【実施例1】
【0029】
太陽電池調整システムの構成
4直列の太陽電池モジュールPV1〜PV4に対する本発明の太陽電池調整システムの第1の実施形態を
図8に示す。
図8の回路構成は、
図6,
図7のPV擬似均等化器が直列共振形インバータと多段倍電圧整流回路により構成される例である。
【0030】
直列共振形インバータ
直列共振形インバータは、直列接続されたスイッチQa,Qbの各々にフライホイールダイオードDa,Dbを並列接続することにより構成されるハーフブリッジ型セルに、キャパシタCrとインダクタLrとを直列接続し、更に多段倍電圧整流回路との間にトランスを設けることにより構成される。ここで、
図8中、i
Sa,i
SbはスイッチQa,Qbにそれぞれ流れる電流を表し、V
DSa,V
DSbはスイッチQa,Qbそれぞれに印加される電圧を表し、i
LrはインダクタLrに流れる電流を表し、V
TP,V
TSは、それぞれトランスの一次電圧、二次電圧を表す。なお、
図8中、直列共振形インバータ内の1〜4の数字は、便宜上付けられた端子番号に対応する。
【0031】
多段倍電圧整流回路
多段倍電圧整流回路は、直列接続されたキャパシタCout1〜Cout4と、各々のキャパシタに対して2つの直列接続されたダイオードを並列に接続してなる、ダイオードD1〜D8と、2つの直列接続されたダイオードの各々における中間点にキャパシタを接続してなる、中間キャパシタC1〜C4とから構成される。ここで、
図8中、i
C1〜i
C4は、中間キャパシタC1〜C4にそれぞれ流れる電流を表す。なお、キャパシタの直列接続数は、4に限らず2以上の任意の数であってよい。
【0032】
太陽電池調整システムの動作
直列共振形インバータは直列接続された太陽電池モジュールPV1〜PV4により駆動され、多段倍電圧整流回路に対してトランス二次巻線の部位において正弦波状の交流電流を供給する。一方、多段倍電圧整流回路はその正弦波状の交流電流により駆動され、動作時においては直列接続された太陽電池モジュールの中で電圧の最も低いモジュールに対して優先的に電力を分配するよう動作する。
図7に示すとおり負荷を接続する等して、直列接続された太陽電池モジュールを使用する場合、一般的に影モジュールの電圧はその他の日照モジュールの電圧よりも低くなる。したがって、本部分影補償装置を用いることで全モジュール(影モジュールも含む)から影モジュールへと電力を分配し、影モジュールにおける電力不足分を補償することができる。以下、詳細な動作原理について説明を行う。
【0033】
太陽電池調整システムの動作
図7に示すとおり、DC−DCコンバータを介して負荷を接続する等して、太陽電池モジュール鎖全体に電圧が印加されており、太陽電池モジュールPV1にのみ影がかかっているとする。従来の一般的な共振形インバータと同様に、キャパシタCrとインダクタLrからなる直列回路の共振周波数よりも高いスイッチング周波数で、スイッチQaのみがオンの状態とスイッチQbのみがオンの状態とを、両スイッチについて50%以下の時比率で交互に切り替える。このようにして本発明の太陽電池調整システムを動作させたときに各素子を流れる電流、及び各素子に印加される電圧の波形を
図9に示し、動作中に実現される4つのモード期間中にシステム内を流れる電流の経路を
図10a〜
図10bに示す(キャパシタCout1〜Cout4は平滑キャパシタとして機能するため、これらに流れる電流は無視する)。なお、
図9のグラフ中、V
GSa,V
GSbは、スイッチQa,Qbのゲート電圧をそれぞれ表し、i
D1,i
D2はダイオードD1,D2に流れる電流をそれぞれ表す。
【0034】
便宜上、まずモード2の動作を説明する(
図10a)。モード2の期間中においては、
図9中、V
GSのグラフが示すとおり、スイッチQaがオンとされ、スイッチQbがオフとされており、キャパシタCr及びインダクタLrを含む共振回路に対して、正電圧(
図8中、V
DSbを示す矢印の向きに上昇する電圧。
図9中、V
DSbのグラフ参照。)が出力される。これによりキャパシタCr及びインダクタLrに正の電流(
図8中、i
Lrを示す矢印の向きに流れる電流。太陽電池モジュールPV1〜PV4から、オン状態のスイッチQaを通ってキャパシタCr及びインダクタLrへと流れ込む。)が流れる。キャパシタCrとインダクタLrの共振現象により、i
Lrは正弦波状に変化する(
図9中、i
Lrのグラフ参照。)。トランスの一次巻線には交流電圧が印加され、これが変圧されて二次電圧として多段倍電圧整流回路に出力される(
図9中、V
TSのグラフ参照。)。二次電圧による補償電流は影モジュールPV1に(及び、本実施例においては経路上にある日照モジュールPV2に)優先的に流れ込む。
【0035】
スイッチQaをオフとすることにより、モード2においてスイッチQaを流れていた電流がフライホイールダイオードDbへと転流し、動作はモード3へと移行する(
図10b)。このとき、共振回路に入力される電圧V
DSbはゼロとなるが(
図9中、V
DSbのグラフ参照。)、共振現象により、インダクタLrを流れる電流i
Lrは引き続き正弦波状に変化する(
図9中、i
Lrのグラフ参照。)。共振周波数よりも高い周波数でスイッチングを行っているため、モード3への移行時において、インダクタLrを流れる電流i
Lrは依然として正である。インダクタLrが誘導性素子であるため、電流i
Lrはモード3への移行時において連続である一方、モード2においてi
Lrと等しかった電流i
Saは、モード3への移行と同時にゼロとなる(
図9中、i
Saのグラフ参照。)。これに対応して、モード2においてゼロであった電流i
Sbが、モード3への移行と同時にi
Lrと等しい大きさを有することとなる(
図8に示すとおり電流i
Sbの極性を定義しているため、電流i
Sbと電流i
Lrの正負は逆となる。
図9中、電流i
Sb,i
Lrのグラフ参照。)。多段倍電圧整流回路から太陽電池モジュール鎖へと流れる電流の経路は、モード2の期間中における経路と同様である。
【0036】
モード3の期間中に、スイッチQbがオンとされる。インダクタLrの電流i
Lrが負に切り替わるタイミングで、動作はモード4へと移行する(
図10c)。
【0037】
モード4の期間中においては、モード3の期間中と同様に、共振回路に入力される電圧V
Dsbはゼロであるが(
図9中、V
DSbのグラフ参照。)、共振現象により、インダクタLrを流れる電流i
Lrは引き続き正弦波状に変化する(
図9中、i
Lrのグラフ参照。)。モード4においてはi
Lrの極性がモード2,3と逆であり、多段倍電圧整流回路に対して入力される交流電圧の極性も逆となる(
図9中、V
TSのグラフ参照。)。これに伴い、多段倍電圧整流回路及び太陽電池モジュール鎖を流れる電流の経路も、
図10cに示すとおり変化する。中間キャパシタC1がダイオードD2を介して放電しており、この放電電流は、モード2,3とは逆向きに日照モジュールPV2を流れる。
【0038】
スイッチQbをオフとすることにより、モード4においてスイッチQbを流れていた電流がフライホイールダイオードDaへと転流し、動作はモード1へと移行する(
図10d)。このとき、インダクタLrを含む共振回路に対して、ほぼ一定の正電圧v
DSbが出力される(
図9中、v
DSbのグラフ参照。)。共振周波数よりも高い周波数でスイッチングを行っているため、モード1への移行時においてインダクタLrを流れる電流i
Lrは負であるが、上記正電圧v
DSb、及び共振現象により経時的に上昇する。インダクタLrが誘導性素子であるため、電流i
Lrはモード1への移行時において連続である一方、モード4においてi
Lrと大きさが等しかった電流i
Sbは、モード1への移行と同時にゼロとなる(
図9中、i
Sbのグラフ参照。)。これに対応して、モード4においてゼロであった電流i
Saが、モード1への移行と同時にi
Lrと等しくなる(
図9中、電流i
Sa,i
Lrのグラフ参照。)。多段倍電圧整流回路から太陽電池モジュール鎖へと流れる電流の経路は、モード4の期間中における経路と同様である。
【0039】
モード1の期間中に、スイッチQaがオンとされる。インダクタLrの電流i
Lrが正に切り替わるタイミングで、動作はモード2へと移行する。以降、同様に各モードが経時的に実現される。
【0040】
図10a〜
図10dに示したように、太陽電池モジュールPV1に影がかかった状態で、多段倍電圧整流回路内において電流が流れる素子は中間キャパシタC1、ダイオードD1,D2であり、これらは太陽電池モジュールPV1と対になる素子である。影モジュールと対になる素子のみに電流が流れる点は、他の太陽電池モジュールに影がかかった場合も基本的に同様である。
図10a〜
図10dから明らかなように、影モジュールに対応する素子が導通することで影モジュールに対して補償電流が供給される。
【0041】
一方、
図10a〜
図10dに示す電流経路によれば、多段倍電圧整流回路からは日照モジュールPV2に対しても電流が流れていることが分かる(後述のとおり、例えば太陽電池モジュールPV3が影モジュールとなる場合、このような電流は生じない。)。ただし、多段倍電圧整流回路から日照モジュールPV2へと供給される電流は、モード1〜4全体について平均をとればゼロである(
図9中、i
C1のグラフ参照。)。すなわち日照モジュールPV2に対して正味の補償電流は流れない。しかし、この電流は日照モジュールPV2に対してリプル電流として重畳するため、日照モジュールPV2の動作電圧がリプル電流により変動し不安定化する恐れがある。リプル電流を低減しうる回路構成については、後述の実施例2にて説明を行う。
【0042】
太陽電池調整システムの動作の、理論的考察
直列共振形インバータと多段倍電圧整流回路を組み合わせたシステムは、本発明者による、先の出願(特願2012−046569)に係る発明でも用いられていた(非特許文献5も参照。)。先の出願においては、多段倍電圧整流回路に接続された蓄電セル鎖のセル電圧にばらつきがある場合に、当該蓄電セル鎖の合計セル電圧を直列共振形インバータに入力し、インバータが発生した交流電圧を、多段倍電圧整流回路を介して当該蓄電セル鎖に入力することによって、電圧の低い蓄電セルを充電してセル電圧を均等化していた。
【0043】
これに対し、本発明においては、多段倍電圧整流回路に太陽電池モジュール鎖が接続される。部分影の存在により太陽電池モジュール電圧間にばらつきがある場合であっても、当該太陽電池モジュール電圧の合計電圧をインバータに入力し、インバータが発生した交流電圧を、多段倍電圧整流回路を介して当該太陽電池モジュール鎖に入力することによって、電圧の低い影モジュールに優先的に補償電流を流す。影モジュールから自己の出力電流と補償電流が放出されることにより、太陽電池モジュール鎖全体としての高い出力電流を維持することができる。
【0044】
すなわち、影モジュールに供給される補償電流は太陽電池モジュール鎖の出力電流として放出されるため、この補償電流により影モジュールが「充電されて」太陽電池モジュールの電圧が均等化されることにはならない。これにより、電圧の低い影モジュールには優先的に補償電流が流れ続ける。このとき、インバータ及び多段倍電圧整流回路内に存在するキャパシタやインダクタ、及び抵抗に起因して、補償電流の経路上にインピーダンスが発生することにより、影モジュールに電圧降下が生じる。以上のメカニズムによって影モジュールは電圧を日照モジュールの電圧と比べて相対的に低い状態に維持される。また、インピーダンスの値を制御することにより、上記電圧降下の大きさを調整して影モジュールをMPP近傍に導くことも可能となる。以下、この点について詳しく説明する。
【0045】
図11に、上記動作に関連する各部の電圧波形と、一次高調波近似により得られる、それらの正弦波状近似波形を示す。ただし、
図11中のPV−m,PV−nは、本実施例における影モジュールPV1と日照モジュールPV2に相当する。またR
r,r
m,r
nは、それぞれの電流経路に生じる抵抗成分を表す。なお、
図11ではキャパシタCout1,Cout2を省いた。
【0046】
キャパシタCrとインダクタLrよりなる直列共振回路に対する入力電圧V
DSbは振幅V
in=V
PV1+V
PV2+V
PV3+V
PV4の矩形波状電圧であるため、一次高調波近似により正弦波状電圧に近似することができる。ここでは、入力電圧V
DSbを、
【数3】
(3)
で表される振幅V
m-inの正弦波状電圧で近似する。
【0047】
また、
図8中、ダイオードD1,D2の中間点、及びダイオードD3,D4の中間点のグラウンドに対する電位V
A及びV
B(
図11参照)は、偶数番号のダイオードが導通するときにはそれぞれV
PV-m+V
D,V
PV-n+V
PV-m+V
Dであり(太陽電池モジュールPV−m,PV−nの電圧をそれぞれV
PV-m,V
PV-nとし、ダイオードの順方向電圧降下をV
Dとした。)、奇数番号のダイオードが導通するときにはそれぞれ−V
D,V
PV-m−V
Dである。すなわち電位V
A及びV
Bは、上記動作においては、それぞれ振幅がV
PV-m+2V
DとV
PV-n+2V
Dの矩形波状電圧である。入力電圧V
DSbと同様に、これらの電圧も一次高調波近似により正弦波状電圧で近似する。ここでは、上記電位V
A及びV
Bを、それぞれ振幅が
【数4】
(4)
【数5】
(5)
で表される正弦波状電圧で近似する。
【0048】
上記のとおり一次高調波近似により得られる振幅V
m-in,V
m-A,V
m-Bの正弦波状電圧を発生させる、仮想的な交流電源を用いて、本発明の太陽電池調整システムを
図12の等価回路で置き換えることができる。
図12中のV
m-in,V
m-A,V
m-Bは、それぞれの交流電源が発生させる交流電圧の振幅に対応する。また、
図12中のZ
r,Z
m,Z
nは、それぞれ
図11中の抵抗R
r、キャパシタC
r、及びインダクタL
rによるインピーダンス、抵抗r
m及びキャパシタC
mによるインピーダンス、抵抗r
n及びキャパシタC
nによるインピーダンスであり、それぞれ次式で表される。
【数6】
(6)
【数7】
(7)
【数8】
(8)
ただしjは虚数単位を表し、R
r,r
m,r
nはそれぞれ同符号で表される抵抗の大きさを表し、C
r,C
m,C
nはそれぞれ同符号で表されるキャパシタの容量を表し、L
rは同符号で表されるインダクタのインダクタンスを表し、ωはスイッチQa,Qbのスイッチングの角周波数を表す。
【0049】
太陽電池調整システムが動作する(
図10a〜
図10dに示す電流が0A以上で流れる)ためには、
図12に示される各部のインピーダンスがゼロの場合を想定し、次式を満足する必要がある。
【数9】
(9)
【数10】
(10)
ただしNはトランスの巻き数比である(一次巻線の巻き数:二次巻線の巻き数=N:1)。
【0050】
上記(3)〜(5)式と(9),(10)式より、
【数11】
(11)
【数12】
(12)
が得られる。
【0051】
(3)〜(5)式が示すとおり、V
m-in,V
m-A,V
m-Bはそれぞれ入力電圧V
in、影モジュールPV−mの電圧V
PV-m、日照モジュールPV−nの電圧V
PV-nを反映していることから、
図12の等価回路においては、入力電圧V
inによって供給された電力が、抵抗R
r、キャパシタC
r、インダクタL
rからなる直列回路(
図12中Z
rで表される。)を介してトランスに伝達され、更にトランス二次側(多段倍電圧整流回路側)で、キャパシタC
mと抵抗r
mからなる直列回路(
図12中Z
mで表される。)と、キャパシタC
nと抵抗r
nからなる直列回路(
図12中Z
nで表される。)をそれぞれ介して、影モジュールPV−mと日照モジュールPV−nへとそれぞれ電力が分配されると理解できる。
【0052】
ここにおいて、振幅V
m-Aの仮想交流電源と振幅V
m-Bの仮想交流電源は、それぞれZ
mとZ
nで表される直列回路を介して、トランス二次巻線に対し共通に接続されている。したがって、仮に振幅V
m-A,V
m-Bが同じ大きさであり、それらに対応する仮想交流電源の位相が等しく、且つ、インピーダンスZ
m,Z
nが等しければ、振幅V
m-Aの仮想交流電源と振幅V
m-Bの仮想交流電源には等しい電流が流れることが分かる。また、振幅V
m-A,V
m-Bは(4),(5)で示したように各太陽電池モジュールの電圧V
PV-m,V
PV-nを反映しているため、太陽電池モジュール間に電圧差が発生している場合には電圧の低い太陽電池モジュールに対して優先的に電流が流れることが分かる。本実施例においては太陽電池モジュールPV−mが影モジュールであり、一般的に、直列接続した太陽電池モジュール鎖においては影モジュールの動作電圧がその他の日照モジュールの動作電圧よりも低くなる。したがって、本太陽電池調整システムを用いることにより、直列接続した全太陽電池モジュールから影モジュール(すなわち、直列接続された太陽電池モジュールのうち電圧の低い太陽電池モジュール)に対して電力を再分配することにより、影モジュールにおける電力不足分を補償することが可能となる。
【0053】
また、式(6)〜(8)に示したように、各部のインピーダンスはスイッチQa,Qbのスイッチング周波数に依存する。本発明の太陽電池調整システムを固定周波数にて動作させた場合、影モジュールPV−mに流れ込む補償電流I
eqmの増加に伴い、インピーダンスZ
mに起因して電圧降下が起こり、影モジュールPV−mの電圧V
PV-mは低下すると考えられる。言い換えれば、本発明の太陽電池調整システムによって影モジュールに補償電流を供給するとき、回路内には影モジュールの電圧降下を引き起こす抵抗(以下、「等価出力抵抗R
out」と呼ぶ。)が発生するとみなせる。等価出力抵抗R
outを利用すれば、影モジュールの電圧を日照モジュールと比べて相対的に低下させることができ、すなわち日照モジュールの電圧を相対的に高く保ちつつ、部分影が発生したときのMPP近傍へと影モジュールの動作状態を導くことができる。
【0054】
一般的に、太陽電池モジュールのV
MPは日射量に大きく依存し、典型的には
図13に示すように、日照量に応じて動作特性が変化する。日射量の比較的高い領域においては、V
MPの軌跡は
図13中の破線が示すとおり直線で近似できる。この直線の傾きを次のように定義する。
【数13】
(13)
ただし、V
MP,I
MPは、日照モジュールにおけるMPPでの電圧と電流であり、V
MP-shaded,I
MP-shadedは、上記日照量よりも小さい、ある日照量におけるMPPでの電圧と電流である。
【0055】
図6を用いて説明したように、本発明の太陽電池調整システムを用いた際には、疑似的に全てのモジュールが同一の電流I
Stringを出力可能となるよう、影モジュールに補償電流I
eqが供給される。すなわち、日照モジュールと影モジュールがそれぞれV
MPとV
MP-shadedの電圧で動作しておりI
MPとI
MP-shadedの電流を発生する場合、補償電流I
eqは(13)式のΔI
MPに相当することになる。
【0056】
例として、本実施例のように4直列の太陽電池モジュールのうち1つの太陽電池モジュールに影がかかった場合を考える。このとき影モジュールには補償電流I
eqが供給されるが、I
eqの増加に伴う出力電圧低下分をI
eq×R
outの形式で表せると仮定すると、上記(11),(12)式から次式が得られる。
【数14】
(14)
【0057】
上記(14)式は、補償電流が全く流れていない時点(I
eq=0)や、補償電流が小さく補償が不十分な時点でも成り立つ式である。十分な補償電流が流れている状態では、電圧のつり合いにより以下の(15)式が成り立つ。
【数15】
(15)
【0058】
上記(15)式中でI
eq=ΔI
MPとすると、(13)式を用いて、
【数16】
(16)
が得られる。太陽電池調整システムの等価出力抵抗R
outが(16)式を満たす場合、日照モジュールのみならず、影モジュールもその時の最大電力点電圧近傍で動作させることが可能になる。
【0059】
太陽電池調整システムの動作に関する実験
図8の回路構成を備えた本発明の太陽電池調整システムについて、以下のとおり実験を行った。
【0060】
(等価出力抵抗R
outの測定)
まず、
図8の回路構成を備えた太陽電池調整システムを構築した。なお、中間キャパシタC1〜C4の容量は33μFであり、平滑キャパシタCout1〜Cout4の容量は66μFであり、ダイオードD1〜D8は順方向電圧降下V
D=0.43Vのショットキーダイオードであり、キャパシタCrの容量は220nFであり、インダクタLrのインダクタンスは18.6μHであり、トランスの一次巻線の巻き数は23、二次巻線の巻き数は6であった(巻き数比N=23/6)。
【0061】
次に、太陽電池モジュールPV1〜PV4を取り除き、直列共振形インバータの入力部(スイッチ群Qa,Qbの両端)に外部直流電源を接続し、更にキャパシタCout1に対してのみ可変抵抗器Rout1を接続することで、太陽電池モジュールPV1のみに影がかかっている状態を擬似的に構成した(
図14)。
【0062】
スイッチQaのみがオンの状態とスイッチQbのみがオンの状態とを固定周波数で交互に切り替えて、
図14のシステムを動作させた。可変抵抗器の抵抗値を変化させつつシステムを動作させ、可変抵抗器を流れる電流を補償電流として電流値を測定し、併せてキャパシタCout1の電圧(V
PV1を擬似的に表す。)を測定し、それらの相関を直線で近似した。当該電流値の変化と当該電圧値の変化の比(近似曲線の傾き)として特定周波数に対する等価出力抵抗R
outを算出した。
【0063】
さまざまな固定周波数(85kHz,93.5kHz,102kHz,110.5kHz)について、上記方法により等価出力抵抗R
outを算出するとともに、擬似的なV
PV1に応じて変化する出力電力(可変抵抗器Rout1に対する電力)と電力変換効率(外部直流電源から入力される電力と可変抵抗器Rout1で消費される電力の比)を測定した。測定結果を
図15のグラフに表す。いずれのスイッチング周波数においても出力電流−出力電圧の関係は概ね直線で近似可能であり、近似直線から
図15中に書き込まれているとおり等価出力抵抗R
outを算出した。上述のとおり、太陽電池調整システム内の各部のインピーダンスには周波数依存性があるため、等価出力抵抗R
outも周波数とともに変化した。
【0064】
(太陽電池モジュール、及び太陽電池モジュール鎖の動作特性の測定)
次に、太陽電池モジュールPV1〜PV4として太陽電池アレイ・シミュレータ(Agilent Technologies社製、E4350B)を
図8と同じ回路構成のシステムに接続し、部分影が発生している状態を擬似的に実現した。具体的には、4つの(擬似)太陽電池モジュールPV1〜PV4により構成される太陽電池モジュール鎖の中で太陽電池モジュールPV1にのみ影がかかった場合を想定し、太陽電池モジュールPV2〜PV4のV
MPとI
MPはそれぞれ12V,4.0Aにシミュレータで設定し、太陽電池モジュールPV1のV
MP-shadedとI
MP-shadedはそれぞれ9.0V,2.0Aと設定した。このような条件の下、スイッチQa,Qbのスイッチング周波数を85kHzとして(R
out=595mΩ)、太陽電池モジュール鎖に印加する電圧を変えつつ太陽電池調整システムを動作させた。
【0065】
図16に、この実験で得られた日照モジュールPV2〜PV4と影モジュールPV1それぞれの動作特性曲線を示す。PV1(w/ Eq)は、補償電流を電流値に含めた、影モジュールPV1の擬似的な動作特性を表し、PV1(w/o Eq)は影モジュールPV1の真の動作特性を表す。I
String=4.0Aで太陽電池モジュール鎖を動作させたとき、太陽電池モジュールPV2〜PV4の動作点は
図16中のA点となる。一方、太陽電池調整システムは影モジュールPV1の発生電流と補償電流I
eq1の合計が4.0Aとなるよう動作する。よって、太陽電池調整システムにより補償された影モジュールPV1の擬似的動作点はI
String=4.0Aの直線上に存在することになる。(16)式より、影モジュールPV1の擬似的動作点(補償電流と影モジュールPV1の出力電流との合計電流で電流を規定し、影モジュールPV1の電圧で電圧を規定した時の動作点)ならびに実動作点は
図16中のB点ならびにC点となる。
図16中の斜め破線はI
String=4.0A時におけるR
out=595mΩの特性を表したものであり、影モジュールPV1の動作点がこの直線上に存在することを意味している。
【0066】
図17は、上記太陽電池アレイ・シミュレータを負荷に接続して測定した、太陽電池調整システムを用いた場合と用いない場合における、太陽電池モジュール鎖全体としての特性の測定結果である。太陽電池調整システムを用いない場合(
図18に示すとおりバイパスダイオードを用いた場合)は、部分影の影響により2つの最大電力点(V
String=35Vと50V近傍)が存在したのに対して、太陽電池調整システムを用いた場合は1つの最大電力点(V
String=45V近傍)のみであった。得られる最大電力も太陽電池調整システムを用いた場合は158W程度であり、用いない場合の140W程度と比べて向上している。
【0067】
これらの実験により、日照モジュールのV
MPと影モジュールのV
MP-shadedが大きく異なる条件の下でも、太陽電池調整システムの等価出力抵抗R
outを活用することでいずれのモジュールも最大電力点近傍で動作可能であることが示された。
【0068】
太陽電池モジュール鎖の動作状態制御方法
以上では、固定のスイッチング周波数における等価出力抵抗R
outを利用して影モジュールに補償電流を供給し、且つインピーダンスの効果により影モジュールの電圧を日照モジュールの電圧と比べて相対的に降下させるという動作について説明を行った。しかしながら、太陽電池の特性は日射量のみならず温度にも大きく影響を受け、更に長期の使用においては特性が劣化する。これらの特性変化・劣化に伴い、
図13で示したR
PVの値も変化する。(16)式で示したように、本発明の太陽電池調整システムにおいて影モジュールの電力を最大限に活用するためにはR
PVの値を考慮してR
outを適切に設定する必要がある。しかし、固定のスイッチング周波数ではR
outを動的に調整できないため、特性変化・劣化に伴うR
PVの変化に対応することができない。
【0069】
この問題には、太陽電池モジュールの特性変化・劣化に伴うR
PVの変動に応じて直列共振インバータのスイッチング周波数を変化させ、等価出力抵抗R
outを随時調節することで対処できる。スイッチング周波数を変化させることにより等価出力抵抗R
outを調節しつつ太陽電池調整システムを動作させるためのシステム構成、及びフローチャートを
図19,
図20に示す。
【0070】
図19に示すとおり、太陽電池調整システムには、太陽電池モジュールPV1〜PV4の合計電力(太陽電池モジュール鎖の電力)を測定するための出力電力検出回路が接続される。出力電力検出回路で検出された合計電力は出力電力比較回路に送信され、少なくとも所定期間は当該比較回路に記憶される。出力電力比較回路は、記憶された出力電力のうち、異なる測定タイミングで測定された2つの出力電力値の比較を行うよう構成されている。比較結果(先に測定された出力電力と後に測定された出力電力のどちらが大きいか)を示す信号は、スイッチ制御回路に送信される。
【0071】
スイッチ制御回路は、スイッチQa,Qbのいずれか一方のみがオンとなった状態と他方のみがオンとなった状態とを(任意で両スイッチがオフのデッドタイムを設けつつ)特定の周波数で切り替えるよう、スイッチQa,Qbを制御する回路であり、特に周波数を上昇及び下降させる機能を有している。上昇幅、下降幅は、あらかじめ固定値としてスイッチ制御回路に入力されていてもよいし、任意のタイミングで外部回路(不図示)から入力可能であってもよい。さらにスイッチ制御回路は、少なくとも所定期間は、最後に行った周波数の変更が上昇であったか下降であったかを記憶する。スイッチ制御回路は、出力電力比較回路から比較結果を受信し、先に測定された出力電力よりも後に測定された出力電力の方が大きかった場合には、次回の周波数変更を前回の周波数変更と同様の変更とし、後に測定された出力電力よりも先に測定された出力電力の方が大きかった場合には、次回の周波数変更を前回の周波数変更と逆の変更とするよう構成される(両出力電力が同じであった場合は、次回の周波数変更を前回と同じにしても、逆にしてもよい。どちらにするかは、あらかじめ設定により決められているとする。)。
【0072】
次に、
図19のシステムを用いた太陽電池モジュール鎖の動作状態制御方法を
図20のフローチャートに従い説明する。なお、各ステップの実行タイミングは、任意のクロック回路(不図示)等を用いて制御されているものとする。
【0073】
まず、太陽電池モジュール鎖の出力電力(I
String×V
String、もしくは負荷電流I
Load×V
String)の初期値P
0を出力電力検出回路が測定する(ステップ2001)。次にスイッチ制御回路が、スイッチング周波数を上昇(すなわちR
outを増大)させる(ステップ2002)。その後、出力電力検出回路が再び太陽電池モジュール鎖の出力電力P
1を測定する(ステップ2003)。出力電力比較回路は測定された電力P
0,P
1を検出回路から受信して記憶しており、両電力値の大きさを比較する。P
1>P
0であれば再びフローチャートの最初のステップ2001に戻り、スイッチ制御回路はスイッチング周波数を更に上昇させ、同じ動作を繰り返す。P
1<P
0であれば、スイッチ制御回路は逆にスイッチング周波数を減少させR
outが低下する方向へと動作させる(ステップ2005)。その際においても周波数の変動前後における太陽電池ストリングの電力P
2とP
3を出力電力検出回路が計測し(ステップ2004,2006)、出力電力比較回路がP
2,P
3の大小関係を判断する。スイッチ制御回路は、比較結果に基づいてフローチャートに示されているとおり周波数を上昇又は下降させる。
【0074】
なお、
図20のフローチャートにおいては電力P
0,P
1の比較、及び電力P
2,P
3の比較の後に出力電力が再び測定されることとなっているが、この測定は省いてもよい。すなわち、
図20のフローチャートを
図21のように修正してもよい。
図21のフローチャートに従うとき、例えばステップ2002でスイッチング周波数を上げてステップ2003で電力P
1を測定した後、P
1>P
0だった場合に、出力電力比較回路が当該P
1をP
0のメモリ領域に記憶し、P
1のメモリ領域に記憶された測定値を消去してから、スイッチ制御回路がステップ2002を行う。同様に、ステップ2005でスイッチング周波数を下げてステップ2006で電力P
3を測定した後、P
3>P
2だった場合に、出力電力比較回路が当該P
3をP
2のメモリ領域に記憶し、P
3のメモリ領域に記憶された測定値を消去してから、スイッチ制御回路がステップ2005を行う。同様に、ステップ2005でスイッチング周波数を下げてステップ2006で電力P
3を測定した後、P
3>P
2でなかった場合に、出力電力比較回路が当該P
3をP
0のメモリ領域に記憶し、P
3のメモリ領域に記憶された測定値を消去してから、スイッチ制御回路がステップ2002を行う。なお、ステップ2003,2006の次に行われる電力値の比較で両電力が等しかった場合には、最大電力点に到達したとして処理を終了してもよいし、動作特性の変化に備えてスタートまで戻り処理を再開してもよい。また、ステップ2002とステップ2005を入れ替えてもよい。
【0075】
スイッチング周波数を変動させた際(即ちR
outを変動させた際)における影モジュールの動作点の変化の様子の一例を
図22に示す。ここでは便宜上、影モジュールの特性のみを描いている。影モジュールの初期の動作点がaであった場合に、
図20又は
図21のフローチャートに基づきスイッチング周波数を増大させR
outを増大させたとする。その結果、影モジュールの動作点がbに移行し、結果として太陽電池ストリングの出力電力は増加するため、フローチャートに基づきスイッチング周波数を更に増大させ、R
outを更に増大させる。その結果、影モジュールの動作点はcに移動するため、結果として太陽電池ストリングの出力電力は低下する。よって、フローチャートに基づき、今度はスイッチング周波数を下げてR
outを低減させる。その結果、影モジュールの動作点は再びb点に戻り、太陽電池ストリングの出力電力は上昇するため、フローチャートに基づきスイッチング周波数を更に下げてR
outを更に低減させる。その結果、動作点はaに移動するため太陽電池ストリングの電力は低下する。以上のように、周波数の変動(R
outの変動)に伴い影モジュールの動作点はa〜cで変動する。影モジュールの動作点は変動するものの、
図20又は
図21のフローチャートに基づき制御を行うことで太陽電池モジュールに特性変化・劣化があった場合においても影モジュールを最大電力点近傍で動作させることが可能となる。
【0076】
太陽電池モジュールPV1以外に影がかかっている場合
以上においては、
図8の回路中で主に太陽電池モジュールPV1に影がかかっている場合について説明したが、他のモジュールに影がかかっている場合であっても、本発明の太陽電池調整システムは同様の原理で動作可能である。
【0077】
一例として、太陽電池モジュールPV3に影がかかっている場合に、
図9のV
GSのグラフに従ってスイッチQa,Qbのオンオフを切り替えたときに回路内を流れる、各モードでの電流の経路を
図23a〜
図23dに示す。
【0078】
まずモード2の期間中(
図23a)においては、
図9中、V
GSのグラフが示すとおり、スイッチQaがオンとされ、スイッチQbがオフとされており、キャパシタCr及びインダクタLrを含む共振回路に対して、正電圧(
図8中、V
DSbを示す矢印の向きに上昇する電圧)が出力される。これによりキャパシタCr及びインダクタLrに正の電流(
図8中、i
Lrを示す矢印の向きに流れる電流。太陽電池モジュールPV1〜PV4から、オン状態のスイッチQaを通ってキャパシタCr及びインダクタLrへと流れ込む。)が流れる。キャパシタCrとインダクタLrの共振現象により、i
Lrは正弦波状に変化する。トランスの一次巻線には交流電圧が印加され、これが変圧されて二次電圧として多段倍電圧整流回路に出力される。この二次電圧により、キャパシタC3が充電される。
【0079】
スイッチQaをオフとすることにより、モード2においてスイッチQaを流れていた電流がフライホイールダイオードDbへと転流し、動作はモード3へと移行する(
図23b)。このとき、共振回路に入力される電圧V
DSbはゼロとなるが、共振現象により、インダクタLrを流れる電流i
Lrは引き続き正弦波状に変化する。共振周波数よりも高い周波数でスイッチングを行っているため、モード3への移行時において、インダクタLrを流れる電流i
Lrは依然として正である。インダクタLrが誘導性素子であるため、電流i
Lrはモード3への移行時において連続である一方、モード2においてi
Lrと等しかった電流i
Saは、モード3への移行と同時にゼロとなる。これに対応して、モード2においてゼロであった電流i
Sbが、モード3への移行と同時にi
Lrと等しい大きさを有することとなる。多段倍電圧整流回路から太陽電池モジュール鎖へと流れる電流の経路は、モード2の期間中における経路と同様である。
【0080】
モード3の期間中に、スイッチQbがオンとされる。インダクタLrの電流i
Lrが負に切り替わるタイミングで、動作はモード4へと移行する(
図23c)。
【0081】
モード4の期間中においては、モード3の期間中と同様に、共振回路に入力される電圧V
DSbはゼロであるが、共振現象により、インダクタLrを流れる電流i
Lrは引き続き正弦波状に変化する。モード4においてはi
Lrの極性がモード2,3と逆であり、多段倍電圧整流回路に対して入力される交流電圧の極性も逆となる。これに伴い、多段倍電圧整流回路及び太陽電池モジュール鎖を流れる電流の経路も、
図23cに示すとおり変化する。キャパシタC3がダイオードD6を介して放電しており、この放電電流は、補償電流として影モジュールPV3に供給される。
【0082】
スイッチQbをオフとすることにより、モード4においてスイッチQbを流れていた電流がフライホイールダイオードDaへと転流し、動作はモード1へと移行する(
図23d)。このとき、インダクタLrを含む共振回路に対して、ほぼ一定の正電圧v
DSbが出力される。共振周波数よりも高い周波数でスイッチングを行っているため、モード1への移行時においてインダクタLrを流れる電流i
Lrは負であるが、上記正電圧v
DSb、及び共振現象により経時的に上昇する。インダクタLrが誘導性素子であるため、電流i
Lrはモード1への移行時において連続である一方、モード4においてi
Lrと大きさが等しかった電流i
Sbは、モード1への移行と同時にゼロとなる。これに対応して、モード4においてゼロであった電流i
Saが、モード1への移行と同時にi
Lrと等しくなる。多段倍電圧整流回路から太陽電池モジュール鎖へと流れる電流の経路は、モード4の期間中における経路と同様である。
【0083】
モード1の期間中に、スイッチQaがオンとされる。インダクタLrの電流i
Lrが正に切り替わるタイミングで、動作はモード2へと移行する。以降、同様に各モードが経時的に実現される。
【0084】
このように、太陽電池モジュールPV3に影がかかっている場合も、当該太陽電池モジュール電圧の合計電圧をインバータに入力し、インバータが発生した交流電圧を、多段倍電圧整流回路を介して当該太陽電池モジュール鎖に入力することによって、電圧の低い影モジュールPV3に優先的に補償電流を流すことができる。また補償電流の経路上に発生するインピーダンスにより、影モジュールPV3に電圧降下が生じるため、このインピーダンスの値を制御することにより影モジュールPV3をMPP近傍に導くことも可能となる。
【0085】
図11と同様に、太陽電池モジュールPV3に影がかかっているときの、上記動作に関連する各部の電圧波形と、一次高調波近似により得られる、それらの正弦波状近似波形を
図24に示す。ただし、
図24中のPV−mは、本実施例における影モジュールPV3に相当する。またR
r,r
mは、それぞれの電流経路に生じる抵抗成分を表す。なお、
図24でも、
図11と同様にキャパシタCout3を省いた。
【0086】
この場合も、一次高調波近似により、入力電圧V
DSbと
図24中のV
Aで示される電圧を、それぞれ振幅が上記式(3)と(4)で表される正弦波状電圧で近似することができる。これら正弦波状電圧を発生させる仮想的な交流電源を用いて、本発明の太陽電池調整システムを
図25の等価回路で置き換えることができる。
図25中のV
m-in,V
m-Aは、それぞれの交流電源が発生させる交流電圧の振幅に対応する。また、
図25中のZ
r,Z
mは、それぞれ
図24中の抵抗R
r、キャパシタC
r、及びインダクタL
rによるインピーダンス、抵抗r
m及びキャパシタC
mによるインピーダンスであり、それぞれ上記(6),(7)式で表される。上記式(9)〜(16)を用いて既に説明した理由から、今の場合においても太陽電池調整システムの等価出力抵抗R
outが(16)式を満たす場合に、日照モジュールのみならず、影モジュールも最大電力点電圧近傍で動作させることが可能になる。等価出力抵抗R
outの調整は、例えば
図20,
図21のフローチャートに従って行うことができる。
【実施例2】
【0087】
本発明の太陽電池調整システムの、第2の実施形態を
図26に示す。
図8で示した第1の実施形態に更に第2の多段倍電圧整流回路を用いて対称型の回路構成をとることで各モジュールに流れるリプル電流を低減可能とした回路構成である。
【0088】
図26に示す本発明の太陽電池調整システムにおいて、太陽電池モジュールPV1に影がかかっている場合に、
図9のV
GSのグラフに従ってスイッチQa,Qbのオンオフを切り替えたときに回路内を流れる、各モード2〜4,1での電流の経路を
図27a〜
図27dに示す。ただし、キャパシタCout1a〜Cout4a,Cout1b〜Cout4bは省略する。モード2,3においては、トランス二次巻線を経由した中間キャパシタC1bの放電電流がダイオードD2bを介して影モジュールPV1に補償電流として流れ込み、またこの電流がダイオードD1aを経由して中間キャパシタC1aを充電する(
図27a,
図27b)。モード4,1においては、トランス二次巻線を経由した中間キャパシタC1aの放電電流がダイオードD2aを経由して影モジュールPV1に補償電流として流れ込み、またこの電流がダイオードD1bを経由して中間キャパシタC1bを充電する(
図27c,
図27d)。なお、各素子を流れる電流や各素子に印加される電圧の基本的な動作波形は
図9に示したものと同一である。
【0089】
図10a〜
図10dで示した、第1の実施形態における電流経路では、多段倍電圧整流回路から影モジュールPV1に補償電流を供給する際に日照モジュールPV2にも電流が流れていた(トランス二次巻線を経由して供給される電流)。多段倍電圧整流回路から日照モジュールPV2に供給される平均電流は0であるため日照モジュールPV2には実質的に補償電流は供給されないが、リプル電流は図示のとおり流れる。このリプル電流成分が大きいと、日照モジュールPV2の動作点がV
MP近傍で変動し、動作が不安定になる恐れがある。
【0090】
対照的に、
図27a〜
図27bに示す電流経路において、トランス二次巻線を経由した補償電流は影モジュールPV1のみを流れる。太陽電池モジュールPV3に影がかかっている場合も、モード2,3においては、トランス二次巻線を経由した中間キャパシタC3bの放電電流がダイオードD6bを介して影モジュールPV3に補償電流として流れ込み、またこの電流がダイオードD5aを経由して中間キャパシタC3aを充電し、またモード4,1においては、トランス二次巻線を経由した中間キャパシタC3aの放電電流がダイオードD6aを経由して影モジュールPV3に補償電流として流れ込み、またこの電流がダイオードD5bを経由してキャパシタ中間C3bを充電するため、同様に補償電流は影モジュールPV3のみを流れる。
【0091】
このように、第2の実施形態では影モジュールに対してのみトランス二次巻線から電流が供給され、その他の日照モジュールに対してはトランス二次巻線からの電流が流れないため、第1の実施形態と比較して日照モジュールにおけるリプル電流を低減することが可能となる。
【0092】
また、
図8に示したシステムと同様に、
図26の太陽電池調整システムにおいても、インバータ及び多段倍電圧整流回路内に存在するキャパシタやインダクタ、及び抵抗に起因して、補償電流の経路上にインピーダンスが発生することにより、影モジュールに電圧降下が生じる。したがって影モジュールは日照モジュールの電圧と比べて相対的に電圧の低い状態に維持されるし、またインピーダンスの値を、例えば
図20,
図21のフローチャートに基づいた周波数制御によって制御することにより、上記電圧降下の大きさを調整して影モジュールをMPP近傍に導くことも可能となる。なお、
図26には記載されていないが、通常太陽電池モジュール鎖には別途DC−DCコンバータ等を介して負荷を接続する(
図7)。典型的な使用態様としては、DC−DCコンバータの制御により太陽電池モジュール鎖全体に印加される電圧を調整しつつ、
図26中のスイッチQa,Qbの周波数調整により影モジュールの電圧降下を調整して、全ての太陽電池モジュールをモジュールごとに異なるMPPへと近づける。
【0093】
(具体的回路構成のバリエーション)
本発明の太陽電池調整システムの具体的回路構成は、
図8や
図27に示した構成に限らず、本発明の範囲内で適宜変更可能である。
【0094】
例えば、インバータと多段倍電圧整流回路との接続点は任意に選択可能である。一例として、
図8の回路構成において上記接続点を変更してなる、本発明の太陽電池調整システムの回路構成を
図28に示す。このような回路構成のシステムも、上述の実施形態と同様の原理で動作可能である。
【0095】
図28に示す本発明の太陽電池調整システムにおいて、太陽電池モジュールPV1に影がかかっている場合に、
図9のV
GSのグラフに従ってスイッチQa,Qbのオンオフを切り替えたときに回路内を流れる、各モード2〜4,1での電流の経路を
図29a〜
図29dに示す。モード2,3においては、トランス二次巻線を経由したキャパシタC1の放電電流がダイオードD2を介して影モジュールPV1に補償電流として流れ込む(
図29a,
図29b)。モード4,1においては、トランス二次巻線を経由した電流がダイオードD1を経由して中間キャパシタC1を充電する(
図29c,
図29d)。各素子を流れる電流や各素子に印加される電圧の基本的な動作波形は
図9に示したものと同一である。
【0096】
その他の変更例として、トランスを用いずに本発明の太陽電池調整システムを構成することも可能である。
図30に、そのようなシステムの回路構成の一例を示す。
【0097】
図30に示す本発明の太陽電池調整システムにおいて、太陽電池モジュールPV1に影がかかっている場合に、
図9のV
GSのグラフに従ってスイッチQa,Qbのオンオフを切り替えたときに回路内を流れる、各モード2〜4,1での電流の経路を
図31a〜
図31dに示す。影モジュールPV1に対しては、モード3(
図31b),モード1(
図31d)で補償電流が流れ込む一方で、日照モジュールへと供給される補償電流はモード1〜4全体の平均をとればゼロである。
【0098】
図8に示したシステムと同様に、
図28,
図30の太陽電池調整システムにおいても、インバータ及び多段倍電圧整流回路内に存在するキャパシタやインダクタ、及び抵抗に起因して、補償電流の経路上にインピーダンスが発生することにより、影モジュールに電圧降下が生じる。したがって影モジュールは電圧の低い状態に維持されるし、またインピーダンスの値を、例えば
図20,
図21のフローチャートに基づいた周波数制御によって制御することにより、上記電圧降下の大きさを調整して影モジュールをMPP近傍に導くことも可能となる。典型的な使用態様として、
図7に示すとおりDC−DCコンバータ等を介して負荷を接続し、DC−DCコンバータの制御により太陽電池モジュール鎖全体に印加される電圧を調整しつつ、Qa,Qbの周波数調整により影モジュールの電圧降下を調整して、全ての太陽電池モジュールをモジュールごとに異なるMPPへと近づけることも可能である。
【0099】
その他、上述の各実施例においては、ハーフブリッジ型セル、及び、キャパシタCrとインダクタLrとを直列接続してなる共振回路を接続することによりインバータを構成していたが、本発明の太陽電池調整システムに用いられるインバータはこれに限らない。太陽電池モジュール鎖の電圧を交流電圧へと変換し、多段倍電圧整流回路に当該交流電圧を入力することができるインバータであれば、同様の原理で本発明のシステムを動作させることができる。
【0100】
例えば、ハーフブリッジ型セル(
図32)の代わりにフルブリッジ型セル(
図33)を用いてもよい。フルブリッジセル型は、スイッチQa,Qbを直列接続してなるスイッチ組と、スイッチQc,Qdを直列接続してなるスイッチ組と、を並列接続し、さらに各々のスイッチにフライホイールダイオードDa〜Ddを並列接続することにより構成される。スイッチQa,Qbの両端間(スイッチQc,Qdの両端間)に電圧Vinが入力された状態で、スイッチQa及びQdをオンとする状態と、スイッチQb及びQcをオンとする状態と、の間で接続状態を経時的に切り替えることによって、端子1,2の間には、ピーク電圧Vin、ボトム電圧−Vinの矩形状の電圧が出力される。なお、入力回路としてフルブリッジ型セルを用いる場合、後段にはトランスを備えた共振回路を用いる等して、フルブリッジ回路と多段倍電圧整流回路との電圧レベルを独立させる必要がある。
【0101】
また、キャパシタCrとインダクタLrとを直列接続してなる共振回路(
図34)の代わりには、並列共振回路(
図35)、直並列共振回路(
図36)、LLC回路(
図37)等を用いても、入力された直流電圧を交流電圧に変換して本発明の太陽電池調整システムを動作させることが可能である。いずれの共振回路を用いる場合も、図中の端子3,4の間に導線を設け、これをコアに対して巻回し、更に二次巻線をコアに対して巻回することによりトランスを形成すれば、端子3,4の間に印加される交流電圧を変圧した上で、二次巻線の両端に接続される多段倍電圧整流回路へと出力することが可能となる。
【0102】
なお、以上の実施例においてはスイッチング周波数を変更することにより等価出力抵抗R
outを制御する例について説明したが、周波数制御が不可能であったとしても、上述のとおり補償電流の経路上に発生するインピーダンスによる電圧降下や影モジュールが「充電」されないことに起因して、影モジュールの電圧を少なくとも日照モジュールの電圧より低くすることが可能であるので、従来よりも影モジュールをMPPに近い動作点に導くことは可能である。