特許第6152236号(P6152236)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6152236
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/26 20060101AFI20170612BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20170612BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20170612BHJP
   C09J 123/00 20060101ALI20170612BHJP
   C09J 183/04 20060101ALI20170612BHJP
【FI】
   C08L23/26
   C08K5/05
   C09J11/06
   C09J123/00
   C09J183/04
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-516794(P2017-516794)
(86)(22)【出願日】2016年9月16日
(86)【国際出願番号】JP2016077591
【審査請求日】2017年3月27日
(31)【優先権主張番号】特願2015-182670(P2015-182670)
(32)【優先日】2015年9月16日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-182672(P2015-182672)
(32)【優先日】2015年9月16日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】305044143
【氏名又は名称】積水フーラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103975
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】村本 禎
(72)【発明者】
【氏名】工藤 一輔
(72)【発明者】
【氏名】仲原 英隆
【審査官】 岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−63352(JP,A)
【文献】 特開昭57−55953(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/069449(WO,A1)
【文献】 特開2004−176028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
C09J 1/00− 5/10
C09J 9/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解性シリル基を含有するポリオレフィンと、常温で固体の一価アルコールとを含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
硬化触媒を更に含有することを特徴とする請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
加水分解性シリル基を含有するポリオレフィンが、加水分解性シリル基を含有するアモルファスポリ−α−オレフィンであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
一価アルコールが1級アルコールであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
一価アルコールの炭素数が12以上であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
加水分解性官能基を有しないポリオレフィンを更に含有することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
加水分解性シリル基を含有するポリオレフィンと、炭素数が12以上である一価アルコールとを含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
加水分解性シリル基を有するポリマーを含有する硬化性樹脂組成物は、加水分解性シリル基が大気中又は被着体中の湿気と反応することによって加水分解してシラノール基を生成し、このシラノール基同士が脱水縮合反応することによって架橋構造が形成されて硬化する。硬化性樹脂組成物は、シーリング剤、接着剤、塗料などのベースポリマーとして幅広く使用されている。
【0003】
このような硬化性樹脂組成物としては、特許文献1に、環球法による軟化点が90〜130℃のアモルファスポリ−α−オレフィン重合体に、アルコキシシラン化合物を反応させてなるグラフト変性体100重量部、環球法による軟化点が80〜160℃のオレフィン系樹脂5〜70重量部からなる建材内装ラッピング用反応性ホットメルト接着剤組成物が開示されている。
【0004】
又、特許文献2には、シラン−官能性液体ポリマーおよびシラン−反応性ポリマーを含む硬化性樹脂組成物が開示されている。
【0005】
更に、特許文献3には、分子内に架橋可能な反応性珪素基を有する硬化性シリコーン系樹脂(A)と、フルオロシラン化合物(B)と、ホウ酸エステル化合物(C)とを含有し、硬化性シリコーン系樹脂(A)が、分子内に活性水素が置換されていてもよいウレタン結合及び/又は活性水素が置換されていてもよい尿素結合を有し、フルオロシラン化合物(B)の配合量が硬化性シリコーン系樹脂(A)100質量部に対し0.001〜20質量部であり、ホウ酸エステル化合物(C)の配合量がフルオロシラン化合物(B)1.0モルに対し0.01〜20モルである硬化性樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−176028号
【特許文献2】特開2015−78370号
【特許文献3】特許第5336868号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の建材内装ラッピング用反応性ホットメルト接着剤組成物及び特許文献2の硬化性樹脂組成物は、アミン触媒、有機金属触媒、ルイス酸触媒などの硬化触媒を必要とする。
【0008】
上記ホットメルト接着剤組成物は、接着後の硬化反応を促進させるために、硬化触媒を増量させると、冷却固化後のシラノール基の脱水縮合反応による架橋反応が促進されるものの、塗工時の溶融状態においても架橋反応が極度に進行し易くなってしまい、ホットメルト接着剤の流動性が短時間のうちに低下してしまい、被着体への塗工及び被着体へのシートなどの貼り合わせが可能な時間(ポットライフ)が短くなるという問題を生じる。
【0009】
更に、特許文献3の硬化性樹脂組成物の室温におけるポットライフが10分以下と非常に短いという問題点を有している。
【0010】
本発明は、被着体に塗布するための加熱溶融時には優れた流動性を長時間に亘って維持し優れた塗布性を有していると共に、冷却固化後には湿気硬化反応によって速やかに硬化して硬化物を生成する硬化性樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の硬化性樹脂組成物は、加水分解性シリル基を含有するポリオレフィンと、常温で固体の一価アルコールとを含有することを特徴とする。
【0012】
上記硬化性樹脂組成物において、加水分解性官能基を含有しないポリオレフィンを更に含有することを特徴とする。
【0013】
本発明の硬化性樹脂組成物は、加水分解性シリル基を含有するポリオレフィンと、炭素数が12以上である一価アルコールとを含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の硬化性樹脂組成物は、ポットライフが長く、被着体への塗布及び被着体への化粧シートなどの加飾シートの貼り合わせの作業を容易に行えると共に、冷却固化後は速やかに大気中又は被着体中の湿気と反応して硬化し硬化物を生成する。生成された硬化物は、養生後の耐熱クリープ及び養生後の室温剥離強度に優れている。
【0015】
上記硬化性樹脂組成物において、加水分解性官能基を含有しないポリオレフィンを更に含有する場合は、ポリオレフィン系樹脂、特に、ポリプロピレン系樹脂に対して短時間のうちに優れた接着性を有する。従って、ポリオレフィン系樹脂から形成された被着体に表面処理(コロナ放電処理、プライマーによる処理、プラズマ処理、火炎処理(フレーム処理)など)を施す必要なく、被着体表面に硬化性樹脂組成物を用いて加飾シートを強固に接着一体化させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の硬化性樹脂組成物は、加水分解性シリル基を含有するポリオレフィンを含有している。
【0017】
加水分解性シリル基を含有するポリオレフィンは、主鎖骨格を構成しているポリオレフィンと、この主鎖骨格を構成しているポリオレフィンに結合した加水分解性シリル基とを有する重合体である。なお、加水分解性シリル基を含有するポリオレフィンは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0018】
加水分解性シリル基を含有するポリオレフィンの主鎖骨格を構成しているポリオレフィンの単量体成分としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどのα−オレフィンが挙げられる。
【0019】
加水分解性シリル基を含有するポリオレフィンの主鎖骨格を構成しているポリオレフィンとしては、例えば、α−オレフィンのホモポリマー;エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブチレン共重合体、エチレン−プロピレン−イソブチレン共重合体などのα−オレフィンの共重合体;エチレン以外のα−オレフィンとエチレンとの共重合体;α−オレフィンと、これと共重合可能な他の単量体(例えば、ブタジエン、1,4−ヘキサジエン、7−メチル−1,6−オクタジエン、1,8−ノナジエン、1,9−デカジエンなどのような共役及び非共役ジエン類、シクロプロペン、シクロブテン、シクロペンテン、ノルボルネン、ジシクロペンタジエンなどの環状オレフィン)との共重合体などが挙げられる。
【0020】
加水分解性シリル基を含有するポリオレフィンの主鎖骨格を構成しているポリオレフィンとしては、アモルファスポリ−α−オレフィンが好ましい。アモルファスポリ−α−オレフィンは、非晶性又は低結晶性である。非晶性又は低結晶性であるとは、示差走査熱量分析法による結晶化エネルギー(J/g)が50J/g以下であることをいう。なお、結晶化エネルギーは、示差走査熱量分析装置を用いて試料を20℃から200℃まで加熱した後に20℃まで冷却させ、更に、試料を5℃/minで200℃まで再加熱したときの吸熱量とする。
【0021】
加水分解性シリル基を含有するポリオレフィンの主鎖骨格は、結晶性ポリオレフィンであってもよいが、アモルファスポリ−α−オレフィンであることが好ましい。アモルファスポリ−α−オレフィンを構成しているモノマー成分としては、例えば、上述したα−オレフィンが挙げられる。α−オレフィンとしては、炭素数が2〜20のα−オレフィンが好ましく、炭素数が2〜10のα−オレフィンがより好ましい。アモルファスポリ−α−オレフィンとしては、例えば、上述した重合体が挙げられ、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブチレン共重合体、エチレン−プロピレン−イソブチレン共重合体が好ましい。
【0022】
アモルファスポリ−α−オレフィンの製造方法としては、公知の方法が採用され、例えば、α−オレフィンをジルコニウム化合物などの触媒の存在下にてラジカル重合させることによって非晶性のアモルファスポリ−α−オレフィンを製造する方法などが挙げられる。
【0023】
ポリオレフィンは、主鎖骨格に加水分解性シリル基を有する。加水分解性シリル基は、湿気の存在下、必要に応じて硬化触媒を使用することによって脱水縮合反応を生じて架橋構造を形成する。
【0024】
加水分解性シリル基としては、−Si(OR1n23-n(式中、R1及びR2はそれぞれ独立して炭素数が1〜20の炭化水素基を表し、nは1〜3の整数である。)が挙げられる。R1及びR2は、炭素数が1〜20のアルキル基が好ましい。加水分解性シリル基は、アルコキシ基を有していることが好ましい。
【0025】
加水分解性シリル基としては、例えば、ジメチルメトキシシリル基、ジエチルエトキシシリル基などのジアルキルアルコキシシリル基;メチルジメトキシシリル基、エチルジエトキシシリル基などのアルキルジアルコキシシリル基;トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基などのトリアルコキシシリル基が挙げられる。
【0026】
主鎖骨格と加水分解性シリル基との結合は、直接結合であっても、炭化水素基を介していてもよい。炭化水素基としては、例えば、下記式(1)で表される基が挙げられる。
-(CH2-CH2)x-(CH(CH3)-CH2)y-(CH(C2H5)-CH2)z-C2H4- (1)
(式(1)中、R1は、炭素数1〜3のアルキル基を表す。x、y及びzはそれぞれ独立して0以上の整数を表す。x、y及びzの何れかは1以上の整数を表す。)
【0027】
加水分解性シリル基を含有するポリオレフィンの190℃における溶融粘度は、2000〜500000mPa・sが好ましく、3000〜400000mPa・sがより好ましく、3000〜300000mPa・sが特に好ましく、3000〜200000mPa・sが最も好ましい。加水分解性シリル基を含有するポリオレフィンの190℃における溶融粘度が2000mPa・s以上であると、硬化性樹脂組成物の養生後の耐熱クリープ及び養生後の室温剥離強度が向上する。加水分解性シリル基を含有するポリオレフィンの190℃における溶融粘度が500000mPa・s以下であると、硬化性樹脂組成物の被着体への塗布作業を容易に行うことができる。なお、加水分解性シリル基を含有するポリオレフィンの190℃における溶融粘度は、JIS K6862のホットメルト接着剤の溶融粘度試験方法に準拠して測定された値をいう。
【0028】
加水分解性シリル基を含有するポリオレフィンの軟化点は、70〜160℃が好ましく、80〜140℃がより好ましく、90〜120℃が特に好ましい。加水分解性シリル基を含有するポリオレフィンの軟化点が70℃以上であると、硬化性樹脂組成物の冷却固化後の硬化反応が速くなり好ましい。加水分解性シリル基を含有するポリオレフィンの軟化点が160℃以下であると、硬化性樹脂組成物の被着体への塗布作業を容易に行うことができる。なお、加水分解性シリル基を含有するポリオレフィンの軟化点は、JIS K6863ホットメルト接着剤の軟化点試験方法に準拠して測定された値をいう。
【0029】
加水分解性シリル基を含有するポリオレフィンの数平均分子量は、3000〜50000が好ましく、5000〜20000がより好ましく、6000〜15000が特に好ましく、7000〜13000が最も好ましい。加水分解性シリル基を含有するポリオレフィンの数平均分子量が3000以上であると、硬化性樹脂組成物の養生後の耐熱クリープ及び養生後の室温剥離強度が向上する。加水分解性シリル基を含有するポリオレフィンの数平均分子量が50000以下であると、硬化性樹脂組成物の被着体への塗布作業を容易に行うことができる。なお、加水分解性シリル基を含有するポリオレフィンの数平均分子量は、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー、DIN 55 672に準拠)によって測定されたポリスチレン換算値をいう。
【0030】
硬化性樹脂組成物は、常温で固体の一価アルコール(以下、単に「一価アルコール」ということがある)を含有している。一価アルコールとは、水酸基(−OH)を1個のみ有するアルコールをいう。常温で固体とは、20℃以下において流動性を有しないことをいう。即ち、常温で固体とは、融点が20℃を超えることをいう。一価アルコールの融点は、JIS K0064:1992によって測定された温度をいう。
【0031】
一価アルコールは、常温において固体であれば、1級アルコール、2級アルコール及び3級アルコールの何れであってもよいが、湿気硬化反応に影響を及ぼすことなくポットライフをより長くすることができるので、1級アルコールが好ましく、飽和1級アルコールがより好ましい。
【0032】
一価アルコールとしては、50〜200℃において液体となる一価アルコールが好ましい。一価アルコールとしては、湿気硬化反応に影響を及ぼすことなくポットライフをより長くすることができるので、脂肪族一価アルコールが好ましい。一価アルコールとしては、硬化性樹脂組成物の流動安定性に優れ、被着体への塗布性が優れており、速やかに硬化して、養生後の耐熱クリープに優れた硬化物を生成するので、炭素数が12以上である脂肪族一価アルコールが好ましく、炭素数が12〜22である脂肪族一価アルコールがより好ましく、炭素数が15〜22である脂肪族一価アルコールが特に好ましい。脂肪族一価アルコールとしては、ステアリルアルコール及びラウリルアルコールが好ましく、ステアリルアルコールがより好ましい。
【0033】
一価アルコールとしては、常温で固体であれば特に限定されず、例えば、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデカノール、セチルアルコール、ヘプタデカノール、ステアリルアルコール、ノナデカノール、オレイルアルコール、アラキジルアルコール、ベヘニルアルコールなどの脂肪族一価アルコール、シクロヘキサノールなどの脂環族一価アルコール、フェノールなどの芳香族一価アルコール;α−オキシプロピオン酸、オキシコハク酸、ジオキシコハク酸、ε−オキシプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、ヒドロキシ酢酸、α−ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、リシノエライジン酸、リシノステアロール酸、サリチル酸、マンデル酸などのオキシカルボン酸と、上記一価アルコールとのエステル反応によって得られるエステル基含有一価アルコールなどが挙げられる。なお、一価アルコールは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0034】
一価アルコールを含有していることによって、硬化性樹脂組成物の冷却固化後の脱水縮合反応に影響を及ぼすことなく、硬化性樹脂組成物のポットライフを長くすることができる。従って、硬化性樹脂組成物は、被着体への塗工作業を円滑に行えると共に、冷却固化後も速やかに脱水縮合反応によって硬化して硬化物を生成する。
【0035】
この反応のメカニズムは明らかでないが、以下の通り推測される。先ず、硬化性樹脂組成物は、加水分解性シリル基を含有するポリオレフィンにおける加水分解性シリル基のアルコキシ基(−OR1)が加水分解することによってシラノール基が生成し(第一段階)、シラノール基同士が大気中又は被着体中の湿気存在下にて脱水縮合反応を生じて架橋構造を形成して硬化して硬化物を生成する(第二段階)。
【0036】
第一段階では、加水分解性シリル基のアルコキシ基の加水分解反応が生じるが、この加水分解反応は平衡反応である。そこで、本発明では、硬化性樹脂組成物が加熱されて溶融した状態において、液状となって、加水分解性シリル基を含有するポリオレフィンと相溶する一価アルコールを含有させている。一価アルコールの存在によって、上記加水分解反応の加水分解方向への進行が抑制され、加水分解性シリル基を含有するポリオレフィンの加水分解性シリル基の多くは、アルコキシシリル基のままとどまっている。従って、硬化性樹脂組成物の溶融状態において、加水分解反応及びその後の硬化反応は殆ど進行せず、硬化性樹脂組成物の硬化は抑制されている。硬化性樹脂組成物の硬化反応が抑制されているので、溶融状態において、硬化性樹脂組成物は、長時間に亘って優れた流動性を有し、被着体への塗布作業を円滑に行うことができる。更に、塗布後の被着体の表面への加飾シートの貼り合わせの作業も円滑に行うことができる。
【0037】
次に、硬化性樹脂組成物が溶融状態から冷却されて固化した状態に移行すると、反応系内の温度が一価アルコールの融点未満となって、一価アルコールは固体となって、加水分解性シリル基のアルコキシ基の加水分解反応の反応系から除外される。一価アルコールが反応系から除外されると、第一段階の加水分解反応の平衡状態が崩れて、加水分解反応が加水分解方向に促進されてシラノール基が生成し、シラノール基同士が大気中又は被着体中の湿気存在下にて脱水縮合反応を生じて架橋構造を形成して硬化し、優れた養生後の耐熱クリープ及び養生後の室温剥離強度を有する硬化物を生成する。
【0038】
このように、一価アルコールは、硬化性樹脂組成物の溶融状態においては、加水分解反応を抑制する一方、硬化性樹脂組成物の冷却固化後には反応系から外れ、加水分解性シリル基の加水分解反応及び硬化反応を促進させている。
【0039】
従って、硬化性樹脂組成物は、溶融状態においては、硬化反応が抑制されて優れた流動性を長時間に亘って維持し、被着体への塗布及び被着体への加飾シートの貼り合わせの作業を円滑に行うことができる。そして、硬化性樹脂組成物の冷却固化後の硬化反応において一価アルコールは殆ど影響を及ぼすことはなく、硬化性樹脂組成物の硬化反応は速やかに進行し硬化物を生成する。
【0040】
上記では、常温で固体の一価アルコールを含有している場合を説明したが、常温で固体の一価アルコールの代わりに、炭素数が12以上である脂肪族一価アルコールを含有していてもよい。なお、炭素数が12以上である脂肪族一価アルコールも、上述と同様の作用を奏する。従って、硬化性樹脂組成物は、溶融状態においては、硬化反応が抑制されて優れた流動性を長時間に亘って維持し、被着体への塗布及び被着体への加飾シートの貼り合わせの作業を円滑に行うことができる。そして、硬化性樹脂組成物の冷却固化後の硬化反応において一価アルコールは殆ど影響を及ぼすことはなく、硬化性樹脂組成物の硬化反応は速やかに進行し硬化物を生成する。
【0041】
硬化性樹脂組成物中における一価アルコールの含有量は、加水分解性シリル基を含有するポリオレフィン100質量部に対して1〜40質量部が好ましく、5〜30質量部がより好ましく、5〜20質量部が特に好ましい。一価アルコールの含有量が1質量部以上であると、硬化性樹脂組成物の第一段階における加水分解反応を抑制し、硬化性樹脂組成物のポットライフを長くして、被着体への塗布及び被着体への加飾シートの貼り合わせの作業を円滑に行い、加飾シートの被着体への貼り合わせをより確実に行うことができる。一価アルコールの含有量が40質量部以下であると、硬化性樹脂組成物の養生後の耐熱クリープ性に優れている。
【0042】
硬化性樹脂組成物には、上記第二段階における硬化反応を促進させるために硬化触媒が含有されていてもよい。硬化性樹脂組成物においては、一価アルコールを含有させて、加水分解性シリル基の加水分解反応が加水分解方向に進行するのを抑制しており、硬化性樹脂組成物の溶融時においては、硬化触媒が含有されていても、硬化性樹脂組成物の硬化が促進されることはない。従って、硬化性樹脂組成物は、硬化触媒を含有していても、溶融時において長時間に亘って優れた流動性を維持し、被着体への塗布及び被着体への加飾シートの貼り合わせの作業を円滑に行うことができる。
【0043】
硬化触媒としては、加水分解性シリル基を含有するポリオレフィンの加水分解性シリル基の脱水縮合反応を促進させることができれば、特に限定されないが、有機錫触媒などの錫系触媒が好ましい。なお、硬化触媒は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0044】
錫系触媒としては、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫マレエート、ジブチル錫フタレート、ジブチル錫ジオクタノエート、ジブチル錫ビス(2−エチルヘキサノエート)、ジブチル錫ビス(メチルマレエート)、ジブチル錫ビス(エチルマレエート)、ジブチル錫ビス(ブチルマレエート)、ジブチル錫ビス(オクチルマレエート)、ジブチル錫ビス(トリデシルマレエート)、ジブチル錫ビス(ベンジルマレエート)、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ビス(エチルマレエート)、ジオクチル錫ビス(オクチルマレエート)、ジブチル錫ジメトキサイド、ジブチル錫ビス(ノニルフェノキサイド)、ジブテニル錫オキサイド、ジブチル錫オキサイド、ジブチル錫ビス(アセチルアセトナート)、ジブチル錫ビス(エチルアセトアセトナート)、ジブチル錫オキサイドとシリケート化合物との反応物、ジブチル錫オキサイドとフタル酸エステルとの反応物などが挙げられる。
【0045】
硬化性樹脂組成物中における硬化触媒の含有量は、加水分解性シリル基を含有するポリオレフィン100質量部に対して0.01〜5質量部が好ましく、0.05〜2質量部がより好ましく、0.05〜1質量部が特に好ましい。硬化触媒の含有量が0.01質量部以上であると、硬化性樹脂組成物の硬化反応を速やかに進行させることができる。硬化触媒の含有量が5質量部以下であると、硬化性樹脂組成物のポットライフを長くすることができる。
【0046】
硬化性樹脂組成物中における一価アルコールと硬化触媒との質量比(一価アルコール/硬化触媒)は、10〜1000が好ましく、20〜800が好ましく、40〜600がより好ましく、50〜500が特に好ましく、50〜400が最も好ましい。硬化触媒と一価アルコールとの質量比(一価アルコール/硬化触媒)が10以上であると、硬化性樹脂組成物が溶融時に長時間に亘って安定した粘度を維持し、被着体への塗布性に優れている。硬化触媒と一価アルコールとの質量比(一価アルコール/硬化触媒)が1000以下であると、硬化性樹脂組成物が優れた養生後の耐熱クリープを有する。
【0047】
硬化性樹脂組成物は、加水分解性官能基を有しないポリオレフィンを含有していてもよい。加水分解性官能基を有しないポリオレフィンは、加水分解性シリル基を含有するポリオレフィンと優れた相溶性を有している。従って、加水分解性官能基を有しないポリオレフィンによって、硬化性樹脂組成物は、短時間のうちに優れた接着力、特に、初期耐熱クリープを短時間のうちに発現する。
【0048】
加水分解性官能基とは、湿気の存在下、必要に応じて硬化触媒を使用することによって加水分解後に脱水縮合反応を生じる官能基をいう。加水分解性官能基としては、例えば、架橋性シリル基などが挙げられる。
【0049】
架橋性シリル基としては、例えば、ケイ素原子と結合した加水分解性基を有するケイ素含有基又はシラノール基のように湿気又は架橋剤の存在下、必要に応じて触媒などを使用することによって脱水縮合反応を生じる基をいう。
【0050】
ケイ素原子に結合した加水分解性基としては、例えば、水素、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシド基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基、酸アミド基、アミノオキシ基、メルカプト基、アルケニルオキシド基などが挙げられる。
【0051】
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基等などが挙げられる。
【0052】
加水分解性官能基を有しないポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン(例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、メタロセン触媒法ポリエチレン、高密度ポリエチレン(HDPE)など)、エチレン−α−オレフィン共重合体(エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体など)、ホモポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体(プロピレン−1−ブテン共重合体、プロピレン−エチレン共重合体など)などが挙げられる。加水分解性官能基を有しないポリオレフィンとしては、ホモポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体が好ましく、ホモポリプロピレン、プロピレン−1−ブテン共重合体、プロピレン−エチレン共重合体(プロピレン成分の含有量が50質量%以上)がより好ましい。なお、加水分解性官能基を有しないポリオレフィンは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0053】
硬化性樹脂組成物中において、加水分解性官能基を有しないポリオレフィンの含有量は、加水分解性シリル基を含有するポリオレフィン100質量部に対して5〜80質量部が好ましく、5〜70質量部がより好ましく、10〜70質量部が特に好ましく、20〜60質量部が最も好ましい。加水分解性官能基を有しないポリオレフィンが15質量部以上であると、硬化性樹脂組成物が短時間のうちに優れた初期耐熱クリープを発現する。加水分解性官能基を有しないポリオレフィンが150質量部以下であると、硬化性樹脂組成物の養生後の耐熱クリープ性を向上させることができる。
【0054】
加水分解性官能基を有しないポリオレフィンの190℃における溶融粘度は、7000mPa・s以上が好ましく、40000mPa・s以上がより好ましい。加水分解性官能基を有しないポリオレフィンの190℃における溶融粘度が7000mPa・s以上であると、硬化性樹脂組成物が優れた養生後の耐熱クリープを有する。加水分解性官能基を有しないポリオレフィンの190℃における溶融粘度は、200000mPa・s以下が好ましく、100000mPa・s以下がより好ましい。加水分解性官能基を有しないポリオレフィンの190℃における溶融粘度が200000mPa・s以下であると、硬化性樹脂組成物の被着体への塗布作業を容易に行うことができる。なお、加水分解性官能基を有しないポリオレフィンの190℃における溶融粘度は、JIS K6862のホットメルト接着剤の溶融粘度試験方法に準拠して測定された値をいう。
【0055】
加水分解性官能基を有しないポリオレフィンの軟化点は、70〜160℃が好ましく、80〜140℃がより好ましく、90〜120℃が特に好ましく、95〜105℃が最も好ましい。加水分解性官能基を有しないポリオレフィンの軟化点が70℃以上であると、硬化性樹脂組成物が優れた初期耐熱クリープを有する。加水分解性官能基を有しないポリオレフィンの軟化点が160℃以下であると、硬化性樹脂組成物の被着体への塗布作業を容易に行い、被着体に対するアンカー効果を効果的に発現させて加飾シートの被着体への貼り合わせをより確実に行うことができる。その結果、硬化性樹脂組成物の初期耐熱クリープ、養生後の耐熱クリープ及び養生後の室温剥離強度が向上する。なお、加水分解性官能基を有しないポリオレフィンの軟化点は、JIS K6863のホットメルト接着剤の軟化点試験方法に準拠して測定された値をいう。
【0056】
加水分解性官能基を有しないポリオレフィンは、軟化点の異なる二種類の加水分解性官能基を有しないポリオレフィンを含む混合物が好ましい。加水分解性官能基を有しないポリオレフィンは、二種類の加水分解性官能基を有しないポリオレフィンの軟化点同士の差が30℃以上で且つ二種類の加水分解性官能基を有しないポリオレフィンの混合物の軟化点が110〜150℃であることがより好ましい。加水分解性官能基を有しないポリオレフィンは、二種類の加水分解性官能基を有しないポリオレフィンの軟化点同士の差が30〜70℃で且つ二種類の加水分解性官能基を有しないポリオレフィンの混合物の軟化点が110〜150℃であることが特に好ましい。軟化点が低い方の加水分解性官能基を有しないポリオレフィンによって、硬化性樹脂組成物の被着体への塗布作業を容易に行い、被着体に対するアンカー効果を効果的に発現させて加飾シートの被着体への貼り合わせをより確実に行うことができる。その結果、硬化性樹脂組成物の初期耐熱クリープ、養生後の耐熱クリープ及び養生後の室温剥離強度が向上する。軟化点の高い方の加水分解性官能基を有しないポリオレフィンによって、硬化性樹脂組成物の初期耐熱クリープを向上させることができる。加水分解性官能基を有しないポリオレフィン中において、軟化点が低い方の加水分解性官能基を有しないポリオレフィンの含有量は、30〜70質量%が好ましく、40〜60質量%がより好ましく、45〜55質量%が特に好ましい。
【0057】
硬化性樹脂組成物には必要に応じて添加剤を更に含有することができる。添加剤としては、例えば、顔料及び染料などの着色剤、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、充填剤、軟化剤、可塑剤、補強剤、粘着付与樹脂などが挙げられる。
【0058】
硬化性樹脂組成物の製造方法は、特に限定されず、例えば、加水分解性シリル基を含有するポリオレフィンと、常温で固体の一価アルコールと、必要に応じて、加水分解性官能基を有しないポリオレフィンとを公知の混合装置を用いて混合することによって製造する方法が挙げられる。
【実施例】
【0059】
本発明は下記実施例のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えてもよい。後述する実施例及び比較例で用いられる各成分の詳細を、以下に説明する。
【0060】
(加水分解性シリル基を含有するポリオレフィン)
・加水分解性シリル基を含有するアモルファスポリ−α−オレフィン1(シリル変性アモルファスポリ−α−オレフィン1、加水分解性シリル基は、ケイ素原子に共有結合により直接結合したメトキシ基を含む、190℃における溶融粘度:5000mPa・s、軟化点:98℃、数平均分子量:10600、示差走査熱量分析法による結晶化エネルギー:7J/g以下、エボニック社製 商品名「ベストプラスト206」)
・加水分解性シリル基を含有するアモルファスポリ−α−オレフィン2(シリル変性アモルファスポリ−α−オレフィン2、加水分解性シリル基は、ケイ素原子に共有結合により直接結合したメトキシ基を含む、190℃における溶融粘度:330Pa・s、軟化点:101℃、数平均分子量:15500、示差走査熱量分析法による結晶化エネルギー:15J/g以下、三菱化学社製 商品名「リンクロンPM700N」)
【0061】
(一価アルコール)
・ステアリルアルコール(炭素数:18、分子量:270、融点:60℃、和光純薬社製)
・ラウリルアルコール(炭素数:12、分子量:186、融点:24℃、和光純薬社製)
・エチルアルコール(融点:−114℃、沸点:78℃、和光純薬社製)
(二価アルコール)
・ポリエステルポリオール(両末端に水酸基を有するポリエステルポリオール、ジカルボン酸成分:アジピン酸、ジオール成分:ヘキサンジオール、平均分子量:2000、融点:50℃、豊国製油社製 商品名「HS2H−201AP」)
【0062】
(加水分解性官能基を有しないポリオレフィン)
・ホモポリプロピレン(190℃における溶融粘度:50000mPa・s、軟化点:100℃、出光興社産 商品名「エルモーデュ600S」)
・プロピレン−1−ブテン共重合体1(190℃における溶融粘度:50000mPa・s、軟化点:107℃、エボニック社製 商品名「ベストプラスト750」)
・プロピレン−1−ブテン共重合体2(190℃における溶融粘度:25000mPa・s、軟化点:161℃、エボニック社製 商品名「ベストプラスト828」)
・プロピレン−エチレン共重合体(190℃における溶融粘度:8000mPa・s、軟化点:93℃、プロピレン成分の含有量:50質量%以上、ハンツマン社製 商品名「レックスタック2880」)
【0063】
(硬化触媒)
・ジブチル錫ジラウレート(日東化成社製 商品名「ネオスタンU−100」)
【0064】
(実施例1〜29、比較例1〜7)
加水分解性シリル基を含有するポリオレフィン、一価アルコール、二価アルコール、加水分解性官能基を有しないポリオレフィン及び硬化触媒をそれぞれ、表1〜4に示した配合量で加熱装置を備えた攪拌機に投入した後、150℃で1時間に亘って加熱しながら混練することによって硬化性樹脂組成物を得た。
【0065】
硬化性樹脂組成物について、加熱溶融時の流動性を下記の要領で測定し、その結果を表1〜4に示した。なお、実施例17において、ホモポリプロピレンとプロピレン−1−ブテン共重合体2の混合物の軟化点は、130℃であった。
【0066】
〔加熱溶融時の流動性〕
120℃のロール塗工機に硬化性樹脂組成物を供給して溶融させた後、ロールを所定時間回転させ、ロール上の硬化性樹脂組成物の流動性を目視観察し、下記基準に基づいて評価した。目視観察は、ロールの回転開始から10分後、30分後、60分後、90分後及び120分後に行った。
A:流動性が良好であった。
B:粘度が増加したがゲルは発生しなかった。
C:増粘してゲル化した(流動性が消失した)。
【0067】
〔初期耐熱クリープ〕
120℃のロール塗工機(塗工速度:3.3m/min)を用いて、硬化性樹脂組成物をホモポリプロピレン発泡シート(積水化学工業社製 商品名「ソフトロン」、縦12cm、横2.5cm)の表面に100g/m2となるよう塗工した。ホモポリプロピレン発泡シートにおける縦方向の第1の端部(縦方向の2cm部分)には硬化性樹脂組成物は塗工しなかった。次に、ホモポリプロピレン発泡シートの硬化性樹脂組成物の塗工面上に、赤外線ヒーターで60℃に予熱したホモポリプロピレン板(縦10cm、横2.5cm、厚み2.0mmの直方体形状)を貼り合せて試験片を作製した。ホモポリプロピレン板の縦方向の端縁から、ホモポリプロピレン発泡シートにおける縦方向の第1の端部が突出していた。試験片を作製してから5分経過後、ホモポリプロピレン板の縦方向及び横方向が水平方向となり且つホモポリプロピレン発泡シートが下側となるように試験片を配設した。試験片のホモポリプロピレン発泡シートにおける縦方向の第1の端部に200gの錘を掛けて60℃にて5分間に亘って放置し、ホモポリプロピレン発泡シートが剥離した長さを測定した(90°クリープ)。
A:1mm未満であった。
B:1mm以上で且つ10mm未満であった。
C:10mm以上で且つ20mm未満であった。
D:20mm以上であった。
【0068】
(養生後の耐熱クリープ)
初期耐熱クリープの測定時と同様の要領で試験片を作製した。試験片を23℃、相対湿度50%の環境下に1ヶ月に亘って放置した後、ホモポリプロピレン板の縦方向及び横方向が水平方向となり且つホモポリプロピレン発泡シートが下側となるように試験片を配設した。試験片のホモポリプロピレン発泡シートにおける縦方向の第1の端部に100gの錘を掛けて80℃にて24時間に亘って放置し、ホモポリプロピレン発泡シートが剥離した長さを測定した(90°クリープ)。
A:10mm未満であった。
B:10mm以上で且つ30mm未満であった。
C:30mm以上で且つ50mm未満であった。
D:50mm以上であった。
【0069】
〔養生後の室温剥離強度〕
硬化性樹脂組成物をホモポリプロピレン板(縦10cm、横2.5cm、厚み2.0mmの直方体形状)に約1mm厚で塗工し、その上に11号帆布を重ねて貼り合せて試験片を作製した。試験片を23℃、相対湿度50%の環境下で1ヶ月保管後、200mm/minの速度で23℃における剥離強度を測定した。下記基準に基づいて評価した。
A:30N以上であった。
B:10N以上で且つ30N未満であった。
C:1N以上で且つ10N未満であった。
D:1N未満であった。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】
実施例1〜12の硬化性樹脂組成物は、加熱溶融時には優れた流動性を長時間に亘って維持していたことから、優れた塗布性を有していると考えられる。一方、比較例1〜3の硬化性樹脂組成物は、常温で固体の一価のアルコールを含有していないため、加熱溶融時に増粘してゲル化してしまったことから、被着体への塗布性が劣っていると考えられる。
【0075】
実施例1及び5と、実施例6とを比較すると、実施例1及び5は、実施例6よりも、常温で固体の一価のアルコールの含有量が相対的に多いため、加熱溶融時の流動性(120分後)に優れている。
【0076】
実施例1及び5と、実施例8とを比較すると、加水分解性シリル基を含有するポリオレフィン100質量部に対して常温で固体の一価アルコール5〜10質量部を含有している硬化性樹脂組成物は、加水分解性シリル基を含有するポリオレフィン100質量部に対して常温で固体の一価アルコール30質量部を含有している硬化性樹脂組成物よりも養生後の耐熱クリープに優れている。
【0077】
実施例5〜7を比較すると、一価アルコールと硬化触媒との質量比(一価アルコール/硬化触媒)が大きくなるほど、加熱溶融時の流動性が優れていることが分かる。
【0078】
実施例20及び21を比較すると、一価アルコールと硬化触媒との質量比(一価アルコール/硬化触媒)が大きくなるほど、加熱溶融時の流動性が優れていることが分かる。
【0079】
実施例20〜23と、実施例24とを比較すると、加水分解性シリル基を含有するポリオレフィン100質量部に対して常温で固体の一価アルコール5〜20質量部を含有している硬化性樹脂組成物は、加水分解性シリル基を含有するポリオレフィン100質量部に対して常温で固体の一価アルコール30質量部を含有している硬化性樹脂組成物よりも養生後の耐熱クリープに優れている。
【0080】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2015年9月16日に出願された日本国特許出願第2015−182670号、及び2015年9月16日に出願された日本国特許出願第2015−182672号に基づく優先権を主張し、この出願の開示はこれらの全体を参照することにより本明細書に組み込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の硬化性樹脂組成物は、ポットライフが長く、被着体への塗布及び被着体への化粧シートなどの加飾シートの貼り合わせの作業を容易に行えると共に、冷却固化後は速やかに大気中又は被着体中の湿気と反応して硬化し、加飾シートを被着体に強固に接着することができる。本発明の硬化性樹脂組成物は、例えば、加飾シートを被着体に接着する用途に用いることができる。
【要約】
本発明は、被着体に塗布するための加熱溶融時には優れた流動性を長時間に亘って維持し優れた塗布性を有していると共に、冷却固化後には湿気硬化反応によって速やかに硬化して硬化物を生成する硬化性樹脂組成物を提供する。本発明の硬化性樹脂組成物は、加水分解性シリル基を含有するポリオレフィンと、常温で固体の一価アルコールとを含有することを特徴とするので、ポットライフが長く、被着体への塗布及び被着体への化粧シートなどの加飾シートの貼り合わせの作業を容易に行えると共に、冷却固化後は速やかに大気中又は被着体中の湿気と反応して硬化し硬化物を生成する。