特許第6152548号(P6152548)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6152548
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】酸化ガリウム基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/22 20060101AFI20170619BHJP
   C30B 1/04 20060101ALI20170619BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20170619BHJP
【FI】
   C30B29/22 A
   C30B1/04
   H01L21/316 B
   H01L21/316 P
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-173882(P2012-173882)
(22)【出願日】2012年8月6日
(65)【公開番号】特開2014-31300(P2014-31300A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2015年7月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】並木精密宝石株式会社
(72)【発明者】
【氏名】池尻 憲次朗
(72)【発明者】
【氏名】会田 英雄
(72)【発明者】
【氏名】西口 健吾
(72)【発明者】
【氏名】小山 浩司
(72)【発明者】
【氏名】中村 元一
(72)【発明者】
【氏名】國分 義弘
【審査官】 今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−091217(JP,A)
【文献】 特開2005−260101(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/129246(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/22
C30B 1/04
H01L 21/316
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶基板から成る酸化ガリウム基板の面上に、ゾル−ゲル法によりxが0.05以上0.8以下で表面粗さRaが10nm以下の(Ga1-xAlx)2O3膜を形成したことを特徴とする、酸化ガリウム基板の製造方法。
【請求項2】
前記(Ga1-xAlx)2O3膜のxを、0.05以上0.7以下とすることを特徴とする、請求項1記載の酸化ガリウム基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ガリウム基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)系の発光ダイオード(LED)は、紫外領域の重要な固体発光源である。他のLED材料(例えば、リン化インジウム、ガリウム砒素)とは異なり、高品質のGaNウエハが広く普及していないので、GaNは一般に高品質のサファイア(Al2O3)基板上で成長させており、サファイアは従来市販されているGaNエピタキシャル基板の中で最良の選択であった。
【0003】
GaN on Sapphire LEDでは、n型パッド電極を介してn型層にコンタクトさせるためにGaNの一部を除去する必要がある。これはサファイアに導電性が無いためである。電流はp型パッド電極、p型層から量子井戸層を通り、n型層を通ってn型パッド電極まで通る。電流はn型層を横方向に流れるので、このタイプの構造は横型構造と呼ばれている。
【0004】
しかし、横型構造では、電流の流れが最適ではなく、特に高輝度を得るために大電流が流れると、わずか数μmの厚さのn型層に電流が集中するため、また、サファイア基板の放熱性が不十分であるため、素子温度が上昇し、発光効率や素子寿命の低下を招いてしまう。しかも、大きなLEDチップは動作するためにより多くの入力電流を必要とするので、この問題はLEDのチップサイズが大きくなるにしたがって非常に深刻になる。
【0005】
上記の課題を踏まえて、特に高輝度型LEDにおいては、基板の裏面に電極を形成することで、大電流を広い断面積に流して電流の集中を抑えることが出来る、縦型構造の発光素子を作製するために、電気伝導性を持つ基板が求められてきた。
【0006】
そこでサファイアに代わる基板材料として、酸化ガリウムが考案されている(例えば、特許文献1を参照)。酸化ガリウム単結晶を基板材料に用い、その基板の表面を窒化処理してGaN層を形成することにより、発光素子を作製することが出来る。
【0007】
中でもβ型酸化ガリウム単結晶は、4.8eVのワイドバンドギャップを有して可視領域において透明であると共に、結晶中に酸素欠損が生ずることでn型半導体として導電性を有するため、垂直構造型の発光素子が作製可能となり、電流集中を抑えて従来よりも高輝度な発光素子を得ることが出来る等、サファイア基板とは異なる素子開発の可能性も備えている。
【0008】
酸化ガリウム単結晶はバルク状の大型単結晶が比較的容易に得られ、且つ前記の通り導電性を有し、発光領域で光透過性を有する。従って、酸化ガリウム単結晶基板から作製した縦型構造の発光素子は、サファイア基板から作製される横型構造の発光素子が有する従来の問題を解決することが可能である。
【0009】
ところで、GaN系薄膜を成長させる際の基板の表面粗さは、例えば特許文献2の記載によれば10nm以下が好ましいとされており、これはサファイア基板に限らず酸化ガリウム基板も同様である。
【0010】
また、一般的なサファイア基板の場合と同様に、酸化ガリウム基板面上にGaN系薄膜をエピタキシャル成長させる際に、基板の最表面にコンタミネーション(パーティクル、金属原子、有機汚染、自然酸化膜など)が存在すると、このコンタミネーションが核となり、エピタキシャル成長されたGaN系薄膜の結晶中に結晶欠陥が発生する。また、前記GaN系薄膜に発生した結晶欠陥の密度がそれほど大きくない場合でも、GaN系薄膜の結晶中に埋没される前記コンタミネーションが、GaN系薄膜の結晶を用いた半導体素子の特性に悪影響を与えてしまう。従って、GaN系薄膜の成長前に、酸化ガリウム基板の表面からコンタミネーションを取り除く清浄化を行わなければならない。
【0011】
酸化ガリウム基板の清浄化は、一般的なサファイア基板の場合と同様に、GaN系薄膜結晶の成長装置の外部で行われる洗浄工程、または前記成長装置の内部で行われるサーマルクリーニングによって行われる。前者の成長装置の外部で行われる洗浄工程は、基板を酸や過酸化水素等の薬液で処理することによって行われるもので、基板表面に付着しているコンタミネーションの大部分を除去するのが目的である。
【0012】
しかし半導体素子の製造工程中の他のプロセスとは異なり、GaN系薄膜のエピタキシャル成長時に要求される基板表面の清浄度は非常に高い。すなわち、化学洗浄工程で除去しきれないコンタミネーションを除去すること、また、化学洗浄工程を経た後に基板と大気中の酸素との反応によって形成される酸化膜や再付着したコンタミネーションを除去することが求められる。そこで、エピタキシャル成長の直前に成長装置のチャンバ内部で行われるのがサーマルクリーニングである。
【0013】
サーマルクリーニングは、前記チャンバ内に酸化ガリウム基板を保持し、特定のガス雰囲気下で酸化ガリウム基板を加熱することにより行われ、基板表面を清浄化することができる。サーマルクリーニング後は、酸化ガリウム基板を成長装置外部に取り出すことなく、そのままGaN系薄膜成長工程へと移行することができる。従って、サーマルクリーニングは結晶欠陥が低減された、より高品質のGaN系薄膜の成長を行う上で、極めて重要な基板の清浄化作業である。
【0014】
一般に、サーマルクリーニングの雰囲気には、水素や、アンモニア、窒素、不活性ガス、およびこれらの混合ガスが用いられる。中でも、雰囲気に水素を使用し、且つ雰囲気中の水素濃度を高くする程、不純物や酸化膜の除去効果が高くなることが知られているため(例えば、特許文献3参照)、サーマルクリーニングには水素を含む雰囲気を用いることが好ましい。また、加熱温度はより高温であるほど大きな清浄効果を期待でき、一般的なサファイア基板の場合には1000℃程度で行われることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2004−056098号公報
【特許文献2】特許2987111号公報
【特許文献3】特許3994640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかし、酸化ガリウム基板のサーマルクリーニングに水素雰囲気を用いる場合、水素と酸化ガリウムとが、以下のような反応を起こして酸化ガリウム基板がエッチングされてしまう。
【数1】
【0017】
前記反応が始まる温度は、雰囲気中の水素の分圧により若干の変動があるが600℃前後である。このためサファイア基板と同様のサーマルクリーニングを行おうとしても、水素との反応によって酸化ガリウムが還元されGa2O を生じると、Ga2Oは蒸気圧が高いために蒸発し、酸化ガリウム基板表面がエッチングされて荒れてしまい、基板表面の平坦性が失われてGaN系薄膜の結晶成長が困難になってしまう。
【0018】
GaN系薄膜の成長に用いられる基板の表面粗さは、前記特許文献2の記載によれば10nm以下が好ましいとされているが、酸化ガリウム基板表面の表面粗さを、GaN系薄膜の結晶成長に好ましい程度(前記のように10nm以下)に形成していたとしても、前記のような反応に基づき酸化ガリウム基板表面が水素によりエッチングされると、表面粗さが GaN系薄膜の結晶成長に好ましい程度を超えてしまい、GaN系薄膜の結晶成長が困難になる。
【0019】
サーマルクリーニング以降の工程においても、高温の水素によって酸化ガリウム基板がエッチングされる課題は同様に存在する。これはGaN系薄膜成長には一般にキャリアガスとして水素が広く用いられているためである。
【0020】
しかし、エピタキシャルプロセスにおける水素ガスの影響については、従来多くの対策が講じられており、高品質なGaN系薄膜を作製する上での大きな課題とはなっていない。
【0021】
例えば、酸化ガリウム基板の窒化工程においては、アンモニアガス中で窒化処理を行う際の処理温度を適宜設定することで、アンモニアから分解する水素の量を制御し、酸化ガリウム基板の表面を荒らすこと無く窒化が可能である。
【0022】
また、バッファ層およびGaN層を形成する際のキャリアガスとして水素を使用せずに、酸化ガリウムと反応しない不活性ガスを用いることで、基板表面を荒らす化学反応を根本的に起こさない工夫がある。
【0023】
結局のところ、水素を雰囲気に含むサーマルクリーニングを行える酸化ガリウム基板を提供することが出来さえすれば、結晶欠陥の少ない高品質なGaN系薄膜を成膜することが出来るということになる。
【0024】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、酸化ガリウム基板と水素との反応を抑制して、酸化ガリウム基板の表面が荒れることを防ぎつつ、高い清浄度と基板表面の平坦性を得ることのできる酸化ガリウム基板、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
発明の酸化ガリウム基板の製造方法は、単結晶基板から成る酸化ガリウム基板の面上に、ゾル−ゲル法によりxが0.05以上0.8以下で表面粗さRaが10nm以下の(Ga1-xAlx)2O3膜を形成したことを特徴とする。
【0032】
また、本発明の酸化ガリウム基板の製造方法の他の実施形態は、(Ga1-xAlx)2O3膜のxを、0.05以上0.7以下とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0033】
本発明に依れば、酸化ガリウム基板表面の面上に (Ga1-xAlx)2O3膜を形成することで、酸化ガリウム基板のサーマルクリーニング時に、雰囲気中の水素により(Ga1-xAlx)2O3膜の表面がエッチングされたとしても、(Ga1-xAlx)2O3膜の表面粗さRaを10nm以下に抑えることが可能となる。従って、清浄効果の高い水素を用いたサーマルクリーニングに対して耐性を有する酸化ガリウム基板を得ることが可能となる。
【0034】
以上により本発明に依れば、結晶欠陥の少ない高品質なGaN系薄膜を成膜することが出来る。
【0035】
更に前記(Ga1-xAlx)2O3膜の形成方法をゾル−ゲル法とすることによりAlの偏析が抑制され、(Ga1-xAlx)2O3膜全体での格子定数のバラツキを抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本実施形態に係る酸化ガリウム基板の一例を示す斜視図である。
図2】本実施形態に係る酸化ガリウム基板の製造方法の工程を示す断面図であり、酸化ガリウム単結晶から切り出した酸化ガリウム基板を用意する工程を示す断面図である。
図3】本実施形態に係る酸化ガリウム基板の製造方法の工程を示す断面図であり、ゾル−ゲル法により主面上に(Ga1-xAlx)2O3膜が形成された酸化ガリウム基板の断面図である。
図4】実施例1−4及び比較例1の(Ga1-xAlx)2O3膜をX線回折により評価した結果を示すグラフである。
図5図4のX線回折パターンから求められる実施例1−4及び比較例1の(Ga1-xAlx)2O3膜の格子定数のAl含有量依存性を示すグラフである。
図6】水素雰囲気中での熱処理後の、実施例5−12及び比較例1の(Ga1-xAlx)2O3膜の表面粗さRaの評価結果を示すグラフである。
図7】Alを含まないGa2O3膜が形成された酸化ガリウム基板について、サーマルクリーニング工程における基板温度とGa2O3膜表面の反射率の推移を示したグラフである。
図8】実施例13−17及び比較例2のGa2O3膜または(Ga1-xAlx)2O3膜の、サーマルクリーニング限界温度のAl含有量依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明に係る酸化ガリウム基板、および酸化ガリウム基板の製造方法を詳細に説明する。本発明に係る酸化ガリウム基板の基材料となる酸化ガリウム単結晶の製造方法の一例として、EFG(Edge-defined Film-fed Growth)法が挙げられる。なお、酸化ガリウム単結晶の製造方法としては、溶融された酸化ガリウム融液に種結晶を接触させることにより、酸化ガリウム融液から酸化ガリウム単結晶を結晶成長させる方法であれば、特に制限されない。具体的な方法としては、CZ(Czochralski)法やFZ(Floating Zone)法等が挙げられる。しかし、任意の主面での結晶成長や、組成均一性の高い酸化ガリウム単結晶の成長が可能であるという点で、EFG法が他の結晶成長方法に比べて好ましい。
【0038】
酸化ガリウム単結晶製造用の出発原料としては、工業用酸化ガリウムを用いても良いし、炭酸ガリウムのようなガリウムの塩類、水和物、もしくはこれらの混合物を用いても良い。ガリウムの塩類、水和物、もしくはこれらの混合物を用いる場合は、これらを焼成する等により酸化ガリウムを得る。また、前記焼成などにより酸化ガリウムを得る工程は、育成炉の内部で結晶育成の直前に行っても良いし、前記育成炉の外部で事前に行っても良い。
【0039】
前記何れかの製造方法により製造された酸化ガリウム単結晶、及びその酸化ガリウム単結晶から得られる酸化ガリウム基板は、β-Ga2O3単結晶から成ることが最も好ましい。β-Ga2O3単結晶は導電性を有するので、電極構造が垂直型の発光素子(LED)を作製することが可能となる。その結果、発光素子全体に電流を流すことが出来ることから、電流密度を低くすることが可能となり、発光素子の寿命を長くすることが出来る。
【0040】
更に、β-Ga2O3単結晶はGaNとの間に大きな格子定数のミスマッチが見られない。また、バンドギャップの観点においては、β-Ga2O3単結晶の場合、約260nmまで透過するので、GaNの発光領域の全波長範囲、特に紫外領域での利用が可能となる。
【0041】
なお適宜、前記出発原料にドーパントをドーピングすることにより、酸化ガリウム基板の電気伝導性の改善を図っても良い。
【0042】
EFG法により、所定の大きさとして約2インチ以上の酸化ガリウム単結晶を製造し、その酸化ガリウム単結晶が充分に温度降下したことを確認後、例えば電着ダイヤモンドコアドリル等により抜き加工を施して、図1に示すような平板円形の酸化ガリウム基板1を切り出す。次に、必要に応じてスライシングマシン等によりオリエンテーションフラット(オリフラ)2を、酸化ガリウム基板1の一枚毎に形成して、酸化ガリウム基板1を作製する。
【0043】
更に、作製した酸化ガリウム基板1の片面を主面3とし、少なくともその主面3に研磨加工等を施して、主面3を平坦化する。本発明に於ける酸化ガリウム基板1の主面3は如何なる面であっても良い。主面の一例として、酸化ガリウム単結晶を、劈開性が最も強い(100)に平行な面をワイヤソー等でスライスし、(100)をRa=1nm以下に鏡面研磨して用いる。但し主面3は(100)に限定されるものでは無く、劈開による欠けや割れの防止という点から(101)、(110)、または(111)を主面3として選択しても良い。
【0044】
このようにして得られた酸化ガリウム基板1(図1では、前記酸化ガリウム単結晶から円抜き加工された基板を示す)の主面3である基板面上に、ゾル−ゲル法により(Ga1-xAlx)2O3膜を形成する。
【0045】
本発明のように(Ga1-xAlx)2O3膜成膜用の下地基板として、酸化ガリウム単結晶を用いると、基板に近い化学組成の材料の薄膜を形成することになる。従って、薄膜と基板との間で格子不整合が抑えられ、単結晶或いはそれに近い結晶配向をもつ薄膜の形成が可能となり、欠陥が少なく高品質の(Ga1-xAlx)2O3膜の形成が可能となる。
【0046】
次に、ゾル−ゲル法による(Ga1-xAlx)2O3膜の成膜方法について詳述する。まず、図2のように、EFG法等により作成した酸化ガリウム単結晶から切り出した、前記酸化ガリウム基板1を用意する。
【0047】
次に、酸化ガリウム基板1に対して湿式洗浄として例えば有機溶剤で超音波洗浄を行って、酸化ガリウム基板1の主面3面上の有機物及び無機物を除去する。
【0048】
次に図3のように、酸化ガリウム基板1の主面3面上に(Ga1-xAlx)2O3膜4を、以下のようなゾル−ゲル法により形成する。
【0049】
まず、ガリウムイソプロポキドとアルミニウムイソプロポキドとを所定のモル比で混合する。所定のモル比としては(Ga1-xAlx)2O3膜4のxが、0.05以上0.8以下の範囲となるように設定する。
【0050】
次に、ガリウムイソプロポキドとアルミニウムイソプロポキドの前記混合物とモル比が1対1になるように、モノエタノールアミンを加える。更に、モノエタノールアミンを加えた前記混合物に、溶媒として2‐メトキシエタノールを加えて、スピンコートにより好適な流動性になるまで希釈する。
【0051】
このゾル溶液を前記主面3上に滴下し、30〜40nmの厚さでスピンコートにより塗布する。なお、均一膜厚で塗布する限り塗布方法に制限は無く、前記ゾル溶液に酸化ガリウム基板1を浸漬し引き上げるディップコーティング法などを用いても良い。しかし、大面積で均一な膜厚を確保する上ではスピンコートで塗布することが好ましい。
【0052】
ゾル溶液を塗布後、その塗膜中の溶媒を蒸発させるために酸化ガリウム基板1ごと大気中で90℃前後の温度で約10分程度乾燥させる。その後、塗膜中の有機物を除去するために280〜350℃で仮焼成する。仮焼成の温度が280℃未満では反応速度が遅く、逆に350℃を超えると、緻密性に欠けた(Ga1-xAlx)2O3膜4になりやすくなる。また、仮焼成時間は10〜30分程度とすることが好ましい。
【0053】
前記ゾル溶液の塗布から仮焼成までの工程を繰り返すことにより、(Ga1-xAlx)2O3膜4の膜厚を変化させ、所望の膜厚を得ることができるが、その膜厚は30〜500nmの範囲に設定することが好ましい。 (Ga1-xAlx)2O3膜4の厚さは1μm以下に設定できるが、製造コストの観点も考慮すると、30〜500nm程度とすることが好ましい。
【0054】
更に大気中で、600〜1200℃で30〜90分本焼成して(Ga1-xAlx)2O3膜4を形成する。本実施形態では、1000℃で60分本焼成を行うこととする。酸化ガリウム基板1の結晶に近い結晶構造の薄膜形成という点から、(Ga1-xAlx)2O3膜4もβ型の単結晶膜が好ましい。本焼成温度が600℃に満たないと、(Ga1-xAlx)2O3膜4の結晶化が進みにくくなる。600℃以上では焼成温度が高くなるにつれて結晶性が高くなる傾向があるが、1200℃を超えるような高温での処理による更なる効果はあまり見られず、製造コストも勘案すると得策ではない。また、(Ga1-xAlx)2O3膜4の結晶性の観点からみると、焼成時間が30分に満たない場合は、結晶性があまり高くなく不十分であり、90分を超えて焼成してもそれ以上の改善はあまり見られない。
【0055】
(Ga1-xAlx)2O3膜4中のGaの一部がAlで置換されると、(Ga1-xAlx)2O3膜4全体の格子定数が小さくなる。これは、AlとGaのイオン半径を比べると、Alの方がGaより小さいため、Al置換された原子サイトにおいて結晶が収縮するためと思われる。
【0056】
本発明では、水素を含む雰囲気中でサーマルクリーニングを実施可能な(Ga1-xAlx)2O3膜のx値を、0.05以上0.8以下の範囲に設定する。より好ましくは、β型酸化ガリウムへのAlの固溶限界値を上限とする、0.05以上0.7以下の範囲に設定する。
【0057】
なお(Ga1-xAlx)2O3膜4は、ゾル−ゲル法の他にも、スパッタ法、PLD(Pulse Laser Deposition)法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、スプレー法、液相エピタキシ(エピタキシャル成長)、気相エピタキシ、分子線エピタキシ等で成膜することが出来る。しかしながら、スパッタ法、PLD法、CVD法、各種エピタキシでは、高真空など大掛かりな装置が必要となる。一方、スプレー法ではAlの偏析を抑えることが困難である。従って、大掛かりな装置が不要で低コストで成膜可能であり、且つAlの偏析を防止して(Ga1-xAlx)2O3膜4全体での格子定数のバラツキを抑制できるとの観点から、(Ga1-xAlx)2O3膜4の成膜法としてゾル−ゲル法が最も好ましい。
【0058】
こうして得られた(Ga1-xAlx)2O3膜4に特に研磨加工を行うことなく、(Ga1-xAlx)2O3膜4の表面粗さを原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)にて評価したところ、Raにして0.5〜3nmとなっており、この膜上にGaN系薄膜をエピタキシャル成長させるのに好ましい状態、すなわち表面粗さが10nm以下となっていた。また、(Ga1-xAlx)2O3膜4の表面は、下地の酸化ガリウム基板の表面と同一の結晶面が強く配向しており、この膜上にGaN系薄膜をエピタキシャル成長させるのに好ましい状態となっていた。
【0059】
アルミニウム(Al)と酸素(O)との間の結合力は、ガリウム(Ga)と酸素との間の結合力よりも大きいが、本発明の(Ga1-xAlx)2O3膜4においては、酸素との結合力が強いAlが、膜を構成するGa-Oネットワーク中に均一に固溶することで、水素によってGa-Oのネットワークが切断されてGaが蒸発することを抑制する効果を生み出しているものと思われる。
【0060】
従って、酸化ガリウム基板1のサーマルクリーニング時に、雰囲気中の水素により(Ga1-xAlx)2O3膜4の表面がエッチングされたとしても、(Ga1-xAlx)2O3膜4の表面粗さRaを10nm以下に抑えることが可能となる。よって、基板の清浄効果の高い、水素を雰囲気に含むサーマルクリーニングを行うことが可能となり、表面の清浄な基板を得ることができるため、結晶欠陥の少ない高品質なGaN系薄膜を成膜することが出来る。
【0061】
(Ga1-xAlx)2O3膜4中のAlの、酸化ガリウム結晶中への分布度合いは、(Ga1-xAlx)2O3膜4の全面に亘って均等に分布されていることが、Alの偏析抑制と、(Ga1-xAlx)2O3膜全体での格子定数のバラツキ抑制という点から好ましい。前記の通り、本発明では(Ga1-xAlx)2O3膜4の成膜にゾル−ゲル法を用いることで、AlをGa2O3中にほぼ一定の比率で均一に存在させることが出来る。従って、(Ga1-xAlx)2O3膜4全体での格子定数のバラツキが抑制される。
【0062】
以下に、各実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の各実施例にのみ限定されるものではない。
【0063】
(実施例1−4及び比較例1)
実施例1−4及び比較例1の酸化ガリウム単結晶をEFG法により作製し、酸化ガリウム融液からβ-Ga2O3単結晶を作製した。そのβ- Ga2O3単結晶から、主面が(100)となるように2インチの酸化ガリウム基板を切り出した。更にその主面の表面粗さが、Raで1nmとなるまで鏡面研磨を施した。
【0064】
このようにして得られた酸化ガリウム基板の主面上に、実施例1−4として前記のようなゾル−ゲル法により(Ga1-xAlx)2O3膜を形成した。実施例1では、前記ゾル溶液を30〜40nmの厚さでスピンコートを行うと共に仮焼成までの工程を行った。更にこのスピンコート〜仮焼成までの工程を6回繰り返すことにより、200nmの膜厚の(Ga1-xAlx)2O3膜を形成した。なお、ゾル−ゲル法における溶媒蒸発のための加熱温度は90℃、加熱時間は10分とした。更に仮焼成は300℃で20分、本焼成は1000℃で60分、それぞれ行った。実施例1では(Ga1-xAlx)2O3膜のxを0.2、実施例2では前記xを0.4、実施例3では前記xを0.6、実施例4は前記xを0.8に、それぞれ設定した。
【0065】
一方、比較例1として前記酸化ガリウム基板の主面上に、ゾル−ゲル法により酸化ガリウム膜(Ga2O3膜、即ち実施例1−4においてx=0と見なされる膜)を形成したサンプルも用意した。比較例1のゾル−ゲル法は、ガリウムイソプロポキドとモノエタノールアミンをモル比で1対1となるように混合後、溶媒として2‐メトキシエタノールを加えて希釈し、スピンコートによりゾル溶液を酸化ガリウム基板主面上へ塗布した。溶媒蒸発のための加熱条件、及び仮焼成と本焼成の条件は、実施例1−4と同一条件とし、Ga2O3膜の膜厚は200nmと設定した。
【0066】
実施例1−4及び比較例1に係る(Ga1-xAlx)2O3膜の結晶構造を、X線回折により評価した結果を図4に示す。図4に示すようにx=0〜0.8において、下地基板である酸化ガリウム基板と同様に、β型酸化ガリウム構造の(h00)面のピークのみが観測された。これは形成された(Ga1-xAlx)2O3膜が、酸化ガリウム基板に対して同一の結晶面が強く配向して成長していることを示唆するものである。
【0067】
図4のX線回折パターンにおける(800)面ピークの2θ値からa軸の格子定数を求めたところ、図5に示すようにAl含有量の増加に応じてx=0〜0.7までは直線的に減少していることが確認された。従って、添加したAlがほぼ全て(Ga1-xAlx)2O3膜の結晶格子内に取り込まれていると判断できた。
【0068】
一方、x=0.8の(Ga1-xAlx)2O3膜についてはx=0〜0.7の直線的な減少傾向から外れているので、Alの添加量が固溶限界を超えており、固溶し切れなかったAlが、X線回折のピークとしては検出されない極微量の不純物として存在している可能性が考えられる。従って、GaN系薄膜成長用の基板としてより好ましいのは、x=0.7以下という結論が得られた。
【0069】
(実施例5−12及び比較例1)
次に、(Ga1-xAlx)2O3膜のサーマルクリーニングの水素に対する耐性を、次の手順で評価した。まず、(Ga1-xAlx)2O3膜付き酸化ガリウム基板を1000℃で30分、1気圧の水素雰囲気中で熱処理した。次に、熱処理後の(Ga1-xAlx)2O3膜の表面粗さをAFMにて測定し、Raを求めた。Raが10nm以下の(Ga1-xAlx)2O3膜付き酸化ガリウム基板を、水素に対する耐性有りと判定した。なお、実施例5では(Ga1-xAlx)2O3膜のxを0.05、実施例6では前記xを0.1、実施例7では前記xを0.2、実施例8では前記xを0.3、実施例9では前記xを0.4、実施例10では前記xを0.5、実施例11では前記xを0.6、実施例12では前記xを0.8に、それぞれ設定し直した。また、酸化ガリウム単結晶とその作製方法、および(Ga1-xAlx)2O3膜とその作製方法は、前記実施例1−4と同一とした。
【0070】
評価の結果、図6に示すように、比較例1であるAlを含まないGa2O3膜は、水素中の熱処理によってエッチングされ、表面粗さRaが10nmを超えてしまう。一方、Alをx=0.05以上含んだ(Ga1-xAlx)2O3膜はいずれも表面粗さが10nm以下に抑えられ、水素によるサーマルクリーニングに耐性を有することを示した。従って、サーマルクリーニング後の(Ga1-xAlx)2O3膜は、GaN系薄膜の成長が可能な表面状態と結論付けられる。
【0071】
以上により、0.05≦x≦0.8の範囲において、1気圧の水素を用いた1000℃でのサーマルクリーニングに対する耐性が付与され、表面粗さRa=10nm以下を実現することが可能となることが判明した。
【0072】
更に実施例1−4より、0.05≦x≦0.7の範囲で、添加したAlがほぼ全て(Ga1-xAlx)2O3膜の結晶中に固溶することが判明した。酸化ガリウム基板表面にAlをx=0.05以上含んだ(Ga1-xAlx)2O3膜を形成することで、水素との反応により表面粗さRaが10nmを超えること無く清浄な表面が得られる。従って、(Ga1-xAlx)2O3膜(x=0.05以上含む)付き酸化ガリウム基板は、結晶欠陥の少ない高品質なGaN系薄膜を成膜することが出来ることが判明した。
【0073】
(実施例13−17及び比較例2)
サーマルクリーニングの雰囲気ガスのコストを抑える場合や、サーマルクリーニング装置の運転上の都合次第では、サーマルクリーニングからGaN系薄膜を形成するまでの工程を、同一の水素流量・圧力を維持して行うことも考えられ、200Torr程度の減圧下でサーマルクリーニングを実施することもある。
【0074】
そこで、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法にてGaN系薄膜を形成する工程に則って、200Torrの水素をキャリアガスとして、(Ga1-xAlx)2O3膜が形成された酸化ガリウム基板上にGaN系薄膜を実施例13−17として形成した。図7は、Alを含まないx=0の(Ga1-xAlx)2O3膜(即ち、Ga2O3膜)が形成された酸化ガリウム基板について、サーマルクリーニング工程における基板温度とGa2O3膜表面の反射率の推移を示したグラフである。
【0075】
基板温度を室温(室温から400℃までは装置の性能により未測定)から950℃まで上昇させた後に保持しサーマルクリーニングを試みたが、温度上昇の過程で、水素との反応によりGa2O3膜がエッチングされて表面粗さが粗くなり、Raで10nmを超えると、反射率が急激に低下した。このときの温度をサーマルクリーニングの限界温度として求めたところ、比較例2であるAlを含まないGa2O3膜の場合は、限界温度は620℃であった。
【0076】
同様の実験を、Alの添加量が異なる、x=0.05〜0.5の(Ga1-xAlx)2O3膜が形成された酸化ガリウム基板(実施例13−17)について行ったところ、限界温度のAl含有量依存性は図8のようになった。なお、実施例13では(Ga1-xAlx)2O3膜のxを0.05、実施例14では前記xを0.1、実施例15では前記xを0.2、実施例16では前記xを0.3、実施例17では前記xを0.5、比較例2では前記xを0と、それぞれ設定した。また、酸化ガリウム単結晶とその作製方法、および(Ga1-xAlx)2O3膜とその作製方法は、前記実施例1−4又は比較例1と同一とした。
【0077】
以上の結果をまとめると、Alを添加しないGa2O3膜(もしくは前記(Ga1-xAlx)2O3膜を形成しない酸化ガリウム基板)は、MOCVD法を用いた200Torrの水素ガスによるサーマルクリーニングは620℃以下で行わねばならず、これ以上の温度で実施すると、基板又はGa2O3膜の表面粗さRaが、結晶欠陥の少ない高品質のGaN系薄膜を得るのに不適となってしまうことが判明した。
【0078】
一方、Alを添加した(Ga1-xAlx)2O3膜を酸化ガリウム基板表面に形成することで、サーマルクリーニングの限界温度を620℃よりも高くすることが可能になり、Al含有量の増加に伴い、サーマルクリーニングの限界温度がx=0.05で650℃まで上昇し、更にx=0.5では810℃まで上昇出来ることが確認された。従って、本発明に係る(Ga1-xAlx)2O3膜が形成された酸化ガリウム基板を用いれば、x ≧0.05の条件でサーマルクリーニングの雰囲気を減圧水素とすることで、低コストで大きな清浄効果を得ることが出来る。
【符号の説明】
【0079】
1 酸化ガリウム基板
2 オリエンテーションフラット
3 主面
4 (Ga1-xAlx)2O3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8