(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6152905
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】熱間圧延用チタンスラブ
(51)【国際特許分類】
B21B 3/00 20060101AFI20170619BHJP
【FI】
B21B3/00 K
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-34938(P2016-34938)
(22)【出願日】2016年2月26日
(62)【分割の表示】特願2012-157822(P2012-157822)の分割
【原出願日】2012年7月13日
(65)【公開番号】特開2016-153141(P2016-153141A)
(43)【公開日】2016年8月25日
【審査請求日】2016年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】植野 薫文
(72)【発明者】
【氏名】竹津 克彦
【審査官】
坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−214801(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/02,3/00,45/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンスラブの側面に、金属面が露出した部分と黒皮が残存している部分とが存在する熱間圧延用チタンスラブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延用のチタンスラブに関する。
【背景技術】
【0002】
純チタンおよびチタン合金の展伸材は、VAR(消耗電極型真空アーク溶解)、EBR(電子ビーム溶解)等で製造されたインゴットが、鍛造または分塊圧延によってスラブに成形され、その後熱間圧延や冷間圧延を経て製造される。
一般に、熱間圧延用スラブは、熱間圧延や更には冷間圧延を経て表面疵のない、美麗な板材が得られるように、表面手入れが行われる。
【0003】
例えば、特許文献1には、熱間圧延用のチタンスラブの表面を粗手入後に、ショットブラストにより所定の表面粗さになるように仕上げる表面手入方法が記載されている。また、特許文献2には、溶解鋳造後の丸形チタン鋳塊から粗鍛造工程、分塊圧延工程等を経て熱間圧延用のスラブを製造する一連の工程のなかで、機械切削によってスラブの表面疵を取り除くことが記載されている。しかし、ここに記載される表面手入方法では、歩留まりの大幅な悪化や手入れ工数の増加が避けられない。
【0004】
この問題を改善する方法として、例えば特許文献3では、チタンインゴット(スラブ)の表面層に鍛造等による加工ひずみを加えた後、加熱して表面層の組織を再結晶させ、続いて熱間加工を行う方法が提案されている。これにより、熱間加工時の表面疵発生を低減して、良好な表面性状を有する製品を得ることが可能であるとしている。
【0005】
また、特許文献4では、チタンスラブの表面と裏面にグリッドをブラストすることにより、表層部に存在する硬化層のうちのHv硬度が250超の表層部分を除去し、スラブ表面の硬度を250Hv以下として熱間圧延する方法が提案されており、チタンスラブの精製歩留りを飛躍的に向上させることができるとしている。
【0006】
特許文献1、2に記載される表面手入方法を含め、上記いずれの提案も、チタンスラブの表面や裏面(圧延される面)の処理方法であり、処理の対象とする面積が大きいこともあって、相応の効果が得られている。
【0007】
一方、チタンスラブの側面側(圧延される面の側面)の手入れについては、ほとんど改善がされていない。これは、以下の理由によるものである。
【0008】
すなわち、側面に欠陥(疵)があった場合、熱間圧延中に疵が開いて内部が酸化され、その後の圧延によって側面が表面に回り込み、コイルエッジ部に圧延方向に伸びた酸化物が表面に被さったような疵(通称「エッジヘゲ」)となり、コイル両端のトリミング代を大きくとる必要が生じて、歩留まりが悪化する。また、圧延中のスラブ側面は温度が低下しやすく、側面の疵を起点として割れが発生し、コイル内部まで伝播するような欠陥(「耳割れ」と総称される)となった場合には、最悪スクラップ処理を余儀なくされる場合がある。そのため、歩留まり改善や工数削減による効果に比較して、欠陥発生のリスクならびに欠陥が発生した場合に蒙る不利益が大きく、通常は、安全を考慮して、チタンスラブの側面の手入れでは必要以上に研削を行っているのが実情である。
【0009】
具体的に説明すると、通常の研削工程では、スケール(以下、通称されている「黒皮」と記す)で覆われた状態(黒皮状態)にあるチタンスラブの側面を、自動研削機等で数mm、場合によっては10mm以上の深さまで研削し、表面全体に金属面を露出させた後に、部分的に残存する疵を、ハンドグラインダー等で研削除去している。そのために、大きな歩留まりロスと、長い作業時間を要している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭62−214801号公報
【特許文献2】特公昭59−16858号公報
【特許文献3】特開平1−156456号公報
【特許文献4】特開平8−238502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、簡便な方法で、チタンスラブの側面の手入れを行うことによりチタンスラブの熱間圧延時に発生するシーム疵や耳割れを防止して、高価な材料であるチタン材の歩留まりを向上させることができるチタンスラブ側面の手入方法、およびその処理が施された熱間圧延用のチタンスラブを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明者らは、チタンスラブの熱間圧延時に発生し、進展するシーム疵や耳割れとなるスラブの表面欠陥の形態について検討した。その結果、表面が黒皮で覆われた黒皮状態にあるスラブの表面から0.7mm程度研削を行うことによって、熱間圧延時にシーム疵や耳割れになる欠陥であるか否かを目視観察によりほぼ判断できることがわかった。0.7mm程度の研削では、側面の一部に黒皮が残存しているが、シーム疵や耳割れに発展する欠陥は、黒皮が部分的に残存していても目視で十分に見分けることが可能である。
【0013】
本発明はこのような知見に基づきなされたもので、下記(1)のチタンスラブ側面の手入方法、およびこのような手入れによりスラブ側面の欠陥が除去されてなる下記(2)のチタンスラブを要旨とする。
(1)チタンスラブ側面の手入方法であって、スラブの側面を0.7mm以上、2.0mm以下研削し、その後目視で観察される欠陥を部分手入れにより除去することを特徴とするチタンスラブ側面の手入方法。
ここでいう「チタンスラブ」とは、純チタンまたはチタン合金からなるインゴットを鍛造または分塊圧延して得られた純チタンスラブまたはチタン合金スラブをいう。
また、目視で観察される「欠陥」とは、前述のように、チタンスラブの熱間圧延時に発生するシーム疵や耳割れの起点となる欠陥をいう。
前記(1)の手入方法において、スラブの側面の0.7mm以上、2.0mm以下の研削を自動研削機により行い、部分手入れをグラインダーにより行うことが、簡便であり、望ましい。
(2)熱間圧延に供されるチタンスラブであって、上記(1)に記載の手入方法によりスラブ側面が研削手入れされ、その後目視で観察される欠陥が部分手入れにより除去されてなることを特徴とするチタンスラブ。
前記(2)のチタンスラブにおいて、スラブの側面の研削は自動研削機により行われ、部分手入れはグラインダーにより行われたものであることが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のチタンスラブ側面の手入方法によれば、簡便な方法で、チタンスラブの側面の手入れを行うことにより、チタンスラブの熱間圧延時に発生するシーム疵や耳割れを防止することができる。側面研削深さを浅くできるので、研削工数を低減し、研削歩留を改善することができる。
本発明のチタンスラブは、このような側面の手入れ処理が施されたスラブで、熱間圧延において、シーム疵や耳割れの発生が抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】スラブ側面の切削量と熱間圧延後のコイルに発生した耳割れ量の関係を示す図である。
【
図2】スラブ側面の切削量と熱間圧延後のコイルに発生したシーム量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のチタンスラブ側面の手入方法は、前記(1)に記載のとおり、スラブの側面を0.7mm以上、2.0mm以下研削し、その後目視で観察される欠陥を部分手入れにより除去することを特徴とする手入方法である。
【0017】
チタンスラブは、鍛造または分塊圧延によってスラブに成形されるまでに加熱され、高温状態に維持されるので、その表面は黒皮で覆われている。スラブの側面の研削は、通常は、この黒皮の上から行う。研削深さを0.7mm以上とするのは、それによって、熱間圧延時にシーム疵や耳割れに進行する欠陥であるか否かを目視観察によりほぼ判断できるからである。この場合、黒皮の一部が残存しているが、判断の支障にはならない。この判断の正確度を高め、後に行う部分手入れによって前記の欠陥を完全に除去するために、研削深さは1.0mm以上とすることが望ましい。
【0018】
研削深さの上限は、歩留まりの低下を抑える観点から自ずと定まる。上限は、スラブを構成するチタン材の材質に応じ、研削面の性状を観察しつつ、その都度判断して定めればよいが、本発明では、研削深さの上限は2.0mm程度とする。
【0019】
スラブの側面を前記所定深さまで研削した後、目視で観察される欠陥を除去する。すなわち、部分手入れを行う。この欠陥は、当該スラブを熱間圧延時にシーム疵や耳割れの起点になる欠陥で、目視で容易に判断可能である。
【0020】
前記0.7mm以上を研削する方法は特に限定されないが、自動研削機を用いて行うのが簡便であり、望ましい。これにより、所定深さの研削を容易にかつ確実に行うことができるとともに、手入れ工数を大幅に削減することができる。また、研削深さが0.7mm程度と浅いので、従来の数mm、場合によっては10mm以上の深さまで研削する場合に比べて、研削に要する時間も大幅に短縮され、研削歩留りが改善される。
【0021】
目視で観察される欠陥を部分手入れするための方法も限定されない。この場合は、除去すべき欠陥が局部的に存在するので、ハンドグラインダーなど、グラインダーによりその部分に対して手入れを行って欠陥を除去するのが、簡便で、望ましい。研削深さは、前記目視観察による判断の正確度を高める観点から、1.0mm以上とするのが望ましい。
【0022】
本発明のチタンスラブは、前記(2)に記載のとおり、熱間圧延に供されるチタンスラブであって、スラブの側面が0.7mm以上研削され、その後目視で観察される欠陥が部分手入れにより除去されてなることを特徴とするスラブである。
【0023】
このスラブは、熱間圧延に供されるチタンスラブである。このようなスラブを対象とするのは、前述のように、チタンスラブは、熱間圧延に供した場合、シーム疵や耳割れが発生することがあるので、その解決手段を提供するためである。
【0024】
スラブ側面の研削は黒皮の上から行われるので、このチタンスラブの側面には、通常、黒皮が残存している。
【0025】
このチタンスラブは、側面が0.7mm以上、2.0mm以下研削され、その後目視で観察される欠陥が部分手入れにより除去されてなるスラブであることとするのは、前述の熱間圧延時にシーム疵や耳割れに進行する欠陥があらかじめ除去されたスラブとするためである。
【0026】
前記0.7mm以上の研削は自動研削機により行われ、目視で観察される欠陥の除去はハンドグラインダーなど、グラインダーにより行われたものであることが望ましい。前述のように、所定深さの研削ならびに欠陥の除去が容易にかつ確実に行われているからである。
【0027】
以上説明したように、本発明のチタンスラブ側面の手入方法によれば、簡便な方法で、チタンスラブの側面の手入れを行って、チタンスラブの熱間圧延時に発生するシーム疵や耳割れの起点になる欠陥を除去することができる。これにより、チタン材の歩留まりを向上させるとともに、研削に要する時間を大幅に短縮することが可能である。
また、本発明のチタンスラブは、このような側面の手入れ処理が施されたスラブで、熱間圧延に供したとき、シーム疵や耳割れの発生が抑えられる。
【実施例】
【0028】
JIS2種の純チタン材を用い、本発明の効果を確認した。
VAR(消耗電極型真空アーク溶解)で直径980mm、長さ2500mmのチタンインゴットを製造し、熱間鍛造により厚さ220mm、幅1280mm、長さ6000mmのスラブとした。
【0029】
前記スラブの圧延面に関しては、表裏両面共、自動研削装置を用いてスケールを完全に除去し、金属面が表面に現れるまで研削を行った。この時の研削深さは、1.5mmであった。その後、残存している欠陥を、ハンドグラインダーで研削除去した。
【0030】
一方、スラブの側面に関しては、自動研削機を使用し、研削深さ(切削量)を0.1mm〜2.0mmの範囲で種々変化させて研削し、目視検査により発見された欠陥を、ハンドグラインダーによる部分手入れ(部分検索)で除去した。
【0031】
その後、前記のスラブを熱間圧延し、圧延後の板材(コイルとして巻き取られる)のエッジ部に発生した耳割れの長さ(コイルの巾端部からコイル長手方向に対して直角方向への割れの進展長さで、耳割れ量ともいう)、およびシーム疵の発生位置(シーム疵が確認される位置から巾端部の位置までの距離で表示し、シーム量と記す)を測定し、研削深さとの関係を調査した。
【0032】
調査結果を、表1に示す。表1において、耳割れ量およびシーム量の値は、いずれもコイル内での測定結果の最大値である。
【0033】
【表1】
【0034】
表1の「評価」の欄の記号の意味は次のとおりであり、「◎」または「○」であれば合格とした。
◎:優良。耳割れ量およびシーム量がそれぞれ7mm以下であったことを示す。
○:良。耳割れ量およびシーム量がそれぞれ7mmを超え10mm以下であったこと
を示す。
×:不可。耳割れ量およびシーム量がそれぞれ10mmを超えたことを示す。
【0035】
図1および
図2は表1に示した調査結果を示す図である。
図1は、スラブ側面の切削量と熱間圧延後のコイルに発生した耳割れ量の関係を示す図であり、
図2は、スラブ側面の切削量と熱間圧延後のコイルに発生したシーム量の関係を示す図である。
図1および
図2中に示した「黒皮残り+部分研削」は、熱間圧延に供される前の黒皮が残存しているスラブの側面に対し、横軸に示した所定量の研削を行い、その後部分手入れ(部分研削)を行ったことを表している。
【0036】
表1ならびに
図1および
図2に示したように、研削深さが0.7mm未満の場合は、熱間圧延後の耳割れ量およびシーム量が評価基準の合格ライン(それぞれ10mm以下)を超えている。これは、研削深さが本発明の規定より浅かったため、スラブ側面の目視観察では耳割れやシーム疵になる欠陥であるか否かの判断ができず、これらの欠陥の除去が不十分であったことによるものである。
【0037】
これに対し、研削深さを0.7mm以上とし、その後目視で観察される欠陥をハンドグラインダーで除去することにより、耳割れ量およびシーム量を10mm以下に抑えることができた。特に、研削深さを1.0mm以上とした場合、耳割れ量およびシーム量はいずれも7mm以下で、良好な評価結果が得られた。研削深さを本発明で規定する深さにすることにより、耳割れやシーム疵になる欠陥であるか否かの判断の正確度を高め、この欠陥の除去を適切に行えたことによるものである。
【0038】
研削深さを0.7mm以上としたときの耳割れ量およびシーム量(いずれも10mm以下)は、熱間圧延や冷間圧延の後に製品幅調整のために実施されるトリミングの際の切り落とし幅の範囲内に納まる長さである。
【0039】
上記の実施例により、本発明の効果が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のチタンスラブ側面の手入方法によれば、簡便な方法で、チタンスラブの側面の手入れを行って、チタンスラブの熱間圧延時に発生するシーム疵や耳割れの起点になる欠陥を除去することができる。本発明のチタンスラブは、熱間圧延に供してもシーム疵や耳割れの発生が抑えられる。したがって、本発明は、純チタンおよびチタン合金の展伸材の製造に有効に利用することができる。