(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したような従来技術においては、加熱炉で容器中間体を加熱する際に金属製ライナが熱膨張し、熱硬化性樹脂の硬化前に繊維束が金属製ライナによって内部から押し広げられる場合がある。その結果、熱硬化性樹脂の硬化後、冷却する際に、収縮する金属製ライナから強化層が剥離してしまい、複合容器の強度が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、複合容器の強度を向上することができる複合容器の製造方法及び複合容器の製造システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る複合容器の製造方法は、強化層を備えた複合容器を製造する製造方法であって、樹脂が含浸された繊維束を金属製ライナの外周側に巻き付けた容器中間体を加熱して樹脂を硬化させる加熱工程と、加熱工程により金属製ライナの温度が上昇するのを抑制する抑制工程と、を備える。
【0007】
また、本発明に係る複合容器の製造システムは、強化層を備えた複合容器を製造する製造システムであって、樹脂が含浸された繊維束を金属製ライナの外周側に巻き付けた容器中間体を加熱して樹脂を硬化させる加熱手段と、加熱手段により金属製ライナの温度が上昇するのを抑制する抑制手段と、を備える。
【0008】
これらの本発明では、容器中間体を加熱して樹脂を硬化させるに際して、金属製ライナの温度の上昇が抑制されることとなる。これにより、金属製ライナが熱膨張するのを抑制でき、当該金属製ライナによって繊維束が内部から押し広げられるのを抑制可能となる。その結果、樹脂の硬化後に冷却する際、金属製ライナから強化層が剥離し難くなり、複合容器の強度を向上することができる。
【0009】
また、抑制工程は、加熱工程において容器中間体で過昇温現象が発生するときに実行されてもよい。これにより、金属製ライナの熱膨張を効果的に抑制することができる。
【0010】
また、加熱工程により、容器中間体の表面温度を金属製ライナの許容温度以上に上昇させて樹脂の少なくとも一部を硬化させてもよい。これにより、樹脂の硬化を促進させることが可能となる。
【0011】
また、抑制工程は、金属製ライナを冷却することによって金属製ライナの温度が上昇するのを抑制してもよい。これにより、積極的に金属製ライナの温度上昇を抑制することができる。
【0012】
また、本発明に係る複合容器の製造方法は、強化層を備えた複合容器を製造する製造方法であって、樹脂が含浸された繊維束を金属製ライナの外周側に巻き付けた容器中間体を加熱して樹脂を硬化させる加熱工程を備え、加熱工程により、容器中間体の表面温度を金属製ライナの許容温度以上に上昇させ、金属製ライナの温度が許容温度以上に上昇する前に、樹脂の少なくとも一部を硬化させる。
【0013】
また、本発明に係る複合容器の製造システムは、強化層を備えた複合容器を製造する製造システムであって、樹脂が含浸された繊維束を金属製ライナの外周側に巻き付けた容器中間体を加熱して樹脂を硬化させる加熱手段を備え、加熱手段により、容器中間体の表面温度を金属製ライナの許容温度以上に上昇させ、金属製ライナの温度が許容温度以上に上昇する前に、樹脂の少なくとも一部を硬化させる。
【0014】
これらの本発明では、容器中間体を加熱し、金属製ライナの温度が許容温度以上に上昇する前に、樹脂の少なくとも一部を硬化させるので、金属製ライナによって繊維束が内部から押し広げられるのを抑制可能となる。その結果、樹脂の硬化後に冷却する際、金属製ライナから強化層が剥離し難くなり、複合容器の強度を向上することができる。
【0015】
また、加熱工程により金属製ライナの温度が上昇するのを抑制する抑制工程を更に備えてもよい。これにより、金属製ライナの温度上昇を抑制しながら、容器中間体の表面温度を許容温度以上にすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、複合容器の強度を向上することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[第1実施形態]
【0019】
図1は、第1実施形態に係る製造方法により製造される複合容器を示す一部断面図であり、
図2は、
図1のII−II線に沿った断面図である。
図1及び
図2に示すように、複合容器1は、水素や天然ガス等の燃料ガスを高圧で貯蔵するための容器である。この複合容器1は、例えば、全長が2〜4m、直径が400〜600mm程度に設定され、使用時には、20〜90MPa程度の圧力に耐えることが可能とされている。複合容器1は、その用途が限定されるものではなく、種々の用途で用いることができる。また、複合容器1は、据置き型として用いられてもよく、移動体に搭載されて用いられてもよい。
【0020】
この複合容器1は、円筒状の金属製ライナ2と、金属製ライナ2の外周側を覆うように設けられた強化層(繊維強化プラスチック層)3と、を備えている。金属製ライナ2の両端部2aはドーム状に形成されており、当該両端部2aの先端には、軸方向に突出するように口金4が取り付けられている。ここでの口金4における取付け高さ(突出高さ)は、強化層3の厚みと同等とされているが、それ以上であってもよく、口金4が強化層3から出っ張る高さとされてもよい。
【0021】
金属製ライナ2は、例えば、アルミニウム合金製や鋼鉄製等からなるパイプ形状や板形状をスピニング加工等にて容器形状に形成したものに、口金4の形状を形成したものである。
【0022】
強化層3は、金属製ライナ2の外周側に熱硬化性樹脂が含浸された繊維束10を巻き付け、当該繊維束10を加熱炉で加熱し硬化させることによって形成される。熱硬化性樹脂の種類としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂又はアリル樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。強化層3は、いわゆる厚巻きとされており、通常では厚みが2cm程度であるのに対し、本実施形態では厚みが約5〜6cm程度である。
【0023】
また、繊維束10としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、ポリエチレン繊維、スチール繊維、ザイロン繊維又はビニロン繊維等を用いることができ、ここでは、高強度で高弾性率且つ軽量な炭素繊維を用いている。また、本実施形態の繊維束10の繊維数(フィラメント)は、特に制限されるものではないが、1000〜50000フィラメント、好ましくは3000〜30000フィラメントの範囲とされ、ここでは、24000フィラメントとされている。
【0024】
以上のように構成された複合容器1を製造する場合、まず、金属製ライナ2の外周側に熱硬化性樹脂が含浸された繊維束10を巻き付けることにより、金属製ライナ2の外周側に複数層の繊維束層を形成し、これにより、容器中間体1a(
図3参照)を形成する。
【0025】
なお、容器中間体1aとは、製造過程における複合容器1を意図しており、ここでは、繊維束10の熱硬化性樹脂が熱硬化する前の状態のものを意図している(以下、同じ)。また、巻付け工程における巻付け方法は特に限定されないが、例えば、FW(フィラメントワインディング)法を採用することができる。FW法としては、予め熱硬化性樹脂が含浸された繊維束(トウプリプレグ)を用意し、これを金属製ライナ2に巻き付けて成形する方法(いわゆるDry法)や、繊維束を熱硬化性樹脂に含浸させながら供給し、これを金属製ライナ2に巻き付けて成形する方法(いわゆるWet法)が挙げられる。
【0026】
続いて、繊維束10を巻き付けた後、容器中間体1aを加熱炉20(
図3参照)で加熱することにより繊維束10の熱硬化性樹脂を硬化させる。ここで、
図3〜
図5を参照して、本実施形態について詳説する。
【0027】
図3は、
図1の複合容器の製造システムを示す概略構成図である。
図3に示すように、本実施形態の製造システム100Aは、上記複合容器1を製造するためのものであって、容器中間体1aを硬化させる際に用いられる。この製造システム100Aは、加熱炉20と、表面温度検出部30と、冷却部(抑制手段)40と、コントローラ50Aと、を少なくとも備えている。
【0028】
加熱炉20は、繊維束10が金属製ライナ2(
図1参照)の外面側に巻き付けられて形成された容器中間体1aを収容し、繊維束10の熱硬化性樹脂を硬化させる。この加熱炉20の内部には、加熱炉20の熱源としてのヒータ(加熱手段)21と、加熱炉内の温度である加熱炉温度THを検出する加熱炉温度センサ22と、が設けられている。ヒータ21は、容器中間体1aの周囲に配置され、容器中間体1aを外側(外面側)から加熱する。また、ヒータ21は、コントローラ50Aに接続されており、これにより、ヒータ21の動作がコントローラ50Aで制御されて加熱炉温度THが制御される。加熱炉温度センサ22は、コントローラ50Aに接続されており、検出した加熱炉温度THをコントローラ50Aへ出力する。
【0029】
表面温度検出部30は、容器中間体1aの表面温度TFを検出するものであり、加熱炉20に取り付けられている。ここでの表面温度検出部30は、例えばサーモグラフィや放射温度等の非接触温度計測器が用いられる。一例として、表面温度検出部30は、非接触の赤外線温度計が用いられており、例えば加熱炉20に設けられた覗き窓から容器中間体1aの表面温度TFを測定する。
【0030】
表面温度検出部30は、コントローラ50Aに接続されており、検出した表面温度TFをコントローラ50Aへ出力する。なお、ヒータ21は強化層3を完全に覆っておらず、ヒータ21の個数は一つであってもよく、複数であってもよい。また、複数のヒータ21の大きさ及び形状が不均一であってもよい。ヒータ21は、覗き窓から容器中間体1aを覗いた時に、容器中間体1aを遮らない場所に配置される。
【0031】
冷却部40は、容器中間体1aの内部を軸方向に挿通する配管41を有し、この配管41内に冷媒を流通させて金属製ライナ2を冷却することで、金属製ライナ2の温度であるライナ温度TLの上昇を抑制する。冷媒として、例えば水、氷、冷風(エア)等が挙げられる。冷却部40から供給された冷媒は、配管41により加熱炉20の外部に排出される。配管41は、伝熱性が高い材料で構成されることが好ましく、例えば、ステンレス鋼(SUS)等で構成される。
【0032】
コントローラ50Aは、加熱炉20の加熱炉温度TH及び金属製ライナ2のライナ温度TLを制御するためのものであり、CPU(CentralProcessing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を含むコンピュータで構成されている。このコントローラ50Aは、表面温度検出部30及び加熱炉温度センサ22からの出力に基づいて、加熱炉温度THを設定すると共に当該設定した加熱炉温度THとなるようにヒータ21の動作を制御する。また、コントローラ50Aは、表面温度検出部30及び加熱炉温度センサ22からの出力に基づいて、ライナ温度TLの上昇を抑制するために冷却部40の動作を制御する。
【0033】
ここで、加熱炉20で容器中間体1aを加熱する際には、繊維束10における熱硬化性樹脂の熱硬化反応が発熱反応であることから、熱硬化性樹脂が自己発熱し、その温度が加熱炉温度TH以上に一時的に急上昇するという過昇温現象の発生が見出される。そこで、本実施形態のコントローラ50Aは、ヒータ21を制御して加熱炉温度THを所定温度に設定し保持させると共に、容器中間体1aで生じた過昇温現象の開始を表面温度TFに基づき検出する処理を行う。更に、コントローラ50Aは、過昇温現象の開始を検出すると、冷却部40を制御してライナ温度TLが上昇するのを抑制する処理を行う(詳しくは後述)。
【0034】
図4は、
図1の複合容器の製造方法を示すフローチャートである。
図5は、
図1の複合容器の表面、金属製ライナ及び加熱炉の温度状況を示すグラフである。ライナ温度TLは、図示しない温度センサにより金属製ライナ2の内表面の温度を測定したものである。
図4及び
図5に示すように、製造システム100Aによる複合容器1の製造方法では、容器中間体1aを最終硬化させるための最終硬化温度T3に加熱炉温度THが設定される前に、最終硬化温度T3よりも低い中間硬化温度T1に加熱炉温度THが設定されて一定時間保持される。
【0035】
具体的には、まず、加熱工程が開始され、加熱炉温度THが中間硬化温度T1に設定され保持される(S1)。これにより、表面温度TFが立ち上がった後に中間硬化温度T1となるように保持され、その結果、容器中間体1aが中間硬化される。
【0036】
この中間硬化温度T1は、最低中間硬化温度T0以上で最高中間硬化温度T2未満に設定されている。最低中間硬化温度T0は、繊維束10の熱硬化性樹脂が硬化可能な最低温度である。最高中間硬化温度T2は、その温度で保持して硬化させた場合に生じた過昇温現象のピークTmaxが許容最高温度(許容温度)T4に達すると推定される温度である。
【0037】
許容最高温度T4は、容器中間体1aについて容器性能に悪影響が及ばない温度範囲の最高温度であり、ここでは特に容器中間体1aを構成する材料の耐熱性に応じて定まる温度である。一般に、繊維束10の耐熱温度が200℃以上であるのに対し、金属製ライナ2の耐熱温度はこれより低く、例えば、アルミニウム合金では150℃程度である。そのため、許容最高温度T4は、金属製ライナ2の材料の耐熱温度に応じて定まる温度とされている。
【0038】
続いて、加熱炉温度THが中間硬化温度T1に保持されているとき、表面温度検出部30により検出される容器中間体1aの表面温度TFがT1より高くなったか否かが判定される(S2)。S2でNOの場合、加熱炉温度THが中間硬化温度T1で中間硬化が引き続き行われる。一方、S2でYESの場合、過昇温現象が開始されたと判断され、抑制工程が開始される(S3)。
【0039】
抑制工程では、冷却部40が配管41に冷媒を流通させる。これにより、金属製ライナ2が冷却され、
図5に示されるように、ライナ温度TLの上昇が抑制される結果、金属製ライナ2の熱膨張が抑制される。
【0040】
そして、抑制工程が実行されているとき、表面温度検出部30により検出される容器中間体1aの表面温度TFが、過昇温現象の終了に伴い中間硬化温度T1にまで低下したか否かが判定される(S4)。S4でNOの場合、抑制工程が引き続き行われる。一方、S4でYESの場合、過昇温現象が終了されたと判断され、抑制工程が終了される(S5)。
【0041】
続いて、加熱炉温度THが最終硬化温度T3に設定されて所定時間保持され、熱硬化性樹脂の硬化を完了させる(S6)。続いて、加熱炉20が停止され、加熱工程が終了される(S7)。
図5では、加熱工程の終了による温度変化について省略しているが、加熱炉20の停止に伴い、加熱炉温度TH及び表面温度TFはそれぞれ一定の温度降下率で降下するものとなる。
【0042】
以上、本実施形態によれば、容器中間体1aを加熱炉20で加熱して熱硬化性樹脂を硬化させるに際して、冷却部40により金属製ライナ2を冷却し、ライナ温度TLが上昇するのを抑制する。これにより、金属製ライナ2が熱膨張するのを抑制でき、熱硬化性樹脂が硬化する前の繊維束10が内部から押し広げられるのを抑制可能となる。その結果、熱硬化性樹脂の硬化後に容器中間体1aを冷却する際、金属製ライナ2から強化層3が剥離し難くなり、複合容器1の強度を向上することができる。また、繊維束10において繊維の歪が発生し難くなり、強化層3における損傷の発生が抑制されるので、複合容器1のサイクル性能の低下を防ぐことができる。
【0043】
なお、本実施形態では、抑制工程の開始タイミング及び終了タイミングは、表面温度検出部30により検出される表面温度TFに基づき決定されることとしたが、過昇温現象の開始タイミング及び終了タイミングが既知であれば、表面温度検出部30を用いなくてもよい。例えば、容器中間体1aのサイズ、材料、加熱炉温度TH等の製造条件が同じであれば、通常、過昇温現象の開始タイミングは同程度になり易い。したがって、最初の複合容器1の製造時に表面温度検出部30を用いて過昇温現象の開始タイミング及び終了タイミングを調べ、その後の製造時には、この過昇温現象の開始タイミング及び終了タイミングに基づき、抑制工程の開始タイミング及び終了タイミングを決定してもよい。これによれば、表面温度検出部30が不要となり、製造システム100Aを簡略化することができるとともに、製造方法を簡略化することができる。
【0044】
また、冷却部40による金属製ライナ2の冷却を開始してから、これに追従してライナ温度TLの上昇が実際に抑制されるまでに、冷媒や配管41の熱伝導率等に応じたタイムラグが生じる場合がある。このような場合であっても、過昇温現象の開始タイミングが既知であれば、この既知の開始タイミングに当該タイムラグを考慮して、冷却部40による冷却を開始することができるため、ライナ温度TLが過昇温現象により上昇するのを確実に抑制することができる。
【0045】
また、本実施形態では、抑制工程は、加熱工程において容器中間体1aで過昇温現象が発生するときに実行されるので、容器中間体1aの温度上昇に伴って、ライナ温度TLが上昇するのを抑制し、金属製ライナ2の熱膨張を効果的に抑制することができる。なお、本実施形態の抑制工程は、過昇温現象の発生期間の全てにおいて実行されることとしたが、発生期間の一部において実行されることとしてもよい。この場合、抑制工程が、少なくとも過昇温現象のピークTmax時よりも前に開始されることが好ましい。更に、抑制工程は、過昇温現象が起きる前に開始されていてもよい。この場合、上述したように過昇温現象の開始タイミングを予め調べて把握してもよい。
【0046】
また、本実施形態では、加熱工程開始後に加熱炉温度THを中間硬化温度T1に設定したが、加熱炉温度THをより高い温度に設定してもよい。これにより、熱硬化性樹脂の硬化を促進し、熱硬化性樹脂の硬化完了までにかかる製造時間を短縮可能となる。このとき、ヒータ21で直接的に加熱される容器中間体1aの外周側では、中間硬化温度T1を超えて温度が上昇し、熱硬化性樹脂が硬化する一方で、金属製ライナ2では、ヒータ21で直接的に加熱されず、且つ冷却部40により冷却され、その温度上昇が抑えられる。
【0047】
このように、熱硬化性樹脂の少なくとも外周側の表面部分が硬化すれば、当該表面部分で金属製ライナ2の熱膨張による内部からの力に対抗することができる。したがって、その後の金属製ライナ2の熱膨張が抑制できるとともに、金属製ライナ2側に位置し、熱硬化性樹脂が未硬化の状態にある繊維束10についても、熱膨張しようとする金属製ライナ2によって内部から押し広げられるのを抑制可能となる。
【0048】
また、本実施形態では、過昇温現象が完全に終了した後、加熱炉温度THを最終硬化温度T3に設定し、熱硬化性樹脂の硬化を完了させることとしたが、過昇温現象の後半(過昇温現象のピークTmax時よりも後)では、容器中間体1aの外周側の表面部分における熱硬化性樹脂の硬化が概ね完了していることから、過昇温現象が完全に終了する前に、加熱炉温度THを最終硬化温度T3に設定し、熱硬化性樹脂の硬化を完了させることとしてもよい。これにより、製造時間を短縮可能となる。
【0049】
また、本実施形態では、冷却部40により配管41に冷媒を流通させることで金属製ライナ2を冷却し、ライナ温度TLの上昇を抑制することとしたが、ライナ温度TLの上昇を抑制する方法はこれに限られない。例えば、加熱工程を開始する前に、容器中間体1aの金属製ライナ2の内部に水や氷を予め入れておき、加熱工程において吸熱させるようにしてもよい。また、金属製ライナ2に接触する治具をステンレス鋼(SUS)等の伝熱性の良好な素材で構成し、当該治具に冷媒を接触させて吸熱させるようにしてもよい。
[第2実施形態]
【0050】
図6は、第2の実施形態に係る複合容器の製造システムを示す概略構成図である。
図6に示すように、本実施形態の製造システム100Bは、冷却部40を備えていない点で、
図3に示す第1実施形態の製造システム100Aと相違する。また、本実施形態のコントローラ50Bは、冷却部40についての制御を行わない点で第1実施形態のコントローラ50Aと相違する。
【0051】
図7は、
図6の複合容器の製造方法を示すフローチャートである。
図8は、
図6の複合容器の表面、金属製ライナ及び加熱炉の温度状況を示すグラフである。
図7及び
図8に示すように、製造システム100Bによる複合容器1の製造方法では、加熱炉温度THを中間硬化温度T1に設定して一定時間保持することなく、加熱炉温度THを最終硬化温度T3に設定して容器中間体1aの表面温度TFを急加熱する点で、第1実施形態と相違している。急加熱とは、所定の温度勾配以上で表面温度TFを加熱することであり、ライナ温度TLが許容最高温度T4以上に上昇する前に、容器中間体1aの外周側の表面部分を硬化させるような加熱を意味する。
【0052】
具体的には、まず、加熱工程が開始され、加熱炉温度THが最終硬化温度T3に設定される(S11)。これにより、ヒータ21で直接的に加熱される容器中間体1aの外周面の表面温度TFが最終硬化温度T3に上昇される。ここで、繊維束10における熱硬化性樹脂が自己発熱し、表面温度TFが加熱炉温度TH以上に急上昇する過昇温現象が発生する。これにより、表面温度TFは、許容最高温度T4を超えて上昇する。過昇温現象のピークTmaxは、許容最高温度T4を大きく超えたものとなる。
【0053】
一方、金属製ライナ2は、ヒータ21で直接的に加熱されないため、ライナ温度TLが上昇し難くなっている。したがって、
図8に示されるように、表面温度TFの温度勾配とライナ温度TLの温度勾配との間には差が生じて、表面温度TFが許容最高温度T4に達した場合でも、ライナ温度TLは許容最高温度T4に達していない状態とすることができる。
【0054】
そして、加熱炉温度THが最終硬化温度T3に保持されているとき、容器中間体1aの表面温度TFが、過昇温現象の終了に伴い最終硬化温度T3にまで低下する。ライナ温度TLは、過昇温現象の終了する頃に最終硬化温度T3に達する。そして、加熱炉温度THが最終硬化温度T3に設定され所定時間保持され、熱硬化性樹脂の硬化を完了させる。
【0055】
続いて、加熱炉20が停止され、加熱工程が終了される(S12)。
図8では、加熱工程の終了による温度変化について省略しているが、加熱炉20の停止に伴い、加熱炉温度TH及び表面温度TFはそれぞれ一定の温度降下率で降下するものとなる。
【0056】
以上、本実施形態によれば、容器中間体1aを加熱炉20で加熱して熱硬化性樹脂を硬化させるに際して、ライナ温度TLが許容最高温度T4以上に上昇する前に、容器中間体1aの外周側における表面部分の熱硬化性樹脂を硬化させて強化層3を形成させる。これにより、熱硬化性樹脂が硬化する前の繊維束10が熱膨張しようとする金属製ライナ2によって内部から押し広げられるのを抑制可能となる。その結果、熱硬化性樹脂の硬化後に冷却する際、金属製ライナ2から強化層3が剥離し難くなり、複合容器1の強度を向上することができる。また、繊維束10において繊維の歪が発生し難くなり、強化層3における損傷の発生が抑制されるので、複合容器1のサイクル性能の低下を防ぐことができる。
【0057】
なお、本実施形態では、加熱工程によりライナ温度TLが上昇するのを抑制する抑制工程を更に備えていてもよい。これにより、ライナ温度TLの上昇を抑制しながら、表面温度TFを許容最高温度T4以上にすることができる。したがって、例えば、加熱炉20の昇温速度が不十分なため、表面温度TFの温度勾配とライナ温度TLの温度勾配との間に差を生じさせ難い場合であっても、ライナ温度TLが許容最高温度T4以上に上昇する前に、熱硬化性樹脂の少なくとも一部を硬化させ易くなる。また、抑制工程は、少なくとも容器中間体1aにおいて過昇温現象が発生するときに実行されることが好ましく、これにより、ライナ温度TLを確実に許容最高温度T4以下とすることができる。
【0058】
本実施形態では、加熱炉温度THを最終硬化温度T3に設定することにより、過昇温現象がすぐに発生し、表面温度TFは最終硬化温度T3に留まることなく過昇温現象のピークTmaxまで達している。このように、加熱炉温度THの設定温度を過昇温現象がすぐに発生する温度とすることにより、ライナ温度TLが許容最高温度T4以上に上昇する前に、熱硬化性樹脂の少なくとも一部を硬化させ易くなる。ちなみに、この場合、加熱炉温度THの設定温度は、過昇温現象がすぐに発生する温度であれば、最終硬化温度T3より高くても低くてもよい。設定された加熱炉温度THに対して、過昇温現象がすぐに発生するか否かは予め調べて把握してもよい。