(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるフィルムをタイヤ構成部材に用いたタイヤにおいて、該フィルムの全表面積の30%以上80%以下の表面積の部分で、該フィルムが他の部分よりも厚さを薄くして形成されていて、かつ、該薄く形成されている部分の厚さが前記他の部分の厚さの70%以上95%以下であり、前記他のフィルム部分よりもフィルム厚さを薄くして形成されている部分が、該フィルムの外縁線にかからずに形成されていることを特徴とするタイヤ。
【背景技術】
【0002】
タイヤが有するバネ特性は、乗り心地性能や接地長に関係するものでタイヤを開発する上で重要な要素である。
【0003】
しかし、これまでタイヤのバネ定数を自在に変えて製造することは容易ではなかったものであり、特にタイヤの加硫成形後にバネ定数を自在に小さくし、剛性を低くして、乗り心地性能や接地長を調整するということはなされていなかった。
【0004】
本発明は、詳細は後述するが、空気入りタイヤのインナーライナーあるいは補強部材などのタイヤ構成材として樹脂フィルムを用いたタイヤにおいて、該樹脂フィルムに局所的に薄くした部分を形成させることにより、インナーライナーあるいは補強部材を構成する樹脂フィルムの剛性を下げてタイヤが持つバネ定数を小さくするというものである。
【0005】
この本発明の構成に一見似た構造を有する発明として、樹脂フィルムからなるインナーライナー(空気透過防止層)のひずみが大きくなる特定領域において、該インナーライナーに切込みを設けることにより、隣接部材の動きに追随して動くことがないようにして該インナーライナーの耐久性を向上させるという発明が提案されている(特許文献1)。しかし、この特許文献1の提案になる発明の技術思想は、切込みを設けた箇所には別途第二のインナーライナーを配するというものであり(特許文献1の段落0019など)、タイヤのバネ定数を小さくする、ないしは剛性を低くするなどの発想は存在しておらず、むしろその部分では剛性が高くなると解されるものである。
【0006】
また、未加硫タイヤの樹脂フィルムからなるインナーライナーの表面に、隣接部よりも厚く偏肉させた多数の突条または独立突起を形成し、ブラダーとの接触界面に空気が流れ出る隙間を確保して、エア溜まりが生ずることを防止するという提案がある(特許文献2)。しかし、この特許文献2の提案の発明の技術思想は、通常のインナーライナーの表面に突条または突起を設けるというものであり、タイヤのバネ定数、剛性という点では、小さくするというよりも、むしろ逆に大きくするものであり、本発明とは相違するものであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、タイヤが持つバネ定数を小さくすることにより剛性を低くしたタイヤを提供すること、特に、タイヤを加硫成形した後においても、そのタイヤの持つバネ定数を小さくして剛性を低く調節して得ることができるタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成する本発明の空気入りタイヤは、下記(1)の構成を有する。
(1)熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるフィルムをタイヤ構成部材に用いたタイヤにおいて、該フィルムの全表面積の30%以上80%以下の表面積の部分で、該フィルムが他の部分よりも厚さを薄くして形成されていて、かつ、該薄く形成されている部分の厚さが前記他の部分の厚さの70%以上95%以下であ
り、前記他のフィルム部分よりもフィルム厚さを薄くして形成されている部分が、該フィルムの外縁線にかからずに形成されていることを特徴とするタイヤ。
【0010】
かかる本発明のタイヤにおいて、以下の(2)〜
(6)のいずれかの構成を有することが好ましい。
(2)前記フィルムが、左右のビードフィラートップ間の領域に配されて用いられていることを特徴とする上記(1)
に記載のタイヤ。
(3)前記フィルムが、ベルト端部とビードフィラートップの間の領域に配されて用いられていることを特徴とする上記(1)
に記載のタイヤ。
(4)前記他のフィルム部分よりもフィルム厚さを薄くして形成されている部分が、
丸穴状、三角形穴状、四角形穴状、五角形穴状、六角形穴状、星形穴状又は楕円形穴状のうちいずれか一つの平面形状のものを有していて、かつ
該平面形状の部分1個の面積が1〜100cm
2の範囲内であることを特徴とする上記(1)〜
(3)のいずれかに記載のタイヤ。
(5)前記他のフィルム部分よりもフィルム厚さを薄くして形成する加工が、レーザーを用いた加工であることを特徴とする上記(1)〜
(4)のいずれかに記載のタイヤ。
(6)タイヤの加硫成形後に、前記他の部分よりもフィルム厚さを薄くして形成されている部分を形成する加工がなされたものであることを特徴とする上記(1)〜
(5)のいずれかに記載のタイヤ。
【発明の効果】
【0011】
請求項1にかかる本発明のタイヤによれば、タイヤが持つバネ定数を小さくすることにより剛性を低くした空気入りタイヤを提供すること、特にタイヤを加硫成形した後においても、そのタイヤの持つバネ定数を小さくして剛性を低く調節して得ることができるタイヤを提供することができる。
【0012】
請求項2
〜6のいずれにかかる本発明のタイヤによれば、上述した請求項1にかかる本発明の空気入りタイヤが有する効果を、より明確かつ確実に有することができるタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、更に詳しく本発明のタイヤについて説明する。
【0016】
本発明のタイヤは、
図1および
図2にその形態の例をモデル的に示したように、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるフィルム10をタイヤ構成部材に用いた空気入りタイヤにおいて、該フィルム10の全表面積の30%以上80%以下の表面積の部分で、該フィルム10が他の部分よりも厚さを薄くして形成されていて、かつ、該薄く形成されている部分の厚さが前記他の部分の厚さの70%以上95%以下であることを特徴とする。
【0017】
本発明において、「タイヤ構成部材」とは、物理構造的にタイヤを構成する一つの部材をいい、本発明では、素材としては「熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるフィルム」からなる構成部材に着目したものである。そうしたフィルムであることから、具体的には、本発明でいう「タイヤ構成部材」は、代表的には、空気入りタイヤのインナーライナーあるいは一部の箇所を補強する目的で使用される補強材などが対象となるものである。
【0018】
図1、
図2、
図3、
図5では、該タイヤ構成部材が空気入りタイヤのインナーライナーである例を示して説明をしているが、本発明において、前記フィルム10はインナーライナーに使用される場合だけに限定されないことは、上述したとおりである。
【0019】
図1、
図2において、タイヤTは、トレッド部11の左右にサイドウォール部12とビード部13を連接するように設けている。そのタイヤ内側には、タイヤの骨格たるカーカス層14が、タイヤ幅方向Eに左右のビード13、13間に跨るように設けられている。ビード13のタイヤ外周側にはビードフィラー16が配され、その最外周のポイント部分がビードフィラートップ16Zaであり、この左右のビードフィラートップ16a間に跨る領域をZa(
図2)とすると、この領域Zaにおけるタイヤのバネ定数、剛性が、該タイヤの乗り心地性能やタイヤ接地長などの固有の特性に大きく影響を及ぼす。
【0020】
本発明によれば、
図1、
図2に示した態様では、インナーライナーとして使用されるフィルム10を部分的、局所的に薄くすることで、インナーライナーを構成しているフィルム10の剛性を低下させ、等方性材料に異方性を持たせることができる。その結果、タイヤ全体としてのバネ定数を非常に効果的に変化させることができる。
【0021】
具体的には、該フィルム10の全表面積の30%以上80%以下の表面積の部分で、該フィルム10が他の部分よりも厚さを薄くして形成されていて、かつ、該薄く形成されている部分の厚さが他の部分の厚さの70%以上95%以下であることが、該フィルムを用いることの本来の効果(インナーライナーであれば、空気漏れ防止効果)を発揮させつつ、剛性を低下させるという効果をバランス良く両立するために重要である。
【0022】
また、他のフィルム部分よりもフィルム厚さを薄くして形成されている部分が、該フィルム10の外縁線にかからずに形成されていることが好ましい。該フィルム10の外縁線上にかかって該フィルムの厚さに大小変化がある場合には、その周辺箇所でクラックや剥がれの発生の起点となる場合があるので好ましくない。
【0023】
フィルム10は、左右のビードフィラートップ16a間の領域Za内に少なくとも一部が配されて用いられていることが好ましい。ビード13付近は本来撓むことがないようにされるべきであるので、剛性の低下は考慮されるべきでなく、それに対して左右のビードフィラートップ16a間は撓む部分であるので、その領域Za内に少なくとも一部があることが効果的だからである。該左右のビードフィラートップ16a間では、カーカス層14のタイヤ内腔側、あるいはタイヤ外周側のいずれに配されてもよい。内腔側の場合にはインナーライナーとしての使用が実際的であり、タイヤ外周側では補強材としての使用が実際的である。
【0024】
また、さらにフィルム10は、領域Za内でも、特にベルト端部15eとビードフィラートップ16aの間の領域Zbに配されて用いられることが本発明の効果をより顕著に発揮できるので好ましい。
【0025】
ベルト下部分は、比較的、剛性が高いものであり、その部分でフィルムを用いて、かつ部分的に薄くしたとしてもタイヤの剛性変化として現れにくい点があり、ベルト端部15eとビードフィラートップ16aの間の領域Zbでフィルムを使用しかつ局所的に薄くすることが大きな効果として得られるからである。その場合、ベルト端部15eとビードフィラートップ16aの間の領域Zb内のフィルムの全表面積を基準として、その30%以上80%以下の表面積の部分で、他の部分よりもフィルム厚さを薄くして形成することが好ましい。領域Zbは、上述したようなタイヤの剛性変化が現れやすい箇所であり、その領域Zb部分を基準にすることがより高い効果を得ることに繋がるからである。
【0026】
本発明において、他のフィルム部分よりもフィルム厚さを薄くして形成されている部分は、線形以外の平面形状のものを有していて、かつ該線形以外の平面形状の部分1個の面積が1〜100cm
2の範囲内であることが好ましい。
【0027】
図3は、フィルム10をインナーライナーとして使用していて、そのショルダー部付近の内腔側表面において、丸穴形状の薄くした部分17を列状に多数設けた例を示している。該薄くした部分17は、タイヤ周方向にそって規則性をもってタイヤ一周分全域にわたり存在していてもよく、あるいは、周上で一箇所か複数箇所の領域で部分的に存在していてもよい。
【0028】
薄くした部分17の形状は、
図4(a)に示したような丸穴状、同(b)に示したような三角形穴状、同(c)に示したような六角形穴状、同(d)に示したような五角形穴状、同(e)に示したような星形穴状、同(f)に示したような四角形穴状、あるいは、同(g)に示したような楕円形穴状などのいずれでもよい。むろん幾何学的な言葉で言い表せないような形状のものでもよい。
図4に示したような図形を組み合わせて併用してもよく、あるいは、図形どうしをくっつけたようにして複合的な形状穴として使用してもよい。
【0029】
これらに図示した図形のうち、特に丸穴状のものは尖り部が存在しないため、クラックやフィルムの剥がれが発生しにくく、かつ加工も容易なために、より効果的に剛性を小さくすることが可能であるので好ましい。
【0030】
図5は、フィルム10をインナーライナーとして使用していて、そのショルダー部付近の内腔側表面において、線形状の薄くした部分17を曲線状に設けた例を示している。該薄くした部分17は、タイヤ周方向にそって規則性をもってタイヤ一周分全域にわたり存在していてもよく、あるいは、周上で一箇所か複数箇所の領域で部分的に存在していてもよい。線形状の場合、該線形は周方向に延びるものでもよく、あるいはラジアル方向・タイヤ幅方向に延びるもの、さらにあるいは、斜め方向に延びるものでもよい。それらが混在するものであってもよく、
図4(a)〜(g)に示したような平面形状のものと混在していてもよい。
【0031】
薄くした部分17の形状が線形状の場合は、
図6(a)〜(e)に示している如く、(a)に示したような斜め線を交差させた態様、(b)に示したような縦横線のような態様、(c)に示したような直線(ラジアル方向)とギザギザ曲線の混在など、(d)に示したような直線(ラジアル方向)とギザギザ曲線の混在など、(e)に示したような断続的な直線が並んだ態様など、いずれであってもよい。
【0032】
他の部分よりもフィルム厚さを薄く形成する加工は、タイヤの加硫成形後にレーザーを用いて行う加工であることが、比較的簡単であるので好ましい。特に、レーザーを用いた加工は、タイヤの加硫成形後において、他の部分よりもフィルム厚さを薄く形成する加工を非接触方式で可能なことから好都合であり、ブラダーとしては共通で同一のタイヤでも、個々のタイヤごとにタイヤバネ定数を設定するなどのときに好都合である。また、タイヤ赤道面を境界にして、非対称の剛性分布を有するタイヤなども比較的簡単に製造することができるので有益である。
【0033】
なお、タイヤの加硫成形後にレーザーを用いた加工を行い難い場所の場合には、フィルムを加硫成形前のグリーンタイヤに組み込む以前で該部材にレーザーを用いて薄くする加工をしてもよい。
【0034】
具体的には、例えば、インナーライナーをなしているフィルムの所定面(タイヤ内腔側の面)に対して、レーザー加工をタイヤ幅方向に行うことなどにより行うことができる。すなわち、薄い部分の形成は、例えば、インナーライナーの表面(フィルム面)に対して、その垂直方向からレーザー光を照射しながら該フィルムシートの面方向に移動させていく加工法などにより行うことができ、このレーザー光を用いた加工は非接触方式であることから狭い空間などでも加工ができ好ましいものである。
【0035】
レーザー光の照射は、移動させながら連続的に行ってもよく、あるいは移動させながら間歇的に行ってもよい。特に、レーザー光照射の移動速度と強さを調整することにより、形成される薄くする部分の深さ(フィルムの厚さ)を調整することができるので、レーザー光を照射する加工方法は最も優れている。レーザー光は、赤外線レーザー、あるいはCO
2 (炭酸ガス)レーザーを用いることが好ましく、中でもCO
2 (炭酸ガス)レーザーを用いることが加工性の良さ、制御性などの点で好ましい。YAGレーザーはフィルムシート材の素材にもよると思われるが、加工性、制御性の上で上記のものよりは劣ることが多い。
【0036】
レーザー光を使用して薄い部分の形成加工をする際、被加工領域(薄く加工する領域)の全面積を隙間なく加工することは必ずしも必要ではなく、該被加工領域のほぼ全域に対して「線描」のように、一部の隙間を残しながら全域に加工処理するようにしてもよい。該線描のようにしてレーザー光を使用して、ある程度の面積を持つ領域に薄い部分を形成する場合、レーザー光による加工の被処理幅(線幅)は、0.2〜1mm程度とすることが好ましい。
【0037】
本発明で用いることのできる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂〔例えば、ナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6(MXD6)、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体〕及びそれらのN−アルコキシアルキル化物、例えば、ナイロン6のメトキシメチル化物、ナイロン6/610共重合体のメトキシメチル化物、ナイロン612のメトキシメチル化物、ポリエステル系樹脂〔例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミドジ酸/ポリブチレンテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル〕、ポリニトリル系樹脂〔例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、(メタ)アクリロニトリル/スチレン共重合体、(メタ)アクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体〕、ポリメタクリレート系樹脂〔例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル〕、ポリビニル系樹脂〔例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアルコール/エチレン共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体、塩化ビニリデン/アクリロニトリル共重合体(ETFE)〕、セルロース系樹脂〔例えば、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース〕、フッ素系樹脂〔例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロルフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフロロエチレン/エチレン共重合体〕、イミド系樹脂〔例えば、芳香族ポリイミド(PI)〕等を好ましく用いることができる。
【0038】
また、本発明で使用できる熱可塑性樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂とエラストマーは、熱可塑性樹脂については上述のものを使用できる。エラストマーとしては、例えば、ジエン系ゴム及びその水添物〔例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR、高シスBR及び低シスBR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBR〕、オレフィン系ゴム〔例えば、エチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニル又はジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー〕、含ハロゲンゴム〔例えば、Br−IIR、CI−IIR、臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合体(BIMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、塩素化ポリエチレンゴム(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレンゴム(M−CM)〕、シリコンゴム〔例えば、メチルビニルシリコンゴム、ジメチルシリコンゴム、メチルフェニルビニルシリコンゴム〕、含イオウゴム〔例えば、ポリスルフィドゴム〕、フッ素ゴム〔例えば、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム〕、熱可塑性エラストマー〔例えば、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ボリアミド系エラストマー〕等を好ましく使用することができる。
【0039】
また、前記した特定の熱可塑性樹脂と前記した特定のエラストマーとの組合せでブレンドをするに際して、相溶性が異なる場合は、第3成分として適当な相溶化剤を用いて両者を相溶化させることができる。ブレンド系に相溶化剤を混合することにより、熱可塑性樹脂とエラストマーとの界面張力が低下し、その結果、分散相を形成しているエラストマーの粒子径が微細になることから両成分の特性はより有効に発現されることになる。そのような相溶化剤としては、一般的に熱可塑性樹脂及びエラストマーの両方または片方の構造を有する共重合体、あるいは熱可塑性樹脂又はエラストマーと反応可能なエポキシ基、カルボニル基、ハロゲン基、アミノ基、オキサゾリン基、水酸基等を有した共重合体の構造をとるものとすることができる。これらはブレンドされる熱可塑性樹脂とエラストマーの種類によって選定すればよいが、通常使用されるものには、スチレン/エチレン・ブチレンブロック共重合体(SEBS)およびそのマレイン酸変性物、EPDM、EPM、EPDM/スチレンまたはEPDM/アクリロニトリルグラフト共重合体及びそのマレイン酸変性物、スチレン/マレイン酸共重合体、反応性フェノキシン等を挙げることができる。かかる相溶化剤の配合量には特に限定されないが、好ましくは、ポリマー成分(熱可塑性樹脂とエラストマーとの合計)100重量部に対して、0.5〜10重量部がよい。
【0040】
熱可塑性樹脂とエラストマーがブレンドされた熱可塑性樹脂組成物において、特定の熱可塑性樹脂とエラストマーとの組成比は、特に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマーが不連続相として分散した構造をとるように適宜決めればよく、好ましい範囲は重量比90/10〜30/70である。
【0041】
本発明において、熱可塑性樹脂、または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物には、インナーライナーあるいは補強部材としての必要特性を損なわない範囲で相溶化剤などの他のポリマーを混合することができる。他のポリマーを混合する目的は、熱可塑性樹脂とエラストマーとの相溶性を改良するため、材料の成型加工性をよくするため、耐熱性向上のため、コストダウンのため等があり、これに用いられる材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ABS、SBS、ポリカーボネート(PC)等を例示することができる。
【0042】
また、エラストマーは、熱可塑性樹脂との混合の際に、動的に加硫することもできる。動的に加硫する場合の加硫剤、加硫助剤、加硫条件(温度、時間)などは添加するエラストマーの組成に応じて適宜決定すればよく、特に限定されるものではない。
【0043】
また、一般的にポリマー配合物に配合される充填剤(炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミナ等)、カーボンブラック、ホワイトカーボン等の補強剤、軟化剤、可塑剤、加工助剤、顔料、染料、老化防止剤等をインナーライナーあるいは補強部材としての必要特性を損なわない限り任意に配合することもできる。熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマーが不連続相として分散した構造をとる。かかる構造をとることにより、インナーライナーあるいは補強部材に十分な柔軟性と連続相としての樹脂層の効果に、より十分な剛性を併せ付与することができると共に、エラストマーの多少によらず、成形に際し、熱可塑性樹脂と同等の成形加工性を得ることができるものである。
【0044】
本発明で使用できる熱可塑性樹脂、エラストマーのヤング率は、特に限定されるものではないが、いずれも、好ましくは1〜500MPa、より好ましくは50〜500MPaにするとよい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例に基づいて、本発明の空気入りタイヤの具体的構成、効果について説明する。
【0046】
実施例1−10、比較例1
試験タイヤとして、195/65R15を用い、実施例1−10、比較例1ごとに各5本を作製した。
【0047】
(1)空気漏れ試験法(圧力低下率)
初期圧力200kPa、室温21℃、無負荷条件にて3ヶ月放置する。内圧の測定間隔は4日毎とし、測定圧力P1、初期圧力P0、経過日数tとして次の式に回帰してα値を求める。
(P1/P0)=exp(−αt)
【0048】
得られたαを用い、t=30(日)を代入し、1ヶ月当たりの圧力低下率β(%/月)=(1−exp(−αt))×100を求め、比較例1を100とする指数で表した。この値が大きいほど、空気漏れが少なく優れることを示す。
【0049】
(2)乗り心地試験
空気入りタイヤをリムサイズ15×6JJのリムに装着し、空気圧を230kPaにして国産2リットルクラスの試験車両に取り付け、訓練された5名のテストドライバーがテストコースを周回するときの乗り心地性のフィーリングを評点し、その平均地により評価した。得られた結果を、比較例1を100とする指数で表した。この指数値が大きいほど乗り心地性が優れることを示す。
【0050】
実施例1−10、比較例1のタイヤのいずれも、表1に示したとおりの組成からなる厚さ200μmのフィルムを用いてインナーライナーとして使用したものである。
【0051】
実施例1−10、比較例1の詳細は表2に記載したとおりであり、評価結果も表2に記載した。薄くした部分の形状については、
図4と
図6に例示したモデル形状のうちのいずれであるかを表2に示した。薄くする加工は、全てタイヤの加硫成形後にレーザーを用いて行ったものである。薄くした部分の形状にして、個々の丸形、五角形、四角形、星形の面積は、1〜100cm
2の範囲内のものである。
【0052】
本発明にかかるタイヤは、乗り心地性能に優れ、また耐空気漏れ性能においても優れているものであった。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】