特許第6152382号(P6152382)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6152382
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】光開裂可能な化合物の使用
(51)【国際特許分類】
   C07D 209/08 20060101AFI20170612BHJP
   C12Q 1/52 20060101ALI20170612BHJP
【FI】
   C07D209/08CSP
   C12Q1/52
【請求項の数】8
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2014-533997(P2014-533997)
(86)(22)【出願日】2012年10月3日
(65)【公表番号】特表2014-528441(P2014-528441A)
(43)【公表日】2014年10月27日
(86)【国際出願番号】HU2012000100
(87)【国際公開番号】WO2013050798
(87)【国際公開日】20130411
【審査請求日】2015年9月25日
(31)【優先権主張番号】P1100550
(32)【優先日】2011年10月3日
(33)【優先権主張国】HU
(31)【優先権主張番号】PCT/HU2011/000129
(32)【優先日】2011年12月20日
(33)【優先権主張国】HU
(73)【特許権者】
【識別番号】514082527
【氏名又は名称】フェントニチ コルラートルト フェレレーシュシェーギュー タールシャシャーグ
(74)【代理人】
【識別番号】100060759
【弁理士】
【氏名又は名称】竹沢 荘一
(74)【代理人】
【識別番号】100087893
【弁理士】
【氏名又は名称】中馬 典嗣
(72)【発明者】
【氏名】イムレ ジュラ チズマディア
(72)【発明者】
【氏名】ゾルターン ムチ
(72)【発明者】
【氏名】ゲルゲイ サライ
(72)【発明者】
【氏名】アッティラ カサーシュ
(72)【発明者】
【氏名】チッラ ルカーチネー ハヴェランド
(72)【発明者】
【氏名】オルショヤ マイェルチク
(72)【発明者】
【氏名】アッティラ ポトル
(72)【発明者】
【氏名】ゲルゲイ カトナ
(72)【発明者】
【氏名】ヨージェフ バラージュ ロージャ
(72)【発明者】
【氏名】ドリナ グュンディシュ
(72)【発明者】
【氏名】バラージュ ヒオヴィニ
(72)【発明者】
【氏名】デーニシュ パールフィ
【審査官】 植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/094922(WO,A1)
【文献】 Journal of Organic Chemistry,2005年,vol.70,p.4431-4442
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)

(ここで、
はニトロ基を表し;
は、臭素原子、又はジメチルアミノ−エトキシ基、ジメチルアミノ−プロポキシ基、ジメチルアミノ−イソプロポキシ基の異性体(−O−CH(CH)CH−N(CH及び−O−CH−CH(CH)−N(CH)、ジメチルアミノ−イソブトキシ基(−O−CH−CH(CH)−CH−N−(CH)を表し;
及びRは、水素原子を表し;
は、L−グルタミン酸、GABA又はグリシンの酸残基を表す)
で表される化合物のトリフルオロ酢酸塩からなる光開裂性化合物の、1光子又は多光子照射実験における、酵素、生存細胞含有する組織又は細胞培養、固状の吸着剤、帯電した吸着剤、イオン交換樹脂から選ばれる、前記光開裂性化合物の自発的分解によって形成される生物学的に活性な化合物を無効にる試薬と一緒の使用。
【請求項2】
光開裂性化合物の自発的分解によって形成される生物学的に活性な化合物が、L−グルタミン酸、GABA又はグリシンであることを特徴とする請求項1記載の使用。
【請求項3】
一般式(I)
(ここで、
はニトロ基を表し;
は、臭素原子、又はジメチルアミノ−エトキシ基、ジメチルアミノ−プロポキシ基、ジメチルアミノ−イソプロポキシ基の異性体(−O−CH(CH)CH−N(CH及び−O−CH−CH(CH)−N(CH)、ジメチルアミノ−イソブトキシ基(−O−CH−CH(CH)−CH−N−(CH)を表し;
及びRは、水素原子を表し;
は、L−グルタミン酸、GABA又はグリシンの酸残基を表す)
で表される化合物のトリフルオロ酢酸塩。
【請求項4】
請求項3記載の一般式(I)で表される化合物のトリフルオロ酢酸塩を製造する方法であって、トリフルオロ酢酸又はその溶液を、前記一般式(I)で表される化合物を含有する溶液に添加し、塩を分離することを特徴とする製法。
【請求項5】
トリフルオロ酢酸又はその溶液を、一般式(I)で表される化合物が調製された反応混合物に添加し、この溶液から塩を分離することを特徴とする請求項4記載の製法。
【請求項6】
1光子又は多光子照射プロセスを行う方法であって、観察対象の細胞を流体媒体に入れ、請求項3に記載の一般式(I)の化合物のトリフルオロ酢酸塩からなる光開裂性化合物及び酵素、生存細胞含有する組織又は細胞培養、固状の吸着剤、帯電した吸着剤、イオン交換樹脂から選ばれる、前記光開裂性化合物の自発的分解によって形成される生物学的に活性な化合物を無効にする試薬を前記媒体に添加し、サンプルに照射することを特徴とする1光子又は多光子照射プロセスを行う方法
【請求項7】
観察対象の細胞がニューロンであり、光開裂性化合物の自発的分解によって形成される生物学的に活性な化合物を無効にする試薬が酵素であることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
光開裂性化合物の自発的分解によって形成される生物学的に活性な化合物を、測定用セル又はその循環システムに入れた固状のイオン交換樹脂によって吸着することを特徴とする請求項7記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1光子又は多光子照射実験における、光開裂性化合物、いわゆる「ケージド化合物」又はその塩の、光開裂性化合物の自発的分解によって形成される生物学的に活性な化合物を無効にできる試薬との併用に関する。
【背景技術】
【0002】
光開裂性化合物、いわゆる「ケージド化合物」は、生物学的プロセスの調査の中で非常に有用な化合物である。このような試薬及びその使用は、特に、ヨーロッパ特許公開第1757585号及び米国特許第6765014号の明細書、及びMorrisonらの論文(Photochemical & Photobiological Sciences,(2002),1,960)、M.Canepariらの論文(J.Neurosci Methods,(2001),112,29)、M.Canepariらの論文(J.Physiol.,(2001),533,765)に記載されている。これらの化合物は、生物学的には不活性であるが、光により開裂し、生物学的に活性な化合物が発現する。これらの化合物は、紫外光又は可視光により迅速に発現する。これらの光開裂性化合物は、向神経活性アミノ酸のような生物学的に活性な化合物を、その活性を必要とする部位に送達するために使用される。1光子又は多光子照射法、好ましくは2光子照射法を使用する光開裂性化合物からの活性化合物の放出は、Fedoryakらにより、その論文(Chmical Communications,(2005),29,3664−3666)に記載されているように、ニューロンの研究のダイナミックに開発されつつある方法である。多光子照射プロセスにおいて、光化学反応は、2以上の光子の励起によって行われる。これらの方法を使用すると、ニューロンの刺激が、局在的にかつ非常に特異的に行われる。上記文献は、1光子又は2光子照射プロセスを使用することによる光開裂性誘導体からのグルタミン酸及びγ−アミノ酪酸(GABA)の放出を記載している。全てのケースにおいて、基質として、光開裂性化合物が使用されている。ヨーロッパ特許公開第1757585号及び米国特許第6765014号には、光開裂性化合物として使用される7−インドリン化合物が記載されている。これらの文献では、光開裂性化合物は、塩基として又はカチオンとで形成された塩として記載されている。国際特許公開WO2008/09422には、ジニトロ誘導体が塩基又はカチオンとの塩として記載されている。
【0003】
2−アミノ−5−(4−メトキシ−7−ニトロ−2,3−ジヒドロ−インドール−1−イル)−5−オキソ−ペンタン酸(以下、「MNI−Glu」と表示する)は、グルタミン酸成分を含有するモノニトロインドリン(MNI)誘導体であり、神経系の多光子照射試験用の周知の有用な化合物である。しかし、これらモノニトロインドリン誘導体の量子収率は低く、活性アミノ酸の放出も比較的遅く、その光子吸収の最大値も理想的ではない。4−メトキシ−5,7−ジニトロ−2,3−ジヒドロ−1H−インドールの構造を基礎とする化合物のようなジニトロインドール誘導体を使用することによって、より高い光子収率が達成される。このような化合物は、例えば、Fedoryakら(Chmical Communications,(2005),29,3664−3666)、G.C.R.Ellis−Daviesら(The Journal of Neuroscience,June 20,(2007),27(25) 6601−6604)及びG.Papageorgiouら(Photochemical & Photobiological Sciences,(2005),4(11),887−896)によって開示された2−アミノ−5−(4’−メトキシ−5’,7’−ジニトロ−2’,3’−ジヒドロ−インドール−1−イル)−5−オキソ−ペンタン酸(以下、「DNI−Glu」と表示する)である。これら論文には、生物学的試験は開示されておらず、類似化合物の調製のみが開示されている。FedoryakらによるDNI−Gluの調製は、2工程のニトロ化によって行われる。初めに、そのアミノ基及びカルボキシル基が保護された2−アミノ−5−(4−メトキシ−2,3−ジヒドロ−インドール−1−イル)−5−オキソ−ペンタン酸を調製し、ついで、7位でニトロ化する。次の工程において、モノニトロ化誘導体を、5位でニトロ化する。続いて、保護基を除去し、このようにして、DNI−Gluと名付けられる生成物が得られる。同様の方法が国際特許公開WO2008/094922に記載されている。発明者らによれば、DNI−Gluの効果的な製法は、第2のニトロ化工程のための保護されていないモノアミノ酸が適切な純度であることを要求する。このように、第2のニトロ基は、第2工程においてのみ導入される。生理溶液におけるDNI−Gluの溶解度は低く、海馬ニューロンの2光子照射試験では、電気信号が発生されないとの知見が得られた。更なる問題は、DNI−Gluが凍結緩衝剤から分離し、室温に温める際にも溶解されないことであった。これらの問題は、前記国際特許出願によれば、DNI−Gluの4位にカルボキシ−メトキシ基を挿入することによって解消される。4−カルボキシ−メトキシ−5,7−ジニトロインドリニル−Glu(以下、「CDNI−Glu」と表示する)は、2工程のニトロ化法によって調製される。CDNI−Gluは、インドール誘導体に関して収率6.9%で調製される。このように、従来技術によれば、保存中又は生物学的テストの間、適切に安定であるような安定した誘導体が調製されないため、DNI誘導体のより高い量子収率を利用することができなかった。このように、これらの試薬は、その工業的製造及びその安定性の維持が解決されないため、工業的規模で調製されていなかった。さらに、易分解性DNI誘導体から自発的に形成される生物学的に活性な成分によって生ずるテストにおける干渉の排除に関する解決策が存在しなかった。
【0004】
試験プロセスにおいて適用可能な公知の光化学的に開裂可能な化合物、いわゆる「ケージド化合物」は塩基の形でのみ使用されるが、それらの内のいくつかは、金属塩としても調製される。これら化合物は不利な特性を有する。取り扱いが困難である塩基の形では、これら化合物は、吸湿性、光感応性であり、不安定である。光開裂性化合物は、多くのケースでは、試験条件下において自発的に加水分解し、放出される活性な化合物が試験を妨げる。生物学的プロセスの間に、向神経活性のアミノ酸及びアミンが迅速に放出されることは公知の事実である。従って、いわゆる「ケージド化合物」は、照射の効果によって迅速に分解する生理学的プロセスの良好なモデルである。しかし、これらの化合物は、さらに、試験の間では、加水分解する傾向がますます強く、従って、アミノ酸又は向神経活性アミンのかなりの量が、測定媒体中、照射前のニューロンの間の細胞間液体中に入る。これは、特に、高い量子収率を有するDNI化合物について事実である。特定の閾値以上では、これらの化合物は、ニューロンに対して敏感にさせ、試験の誤った結果を与え、より高い濃度では、被試験ニューロンの死滅を生じさせることがある。
【0005】
このような光開裂性化合物の調製又は上記欠点の排除を可能にするように使用する実験条件を変更することにとって、「ケージド化合物」の開裂が迅速であるが、自発的加水分解によって生ずる化合物が測定を妨げないことが必要であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明の本質
本発明は、1光子又は多光子照射実験における、光開裂性化合物又はその塩の、光開裂性化合物から放出される生物活性化合物を無効にするための試薬との併用に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、モノ光子又は多光子照射実験の過程において、生物学的に活性な化合物を無効にする試薬を使用する場合、テストの再現性がかなり良好であり、生物活性化合物の広範囲の選択を検討することを可能にするとの知見を得た。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】電位固定テストにおけるケージド化合物及び酵素の添加による細胞の自発的活動性の変化を示す図である(実施例17において詳述する)。
図2】DNI及びMNIタイプの化合物の生物学的効果を比較する図である(実施例18において詳述する)。
図3】使用する光の波長によるDNI及びMNIタイプの化合物の生物学的効果を比較する図である。
図4】ニューロンに対する化合物iDMPO−DNI−グルタメート及びiDMBO−DNI−グルタメートの生物学的効果を比較する図である(実施例20において詳述する)。
図5】ケージド化合物としてiDMPO−DNI−GABA・2TFAを使用する2光子照射法によるニューロンの神経生物学的実験を示す図である(図5Aは実験配置を示し、図5Bは刺激に対する応答を示し、図5Cは刺激の応答に基づく各ポイントにおける受容体密度を示す)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明によれば、1光子及び多光子照射テストにおいて、光開裂性化合物又はその塩及び光開裂性化合物から発生する生物学的に活性な化合物を無効にするための試薬が併用される。
【0010】
本発明の有利な1具体例によれば、光開裂性化合物は、生物活性化合物として、アミノ酸、向神経活性アミン、神経伝達物質、ホルモン、DNA、RNA、又はDNA又はRNAのフラグメント、ペプチド、脂質、2次シグナル物質、薬剤活性成分又はその候補を放出する。
【0011】
神経伝達物質は、例えば、グリシン、アスパラギン酸(L−Asp)、グルタミン酸(L−Glu)、γ−アミノ酪酸(GABA)、ヒスタミン、ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリン、セロトニン等である。
【0012】
薬剤活性成分の候補は、生物学的に活性な化合物であろうと考えられ、その化合物の活性が本発明によるプロセスでテストされるような化合物である。このような化合物は、例えば、中枢神経系に作用する化合物である。
【0013】
本発明の有利な1具体例は、モノ光子又は多光子照射実験における、一般式(I)
【化1】
(ここで、
は、水素原子、又は電子求引性基、好ましくは、シアノ、ニトロ、カルボキシル又はホルミル基又はハロゲン原子を表し;
は、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、好ましくは臭素原子;又は未置換の、直鎖又は分枝状、飽和又は不飽和アルコキシ、シクロアルコキシ、好ましくは、C〜Cアルコキシ基;又は直鎖又は分枝状の置換アルコキシ、シクロアルコキシ、好ましくは、1又は同一又は異なる2の未置換C〜Cアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基又はシクロアルキル基、又は未置換アミノ基又は置換アミノ基(好ましくは、ジメチルアミノ−C〜Cアルコキシ基)を有するC〜Cアルコキシ基;又は直鎖又は分子状炭素鎖の置換飽和又は不飽和アルコキシ、シクロアルコキシ、好ましくは、1以上のカルボキシル基(好ましくは、マロニルオキシ基)、又は未置換のアミノ基又は1のC〜Cアルキル基又はシクロアルキル基、又は2の同一又は異なるC〜Cアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基又はシクロアルキル基によって置換されたアミノ基によって置換されたC〜Cアルコキシ基を表し;
は、水素原子、又は置換又は未置換のアルキル基を表し、又はR及びRは、一緒に、未置換のシクロアルキル基を表し;
は、水素原子、又は置換又は未置換のアルキル基を表し、又はR及びRは、一緒に、未置換のシクロアルキル基を表し;
は、インドリン環の窒素原子に共有結合する生物学的に活性な化合物を表す)で表される化合物又は有機酸又は無機酸とで形成されるその塩と、一般式(I)の化合物の自発的分解のために発生する生物学的に活性な化合物を無効にする試薬との併用である。
【0014】
化合物の酸付加塩も使用できる。無機酸、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、臭化水素酸、ホスホン酸;有機酸、例えば、飽和又は不飽和、置換又は未置換の脂肪族カルボン酸[例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、及びステアリン酸、デカン酸、セバシン酸、オロチン酸、パルミチン酸、パモン酸、置換カルボン酸(例えば、ハロゲン化カルボン酸(例えば、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸)又はオキシカルボン酸(例えば、2−オキソ−グルタル酸、ピルビン酸)]、脂肪族ジカルボン酸又は多カルボン酸(例えば、シュウ酸、アジピン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、マロン酸)、芳香族カルボン酸(例えば、安息香酸、サリチル酸、アセチルサリチル酸、4−アミノサリチル酸)、脂肪族又は芳香族スルホン酸[例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ヒドロキシ−エタンスルホン酸、シクロヘキシルスルホン酸(シクラミン酸)、ドデシルスルホン酸、エタン−1,2−ジスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレン−2−スルホン酸、ナフタレン−1,5−ジスルホン酸]、カルボキシル官能基を有する炭水化物(例えば、グルコヘプトン酸、D−グルコン酸、D−グルクロン酸)、ヒドロキシ酸(例えば、アスコルビン酸、(+)−L−乳酸、(±)−DL−乳酸、リンゴ酸)、アミノ酸(例えば、L−アスパラギン酸)]とで形成される塩、好ましくは、未置換のC〜Cカルボン酸(例えば、酢酸)又は1以上のハロゲン置換基を有する置換C〜Cカルボン酸(例えば、ジクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸)とで形成される塩、最も好ましくは、トリフルオロ酢酸とで形成される塩が酸付加塩として使用される。
【0015】
テストでは、本発明による一般式(I)で表される化合物の置換基Rとして、すなわち、インドリン環の窒素原子に共有結合する生物学的に活性な化合物として、DNA、RNA又はそのフラグメント、ホルモン、神経伝達物質、アミノ酸、ペプチド、脂質又は向神経活性アミン、薬剤活性成分又はその候補が使用され、このようにして、一般式(I)で表される化合物の自発的加水分解によって形成される生物学的に活性な化合物を無効にできる試薬も使用される。
【0016】
本発明によれば、試薬は、使用する「ケージド」化合物の自発的加水分解によって形成される生物学的に活性な化合物を、これら化合物が反応混合物中に蓄積しないように、物理的、化学的又は生物学的方法で分解又は吸収する、「生物学的に活性な化合物を無効にすることができる」試薬と定義される。このような化合物は、例えば、酵素(アミノ酸を、発生される際に、生物学的に不活性な化合物に転化する)、又はアミノ酸を消化する細胞培養物であり、又はイオン性化合物が形成される場合には、自発的に形成される生物学的に活性な化合物の吸収のためにイオン交換樹脂が使用される。生物学的に活性な化合物を「無効にできる」好適な試薬の選択は、「ケージド」化合物の自発的加水分解された化合物の性質に左右される。
【0017】
「同時投与」とは、本発明によれば、テストの間に、「ケージド」化合物及び反応混合物において一般的に使用される更なる成分に加えて、使用したケージド化合物の自発的分解によって形成された生物学的に活性な化合物を無効にする試薬も、テスト混合物中に、好ましくは、溶解又は懸濁した形又は固状の形で存在することを意味する。
【0018】
有利な1具体例によれば、一般式(I)で表される化合物のトリフルオロ酢酸塩が、1光子又は多光子照射実験、好ましくは、2光子照射実験において、一般式(I)[式中、Rはニトロ基を表し;Rは、水素又は臭素原子、又は直鎖又は分枝状、置換又は未置換のアルコキシ、シクロアルコキシ、好ましくは、未置換アミノ基、又はC〜Cアルキル基又はシクロアルキル基、又は2の同一又は異なるC〜Cアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基又はシクロアルキル基で置換されたアミノ基によって置換されたC〜Cアルコキシ基、又は置換又は未置換のアリール基を表し;R及びRは水素原子を表し;Rは、アミノ酸の酸残基又は一般式(II)
【化2】
(ここで、窒素原子及び結合する置換基R及びRは、一緒に、神経伝達物質のアミン残基を表し、Xは酸素又はイオウ原子を表す)の基を表す]で表される化合物の自発的分解によって形成されるアミノ酸を無効にする試薬、好ましくは、アミノ酸分解酵素又は物理的、化学的又は生物学的方法でアミノ酸を吸収できる試薬、好ましくは、イオン交換樹脂、神経細胞と同時投与として使用される。
【0019】
最も有利な1具体例によれば、一般式(I)で表される化合物のトリフルオロ酢酸との塩が、1光子又は多光子照射実験、好ましくは、2光子照射実験において、一般式(I)[式中、Rはニトロ基を表し;Rは、水素又は臭素原子、又はジメチルアミノ−エトキシ基、ジメチルアミノ−プロポキシ基、ジメチルアミノ−イソプロポキシ基の異性体(−O−CH(CH)CH−N(CH及びO−CH−CH(CH)−N(CH基)、ジメチルアミノ−イソブトキシ基(O−CH−CH(CH)−CH−N(CH)、又は置換又は未置換のアリール基を表し;R及びRは水素原子を表し;Rは、L−グルタミン酸、GABA又はグリシンの酸残基又は一般式(II)(式中、窒素原子及び結合する置換基R及びRは、一緒に、L−グルタミン酸、GABA又はグリシンのアミン残基を表し、Xは酸素又はイオウ原子を表す)の基を表す]で表される化合物の自発的分解によって形成されるアミノ酸を無効にする試薬、好ましくは、アミノ酸分解酵素又は物理的、化学的又は生物学的方法でアミノ酸を吸収できる試薬、好ましくは、イオン交換樹脂、神経細胞と同時投与として使用される。
【0020】
さらに、本発明は、改善された1光子又は多光子照射プロセスであって、光開裂可能な化合物を、自発的分解によって発生する生物学的に活性な化合物を無効にする試薬と併用する(同時投与する)プロセスにも関する。
【0021】
本発明は、また、一般式(I)で表される化合物及び一般式(I)で表される化合物の分解によって形成される生物学的に活性な化合物を無効にする試薬、及び必要であれば他の補助剤を含んでなる組成物にも関する。
【0022】
本発明の更なる具体例は、1光子又は多光子照射実験において使用される、一般式(I)[ここで、Rはニトロ基を表し;Rは水素又は臭素原子、又は直鎖又は分枝状、置換又は未置換のアルコキシ又はシクロアルコキシ基、好ましくは、未置換のアミノ基又は1のC〜Cアルキル基又はシクロアルキル基、又は2の同一又は異なるC〜Cアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基又はシクロアルキル基にて置換されたアミノ基によって置換されたC〜Cアルコキシ基、又は置換又は未置換のアリール基を表し;R及びRは水素原子を表し;Rは、アミノ酸の酸残基、又は一般式(II)(式中、窒素原子及び結合する置換基R及びRは、一緒に、アミノ酸のアミン残基を表し、Xは酸素又はイオウ原子を表す)の基を表す]で表される化合物のトリフルオロ酢酸塩及びその製法にある。
【0023】
さらに、本発明の最も有利な1具体例は、一般式(I)[式中、Rはニトロ基を表し;Rは、水素又は臭素原子、又はジメチルアミノ−エトキシ基、ジメチルアミノ−プロポキシ基、ジメチルアミノ−イソプロポキシ基の異性体(−O−CH(CH)CH−N(CH及びO−CH−CH(CH)−N(CH基)、ジメチルアミノ−イソブトキシ基(O−CH−CH(CH)−CH−N(CH)、又は置換又は未置換のアリール基を表し;R及びRは水素原子を表し;Rは、L−グルタミン酸、GABA又はグリシンの酸残基、又は一般式(II)(式中、窒素原子及び結合する置換基R及びRは、一緒に、L−グルタミン酸、GABA又はグリシンのアミン残基を表し、Xは酸素又はイオウ原子を表す)の基を表す]で表される化合物のトリフルオロ酢酸塩及びその製法に関する。
【0024】
有利な具体例によれば、一般式(I)で表される化合物のトリフルオロ酢酸塩において、Rはアミノ酸の酸残基であるか、又はRは、一般式(II)(式中、窒素原子及び結合する置換基R及びRは、一緒に、神経伝達物質又は神経伝達物質とみなされる化合物のアミン残基を表し、Xは酸素又はイオウ原子を表す)の基である。
【0025】
発明者らは、驚くべきことには、一般式(I)[式中、Rはニトロ基を表し;Rは、水素又は臭素原子、又は直鎖又は分枝状、置換又は未置換のアルコキシ又はシクロアルコキシ、好ましくは、未置換のアミノ基、又は1のC〜Cアルキル基又はシクロアルキル基又は2の同一又は異なるC〜Cアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基又はシクロアルキル基にて置換されたアミノ基によって置換されたC〜Cアルコキシ基、又は置換又は未置換のアリール基を表し;R及びRは水素原子を表し;Rは、アミノ酸の酸残基又は一般式(II)(ここで、窒素原子及び結合する置換基R及びRは、一緒に、神経伝達物質又は神経伝達物質とみなされる化合物のアミン残基を表し、Xは酸素又はイオウ原子を表す)の基を表す]で表される化合物のトリフルオロ酢酸塩が、例えば、MNI−Glu又はそのトリフルオロ酢酸(以下、「TFA」)との酸付加塩(MNI−Glu・TFA)よりも、かなり高い量子収率で使用されるとの知見を得た。これらの化合物はより高い量子収率を有するが、実験条件下において、自発的に容易に分解する。驚くべきことには、発生されるアミノ酸又は神経伝達物質は、好適な試薬の添加により、化学的プロセスにおいて無効にされるか、又はイオン交換樹脂を使用することにより、物理的−化学的プロセスにおいて、測定のために使用された媒体から除去される。自発的分解によって形成される化合物も、物理プロセスにより、除去される。
【0026】
化合物DNI−Glu・TFAから放出されたL−グルタミン酸は、好ましくは、酵素グルタミン酸デヒドロゲナーゼ又はグルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼの添加によって無効にされる。試薬の存在にもかかわらず、測定シグナルは、試薬自体が生理学的効果を持たないため減少せず、シグナル/ノイズの比はかなり良好となる。また、DNI−Glu塩基を使用する場合、興奮性シナプス後電位(以下、EPSP)のレベルは、いわゆる「ケージド試薬」以外に、自発的に放出されるグルタミン酸を無効にする試薬も使用されている場合には、コントロールレベルにリセットされる。
【0027】
EPSPの特性を保持することは、EPSPの周波数が増大する場合には、細胞の基本的活動性が正常レベルから逸脱し、細胞死を招くため、非常に重要である。電位固定法を使用して測定した、細胞の自発的活動性の変化を図1Aに示す(図において、曲線a)はコントロール(正常な活動性)を示し、b)は、添加した「ケージド」化合物の自発的分解によって生じた条件を示し、曲線c)は、酵素の添加によって条件がコントロールレベルに維持されることを示している)。いくつかの並列実験の結果を図1Bに示す(図において、垂直のスケールバーはEPSPの周波数を示す)。示した実験の場合、潅流溶液へのDNI−Gluの添加のため、EPSPの周波数が増大し、ついで、酵素グルタミン酸デヒドロゲナーゼの添加後、元に戻る。酵素グルタミン酸デカルボキシラーゼを使用する場合も、結果は同様である。実施例17では、並列サンプル8個の実験を行う場合、測定に供されるDNI−Gluが顕著に周波数を増大させるとの事実にもかかわらず、酵素の添加が電位変化の頻度をコントロールレベルに戻すとの知見が示されている。酵素の添加によって、EPSPの周波数はコントロールレベルに戻され、実験のシグナル/ノイズ比が増大される。実験が正常な細胞機能を持つ生理学的条件に保持され、このようにして、実験は、より良好にコントロールされ、より良好な再現性を提供する。使用する酵素は細胞機能を変化させず、従って、測定を妨げない。
【0028】
下記の表において、例として、いくつかの生物学的に活性な化合物、神経伝達物質及び向神経活性アミンが放出される場合に、いずれの酵素が使用できるかを要約する。
【表1】
【0029】
当業者であれば、一般的知識及び使用した実験環境に基づき、市販の酵素組成物から好適な酵素を選択することができる。好適な試薬、好ましくは、酵素の選択は、放出される生物学的に活性な物質についての認識を有する当業者の一般的知識の一部である。当業者は、実験に供する細胞、例えば、ニューロンに対して危険でない及びそれらの生理学的状態を変更させない様な試薬を選択する。DNI−Gluを使用する場合には、このような試薬は、酵素グルタミン酸デヒドロゲナーゼ又はグルタミン酸デカルボキシラーゼである。
【0030】
DNA、RNA又はそのフラグメントが放出される場合、放出された生物学的に活性な化合物は、酵素ヌクレアーゼ(DNAヌクレアーゼ又はRNAヌクレアーゼ)の使用により無効にされる。生物学的に活性な化合物として脂質ホルモンを使用する場合、自発的分解により放出される化合物は、例えば、酵素脂肪酸デヒドロゲナーゼ(FAD)の使用により又は脂肪酸を水和する酵素NADキナーゼ、酵素チオリシスCoAにより無効にされる。
【0031】
ペプチドが放出される場合、ペプチド分解酵素も使用される。2次シグナル化合物が放出される部位には、光開裂性化合物の自発的加水分解の間に発生されるCa2+イオンはCa2+キレート化剤の使用によって無効にされる。
【0032】
或いは、自発的加水分解により放出される生物学的に活性な物質を、物理的又は化学的プロセスによって、部分的に又は完全に吸着する吸着剤を、測定液体中又はその循環系内に配置することができる。
【0033】
アミノ酸のようなイオン性化合物が放出される場合には、陰イオン又は陽イオン交換樹脂を測定流体中に配置でき、或いは、アミノ酸を吸収するために、流体を、イオン交換樹脂を充填したカラム内を通過させることができる。陰イオン交換樹脂を使用する場合、アミノ酸及び神経伝達物質も吸収される。アミン及びアミノ酸の吸収用には、好ましくは、スルホン酸基を含有する酸性イオン交換樹脂が使用され、一方、カルボキシル基を含有する化合物の吸収には、塩基性イオン交換樹脂が使用される。好適なイオン交換樹脂の選択は、分離される化合物の特性に左右されるが、選択は、当業者の知識の一部である。同様に、固相抽出も使用できる。固相抽出用の吸着剤は、イオン交換樹脂の使用と同様に使用されるが、これらの吸着剤の中から、ステロイドのような無極性化合物の吸着用に好適なタイプを見出すことができる。
【0034】
自発的に放出される生物学的に活性な成分は、生物学的プロセスによって、測定媒体から除去される。生物学的に活性な化合物を同化できる細胞又はその組織が試薬として使用され、測定流体の流れ中に又は測定セル内に配置される場合には、自発的に放出される生物学的に活性な化合物の濃度の増大を回避できる。例えば、海馬細胞が検討され、グルタミン酸が放出される場合、測定流体を、測定セルの入口以前に、海馬細胞集団を通過させ、これにより、これら細胞が測定流体中で形成されたグルタミン酸を吸収及び同化する。このようにして、測定流体において、グルタミン酸の量は増大されない。活性化合物の同化を助けるタンパク質をますます発現する一般的に変性された細胞株が配置される場合には、効果が改善される。
【0035】
当業者であれば、上述の方法及び公知の試薬から、自発的分解の生物学的に活性な化合物を無効にするための公的な方法及び好適な補助剤を容易に選択できる。
【0036】
特に、本発明によれば、一般式(I)で表される化合物において、電子吸引基とは、シアノ、ニトロ、カルボキシル、ホルミル基又はハロゲン原子であり;飽和アルキル基とは、直鎖又は分枝状のC〜Cアルキル基、例えば、メチル、エチル、イソプロピル又は3級ブチル基である。不飽和アルキル基とは、1以上の孤立した又は共役した二重又は三重結合を含有する直鎖又は分枝状、置換又は未置換の炭素鎖である。アルキル基は、ハロゲン原子、カルボキシル基、1級、2級又は3級アミノ基のような置換基を有することができる。ハロゲン原子は、例えば、ヨウ素、塩素、臭素又はフッ素原子である。アルコキシ基としては、式
アルキル−O−
(ここで、アルキルは上記の定義のとおりである)で表される基である。このようなアルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、i−プロポキシ、n−ブトキシ、2−オキシマロン酸、3−ジメチルアミノプロポキシ、2−ジメチルアミノエトキシ、2−ジメチルアミノ−1−メチル−エトキシ、4−ジメチルアミノブトキシ、3−ジメチルアミノ−1−メチル−プロポキシ基である。本発明によれば、シクロアルキル基は、非芳香族環又はシクロプロピル、シクロペンチル又はシクロヘキシル基のような環を形成する炭素原子である。シクロアルコキシ基は、シクロアルキル基がエーテルタイプの酸素原子により化合物の他の部分に結合しているような基である。シクロアルキル基又はシクロアルコキシ基は、例えば、ハロゲン原子(例えば、I、Cl、Br、F)、シアノ基、置換又は未置換のアルキル、シクロアルキル、アルコキシ、シクロアルコキシにて、又は1〜3のヘテロ原子(ヘテロ原子は、独立して、酸素、イオウ又は窒素である)を含む5〜7員の複素環にて置換される。好ましくは、複素環は飽和であり、2のヘテロ原子を含み、さらに好ましくは、複素環化合物は、モルホリニル又はピペラジニル基である。化合物が置換アミノ基を含有する場合、これらの置換基は、アルキル、シクロアルキル又はシクロアルコキシ基である。本発明によれば、アリール基は、フェニル、ナフタレニルのような単環式又は多環式芳香族基であり、ヘテロアリール基は、ピリジニル基のようなヘテロ原子を含有する孤立した又は共役した環状芳香族基である。本発明によれば、アミノ酸残基としては、天然のアミノ酸又はその誘導体の酸残基である。好ましくは、天然のアミノ酸は、リシン、アラニン、プロリンのような必須アミノ酸及びヒトの器官において又は動物において、例えば、伝導において、役割を有する他のアミノ酸、例えば、γ−アミノ酪酸又はその誘導体である。好適な具体例では、アミノ酸残基は、光照射により光開裂性化合物から分裂する向神経活性アミノ酸の酸残基である。このような化合物は、グルタミン酸の酸残基、4−アミノ−4−カルボキシ−1−オキソ−ブチ−1−イル基、又γ−アミノ酪酸(GABA)の酸残基、1−オキソ−4−アミノ−ブチル基である。
【0037】
神経伝達物質のアミン残基は、神経伝達物質のアミノ基の水素原子の1を除去することによって誘導される。例えば、ドーパミンのアミン残基は、2−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−エチル−アミノ基であり、アドレナリン及びノルアドレナリンのアミン残基は、(R)−2−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−エチル−アミノ基であり、ヒスタミンのアミン残基は、2−(1H−イミダゾール−4−イル)−エチルアミノ基である。
【0038】
神経伝達物質とみなされる化合物は、向神経活性効果を有することが期待される少なくとも1のアミノ基を含有する新規又は公知の化合物である。このような化合物は、本発明による方法により、薬剤研究の特定の段階においてテストされる。
【0039】
本発明の有利な1具体例によれば、ジニトロ化合物のトリフルオロ酢酸塩が使用される。ジニトロ化合物又は塩の使用は、発明者らの実験(実施例18)の結果に従って、図2に示すように、DNI−Gluを使用する場合、照射によって生ずる興奮性シナプス後電位(以下、EPSP)が、MNI−Gluを使用する場合よりも有意に高いため、試験の観点から、より好ましい。これらのテスト結果を図2Aに示す(図において、水平のスケールバーは時間単位50分を表し、垂直のスケールバーは電位2mVを表す)。図2Bは、光開裂の応答としてのCa2+過渡信号も、DNI−Gluを使用する場合、MNI−Gluを使用する場合よりも有意に高いことを示している。ジニトロ化合物を使用することによる他の利点は、これらが、使用する光の波長とは無関係に、対応するモノニトロ誘導体よりも高いEPSP及びCa2+過渡信号を与えることである。使用する光の波長に応じた信号の大きさを図3に示す(図3A−EPSP;図3B−Ca2+過渡信号)。
【0040】
一般式(I)で表される化合物をトリフルオロ酢酸塩の形で使用できるとの事実は、当業者であれば、塩の形からトリフルオロ酢酸のような酸化合物の放出はテストを妨げることが予測されるため、驚くべきことである。
【0041】
本発明の最も有利な具体例によれば、DNI誘導体のTFA塩を、自発的に放出される生物学的に活性な化合物を無効にする試薬とともに、測定流体に添加するようにして、「ケージド」化合物として使用する。
【0042】
本発明の他の態様は、1光子又は多光子テスト、好ましくは、2光子照射テスト法であって、光開裂性化合物、好ましくは、一般式(I)による化合物を測定流体に溶解し、自発的分解から生ずる生物学的に活性な化合物を無効にする試薬を添加し、ついで、サンプルの天然の流体をこの溶液に変更し、このサンプルを使用して、現状水準の装置を使用する公知の方法に従ってテストを行うことを特徴とする方法にある。
【0043】
測定流体としては、リンゲル溶液又はACSF(人工脳脊髄液)、又は好適な組成を有する他の溶液が使用される。測定流体の選択は、当業者の知識の一部である。
【0044】
特に、神経細胞及び形成される生物活性アミノ酸の観察の場合には、一般式(I)で表される化合物又はその塩を、人工脳脊髄液(ACSF)及び自発的分解によって形成されるアミノ酸を無効にする算定された量の試薬に溶解する。試薬は、好ましくは、酵素である。
【0045】
必要な試薬の量は、光開裂性化合物に応じて容易に算定され、試薬は下記のとおりである。
【0046】
光開裂性化合物を、テストにおいて使用される量で、人工脳脊髄液(ACSF)に溶解する。ACSFの組成は下記のとおりである。
【表2】
【0047】
得られた溶液を、開始時及び48時間後の時点でサンプリングする。高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)によって、例えば、DNI誘導体の場合には、DNI誘導体の分解生成物である4−メトキシ−5,7−ジニトロインドリンの増加から、活性成分の量を測定する。発明者らは、通常の1光子又は多光子テストの間のアミノ酸放出の量を算定し、ついで、酵素生成物の活性度を知った後、このような自発的分解によって形成されるアミノ酸を脱活性化できる量の酵素を測定流体に添加する。
【0048】
本発明の更なる態様は、一般式(I)で表される化合物又はその塩及び一般式(I)で表される化合物の自発的分解による生物学的に活性な化合物を無効にする試薬、及びさらに、必要であれば、補助剤を含んでなる組成物である。有用な補助剤は、医薬品工業において一般的に使用されるような不活性化合物である。これら補助剤のタイプ、特性及び使用は、特に、Handbook of Pharmaceutical Excipients(5版、Raymond C Rowe、Paul J Sheskey及びSian C Owen編、2006年発行)に示されている。
【0049】
当業者は、医薬品工業において一般的に使用される方法に従って、この組成物を調製できる。このような方法は、特に、PHARMACEUTICAL MANUFACTURING HANDBOOK(SHAYNE COX GAD,PH.D.,D.A.B.T.;2008年、John Wiley & Sons,Inc.発行)に示されている。
【0050】
発明者らは、成分を、プレミックスとして、測定媒体、特に人工脳脊髄液(ACSF)の溶液に溶解する場合には、テストを有意により容易に実施できるとの知見を得た。この場合、測定時間は、2つの化合物を測定及び溶解することが必要でないため、短くなる。さらに、プレミックスの使用の利点は、「ケージド」化合物及び試薬の割合が一定であり、従って、並列テストの偏差が低減されることである。さらに、より多くの量が測定されるため、テストの精度が増大する。上述のように、テストの間に発生する生物学的に活性な化合物を無効にする試薬の不存在は、テスト結果を歪め、感作又は細胞死さえ生じ、このようにして、テストが不可能になる。
【0051】
本発明によれば、用語「プレミックス」は、光化学的に開裂可能な成分及びその自発的分解によって形成される生物学的に活性な化合物を無効にする試薬を一緒に又は別個に含有する混合物(混合物は、他の補助剤と混合して使用される)を意味する。プレミックスは、ケージド化合物のみ又はその分解によって形成される生物学的に活性な化合物を無効にする試薬のみと補助剤との混合物であるか、又は光化学的に活性な化合物を試薬と一緒に含有する混合物のいずれかである。プレミックスは、固状又は液状、好ましくは、固状で調製される。プレミックスは、光化学的に開裂可能な化合物及び自発的分解によって形成される生物学的に活性な化合物、例えば、アミノ酸を無効にする試薬以外に、追加の、ただし、少なくとも1の補助剤を含有する粉末状の混合物でもよい。このような補助剤は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リン酸二水素ナトリウム、グルコール、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)二ナトリウム塩のような有機又は無機の化合物である。
【0052】
プレミックスは、上述の測定及び算定に基づく割合で、光化学的に活性な成分及び試薬を補助剤と混合し、混合物を均質化することによって調製される。混合は、必要であれば、窒素雰囲気下において、乾燥した場所で行われる。混合物を、必要であれば、−20℃において凍結保存する。
【0053】
プレミックスが粉末状混合物である場合、プレミックスは錠剤として圧縮されるか、又はカプセルに充填され、或いは各種の形状の単位用量として製剤される。光化学的に活性な化合物及び試薬を別個に処方し、得られた粉末状の混合物を単位用量に製剤できる。
【0054】
本発明の他の態様は、光化学的に活性な成分及び試薬を別個に処方し、共通の包装ニットに入れたキットである。
【0055】
本発明の他の具体例は、1光子又は多光子照射実験において使用される一般式(I)[式中、Rはニトロ基を表し;Rは、水素又は臭素原子、又は直鎖又は分枝状、置換又は未置換のアルコキシ、シクロアルコキシ、好ましくは、未置換のアミノ基又は1のC〜Cアルキル基又はシクロアルキル基、又は2の同一又は異なるC〜Cアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基又はシクロアルキル基にて置換されたアミノ基によって置換されたC〜Cアルコキシ基、又は置換又は未置換のアリール基を表し;R及びRは水素原子を表し;Rは、アミノ酸の酸残基又は一般式(II)(式中、窒素原子及び結合する置換基R及びRは、一緒に、アミノ酸のアミン残基を表し及びXは酸素又はイオウ原子を表す)の基である]で表される化合物のトリフルオロ酢酸塩である。
【0056】
これらの化合物の各々は、2光子照射プロセスにおいて開裂可能である。2光子照射プロセスは、神経伝達物質が、非常に小さい体積においても、受容体の近傍でフリーであることを許容するため、1光子プロセスに対して利点を有する。小さい励起体積の他の利点は、レーザービームが、樹状突起を破壊しないか、破壊しても非常にわずかであることである。他の利点は、2光子プロセスの場合、使用するレーザービームの周波数は、1光子励起(照射のために紫外線範囲の光を使用する)に対して、赤外線範囲に近いことにある。2光子励起と2光子画像プロセスとを組み合わせることにより、いくつかの脳プロセスが、最も少ない副作用で、組織の深部においてモデル化される。
【0057】
2光子照射プロセスを使用する場合、測定の間、励起の位置が非常に正確にセットされ、このようにして、ニューロンの神経生物学的実験が可能になる。図5Aに示す実験準備の場合、樹状突起に沿って20の照射ポイントを配置し、ついで、実施例16に記載するプロセスに従って(ただし、「ケージド」化合物として、iDMPO−DNI−GABA・2TFA塩(2.5mM)を使用した)実験を行った。各ポイントにおける刺激によって生じた応答を測定し、それらを、いくつかの実例曲線で示した。これらの曲線は図5Bに見ることができる。これらの実験を数回繰り返すことによって、受容体密度が細胞体に沿って異なっていることが示された。いくつかの実験の刺激の結果として、信号の平均は、図5Cに証明されているように、差異を示す。驚くべきことには、「ケージド」化合物のTFA塩を使用することにより、受容体密度及びニューロンの神経生物学的構造の実験が可能になる。
【0058】
本発明の最も有利な具体例は、一般式(I)[ここで、Rはニトロ基を表し;Rは、水素又は臭素原子、又はジメチルアミノ−エトキシ基、ジメチルアミノ−プロポキシ、ジメチルアミノイソプロポキシ基の異性体(−O−CH(CH)CH−N(CH基及びO−CH−CH(CH)−CH−N(CH基)、ジメチルアミノイソブトキシ基(O−CH−CH(CH)−CH−N(CH)、又は置換又は未置換のアリール基を表し;R及びRは水素原子を表し;Rは、L−グルタル酸、GABA又はグリシンの酸残基、又は一般式(II)(ここで、窒素原子及び結合する置換基R及びRは、一緒に、L−グルタミン酸、GABA又はグリシンのアミン残基を表し、及びXは酸素又はイオウ原子を表す)の基を表す]で表される化合物のトリフルオロ酢酸塩及びその製法に係る。
【0059】
有利な具体例によれば、一般式(I)で表される化合物のトリフルオロ酢酸塩において、Rはアミノ酸の酸残基であるか、又はRは、一般式(II)(ここで、窒素原子及び結合する置換基R及びRは、一緒に、神経伝達物質又は神経伝達物質とみなされる化合物のアミン残基を表し及びXは酸素又はイオウ原子を表す)の基である。
【0060】
塩基及び他の塩基と比べて、これらトリフルオロ酢酸塩の利点は、これらは、より安定であり、光感受性及び吸湿性が低く、これらの調製及び精製が容易であることである。発明者らのテストでは、一般式(I)で表される化合物の塩は、塩基よりも吸湿性が低いことが証明された。発明者らは、25℃、相対湿度50%において、MNI−Glu塩基及びその塩酸及びトリフルオロ酢酸との塩について、質量増加を測定した。72時間の保存後、塩基の質量は20%増加し、HCl塩の質量は13.6%増加したのに対して、トリフルオロ酢酸塩の質量の増加はわずか4%であった。
【0061】
塩の更なる利点は、これらが調製及び精製が容易であり、塩基又は他の塩よりも安定であることである。
【0062】
本発明の最も有利な具体例によれば、ジニトロ−インドリン誘導体(ケージド化合物)の新規のTFA塩は、当分野で公知の同様の誘導体とは異なり、そのより良好な溶解性及び安定性のため、測定流体への好適な酵素の添加と共に、これら化合物が2光子照射実験において使用されることを可能にする。このようにして、有意により高い量子収率が発揮される(この特性はDNI誘導体を特徴付けるものである)。
【0063】
発明者らは、驚くべきことには、一般式(I)(ここで、Rはニトロ基を表し;Rは、未置換のアミノ基で、又は1のC〜Cアルキル基又はシクロアルキル基、又は2の同一又は異なるC〜Cアルキル基で置換されたアミノ基で置換されたC〜Cアルコキシ基を表す)で表される化合物が、非常に有利な特性を有するとの知見を得た。
【0064】
当分野で公知のジニトロ−インドリンタイプのケージド化合物とは異なり、これらの化合物は、驚くべきことには、これら化合物が測定流体に溶解性であるため、ケージド化合物の開裂後、溶液中に残る。この事実は、これら化合物が測定液体の変化によって完全に除去され、これによって、以降の測定を乱さないことを裏付けている。
【0065】
本発明の他の態様は、一般式(I)[式中、Rはニトロ基を表し;Rは、水素又は臭素原子、又は直鎖又は分枝状、置換又は未置換のアルコキシ、シクロアルコキシ、好ましくは、C〜Cアルコキシ基(ここで、置換基は、未置換のアミノ基、又は1のC〜Cアルキル基又はシクロアルキル基、又は2の同一又は異なるC〜Cアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基又はシクロアルキル基で置換されたアミノ基である)、又は置換又は未置換のアリール基を表し;R及びRは水素原子を表し;Rは、アミノ酸の酸残基又は一般式(II)(式中、窒素原子及び結合する置換基R及びRは、一緒に、アミノ酸のアミン残基を表し、及びXは酸素又はイオウ原子を表す)の基である]で表される化合物のトリフルオロ酢酸塩を調製する方法であって、トリフルオロ酢酸又はその溶液を、一般式(I)で表される化合物の溶液に添加し、形成された塩を分離することを含んでなる方法にある。本発明の好適な1具体例によれば、トリフルオロ酢酸又はその溶液を、一般式(I)で表される化合物の調製の反応混合物に添加し、この溶液から塩を分離する。塩の分離は、蒸発した反応混合物の濾過又は抽出によって行われる。混合物に塩を沈殿させるような溶液を添加して、塩を溶液から分離することができるが、混合物を冷却することによって生成物を分離することもできる。
【0066】
粗製の塩を、必要であれば、再結晶又は塩基形に転化できる。この製法の利点は、生成物の調製の間に、クロマトグラフィー精製が必要ないことである。
【0067】
本発明の利点は、1光子又は多光子励起テストの過程で、自発的に形成されるアミノ酸(テストを妨げる)を無効にできることである。
テスト対象の神経細胞が、加水分解生成物の濃度像体の誘拐な影響から保護される。
本発明による一般式(I)で表される化合物及び自発的に形成されるアミノ酸を無効にする試薬を含有する組成物は、より小さい偏差で一連のテストを行うことを可能にし、測定を容易にする。
【0068】
一般式(I)で表される化合物のトリフルオロ酢酸との塩は、容易に調製、精製され、対応する塩基又は多の塩よりも安定である。
【0069】
本発明を下記に実施例によって詳述するが、本発明の範囲は、これら実施例に限定されない。
【実施例1】
【0070】
2−アミノ−5−(4’−メトキシ−5’,7’−ジニトロ−2’,3’−ジヒドロ−インドール−1’−イル)−5−オキソ−ペンタン酸のトリフルオロ酢酸塩(DNI−Glu・TFA)の調製法
トリフルオロ酢酸(TFA)1.8mlに、0℃において、2−(ベンジル−オキシ−カルボニル−アミノ)−5−(4’−メトキシ−5’,7’−ジニトロ−2’,3’−ジヒドロ−インドール−1’−イル)−5−オキソ−ペンタン酸3級ブチルエステル0.1g(0.19ミリモル)を溶解し、室温において92時間撹拌した。ついで、メタノール2mlを2回添加し、混合物を蒸発させた。オイル状残渣にジエチルエーテル5mlを添加し、沈殿した結晶を濾取し、デシケーター内で乾燥した。このようにして、生成物は、褐色、固状の題記化合物0.05gであった。
収率は54%であり、純度は99.8%(HPLC)であった。LC−MS:368、融点:146〜148℃。空気中の水分により、結晶性の生成物は、室温において、結晶水を吸収した
このようにして生成された生成物の元素分析は下記のとおりである。
【表3】
NMRスペクトル:
【表4】
【実施例2】
【0071】
4−アミノ−1−(4’−ジメチルアミノ−エトキシ−5’,7’−ジニトロ−2’,3’−ジヒドロ−インドール−1’−イル)−1−オキソ−ブタンの2トリフルオロ酢酸塩(DMED−DNI−GABA・2TFA)の調製法
トルエン及びメタノールの3:1混合物200mlに、ナトリウムメチラート6.6g(0.123モル)を溶解し、60℃において、この溶液に、4−ヒドロキシインドール15g(0.1125モル)のトルエン−メタノール3:2混合物(250ml)溶液を1滴ずつ添加し、混合物を、室温において1時間撹拌した。ついで、ジメチル−アミノ−エチル−クロリド14.5g(0.135モル)を、60℃において、トルエン14.5mlに溶解し、この温度において、さらに5時間撹拌した。この間に、4−ヒドロキシ−インドールは完全に転化した。ついで、反応混合物に酢酸エチル300mlを添加し、混合物を、Perliteを介して濾過した。溶液を飽和炭酸水素ナトリウム溶液にて抽出し、分離に続いて、水150mlにて3回抽出し、硫酸マグネシウムにて乾燥し、ついで、蒸発させた。このようにして得られた生成物は、4−ジメチルアミノ−エトキシ−インドール(DMEO−インドール)の淡褐色のオイル10.82g(51%)であった。
上記反応工程において得られた生成物DMEO−インドール10.82g(52.9ミリモル)を酢酸50mlに溶解し、ついで、温度10〜15℃において、シアノ水素化ホウ素ナトリウム3.32g(52.9ミリモル)を少量ずつ添加した。冷却を停止し、反応混合物を20℃まで加温させ、ついで、室温において3時間撹拌した。反応の完了を薄層クロマトグラフィー(TLC)にてチェックした。撹拌下で、反応混合物を10℃に冷却した。混合物のpHを、20%水酸化ナトリウム溶液150mlの添加によって、pH8に調整し、ついで、混合物を、酢酸エチル150mlで3回抽出した。未精製の有機相を硫酸マグネシウムにて乾燥し、濾過し、蒸発させた。このようにして得られた淡褐色のオイル8.5g(79%)は、4−ジメチルアミノ−エトキシ−2,3−ヒドロ−インドール(DMEO−インドリン)であった。
酢酸エチル50mlに、4−(3級ブトキシカルボニル−アミノ)−ブタン酸(BOC−GABA)3.39g(16.7ミリモル)を溶解し、混合物に、ジイソプロピル−エチルアミン4.8mlを添加し、ついで、15℃に冷却し、N−エチル−ジメチル−アミノ−プロピル−カルボジイミド3.8ml(21.4ミリモル)を添加した。反応温度を20℃に上昇させ、ついで、DMEO−インドリン3.0g(23.0ミリモル)の酢酸エチル(70ml)溶液を、溶液に1滴ずつ添加した。添加に続いて、反応混合物を20℃において1時間撹拌した。反応が充分に完了した。混合物のpHを、1M塩酸25mlの添加によってpH4に調整し、混合物を分離し、有機相を飽和炭酸水素ナトリウム溶液15mlで洗浄した。
有機相を硫酸マグネシウムにて乾燥し、濾過し、蒸発させた。得られた粗製生成物をエタノールから再結晶した。このようにして得られた生成物は、白色結晶の4−3級ブトキシカルボニル−アミノ−1−(4’−ジメチルアミノ−エトキシ−2’,3’−ジヒドロ−インドール−1’−イル)−1−オキソ−ブタン(DMEO−I−Boc−GABA)4.7g(85%)であった。
撹拌下で、DMEO−I−Boc−GABA4.7gをトリフルオロ酢酸15mlに添加し、撹拌をさらに1時間続けた。混合物を蒸発し、ついで、メタノール10mlの添加及び蒸発を3回行い、TFAを完全に除去した。このようにして得られたオイル7.63gは、4−アミノ−1−(4’−ジメチルアミノ−エトキシ−2’,3’−ジヒドロ−インドール−1’−イル)−1−オキソ−ブタンの2トリフルオロ酢酸塩(DMEO−I−Boc−GABA・2TFA)であった。
撹拌下で、DMEO−I−Boc−GABA・2TFA4g(7.7ミリモル)をトリフルオロ酢酸400mlに溶解し、ついで、硝酸ナトリウム19.63g(230ミリモル)を、10℃において、少量ずつ添加した。反応混合物を20℃まで加温させた。この温度において、さらに1時間撹拌した。反応の完了をHPLC法にてチェックした。
反応混合物に、ジクロロメタン800mlを添加し、沈殿した無機塩(秤量したところ30g)を濾去し、濾液を蒸発させ、ジオキサン30mlに溶解し、分離した無機塩を濾過し、溶液を蒸発させた。このようにして得られた褐色のオイルを、分取HPLCによって精製した。使用した溶離剤は、TFA0.1%を含有する水性アセトニトリルであり、該溶離剤により、生成物はTFA塩の形で保持される。生成物は、4−アミノ−1−(4’−ジメチルアミノ−エトキシ−5’,7’−ジニトロ−2’,3’−ジヒドロ−インドール−1’−イル)−1−オキソ−ブタンの黄色結晶性2トリフルオロ酢酸塩(DMEO−DNI−GABA・2TFA)・2HO0.43gであった。
【表5】
【実施例3】
【0072】
4−アミノ−1−(4’−ジメチルアミノ−イソプロポキシ−5’,7’−ジニトロ−2’,3’−ジヒドロ−インドール−1’−イル)−1−オキソ−ブタンの2トリフルオロ酢酸塩(iDMPO−DNI−GABA・2TFA)の調製法
原料物質としてヒドロキシインドールを使用して、DMEO−I−GABA・2TFAの調製法に従って、4−アミノ−1−(4’−ジメチルアミノ−イソプロポキシ−5’,7’−ジニトロ−2’,3’−ジヒドロ−インドール−1’−イル)−1−オキソ−ブタンの化合物(iDMPO−DNI−GABA・2TFA)を調製した。
アセトニトリル35mlに、iDMPO−I−GABA・2TFA3.5g(6.54ミリモル)を溶解し、ついで、10℃において、ニトロニウムテトラフルオロボラート1.73g(13.5モル)を添加し、混合物を20℃に加温させた。この温度において、混合物を3時間撹拌した。反応をHPLCにてチェックした。反応混合物に、炭酸水素ナトリウム20gを添加し、0.5時間撹拌し、ついで、硫酸マグネシウム20gとともに、さらに0.5時間撹拌し、濾過し、蒸発させた。得られた生成物は、粗製の褐色オイル5.52gであり、HPLC(溶離剤:TFA0.1%を含有する水性アセトニトリル)によって精製した。このようにして得られた黄色がかった褐色のワックス様オイル0.6000gは、4−アミノ−1−(4’−ジメチルアミノ−イソプロポキシ−5’,7’−ジニトロ−2’,3’−ジヒドロ−インドール−1’−イル)−1−オキソ−ブタンの2トリフルオロ酢酸塩(iDMPO−DNI−GABA・2TFA)であった。
【実施例4】
【0073】
(S)4−アミノ−5−(4’−メトキシ−7’−ニトロ−2’,3’−ジヒドロ−インドール−1’−イル)−5−オキソ−ペンタン酸のトリフルオロ酢酸塩(MNI−Ulg・TFA)の調製法
使用した方法は、DMEO−MNI−Glu・2TFAの調製と類似の方法である(原料物質として、メトキシ−インドリンを使用する)。L−グルタミン酸をカップリングするために、N−[(1,1−ジメチル−エトキシ)カルボニル]−5−(1,1−ジメチル−エチル)エステルを使用した。得られた黄色結晶は、(S)4−アミノ−5−(4’−メトキシ−7’−ニトロ−2’,3’−ジヒドロ−インドール−1’−イル)−5−オキソ−ペンタン酸のトリフルオロ酢酸塩(MNI−Ulg・TFA・HO)であった。
【表6】
【実施例5】
【0074】
2−アミノ−1−(7’−ニトロ−2’,3’−ジヒドロ−インドール−1’−イル)
−1−オキソ−エタンのトリフルオロ酢酸塩(MNI−Gly・TFA)の調製法
使用した方法は、DMEO−MNI−Glu・2TFAの調製と類似の方法である(原料物質として、メトキシ−インドリンを使用する)。カップリングのために、N−[(1,1−ジメチル−エトキシ)カルボニル]グリシンを使用した。
このようにして得られた黄色結晶性生成物は、2−アミノ−1−(7’−ニトロ−2’,3’−ジヒドロ−インドール−1’−イル)−1−オキソ−エタンのトリフルオロ酢酸塩(MNI−Gl・TFA)であった。
【実施例6】
【0075】
DNI−Glu・TFAの自発的加水分解
この実験のために、人工脳脊髄液(ACSF)を使用した。その組成を下記の表に示す。
【表7】
DNI−Glu・TFA0.06mg/mlを含有するACFS溶液10mlを、32℃において保存した。保存の開始時及び48時間後の時点で溶液をサンプル抽出し、LCMS法を使用することによって、加水分解生成物から、4−メトキシ−5,7−ジニトロ−2,3−ジヒドロ−1H−インドールを同定した。240におけるその分子量ピークによって化合物を同定した。48時間後に抽出したサンプルをHPLC装置で測定した。補正なしで、DNI−Glu・TFAの46.7%が加水分解された。
【実施例7】
【0076】
グルタミン酸−ピルビン酸トランスアミナーゼを使用する、DNI−Glu・TFAの自発的加水分解から形成されたグルタミン酸の無効化
酵素の必要量の算定:
実施例6の結果は、グルタミン酸の形成速度が、ACSF(通常、多光子又は2光子照射実験で使用される)12ml中で1μモル/分であることを示している。
DNI−Glu・TFA13.5mgを含有するACSF溶液12ml中で形成されるグルタミン酸のα−ケトグルタル酸への転化のためには、グルタミン酸−ピルビン酸トランスアミナーゼ(Sigma cat. No.:G8255)1単位が必要である。このため、テスト前に、ACSF溶液に、グルタミン酸−ピルビン酸トランスアミナーゼ1単位を添加した。
【実施例8】
【0077】
グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(Sigma G2626)及びNADP(β−ニコチンアミドアデニンジヌクレトチドホスフェート:Sigma N5755)を使用する、DNI−Glu・TFAの自発的加水分解から形成されたグルタミン酸の無効化
酵素の必要量の算定:
実施例6の結果は、グルタミン酸の形成速度が、ACSF(通常、多光子又は2光子照射実験で使用される)12ml中で1μモル/分であることを示している。
実施例7に従い、ただし、酵素グルタミン酸−ピルビン酸トランスアミナーゼの代わりに、酵素グルタミン酸デヒドロゲナーゼ及びNADP(β−ニコチンアミドアデニンジヌクレトチドホスフェート)を使用して操作した。
ACSF溶液12mlに、DNI−Glu・TFAを、溶液におけるDNI−Glu・TFAの濃度が2.5mMとなる量で添加し、この溶液に、酵素L−グルタミン酸デヒドロゲナーゼ2単位(2.1μl)及びNADPストック溶液(NADP200mM)12μlを添加した。
【実施例9】
【0078】
DNI−Glu・TFA、L−グルタミン酸及び酵素デヒドロゲナーゼ及びβ−ニコチンアミドアデニンジヌクレトチドホスフェート(NADP)を含有する組成物
乾燥条件下、窒素雰囲気において、ガラス容器に、DNI−Glu・TFA14.5mgを量り入れ、ついで、NADP1.8mg及び酵素グルタミン酸デヒドロゲナーゼ1単位(2.1μlグリセリン含有溶液)を、グリセリンを含有する溶液が、DNI−Glu・TFAと全く触れないか又は触れたとしても極めてわずかに触れるのみであるようにガラスの壁の上に層を形成するように添加した。窒素下において、容器を閉じた。組成物を冷凍庫で保存した。生成物をこのような形で使用した。
【実施例10】
【0079】
2−アミノ−1−(4’−ジメチルアミノ−イソブトキシ−5’,7’−ジニトロ−2’,3’−ジヒドロ−インドール−1’−イル)−5−オキソ−ペンタン酸の2トリフルオロ酢酸塩(iDMBO−DNI−Glu・2TFA)の調製法
トルエン及びメタノールの3:1混合物160mlに、ナトリウムメチレート18.9g(225ミリモル)を溶解し、ついで、この溶液に、60℃において、4−ヒドロインドール20g(15ミリモル)のトルエン及びメタノールの3:2混合物(200ml)溶液を1滴ずつ添加し、混合物を、この温度において、30分間撹拌した。ついで、この溶液に、60℃において、ジメトル−アミノ−イソブチル−クロリド50g(375ミリモル)の50%キシレン溶液を1滴ずつ添加し、この温度において、さらに25時間撹拌した。この間に、原料化合物が完全に転化した。混合物を15℃に冷却し、ついで、反応混合物に、酢酸エチル300mlを添加し、ついで、混合物を、Perliteを介して濾過した。溶液を飽和炭酸水素ナトリウム溶液にて抽出し、分離に続いて、水150mlにて3回抽出し、硫酸マグネシウムにて乾燥し、蒸発させた。このようにして得られた生成物は、淡褐色結晶(iDMBO−インドール)24.7g(86%)であった。
上記反応工程において得られたiDMBO−インドール24g(103.9ミリモル)を酢酸エチル130mlに溶解し、ついで、温度10℃において、シアノ水素化ホウ素ナトリウム6.46g(103.9ミリモル)を少量ずつ添加し、さらに3時間反応させた。反応の完了を、薄層クロマトグラフィー(TLC)にてチェックした。原料化合物の消失後、撹拌下にて、反応混合物を10℃に冷却した。混合物のpHを、20%水酸化ナトリウム溶液300mlの添加によって、pH8に調整し、ついで混合物をジクロロメタン150mlにて3回抽出し、硫酸マグネシウムにて乾燥し、濾過し、蒸発させた。
このようにして得られた淡褐色のオイル19.2gは、4−ジメチルアミノ−イソブトキシ−2,3−ジヒドロ−インドール(iDMBO−インドリン)であった。
酢酸エチル60mlに、BOC−Glu−(OH)−OtBu7.28g(24ミリモル)を溶解し、混合物に、ジイソプロピル−エチルアミン4.3mlを添加し、15℃に冷却し、N−エチル−ジメチル−アミノ−プロピル−カルボジイミド4ml(22ミリモル)を添加した。反応混合物を20℃に加温させ、この溶液に、iDMBO−インドリン5.0g(21.0ミリモル)の酢酸エチル(60ml)溶液を1滴ずつ添加した。添加に続いて、反応の完了(HPLCにてチェック)後、反応混合物を20℃において1時間撹拌した。混合物を10℃に冷却し、混合物のpHを、1M塩酸30mlの添加によって、pH4に調整し、ついで、混合物を分離し、有機相を飽和炭酸水素ナトリウム溶液15mlにて洗浄してpH8とし、分離した。有機相を硫酸マグネシウムにて乾燥し、濾過し、蒸発させた。
得られた生成物は淡褐色の油性結晶(iDMBO−I−BOC−Glu)10.5gであった。
アセトニトリル50mlに、iDMPO−I−BOC−Glu5g(9.62ミリモル)を溶解し、ついで、10℃において、ニトロニウムテトラフルオロボラート3.8g(28.8モル)を添加した。混合物を、26℃において、さらに17時間撹拌し、さらに、ニトロニウムテトラフルオロボラート0.69g(0.00481モル)を添加して、反応を完了させた。このようにして、反応が完全に終了した。反応混合物に、炭酸水素ナトリウム9.87g及びアセトニトリル50mlを添加し、硫酸マグネシウムにて乾燥し、蒸発させた。生成物をHPLCにて精製した。使用した溶離剤は、生成物のトリフルオロ酢酸塩の形成を確かなものとするために、トリフルオロ酢酸を含有するものであり、精製後、iDMBO−DNI−Glu・2TFA0.6gが得られた。
H−NMR(iDMBO−DNI−Glu・2TFA)
【表8】
【実施例11】
【0080】
2−アミノ−1−(4’−ジメチルアミノ−イソプロポキシ−5’,7’−ジニトロ−2’,3’−ジヒドロ−インドール−1’−イル)−5−オキソ−ペンタン酸の2トリフルオロ酢酸塩(iDMPO−DNI−Glu・2TFA)の調製法
使用した方法は、iDMBO−DNI−Glu・2TFAの調製と類似であり、原料物質として、4−ヒドロキシ−インドールを使用した。アルキル化反応のために、ジメチルアミノ−イソプロピルクロリドを使用した。得られた黄色のオイル生成物81mgは、2−アミノ−1−(4’−ジメチルアミノ−イソプロポキシ−5’,7’−ジニトロ−2’,3’−ジヒドロ−インドール−1’−イル)−5−オキソ−ペンタン酸の2トリフルオロ酢酸塩(iDMPO−DNI−Glu・2TFA)であった。
【表9】
【実施例12】
【0081】
4−アミノ−1−(4’−ジメチルアミノ−イソブトキシ−5’,7’−ジニトロ−2’,3’−ジヒドロ−インドール−1’−イル)−1−オキソ−ブタンの2トリフルオロ酢酸塩(iDMBO−DNI−GABA・2TFA)の調製法
使用した方法は、iDMBO−DNI−Glu・2TFAの調製と類似の方法である。カップリングのために、ジメチルアミノ−イソブチルクロリドを使用した。得られた黄〜褐色のオイル90mgは、4−アミノ−1−(4’−ジメチルアミノ−エトキシ−5’,7’−ジニトロ−2’,3’−ジヒドロ−インドール−1’−イル)−1−オキソ−ブタンのトリフルオロ酢酸塩(iDMBO−DNI−GABA・2TFA)であった。
H−NMR(iDMBO−DNI−GABA・2TFA)
【表10】
【実施例13】
【0082】
2−アミノ−1−(4’−ジメチルアミノ−エトキシ−5’,7’−ジニトロ−2’,3’−ジヒドロ−インドール−1’−イル)−1−オキソ−エタンの2トリフルオロ酢酸塩(iDMBO−DNI−Gly・2TFA)の調製法
使用した方法は、iDMBO−DNI−Glu・2TFAの調製と類似の方法である。カップリングのために、N−3級ブチトキシ−2−アミノ酢酸(BOC−GLYCIN)を使用した。得られた黄色のオイル1.3gは、2−アミノ−1−(4’−ジメチルアミノ−エトキシ−5’,7’−ジニトロ−2’,3’−ジヒドロ−インドール−1’−イル)−1−オキソ−エタンのトリフルオロ酢酸塩(iDMBO−DNI−Gly・2TFA)であった。
H−NMR(iDMBO−DNI−Gly・2TFA):
【表11】
【実施例14】
【0083】
4−アミノ−1−(4’−ブロモ−5’,7’−ジニトロ−2’,3’−ジヒドロ−インドール−1’−イル)−1−オキソ−ブタンのトリフルオロ酢酸塩(Br−DNI−GABA・TFA)の調製法
使用した方法は、iDMBO−DNI−Glu・2TFAの調製と類似の方法であり、原料物資として、4−ブロモ−インドールを使用した。得られた黄色の結晶130mgは、4−アミノ−1−(4’−ブロモ−5’,7’−ジニトロ−2’,3’−ジヒドロ−インドール−1’−イル)−1−オキソ−ブタンのトリフルオロ酢酸塩(Br−DNI−GABA・TFA)であった。
H−NMR(Br−DNI−GABA・TFA):
【表12】
Br−DNI−GABA MSスペクトル:
【表13】
【実施例15】
【0084】
L−グルタミン酸デヒドロゲナーゼ及びβ−ニコチンアミドアデニンジヌクレトチドホスフェートを含有する組成物を使用する、DNI−Glu・TFAの自発的加水分解から形成されるグルタミン酸の無効化
実施例9による組成物を、ACSF溶液12mlに、実施例8に基づいて算定した量で溶解した。得られた溶液は、1光子又は2光子励起テストにおいて直接使用される。
【実施例16】
【0085】
2光子照射テスト:
生物学的サンプルに関する2光子照射テストにおけるMNI−Glu・TFA及びDNI−Glu・TFAの使用(参考例)
切片標本及び電気生理学的テストの環境:
イソフルラン麻酔、続く迅速な断頭によって、16〜20日齢のWistarラットから、海馬の急性切片を調製した。方法は、Hungarian Act of Animal Care and Experimentation(1998,XXVIII,section 243)に従うものである。脳の冠状切片(300μm)を、ビブラトームによって切り出し、室温において、人工脳脊髄液(ACSF)中で保存した。ACSFの組成は上述のとおりである。
網状分子層の境界付近のCA1領域における海馬ニューロンを、900nm赤外線傾斜照明を使用して可視化した。32℃において、125 K−グルコネート、20 KCl、10 HEPES、10 ジTris−塩 ホスホクレアチン、0.3 Na−GTP、4 Mg−ATP、10 NaCl、0.06 Orenge Green BAPTA−1(OGB−1)及びビオシチンが充填された(各数値は、単位mMである)ガラス電極(6〜9MΩ)により、電流固定記録を行った(MultiClamp 700B、Digidata 1440;Molecular Devices、サニーベール、カルフォルニア、米国)。−50mVよりも負の静止膜電位を持つ細胞が受容された。記録された細胞を、その電気生理学的特性に従って、非錐体(nonpyramidal)細胞として分類された。
2光子結像
フェムト秒レーザー(830〜850nm)(Mai Tai HP,SpectraPhysics、マウンテンビュー、カリフォルニア)を使用する2光子レーザー−走査システム(Femto2D、Femtonics Ltd.、ブダペスト)においてホールセル構成を達成した後、15〜20分で、2光子結像が開始した。長い樹状突起セグメントを結像するために、マルチラインスキャニング法(Femtonics)を使用した。各実験の終了時、撮像したニューロンを包含するボリュームの奥行きを横切る一連の画像を測定コントロールとし、リアルタイムデータの獲得及び分析を、MATLAB系プログラム(MES、Femtonics Ltd.、ブダペスト)及びユーザーによって作られたソフトウエアによって行った。
2光子ケージ解除化
a)ホールセルモードに達し、介在ニューロンを60μMOGB−1で充満させた後、浴溶液を、MNI−Glu−TFA(2.5mM、Tocris)を含有するACSFに取り換えた。MNI−Glu−TFAの光分解を、710〜830nm超高速パルス化レーザー光(Mai Tai HP,SpectraPhysics、マウンテンビュー、カリフォルニア)によって行った。ケージ解除化レーザービームの強さを、電気光学変調器(モデル350−80LA、Conoptics)によって制御した。分散補償を、ケージ解除化の深さ(表面から50〜80μm)で最大応答が得られるようにセットした。ケージ解除化レーザービームを、ダイクロイックミラー(カスタムレーザーコンバイナ、z750bcm;Chroma Technology Corp.、ロッキンガム、米国)にて、結像光学経路に結合させた。色収差を焦点面で補正した。半径方向及び軸方向のビーム(結像及び光化学的刺激)の調整誤差を、それぞれ、100nm及び300nm以下に維持した。結像の間に、2光子グルタメートケージ解除化期間(この間に、ガルバノメーターは最大15〜25の選択された位置にジャンプした(<60μ秒ジャンプ時間)が、その後、3D又は2D軌道に戻った)をさしはさんだ。ケージ解除化サイトの位置を、取得したバックグラウンド画像に従って、微細に調整した。ケージドグルタメートの光分解を、樹状突起に沿って、「クラスター化」(インプット間の距離0.8±0.1μm)パターンで行った。シングルスポットケージ解除化時間及びレーザー強度を、細胞体から同様の距離において高浸透圧性外液の局所適用によって誘発されるuEPSP及びmEPSPを再現するようにセットした(振幅;集合形gluEPSP:0.56±0.09mV、mEPSPs:0.58±0.1、uEPSP:0.55±0.12;露出時間0.2〜0.5m秒/インプット)。マッピングの間のサンプルの小さいドリフト(0.1〜0.2μm程度)を、規則通りに取得したバックグラウンド画像に従って手動で補正した。
b)テスト後、続くテストにおいて使用する2.5mMDNI−Glu−TFAを含有するACSFの交換速度を増大させるため、潅流速度を10ml/分にセットした。同一の樹状突起セクションについて同一の装置セッティングでテストを繰り返した。
【実施例17】
【0086】
電圧固定テストにおけるケージド化合物及び酵素の添加による自発的活動性の変化
A.)実施例16による2光子励起法のテストセットアップを使用することによって、観察する細胞の電位変化を測定した。
実験の開始時に、DNI−Gluの不存在下で、電位変化のコントロールレベル(EPSP)を測定した。測定した変動を図1Aに示す。テストに続いて、測定細胞にDNI−Glu(2.5mM)を添加した。測定した変動を図1Bに示す。ついで、酵素L−グルタミン酸デヒドロゲナーゼ0.1〜0.2単位/ml及びNADP(β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート)200μMを添加した。測定した変動を図1Cに示す。これらの図は、自発的応答の頻度がコントロールレベルに復されたことを示している。
B.)上記A.)に記載の実験を、各ケースにおいて他の細胞を使用して、8回繰り返し実施した。柱状図表は左側にみられる。コントロールレベルの平均を欄a.)に示す。ケージド化合物による変化の平均を欄b.)に、酵素の添加後の平均を欄c.)に示す。
テストの結果:
【表14】
酵素の添加によって、電位変動の頻度がコントロールレベルに低減され、このようにして、1光子又は多光子、好ましくは、2光子実験におけるバックグラウンドノイズが低減されるとの事実により、実験が、より高い精度及び再現性で実行され、細胞死のリスクも低減する。
【実施例18】
【0087】
ケージド化合物の自発的加水分解によって形成されるアミノ酸を無効にする試薬の存在下での生物学的サンプルについての2光子実験におけるMNI−Glu・TFA及びDNI−Glu・TFAの使用
実施例16に従い、ただし、サンプルチャンバーにおいて、第1の測定では、MNI−Glu・TFA2.5mMを含有するACSF溶液に、第2の測定では、DNI−Glu・TFA2.5mMを含有するACSF溶液に、L−グルタミン酸デヒドロゲナーゼ0.1〜0.2単位/ml及びβ−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート200μMを添加して、実験を行った。
実験を数回繰り返し行った。結果を図2に示す。実験によれば、興奮性シナプス後電位(EPSP)は、MNI−Gluを使用する場合よりも、DNI−Gluを使用する場合に有意に高い。これらの結果を図2Aに示す。図において、水平スケールバーは単位時間50m秒を意味し、垂直スケールバーは電圧2mVを意味する。図2Bは、Ca2+過渡信号も、照射の応答として、MNI−Gluを使用する場合よりも、DNI−Gluを使用する場合に有意に高いことを示している。
【実施例19】
【0088】
ケージド化合物の自発的加水分解によって形成されるアミノ酸を無効にする試薬の存在下での生物学的サンプルについての2光子実験におけるMNI−Glu・TFA及びDNI−Glu・TFAの使用
実施例16に従い、ただし、下記の変更を加えて実験を行った:パッチクランプ後、潅流溶液を、MNI−Glu・TFA2.5mMを含有するACSF溶液及び、又は第2の測定についてDNI−Glu・TFA2.5mM、L−グルタミン酸デヒドロゲナーゼ0.1〜0.2単位/ml及びβ−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェートを含有するACSF溶液に変更した。実験の間、β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェートを濃度50〜100μMに保った。全ての化学剤(ケージド化合物、デヒドロゲナーゼ、NADP)を浴に適用した。
【実施例20】
【0089】
ケージド化合物の自発的加水分解によって形成されるアミノ酸を無効にする試薬存在下におけるiDMPO−DNI−グルタミン酸及びiDMBO−DNI−グルタミン酸の効果の実験
実施例16に従い、ただし、セルに、カルシウム感受性染料(Fluo4)及び解剖学用染料(ALEXA594)を充填して、実験を行った。実施例16に従い、ただし、下記の変更を加えて実験を行った:パッチクランプ後、潅流溶液を、iDMPO−DNI−グルタミン酸・2TFA2.5mMを含有するACSF溶液及び、又は第2の測定についてiDMBO−DNI−グルタミン酸・2TFA2.5mM、L−グルタミン酸デヒドロゲナーゼ0.1〜0.2単位/ml及びβ−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェートを含有するACSF溶液に変更した。実験の間、β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェートを濃度50〜100μMに保った。全ての化学剤(ケージド化合物、デヒドロゲナーゼ、NADP)を浴に適用した。実験の間、dHOの蒸発損失を常時補充した。
実験の結果を図4に以下のように示す:
(A)2光子最大強度を、海馬の錐体細胞の投影顕微鏡画像に刺した。細胞にカルシウム感受性染料(Fluo4)及び解剖学用染料(ALEXA594)を充填した。白色のフレームは、パネル(C)において拡大する測定区域を示す。Bは、体細胞的に誘発され、導かれた長さ500m秒−電流インジェクション100.0及び125pAに関する錐体細胞の代表的な細胞応答を示している。波形は、刺激によっては、必ずしも有意に変化せず、毒性は検知されなかった。パネル(C)は、錐体細胞の樹状突起の2光子顕微鏡画像である。白色の点は、光化学刺激(波長740nm)の局在を表す。赤色の線は、カルシウムの濃度が測定されたカルシウム結像の区域(D)(カルシウムの変化(左)及び体細胞的に記録されたEPSP(右)は、iDMPO−DNI−Glu・TFA(2.5mM)の存在を伴う2光子刺激によって引き起こされたものである)を表す。パネル(E)は、iDMBO−DNI−Glu・TFA(2.5mM)の存在下におけるパネル(D)と同様のグラフである。黒色の矢先マークは、刺激の時点を表す。結果を、樹状突起において(より平らな曲線)だけでなく、樹状突起棘において(より鋭い曲線)も検知し、刺激の精度を示す。カルシウム信号は、初めに、樹状突起棘(グルタメート受容体が主に局在する)において現れ、ついで、より小さい大きさで樹状突起に拡張し、これは、刺激の局在化及び感受性を示す。
図1
図2
図3
図4
図5