伝導率が500μS/cm以下となるまで行うことが好ましい。その後、約120℃で約12時間程度乾燥することが好ましく、これにより、本発明の熱伝導性複合酸化物を安定して得ることができる。このようにして得られる本発明の複合酸化物を、例えば、粉末X線回折により分析すれば、スピネル構造を有する異相のない単一化合物であることを確認することができる。
【0032】
(熱伝導性複合酸化物の使用)
本発明の熱伝導性複合酸化物の好ましい利用の中でも、熱伝導性付与を目的とした、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等、種々のプラスチックスへの添加が有効である。特に、熱可塑性樹脂へ添加した場合においては、従来の複合酸化物顔料を用いた場合よりも射出成形等による成形性の自由度が高く、この点で好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリロニトリル−エチレン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、ポリアミノビスマレイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリルスルホン樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、フッ化樹脂、液晶ポリマー、オレフィン−ビニルアルコール共重合体、アイオノマー樹脂、ポリアリレート樹脂等が挙げられ、これらを少なくとも1種、目的に応じて選択して使用することができる。
【0033】
<フィラー>
先に述べたように、本発明の熱伝導性複合酸化物の製造方法によれば、薄片状や針状の形状のものを容易に得ることができるが、これらはフィラーとして有用である。ここで、樹脂やゴム、塗料等に添加し、強度、機能性向上等を目的として使用されるものがフィラーである。一般に、熱伝導性フィラーの使用は、配合量が増加するとともに、溶融流動性と同時に機械的強度の低下が課題となっている。例えば、カーボン系フィラーの使用は、導電性があるために樹脂本来の特徴である絶縁性を損ない、セラミック系のものは、絶縁性を持つものの熱伝導性が損なわれるなどの問題がある。熱伝導性フィラーには、金属系、無機化合物、炭素系フィラー等が使用され、例えば、銀、銅、アルミニウム、鉄等の金属系フィラー、アルミナ、マグネシア、シリカ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン等の無機系フィラー、ダイヤモンド、黒鉛、グラファイト等の炭素系フィラー等がある。中でも、電気絶縁性が求められる電子機器等では、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、シリカ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、ダイヤモンド等の使用が好ましいとされている。ところが、これらのフィラーの添加は、耐水性、耐酸性、硬度、電気絶縁性の部分で課題が多い。
【0034】
これに対し、本発明の熱伝導性複合酸化物は、以上の各種フィラーの弱点を改善した特性を有している点から、改良フィラーとして有効に使用できる。更に、既存の熱伝導性フィラーの弱点を補う目的から、上記に挙げたフィラーと共に利用し、双方を組み合わせた使用も、目的とする特性に応じて調整できる好ましい使用方法である。本発明の熱伝導性複合酸化物含有組成物は、本発明の熱伝導性複合酸化物に加えて、上記したような熱伝導性フィラーが含有されてなることを特徴とする。
【0035】
<塗工液>
本発明の熱伝導性複合酸化物は、塗料等の塗工液に添加して用いることができる。本発明の熱伝導性複合酸化物を添加して塗工液とする場合には、複合酸化物と共に、例えば、その他の着色剤、被膜又は成形物形成用の樹脂や有機溶剤等をビヒクル内に混合及び分散させて得られる着色用製剤を利用することもできる。このような塗工液に含有される本発明の複合酸化物の割合は、塗工液全体100質量部当たり5〜80質量部であることが好ましく、10〜70質量部であることがさらに好ましい。このようにして調製される塗工液を用いて形成した塗工被膜や塗工成形物は、耐水性、耐酸性、電気絶縁性に優れ、更に強度を保ちつつ、熱伝導性にも優れている。
【0036】
塗工液に含有させることのできる樹脂の種類は特に限定されず、用途に応じて選択することができる。樹脂の具体例としては、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリスチレン系、アクリル系、フッ素系、ポリアミド系、セルロース系、ポリカーボネート系、ポリ乳酸系の熱可塑性樹脂;ウレタン系、フェノール系の熱硬化性樹脂等を挙げることができる。
【0037】
塗工液に含有させることのできる有機溶剤の種類は特に限定されず、従来公知の有機溶剤を用いることができる。有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、ブチルアセテート、シクロヘキサン等を挙げることができる。
【0038】
塗工液には、用途に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で「その他の成分」を適宜選択して含有させることができる。「その他の成分」の具体例としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、分散剤、帯電防止剤、滑剤、殺菌剤等を挙げることができる。
【0039】
塗工液を塗工する方法としては、従来公知の方法を採用することができる。具体的には、スプレー塗装、ハケ塗り、静電塗装、カーテン塗装、ロールコータを用いる方法、浸漬による方法等を挙げることができる。また、塗工した塗工液を被膜とするための乾燥方法としても、従来公知の方法を採用することができる。具体的には、自然乾燥、焼き付け等の方法を、塗工液の性状等に応じて適宜選択して採用すればよい。
【0040】
本発明の熱伝導性複合酸化物を添加した塗工液を用いることで、各種の基材上に塗工して得られる機能性に優れる塗工被膜や塗工成形物を作製することができる。基材材料としては、金属、ガラス、天然樹脂、合成樹脂、セラミックス、木材、紙、繊維、不織布、織布、及び皮革等が挙げられ、これらを用途に応じて適宜に選択することができる。なお、このようにして機能性が付与された塗工被膜は、家庭用以外にも、工業、農業、鉱業、漁業等の各産業に利用することができる。また、塗工形状にも制限はなく、シート状、フィルム状、板状等、用途に応じて選択することができる。
【0041】
<樹脂組成物>
更に、本発明の複合酸化物は、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂等を主成分とする樹脂に配合添加して使用でき、公知の方法に準じ、必要に応じて他の添加剤と共に配合混合した樹脂組成物は、押出成形機に供して所定の樹脂成形物品に成形することができる。この際の樹脂成型用組成物中の複合酸化物の含有率は、例えば、5〜95質量%で使用することができ、耐水性、耐酸性、絶縁性に優れ、更に強度を保ちつつ、合成樹脂等への配合後の樹脂成形性にも優れている。その使用量が前記範囲を上回ると、強度低下や、成形加工性の低下をおこすおそれがあり、下回った場合には、熱伝導性が劣る可能性があるので好ましくない。
【0042】
樹脂への添加方法は特に限定するものではなく、従来公知の方法を用いることができる。例えば、樹脂に直接配合し、混練、成形加工する方法の他、予め樹脂成分、滑剤等に高濃度で分散しておいた組成物を使用する方法が挙げられる。先に述べたように、樹脂成型用組成物中の本発明の複合酸化物の含有率は5〜95質量%であることが好ましいが、その他の添加剤として必要に応じ、酸化防止剤、紫外線防止剤、帯電防止剤、抗菌剤、安定剤、架橋剤、可塑剤、潤滑剤、離型剤、難燃剤、タルク、アルミナ、クレー、シリカ等の無機充填剤を配合することができる。同時に、その分散助剤として、金属石けん類、ポリエチレンワックス等が用いられる。金属石けんとしては、例えば、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、パルミチン酸マグネシウム、オレイン酸カルシウム、オレイン酸コバルト等が挙げられる。また、ポリエチレンワックスとしては、一般重合型、分解型、変成形等の各種ポリエチレンワックスが用いられる。
【0043】
更に、本発明の複合酸化物を利用した上記した塗工液や樹脂組成物は、通常、白色か淡色であるので、着色剤を添加して、種々に着色された熱伝導性塗工液や樹脂組成物とすることができる。この際に使用する着色剤として、各種の有機、無機顔料を使用することができる。本発明の複合酸化物以外の着色剤としては、例えば、フタロシアニン系顔料、特に、臭素化フタロシアニンブルー顔料、フタロシアニングリーン顔料等、アゾ系顔料、特に、ポリ縮合アゾ系顔料、アゾメチンアゾ系顔料等、アゾメチン系顔料、イソインドリノン系顔料、キナクリドン系顔料、アンスラキノン系顔料、ジオキサジン系顔料及びペリノン・ペリレン系顔料等の有機顔料、黒色以外のその他の複合酸化物系顔料、酸化チタン系白色顔料、酸化チタン系黄色顔料、酸化チタン系黒色顔料等の酸化チタン系顔料、カーボンブラック、群青、ベンガラ等の無機顔料が挙げられる。
【0044】
更に、例えば、各種顔料、添加剤等を配合したマスターバッチコンパウンドとし、押出し機で溶融混練する方法から得ることができる。コンパウンド用樹脂に、本発明の複合酸化物と分散助剤を配合し、更に必要に応じて上記したその他の添加剤を添加して、ヘンシェルミキサー等の混合機にて混合するか、混合物を更にニーダーや加熱二本ロールミルで混練し、冷却後、粉砕機で粉砕して粗粉状にするか、押出成形機に供し、押出成形して、ビーズ状、柱形状に成形する方法によりなされる。成形に用いられる方法は、特に限定はなく、例えば、射出成形、押出成形、加熱圧縮成形、ブロー成形、インフレーション成形、真空成形等の方法により得られる。
【0045】
本発明の熱伝導性複合酸化物は、上記したような塗工液や樹脂組成物とし、これを用いることで、放熱性と同時に、優れた耐酸性、耐湿性を有する電子デバイスにおいても使用できる。例えば、金属回路基板、回路基板、金属積層板、内層回路入り金属張積層板等に利用でき、接着性シートあるいは放熱シート、半導体封止剤、接着剤又は放熱スペーサー、グリース等として使用できる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下の文中、「部」及び「%」は特に断らない限り質量基準である。
【0047】
[実施例1]
下記のようにして、湿式法にて、本発明の実施例のスピネル構造を有する複合酸化物であるスピネル粉体を作製した。まず、ベーマイト粉末(AlO(OH)、モル質量60)100部(1.66モル)を、水3リットル中に撹拌しながら加え、ベーマイトの懸濁液とした。この際に使用したベーマイトには、粒子形状が粒状で平均粒子径約6μmのものを使用した。次いで、塩化マグネシウム6水塩(モル質量203.3、表中は「塩化Mg」と略記)170部(0.83モル)を、水200部中に溶解し、塩化マグネシウム水溶液を作製した。また、無水炭酸ナトリウム130部を、水200部中に溶解しアルカリ溶液を作製した。そして、先に調製したベーマイトの懸濁液を撹拌しつつ70℃に加熱し、pH8に調整しつつ、先に調製したマグネシウム水溶液とアルカリ溶液を滴下した。滴下が終了したら懸濁液を80℃に加熱し、加温した状態で1時間保持した。その後、懸濁液をデカンテーションにより水洗し、電気伝導度が500μS/cm以下になった段階で濾過した。得られた濾過物を120℃にて乾燥した後、乾燥物を空気中1300℃で5時間焼成した。そして、得られた焼成物を粉砕し、本実施例の粉末状のスピネル(以下スピネル粉体と呼ぶ)を得た。
【0048】
上記で得られたスピネル粉体について、平均粒子径及び硬度を測定した。その詳細については後述する。また、得られたスピネル粉体を樹脂中に練り込み、成型した後、得られた成形体の物性を測定し、評価した。測定方法、評価方法及び評価基準についての詳細は、後述する。結果を組成等と合わせて表1に示した。
【0049】
[実施例2]
実施例1で用いた塩化マグネシウム6水塩を、85部(0.42モル)にしたこと以外は実施例1と同様にして、本実施例のスピネル粉体を得た。そして、実施例1と同様に、物性の測定、各試験による評価を行い、その結果を表1に示した。
【0050】
[実施例3]
実施例1で用いた塩化マグネシウム6水塩を、203部(1.00モル)にしたこと以外は実施例1と同様にして、本実施例のスピネル粉体を得た。そして、実施例1と同様に、物性の測定、各試験による評価を行い、その結果を表1に示した。
【0051】
[実施例4]
実施例1で用いた塩化マグネシウム6水塩の代わりに、硫酸亜鉛7水塩(モル質量287.7、表中は「硫酸Zn」と略記)を240部(0.83モル)使用したこと以外は実施例1と同様にして、本実施例のスピネル粉体を得た。そして、実施例1と同様に、物性の測定、各試験による評価を行い、その結果を表1に示した。
【0052】
[実施例5]
ベーマイト以外の金属塩として、実施例1で用いた塩化マグネシウム6水塩を85部(0.42モル)と、硫酸亜鉛7水塩(モル質量287.7)120部(0.42モル)とを用いたこと以外は実施例1と同様にして、本実施例のスピネル粉体を得た。そして、実施例1と同様に、物性の測定、各試験による評価を行い、その結果を表1に示した。
【0053】
[評価]
実施例の各スピネル粉体について、粒径、モース硬度及び電気絶縁性を下記の方法で測定するとともに、耐酸性及び耐水性を下記の方法で評価した。また、後述するように、スピネル粉体を樹脂中に練り込み成型した後、得られた成形体の耐酸性、耐水性及び熱伝導率を下記の方法で測定し、スピネル粉体を評価した。表1中に、各スピネル粉体の原料及び組成等とともに、得られた評価結果をまとめて示した。
【0054】
(数平均粒子径測定)
スピネル粉体(複合酸化物)の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡写真から抽出した画像より、無作為に選択した50点の数値を平均した数平均粒子径である。また、後述する薄片状や針状等の異方性を有する複合酸化物においても上記と同様に、50点数値平均して短軸長軸平均長から、短軸平均長/長軸平均長の数値が1/2以下であるものとし、それぞれの短軸平均長、長軸平均長を測定した。
【0055】
(硬度測定)
スピネル粉体の硬度の測定は、1〜10のモース硬度に準拠し、比較測定により行った。具体的には、測定物質を、既知のモース硬度値を有する表面平滑な2つの鉱物体の間にて摺合せ、表面状態によって確認した。本発明の熱伝導性複合酸化物は、このモース硬度が9未満であることを要する。その理由は、モース硬度が9の酸化アルミニウムでは、先に述べたように、硬度が高過ぎて製造装置の摩耗の問題等を生じるからである。本発明で所望する、本発明の熱伝導性複合酸化物のより好ましいモース硬度としては、6〜8、更には7〜8程度のものである。
【0056】
(評価用試料の調製)
スピネル粉体(複合酸化物)を用い、以下のようにして、評価対象とする複合酸化物の含有率が異なる2種類の評価用樹脂成形体を調製した。ポリプロピレン〔プライムポリマー社製;MFR(Melt flow rate)20g/10min〕50質量部に対して、複合酸化物50質量部を含む樹脂組成物と、上記ポリプロピレン30質量部に対して、複合酸化物70質量部を含む樹脂組成物とをそれぞれに用い、設定温度200℃のプラストミルで溶融混練し、175℃で金型プレス型を行い、評価用樹脂成形体を調製した。
【0057】
(耐酸性測定−1)
上記で調製した複合酸化物50質量部を含む樹脂組成物からなる評価用樹脂成形体を20mm×20mm×60mmの大きさに切り出して、50℃に加熱されたpH2.0の塩酸溶液に、得られた成形体を3時間浸漬した。浸漬前後で耐電圧を測定し、得られた測定値を用いて、耐酸性を以下の基準で判定した。
【0058】
<耐酸性−1の判定基準>
◎:浸漬前の初期値からの浸漬後の耐電圧の低下が5%未満
○:浸漬前の初期値からの浸漬後の耐電圧の低下が5%以上10%未満
△:浸漬前の初期値からの浸漬後の耐電圧の低下が10%以上、50%未満
×:浸漬前の初期値からの浸漬後の耐電圧の低下が50%以上
【0059】
(耐酸性測定−2)
測定用試料として、実施例1と実施例4のスピネル粉体をそれぞれに用い、スピネル粉体2部を、1/10規定の硫酸水溶液に浸漬し、容器に入れて密閉した状態で100時間静置後pHを測定した。得られた測定値を用いて、耐酸性を以下の基準で判定し評価した。なお、上記測定において、いずれの試料も初期pHは1.2であった。また、耐酸性−2の試験は、実施例については、実施例1と4のもののみ行った。
【0060】
<耐酸性−2の判定基準>
◎:浸漬前の初期値からの100時間浸漬後のpH上昇が0.5未満
○:浸漬前の初期値からの100時間浸漬後のpH上昇が0.5以上1.0未満
△:浸漬前の初期値からの100時間浸漬後のpH上昇が1.0以上3.0未満
×:浸漬前の初期値からの100時間浸漬後のpH上昇が3.0以上
【0061】
(耐水性測定)
スピネル粉体(複合酸化物)を5部用い、純水100部に浸漬し、容器に入れて100℃で5分間煮沸した後、濾過し、その濾液を測定用試料とした。上記のようにして調製した測定用試料を用い、電気伝導度計にて電気伝導度を測定し、下記の基準で判定し評価した。
【0062】
<耐水性の判定基準>
◎:浸漬前の初期値からの浸漬後の電気伝導度の上昇が100μS/cm未満
○:浸漬前の初期値からの浸漬後の電気伝導度の低下が、100μS/cm以上、300μS/cm未満
△:浸漬前の初期値からの浸漬後の電気伝導度の低下が、300μS/cm以上、1000μS/cm未満
×:浸漬前の初期値からの浸漬後の電気伝導度の低下が1000μS/cm以上
【0063】
(電気絶縁性測定)
スピネル粉体(複合酸化物)をアルミニウム製リング中に充填後、油圧プレスにて20MPaで加圧成型して測定用試料を調製した。この測定用試料を用い、電気抵抗率計にて電気体積抵抗値の測定を行い、得られた測定値を用い、下記の基準で判定し評価した。
◎:1010Ω・cm以上
○:105Ω・cm以上〜1010Ω・cm未満
△:10Ω・cm以上〜105Ω・cm未満
×:10Ω・cm未満
【0064】
(熱伝導率測定)
評価対象とする複合酸化物の含有量が、50%と70%である2種類の樹脂組成物をそれぞれに用い、縦20mm×横20mm×高さ60mmの金型を用い、先に調製した評価用樹脂成形体と同様の方法で試験片を作製した。この試験片の熱伝導率を、京都電子工業株式会社製TPS−2500Sを用いて測定し、測定値を表中に示した。表中の上段の値は、複合酸化物の含有量が50%の樹脂組成物を用いて調製した試験片(表中に「50%含有」と表示)についてのものであり、表中の下段の値は、複合酸化物の含有量が70%の樹脂組成物を用いて調製した試験片(表中に「70%含有」と表示)についてのものである。
【0065】
【0066】
[実施例6]
実施例1で用いたベーマイト粉末の代わりに、α−アルミナ粉末(Al23、コランダム型(三方晶系)、モース硬度9、モル質量102)85部(0.83モル)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、塩化マグネシウム6水塩を原料に用いた本実施例のスピネル粉体を得た。そして、実施例2と同様に、物性の測定、各試験による評価を行い、その結果を表2に示した。
【0067】
[実施例7]
実施例1で用いたベーマイト粉末の代わりに、γ−アルミナ粉末(Al23、スピネル型(立方晶系)、モル質量102)85部(0.83モル)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、塩化マグネシウム6水塩を原料に用いた本実施例のスピネル粉体を得た。そして、実施例2と同様に、物性の測定、各試験による評価を行い、その結果を表2に示した。
【0068】
[実施例8]
実施例1で用いたベーマイト粉末の代わりに、θ−アルミナ粉末(Al23、モル質量102)85部(アルミナとして0.83モル、アルミニウムとして1.66モル)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、塩化マグネシウム6水塩を原料に用いた本実施例のスピネル粉体を得た。そして、実施例2と同様に、物性の測定、各試験による評価を行い、その結果を表2に示した。なお、表中の(a)アルミナ系化合物のモル数は、試料の組成比を明らかにするため、アルミニウムのモル数とした。
【0069】
[実施例9]
実施例6で用いた塩化マグネシウム6水塩の代わりに、塩化カルシウム1水塩(モル質量129、表中は「塩化Ca」と略記)107部(0.83モル)を使用したこと以外は実施例6と同様にして、本実施例のスピネル粉体を得た。そして、実施例2と同様に、物性の測定、各試験による評価を行い、その結果を表2に示した。
【0070】
[実施例10]
実施例6で用いた塩化マグネシウム6水塩の代わりに、塩化ストロンチウム6水塩(モル質量267、表中は「塩化St」と略記)222部(0.83モル)を使用したこと以外は実施例6と同様にして、本実施例のスピネル粉体を得た。そして、実施例2と同様に、物性の測定、各試験による評価を行い、その結果を表2に示した。
【0071】
【0072】
[実施例11]
下記の乾式法にて、スピネル粉体を作製した。具体的には、ベーマイト粉末120部(2.0モル)と、炭酸マグネシウム粉末(モル質量84、表中は「炭酸Mg」と略記)84部(1.0モル)を秤量して小型ミキサーに投入した。そして、3分間混合後、空気中1300℃で5時間焼成し、焼成物を粉砕し、本実施例のスピネル粉体を得た。得られたスピネル粉体について、実施例2と同様に、物性の測定、各試験による評価を行い、その結果を表3に示した。なお、ベーマイト粉末は、実施例1と同様のものを使用した。
【0073】
[実施例12]
下記の湿式混合法にて、スピネル粉体を作製した。具体的には、まず、ベーマイト粉末120部(2.0モル)を水3リットル中に撹拌しながら加え、懸濁液とした。次いで、懸濁液を撹拌しつつ炭酸マグネシウム84部(1.0モル)を加えた。その後、懸濁液をデカンテーションにより水洗し、電気伝導度が500μS/cm以下になった段階で濾過した。得られた濾過物を120℃にて乾燥した後、乾燥物を空気中1300℃で5時間焼成した。そして、得られた焼成物を粉砕し、本実施例のスピネル粉体を得た。得られたスピネル粉体について、実施例2と同様に、物性の測定、各試験による評価を行い、その結果を表3に示した。なお、ベーマイト粉末は、実施例1と同様のものを使用した。
【0074】
[実施例13]
実施例11と同様に、乾式法にて、スピネル粉体を作製した。具体的には、実施例11で使用した炭酸マグネシウムの代わりに塩基性炭酸亜鉛粉末(2ZnCO3・3Zn(OH)2・H2O、モル質量549、表中は「炭酸Zn」と略記)110部(0.2モル、亜鉛として1.0モル)を使用したこと以外は実施例11と同様にして、本実施例のスピネル粉体を得た。得られたスピネル粉体について、実施例2と同様に、物性の測定、各試験による評価を行い、その結果を表3に示した。この時、組成を明らかにするため、モル数は亜鉛としてのモル数を記載した。なお、ベーマイト粉末は、実施例1と同様のものを使用した。
【0075】
[実施例14]
実施例11で用いたベーマイト粉末の代わりに、α−アルミナ粉末102部(1モル、アルミニウムとして2モル)を使用したこと以外は実施例11と同様にして、乾式法でスピネル粉体を得た。得られたスピネル粉体について、実施例2と同様に、物性の測定、各試験による評価を行い、その結果を表3に示した。なお、組成を明らかにするため、モル数はアルミニウムとしてのモル数を記載した。
【0076】
[実施例15]
実施例11で用いたベーマイト粉末の代わりに、γ−アルミナ粉末102部(1モル、アルミニウムとして2モル)を使用したこと以外は実施例11と同様にして、乾式法でスピネル粉体を得た。得られたスピネル粉体について、実施例2と同様に、物性の測定、各試験による評価を行い、その結果を表3に示した。なお、組成を明らかにするため、モル数はアルミニウムとしてのモル数を記載した。
【0077】
[実施例16]
実施例11で用いたベーマイト粉末の代わりに、θ−アルミナ粉末102部(1モル、アルミニウムとして2モル)を使用したこと以外は実施例11と同様にして、乾式法でスピネル粉体を得た。得られたスピネル粉体について、実施例2と同様に、物性の測定、各試験による評価を行い、その結果を表3に示した。なお、組成を明らかにするため、モル数はアルミニウムとしてのモル数を記載した。
【0078】
【0079】
[実施例17]
実施例1で用いたベーマイト粉末の代わりに、アスペクト比20、平均粒子径10μmの薄片状のアルミナを85部使用したこと以外は、実施例1と同様にして、本実施例の薄片状のスピネル粉体を得た。そして、実施例2と同様に、物性の測定、各試験による評価を行い、その結果を表4に示した。
【0080】
[実施例18]
実施例1で用いたベーマイト粉末の代わりに、アスペクト比20、平均粒子径8μmの薄片状のベーマイトを85部使用したこと以外は実施例1と同様にして、本実施例の薄片状のスピネル粉体を得た。そして、実施例2と同様に、物性の測定、各試験による評価を行い、その結果を表4に示した。
【0081】
[実施例19]
実施例1で用いたベーマイト粉末の代わりに、アスペクト比60、平均粒子径7μmの針状のベーマイトを85部使用したこと以外は実施例1と同様にして、本実施例の針状のスピネル粉体を得た。そして、実施例2同様に、物性の測定、各試験による評価を行い、その結果を表4に示した。
【0082】
【0083】
[実施例20]
前記で得た、本発明の実施例のスピネル構造を有する複合酸化物であるスピネル粉体を使用し、下記のようにして、スピネル粉体の表面を改質した。まず、実施例1のスピネル粉体140部を、水800部の中に撹拌しながら加え、懸濁液とした。次いで、懸濁液を撹拌しつつ、90℃の水320部にステアリン酸ナトリウム7部を溶解した水溶液を滴下した。その後、希硫酸を、pHが9になるまで滴下して中和した。得られた懸濁液をデカンテーションにより水洗し、電気伝導度が300μS/cm以下になった段階で濾過した。得られた濾過物を120℃にて乾燥した後、乾燥物を空気中1300℃で5時間焼成した。そして、得られた焼成物を粉砕し、本実施例のステアリン酸にて表面処理されたスピネル粉体を得た。得られたスピネル粉体について、実施例1と同様に、物性の測定、各試験による評価を行い、その結果を表5に示した。
【0084】
[実施例21]
実施例20で用いたステアリン酸ナトリウムの代わりに、オレイン酸を使用したこと以外は実施例20と同様にしてオレイン酸にて表面処理されたスピネル粉体を得た。得られたスピネル粉体について、実施例1と同様に、物性の測定、各試験による評価を行い、その結果を表5に示した。
【0085】
【0086】
[実施例22]
前記で得た、本発明の実施例のスピネル構造を有する複合酸化物であるスピネル粉体に、熱伝導性フィラーを加えて、本実施例の熱伝導性組成物を得た。具体的には、実施例1のスピネル粉体140部に、熱伝導性フィラーである窒化ホウ素を7部加えた後、混合機にて均一になるまで混合粉砕し、熱伝導性組成物を得た。得られたスピネル粉体と熱伝導性フィラーとを含む熱伝導性組成物について、実施例2と同様に、物性の測定、各試験による評価を行い、その結果を表6に示した。
【0087】
[実施例23]
実施例14のスピネル粉体140部に、熱伝導性フィラーであるα−アルミナを2部加えた後、混合機にて均一になるまで混合粉砕し、混合物を得た。得られたスピネル粉体と熱伝導性フィラーとを含む熱伝導性組成物について、実施例2と同様に、物性の測定、各試験による評価を行い、その結果を表6に示した。
【0088】
【0089】
[比較例1]
実施例1で原料に用いたと同様のベーマイト粉末を1300℃以上の高温で焼成することにより、アルミナ粉末を得た。そして、実施例1で行ったと同様の、各試験を行い、物性を測定し、評価し、評価結果を表7に示した。
【0090】
[比較例2]
硫酸アルミニウムの8%水溶液1260部と、無水炭酸ナトリウム640部を水2000部に溶解したアルカリ溶液を、水1800部に、pH4となるよう同時に滴下した。その後、塩化マグネシウム6水塩200部を水1000部に溶解した水溶液と、アルカリ溶液の残りをpH8.5になるよう同時に滴下し、アルミニウム系化合物を含む懸濁液を得た。そして、得られた懸濁液を実施例1と同様にすることにより本比較例のスピネル粉体を得た。そして、実施例1と同様に、各試験を行い、物性を測定し、評価し、評価結果を表7に示した。本比較例のスピネル粉体を用いて評価用樹脂成形体を調製したが、微粒子過ぎて取扱い性に劣り、ポリプロピレンに70質量部を含有させることはできなかった。
【0091】
[比較例3]
実施例6で原料に用いたと同様のα−アルミナについて、実施例1で行ったと同様の、各試験を行い、物性を測定し、評価し、その評価結果を表7に示した。
【0092】
[比較例4]
実施例22で原料に用いたと同様の窒化ホウ素(表中は「窒化B」と略記)粉末について、実施例1で行ったと同様の、各試験を行い、物性を測定し、評価し、その評価結果を表7に示した。
【0093】
[比較例5]
酸化亜鉛(表中は「酸化Zn」と略記)粉末について、実施例1で行ったと同様の、各試験を行い、物性を測定し、評価し、その評価結果を表7に示した。
【0094】
[比較例6]
酸化マグネシウム(表中は「酸化Mg」と略記)粉末について、実施例1で行ったと同様の、各試験を行い、物性を測定し、評価し、その評価結果を表7に示した。
【0095】
[比較例7]
窒化アルミニウム(表中は「窒化Al」と略記)粉末について、実施例1で行ったと同様の、各試験を行い、物性を測定し、評価し、その評価結果を表7に示した。
【0096】
【0097】
[比較例8]
実施例1で原料に用いた塩化マグネシウム6水塩の使用量を30部(0.15モル)にしたこと以外は実施例1と同様にして、本比較例のスピネル粉体を得た。そして、実施例2で行ったと同様の方法で、各試験を行い、物性を測定し、評価し、その結果を表8に示した。
【0098】
[比較例9]
実施例1で原料に用いた塩化マグネシウム6水塩の使用量を350部(1.72モル)にしたこと以外は実施例1と同様にして、本比較例のスピネル粉体を得た。そして、実施例2で行ったと同様の方法で、各試験を行い、物性を測定し、評価し、その結果を表8に示した。
【0099】
【0100】
上記した実施例及び比較例に示されているように、本発明の実施例の熱伝導性複合酸化物は、適度なモース硬度を実現しており、しかも、その耐酸性、耐水性が良好で、電気絶縁性、熱伝導性に優れる機能性の高い多様な用途に適用可能なものになる。更に、原料に、その形状が薄片状或いは針状のアルミナ系化合物を使用し、これを焼成するといった簡便な方法で、形状が薄片状或いは針状となるフィラーとして好適な熱伝導性複合酸化物を高純度で得ることができるので、その利用が期待される。