特許第6152309号(P6152309)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6152309
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】モータ駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20170612BHJP
   F02N 11/08 20060101ALI20170612BHJP
【FI】
   H02P27/06
   F02N11/08 V
   F02N11/08 Z
【請求項の数】1
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-136567(P2013-136567)
(22)【出願日】2013年6月28日
(65)【公開番号】特開2015-12704(P2015-12704A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2016年5月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000141901
【氏名又は名称】株式会社ケーヒン
(74)【代理人】
【識別番号】100145023
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 学
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153349
【弁理士】
【氏名又は名称】武山 茂
(72)【発明者】
【氏名】寛 貴矩敬
【審査官】 尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−010456(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/00− 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相交流モータを駆動させるモータ駆動装置であって、
3相ブリッジ接続されたスイッチング素子を有し、前記スイッチング素子がスイッチング動作することにより、供給された直流電流を交流電流に変換すると共に前記交流電流を前記3相交流モータに供給する3相ブリッジ駆動回路と、
所定の通電パターンで前記スイッチング素子をスイッチング動作させる制御部と、
を備えたモータ駆動装置において、
前記制御部は、
前記通電パターンを変更する際に、前記変更前の前記スイッチング素子の通電状態と前記変更後の前記スイッチング素子の通電状態とを比較することにより、前記3相交流モータにおける前記変更前の電流の流れる方向と前記変更後の電流の流れる方向とが逆方向になる相が2相以上であるか否かを判定する判定部と、
前記判定部により前記逆方向になる前記相が2相以上であると判定された際に、全ての前記スイッチング素子を一時的にオフ状態にする指令部と、
を備え
前記3相ブリッジ駆動回路は、前記3相交流モータの相毎に一対の前記スイッチング素子を有し、前記判定部は、前記一対のスイッチング素子の通電状態を前記相毎に2値化し、前記変更前の前記一対のスイッチング素子の通電状態を示す各々の2値と、前記変更後の前記一対のスイッチング素子の通電状態を示す各々の2値と、の前記相毎の対応関係に基づいて、前記逆方向になる前記相が2相以上であるか否かを判定することを特徴とするモータ駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動装置に関し、特に、3相ブリッジ接続されたスイッチング素子を有する3相ブリッジ駆動回路を用いて、3相交流モータを駆動するモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両においては、信号待ち等により車両を停止させた際にエンジンを自動的に停止し、車両を再び発進させる際にエンジンを自動的に再始動する構成のいわゆるアイドリングストップ機能が採用されることが多くなってきている。かかるアイドリングストップ機能を採用することにより、アイドリング時の排気ガス及び燃料消費を抑えることができるので、環境への負荷を低減することができると共に、省エネルギ化することができる。
【0003】
かかる状況下で、特許文献1は、エンジン始動装置に関し、エンジンを始動する際に、始動時の負荷トルクの影響を小さくするために、一旦、正規のエンジン回転方向の逆方向にスターターモータを回転させた後、正規のエンジン回転方向にスターターモータを回転させる構成を開示する。
【0004】
また、特許文献1に開示されているようなスターターモータを、3相ブリッジ駆動回路を用いて駆動制御するモータ駆動装置が提案されている。3相ブリッジ駆動回路を用いてスターターモータを駆動制御する場合には、モータにおけるコイルとマグネットとの相対位置を位相センサにより検出し、この検出結果に基づいて3相のスイッチング素子を所定の通電パターンでスイッチング制御する。かかるスターターモータを駆動する場合には、スイッチング素子のスイッチングのタイミングの位相角を進角させる際の進角量を変化させることにより、所望のトルクを得たり、又は、エンジンを所望の角度だけ回転させることができる。
【0005】
特許文献2は、3相交流モータを3相交流発電機として用いる充電制御装置に関し、3相ブリッジ駆動回路を用いて3相交流発電機を駆動させる駆動制御装置に関し、位相角を進角させる際の進角量が60度以上になると、2相のコイルに流れる電流の方向が反転し、急激な電流の流れの変化を生じる可能性があることに対処すべく、進角量の変化を監視し、進角量が60度以上の場合に、全ての相のスイッチング素子をオフにして電流の流れをリセットすることにより、2相のコイルに流れる電流の方向が反転して急激な電流の流れの変化を生じることを防ぐ構成を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−283010号公報
【特許文献2】特開2012−10456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者の検討によれば、特許文献1及び特許文献2で各々開示される構成を組み合わせたとしても、3相ブリッジ駆動回路の各スイッチング素子の通電パターンを変更した際に、位相角の変化が所定角度以内であっても、2相のコイルに流れる電流の方向が反転する場合が考えられる。例えば、180度通電モードから120度通電モードに切り替える通電パターンの変更の際に、位相角の変化が所定角度以内であっても、2
相のコイルに流れる電流の方向が反転し、急激な電流の流れの変化を生じる場合が考えられ、かかる場合には、3相交流モータの不安定な動作や不要な動作につながる傾向があるとも考えられる。
【0008】
つまり、現状では、3相ブリッジ駆動回路の各スイッチング素子に任意の通電パターンの変更を行ったとしても、電流の流れる方向に急激な変化が発生することを抑制することができる新規な構成のモータ駆動装置の実現が待望された状況にある。
【0009】
本発明は、以上の検討を経てなされたもので、3相ブリッジ駆動回路の各スイッチング素子に任意の通電パターンの変更を行ったとしても、電流の流れる方向に急激な変化が発生することを抑制することができるモータ駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の目的を達成すべく、本発明は、3相交流モータを駆動させるモータ駆動装置であって、3相ブリッジ接続されたスイッチング素子を有し、前記スイッチング素子の各々がスイッチング動作することにより、供給された直流電流を交流電流に変換すると共に前記交流電流を前記3相交流モータに供給する3相ブリッジ駆動回路と、所定の通電パターンで前記スイッチング素子をスイッチング動作させる制御部と、を備えたモータ駆動装置において、前記制御部は、前記通電パターンを変更する際に、前記変更前の前記スイッチング素子の通電状態と前記変更後の前記スイッチング素子の通電状態とを比較することにより、前記3相交流モータにおける前記変更前の電流の流れる方向と前記変更後の電流の流れる方向とが逆方向になる相が2相以上であるか否かを判定する判定部と、前記判定部により前記逆方向になる前記相が2相以上であると判定された際に、全ての前記スイッチング素子を一時的にオフ状態にする指令部と、を備え、前記3相ブリッジ駆動回路は、前記3相交流モータの相毎に一対の前記スイッチング素子を有し、前記判定部は、前記一対のスイッチング素子の通電状態を前記相毎に2値化し、前記変更前の前記一対のスイッチング素子の通電状態を示す各々の2値と、前記変更後の前記一対のスイッチング素子の通電状態を示す各々の2値と、の前記相毎の対応関係に基づいて、前記逆方向になる前記相が2相以上であるか否かを判定することを第1の局面とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の局面によれば、所定の通電パターンで3相ブリッジ駆動回路のスイッチング素子をスイッチング動作させる制御部が、通電パターンを変更する際に、変更前のスイッチング素子の通電状態と変更後のスイッチング素子の通電状態とを比較することにより、3相交流モータにおける変更前の電流の流れる方向と変更後の電流の流れる方向とが逆方向になる相が2相以上であるか否かを判定する判定部と、判定部により逆方向になる相が2相以上であると判定された際に、全てのスイッチング素子を一時的にオフ状態にする指令部と、を備えることにより、3相ブリッジ駆動回路の各スイッチング素子に任意の通電パターンの変更を行ったとしても、電流の流れる方向に急激な変化が発生することを抑制することができるモータ駆動装置を実現することができる。
【0013】
また、本発明の第の局面によれば、3相ブリッジ駆動回路が、3相交流モータの相毎に一対のスイッチング素子を有し、判定部は、一対のスイッチング素子の通電状態を相毎に2値化し、変更前の一対のスイッチング素子の通電状態を示す各々の2値と、変更後の一対のスイッチング素子の通電状態を示す各々の2値と、の相毎の対応関係に基づいて、逆方向になる相が2相以上であるか否かを判定することにより、通電パターンの変更前と変更後とで3相交流モータの2相のコイルに流れる電流の方向が反転するか否かを簡便な方法により早期かつ確実に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態におけるモータ駆動装置の構成を示す模式図である。
図2】本実施形態におけるモータ駆動装置の動作を示す図である。ここで、図2(a)は、本実施形態におけるモータ駆動装置のタイミングチャートを示す図であり、図2(b)は、本実施形態におけるモータ駆動装置の変更前の通電状態を示す図であり、また、図2(c)は、本実施形態におけるモータ駆動装置の変更後の通電状態を示す図である。
図3】本実施形態におけるモータ駆動装置の変更前の通電状態と変更後の通電状態との対応関係を示す図であり、図3(a)は、本実施形態におけるモータ駆動装置の変更前の通電状態と変更後の通電状態との対応関係の第1の例を示す図であり、また、図3(b)は、本実施形態におけるモータ駆動装置の変更前の通電状態と変更後の通電状態との対応関係の第2の例を示す図である。
図4】本発明の実施形態の変形例におけるモータ駆動装置の動作を示す図である。ここで、図4(a)は、本変形例におけるモータ駆動装置のタイミングチャートを示す図であり、図4(b)は、本変形例におけるモータ駆動装置の変更前の通電状態を示す図であり、また、図4(c)は、本変形例におけるモータ駆動装置の変更後の通電状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を適宜参照して、本発明の実施形態におけるモータ駆動装置につき、詳細に説明する。
【0016】
図1は、本実施形態におけるモータ駆動装置の構成を示す模式図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態におけるモータ駆動装置10は、3相ブリッジ駆動回路20及び制御部30を備える。なお、図1では、モータ駆動装置10以外に、3相交流モータ40、位相センサ50及び電源60をも示している。
【0018】
3相ブリッジ駆動回路20は、3相ブリッジ接続されたスイッチング素子21、22、23、24、25及び26を有し、制御部30の制御信号に従って、スイッチング素子21、22、23、24、25及び26の各々をオン又はオフにして電源60から供給された直流電流を各々が矩形波から成る3相交流電流に変換すると共に、3相交流電流を3相交流モータ40に供給する。なお、スイッチング素子21、22、23、24、25及び26は、典型的には各々トランジスタであり、図1では、一例として、N型のMOSFET(Metal−Oxide−Semiconductor Field−Effect
Transistor)として各々示している。
【0019】
具体的には、3相ブリッジ駆動回路20は、U相、V相及びW相の3相の各相に対して、一対のスイッチング素子21、22、23、24、25及び26を各々対応して有している。つまり、3相ブリッジ駆動回路20では、U相の一対のスイッチング素子21とスイッチング素子22とが電気的に接続されており、スイッチング素子21がオン状態でかつスイッチング素子22がオフ状態の場合にU相の駆動電圧をハイレベルにし、スイッチング素子21がオフ状態でかつスイッチング素子22がオン状態の場合にU相の駆動電圧をローレベルにする。また、3相ブリッジ駆動回路20では、V相の一対のスイッチング素子23とスイッチング素子24とが電気的に接続されており、スイッチング素子23がオン状態でかつスイッチング素子24がオフ状態の場合にV相の駆動電圧をハイレベルにし、スイッチング素子23がオフ状態でかつスイッチング素子24がオン状態の場合にV相の駆動電圧をローレベルにする。更に、3相ブリッジ駆動回路20では、W相の一対のスイッチング素子25とスイッチング素子26とが電気的に接続されており、スイッチン
グ素子25がオン状態かつスイッチング素子26がオフ状態の場合にW相の駆動電圧をハイレベルにし、スイッチング素子25がオフ状態かつスイッチング素子26がオン状態の場合にW相の駆動電圧をローレベルにする。
【0020】
スイッチング素子21は、指令部32に電気的に接続された制御端子と、電源60の高電位側に電気的に接続された一方の入力端子と、スイッチング素子22及び3相交流モータ40の接続端子44に電気的に接続された他方の入力端子と、を有している。かかるスイッチング素子21は、その制御端子に対して指令部32から印加される所定の制御信号に従って、オン/オフ動作し、それがオン状態のときは、一方の入力端子から他方の入力端子へ電流が流れる。
【0021】
スイッチング素子22は、指令部32に電気的に接続された制御端子と、スイッチング素子21及び3相交流モータ40の接続端子44に電気的に接続された一方の入力端子と、電源60の低電位側に電気的に接続された他方の入力端子と、を有している。かかるスイッチング素子22は、その制御端子に対して指令部32から印加される所定の制御信号に従って、オン/オフ動作し、それがオン状態のときには、一方の入力端子から他方の入力端子へ電流が流れる。
【0022】
スイッチング素子23は、指令部32に電気的に接続された制御端子と、電源60の高電位側に電気的に接続された一方の入力端子と、スイッチング素子24及び3相交流モータ40の接続端子46に電気的に接続された他方の入力端子と、を有している。かかるスイッチング素子23は、その制御端子に対して指令部32から印加される所定の制御信号に従って、オン/オフ動作し、それがオン状態のときには、一方の入力端子から他方の入力端子へ電流が流れる。
【0023】
スイッチング素子24は、指令部32に電気的に接続された制御端子と、スイッチング素子23及び3相交流モータ40の接続端子46に電気的に接続された一方の入力端子と、電源60の低電位側に電気的に接続された他方の入力端子と、を有している。かかるスイッチング素子24は、その制御端子に対して指令部32から印加される所定の制御信号に従って、オン/オフ動作し、それがオン状態のときには、一方の入力端子から他方の入力端子へ電流が流れる。
【0024】
スイッチング素子25は、指令部32に電気的に接続された制御端子と、電源60の高電位側に電気的に接続された一方の入力端子と、スイッチング素子26及び3相交流モータ40の接続端子45に電気的に接続された他方の入力端子と、を有している。かかるスイッチング素子25は、その制御端子に対して指令部32から印加される所定の制御信号に従って、オン/オフ動作し、それがオン状態のときには、一方の入力端子から他方の入力端子へ電流が流れる。
【0025】
スイッチング素子26は、指令部32に電気的に接続された制御端子と、スイッチング素子25及び3相交流モータ40の接続端子45に電気的に接続された一方の入力端子と、電源60の低電位側に電気的に接続された他方の入力端子と、を有している。かかるスイッチング素子26は、その制御端子に対して指令部32から印加される所定の制御信号に従って、オン/オフ動作し、それがオン状態のときには、一方の入力端子から他方の入力端子へ電流が流れる。
【0026】
制御部30は、判定部31及び指令部32を機能ブロックとして有し、3相交流モータ40におけるU相のコイル41、V相のコイル42及びW相のコイル43が設けられた図示を省略するロータの回転角(回転位置)の情報を担持する位相センサ50の検出信号に基づいて、スイッチング素子21、22、23、24、25及び26の各々のオン状態と
オフ状態とを切り替えるスイッチング制御を行う。なお、判定部31及び指令部32を機能ブロックとして機能させるプログラムは、図示を省略するメモリ中に予め記憶されている。
【0027】
判定部31は、位相センサ50で検出した検出信号から、3相交流モータ40のいずれも図示を省略するマグネット群が設けられたステータに対するロータの位相角、つまり3相交流モータ40の位相角を判別すると共に、これらに基づいて、3相交流モータ40の次の位相角の範囲におけるスイッチング素子21、22、23、24、25及び26の通電パターンを決定し、指令部32にその決定結果を担持する信号を送出する。
【0028】
具体的には、判定部31は、180度通電モードにおいて、スイッチング素子21、22、23、24、25及び26の通電パターンにおける各々の通電状態を、3相交流モータ40の位相角で60度毎に決定すると共に、所定のタイミングになると、それらの通電パターンを3相交流モータ40の位相角で90度ほど進角させるための新たな通電パターンにおける各々の通電状態を決定する。ここで、180度通電モードとは、U相のコイル41、V相のコイル42及びW相のコイル43に各々印加される駆動電圧が3相交流モータ40の位相角で180度ずつ対応して連続してハイレベルになる通電モードをいう。
【0029】
更に、判定部31は、所定のタイミングで、スイッチング素子21、22、23、24、25及び26の通電パターンを3相交流モータ40の位相角で90度ほど進角させるための新たな通電パターンを決定する際に、変更前である現在のスイッチング素子21、22、23、24、25及び26の各々の通電状態と、変更後の新たな通電パターンにおけるスイッチング素子21、22、23、24、25及び26の各々の通電状態と、を比較することにより、通電パターンの変更前における3相交流モータ40の各々の相のコイル41、42及び43に流れる駆動電流の方向に対して、通電パターンの変更後における3相交流モータ40の各々の相のコイル41、42及び43に流れる駆動電流の方向が逆方向になる相が、2相以上あるか否かを判定し、逆方向になる相が2相以上あると判定した場合に、全てのスイッチング素子21、22、23、24、25及び26を一時的にオフ状態にすることを決定し、指令部32にその決定結果を担持する信号を送出する。
【0030】
指令部32は、各スイッチング素子21、22、23、24、25及び26の制御端子に電気的に接続され、判定部31からの送出信号に従って、スイッチング素子21、22、23、24、25及び26の制御端子に対してハイレベル及びローレベルから成る制御信号を各々印加することにより、これらを対応してオン/オフ動作させる。
【0031】
3相交流モータ40は、U相のコイル41と、V相のコイル42と、W相のコイル43と、の3相のコイルと、をロータ側に有すると共に、これらの周囲のステータ側に配列されたマグネット群を有し、3相ブリッジ駆動回路20から3相交流電流の供給を受けて駆動される。
【0032】
U相のコイル41は、U相のスイッチング素子21の他方の端子と、U相のスイッチング素子22の一方の端子と、に電気的に接続する接続端子44を有している。V相のコイル42は、V相のスイッチング素子23の他方の端子と、V相のスイッチング素子24の一方の端子と、に電気的に接続する接続端子45を有している。W相のコイル43は、W相のスイッチング素子25の他方の端子と、W相のスイッチング素子26の一方の端子と、に電気的に接続する接続端子45を有している。
【0033】
位相センサ50は、典型的にはホール素子や磁気抵抗素子を用いた磁気センサであり、3相交流モータ40のマグネット群が設けられたステータに対するロータの回転角(回転位置)を時系列に変化する電圧信号として検出し、その検出信号を制御部30の判定部3
1に送出する。かかる検出信号は、ロータの回転角で典型的には180度毎にハイレベル及びローレベルの電圧レベルが交互に現れる電圧信号であり、ロータに設けられたU相のコイル41、V相のコイル42、及びW相のコイル43の各々の回転位置に応じて位相の異なる3相の電圧信号を含む。
【0034】
電源60は、直流電源であり、直流電流を3相ブリッジ駆動回路20に供給する。
【0035】
次に、以上の構成を有する本実施形態におけるモータ駆動装置10の動作につき、更に図2及び図3をも参照しながら、詳細に説明する。
【0036】
図2は、本実施形態におけるモータ駆動装置の動作を示す図である。ここで、図2(a)は、本実施形態におけるモータ駆動装置のタイミングチャートを示す図であり、図2(b)は、本実施形態におけるモータ駆動装置の変更前の通電状態を示す図であり、また、図2(c)は、本実施形態におけるモータ駆動装置の変更後の通電状態を示す図である。図3は、本実施形態におけるモータ駆動装置の変更前の通電状態と変更後の通電状態との対応関係を示す図であり、図3(a)は、本実施形態におけるモータ駆動装置の変更前の通電状態と変更後の通電状態との対応関係の第1の例を示す図であり、また、図3(b)は、本実施形態におけるモータ駆動装置の変更前の通電状態と変更後の通電状態との対応関係の第2の例を示す図である。なお、図2(b)及び(c)では、各スイッチング素子21、22、23、24、25及び26の制御端子に対する電気的な接続配線の図示を省略している。
【0037】
図2(a)において、上段の(1)は、位相センサ50で検出したU相、V相及びW相の各相の検出電圧値の経時変化を示している。中段の(2)は、スイッチング素子21、22、23、24、25及び26の通電パターンを示しており、時刻t1以降においては90度進角させた場合のスイッチング素子21、22、23、24、25及び26の通電パターンを示している。但し、便宜上、中段の(2)は、時刻t1の直後の60度の位相角の範囲に相当する各欄に、各スイッチング素子21、22、23、24、25及び26の通電状態を全てオフに切り替える内容も示している。また、下段の(3)は、3相交流モータ40のU相のコイル41、V相のコイル42、及びW相のコイル43に各々印加される駆動電圧値の経時変化を示しており、時刻t1以降においては90度進角させた場合の3相交流モータ40のU相のコイル41、V相のコイル42、及びW相のコイル43に各々印加される駆動電圧値の経時変化を示している。
【0038】
図3(a)は、1つのスイッチング素子がオン状態である場合を「1」とし、1つのスイッチング素子がオフ状態である場合を「0」としてかかる状態を2値化して表し、各相の一対のスイッチング素子における変更前の通電状態のパターンを「0」「0」、「0」「1」及び「1」「0」の2進数の組み合わせで、最も左側の列に示し、かつ、かかる各相の一対のスイッチング素子における変更後の通電状態のパターンを「0」「0」、「0」「1」及び「1」「0」の2進数の組み合わせで、最も上側の行に対応して示した真理値表である。具体的には、最も左側の列及び最も上側の行においては、左側の「0」又は「1」が、ハイ側のスイッチング素子21、23、25の通電状態に対応しており、右側の「0」又は「1」が、ロー側のスイッチング素子22、24及び26の通電状態に対応している。なお、ここでは、3相交流モータ40を駆動制御する際に、各相の一対のスイッチング素子の両方がオンであることはあり得ないため、通電状態として「1」「1」の組み合わせを設定していない。
【0039】
ここで、図3(a)における最も左側の列及び最も上側の行に挟まれた領域には、かかる各相の一対のスイッチング素子を変更前の通電状態から変更後の通電状態に切り替える際に、対応する各相のコイル41、42及び43に流れる駆動電流の向きの変化パターン
を示しており、対応する各相のコイル41、42及び43に流れる駆動電流の向きが変わらないものを、「0」「0」、「0」「1」及び「1」「0」の2進数の組み合わせで示し、対応する各相のコイル41、42及び43に流れる駆動電流の向きが変わるものを、「1」「1」の2進数の組み合わせで示している。つまり、このように、最も左側の列に示す2進数の組み合わせと最も上側の行に示す2進数の組み合わせとから、これらに挟まれた領域に示す2進数の組み合わせを得る論理演算は、排他的論理和演算である。
【0040】
また、図3(b)は、図3(a)と同じ情報を有するテーブルであるが、図3(b)における最も左側の列及び最も上側の行に挟まれた領域には、かかる各相の一対のスイッチング素子を変更前の通電状態から変更後の通電状態に切り替える際に、対応する各相のコイル41、42及び43に流れる駆動電流の向きの変化パターンを、図3(a)よりも簡略化して示しており、対応する各相のコイル41、42及び43に流れる駆動電流の向きが変わらないものを、「OK」の表記で示し、対応する各相のコイル41、42及び43に流れる駆動電流の向きが変わるものを、「NG」の表記で示している。つまり、図3(b)は、図3(a)の真理値表を元にして作成したテーブルデータであり、図示を省略するメモリ中に予め記憶されている。
【0041】
具体的には、時刻t1以前においては、制御部30の判定部31は、図2(a)の上段の(1)に示すロータに設けられた各相のコイル41、42及び43の回転角(回転位置)に応じた位相センサ50の検出信号に基づいて、図2(a)の中段の(2)に示す次の位相角の範囲の60度におけるスイッチング素子21、22、23、24、25及び26の通電パターンを決定する。制御部30の指令部32は、判定部31が決定した通電パターンに従って、スイッチング素子21、22、23、24、25及び26の各々を対応してオン状態又はオフ状態にするスイッチング制御を行う。これにより、各相のコイル41、42及び43において、図2(a)の下段の(3)に示す駆動電圧波形が得られる。この際、各相におけるローレベルとハイレベルとの電位差をVで示す。
【0042】
つまり、時刻t1以前においては、判定部31は、3相交流モータ40の位相角の60度毎に、位相センサ50の検出信号に基づいて、U相の一対のスイッチング素子21、22のうちの一方のスイッチング素子をオン状態にすると共に他方のスイッチング素子をオフ状態にし、V相の一対のスイッチング素子23、24のうちの一方のスイッチング素子をオン状態にすると共に他方のスイッチング素子をオフ状態にし、W相の一対のスイッチング素子25及び26のうちの一方のスイッチング素子をオン状態にすると共に何れか他方のスイッチング素子をオフ状態にすることを決定して、スイッチング素子21、22、23、24、25及び26の所定の通電パターンを設定する。
【0043】
そして、時刻t1直前の区間R1においては、図2(a)の中段の(2)に示すように、スイッチング素子21、22、23、24、25及び26の通電状態は、各々オフ、オン、オン、オフ、オン及びオフの状態になっており、図2(b)に示すように、3相交流モータ40には、V相及びW相からU相に向かって駆動電流が流れる。具体的には、電源60から供給される駆動電流は、オン状態であるスイッチング素子23から3相交流モータ40のV相のコイル42に流れると共に、オン状態であるスイッチング素子25から3相交流モータ40のW相のコイル43に流れ、3相交流モータ40のV相のコイル42及びW相のコイル43を経てU相のコイル41に流れて、U相のコイル41を経てオン状態であるスイッチング素子22を流れて電源60に戻る。
【0044】
ここで、図2(a)に示すように、制御部30は、180度通電モードで3相交流モータ40を駆動している時刻t1において、その通電パターンの位相を90度進角させることになる。
【0045】
この際、判定部31は、時刻t1において、かかる通電パターンの進角を実際に行う前に、仮にかかる通電パターンの進角を行うならば、3相交流モータ40の各相のコイル41、42及び43において、通電パターン進角前における各相のコイル41、42及び43に流れる駆動電流の方向と、通電パターン進角後における各相のコイル41、42及び43に流れる駆動電流の方向と、が逆方向になる相が、2相以上あるか否かの判定処理を行う必要がある。
【0046】
具体的には、仮にかかる通電パターンの進角を行うとすれば、図2(a)の中段の(2)に示すように、時刻t1直前の区間R1及び時刻t1直後の区間R2においては、U相においてスイッチング素子21をオフ状態からオン状態に切り替えると共にスイッチング素子22をオン状態からオフ状態に切り替える。また、V相においてスイッチング素子23をオン状態からオフ状態に切り替えると共にスイッチング素子24をオフ状態からオン状態に切り替える。また、W相においてスイッチング素子25をオン状態のまま切り替えないと共にスイッチング素子26をオフ状態のまま切り替えない。
【0047】
これより、かかる通電パターンの進角後においては、図2(c)に示すように、U相のコイル41及びW相のコイル43からV相のコイル42に向かって駆動電流が流れる。具体的には、電源60から供給される電流は、オン状態となるスイッチング素子21から3相交流モータ40のU相のコイル41に流れると共に、オン状態となるスイッチング素子25から3相交流モータ40のW相のコイル43に流れ、3相交流モータ40のU相のコイル41及びW相のコイル43を経て3相交流モータ40のV相のコイル42に流れ、更に、V相のコイル42を経てオン状態であるスイッチング素子24を流れて電源60に戻ることになる。
【0048】
つまり、かかる場合には、図2(b)に示す各相のコイル41、42及び43に流れる駆動電流の方向と、図2(c)に示す各相のコイル41、42及び43に流れる駆動電流の方向と、を比較すると、U相のコイル41及びV相のコイル42を流れる各々の駆動電流の方向が逆転していることが分かる。
【0049】
かかる判定部31の判定処理は、まとめれば、図3(a)の真理値表に基づいて行われていることになる。
【0050】
つまり、図3(a)においては、時刻t1直前の区間R1におけるU相では、スイッチング素子21がオフ状態であると共にスイッチング素子22がオン状態であるため、その通電状態を示す2値の組み合わせは「0」「1」になり、時刻t1直後の区間R2におけるU相では、スイッチング素子21がオン状態であると共にスイッチング素子22がオフ状態であるため、通電状態を示す2値の組み合わせは「1」「0」になる。従って、判定部31は、図3(a)の真理値表から、スイッチング素子21の通電パターン進角前後の通電状態を示す「0」「1」とスイッチング素子22の通電パターン進角前後の通電状態を示す「1」「0」とから、通電パターンの進角に伴うU相の状態を示す2値の組み合わせを「1」「1」として求まる。つまり、これは、スイッチング素子21の通電パターン進角前後の通電状態を示す「0」と「1」とを排他的論理和演算して「1」を求めると共に、スイッチング素子22の通電パターン進角前後の通電状態を示す「1」と「0」とを排他的論理和演算して「1」を求めることにより、通電パターンの進角に伴うU相の状態を示す2値の組み合わせを「1」「1」として求めたのと同義である。
【0051】
また、図3(a)においては、時刻t1直前の区間R1におけるV相では、スイッチング素子23がオン状態であると共にスイッチング素子24がオフ状態であるため、通電状態を示す2値の組み合わせは「1」「0」になり、時刻t1直後の区間R2におけるV相では、スイッチング素子21がオフ状態であると共にスイッチング素子22がオン状態で
あるため、通電状態を示す2値の組み合わせは「0」「1」になる。従って、判定部31は、図3(a)の真理値表から、スイッチング素子23の通電パターン進角前後の通電状態を示す「1」「0」とスイッチング素子24の通電パターン進角前後の通電状態を示す「0」「1」とから、通電パターンの進角に伴うV相の状態を示す2値の組み合わせを「1」「1」として求まる。つまり、これは、スイッチング素子23の通電パターン進角前後の通電状態を示す「1」と「0」とを排他的論理和演算して「1」を求めると共に、スイッチング素子24の通電パターン進角前後の通電状態を示す「0」と「1」とを排他的論理和演算して「1」を求めることにより、通電パターンの進角に伴うV相の状態を示す2値の組み合わせを「1」「1」として求めたのと同義である。
【0052】
更に、図3(a)においては、時刻t1直前の区間R1におけるW相では、スイッチング素子25がオン状態であると共にスイッチング素子26がオフ状態であるため、通電状態を示す2値の組み合わせは「1」「0」になり、時刻t1直後の区間R2におけるW相では、スイッチング素子25がオン状態であると共にスイッチング素子26がオフ状態であるため、通電状態を示す2値の組み合わせは「1」「0」になる。従って、判定部31は、図3(a)の真理値表から、スイッチング素子25の通電パターン進角前後の通電状態を示す「1」「1」とスイッチング素子26の通電パターン進角前後の通電状態を示す「0」「0」とから、通電パターンの進角に伴うW相の状態を示す2値を「0」「0」として求まる。つまり、これは、スイッチング素子25の通電パターン進角前後の通電状態を示す「1」と「1」とを排他的論理和演算して「0」を求めると共に、スイッチング素子26の通電パターン進角前後の通電状態を示す「0」と「0」とを排他的論理和演算して「0」を求めることにより、通電パターンの進角に伴うW相の状態を示す2値の組み合わせを「0」「0」として求めたのと同義である。
【0053】
この結果、判定部31は、通電パターンを進角する際の時刻t1において、「1」「1」となる相がU相及びV相の2相存在するため、3相交流モータ40の各相のコイル41、42及び43において、通電パターン進角前における各相のコイル41、42及び43に流れる駆動電流の方向と、通電パターン進角後における各相のコイル41、42及び43に流れる駆動電流の方向と、が逆方向になる相が、2相以上あると判定し、全てのスイッチング素子21、22、23、24、25及び26を一時的にオフ状態にすることを決定し、指令部32にその決定結果を担持する信号を送出することになる。
【0054】
ここで、かる判定部31の判定処理は、図3(b)のテーブルデータを参照して論理演算結果を検索することが、その効率上はより好ましい。判定部31が図3(b)のテーブルを参照して判定する場合には、通電パターンを進角する際の時刻t1において、「NG」となる相がU相及びV相の2相存在するため、判定部31は、3相交流モータ40の各相のコイル41、42及び43において、通電パターン進角前における各相のコイル41、42及び43に流れる駆動電流の方向と、通電パターン進角後における各相のコイル41、42及び43に流れる駆動電流の方向と、が逆方向になる相が、2相以上あると判定し、全てのスイッチング素子21、22、23、24、25及び26を一時的にオフ状態にすることを決定し、指令部32にその決定結果を担持する信号を送出する。
【0055】
そして、指令部32は、判定部31からのかかる送出信号に従って、区間R2において、スイッチング素子21、24及び26をオフ状態のまま維持すると共に、スイッチング素子22、23及び25をオン状態からオフ状態に切り替えることにより、全てのスイッチング素子21、22、23、24、25及び26を、一時的にオフにする制御を行う。
【0056】
その後、判定部31は、同様の処理を繰り返し、3相交流モータ40の各相のコイル41、42及び43において、通電パターン進角前における各相のコイル41、42及び43に流れる駆動電流の方向と、通電パターン進角後における各相のコイル41、42及び
43に流れる駆動電流の方向と、が逆方向になる相が、2相以上ないことを確認して、3相交流モータ40の通電パターンの位相を90度進角させることになる。なお、必要に応じて、かかる処理を繰り返さずに、全てのスイッチング素子21、22、23、24、25及び26を、一時的にオフにした後、3相交流モータ40の通電パターンの位相を90度進角することを選択してもよいし、従前の3相交流モータ40の180度通電パターンを引き続き実行してもかまわない。
【0057】
次に、本実施形態の変形例におけるモータ駆動装置10の動作につき、更に図4をも参照しながら、詳細に説明する。なお、本変形例におけるモータ駆動装置10の構成は、以上説明した実施形態におけるものと同一であり、その動作のみが異なっている。
【0058】
図4は、本発明の実施形態の変形例におけるモータ駆動装置の動作を示す図であり、その態様は図3と同様である。ここで、図4(a)は、本変形例におけるモータ駆動装置のタイミングチャートを示す図であり、図4(b)は、本変形例におけるモータ駆動装置の変更前の通電状態を示す図であり、また、図4(c)は、本変形例におけるモータ駆動装置の変更後の通電状態を示す図である。
【0059】
具体的には、判定部31は、180度通電モードにおいて、スイッチング素子21、22、23、24、25及び26の通電パターンにおける各々の通電状態を、3相交流モータ40の位相角で60度毎に決定すると共に、所定のタイミングになると、それらの通電パターンを120度通電パターンに変更するための各々の通電状態を決定する。ここで、120度通電モードとは、U相のコイル41、V相のコイル42及びW相のコイル43に各々印加される駆動電圧が3相交流モータ40の位相角で120度ずつ対応して連続してハイレベルになる通電モードをいい、その120度の区間に前後して、ハイレベルとローレベルとの中間レベルの駆動電圧が設定されている。
【0060】
更に、判定部31は、所定のタイミングで、スイッチング素子21、22、23、24、25及び26の通電パターンを変更するための新たな通電パターンを決定する際に、変更前である現在のスイッチング素子21、22、23、24、25及び26の各々の通電状態と、変更後の新たな通電パターンにおけるスイッチング素子21、22、23、24、25及び26の各々の通電状態と、を比較することにより、通電パターンの変更前における3相交流モータ40の各々の相のコイル41、42及び43に流れる駆動電流の方向に対して、通電パターンの変更後における3相交流モータ40の各々の相のコイル41、42及び43に流れる駆動電流の方向が逆方向になる相が、2相以上あるか否かを判定し、逆方向になる相が2相以上あると判定した場合に、全てのスイッチング素子21、22、23、24、25及び26を一時的にオフ状態にすることを決定し、指令部32にその決定結果を担持する信号を送出する。
【0061】
具体的には、時刻t1以前においては、制御部30の判定部31は、図4(a)の上段の(1)に示すロータに設けられた各相のコイル41、42及び43の回転角(回転位置)に応じた位相センサ50の検出信号に基づいて、図4(a)の中段の(2)に示す次の位相角の範囲の60度におけるスイッチング素子21、22、23、24、25及び26の通電パターンを決定する。制御部30の指令部32は、判定部31が決定した通電パターンに従って、スイッチング素子21、22、23、24、25及び26の各々を対応してオン状態又はオフ状態にするスイッチング制御を行う。これにより、各相のコイル41、42及び43において、図4(a)の下段の(3)に示す駆動電圧波形が得られる。
【0062】
そして、時刻t1直前の区間R1においては、図4(a)の中段の(2)に示すように、スイッチング素子21、22、23、24、25及び26の通電状態は、各々オフ、オフ、オフ、オン、オン及びオフの状態になっており、図4(b)に示すように、3相交流
モータ40には、W相からV相及びU相に向かって駆動電流が流れる。具体的には、電源60から供給される電流は、オン状態であるスイッチング素子25から3相交流モータ40のW相のコイル43に流れ、3相交流モータ40のW相のコイル43を経てU相のコイル41及びV相のコイル42に流れて、U相のコイル41及びオン状態であるスイッチング素子22を経て電源60に戻ると共に、V相のコイル42及びオン状態であるスイッチング素子24を経て電源60に戻る。
【0063】
ここで、図4(a)に示すように、制御部30は、180度通電モードで3相交流モータ40を駆動している時刻t1において、その通電パターンを120度通電モードに変更することになる。
【0064】
この際、判定部31は、時刻t1において、かかる通電パターンの変更を実際に行う前に、仮にかかる通電パターンの変更を行うならば、3相交流モータ40の各相のコイル41、42及び43において、通電パターン変更前における各相のコイル41、42及び43に流れる駆動電流の方向と、通電パターン変更後における各相のコイル41、42及び43に流れる駆動電流の方向と、が逆方向になる相が、2相以上あるか否かの判定処理を行う必要がある。
【0065】
具体的には、仮にかかる通電パターンの変更を行うとすれば、図4(a)の中段の(2)に示すように、時刻t1直前の区間R1及び時刻t1直後の区間R2においては、U相においてスイッチング素子21をオフ状態からオン状態に切り替えると共にスイッチング素子22をオン状態からオフ状態に切り替える。また、V相においてスイッチング素子23をオフ状態のまま切り替えないと共にスイッチング素子24をオン状態からオフ状態に切り替える。また、W相においてスイッチング素子25をオン状態からオフ状態に切り替えると共にスイッチング素子26をオフ状態からオン状態に切り替える。
【0066】
これにより、かかる通電パターンの変更後においては、図4(c)に示すように、U相のコイル41からW相のコイル43に向かって駆動電流が流れる。具体的には、電源60から供給される電流は、オン状態となるスイッチング素子21から3相交流モータ40のU相のコイル41に流れ、3相交流モータ40のU相のコイル41を経て3相交流モータ40のW相のコイル43に流れ、更に、W相のコイル43を経てオン状態であるスイッチング素子26を流れて電源60に戻ることになる。
【0067】
つまり、かかる場合には、図4(b)に示す各相のコイル41、42及び43に流れる駆動電流の方向と、図4(c)に示す各相のコイル41、42及び43に流れる駆動電流の方向と、を比較すると、U相のコイル41及びW相のコイル43を流れる各々の駆動電流の方向が逆転していることが分かる。
【0068】
かかる判定部31の判定処理は、まとめれば、図3(a)の真理値表に基づいて行われていることになる。
【0069】
つまり、図3(a)においては、時刻t1直前の区間R1におけるU相では、スイッチング素子21がオフ状態であると共にスイッチング素子22がオン状態であるため、その通電状態を示す2値の組み合わせは「0」「1」になり、時刻t1直後の区間R2におけるU相では、スイッチング素子21がオン状態であると共にスイッチング素子22がオフ状態であるため、通電状態を示す2値の組み合わせは「1」「0」になる。従って、判定部31は、図3(a)の真理値表から、スイッチング素子21の通電パターン変更前後の通電状態を示す「0」「1」とスイッチング素子22の通電パターン変更前後の通電状態を示す「1」「0」とから、通電パターンの変更に伴うU相の状態を示す2値の組み合わせを「1」「1」として求まる。つまり、これは、スイッチング素子21の通電パターン
変更前後の通電状態を示す「0」と「1」とを排他的論理和演算して「1」を求めると共に、スイッチング素子22の通電パターン変更前後の通電状態を示す「1」と「0」とを排他的論理和演算して「1」を求めることにより、通電パターンの変更に伴うU相の状態を示す2値の組み合わせを「1」「1」として求めたのと同義である。
【0070】
また、図3(a)においては、時刻t1直前の区間R1におけるV相では、スイッチング素子23がオフ状態であると共にスイッチング素子24がオン状態であるため、通電状態を示す2値の組み合わせは「0」「1」になり、時刻t1直後の区間R2におけるV相では、スイッチング素子21がオフ状態であると共にスイッチング素子22がオフ状態であるため、通電状態を示す2値の組み合わせは「0」「0」になる。従って、判定部31は、図3(a)の真理値表から、スイッチング素子23の通電パターン変更前後の通電状態を示す「0」「1」とスイッチング素子24の通電パターン変更前後の通電状態を示す「0」「0」とから、通電パターンの変更に伴うV相の状態を示す2値の組み合わせを「0」「1」として求まる。つまり、これは、スイッチング素子23の通電パターン変更前後の通電状態を示す「0」と「0」とを排他的論理和演算して「0」を求めると共に、スイッチング素子24の通電パターン変更前後の通電状態を示す「1」と「0」とを排他的論理和演算して「1」を求めることにより、通電パターンの変更に伴うV相の状態を示す2値の組み合わせを「0」「1」として求めたのと同義である。
【0071】
更に、図3(a)においては、時刻t1直前の区間R1におけるW相では、スイッチング素子25がオン状態であると共にスイッチング素子26がオフ状態であるため、通電状態を示す2値の組み合わせは「1」「0」になり、時刻t1直後の区間R2におけるW相では、スイッチング素子25がオフ状態であると共にスイッチング素子26がオン状態であるため、通電状態を示す2値の組み合わせは「0」「1」になる。従って、判定部31は、図3(a)の真理値表から、スイッチング素子25の通電パターン変更前後の通電状態を示す「1」「0」とスイッチング素子26の通電パターン変更前後の通電状態を示す「0」「1」とから、通電パターンの変更に伴うW相の状態を示す2値を「1」「1」として求まる。これは、スイッチング素子25の通電パターン変更前後の通電状態を示す「1」と「0」とを排他的論理和演算して「1」を求めると共に、スイッチング素子26の通電パターン変更前後の通電状態を示す「0」と「1」とを排他的論理和演算して「1」を求めることにより、通電パターンの変更に伴うW相の状態を示す2値の組み合わせを「1」「1」として求めたのと同義である。
【0072】
この結果、判定部31は、通電パターンを変更する際の時刻t1において、「1」「1」となる相がU相及びW相の2相存在するため、三相交流モータ40の各相のコイル41、42及び43において、通電パターン変更前における各相のコイル41、42及び43に流れる駆動電流の方向と、通電パターン変更後における各相のコイル41、42及び43に流れる駆動電流の方向と、が逆方向になる相が、2相以上あると判定し、全てのスイッチング素子21、22、23、24、25及び26を一時的にオフ状態にすることを決定し、指令部32にその決定結果を担持する信号を送出することになる。
【0073】
ここで、かる判定部31の判定処理は、図3(b)のテーブルデータを参照して論理演算結果を検索することが、その効率上はより好ましい。判定部31が図3(b)のテーブルを参照して判定する場合には、通電パターンを変更する際の時刻t1において、「NG」となる相がU相及びW相の2相存在するため、判定部31は、三相交流モータ40の各相のコイル41、42及び43において、通電パターン変更前における各相のコイル41、42及び43に流れる駆動電流の方向と、通電パターン変更後における各相のコイル41、42及び43に流れる駆動電流の方向と、が逆方向になる相が、2相以上あると判定し、全てのスイッチング素子21、22、23、24、25及び26を一時的にオフ状態にすることを決定し、指令部32にその決定結果を担持する信号を送出する。
【0074】
そして、指令部32は、判定部31からのかかる送出信号に従って、区間R2において、スイッチング素子21、22、23及び26をオフ状態のまま維持すると共に、スイッチング素子24及び25をオン状態からオフ状態に切り替えることにより、全てのスイッチング素子21、22、23、24、25及び26を、一時的にオフにする制御を行う。
【0075】
その後、判定部31は、同様の処理を繰り返し、三相交流モータ40の各相のコイル41、42及び43において、通電パターン変更前における各相のコイル41、42及び43に流れる駆動電流の方向と、通電パターン変更後における各相のコイル41、42及び43に流れる駆動電流の方向と、が逆方向になる相が、2相以上ないことを確認して、三相交流モータ40の通電パターンを120度通電モードに変更することになる。なお、必要に応じて、かかる処理を繰り返さずに、三相交流モータ40の通電パターンを120度通電モードに変更することを選択してもよいし、従前の三相交流モータ40の180度通電パターンを引き続き実行してもかまわない。
【0076】
なお、以上の変形例を含む本実施形態においては、モータ駆動装置10は、通電モードの位相を90度以外の所望の角度で進角又は遅角させてもよいし、そのように進角又は遅角させる通電モードは180度通電モード以外のものであってもよい。また、モータ駆動装置10は、通電モードを120度通電モード以外の所望の位相角範囲で通電させる通電モードに変更してもよいし、その変更前の通電モードは180度通電モード以外のものであってもよい。
【0077】
また、図3(a)で示す真理値表を作成する際には、通電パターン変更前における各相のコイルに流れる駆動電流の方向と、通電パターン変更後における各相のコイルに流れる駆動電流の方向と、が逆方向になる相を明確に規定できるものであれば、排他的論理和演算を用いる以外に、論理和演算や算術加算等のその他の演算則を用いてもかまわない。
【0078】
以上の本実施形態の構成によれば、所定の通電パターンで3相ブリッジ駆動回路20のスイッチング素子21、22、23、24、25及び26をスイッチング動作させる制御部30が、通電パターンを変更する際に、変更前のスイッチング素子21、22、23、24、25及び26の通電状態と変更後のスイッチング素子21、22、23、24、25及び26の通電状態とを比較することにより、3相交流モータ40における変更前の電流の流れる方向と変更後の電流の流れる方向とが逆方向になる相が2相以上であるか否かを判定する判定部31と、判定部31により逆方向になる相が2相以上であると判定された際に、全てのスイッチング素子21、22、23、24、25及び26を一時的にオフ状態にする指令部32と、を備えることにより、3相ブリッジ駆動回路20の各スイッチング素子21、22、23、24、25及び26に任意の通電パターンの変更を行ったとしても、電流の流れる方向に急激な変化が発生することを抑制することができるモータ駆動装置10を実現することができる。
【0079】
また、本実施形態の構成によれば、3相ブリッジ駆動回路20が、3相交流モータ40の相毎に一対のスイッチング素子21、22、23、24、25及び26を有し、判定部31は、一対のスイッチング素子21、22、23、24、25及び26の通電状態を相毎に2値化し、変更前の一対のスイッチング素21、22、23、24、25及び26子の通電状態を示す各々の2値と、変更後の一対のスイッチング素子21、22、23、24、25及び26の通電状態を示す各々の2値と、の相毎の対応関係に基づいて、逆方向になる相が2相以上であるか否かを判定することにより、通電パターンの変更前と変更後とで3相交流モータ40の2相のコイル41、41及び43に流れる電流の方向が反転するか否かを簡便な方法により早期かつ確実に判定することができる。
【0080】
なお、本発明は、部材の種類、配置、個数等は前述の実施形態に限定されるものではなく、その構成要素を同等の作用効果を奏するものに適宜置換する等、発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0081】
以上のように、本発明においては、3相ブリッジ駆動回路の各スイッチング素子に任意の通電パターンの変更を行ったとしても、電流の流れる方向に急激な変化が発生することを抑制することができるモータ駆動装置を提供することができるものであり、その汎用普遍的な性格から車両等のモータ駆動装置に広範に適用され得るものと期待される。
【符号の説明】
【0082】
10…モータ駆動装置
20…3相ブリッジ駆動回路
21…スイッチング素子
22…スイッチング素子
23…スイッチング素子
24…スイッチング素子
25…スイッチング素子
26…スイッチング素子
30…制御部
31…判定部
32…指令部
40…3相駆動モータ
41…U相のコイル
42…V相のコイル
43…W相のコイル
50…位相センサ
60…電源
R1、R11…モード変更直前区間
R2、R12…モード変更直後区間
図1
図2
図3
図4