(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6152595
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】熱伝導材
(51)【国際特許分類】
C09K 5/14 20060101AFI20170619BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20170619BHJP
B32B 27/30 20060101ALN20170619BHJP
B32B 27/36 20060101ALN20170619BHJP
【FI】
C09K5/14 E
H05K7/20 A
!B32B27/30 A
!B32B27/36
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-135303(P2013-135303)
(22)【出願日】2013年6月27日
(65)【公開番号】特開2015-10130(P2015-10130A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2016年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000242231
【氏名又は名称】北川工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】川口 康弘
(72)【発明者】
【氏名】水野 峻志
【審査官】
中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−007129(JP,A)
【文献】
特開2013−053255(JP,A)
【文献】
特開2010−235953(JP,A)
【文献】
特開2012−144626(JP,A)
【文献】
特開2012−102301(JP,A)
【文献】
特開2007−211141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K5/00−5/20、
H05K7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ100μm〜300μmのフイルム状に形成された第一層と、
厚さ6μm以下のPETフィルムによって構成され、前記第一層の片面に積層された第二層と
を有する積層体を含み、
前記第一層は、アクリル酸エステルを含むモノマーを重合してなるポリマーに、前記ポリマーに対する重量比で0.1重量%を超えて1重量%未満アクリレート系の多官能モノマーを添加し、かつ、前記ポリマーに、平均粒径10μm以上50μm未満の炭化ケイ素、平均粒径1μm以上10μm未満の水酸化アルミニウム、及び、平均粒径0.5μm以上1μm未満の水酸化マグネシウムを含有させた材料によって形成され、
前記第一層は、少なくとも前記第二層が積層された側とは反対側にある面が粘着性を有し、
前記第一層は、損失係数tanδが1.3以上1.5以下とされている
熱伝導材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響機器、情報関連機器、情報伝達機器等に使用される熱伝導材に関し、詳しくは、熱伝導性に加えて制振性も具備した熱伝導材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、CD−ROM,ミニディスク,DVD等の光ディスクや光磁気ディスク、ハードディスク等の機器は、機構上振動に弱いため、振動を減衰させる制振材が装着されている。制振材としてシリコーン系の樹脂を使用すると、シロキサンガスが発生して電子機器に悪影響を与える可能性があるため望ましくない。また、この種の制振材では、CD−ROM等で発生する熱を筐体等のヒートシンクとなる部材に放熱するため、熱伝導性を付与することも要請されている。
【0003】
そこで、アクリル酸エステルを含むモノマーを重合してなるポリマーに、平均粒径50〜100μmの炭化ケイ素、及び、平均粒径0.5〜1.0μmの水酸化マグネシウムを含有させた熱伝導性制振材が提案されている。この材料は、優れた制振性及び熱伝導性を具備しており、しかも、アクリル系であるのでシロキサンガスの発生を危惧する必要もない(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4679383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、近年、この種の材料は、多機能携帯電話(いわゆるスマートフォン)やタブレットPC等の携帯端末へも用途が広がっており、薄肉のフィルム状で圧縮荷重も小さいものが要請されている。しかしながら、特許文献1に記載の材料は、薄肉化が困難であり、仮に薄肉のフィルム状に成形できたとしても、平均粒径50μm以上の炭化ケイ素を含有しているため圧縮荷重が大きくなってしまう。そこで、本発明は、良好な制振性と良好な熱伝導性とを兼ね備え、薄肉のフィルム状に成形した場合にも圧縮荷重の小さい熱伝導材を提供することを目的としてなされた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達するためになされた本発明の熱伝導材は、アクリル酸エステルを含むモノマーを重合してなるポリマーに、平均粒径10μm以上50μm未満の炭化ケイ素、平均粒径1μm以上10μm未満の水酸化アルミニウム、及び、平均粒径0.5μm以上1μm未満の水酸化マグネシウムを含有させたことを特徴としている。
【0007】
本願出願人は、炭化ケイ素,水酸化アルミニウム,水酸化マグネシウム等のフィラーの粒径を種々に変更して実験を行った結果、炭化ケイ素,水酸化アルミニウム,水酸化マグネシウムの粒径を前記範囲に設定することで、得られた熱伝導材を厚さ100μm程度の薄肉のフィルム状に容易に成形できることを発見した。前記粒径の組合せでは、炭化ケイ素,水酸化アルミニウム,水酸化マグネシウムが3粒径を構成しており、最も大きい炭化ケイ素の平均粒径も50μm未満である。このため、厚さ100μm程度の薄肉のフィルム状に容易に成形でき、フィルムの圧縮荷重も小さくなる。また、この熱伝導材は、前記特許文献1の材料と同様に、良好な制振性と良好な熱伝導性とを兼ね備え、シロキサンガスの発生を危惧する必要もない。
【0008】
なお、前記ポリマーに更に、アクリレート系の多官能モノマーを、前記ポリマーに対して0.1重量%を超えて1重量%未満添加してもよい。その場合、ポリマーのPETフィルム等に対する接着性が向上し、前記フィルム状に成形した場合にもPETフィルムに貼着するなどすれば、その取り扱いを一層容易にすることができる。また、多官能性モノマーの作用により、炭化ケイ素の平均粒径が小さくても水酸化マグネシウムの凝集を良好に抑制することができ、熱伝導材の熱伝導性や機械的特性が一層安定して発揮される。更に、多官能モノマーを0.1重量%を超えて添加することにより、架橋密度が向上し、厚さ100μm程度の薄肉のフィルム状に成形した場合でも取り扱いが容易となる。
【0009】
また、本発明の熱伝導材は、前述のように厚さ100μm〜300μmのフィルム状に形成されてもよく、その場合、多機能携帯電話やタブレットPC等へ一層良好に応用することができる。そして、その場合、片面に厚さ6μm以下のPETフィルムが積層され、少なくとも前記PETフィルムが積層された側と反対面が粘着性を有してもよい。その場合、厚さ6μm以下のため容易に変形し、かつ良好な摺動性を有するPETフィルムが片面に積層されたことにより、その熱伝導材の取り扱いが極めて容易となる。また、熱伝導材の他面が粘着性を有しているので、テープ等の熱伝導性を阻害するものを介さずに容易に電子部品等へ装着可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明が適用された熱伝導材の構成を模式的に表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実験例]
次に、本発明の実施の形態を、図面と共に説明する。
図1に模式的に示すように、本願出願人は、アクリル酸エステルを含むモノマーを重合してなるポリマー11に、炭化ケイ素13,水酸化マグネシウム15,水酸化アルミニウム17を含有させた熱伝導材10を作成し、厚さ100μmのフィルム状に成形した。また、その熱伝導材10の片面には、厚さ5μmのPETフィルム20を貼着した。
【0012】
本願出願人は、各種フィラー(炭化ケイ素13,水酸化マグネシウム15,水酸化アルミニウム17)の粒径及び配合や、ポリマー11に添加する2官能アクリレートの配合を次のように種々に変更して、特性の変化を調べた。なお、以下の表では、水酸化マグネシウムを「水酸化マグ」と、水酸化アルミニウムを「水酸化アルミ」と、それぞれ略記している。
【0013】
【表1】
表1に示す試料1は、前記特許文献1に示されたものとほぼ同様の配合及び粒径を採用したもので、tanδ=0.9といった比較的良好な制振性を示したものの、厚さ100μmの熱伝導材10を30%圧縮したときの圧縮荷重は200N/□10mmと大きかった。また、熱伝導材10とPETフィルム20との接着性は弱く、電子部品等への装着時に熱伝導材10がPETフィルム20から剥がれる可能性があった。
【0014】
【表2】
これに対し、炭化ケイ素13の平均粒径を35μmとして他は試料1と同様に構成した試料2(表2参照)は、tanδ=1.2といった極めて良好な制振性を示し、厚さ100μmの熱伝導材10を30%圧縮したときの圧縮荷重も40N/□10mmと小さかった。但し、熱伝導材10とPETフィルム20との接着性は試料1と同様に弱く、電子部品等への装着時に熱伝導材10がPETフィルム20から剥がれる可能性があった。
【0015】
【表3】
表3に示すように、炭化ケイ素13の平均粒径を更に小さい5μmとして他は試料1と同様に構成した試料3は、tanδ=0.7といった比較的良好な制振性を示し、厚さ100μmの熱伝導材10を30%圧縮したときの圧縮荷重も40N/□10mmと小さかった。但し、熱伝導材10とPETフィルム20との接着性は試料1と同様に弱く、電子部品等への装着時に熱伝導材10がPETフィルム20から剥がれる可能性があった。また、この試料3では、炭化ケイ素13の平均粒径が小さいために、材料の混練もしづらく、薄肉化も困難であった。
【0016】
【表4】
表4に示す試料4は、試料2におけるポリマー11を、アクリルポリマーに対して約0.1重量%の2官能アクリレートが添加されたものに置き換えたものである。この試料4は、tanδ=1.2といった極めて良好な制振性を示し、厚さ100μmの熱伝導材10を30%圧縮したときの圧縮荷重も40N/□10mmと小さかった。但し、熱伝導材10とPETフィルム20との接着性は若干の向上が見られたもののまだ弱く、電子部品等への装着時に熱伝導材10がPETフィルム20から剥がれる可能性があった。
【0017】
【表5】
表5に示す試料5は、試料2におけるポリマー11を、アクリルポリマーに対して約0.19重量%の2官能アクリレートが添加されたものに置き換えたものである。この試料5は、tanδ=1.4といった一層良好な制振性を示し、厚さ100μmの熱伝導材10を30%圧縮したときの圧縮荷重も40N/□10mmと小さかった。また、熱伝導材10とPETフィルム20との接着性は強く、電子部品等への装着時に熱伝導材10がPETフィルム20から剥がれることを危惧する必要もなかった。
【0018】
このため、試料5は、多機能携帯電話,タブレットPC等の薄型の端末に使用する際でも、薄型基板や薄型筐体に良好に圧縮して使用でき、良好な制振性及び熱伝導性を呈する。しかも、フィルム状の熱伝導材10がPETフィルム20に強く接着されているため、その摺動性が向上し、薄型の端末に容易に装着(アッセンブリ)することができる。また、PETフィルム20の厚さは6μm以下で、容易に変形し、かつ良好な摺動性を有するので、熱伝導材10の取り扱いが極めて容易となる。
【0019】
更に、熱伝導材10におけるPETフィルム20が積層された側と反対面は粘着性を有するので、熱伝導性を阻害する粘着テープ等を介さずに容易に電子部品等へ装着可能となり、前記熱伝導性が一層良好に発揮される。しかも、一般のフィルムにこのような粘着性を付与するためには、プラズマ処理等がなされる場合があるが、試料5ではそのような処理も必要ない。なお、熱伝導材10は、前記反対面にセパレータを貼着した状態で出荷及び持ち運びされ、装着時にそのセパレータが剥がされてもよい。
【0020】
【表6】
表6に示す試料6は、試料2におけるポリマー11を、アクリルポリマーに対して約0.27重量%の2官能アクリレートが添加されたものに置き換えたものである。この試料6は、tanδ=1.5といった一層良好な制振性を示し、厚さ100μmの熱伝導材10を30%圧縮したときの圧縮荷重も40N/□10mmと小さかった。また、熱伝導材10とPETフィルム20との接着性は強く、電子部品等への装着時に熱伝導材10がPETフィルム20から剥がれることを危惧する必要もなかった。このため、試料6は、試料5について述べた前述の効果を同様に生じ、一層優れた制振性を呈する。
【0021】
【表7】
表7に示す試料7は、試料2におけるポリマー11を、アクリルポリマーに対して約0.50重量%の2官能アクリレートが添加されたものに置き換えたものである。この試料7は、tanδ=1.3といった極めて良好な制振性を示し、厚さ100μmの熱伝導材10を30%圧縮したときの圧縮荷重も40N/□10mmと小さかった。また、熱伝導材10とPETフィルム20との接着性は強く、電子部品等への装着時に熱伝導材10がPETフィルム20から剥がれることを危惧する必要もなかった。このため、試料7は、制振性は若干低下しているものの試料5について述べた前述の効果を同様に生じる。
【0022】
【表8】
表8に示す試料8は、試料2におけるポリマー11を、アクリルポリマーに対して約1重量%の2官能アクリレートが添加されたものに置き換えたものである。この試料8は、tanδ=0.9といった比較的良好な制振性を示し、厚さ100μmの熱伝導材10を30%圧縮したときの圧縮荷重も40N/□10mmと小さかった。但し、熱伝導材10とPETフィルム20との接着性は弱く、電子部品等への装着時に熱伝導材10がPETフィルム20から剥がれる可能性があった。
【0023】
[考察]
このように、試料2,4〜8では、アクリル酸エステルを含むモノマーを重合してなるポリマー11に、平均粒径10μm以上50μm未満の炭化ケイ素13、平均粒径1μm以上10μm未満の水酸化アルミニウム17、及び、平均粒径0.5μm以上1μm未満の水酸化マグネシウム15を含有させている。そして、これらの試料では、いずれも、得られた熱伝導材10が厚さ100μm程度の薄肉のフィルム状に容易に成形でき、フィルムの圧縮荷重も小さかった。このため、これらの試料は、多機能携帯電話,タブレットPC等の薄型の端末に使用する際でも、薄型基板や薄型筐体に良好に圧縮して使用でき、良好な制振性及び熱伝導性を呈する。また、これらの試料は、シリコーン系の熱伝導材のようにシロキサンガスの発生を危惧する必要もない。
【0024】
これに対して、平均粒径が80μmと50μm以上の大きさの炭化ケイ素13を用いた試料1では、圧縮加重が200N/□10mmと大きかったので、薄型基板や薄型筐体に圧縮して使用する場合に、基板やその基板に搭載された電子部品等を損傷する可能性がある。また、平均粒径が5μmと10μm未満の炭化ケイ素13を用いた試料3では、材料の混練もしづらく、薄肉化も困難であった。
【0025】
なお、前記実験例では、炭化ケイ素13の平均粒径は5μm,35μm,80μmと3種類に変化させ、水酸化マグネシウム15の平均粒径は0.5μmに、水酸化アルミニウム17の平均粒径は8μmに、それぞれ固定している。しかしながら、以下の理由から、炭化ケイ素13の平均粒径が10μm以上50μm未満であり、水酸化アルミニウム17の平均粒径1μm以上10μm未満であり、かつ、水酸化マグネシウム15の平均粒径0.5μm以上1μm未満であれば、同様に薄肉化が容易で圧縮荷重も小さいものと推察できる。すなわち、最密充填構造に近い構造が取れる最適な配合になっている。
【0026】
更に、試料2,4〜8のうちでも、試料5〜7では、2官能アクリレート系の多官能モノマーを、ポリマー11に対して0.1重量%を超えて1重量%未満添加している。そして、これらの試料では、熱伝導材10のPETフィルム20に対する接着性が向上し、前述のようにフィルム状に成形した場合にも一方の面をPETフィルム20に貼着するなどすれば、その取り扱いを一層容易にすることができる。また、これらの試料では、他面が粘着性を有しているので、テープ等の熱伝導性を阻害するものを介さずに容易に電子部品等へ装着可能となる。
【0027】
[本発明の他の実施形態]
なお、本発明は前記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができる。例えば、炭化ケイ素13,水酸化マグネシウム15,水酸化アルミニウム17等は前記以外の製品を利用してもよい。
【0028】
また、ポリマー11としては、アクリル酸エステルを含むモノマーを重合してなるポリマーであれば種々のものを使用することができ、例えば、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n―ブチル(メタ)アクリレート、i―ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、i−アミル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、i−オクチル(メタ)アクリレート、i−ミリスチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、i―ノニル(メタ)アクリレート、i―デシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、i―ステアリル(メタ)アクリレート等のアクリル系モノマーを重合または共重合したものを使用することができる。なお、上記(共)重合する際に使用するアクリル酸エステルは、単独で用いる他、2種類以上併用してもよい。
【0029】
更に、2官能アクリレート系の多官能モノマーとしては、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート等を使用することができ、3官能基以上のアクリレート系としては、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等を使用することができる。
【符号の説明】
【0030】
10…熱伝導材 11…ポリマー 13…炭化ケイ素
15…水酸化マグネシウム 17…水酸化アルミニウム 20…フィルム