特許第6152279号(P6152279)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6152279化粧シート用原紙およびそれを用いた化粧シートおよび化粧板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6152279
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】化粧シート用原紙およびそれを用いた化粧シートおよび化粧板
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/24 20060101AFI20170612BHJP
   D21H 19/12 20060101ALI20170612BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20170612BHJP
【FI】
   D21H19/24 Z
   D21H19/12
   B41M5/00 100
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-29639(P2013-29639)
(22)【出願日】2013年2月19日
(65)【公開番号】特開2014-159650(P2014-159650A)
(43)【公開日】2014年9月4日
【審査請求日】2015年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】311010475
【氏名又は名称】KJ特殊紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】出井 晃治
(72)【発明者】
【氏名】名越 応昇
(72)【発明者】
【氏名】海野 朋行
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−335105(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第19618607(DE,A1)
【文献】 特開2004−124268(JP,A)
【文献】 特開2003−286697(JP,A)
【文献】 特開2008−081898(JP,A)
【文献】 特開2003−260864(JP,A)
【文献】 特開2012−071518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J2/01
2/165−2/20
2/21−2/215
B41M5/00
5/50−5/52
D21B1/00−1/38
D21C1/00−11/14
D21D1/00−99/00
D21F1/00−13/12
D21G1/00−9/00
D21H11/00−27/42
D21J1/00−7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースパルプと填料を主成分とする抄造原紙に、含浸・乾燥により含浸樹脂を抄造原紙に対して8質量%以上35質量%以下の範囲で含有し、含浸樹脂を含有する抄造原紙の少なくとも一方の面にカチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩から選ばれる少なくとも1種の塗布量が片面あたり乾燥固形分で0.5g/m以上2.0g/m以下であり、前記カチオン性樹脂がジメチルアミン−エピクロルヒドリン重縮合物であり、前記水溶性多価陽イオン塩が硝酸カルシウムである化粧シート用原紙。
【請求項2】
前記含浸樹脂が(メタ)アクリル酸系樹脂であり、抄造原紙が、抄造原紙に対して(メタ)アクリル酸系樹脂を10質量%以上35質量%以下の範囲で含有する請求項1記載の化粧シート用原紙。
【請求項3】
カチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩から選ばれる少なくとも1種が、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン重縮合物と硝酸カルシウムとの併用である請求項1または2に記載の化粧シート用原紙。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の化粧シート用原紙を使用して製造される化粧シート。
【請求項5】
請求項4記載の化粧シートを用いて製造される化粧板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床などの建材や家具等の表面材として利用される化粧板に供する化粧シート用原紙に関するものであり、さらに詳しくは、インクジェット印刷が可能な化粧シート用原紙に関する。特に、床材などの高い強度を有する化粧板に好適な化粧シート用原紙に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧シート用原紙には、薄葉紙および紙間強化紙等の含浸樹脂含有率の低い化粧シート用原紙と、抄造原紙に対して含浸樹脂含有率の高い化粧シート用原紙がある。これらの化粧シート用原紙は、後工程において木目柄、抽象柄またはベタ画像など絵柄模様の印刷が施され、表面を保護するためにウレタン樹脂あるいはアミノアルキッド樹脂等が塗工され化粧シートとなる。こうして得られた化粧シートを合板、パーティクルボード、MDF(中質繊維板)等の基材に接着され化粧板となる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
従来、絵柄模様を印刷するために、グラビア印刷やオフセット印刷を用いる方法が一般的であった。これら印刷の方法は同一の絵柄模様を多量に製造する場合には好適である。しかしながら、顧客の嗜好性に合わせるべく異なる絵柄模様を少量多品種に印刷する場合、グラビア印刷やオフセット印刷は、これらの印刷機構のために生産性が悪く且つ製造コスト高となる。
【0004】
上記問題に対し、近年、絵柄模様を印刷するために、チタン紙上にインクジェットプリンターによって印刷層を設ける方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。インクジェット印刷は、印刷機構から少量多品種に印刷することができる。しかしながら、この方法では、インクジェット印刷適性が不十分であり、床などの建材や家具などの表面材として利用される化粧板に供する化粧シート用原紙として表面強度も不十分である。
【0005】
また、合板、パーティクルボード、MDF(中質繊維板)等の基材の下地が透けて見えるのを防止し、隠蔽性を高めるために、化粧シート用原紙は、填料として光散乱効果の高い酸化チタンを使用する場合が多い。しかしながら、酸化チタンの活性によりインクジェット印刷された絵柄模様の濃度が低下する場合がある。
【0006】
この問題を解決するために、酸化チタンを含有する隠蔽紙とインクジェット印刷の適性を持つ上質コート紙の2層に機能分離した構成が提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、この方法では、床などの建材や家具等の表面材として利用される化粧板に供する化粧シート用原紙として表面強度が不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−51399号公報
【特許文献2】特開2001−71447号公報
【特許文献3】特開2004−195731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の化粧シート用原紙は、表面強度および層間剥離強度を高めるために含浸樹脂を比較的高い含有率になるよう含浸・乾燥させる。含浸樹脂を高い含有率で含有する化粧シート用原紙に対してインクジェット印刷を行うと、化粧シート用原紙は、インク吸収性の点でインクジェット印刷適性が乏しく、インクジェットインクを上手く吸収できないためにインクの弾きやインクの滲みなどによって良好な画質を得ることができない。また、インクジェット印刷適性を考慮して含浸樹脂の含有率を下げると化粧シート用原紙は表面強度などが不足する。また、インクジェット印刷適性を改善するために、インクジェットプリンター専用紙のようにシリカに代表される多孔性の白色顔料をバインダーとともに化粧シート用原紙上に塗布する検討がなされているが、表面強度が著しく低下するため、実用上使用は困難である。
【0009】
さらに、化粧板の中でも、床材などの建材や家具等の表面材として利用される化粧シート用原紙は、高い表面強度に加え、高い層間剥離強度が要求される。しかしながら、インクジェット印刷が可能であり且つ床材として使用でき得る表面強度および層間剥離強度を十分に有する化粧シート用原紙は未だ存在しない。
【0010】
本発明の目的は、高い表面強度を有し、インクジェット印刷においてインク吸収性の点で優れたインクジェット印刷適性を有する化粧シート用原紙を提供することである。
【0011】
また、インクジェット印刷により良好に絵柄模様が印刷される化粧シート、さらにインクジェット印刷により良好に絵柄模様が印刷され且つ表面強度に優れる化粧板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意研究した結果、セルロースパルプと填料を主成分とする抄造原紙に、含浸樹脂を抄造原紙に対して8質量%以上35質量%以下の範囲で含有するよう含浸・乾燥し、含浸樹脂を含有する抄造原紙の少なくとも一方の面にカチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩から選ばれる少なくとも1種を主成分とする塗布液を塗布してなる化粧シート用原紙を発明するに至った。
【0013】
好ましくは、含浸樹脂が(メタ)アクリル酸系樹脂であり、抄造原紙が、抄造原紙に対して(メタ)アクリル酸系樹脂を10質量%以上35質量%以下の範囲で含有する。
【0014】
本発明の別の態様としては、本発明にかかる化粧シート用原紙を使用して製造される化粧シートであり、さらに前記化粧シートを用いて製造される化粧板である。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、高い表面強度を有し、インクジェット印刷においてインク吸収性の点で優れたインクジェット印刷適性を有する化粧シート用原紙を提供することができる。
【0016】
また、本発明にかかる化粧シート用原紙を使用して製造される化粧シートは、インクジェット印刷により良好な絵柄模様を有することができる。本発明にかかる化粧シートを用いて製造される化粧板は、インクジェット印刷により良好な絵柄模様を有し、優れた物理的な強度を有し、床材などの建材や家具などの表面材として好適に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の化粧シート用原紙について詳細に説明する。
【0018】
建材や家具に適用される化粧板の製造に用いられる化粧シート用原紙は、耐久性のために高い表面強度が要求される。本発明において、表面強度とは、耐セロハンテープ剥離性として評価される強度である。すなわち、化粧シートの表面にセロハンテープを貼り、その後セロハンテープを剥がした時に化粧シート用原紙表面がセロハンテープによって剥離する度合いによって評価される。表面が容易に剥離する化粧シート用原紙を使用して製造される化粧板は、物理的な強度が不足する。
【0019】
本発明の好ましい態様として、化粧シート用原紙は、床材に適用される化粧板の製造に用いられる。床材に適用される化粧板の製造に用いられる化粧シート用原紙は、表面強度に加えて、高い層間剥離強度が要求される。層間剥離強度は、JIS P 8139に準じて測定し評価することができる。
【0020】
床材に用いる場合、長期間使用が前提となって床材に無数の傷が付くこととなる。傷付いた箇所に物理的な力が集中的に働き、化粧板を構成する材料で比較的強度が弱い化粧シート用原紙に最もストレスがかかることとなる。一般の化粧シート用原紙の層間剥離強度が100N/m程度であるのに対し、床材に用いる化粧板では化粧シート用原紙の層間剥離強度が130N/m以上必要である。層間剥離強度が130N/m以上であれば、床材に用いる化粧板の化粧シート用原紙として好適に用いることができる。層間剥離強度は、含浸樹脂の種類または含有量で調整することができる。
【0021】
本発明において、抄造原紙は、セルロースパルプと填料とを主成分とする。セルロースパルプは、製紙分野で従来公知のパルプであって、例えば、LBKP、NBKPなどの化学パルプ、GP、PGW、RMP、TMP、CTMP、CMP、CGPなどの機械パルプ、およびDIPなどの古紙パルプなどを例示することができる。これらを単独または2種以上を併用して用いることができる。また、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ビニロン繊維などの合成繊維を必要に応じて併用することができる。
【0022】
セルロースパルプの濾水度は、化粧シート用原紙の表面強度および含浸樹脂の含有量を調整するしやすさの点から400ml(CSF)以上600ml(CSF)以下の範囲が好ましい。
【0023】
填料は、製紙分野で従来公知の白色顔料であって、例えば、タルク、カオリン、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、酸化チタンなどを例示することができる。これらを単独または2種以上を併用して用いることができる。建材や家具などの表面材において、隠蔽性(不透明性)を得るために填料の少なくとも1種は酸化チタンが好ましい。また、必要に応じて有色顔料や染料を用いて化粧シート用原紙を着色することができる。
【0024】
本発明において、主成分とは、化粧シート用原紙中にセルロースパルプと填料とが化粧シート用原紙に対して60質量%以上を占めることである。
【0025】
本発明において、抄造原紙の灰分量は、化粧シート用原紙の隠蔽性(不透明性)および表面強度の点から5質量%以上30質量%以下の範囲が好ましい。
【0026】
本発明において、含浸樹脂は、従来公知の熱可塑性樹脂であって、例えば、主な単量体として(メタ)アクリル酸もしくは(メタ)アクリル酸エステルを有する(メタ)アクリル酸系樹脂、主な単量体として酢酸ビニルを有する酢酸ビニル系樹脂、または主な単量体として1,3−ブタジエンを有する合成ゴム系樹脂などを挙げることができる。これら含浸樹脂は、単独または2種以上を併用して用いることができる。含浸樹脂は、化粧シート用原紙が高い層間剥離強度を得られる点で(メタ)アクリル酸系樹脂が好ましい。
【0027】
含浸・乾燥されて抄造原紙に含有される含浸樹脂の含有量は、抄造原紙に対して8質量%以上35質量%以下の範囲である。8質量%未満であると表面強度が得られない。35質量%超であるとインクジェット印刷におけるインク吸収性が得られない、あるいは化粧シートから化粧板を製造する際に化粧シート用原紙を用いてなる化粧シートと基材との接着性が得られない。含有量は、含浸樹脂が(メタ)アクリル酸系樹脂の場合、10質量%以上35質量%以下の範囲が好ましい。
【0028】
本発明において、抄造原紙は、界面活性剤を含有することが好ましい。含浸樹脂の含有量が多い場合、本発明の化粧シート用原紙を用いてなる化粧シートと合板、パーティクルボード、MDF(中質繊維板)などの基材との接着性が低下する場合がある。抄造原紙が界面活性剤を含有することによって、接着性の低下を抑制することができる。
【0029】
かかる界面活性剤は、従来公知の界面活性剤を用いることができる。好ましくは、アルカリ金属塩タイプのアニオン界面活性剤および/またはHLBが15以上のノニオン界面活性剤である。アルカリ金属塩タイプのアニオン界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウムなどを挙げることができる。HLBが15以上のノニオン界面活性剤は、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンオレートなどを挙げることができる。
【0030】
抄造原紙中へ含浸樹脂を含浸させる方法は、抄紙機にオンラインで設置されているサイズプレス装置などにより含浸する方法、抄造乾燥後にオフラインでサイズプレス装置により含浸あるいはディップコートにより含浸する方法のいずれでもよい。製造コストの点からは抄紙機に設置されているサイズプレス装置で含浸する方法が好ましい。サイズプレス装置は、例えば、2ロールサイズプレス、ブレードメタリングサイズプレス、ロッドメタリングサイズプレス、ゲートロールコーターなどを挙げることができる。乾燥させる方法は、従来公知の乾燥装置を用いることができ、特に限定されない。例えば、直線トンネル乾燥機、シリンダードライヤー、アーチドライヤー、エアループドライヤー、サインカーブエアフロートドライヤー等の熱風乾燥機、赤外線、加熱ドライヤー、マイクロ波などを利用した乾燥機などの各種乾燥装置を挙げることができる。
【0031】
本発明において、化粧シート用原紙は、含浸・乾燥によって含浸樹脂を含有した抄造原紙の少なくとも一方の面にカチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩から選ばれる少なくとも1種を主成分とする塗布液を塗布してなる。主成分とは、カチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩から選ばれる物質の合計が塗布液中成分の60質量%以上を占めることである。
【0032】
含浸樹脂を含有した抄造原紙にカチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩から選ばれる少なくとも1種を主成分とする塗布液を塗布してなることによって、化粧シート用原紙は、インクジェット印刷された絵柄模様の濃度が高く、インクジェット印刷において良好なインク吸収性を有する。抄造原紙に含浸・乾燥によって含浸樹脂を含有する前に、カチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩から選ばれる少なくとも1種を主成分とする塗布液を塗布してなると、インクジェット印刷において良好なインク吸収性を得ることができない。
【0033】
本発明において、カチオン性樹脂は、一般的に使用されているカチオン性ポリマーまたはカチオン性オリゴマーであり、その種類は特に限定されない。好ましいカチオン性樹脂は、プロトンが配位しやすく、水に溶解したとき離解してカチオン性を呈する1級〜3級アミンまたは4級アンモニウム塩を含有するポリマーまたはオリゴマーである。カチオン性樹脂は、例えば、ポリエチレンイミン、ポリビニルピリジン、ポリアミンスルホン、ポリジアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリジアルキルアミノエチルアクリレート、ポリジアルキルアミノエチルメタクリルアミド、ポリジアルキルアミノエチルアクリルアミド、ポリエポキシアミン、ポリアミドアミン、ジシアンジアミド−ホルマリン縮合物、ポリビニルアミン、ポリアリルアミンなどの化合物およびこれらの塩酸塩、さらにポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドまたはジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミドなどとの共重合物、ポリジアリルメチルアミン塩酸塩、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン重縮合物などを挙げることができる。カチオン性樹脂は、インクジェット印刷におけるインク吸収性の点でジメチルアミン−エピクロルヒドリン重縮合物が好ましい。本発明において、カチオン性樹脂の平均分子量は特に限定されないが、500以上20000以下の範囲が好ましく、1000以上10000以下の範囲がより好ましい。
【0034】
本発明において、水溶性多価陽イオン塩は、20℃の水に1質量%以上溶解することができる多価陽イオンを含む塩である。多価陽イオンは、例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ニッケル、亜鉛、銅、鉄、コバルト、スズ、マンガンなどの二価陽イオン、アルミニウムイオン、鉄、クロムなどの三価陽イオン、またはチタン、ジルコニウムなどの四価陽イオン、並びにそれらの錯イオンである。多価陽イオンと塩を形成する陰イオンは、無機酸および有機酸のいずれでもよく、特に限定されない。無機酸は、例えば、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、ホウ酸、フッ化水素酸などを挙げることができる。有機酸は、例えば、ギ酸、酢酸、乳酸、クエン酸、シュウ酸、コハク酸、有機スルホン酸などを挙げることができる。
【0035】
インクジェットインクには、色材が染料である染料インクと色材が顔料である顔料インクインクとが存在する。染料インクおよび顔料インクの両方に優れたインクジェット印刷適性を有するためには、カチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩を併用することが好ましい。
【0036】
本発明のカチオン性樹脂および多価陽イオン塩の塗布量は、片面あたり乾燥固形分で0.5g/m以上2.0g/m以下の範囲であることが好ましい。0.5g/m以上の範囲であると、より良好なインク吸収性が得られる。なお、2.0g/m超の範囲でも構わないが、それ以上のインクジェット印刷におけるインク吸収性向上効果は得られず、コストの点から好ましくない。
【0037】
本発明において、カチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩から選ばれる少なくとも1種を主成分とする塗布液は、インクジェット印刷におけるインク吸収性の点で界面活性剤を含有することが好ましい。但し、過剰に含有すると、得られる化粧シート用原紙の表面強度を低下させてしまうこととなる。界面活性剤の塗布量は、片面あたり乾燥固形分で0.1g/m以下の範囲であることが好ましい。
【0038】
本発明において、カチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩から選ばれる少なくとも1種を主成分とする塗布液に用いることができる界面活性剤は、特に限定されない。界面活性剤はノニオン系界面活性剤が好ましく、例えば、アセチレングリコール、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、アセチレンアルコールなどである。
【0039】
カチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩から選ばれる少なくとも1種を主成分とする塗布液を、含浸樹脂を含有する抄造原紙に塗布する方法は従来公知の塗工装置であればよい。塗工装置は、例えば、ゲートロールコーター、フィルムトランスファーコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、エアーナイフコーター、カーテンコーター、グラビアコーターなどである。
【0040】
本発明において、化粧シート用原紙は、インクジェット印刷におけるインク吸収性または表面強度の点で、カチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩から選ばれる少なくとも1種を主成分とする塗布液を塗布された側の面におけるJIS P 8140で規定される接触時間30秒におけるコッブ吸水度が15g/m以上30g/m以下の範囲が好ましい。コッブ吸水度は、抄造原紙中の含浸樹脂の含有量、水溶性多価陽イオン塩の含有量、填料の含有量、後述のカレンダー処理によって調整することができる。含浸樹脂の含有量が増すとコッブ吸水度が小さくなる傾向を示す。水溶性多価陽イオン塩や填料の含有量が増すとコッブ吸水度が大きくなる傾向を示す。比較的強いカレンダー処理を施すとコッブ吸水度は小さくなる傾向を示す。
【0041】
本発明の化粧シート用原紙は、そのままでも使用できるが、必要に応じてマシンカレンダー、ソフトニップカレンダー、スーパーカレンダー、グロスカレンダーなどにより表面を平滑化することもできる。
【0042】
本発明の化粧シート用原紙は、インクジェット印刷適性を有するが、グラビア印刷またはオフセット印刷など他の印刷方法によって絵柄模様を印刷してもよい。
【0043】
本発明の好ましい態様は、本発明にかかる化粧シート用原紙を使用して製造される化粧シートであり、該化粧シートを用いて製造される化粧板である。これにより、インクジェット印刷により良好に絵柄模様が印刷され且つ良好な表面強度を有する化粧板を得ることができる。
【0044】
本発明の化粧シートは、本発明の化粧シート用原紙に図柄模様を印刷した後、印刷した面の上に表面保護層を設けて得られる。表面保護層は、樹脂液を塗布することによって得ることができる。樹脂は、ウレタン樹脂など従来公知の樹脂であって、特に限定されない。近年、特開2012−213933号公報に記載されるが如くの電離放射線硬化性樹脂を塗布してなる表面保護層を有する化粧シートが増えている。
【0045】
電離放射線硬化型樹脂は、電離放射線を照射することにより、硬化する樹脂組成物である。電離放射線とは、電磁波または荷電粒子線のうち、分子を重合あるいは架橋し得るエネルギー量子を有するものを意味し、通常、紫外線(UV)または電子線(EB)が用いられる。
【0046】
本発明の化粧板は、合板、パーティクルボード、MDF(中質繊維板)などの基材に接着剤層を介して、本発明の化粧シートを貼り合わせて得ることができる。接着剤としては、(メタ)アクリル酸系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂などの中から選ばれる少なくとも1種の樹脂が使用できる。
【0047】
接着方法としては、一般にロールラミネート方式またはプレスラミネート方式が用いられる。ロールラミネート方式は、化粧シートと基材とを接着剤を介してロール間を通すことにより連続的に貼り合わせる方式であり、プレスラミネート方式は、一定時間静止状態で熱と圧力を与えて接着する方式である。本発明の化粧シートは、どちらの接着方式でも使用可能である。
【実施例】
【0048】
以下に、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、実施例において示す「部」および「%」は、特に明示しない限り乾燥固形分あるいは実質成分の質量部および質量%を示す。
【0049】
(実施例1)
LBKP/NBKP=80/20部からなるパルプスラリーに、填料として二酸化チタン20部、両性PAM系乾燥紙力剤(荒川化学工業社製:ポリストロン851)1.5部、湿潤紙力剤(ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂)1部、硫酸アルミニウム2部、アルミン酸ナトリウム0.5部を添加し、調成した紙料を長網抄紙機にて坪量60g/mとなるように抄造し、抄造原紙を得た。JIS P 8251に準じて測定される灰分量は、16%であった。
【0050】
抄造原紙に含浸樹脂としてアクリル酸エステルエマルジョン(DIC社製:ボンコートAN−730)100部、アニオン系界面活性剤としてアルキルナフタレンスルフォン酸ナトリウム(花王ケミカル社製:ペレックスNBL)3部からなる含浸液をサイズプレス方式にて含浸樹脂の含有量が抄造原紙中に8%となるよう含浸した。シリンダードライヤーにて乾燥後、水溶性多価陽イオン塩として硝酸カルシウムを1.0g/m、界面活性剤(日信化学工業社製:オルフィンE1010)を0.01g/mとなるように水溶性多価陽イオン塩および界面活性剤を含有する塗布液をグラビア塗工方式にて、含浸樹脂を含浸・乾燥した抄造原紙の片面に塗布・乾燥して、実施例1の化粧シート用原紙を作製した。なお、塗布・乾燥した面側を塗布面という。
【0051】
(実施例2)
実施例1のアクリル酸エステルエマルジョンの含有量を10%に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の化粧シート用原紙を作製した。
【0052】
(実施例3)
実施例1のアクリル酸エステルエマルジョンの含有量を20%に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例3の化粧シート用原紙を作製した。
【0053】
(実施例4)
実施例1のアクリル酸エステルエマルジョンの含有量を35%に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例4の化粧シート用原紙を作製した。
【0054】
(実施例5)
実施例1のアクリル酸エステルエマルジョンをSBRエマルジョン(DIC社製:ラックスター3500T)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例5の化粧シート用原紙を作製した。
【0055】
(実施例6)
実施例2のアクリル酸エステルエマルジョンをSBRエマルジョン(DIC社製:ラックスター3500T)に変更した以外は、実施例2と同様にして、実施例6の化粧シート用原紙を作製した。
【0056】
(実施例7)
実施例3のアクリル酸エステルエマルジョンをSBRエマルジョン(DIC社製:ラックスター3500T)に変更した以外は、実施例3と同様にして、実施例7の化粧シート用原紙を作製した。
【0057】
(実施例8)
実施例4のアクリル酸エステルエマルジョンをSBRエマルジョン(DIC社製:ラックスター3500T)に変更した以外は、実施例4と同様にして、実施例8の化粧シート用原紙を作製した。
【0058】
(実施例9)
実施例3の硝酸カルシウムの塗布量を0.5g/mに変更した以外は、実施例3と同様にして、実施例9の化粧シート用原紙を作製した。
【0059】
(実施例10)
実施例3の硝酸カルシウムの塗布量を2.0g/mに変更した以外は、実施例3と同様にして、実施例10の化粧シート用原紙を作製した。
【0060】
(実施例11)
実施例3の硝酸カルシウムをカチオン性樹脂(里田化工社製:ジェットフィックス5052)に変更した以外は、実施例3と同様にして、実施例11の化粧シート用原紙を作製した。
【0061】
(実施例12)
実施例7の硝酸カルシウムをカチオン性樹脂(里田化工社製:ジェットフィックス5052)に変更した以外は、実施例7と同様にして、実施例12の化粧シート用原紙を作製した。
【0062】
(実施例13)
実施例9の硝酸カルシウムをカチオン性樹脂(里田化工社製:ジェットフィックス5052)に変更した以外は、実施例9と同様にして、実施例13の化粧シート用原紙を作製した。
【0063】
(実施例14)
実施例10の硝酸カルシウムをカチオン性樹脂(里田化工社製:ジェットフィックス5052)に変更した以外は、実施例10と同様にして、実施例14の化粧シート用原紙を作製した。
【0064】
(実施例15)
実施例3の硝酸カルシウムの塗布量を0.5g/mに変更し且つカチオン性樹脂(里田化工社製:ジェットフィックス5052)の塗布量が0.5g/mになるように加える以外は、実施例3と同様にして、実施例15の化粧シート用原紙を作製した。
【0065】
(比較例1)
実施例3の硝酸カルシウムを塗布しない以外は実施例3と同様にして、比較例1の化粧シート用原紙を作製した。
【0066】
(比較例2)
実施例1のアクリル酸エステルエマルジョンの含有量を5%に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例2の化粧シート用原紙を作製した。
【0067】
(比較例3)
実施例1のアクリル酸エステルエマルジョンの含有量を40%に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例3の化粧シート用原紙を作製した。
【0068】
(比較例4)
実施例1で抄造した抄造原紙に、水溶性多価陽イオン塩として硝酸カルシウムを1.0g/m、界面活性剤(日信化学工業社製:オルフィンE1010)を0.01g/mとなるように水溶性多価陽イオン塩および界面活性剤を含有する塗布液をグラビア塗工方式にて、片面に塗布・乾燥した。この水溶性多価陽イオン塩が塗布・乾燥された抄造原紙に、含浸樹脂としてアクリル酸エステルエマルジョン(DIC社製:ボンコートAN−730)100部、アニオン系界面活性剤としてアルキルナフタレンスルフォン酸ナトリウム(花王ケミカル社製:ペレックスNBL)3部からなる含浸液をサイズプレス方式にて含浸樹脂の含有量が抄造原紙中に8%となるよう含浸した。シリンダードライヤーにて乾燥後、比較例4の化粧シート用原紙を作製した。
【0069】
(比較例5)
実施例1で抄造した抄造原紙に、水溶性多価陽イオン塩としてカチオン性樹脂(里田化工社製:ジェットフィックス5052)を1.0g/m、界面活性剤(日信化学工業社製:オルフィンE1010)を0.01g/mとなるように水溶性多価陽イオン塩および界面活性剤を含有する塗布液をグラビア塗工方式にて、片面に塗布・乾燥した。このカチオン性樹脂が塗布・乾燥された抄造原紙に、含浸樹脂としてアクリル酸エステルエマルジョン(DIC社製:ボンコートAN−730)100部、アニオン系界面活性剤としてアルキルナフタレンスルフォン酸ナトリウム(花王ケミカル社製:ペレックスNBL)3部からなる含浸液をサイズプレス方式にて含浸樹脂の含有量が抄造原紙中に8%となるよう含浸した。シリンダードライヤーにて乾燥後、比較例5の化粧シート用原紙を作製した。
【0070】
(比較例6)
LBKP/NBKP=80/20部からなるパルプスラリーに、填料として二酸化チタン20部、両性PAM系乾燥紙力剤(荒川化学工業社製:ポリストロン851)1.5部、湿潤紙力剤(ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂)1部、硫酸アルミニウム2部、アルミン酸ナトリウム0.5部、硝酸カルシウム2.2部を添加し、調成した紙料を長網抄紙機にて坪量60g/mとなるように抄造した。JIS P 8251に準じて測定した灰分量は、16%であった。
【0071】
抄造原紙に含浸樹脂としてアクリル酸エステルエマルジョン(DIC社製:ボンコートAN−730)100部、アニオン系界面活性剤としてアルキルナフタレンスルフォン酸ナトリウム(花王ケミカル社製:ペレックスNBL)3部からなる含浸液をサイズプレス方式にて含浸樹脂の含有量が抄造原紙中に8%となるよう含浸した。シリンダードライヤーにて乾燥後、界面活性剤(日信化学工業社製:オルフィンE1010)を0.01g/mとなるように界面活性剤を含有する塗布液をグラビア塗工方式にて、含浸樹脂を含浸・乾燥した抄造原紙の片面に塗布・乾燥して、比較例6の化粧シート用原紙を作製した。
【0072】
上記実施例1〜15および比較例1〜6の化粧シート用原紙について、次に記載した方法で評価を行い、結果を表1に示した。
【0073】
<コッブ吸水度>
化粧シート用原紙の塗布面について、JIS P 8140に準じて、接触時間30秒におけるコッブ吸水度を測定した。
【0074】
<インクジェット印刷適性>
セイコーエプソン社製ワイドフォーマットプリンターSureColorPX−H9000にて、化粧シート用原紙の塗布面に木目柄の印刷を行い、インク吸収性の点から状態観察し、以下の基準で評価した。本発明において、3以上の評価であればインクジェット印刷適性に優れるとする。
4:良好である。
3:若干画像の滲みがあるが、実用上問題なし。
2:画像に滲みあり、実用上問題となる。
1:画像の滲みが著しい。
【0075】
<耐セロハンテープ剥離性>
化粧シート用原紙を試験片250mm×100mmの大きさに裁断した。試験片の塗布面とは反対側の面に、酢酸ビニル系接着剤(中央理化工業社製:リカボンドAC−500)を用いてパーティクルボードに貼り合わせた。貼り合わせた状態で、化粧シート用原紙の塗布面にセロハンテープ(積水化学工業社製:セキスイセロテープ(登録商標)No.252、幅24mm)を貼り、試験片を40℃の乾燥機で48時間保存した。保存後、パーティクルボードに対し垂直方向へ一定の力でセロハンテープを剥がし、試験片の剥げ具合を以下の基準で評価した。本発明において、3以上の評価であれば高い表面強度であるとする。
4:セロハンテープに、紙粉がほとんど付着していない。
3:セロハンテープに、極僅かに紙粉が付着している。
2:セロハンテープに、明らかに紙粉または小紙片が付着している。
1:セロハンテープに、紙片が付着している。
【0076】
<層間剥離強度>
化粧シート用原紙をMD方向に15mm幅で裁断し試験片を作製した。JIS P 8139に準じて、剥離強度を測定した。本発明において、剥離強度が130N/m以上であれば高い剥離強度であるとする。
【0077】
【表1】
【0078】
表1より、本発明に相当する実施例1〜15は、優れたインクジェット印刷適性を有し、高い表面強度を有することが分かる。また実施例1〜4および11と実施例5〜8および12との対比から、含浸樹脂が(メタ)アクリル酸系樹脂である方が、高い層間剥離強度が得られると分かる。またコッブ吸水度が15g/m以上30g/m以下の範囲が好ましいと分かる。
【0079】
カチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩から選ばれる少なくとも1種を主成分とする塗布液を塗布していない比較例1並びに含浸樹脂の含有量が本発明の範囲に該当しない比較例2および3は、本発明にかかる効果を得ることができないと分かる。
また、含浸樹脂を含浸・乾燥するより先に抄造原紙にカチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩から選ばれる少なくとも1種を主成分とする塗布液を塗布してなる比較例4および5並びにカチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩から選ばれる少なくとも1種を抄造原紙の紙料に含有させた比較例6は、本発明にかかる効果を得ることができないと分かる。
【0080】
<化粧板の作製および物理的な強度試験>
実施例1〜8および比較例2の化粧シート用原紙の塗布面に、セイコーエプソン社製ワイドフォーマットプリンターSureColorPX−H9000を用いて木目柄の印刷を行い、さらにウレタン樹脂液(大日精化工業製、PCT U−26)を塗工し60℃で3日間熱処理して化粧シートを作製した。パーティクルボードに酢酸ビニル系エマルジョン接着剤(中央理化工業製、リカボンドAC−500)を70g/m塗布し、これに化粧シートをロールラミネートにより貼着して化粧板を作製した。
【0081】
実施例1〜8および比較例2の化粧シート用原紙を用いて製造される化粧板を、表面にカッターで傷付けてから成人男性によって100回剪断応力がかかるように蹴るという試験を行った。結果、実施例1〜8の化粧シート用原紙を用いて製造される化粧板は物理的な強度に優れることが分かった。特に、実施例2〜4の化粧シート用原紙を用いて製造される化粧板は優れていた。比較例2の化粧シート用原紙を用いて製造される化粧板は、化粧シート用原紙から剥がれ、物理的な強度に劣るものであった。