特許第6152502号(P6152502)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6152502
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】フラーレン誘導体および潤滑剤
(51)【国際特許分類】
   C07D 209/70 20060101AFI20170612BHJP
   C07D 487/08 20060101ALI20170612BHJP
   C07D 487/22 20060101ALI20170612BHJP
   C07D 487/18 20060101ALI20170612BHJP
   C10M 147/04 20060101ALI20170612BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20170612BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20170612BHJP
   C10N 40/18 20060101ALN20170612BHJP
【FI】
   C07D209/70CSP
   C07D487/08
   C07D487/22
   C07D487/18
   C10M147/04
   C10M169/04
   C10N30:06
   C10N40:18
【請求項の数】8
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2017-506933(P2017-506933)
(86)(22)【出願日】2016年6月28日
(86)【国際出願番号】JP2016069159
(87)【国際公開番号】WO2017006812
(87)【国際公開日】20170112
【審査請求日】2017年2月7日
(31)【優先権主張番号】特願2015-134576(P2015-134576)
(32)【優先日】2015年7月3日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 威史
(72)【発明者】
【氏名】上田 祥之
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 賢太郎
【審査官】 伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−131874(JP,A)
【文献】 特開2011−121886(JP,A)
【文献】 特開2011−140480(JP,A)
【文献】 特開2013−140923(JP,A)
【文献】 特開2015−013844(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0162044(US,A1)
【文献】 SHIBATA, N. et al.,Trifluoroethoxy-Coating Improves the Axial Ligand Substitution of Subphthalocyanine,Chemistry A European Journal,2010年,Vol. 16, No. 25,pp. 7554-7562
【文献】 NAKANISHI, T. et al.,Superstructures and superhydrophobic property in hierarchical organized architectures of fullerenes,Journal of Materials Chemistry,2010年,Vol. 20, No. 7,pp. 1253-1260
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C10M
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中に、フラーレン骨格と、該フラーレン骨格に3位および4位で縮合したn個のピロリジン環とを有し、
該ピロリジン環は、m個のパーフルオロポリエーテル鎖を有するアリール基を1個有し、
mは2〜5の整数であり、nは1〜5の整数であり、
前記パーフルオロポリエーテル鎖が、
−(CFO−(ただし、式中xは1〜5の整数である。)
から選ばれる少なくとも一つの部分構造を有するフラーレン誘導体。
【請求項2】
前記フラーレン誘導体が下記一般式(1)で表される化合物である、請求項1に記載のフラーレン誘導体。
(式中、FLNはフラーレン骨格であり、Aはパーフルオロポリエーテル鎖であり、Rは水素原子または炭素数24以下の炭化水素基である。)
【化1】
【請求項3】
前記Rが炭素数24以下のアルキル基またはアリール基である請求項2に記載のフラーレン誘導体。
【請求項4】
前記フラーレン骨格がC60である請求項1〜3のいずれか一項に記載のフラーレン誘導体。
【請求項5】
前記パーフルオロポリエーテル鎖が
−(CFCFO)(CFO)
で表される部分構造を有する請求項1〜4のいずれか一項に記載のフラーレン誘導体。
(ただし、式中yおよびzは、1〜50の整数である。)
【請求項6】
前記パーフルオロポリエーテル鎖が、直鎖である請求項1〜のいずれか一項に記載のフラーレン誘導体。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか一項に記載のフラーレン誘導体を含有する潤滑剤。
【請求項8】
フラーレン骨格を有しないパーフルオロポリエーテル化合物をさらに含有する請求項に記載の潤滑剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーフルオロポリエーテル(PFPE)鎖を有するフラーレン誘導体及び該フラーレン誘導体を含む潤滑剤に関する。
【背景技術】
【0002】
パーフルオロポリエーテル化合物は、耐熱性、耐薬品性、耐酸化性に優れるほか、粘度指数が大きいため、低温から高温まで広い温度領域で流動性(粘度)の変化が少なく、良好な潤滑性を発揮する。また、不燃性でゴム・プラスチックなどの高分子系素材への影響も殆ど無く、低い蒸気圧と蒸発損失の少なさ、低表面張力、高電気絶縁性といった特性も有し、潤滑剤として極めて広範囲にわたり高いパフォーマンスを示すことが、知られており、潤滑油として真空ポンプ油や磁気ディスク/テープなどの潤滑、熱媒体、非粘着剤その他の用途で幅広く利用されている。
【0003】
一方、フラーレンの一種であるC60は潤滑剤として有用であることが知られている。非特許文献1(Bhushan et al. :Appl. Phys. Lett. 62, 3253 (1993))では、C60の蒸着膜を形成したシリコン基板で、摩擦係数の低下を確認している。また、非特許文献1にはフラーレンにパーフルオロポリエーテル基を導入したフラーレン誘導体も提案されているが、具体的な化合物やその製造方法に関する記載は無い。
【0004】
さらにC60は従来の潤滑油への添加剤として優れた特性を示すことが知られている。非特許文献2(Ginzburget et al. :Russian Journal of Applied Chemistry 75, 1330 (2002))では、潤滑オイルに、C60を添加した場合には、添加しない場合と比較して耐摩耗性が向上することを確認している。
【0005】
特許文献1(特開2006−131874号)には、C60、カルボキシル基を有するC60誘導体、水酸化フラーレンまたはエステル基を有するフラーレン誘導体と、パーフルオロポリエーテルとの混合物からなる潤滑剤が記載されている。
【0006】
また特許文献2(特開2011−140480号)、特許文献3(特開2013−140923号)および特許文献4(特開2013−170137号)には、n型半導体材料として分子中にパーフルオロポリエーテル鎖を1個有するフラーレン誘導体が記載されているが、潤滑剤用途は記載されていない。
【0007】
また特許文献5(特許第5600202号)、および特許文献6(特許第5600222号)には、フラーレンに縮合したシクロプロパン環1個につき1個のパーフルオロポリエーテル鎖が付与された誘導体からなる潤滑剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−131874号公報
【特許文献2】特開2011−140480号公報
【特許文献3】特開2013−140923号公報
【特許文献4】特開2013−170137号公報
【特許文献5】特許第5600202号公報
【特許文献6】特許第5600222号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Appl. Phys. Lett. 62, 3253 (1993)
【非特許文献2】Russian Journal of Applied Chemistry 75, 1330 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
フラーレン骨格を有する化合物を潤滑剤として用いる場合、フラーレン自身が凝集することにより、良好な分散性が得られず、対象物に十分な耐摩耗性を付与できないという問題がある。また、特許文献1では潤滑剤がフラーレンまたはフラーレン誘導体と、パーフルオロポリエーテルとの混合物であるために親和性が十分では無く、凝集しやすいという問題がある。そのため、フラーレンおよびフラーレン誘導体と、パーフルオロポリエーテルとを同時に潤滑剤として使用した際に、対象物に十分な耐摩耗性を付与できないという問題があった。
【0011】
特許文献5、および特許文献6では前項の問題を解決するために、分子中にフラーレン骨格およびパーフルオロポリエーテル鎖を有するフラーレン誘導体が提案されている。記載されているフラーレン誘導体はフラーレン骨格に縮合したシクロプロパン環を介して、シクロプロパン環1個当たり1個のパーフルオロポリエーテル鎖を導入した分子である。パーフルオロポリエーテル鎖は潤滑剤を塗布する際に用いられるフッ素系溶媒への溶解性に寄与し、さらに潤滑性そのものに寄与する部位であるため、これらの特許文献に記載されているフラーレン誘導体は溶解性に乏しく、パーフルオロポリエーテル化合物からなる潤滑剤を塗布する際に用いられるフッ素系溶媒の一種であるパーフルオロアルカン(例えばテトラデカフルオロヘキサン)に溶解しにくいという問題があった。加えて、これらの特許文献に記載されているフラーレン誘導体は流動性に乏しいため、潤滑面に物体が繰り返し接触することにより、潤滑面の平滑性が損なわれ、潤滑性が低下するという問題があった。
【0012】
本発明は、上記のような事情を鑑みてなされたものであり、上記課題を解決するフラーレン誘導体、及びその用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明は以下に示す構成を含むものである。
[1]分子中に、フラーレン骨格と、該フラーレン骨格に3位および4位で縮合したn個のピロリジン環とを有し、
該ピロリジン環は、m個のパーフルオロポリエーテル鎖を有するアリール基を1個有し、
mは2〜5の整数であり、nは1〜5の整数であり、
前記パーフルオロポリエーテル鎖が、
−(CFO−(ただし、式中xは1〜5の整数である。)
から選ばれる少なくとも一つの部分構造を有するフラーレン誘導体。
[2]前記フラーレン誘導体が下記一般式(1)で表される化合物である、前項[1]に記載のフラーレン誘導体。
(式中、FLNはフラーレン骨格であり、Aはパーフルオロポリエーテル鎖であり、Rは水素原子または炭素数24以下の炭化水素基である。)
【0014】
【化1】

[3]前記Rが炭素数24以下のアルキル基またはアリール基である前項[2]に記載のフラーレン誘導体。
[4]前記フラーレン骨格がC60である前項[1]〜[3]のいずれか一項に記載のフラーレン誘導体。
[]前記パーフルオロポリエーテル鎖が、−(CFCFO)(CFO)−で表される部分構造を有する前項[1]〜[4]のいずれか一項に記載のフラーレン誘導体。(ただし、式中yおよびzは、1〜50の整数である。)
[]前記パーフルオロポリエーテル鎖が、直鎖である前項[1]〜[]のいずれか一項に記載のフラーレン誘導体。
[]前項[1]〜[]のいずれか一項に記載のフラーレン誘導体を含有する潤滑剤。
[]フラーレン骨格を有しないパーフルオロポリエーテル化合物をさらに含有する前項[]に記載の潤滑剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明のフラーレン誘導体は、パーフルオロアルカンなどの多様なフッ素系溶媒にも可溶である。また、潤滑剤層へ物体が繰り返し接触した際に潤滑層表面の平滑性が保持されやすい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例における塗布膜分布の状態を示す図である。
図2】実施例における塗布膜分布の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態についてその構成を説明する。本発明は、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0018】
本発明のフラーレン誘導体は、分子中に、フラーレン骨格と、該フラーレン骨格に縮合したn個のピロリジン環とを有し、該ピロリジン環はm個のパーフルオロポリエーテル鎖を含む基を有するアリール基を1個有し、mは2〜5の整数であり、nは1〜5の整数である。
【0019】
また、前記アリール基は、2〜5個、好ましくは2〜3個のパーフルオロポリエーテル鎖を含む基を有する。当該範囲であれば、分子内におけるフラーレン部位に対するパーフルオロポリエーテル鎖部位の割合が適度になると考えられ、本発明のフラーレン誘導体を用いた潤滑剤の潤滑性を高めやすく、潤滑剤層の平滑性を維持しやすい。
【0020】
また、前記パーフルオロポリエーテル鎖は、−(CFO−(ただし、式中xは1〜5の整数)から選ばれる少なくとも一つの部分構造を有することが好ましい。パーフルオロポリエーテル鎖がこれらの部分構造を有することで、当該部分構造を有さない化合物に対し、フッ素系の溶媒に対する溶解性が増し、その結果、被塗布面表面により均一に塗布することが可能になる。また、数あるパーフルオロポリエーテル鎖の中でも、xが1〜3となるパーフルオロポリエーテル鎖は、工業的に製造されており、容易に入手することができ、産業上利用しやすい。
【0021】
さらに、前記パーフルオロポリエーテル鎖が、−(CFCFO)(CFO)−で表される部分構造を有することがより好ましい。ここでy及びzは1〜50の整数である。また、−(CFCFO)(CFO)−で表される部分構造の式量は500から6000の範囲内であることが好ましく、600から3000の範囲内であることがより好ましい。前記構造を有すると、潤滑性やフッ素系溶媒への溶解性が向上する。
【0022】
なお、−(CFO−、または−(CFCFO)(CFO)−で表される部分構造の何れの方向にフラーレンが結合してもよい。
【0023】
前記パーフルオロポリエーテル鎖を含む基の、パーフルオロポリエーテル鎖以外の部分の構造は特に限定されないが、アリール基とパーフルオロポリエーテル鎖との連結部の構造としては、例えば、エーテル結合やエステル結合を含む構造が挙げられる。また、パーフルオロポリエーテル鎖を含む基の末端部の構造としては、例えば、トリフルオロメチル基やパーフルオロブチル基などのパーフルオロアルキル基、メチル基やブチル基などのアルキル基、フェニル基やナフチル基などのアリール基、ベンジル基やフェニルプロピル基などのアラルキル基、またはベンゾイル基やナフトイル基などのアリーロイル基を含む構造が挙げられ、その中でもパーフルオロアルキル基またはアリール基を末端に含む構造が好ましく、特に前者ならばパーフルオロブチル基、後者ならばフェニル基、ナフチル基、ベンゾイル基またはナフトイル基が好ましい。
【0024】
前記パーフルオロポリエーテル鎖を含む基が結合するアリール基は特に限定されないが、例えば、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基、チエニル基、フリル基が挙げられ、その中でもフェニル基であることが好ましい。
【0025】
本発明のフラーレン誘導体中のフラーレン骨格としては、例えば、C60、C70、C76、C78、さらに高次のフラーレンなどが挙げられるが、中でもC60が好ましい。C60は他のフラーレンよりも純度の高いものを工業的に容易に得ることができるため、原料となるC60から誘導される該フラーレン誘導体の純度を高くすることができ、前記潤滑性や前記平滑性を良好にすることができる。
【0026】
前記フラーレン誘導体の具体例としては、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0027】
【化2】
(式中、FLNはフラーレン骨格であり、Aはパーフルオロポリエーテル鎖を含む基であり、Rは水素原子または炭素数24以下の炭化水素基である。)
前記一般式(1)におけるRは水素原子または炭素数1〜24の炭化水素基であり、炭化水素基としては、例えば、メチル基やエチル基などのアルキル基、フェニル基やナフチル基などのアリール基、ベンジル基やフェニルプロピル基などのアラルキル基が挙げられ、その中でもアルキル基またはアリール基であることが好ましく、メチル基またはフェニル基であることが特に好ましい。
(潤滑剤)
本発明の潤滑剤は、本発明のフラーレン誘導体を含有する。該潤滑剤は、本発明のフラーレン誘導体を単独で用いても良いし、本発明のフラーレン誘導体に加えて、フラーレン骨格を有しないパーフルオロポリエーテル化合物を同時に含有しても良い。フラーレン骨格を有しないパーフルオロポリエーテル化合物としては、特に限定されないが、例えば、従来から潤滑剤として知られているパーフルオロポリエーテル化合物が使用できる。このような化合物としては、例えば、フォンブリン(登録商標)シリーズ(ソルベイスペシャルティポリマーズ社製)などが挙げられる。
【0028】
本発明のフラーレン誘導体は、分子中にパーフルオロポリエーテル鎖を有するため、パーフルオロポリエーテル化合物との親和性が高い。そのため、潤滑剤が本発明のフラーレン誘導体とフラーレン骨格を有しないパーフルオロポリエーテル化合物とを同時に含有する場合でも本発明のフラーレン誘導体は潤滑剤中に均一に分散または溶解することができる。
【0029】
また、潤滑剤が本発明のフラーレン誘導体とフラーレン骨格を有しないパーフルオロポリエーテル化合物とを同時に含有する場合、潤滑剤中における本発明のフラーレン誘導体の含有量は、塗布表面へのより良好な吸着性を発現するために、0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが特に好ましい。
(本発明のフラーレン誘導体の製造方法)
本発明のフラーレン誘導体は、例えば下記に挙げる2種類の合成法に従って製造することができる。
【0030】
一般式(1)で表されるフラーレン誘導体は、例えば、フラーレンとR−NH−CH−COOH(Rは水素原子または炭素数1〜24の炭化水素基であり、一般式(1)と同一のもの)で表されるアミノ酸、および下記一般式(2)で表されるベンズアルデヒド誘導体(式中、Aはパーフルオロポリエーテル鎖を有する基であり、mは2〜5の整数であり、一般式(1)と同一のもの)を出発物質とする付加反応によって得ることができる。
【0031】
【化3】
当該反応は、溶媒中で行うことができる。溶媒としては、フラーレン、R−NH−CH−COOHで表されるアミノ酸、および一般式(2)で表されるベンズアルデヒド誘導体を溶解させる溶媒であれば特に制限はない。例えば、トルエン、キシレンまたはオルトジクロロベンゼンなどのフラーレンを溶解させることのできる芳香族系溶媒と、ヘキサフルオロベンゼン、AK―225(旭硝子社製)またはヘキサフルオロテトラクロロブタンなどのフッ素系溶媒との混合溶媒を挙げることができる。
【0032】
当該反応は、不活性ガス雰囲気中で加熱攪拌しながら行うことが好ましい。不活性ガス雰囲気中で行うことで、副生成物の生成を抑えることができる。また加熱は40℃以上200℃以下で行うことが好ましい。40℃以下で行うと、十分な反応速度が得られず、反応時間が長くなるため好ましくない。一方、200℃以上で行うと、副反応が進行し、収率が低下するため好ましくない。
【0033】
反応混合物は室温まで冷却した後、ロータリーエバポレーターによって反応溶媒を留去し、得られた混合物をAK―225などのフッ素系溶媒に溶解させ、濾過を行うことで未反応のフラーレンなどの不純物を除いた後に、再び溶媒留去を行うことにより粗生成物を得る。
【0034】
一般式(1)で表されるフラーレン誘導体は前記の方法に加えて、一般式(3)で表されるカルボン酸エステル構造を有するフラーレン誘導体(式中、Rは水素原子または炭素数1〜24の炭化水素基であり、一般式(1)と同一のもの。Rはメチル基またはエチル基、また、mは2〜5の整数であり、nは1〜5の整数であり、一般式(1)と同一のもの)を出発物質とするエステル交換反応によっても合成することが可能である。一般式(3)で表されるフラーレン誘導体は例えば、フラーレンとR−NH−CH−COOHで表されるアミノ酸、および一般式(4)で表されるエステル基を有するベンズアルデヒド誘導体(式中、Rはメチル基またはエチル基であり、mは2〜5の整数であり、一般式(3)と同一のもの)を出発物質とする付加反応によって得ることができる。
【0035】
【化4】
【0036】
【化5】
一般式(3)で表されるフラーレン誘導体に対する、酸触媒存在下パーフルオロポリエーテル構造をもつアルコールとのエステル交換反応によって一般式(1)で表されるフラーレン誘導体を得ることができる。当該反応において、酸触媒としては一般に知られている無機酸および有機酸を用いることができる。例えば、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などを挙げることができる。当該反応において、パーフルオロポリエーテル構造をもつアルコールとしては工業的に生産されている化合物を用いることができる。例えば、フォンブリン(登録商標)シリーズ(ソルベイスペシャルティポリマーズ社製)などを挙げることができる。
【0037】
当該反応は、溶媒中で行うことができる。溶媒としては、一般式(3)で表されるフラーレン誘導体および当該パーフルオロポリエーテル構造をもつアルコール誘導体を溶解させる溶媒であれば特に制限はない。例えば、トルエン、キシレンまたはオルトジクロロベンゼンなどのフラーレン誘導体を溶解させることのできる芳香族系溶媒と、ヘキサフルオロベンゼン、AK―225(旭硝子社製)またはヘキサフルオロテトラクロロブタンなどのフッ素系溶媒との混合溶媒を挙げることができる。
【0038】
当該反応は、不活性ガス雰囲気中で加熱攪拌しながら行うことが好ましい。不活性ガス雰囲気中で行うことで、副生成物の生成を抑えることができる。また反応は、モレキュラーシーブスが入ったガラス繊維製円筒濾紙を備え付けたソックスレー抽出器を取り付け、使用する溶媒の沸点を超える温度まで加熱し、溶媒を還流しながら行うことが好ましい。このような方法で副生するメタノールまたはエタノールを反応系中から除去することで、エステル交換反応を効率的に進行させることができる。
【0039】
反応混合物を室温まで冷却し、適宜中和した後、ロータリーエバポレーターによって反応溶媒を留去し、得られた混合物をAK―225などのフッ素系溶媒に溶解させ、濾過を行うことで未反応のフラーレンまたはフラーレン誘導体などの不純物を除いた後に、再び溶媒留去を行うことにより粗生成物を得る。
【0040】
上記の2種類の方法で得られた粗生成物はいずれもこのままでも潤滑剤として使用することが可能である。より高い純度が必要とされる場合には、例えば、粗生成物をさらに二酸化炭素超臨界流体抽出により精製することができる。すなわち、この粗生成物を圧力容器内にいれ、容器内の圧力及び温度を保ちながら、液化二酸化炭素を容器内に流入することで二酸化炭素を超臨界流体状態にし、目的の化合物を抽出により得ることができる。
【0041】
この容器内の温度は、31℃以上80℃以下が好ましい。この理由は31℃未満では二酸化炭素が超臨界状態にならず、80℃超では超臨界二酸化炭素の抽出力が弱くなるためである。またこの際の圧力は7.38MPa以上30MPa以下であることが好ましい。この理由は7.38MPa未満では二酸化炭素が超臨界状態にならず、30MPa超では装置の耐圧性能が要求されるために、装置価格が高くなり、その結果製造コストが高くなるためである。
【0042】
上記の方法で得られた、一般式(1)で表されるフラーレン誘導体のうち、Aで示さられるパーフルオロポリエーテル鎖を含む基の、フラーレン骨格が結合している方向とは反対側の末端部がヒドロキシ基、カルボキシ基などの変換可能な構造である場合は、当該フラーレン誘導体に対して既知の反応を行うことで構造変換を行うことができる。この変換反応の粗生成物はこのままでも潤滑剤として使用することが可能である。より高い純度が必要とされる場合には、例えば、粗生成物をさらに二酸化炭素超臨界流体抽出により精製することができる。
【0043】
本発明の潤滑剤は、例えば、磁気記録媒体(ハードディスク等)用の潤滑剤として使用することができる。潤滑剤を磁気記録媒体の表面に塗布する工程は特に限定されないが、例えばスピンコート法やディップ法などを用いることができる。ディップ法を用いて磁気記録媒体に潤滑剤を塗布する場合、例えばディップコート装置の浸漬槽に入れられた潤滑剤溶液中に磁気記録媒体を浸漬し、その後浸漬槽から磁気記録媒体を所定の速度で引き上げることにより、潤滑剤層を磁気記録媒体の表面に形成する方法を用いることができる。潤滑剤溶液は、前記フラーレン誘導体を含み、前記フラーレン誘導体の濃度は0.001質量%以上であることが好ましい。
【実施例】
【0044】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
(NMR分析)
H−NMRは下記の条件にて測定した。
【0045】
装置:日本電子製 JNM−EX270
試料調製:試料(約10mg〜30mg)をCDCl/ヘキサフルオロベンゼン混合溶媒(約0.5mL)に溶解させた後、直径5mmのNMR試料管に入れた。
【0046】
測定温度:室温
基準物質:溶媒に添加されたテトラメチルシランのシグナルを基準とした。
(潤滑剤層の膜厚測定)
潤滑剤層の膜厚は赤外吸収スペクトルのC−F結合の伸縮振動エネルギーに相当する吸収ピークの強度より求めた。それぞれの潤滑剤層について4点ずつ測定し、その平均値を膜厚とした。
【0047】
装置:Thermo Fisher Scientific社製 Nicolet iS50
測定方法:高感度反射法
(潤滑剤層の繰り返し摩擦時の平滑性評価)
潤滑剤層の繰り返し摩擦時の平滑性評価は、クボタ社製のSAFテスターを用いて行った。すなわち、潤滑剤を塗布したハードディスクを12000rpmで回転させながら、ヘッドをディスク表面の同一半径上の箇所へのロードおよび引き続くアンロードを1回/3秒の速度で20000回繰り返した後、光学顕微鏡でディスクの表面を観察し、ヘッドの通過痕の有無を確認した。
(潤滑剤塗布膜の光学表面検査における平滑性の評価)
光学表面検査機を用いて、表面の膜厚分布を観察した。
(合成例1)
【0048】
【数1】
化合物1(C1)の合成:
フッ素化トリエチレングリコールモノブチルエーテル(Exfluor社製、13g、24mmol)、ピリジン(2.3g、29mmol)をジクロロメタン(120mL)に加え、得られた溶液にトリフルオロメタンスルホン酸無水物(8.2g、29mmol)のジクロロメタン(120mL)溶液を滴下した。室温で16時間攪拌した後、反応混合物を純水(100mL)と飽和炭酸ナトリウム水溶液(100mL)で一度ずつ洗浄した。得られた有機層を濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮することで、フッ素化トリエチレングリコールモノブチルエーテルトリフルオロメタンスルホン酸エステル(化合物1)(15g、22mmol、収率92%)を淡黄色油状物質として得た。この粗生成物は精製を行わずに引き続く反応に使用した。
(合成例2)
【0049】
【数2】
化合物2(C2)の合成:
合成例1で得た化合物1(4.5g、6.6mmol)と2,4−ジヒドロキシベンズアルデヒド(0.41g、3.0mmol)とをN,N−ジメチルホルムアミド(30mL)に加え、得られた溶液に炭酸セシウム(2.9g、9.0mmol)を加えた。70℃で1時間攪拌した後、反応混合物を室温まで冷やし、ロータリーエバポレーターで濃縮した。得られた混合物を純水(30mL)とAK―225(30mL)を用いて分液し、さらに水層をAK―225(20mL)で二度抽出した。得られた有機層を水洗し、硫酸マグネシウムにより乾燥した。濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮することで、赤褐色油状の粗生成物(3.8g)を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン―酢酸エチル(9:1))で精製することで、2,4−ジアルコキシベンズアルデヒド(化合物2)を淡黄色油状物質(3.4g、2.8mmol、収率95%)として得た。
(合成例3)
【0050】
【数3】
化合物3(C3)の合成:
合成例2で得た化合物2(3.4g、2.8mmol)とN−メチルグリシン(2.2g、25mmol)とをヘキサフルオロテトラクロロブタン(30mL)に加え、得られた混合物にC60フラーレン(1.0g、1.4mol)のオルトジクロロベンゼン(60mL)溶液を速やかに加えた。ジムロート冷却管を取り付け、160℃に設定した湯浴で加熱し、3時間攪拌しながら還流した。室温まで冷やした反応混合物をロータリーエバポレーターで濃縮した後に、適量のAK―225に溶解させ濾過した。得られた溶液を純水(50mL)で洗浄し、硫酸マグネシウムにより乾燥した。濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮することで、黒色油状の粗生成物(4.0g)を得た。
【0051】
次に、入口および出口をもつ肉厚のステンレス容器(内径20mm×深さ200mm)に、粗生成物を入れ、容器内の温度を60℃に保ちながら、超臨界二酸化炭素送液ポンプ(日本分光製、PU2086−CO2)を用いて、超臨界二酸化炭素を液化二酸化炭素換算流量5mL/分を容器に送った。容器内の圧力を9〜12MPaの範囲で変化させ、フラーレン骨格上で3個以上のピロリジン環を形成した副生成物を抽出して除いた。その後圧力を20MPaに上げ、茶褐色固体(化合物3)3.4gを抽出した。この条件でピロリジン環を1個もつ誘導体は抽出されなかった。この固体は、下記に示したNMRの分析結果より、当該化合物であることが確認された。
【0052】
H−NMR δ(ppm):2.93(brs、6H)、4.44(br、14H)、6.52−6.66(m、2H)、6.69−6.85(m、4H)。
(合成例4)
【0053】
【数4】
化合物4(C4)の合成:
合成例1で得た化合物1(4.5g、6.6mmol)と2,5−ジヒドロキシベンズアルデヒド(0.41g、3.0mmol)とをN,N−ジメチルホルムアミド(30mL)に加え、得られた溶液に炭酸セシウム(2.9g、9.0mmol)を加えた。70度で1時間攪拌した後、反応混合物を室温まで冷やし、ロータリーエバポレーターで濃縮した。得られた混合物を純水(30mL)とAK―225(30mL)を用いて分液し、さらに水層をAK―225(20mL)で二度抽出した。得られた有機層を水洗し、硫酸マグネシウムにより乾燥した。濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮することで、赤褐色油状の粗生成物(3.1g)を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン―酢酸エチル(9:1))で精製することで、2,5−ジアルコキシベンズアルデヒド(化合物4)を淡黄色固体(2.3g、1.9mmol、収率65%)として得た。
(合成例5)
【0054】
【数5】
化合物5(C5)の合成:
合成例4で得た化合物4(2.3g、1.9mmol)とN−メチルグリシン(1.6g、18mmol)とをヘキサフルオロテトラクロロブタン(30mL)に加え、得られた混合物にC60フラーレン(0.75g、1.0mmol)のオルトジクロロベンゼン(60mL)溶液を速やかに加えた。ジムロート冷却管を取り付け、160℃に設定した湯浴で加熱し、3時間攪拌しながら還流した。室温まで冷やした反応混合物をロータリーエバポレーターで濃縮した後に、適量のAK―225に溶解させ濾過した。得られた溶液を純水(50mL)で洗浄し、硫酸マグネシウムにより乾燥した。濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮することで、黒色油状の粗生成物(1.8g)を得た。
【0055】
次に、入口および出口をもつ肉厚のステンレス容器(内径20mm×深さ200mm)に、粗生成物を入れ、容器内の温度を60℃に保ちながら、超臨界二酸化炭素送液ポンプ(日本分光製、PU2086−CO2)を用いて、超臨界二酸化炭素を液化二酸化炭素換算流量5mL/分を容器に送った。容器内の圧力を9〜12MPaの範囲で変化させ、フラーレン骨格上で3個以上のピロリジン環を形成した副生成物を抽出して除いた。その後圧力を20MPaに上げ、茶褐色固体(化合物5)1.6gを抽出した。この条件でピロリジン環を1個もつ誘導体は抽出されなかった。この固体は、下記に示したNMRの分析結果より、当該化合物であることが確認された。
【0056】
H−NMR δ(ppm):2.75(brs、6H)、4.36(br、14H)、6.52−6.63(m、2H)、6.72−6.85(m、4H)。
(合成例6)
【0057】
【数6】
化合物6(C6)の合成:
合成例1で得た化合物1(6.5g、10mmol)、2,4,6−トリヒドロキシベンズアルデヒド(0.47g、3.0mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド(60mL)に加え、得られた溶液に炭酸セシウム(4.4g、14mmol)を加えた。70℃で2時間攪拌した後、反応混合物を室温まで冷やし、ロータリーエバポレーターで濃縮した。得られた混合物を純水(30mL)とAK―225(30mL)を用いて分液し、さらに水層をAK―225(20mL)で二度抽出した。得られた有機層を水洗し、硫酸マグネシウムにより乾燥した。濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮することで、赤褐色油状の粗生成物(5.2g)を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン―酢酸エチル(9:1))で精製することで、2,4,6−トリアルコキシベンズアルデヒド(化合物6)を淡黄色油状物質(4.4g、2.5mmol、収率83%)として得た。
(合成例7)
【0058】
【数7】
化合物7(C7)の合成:
合成例6で得た化合物6(4.4g、2.5mmol)とN−メチルグリシン(2.0g、23mmol)をヘキサフルオロテトラクロロブタン(20mL)に加え、得られた混合物にC60フラーレン(1.9g、2.6mmol)のオルトジクロロベンゼン(40mL)溶液を速やかに加えた。ジムロート冷却管を取り付け、160℃に設定した湯浴で加熱し、4時間攪拌しながら還流した。室温まで冷やした反応混合物をロータリーエバポレーターで濃縮した後に、適量のAK―225に溶解させ濾過した。得られた溶液を純水(50mL)で洗浄し、硫酸マグネシウムにより乾燥した。濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮することで、黒色油状の粗生成物(5.4g)を得た。
【0059】
次に、入口および出口をもつ肉厚のステンレス容器(内径20mm×深さ200mm)に、粗生成物を入れ、容器内の温度を60℃に保ちながら、超臨界二酸化炭素送液ポンプ(日本分光製、PU2086−CO2)を用いて、超臨界二酸化炭素を液化二酸化炭素換算流量5mL/分を容器に送った。容器内の圧力を15〜20MPaの範囲で変化させ、フラーレン骨格上で2個以上のピロリジン環を形成した副生成物を抽出して除いた。その後圧力を22MPaに上げ、茶褐色固体(化合物7)1.4gを抽出した。この固体は、下記に示したNMRの分析結果より、当該化合物であることが確認された。
【0060】
H−NMR δ(ppm):2.85(s、3H)、4.20(d、1H)、4.44(t、4H)、4.62(t、2H)、5.01(d、1H)、5.76(s、1H)、6.39(s、2H)。
(合成例8)
【0061】
【数8】
化合物8(C8)の合成:
合成例6で得た化合物6(1.7g、1.0mmol)とN−メチルグリシン(0.80g、9.0mmol)とをヘキサフルオロテトラクロロブタン(20mL)に加え、得られた混合物にC60フラーレン(0.36g、0.50mmol)のオルトジクロロベンゼン(100mL)溶液を速やかに加えた。ジムロート冷却管を取り付け、160℃に設定した湯浴で加熱し、20時間攪拌しながら還流した。室温まで冷やした反応混合物をロータリーエバポレーターで濃縮した後に、適量のAK―225に溶解させ濾過した。得られた溶液を純水(50mL)で洗浄し、硫酸マグネシウムにより乾燥した。濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮することで、黒色油状の粗生成物(2.1g)を得た。
【0062】
次に、入口および出口をもつ肉厚のステンレス容器(内径20mm×深さ200mm)に、粗生成物を入れ、容器内の温度を60℃に保ちながら、超臨界二酸化炭素送液ポンプ(日本分光製、PU2086−CO2)を用いて、超臨界二酸化炭素を液化二酸化炭素換算流量5mL/分を容器に送った。容器内の圧力を9〜12MPaの範囲で変化させ、フラーレン骨格上で3個以上のピロリジン環を形成した副生成物を抽出して除いた。その後圧力を15MPaに上げ、黒色油状物質(化合物8)1.3gを抽出した。この条件でピロリジン環を1個もつ誘導体は抽出されなかった。この物質は、下記に示したNMRの分析結果より、当該化合物であることが確認された。
【0063】
H−NMR δ(ppm):2.79(brs、6H)、4.39(br、18H)、6.22(brs、4H)。
(合成例9)
【0064】
【数9】
化合物9(C9)の合成:
数平均分子量(Mn)約1300のフォンブリンZdol(ソルベイスペシャルティポリマーズ社製、7.8g、6mmol)、ヨウ化銅(I)(0.18g、0.95mmol)、2−シクロヘキサノンカルボン酸エチル(0.31g、1.8mmol)、1−ヨードナフタレン(2.3g、9.0mmol)を混合し、溶媒を加えずに攪拌しながら炭酸セシウム(4.9g、15mmol)を加えた。100℃で20時間攪拌した後、反応混合物を希塩酸(50mL)とAK225(50mL)で分液し、水層をさらにAK225(50mL)で二度抽出した。得られた有機層を水洗した後、硫酸マグネシウムを加えて乾燥した。濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮することで、粗生成物(8.1g)を黄褐色油状物質として得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン―酢酸エチル(9:1〜3:1))で精製することで、片方の末端部にナフチルエーテル構造を持つフォンブリン(化合物9)を無色油状物質(3.0g、2.1mmol、収率35%)として得た。
(合成例10)
【0065】
【数10】
化合物10(C10)の合成:
合成例9で得た化合物9(2.6g、1.9mmol)、ピリジン(0.22g、2.7mmol)をAK225(20mL)に加え、得られた溶液にトリフルオロメタンスルホン酸無水物(0.8g、2.8mmol)のAK225(20mL)溶液を滴下した。室温で1時間攪拌した後、反応混合物を純水(100mL)と飽和炭酸ナトリウム水溶液(100mL)で一度ずつ洗浄した。得られた有機層を濾過した後、フォンブリン構造を持つトリフルオロメタンスルホン酸エステル(化合物10)(2.5g、1.6mmol、収率84%)を無色油状物質として得た。この粗生成物は精製を行わずに引き続く反応に使用した。
(合成例11)
【0066】
【数11】
化合物11(C11)の合成:
合成例10で得た化合物10(2.2g、1.4mmol)、2,4,6−トリヒドロキシベンズアルデヒド(89mg、0.58mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド(30mL)に加え、得られた溶液に炭酸セシウム(0.66g、2.0mmol)を加えた。70℃で2時間攪拌した後、反応混合物を室温まで冷やし、ロータリーエバポレーターで濃縮した。得られた混合物を純水(20mL)とAK―225(20mL)を用いて分液し、さらに水層をAK―225(20mL)で二度抽出した。得られた有機層を水洗し、硫酸マグネシウムにより乾燥した。濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮することで、赤褐色油状の粗生成物(2.9g)を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン―酢酸エチル(17:3))で精製することで、2,4,6−トリアルコキシベンズアルデヒド(化合物11)を無色油状物質(1.5g、0.35mmol、収率61%)として得た。
(合成例12)
【0067】
【数12】
化合物12(C12)の合成:
合成例11で得た化合物11(1.5g、0.35mmol)とN−メチルグリシン(0.30g、3.3mmol)とをヘキサフルオロテトラクロロブタン(15mL)に加え、得られた混合物にC60フラーレン(0.25g、0.34mmol)のオルトジクロロベンゼン(30mL)溶液を速やかに加えた。ジムロート冷却管を取り付け、180℃に設定した湯浴で加熱し、3時間攪拌しながら還流した。室温まで冷やした反応混合物をロータリーエバポレーターで濃縮した後に、適量のAK―225に溶解させ濾過した。得られた溶液を純水(50mL)で洗浄し、硫酸マグネシウムにより乾燥した。濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮することで、黒色油状の粗生成物(0.45g)を得た。
【0068】
次に、入口および出口をもつ肉厚のステンレス容器(内径20mm×深さ200mm)に、粗生成物を入れ、容器内の温度を60℃に保ちながら、超臨界二酸化炭素送液ポンプ(日本分光製、PU2086−CO2)を用いて、超臨界二酸化炭素を液化二酸化炭素換算流量5mL/分を容器に送った。容器内の圧力を9〜19MPaの範囲で変化させ、フラーレン骨格上で3個以上のピロリジン環を形成した副生成物を抽出して除いた。その後圧力を24MPaに上げ、黒色油状物質(化合物12)0.20gを抽出した。この条件でピロリジン環を1個もつ誘導体は抽出されなかった。この物質は、下記に示したNMRの分析結果より、当該化合物であることが確認された。
【0069】
H−NMR δ(ppm):2.76(brs、6H)、4.32(brq、12H)、4.46(brq、12H)、6.20(brd、6H)、6.67(brd、6H)、7.17(brd、6H)、7.49(brs、12H)、7.93(brd、6H)、8.25(brd、6H)。
(合成例13)
【0070】
【数13】
化合物13(C13)の合成:
合成例11で得た化合物11(1.0g、0.24mmol)とN−メチルグリシン(0.20g、2.2mmol)とをヘキサフルオロテトラクロロブタン(15mL)に加え、得られた混合物にC60フラーレン(0.06g、0.08mmol)のオルトジクロロベンゼン(30mL)溶液を速やかに加えた。ジムロート冷却管を取り付け、180℃に設定した湯浴で加熱し、5時間攪拌しながら還流した。室温まで冷やした反応混合物をロータリーエバポレーターで濃縮した後に、適量のAK―225に溶解させ濾過した。得られた溶液を純水(50mL)で洗浄し、硫酸マグネシウムにより乾燥した。濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮することで、黒色油状の粗生成物(0.32g)を得た。
【0071】
次に、入口および出口をもつ肉厚のステンレス容器(内径20mm×深さ200mm)に、粗生成物を入れ、容器内の温度を60℃に保ちながら、超臨界二酸化炭素送液ポンプ(日本分光製、PU2086−CO2)を用いて、超臨界二酸化炭素を液化二酸化炭素換算流量5mL/分を容器に送った。容器内の圧力を9〜12MPaの範囲で変化させ、フラーレン骨格持たない抽出可能な不純物を除いた。その後圧力を28MPaに上げ、黒色油状物質(化合物13)0.18gを抽出した。
(合成例14)
【0072】
【数14】
化合物14(C14)の合成:
4−ホルミル−1,2,5ベンゼントリカルボン酸トリメチルエステル(0.62g、2.2mmol)とN−メチルグリシン(0.98g、11mmol)の混合物に、C60フラーレン(0.64g、0.89mmol)のオルトジクロロベンゼン(50mL)溶液を速やかに加え、150℃に設定した湯浴で加熱し、3時間攪拌した。室温まで冷やした反応混合物をロータリーエバポレーターで濃縮した後に、適量のトルエンに溶解させ濾過した。得られた溶液をロータリーエバポレーターで濃縮することで、黒色固体状の粗生成物(2.4g)を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン―酢酸エチル(9:1))で精製することで、3個のピロリジン環を持つフラーレン誘導体(化合物14)を黒色固体(0.34g、0.21mmol、収率23%)として得た。
(合成例15)
【0073】
【数15】
化合物15(C15)の合成:
合成例14で得た化合物14(0.19g、0.11mmol)のオルトジクロロベンゼン(60mL)溶液に数平均分子量(Mn)約2000のフォンブリンZdol(ソルベイスペシャルティポリマーズ社製、3.8g、1.9mmol)のヘキサフルオロテトラクロロブタン(60mL)溶液を加えた。得られた混合物にトリフルオロメタンスルホン酸(1mL)を滴下した後、モレキュラーシーブス4Aが入ったソックスレー抽出器とジムロート冷却管を取り付け、190℃に設定した湯浴で加熱し、5時間攪拌しながら還流した。室温まで冷やした反応混合物にアンモニア水(10mL)を加えて中和した後に、ロータリーエバポレーターで濃縮した。得られた油状物質を適量のAK―225に溶解させ濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮することで、黒色油状の粗生成物(3.3g)を得た。
【0074】
次に、入口および出口をもつ肉厚のステンレス容器(内径20mm×深さ200mm)に、粗生成物を入れ、容器内の温度を60℃に保ちながら、超臨界二酸化炭素送液ポンプ(日本分光製、PU2086−CO2)を用いて、超臨界二酸化炭素を液化二酸化炭素換算流量5mL/分を容器に送った。容器内の圧力を10〜18MPaの範囲で変化させ、未反応のフォンブリンZdolなどの不純物を除いた。その後圧力を27MPaに上げ、黒色油状物質(化合物15)0.17gを抽出した。
(合成例16)
【0075】
【数16】
化合物16(C16)の合成:
合成例15で得た化合物15(0.17g、8.7umol)とトリエチルアミン(16mg、0.16mmol)をAK225(10mL)に加えた。得られた混合物を氷浴によって冷却した後、1−ナフトイルクロリド(20mg、0.10mmol)を加えた。混合物を室温に戻し、15時間攪拌した。反応混合物にアンモニア水(1mL)を加えた後に、ロータリーエバポレーターで濃縮した。得られた白色の粉末を含む油状物質を適量のテトラデカフルオロヘキサンに溶解させ濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮することで、黒色油状の粗生成物(0.10g)を得た。
【0076】
次に、入口および出口をもつ肉厚のステンレス容器(内径20mm×深さ200mm)に、粗生成物を入れ、容器内の温度を60℃に保ちながら、超臨界二酸化炭素送液ポンプ(日本分光製、PU2086−CO2)を用いて、超臨界二酸化炭素を液化二酸化炭素換算流量5mL/分を容器に送った。容器内の圧力を10〜16MPaの範囲で変化させ、フラーレン骨格を持たない抽出可能な不純物を除いた。その後圧力を27MPaに上げ、黒色油状物質(化合物16)73mgを抽出した。この物質は、下記に示したNMRの分析結果より、当該化合物であることが確認された。
【0077】
H−NMR δ(ppm):2.74(brs、9H)、4.31(brs、36H)、7.47(brd、9H)、7.55(brd、9H)、7.64(brd、9H)、、7.90(brd、9H)、8.08(brd、9H)、8.25(brd、9H)、8.94(brd、9H)。
(実施例1)
化合物3に、フッ素系溶媒であるテトラデカフルオロヘキサン(スリーエム社製PF−5060)にそれぞれ0.005質量%の濃度になるように混合し、溶解したかどうかを目視で評価した。結果を表1に示す。
(実施例2〜7)
化合物3に代えて、化合物5、化合物7、化合物8、化合物12、化合物13、化合物16をそれぞれ用いた以外は実施例1と同様に溶解性の評価を行った。結果を同様に表1に示す。
(比較例1)
化合物3に代えて、特許文献5(特許第5600202号公報)に記載されている下記フラーレン誘導体(化合物17(C17))を用いた以外は実施例1と同様にして溶解性の評価を行った。結果を同様に表1に示す。
【0078】
【化6】
【0079】
【表1】
以上のことから、本発明のフラーレン誘導体はテトラデカフルオロヘキサンにも良好な溶解性を示すことがわかる。
(実施例8)
Arガス雰囲気中で、カーボンをターゲットとして用いた高周波マグネトロンスパッタにより、磁気ディスク用2.5インチガラスプランク上にDLC(Diamond−Like Carbon)からなるカーボン保護膜を成膜し、模擬ディスクを作製した。
【0080】
次に、潤滑剤として化合物7をテトラデカフルオロヘキサンに溶解させ、表2の濃度の潤滑剤溶液を調製した。
【0081】
次に、ディップ法を用いて、以下に示す方法により潤滑剤溶液を、模擬ディスクの保護膜上に塗布した。すなわち、ディップコート装置の浸漬槽に入れられた潤滑剤溶液中に、模擬ディスクを浸漬し、浸漬槽から模擬ディスクを引き上げることにより、潤滑剤溶液を模擬ディスクの保護膜上の表面に塗布した。その後、潤滑剤溶液の塗布された表面を乾燥させることにより、潤滑剤層を形成した。このようにして得られた潤滑剤層の膜厚を表2に示す。
【0082】
【表2】
(実施例9)
化合物8を実施例8と同様に評価した。潤滑剤層の膜厚を表3に示す。
【0083】
【表3】
(実施例10)
化合物12を実施例8と同様に評価した。潤滑剤層の膜厚を表4に示す。
【0084】
【表4】
以上より、本発明の潤滑剤はテトラデカフルオロヘキサンへの溶解性が良く、本発明の潤滑剤のテトラデカフルオロヘキサン溶液を用いてハードディスクの潤滑剤層を形成することができる。
(実施例11)
実施例9で作製したディスク(化合物8、潤滑剤溶液濃度0.005質量%)に対して繰り返し摩擦時の平滑性評価を行った。クボタ社製のSAFテスターを用いたロード/アンロード動作の後、ディスクの表面を光学顕微鏡で観察したところディスク表面の平滑性の乱れは観察されなかった。
(比較例2)
潤滑剤として特許文献5(特許第5600202号公報)に記載されている化合物17を化合物8の代わりに用いた以外は実施例9と同様にして潤滑剤層を形成しようとしたところ、化合物17はテトラデカフルオロヘキサンに溶けず、潤滑剤層を形成することができなかった。
(比較例3)
潤滑剤として特許文献5(特許第5600202号公報)に記載されている化合物12を化合物8の代わりに用い、溶媒として1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタン(三井デュポンフロロケミカル社製、バートレル(登録商標)XF)を用いた以外は実施例9と同様にして潤滑剤層を形成した。このようにして得られた潤滑剤層の膜厚は10.5Åであった。また、実施例11と同様に繰り返し摩擦時の平滑性評価を行った。その結果、ヘッドがロードされる円周上に凹凸が観察された。
【0085】
実施例11と比較例3の比較から、本発明の潤滑剤は特許文献5等に記載されている潤滑剤よりも、潤滑層表面の平滑性を保持することが分かった。
(実施例12)
実施例9と同様の方法で作製したディスクの表面を、光学表面検査機を用いて観察した。結果として十分均一に潤滑剤塗布膜が形成されていることが確認された。得られた塗布膜分布の画像を図1に示す。なお、ディスク周囲の3点で塗布膜が不均一に見える部分があるが、これらはディスク支持部の痕跡なので塗布膜分布の評価には含めない。
(実施例13)
化合物8に代えて、化合物12を用いた以外は実施例9と同様の方法で作製したディスクの表面を、光学表面検査機を用いて観察した。結果として、実施例12よりもさらに均一に潤滑剤塗布膜が形成され、ディスク上に直線状の塗布膜ムラがまったく観察されなかった。得られた塗布膜分布の画像を図2に示す。
【0086】
従来の化合物(化合物17)では溶解性が低く(表1)塗布することさえできないが、本発明の化合物を用いれば十分均一に潤滑剤塗布膜が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のフラーレン誘導体は、潤滑剤、特に磁気記録媒体用の潤滑剤に好ましく用いることができる。
【0088】
本国際出願は2015年7月3日に出願された日本国特許出願2015−134576号に基づく優先権を主張するものであり、その全内容をここに援用する。
図1
図2