特許第6152924号(P6152924)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6152924グラフェン分散液およびその製造方法、グラフェン−活物質複合体粒子の製造方法ならびに電極ペーストの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6152924
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】グラフェン分散液およびその製造方法、グラフェン−活物質複合体粒子の製造方法ならびに電極ペーストの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/194 20170101AFI20170619BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20170619BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20170619BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20170619BHJP
   H01G 11/22 20130101ALI20170619BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20170619BHJP
   H01G 11/36 20130101ALI20170619BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20170619BHJP
【FI】
   C01B32/194
   H01M4/04 Z
   H01M4/36 A
   H01M4/62 Z
   H01G11/22
   H01G11/86
   H01G11/36
   H01M4/139
【請求項の数】14
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-559376(P2016-559376)
(86)(22)【出願日】2016年9月9日
(86)【国際出願番号】JP2016076654
【審査請求日】2016年11月30日
(31)【優先権主張番号】特願2015-184813(P2015-184813)
(32)【優先日】2015年9月18日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】眞鍋 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】玉木 栄一郎
(72)【発明者】
【氏名】川崎 学
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−059079(JP,A)
【文献】 特開2014−009151(JP,A)
【文献】 特表2015−520109(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/140324(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/122498(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00−32/991
H01G 11/22
H01G 11/36
H01G 11/86
H01M 4/04
H01M 4/139
H01M 4/36
H01M 4/62
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェンがN−メチルピロリドンを50質量%以上含む溶媒に分散した分散液であって、N−メチルピロリドンでグラフェン重量分率0.000013に調整した希釈液の、波長270nmにおける下記式(1)を用いて算出される重量吸光係数が25000cm-1以上200000cm-1以下であるグラフェン分散液。
重量吸光係数(cm-1)=吸光度/{(0.000013×セルの光路長(cm)}
・・・(1)
【請求項2】
前記希釈液の、下記式(2)を用いて算出される吸光度比が1.70以上4.00以下である、請求項1に記載のグラフェン分散液
吸光度比=吸光度(270nm)/吸光度(600nm) ・・・(2)
【請求項3】
前記グラフェンの、X線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の元素比(O/C比)が0.05以上0.40以下である、請求項1または2に記載のグラフェン分散液。
【請求項4】
酸性基を有する表面処理剤を含む、請求項1〜3のいずれかに記載のグラフェン分散液。
【請求項5】
前記グラフェンの、X線光電子分光法により測定される炭素に対する窒素の元素比(N/C比)が0.005以上0.030以下である、請求項1〜4のいずれかに記載のグラフェン分散液。
【請求項6】
前記グラフェンの、BET測定法により測定される比表面積が80m2/g以上250m2/g以下である、請求項1〜5のいずれかに記載のグラフェン分散液。
【請求項7】
固形分率が0.3質量%以上40質量%以下である、請求項1〜6のいずれかに記載のグラフェン分散液。
【請求項8】
レーザー回折/散乱式粒度分布測定法により測定されるグラフェンのメジアン径をD(μm)、レーザー顕微鏡により観察したグラフェンの最長径と最短径の相加平均により求めたグラフェンの面方向の大きさの平均値をS(μm)とした場合に、下記式(3)および(4)を同時に満たす、請求項1〜7のいずれかに記載のグラフェン分散液。
0.5μm≦S≦15μm ・・・(3)
1.0≦D/S≦3.0 ・・・(4)
【請求項9】
請求項1〜のいずれかに記載のグラフェン分散液と、電極活物質粒子とを混合した後に乾燥することを含む、グラフェン−電極活物質複合体粒子の製造方法。
【請求項10】
電極活物質、バインダーおよび請求項1〜のいずれかに記載のグラフェン分散液を混合することを含む、電極ペーストの製造方法。
【請求項11】
水を含む分散媒に分散した酸化グラフェンを還元する還元工程;
還元工程で得られた中間体分散液とN−メチルピロリドンを50質量%以上含む溶媒(NMP含有溶媒)とを混合するNMP混合工程;
NMP混合工程で得られた中間体分散液をせん断速度毎秒5000〜毎秒50000で撹拌する強撹拌工程;
NMP含有溶媒添加と吸引濾過を組み合わせる手法、または蒸留により、中間体分散液から水分の少なくとも一部を除去する水分除去工程;
を有するグラフェン分散液の製造方法。
【請求項12】
さらに、前記還元工程の前後または前記還元工程の最中に、
中間体分散液に含まれる酸化グラフェンまたはグラフェンを微細化する微細化工程;
を有する、請求項11に記載のグラフェン分散液の製造方法。
【請求項13】
さらに、還元工程後のいずれかの段階に、
中間体分散液を加熱する熱処理工程;
を有する、請求項11または12に記載のグラフェン分散液の製造方法。
【請求項14】
さらに、前記還元工程の前後または前記還元工程の最中に、
中間外分散液と、酸性基を有する表面処理剤と混合する表面処理工程;
を有する、請求項1113のいずれかに記載のグラフェン分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェン分散液およびその製造方法、ならびにそれを用いたグラフェン−活物質複合体粒子および電極ペーストの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは炭素原子からなる二次元結晶であり、2004年に発見されて以来非常に注目されている素材である。グラフェンは優れた電気、熱、光学、および機械特性を有し、電池材料、エネルギー貯蔵材料、電子デバイス、複合材料などの領域で幅広い応用が期待されている。
【0003】
グラフェンの製造法としては、機械剥離法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、CEG(Crystal Epitaxial Growth)法などが挙げられる。その中で、酸化還元法、すなわち天然黒鉛の酸化処理で酸化黒鉛または酸化グラファイトを得た後、還元反応によりグラフェンを製造する方法は大量生産が可能であることから、産業的な製造法として有望である。
【0004】
特許文献1では、酸化グラファイトを加熱還元すると同時に膨張剥離させることで比表面積の高い薄片型の黒鉛を作製している。
【0005】
特許文献2では、カテコールの存在下でグラフェンを化学還元し、凍結乾燥することにより分散性の高いグラフェン粉末を作製している。
【0006】
特許文献3では、9,9−ビス(置換アリール)フルオレン骨格を有する水溶性化合物の存在下で酸化グラフェンを化学還元し、得られたグラフェン水分散体に有機溶媒を混合した後、遠心沈降で回収したグラフェンに、さらに有機溶媒を添加してグラフェン分散液を調製している。
【0007】
非特許文献1では、酸化黒鉛薄膜のヒドラジン還元反応を長時間化することで酸性基の還元が進み、270nmの吸光度が増大すると報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2007/047084号
【特許文献2】国際公開第2013/181994号
【特許文献3】日本国特開2015−059079号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】松雄吉晃, 炭素, 2010, No.245, 200−205
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
グラフェンを導電剤として有効に機能させるためには、薄く、かつ高い分散性を有する必要がある。しかし、特許文献1のような、加熱膨張還元法により作製したグラフェンは、比表面積が大きくなりすぎて凝集を誘発し、分散性が悪くなる。
【0011】
特許文献2のように分散剤を使用しても、後の凍結乾燥によってグラフェン同士のスタック(積層凝集)が引き起こされ、グラフェン粉末の剥離状態が不十分になる傾向がある。
【0012】
また、特許文献3の手法では、9,9−ビス(置換アリール)フルオレン骨格を有する水溶性化合物が分散液調製工程で除去されるため、グラフェンの凝集抑止効果が不足し、分散液中のグラフェンの凝集を防ぐことができなかった。
【0013】
非特許文献1のように酸化黒鉛上の酸性基を減らし共役系を修復した場合、酸性基減少による親溶媒性の不足によって溶媒中での分散性が低下し、やはり凝集を防ぐことができなかった。
【0014】
このように、グラフェンは非常に凝集しやすく、酸化還元法で製造した場合には十分な分散性が得られないために、そのポテンシャルを発揮することができていなかった。本発明は、高分散性であり、電極材料の製造原料に用いた場合に高い導電性とイオン伝導性を維持することが可能な形態のグラフェンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための本発明は、グラフェンがN−メチルピロリドンを50質量%以上含む溶媒に分散した分散液であって、N−メチルピロリドンでグラフェン重量分率0.000013に調製した希釈液の、波長270nmにおける下記式(1)を用いて算出される重量吸光係数が25000cm−1以上200000cm−1以下であるグラフェン分散液である。
重量吸光係数(cm−1)=吸光度/{(0.000013×セルの光路長(cm)} ・・・(1)
【0016】
また本発明のグラフェン分散液の製造方法は、
水を含む分散媒に分散した酸化グラフェンを還元する還元工程;
還元工程で得られた中間体分散液とN−メチルピロリドンを50質量%以上含む溶媒(NMP含有溶媒)とを混合するNMP混合工程;
NMP混合工程で得られた中間体分散液をせん断速度毎秒5000〜毎秒50000で撹拌する強撹拌工程;
NMP含有溶媒添加と吸引濾過を組み合わせる手法、または蒸留により、中間体分散液から水分の少なくとも一部を除去する水分除去工程;
を有するグラフェン分散液の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のグラフェン分散液は、導電助剤として機能するために十分に薄いグラフェンがN−メチルピロリドンを50質量%以上含む溶媒中で十分に分散して存在し、凝集が抑えられている。このようなグラフェン分散液を用いることで、樹脂や電極ペースト中でのグラフェンの分散性が良好になるとともに、活物質等の無機粒子表面へのグラフェンの吸着も容易となる。そのため、グラフェンがリチウムイオン電池等の活物質表面に吸着することにより、電極中で、活物質表面における高い電子伝導性、イオン伝導性を長期間維持することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<グラフェン分散液>
本発明のグラフェン分散液は、グラフェンがN−メチルピロリドン(NMP)を50質量%以上含む溶媒に分散した分散液である。グラフェンは、単層グラフェンが積層した構造体であり、薄片状の形態を有するものである。
【0019】
本発明のグラフェン分散液は、NMPを用いて、希釈後の希釈液全体を1としたグラフェン重量分率を0.000013に調整した希釈液の、波長270nmにおける、下記式(1)を用いて算出される重量吸光係数(以下、単に「重量吸光係数」という。)の値が、25000cm−1以上200000cm−1以下である。
重量吸光係数(cm−1)=吸光度/{(0.000013×セルの光路長(cm)} ・・・(1)
【0020】
グラフェンの単位重量あたりの吸光度は、グラフェンの剥離度によって変化し、単層グラフェンが最も高く、層数の増加や凝集の形成によって低くなる。
【0021】
重量吸光係数が25000cm−1未満の場合、含有するグラフェンの剥離度やNMPへの分散性が低く、樹脂や電極ペースト中での良好な導電パスの形成、維持ができない。また、重量吸光係数が200000cm−1より大きい場合、グラフェンの表面積増大による高粘度化のため、グラフェン分散液の取り扱い性が低下する。重量吸光係数は、好ましくは40000cm−1以上150000cm−1以下であり、より好ましくは、45000cm−1以上100000cm−1以下である。
【0022】
また、上記のように調製した希釈液の、波長270nmと600nmにおける、下記式(2)を用いて算出される吸光度比(以下、単に「吸光度比」という。)の値が、1.70以上4.00以下であることが好ましく、1.80以上3.00以下であることがより好ましく、1.90以上2.50以下であることがさらに好ましい。
吸光度比=吸光度(270nm)/吸光度(600nm) ・・・(2)
【0023】
吸光度には光の吸収成分と散乱成分が含まれており、散乱成分はグラフェンの表面状態により増減する。波長270nmでは散乱成分の吸光度に占める割合は小さいが、波長600nmでは吸収成分が小さいため、吸光度に占める散乱成分の割合が大きい。含有するグラフェンに凝集が多く含まれている場合、吸光度比が1.70未満となり、樹脂や電極ペースト中での良好な導電パスの形成、維持が困難となる傾向がある。また、グラフェンを過度に微粒化した場合、吸光度比が4.00より大きくなり、樹脂や電極ペースト中で凝集しやすくなる傾向がある。ここで、グラフェン分散液から調整した希釈液の吸光度は、紫外可視分光光度計で測定することができる。上記式(1)および(2)におけるグラフェンの吸光度は、グラフェン分散液から調整した希釈液の吸光度から、希釈液の溶媒の吸光度を差し引くことで求めることができる。
【0024】
本発明のグラフェン分散液の固形分率Gは、0.3質量%以上40質量%以下であることが好ましい。固形分率は20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、7質量%以下が一層好ましく、5質量%以下が特に好ましい。また、固形分率は0.7質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることがさらに好ましい。固形分率が5質量%以下であると、流動性が出やすく取り扱い性に優れる。固形分率が40質量%を超えると、分散液中でグラフェンの積層凝集が起こりやすくなり、良好な分散状態を維持しにくく、0.3質量%未満であると、電極ペーストの製造に用いた際、分散液中の溶媒により電極ペーストの固形分率が下がり粘度が低下するため、塗工性が悪化する傾向がある。
【0025】
グラフェン分散液の固形分率Gは、グラフェン分散液から溶媒を乾燥させた後の重量を測定し、測定値をグラフェン分散液自体の重量で除すことで算出できる。具体的には、グラフェン分散液1g程度を重量既知のガラス基板上に付着させ、120℃に温度調整したホットプレート上で1.5時間加熱して溶媒を揮発させた際に残存したグラフェンの重量を測定して算出する。
【0026】
本発明のグラフェン分散液は、酸性基を有する表面処理剤(以下、単に「表面処理剤」ということがある。)を含んでいることが好ましい。酸性基を有する表面処理剤は、少なくともその一部がグラフェンの表面に付着して存在していることで、グラフェンの分散性を高める効果を発揮するものである。ここで、酸性基とは、ヒドロキシ基、フェノール性ヒドロキシ基、ニトロ基、カルボキシル基、またはカルボニル基である。表面処理剤は、酸性基、すなわちヒドロキシ基、フェノール性ヒドロキシ基、ニトロ基、カルボキシル基、またはカルボニル基を有する化合物であれば特に制限はなく、高分子化合物であっても低分子化合物であってもよい。
【0027】
酸性基を有する高分子化合物としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリメチルビニルエーテル、等を例示できる。低分子化合物としては、グラフェン表面との親和性という観点から芳香環を持つ化合物が好ましい。グラフェンの導電性を高める観点からは、高分子化合物よりも低分子化合物の方が好ましい。
【0028】
中でも、カテコール基を有する化合物は、グラフェンへの接着性、溶媒への分散性を有することから、表面処理剤として好ましい。カテコール基を有する化合物としては、カテコール、ドーパミン塩酸塩、3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−L−アラニン、4−(1−ヒドロキシ−2−アミノエチル)カテコール、3,4−ジヒドロキシ安息香酸、3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸、カフェイン酸、4−メチルカテコールおよび4−tert−ブチルピロカテコールが挙げられる。
【0029】
表面処理剤の酸性基としては、フェノール性ヒドロキシ基が好ましい。フェノール性ヒドロキシ基を持つ化合物としては、フェノール、ニトロフェノール、クレゾール、カテコール、およびこれらの一部を置換した構造をもつ化合物が挙げられる。
【0030】
また、酸性基を有する界面活性剤も、表面処理剤として好適に用いられる。界面活性剤としては、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等のいずれも使用できるが、アニオン、カチオンはそれ自体が電気化学反応に関与することがあるため、電池材料として使用する場合にはイオン化されていないノニオン系界面活性剤が好適である。
【0031】
また、表面処理剤は、酸性基に加えて塩基性基を有していても良く、特にアミノ基を有することにより分散性が向上する。そのため、カテコール基およびアミノ基の両方を持つ化合物は、表面処理剤として特に好ましい。このような化合物としてはドーパミン塩酸塩が例示される。
【0032】
本発明のグラフェン分散液のレーザー回折/散乱式粒度分布測定法により測定されるグラフェンのメジアン径をD(μm)、レーザー顕微鏡により観察したグラフェンの最長径と最短径の相加平均により求めたグラフェンの面方向の大きさの平均値をS(μm)とした場合に、下記式(3)および(4)を同時に満たすことが好ましい。
0.5μm≦S≦15μm ・・・(3)
1.0≦D/S≦3.0 ・・・(4)
【0033】
グラフェンのメジアン径Dは、グラフェン分散液を直接レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置に供して測定した粒度分布の中央値に対応する粒子径である。具体的には、後述する測定例5に記載の方法で測定することができる。グラフェンの面方向の大きさS(最長径と最短径の平均)は特に制限は無いが、下限として、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは0.7μm以上、さらに好ましくは1.0μm以上であり、上限として、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは4μm以下である。Sが0.5μm未満の場合、電極に適用した場合にグラフェン同士の接点の数が多くなり、電気抵抗値が増大しやすくなる傾向がある。またSが15μmより大きい場合、グラフェンの剥離度や溶媒への分散性が低く、電極用ペーストにした際の塗布性の低下や塗布膜面の品質低下が懸念され、電極を形成した際に良好な導電パスが形成できない可能性がある。
【0034】
また、D/Sが1.0未満の場合、すなわちグラフェンの面方向の大きさSがメジアン径Dよりも大きい場合、グラフェンは面形状でなく溶剤中で折り畳まれた構造になっていることを示している。この場合、グラフェン同士が孤立してしまい、電極を形成した際に良好な導電パスが形成できない可能性がある。一方、D/Sが3.0を超える場合、グラフェン同士が過剰に凝集していることを示しており、十分な剥離や分散性が得られにくい。D/Sは、好ましくは1.4以上2.5以下である。
【0035】
また、本発明のグラフェン分散液は、レーザー顕微鏡により観察したグラフェンの厚さの平均値をT(nm)とした場合に、下記式(5)を満たすことが好ましい。
0.1≦S/T≦1.5 ・・・(5)
【0036】
グラフェンの厚さの平均値Tは、以下のようにして求めた値を用いる。
まず、グラフェン分散液を、NMPを用いて0.002質量%に希釈し、ガラス基板上に滴下、乾燥する。そして、基板上のグラフェンを立体形状の測定が可能であるレーザー顕微鏡で観察し、個々のグラフェンについて、厚さを測定する。一つの小片中で厚みにバラつきがある場合には、面積平均を求める。このようにランダムに50個のグラフェンについて厚さを算出し、その平均値をTとする。
【0037】
S/Tが0.1未満の場合、グラフェンの面方向の大きさに対してグラフェンの層方向の厚さが厚いことを意味する。この場合、電極とした際に導電性が悪化する傾向がある。また、S/Tが1.5より大きい場合、グラフェンの面方向の大きさに対してグラフェンの層方向の厚さが薄いことを意味する。この場合、分散液そのものや、電極用ペーストとした場合の粘度が増大し、取り扱い時の作業性が低下するおそれがある。本発明のグラフェン分散液においては、0.2≦S/T≦0.8であることがより好ましい。
【0038】
グラフェンの厚みTと面方向の大きさSは、希釈液を基板上に展開、乾燥したサンプルをレーザー顕微鏡や原子間力顕微鏡で観察することで測定することができる。具体的には、後述する測定例6および測定例7に記載の方法で測定することができる。
【0039】
本発明のグラフェン分散液のカールフィッシャー法で測定した130℃における水分率をW1(質量%)、同じくカールフィッシャー法で測定した、250℃における水分率をW2(質量%)とし、グラフェンの固形分率をG(質量%)としたとき、(W2−W1)/Gの値が0.005以上0.05以下であることが好ましい。
【0040】
ここで、W1は、グラフェン分散液中の有機溶媒に含まれる自由水と、グラフェンに吸着しているが容易に脱離する吸着水の概算の、合計水分率を意味する。一方、W2は、上記自由水と吸着水との合計水分率に、さらにグラフェン表面に強固に結合した130℃でも脱離しない結合水の水分率を加算した水分率である。すなわち、W2−W1はグラフェンに強固に結合した結合水の水分率の概算値を示している。
【0041】
結合水は、グラフェンに含まれるヒドロキシル基・カルボキシル基・エポキシ基・カルボニル基などを介して強く結合している。この結合水が存在することで、グラフェンと有機溶媒とが相互作用しやすくなり、分散安定化がもたらされる。そのためグラフェン重量に対する結合水の重量の比を適切な範囲に制御することが好ましい。
【0042】
また、結合水の存在によって、グラフェンのイオン伝導性を向上する効果も得られる。グラフェンは薄い平板状の構造を持つ上に、グラフェン平面同士でπ―π相互作用するため、平面同士で積層しやすい。隙間無く積層したグラフェン中でイオンが移動することは困難である。一方、適度な結合水を持つグラフェンは、グラフェン同士で積層した場合にも間隙ができやすく、イオン伝導パスが多くなり、イオン伝導性が向上する傾向がある。
【0043】
(W2−W1)/Gの値が0.005未満であると、有機溶媒との相互作用が少なくなり凝集しやすくなる。リチウムイオン電池の電極内に入った場合、凝集したグラフェンは導電パスを形成しにくい上にイオン伝導性も悪く、充放電の妨げとなる傾向がある。また、(W2−W1)/Gの値が0.05を超えると、リチウムイオン電池に使用した場合に、結合水の内の一部が電気分解してガス発生が起こり、電池性能に悪影響をもたらすおそれがある。(W2−W1)/Gの値を0.005以上0.05以下の範囲に制御することで、有機溶媒中に良好に分散することができ、リチウムイオン電池電極内での良好な導電パス形成と、高いイオン伝導性の両立が可能になる。(W2−W1)/Gの値は0.008以上が好ましく、0.01以上がさらに好ましい。また、(W2−W1)/Gの値は0.03以下が好ましく、0.02以下がさらに好ましい。
【0044】
W1およびW2は、カールフィッシャー法によって測定される。具体的には、JIS K 0113:2005の8.3項に示される水分気化?電量滴定法によって測定することとする。測定機器に制限はなく市販の水分率測定器を使用することができる。このような水分率測定器としては、平沼産業株式会社製のカールフィッシャー水分計AQ−2200等が例示される。
【0045】
本発明のグラフェン分散液に含まれるグラフェンの、BET測定法によって測定される比表面積(以下、単に「比表面積」ということがある。)は、80m/g以上250m/g以下であることが好ましい。グラフェンの比表面積はグラフェンの厚さとグラフェンの剥離度を反映しており、大きいほどグラフェンが薄く、剥離度が高いことを示している。グラフェンの比表面積が80m/g未満であると導電性ネットワークを形成することが難しくなる傾向があり、250m/gより大きいと分散性が低下する傾向がある。グラフェンの比表面積は、100m/g以上であることがより好ましく、130m/g以上であることがより好ましい。また、同様に200m/g以下であることが好ましく、180m/g以下であることがより好ましい。なお、BET測定法は、グラフェン分散液を真空乾燥機や凍結乾燥機などにより予備乾燥した後の乾燥試料に対してJIS Z8830:2013内に記載の方法で行い、吸着ガス量の測定方法はキャリアガス法で、吸着データの解析は一点法で行うものとする。
【0046】
本発明のグラフェン分散液の(W2−W1)/Gの値を、グラフェンのBET測定法により測定される比表面積で除した値は、0.000025g/m以上0.00025g/m以下であることが好ましい。(W2−W1)/Gを比表面積で除した値は、グラフェン単位表面積あたりの結合水の重量を表している。結合水がグラフェン単位表面積に占める割合が高すぎると、結合水をグラフェンが保持しきれなくなり水の電気分解が起こりやすくなる。結合水がグラフェン単位表面積に占める割合が低すぎるとグラフェン分散液の分散安定性が悪くなる傾向がある。(W2−W1)/Gを比表面積で除した値は、0.000035g/m以上0.00015g/m以下であることがより好ましく、0.000050g/m以上0.00010g/m以下であることがさらに好ましい。
【0047】
本発明のグラフェン分散液の溶媒としては、N−メチルピロリドンを50質量%以上含む溶媒を用いる。N−メチルピロリドンに含まれるラクタム構造は、アミノ基、ニトロ基などの窒素含有官能基とも、水分とも親和性が高い。後述するように、グラフェンとして表面に窒素が存在するものが好ましく用いられるが、その場合、グラフェン結合水、窒素およびN−メチルピロリドンの三者間で相互作用して良好な分散状態を形成する傾向がある。
【0048】
グラフェン分散液に含まれるNMP以外の溶媒としては、双極子モーメントが3.0Debye以上の有機溶媒が好ましい。このような溶媒としては、γ−ブチロラクトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルなどが例示できる。また、揮発性の高い溶媒は安定な取り扱いが難しいため、高沸点の溶媒が好ましい。NMP以外の溶媒の沸点は150℃以上が好ましく、180℃以上がさらに好ましい。
【0049】
本発明のグラフェン分散液中に存在するグラフェンの、X線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の元素比(O/C比)は、0.05以上0.40以下であることが好ましい。X線光電子分光法では、グラフェン分散液を真空乾燥機や凍結乾燥機などにより予備乾燥した後、乾燥試料を高真空チャンバー付の測定室に導入し、超高真空中に置いた試料表面に軟X線を照射し、表面から放出される光電子をアナライザーで検出する。この光電子をワイドスキャンおよびナロースキャンで測定し、物質中の束縛電子の結合エネルギー値を求めることで、物質表面の元素情報が得られる。
【0050】
本発明のグラフェン分散液をX線光電子分光法により測定すると284eV付近に炭素に由来するC1sピークが検出されるが、炭素が酸素に結合している場合は高エネルギー側にシフトすることが知られている。具体的には炭素が酸素に結合していないC−C結合、C=C二重結合、C−H結合に基づくピークはシフトせずに284eV付近に検出され、C−O一重結合の場合286.5eV付近に、C=O二重結合の場合287.5eV付近に、COO結合の場合288.5eV付近にシフトする。そのため、炭素に由来する信号は、284eV付近、286.5eV付近、287.5eV付近、288.5eV付近のそれぞれのピークを重ね合わせた形で検出される。また同時に、402eV付近に窒素に由来するN1sピークが検出され、533eV付近には酸素に由来するO1sピークが検出される。さらに、C1sピークとO1sピークのピーク面積からO/C比を求めることができる。
【0051】
グラフェン表面の酸素原子は、グラフェン自体に結合した酸性基や、グラフェン表面に付着した表面処理剤が有する酸性基に含まれる酸素原子である。このような酸性基はグラフェンの分散状態を向上させるとともに、結合水がグラフェンと結合する接点となる。グラフェン表面の酸性基が少なすぎると分散性が悪くなるが、多すぎると導電性が低下して導電助剤としての性能が悪くなる。グラフェンのO/C比は、より好ましくは0.07以上であり、さらに好ましくは0.09以上であり、特に好ましくは0.10以上である。また同様に、より好ましくは0.30以下であり、さらに好ましくは0.20以下であり、特に好ましくは0.15以下である。
【0052】
グラフェンのO/C比は、原料となる酸化グラフェンの酸化度を変えたり、表面処理剤の量を変えたりすることによりコントロールすることが可能である。酸化グラフェンの酸化度が高いほど還元後に残る酸素の量も多くなり、酸化度が低いと還元後の酸素原子量が少なくなる。また、酸性基のある表面処理剤の付着量を増やすことで酸素原子量を多くすることができる。
【0053】
また、分散液中に存在するグラフェンの、X線光電子分光法により測定される炭素に対する窒素の元素比(N/C比)は、0.005以上0.030以下であることが好ましく、0.010以上0.025以下であることがさらに好ましい。グラフェン表面の窒素原子は、表面処理剤に含まれる、アミノ基、ニトロ基などの窒素を含有する官能基や、ピリジン基やイミダゾール基などの窒素を含有する複素環に由来するものである。このような窒素含有基はグラフェンの分散性を向上する上で、適度に含有されていることが好ましい。グラフェンのN/C比が0.030を超えると、窒素原子がグラフェン共役構造を置換するため低導電性になりやすい。一方で、窒素元素を含む表面処理剤はグラフェン分散性に寄与するため少量存在することが好ましい。なお、N/C比は、O/C比と同様に、C1sピークとN1sピークのピーク面積から求めることができる。
【0054】
<グラフェン分散液の製造方法>
本発明のグラフェン分散液は、
水を含む分散媒に分散した酸化グラフェンを還元する還元工程;
還元工程で得られた中間体分散液とN−メチルピロリドンを50質量%以上含む溶媒(NMP含有溶媒)とを混合するNMP混合工程;
NMP混合工程で得られた中間体分散液をせん断速度毎秒5000〜毎秒50000で撹拌する強撹拌工程;
NMP含有溶媒添加と吸引濾過を組み合わせる手法、または蒸留により、中間体分散液から水分の少なくとも一部を除去する水分除去工程;
を有するグラフェン分散液の製造方法で作製することができる。
【0055】
分散液を一度乾燥させてしまうとグラフェン層間の凝集が強くなるため、グラフェンを一度も乾燥させずに還元工程からの全ての工程(還元工程前に後述する微細化工程および/または表面処理工程を行う場合には、当該工程を含む全ての工程)を行うことが、グラフェン分散液の良分散化に特に有効である。
【0056】
〔酸化グラフェンの作製法〕
酸化グラフェンの作製法に特に限定は無く、ハマーズ法等の公知の方法を使用できる。また市販の酸化グラフェンを購入してもよい。酸化グラフェンの作製方法として、ハマーズ法を用いる場合を以下に例示する。
【0057】
黒鉛(石墨粉)と硝酸ナトリウムを濃硫酸中に入れて攪拌しながら、過マンガン酸カリウムを温度が上がらないように徐々に添加し、25〜50℃下、0.2〜5時間攪拌反応する。その後イオン交換水を加えて希釈して懸濁液とし、80〜100℃で5〜50分間反応する。最後に過酸化水素と脱イオン水を加え1〜30分間反応して、酸化グラフェン分散液を得る。得られた酸化グラフェン分散液を濾過、洗浄し、酸化グラフェンゲルを得る。この酸化グラフェンゲルを希釈して、表面処理剤との混合処理や還元処理をしても良い。
【0058】
酸化グラフェンの原料となる黒鉛は、人造黒鉛、天然黒鉛のどちらでも良いが、天然黒鉛が好ましく用いられる。原料とする黒鉛のメッシュ数は20000以下が好ましく、5000以下がさらに好ましい。
【0059】
各反応物の割合は、一例として、黒鉛10gに対し、濃硫酸を150〜300ml、硝酸ナトリウムを2〜8g、過マンガン酸カリウムを10〜40g、過酸化水素を40〜80gである。硝酸ナトリウムと過マンガン酸カリウムを加える時は、氷浴を利用して温度を制御する。過酸化水素と脱イオン水を加える時、脱イオン水の質量は過酸化水素質量の10〜20倍である。濃硫酸は、質量含有量が70%以上のものを利用することが好ましく、97%以上のものを利用することがさらに好ましい。
【0060】
酸化グラフェンは高い分散性を有するが、それ自体は絶縁性で導電助剤等に用いることはできない。酸化グラフェンの酸化度が高すぎると、還元して得られるグラフェン粉末の導電性が悪くなる場合があるため、酸化グラフェンの、X線光電子分光法によって測定される酸素原子に対する炭素原子の割合は、0.5以上であることが好ましい。酸化グラフェンをX線光電子分光法で測定する際には、十分に溶媒を乾燥させた状態で行う。
【0061】
また、内部までグラファイトが酸化されていないと、還元した時に薄片状のグラフェン粉末が得られにくい。そのため、酸化グラフェンは、乾燥させてX線回折測定をした時に、グラファイト特有のピークが検出されないことが望ましい。
【0062】
酸化グラフェンの酸化度は、黒鉛の酸化反応に用いる酸化剤の量を変化させることで調整することができる。具体的には、酸化反応の際に用いる、黒鉛に対する硝酸ナトリウムおよび過マンガン酸カリウムの量が多いほど高い酸化度になり、少ないほど低い酸化度になる。黒鉛に対する硝酸ナトリウムの重量比は特に限定されるものではないが、0.200以上0.800以下であることが好ましく、0.250以上0.500以下であることがより好ましく、0.275以上0.425以下であることがさらに好ましい。黒鉛に対する過マンガン酸カリウムの比は特に限定されるものではないが、1.00以上であることが好ましく、1.40以上であることがより好ましく、1.65以上であることがさらに好ましい。また、4.00以下であることが好ましく、3.00以下であることがより好ましく、2.55以下であることがさらに好ましい。
【0063】
〔還元工程〕
還元工程においては、水を含む分散媒中に分散した酸化グラフェンをグラフェンに還元する。
【0064】
水を含む分散媒としては、水のみであってもよく、水以外の溶媒が含まれていても良い。水以外の溶媒としては、極性溶媒が好ましく、エタノール、メタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、或いは上記の混合物等が好ましい例として挙げられる。
【0065】
酸化グラフェンを還元する方法は特に限定されないが、化学還元が好ましい。化学還元の場合、還元剤としては、有機還元剤、無機還元剤が挙げられるが、還元後の洗浄の容易さから無機還元剤がより好ましい。
【0066】
有機還元剤としてはアルデヒド系還元剤、ヒドラジン誘導体還元剤、アルコール系還元剤が挙げられ、中でもアルコール系還元剤は比較的穏やかに還元することができるため、特に好適である。アルコール系還元剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ベンジルアルコール、フェノール、エタノールアミン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、などが挙げられる。
【0067】
無機還元剤としては亜ジチオン酸ナトリウム、亜ジチオン酸カリウム、亜リン酸、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジンなどが挙げられ、中でも亜ジチオン酸ナトリウム、亜ジチオン酸カリウムは、酸性基を比較的保持しながら還元できるので溶媒への分散性の高いグラフェンが製造でき、好適に用いられる。
【0068】
〔洗浄工程〕
還元工程を終えた後、好ましくは水で希釈し濾過する洗浄工程を行うことで、グラフェンが水に分散したゲル状の分散液が得られる。なお、本明細書においては、最終的に完成した本発明に係るグラフェン分散液以外の、グラフェンまたは酸化グラフェンが何らかの分散媒に分散した状態にある製造途中の中間体を、ゲル状のものも含め、便宜的に全て「中間体分散液」と呼ぶものとする。
【0069】
〔表面処理工程〕
還元工程の前後、または最中に、必要に応じて、酸性基を有する表面処理剤と混合する表面処理工程を加えても良い。表面処理剤としては、前述のものを用いることができる。
【0070】
酸化グラフェンと表面処理剤を良好に混合するには、酸化グラフェンまたは還元後のグラフェンと表面処理剤のいずれもが溶媒(分散媒)中に分散している状態で混合することが好ましい。この際、酸化グラフェンと表面処理剤はいずれも完全に溶解している事が好ましいが、一部が溶解せずに固体のまま分散していても良い。溶媒としては極性溶媒が好ましく、特に限定されるものではないが、水、エタノール、メタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、或いは上記の混合物等が挙げられる。
【0071】
〔微細化工程〕
還元工程の前後、または最中に、必要に応じて、酸化グラフェンまたは還元後のグラフェンを微細化する微細化工程を加えても良い。微細化工程における溶媒としては、表面処理工程で述べたものと同様のものを用いることができる。酸化グラフェンを微細化した状態で還元工程を行うことが好ましいことから、微細化工程は還元工程の前または還元工程の最中に行うことがより好ましい。
【0072】
微細化工程を加えることにより、酸化グラフェンまたはグラフェンの面方向の大きさSを適切な大きさにすることができる。微細化する手法としては特に限定はないが、複数のビーズやボールなどの粉砕メディアを分散液と混合し、粉砕メディア同士を衝突させることにより、酸化グラフェンまたはグラフェンを破砕し分散させる手法の場合、酸化グラフェンまたはグラフェン同士の凝集を誘発するため、粉砕メディアを用いずに分散液に強いせん断力を与えるメディアレス分散法が好ましく用いられる。例として、圧力を印加した中間体分散液を単体のセラミックボールに衝突させる手法、あるいは圧力を印加した中間体分散液同士を衝突させて分散を行う液―液せん断型の湿式ジェットミルを用いる手法を挙げることができる。また、中間体分散液に超音波を印加する手法も、メディアレス分散法であり、好ましい手法である。微細化工程においては、メディアレス分散法における処理圧力や出力が高いほど酸化グラフェンまたはグラフェンは微細化する傾向にあり、処理時間が長いほど微細化する傾向にある。好ましいグラフェンの面方向の大きさSは先に示したとおりである。微細化工程における微細化処理の種類・処理条件・処理時間により還元後のグラフェンの大きさを調製することが可能である。
【0073】
〔NMP混合工程〕
還元工程を経た中間体分散液の水を有機溶媒に置換するために、中間体分散液とNMPを50質量%以上含む溶媒(以下、単に「NMP含有溶媒」ということがある。)とを混合するNMP混合工程を行う。NMP混合工程においては、還元工程で得られた中間体分散液、または還元工程で得られた中間体分散液に必要に応じて洗浄工程、表面処理工程および/または微細化工程を行った中間体分散液と、NMP含有溶媒とを直接混合する。すなわち、還元工程終了後からNMP混合工程におけるNMP含有溶媒との混合まで、中間体分散液は常に分散液の状態にあり、中間体分散液から分散媒を除去してグラフェンを粉末状態として回収する凍結乾燥等の操作は行わない。
【0074】
NMP含有溶媒としては、NMPそのものの他、NMPの比率が50質量%以上となる限り、エタノール、メタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、アセトニトリル、アセトン等の極性溶媒をさらに含む溶媒を用いることができる。溶媒中のNMPの比率が50質量%未満であると溶媒中のグラフェンの分散性が低下する傾向がある。
【0075】
還元工程を終えた中間体分散液とNMP含有溶媒とを混合する際の混合比は特に限定されないが、混合するNMP含有溶媒が少なすぎると混合液が高粘度になるため取り扱いが困難であり、混合するNMP含有溶媒が多すぎると単位処理量あたりのグラフェン量が少なくなるため処理効率が悪くなる。取り扱いの容易な低粘度の分散液を得つつ処理効率を良くする観点から、還元工程を終えた中間体分散液100質量部に対して、好ましくはNMP含有溶媒を10〜3000質量部、より好ましくは20〜2000質量部、さらに好ましくは50〜1500質量部混合するとよい。
【0076】
〔強撹拌工程〕
次に、NMP混合工程後の中間体分散液をせん断速度毎秒5000〜毎秒50000で撹拌処理する工程(強撹拌工程)を行う。強撹拌工程によりグラフェンを剥離することで、グラフェン同士の積層凝集を解消することができる。なお、本明細書においては、中間体分散液にこのようなせん断力を与えられる回転刃ミキサーを「高せん断ミキサー」と呼ぶ。
【0077】
強撹拌工程におけるせん断速度は、毎秒5000〜毎秒50000である。せん断速度はミキサーの回転刃の最大径における周速を、ミキサー回転刃先端(最大径を決定する刃先)の壁面に対する距離で除した値である。ミキサーの回転刃の周速は、周長×回転速度で定義される。せん断速度が小さすぎると、グラフェンの剥離が起こりにくく、グラフェンの剥離度が低くなる。一方、せん断速度が大きすぎると、グラフェンの剥離度が高くなりすぎて、分散性が低下する。せん断速度は毎秒10000以上であることが好ましく、毎秒20000以上であることがより好ましい。また、同様に毎秒45000以下であることが好ましく、毎秒40000以下であることがより好ましい。また、強撹拌工程の処理時間は15秒から300秒が好ましく、20秒から120秒がより好ましく、30秒から80秒がさらに好ましい。
【0078】
強撹拌工程に用いる高せん断ミキサーとしては、薄膜旋回方式、ローター/ステーター式などの旋廻する刃と壁面との距離が10mm以下の短い形状であり、メディアレス方式のミキサーが好ましい。このようなミキサーとしては、例えば、フィルミックス(登録商標)30−30型(プライミクス社製)、クレアミックス(登録商標)CLM−0.8S(エム・テクニック社製)、スーパーシェアミキサーSDRT0.35−0.75(佐竹化学機械工業社製)などが挙げられる。
【0079】
〔水分除去工程〕
水分除去工程は、NMP含有溶媒添加と吸引濾過を組み合わせる手法、または蒸留により中間体分散液に含まれる水分の少なくとも一部を除去する工程である。加圧濾過や遠心分離のような、分散液に含有するグラフェンに対し強い力がかかる溶媒除去手段では、グラフェンが積層凝集する傾向があり、好ましくない。水分除去工程は、強撹拌工程終了後のいずれかの段階で行うことが好ましいが、NMP混合工程の後であれば強撹拌工程の前に行ってもよい。
【0080】
水分除去工程におけるNMP含有溶媒添加と吸引濾過を組み合わせる手法としては、中間体分散液にNMP含有溶媒を添加し、撹拌を行った後に、減圧吸引濾過を行うことが好ましい。減圧吸引濾過は、具体的にはブフナーロート、桐山ロートなどを使用して、ダイアフラムポンプなどで吸引しながら濾過する方法で行うことができる。また、還元工程で用いた溶媒の残存率を下げるために、この操作を複数回繰り返しても良い。
【0081】
また、蒸留により水分を除去することも好ましい。蒸留を行う圧力に制限はないが、効率よく水分を除去できる点で真空蒸留が好ましい。
【0082】
〔熱処理工程〕
さらに、還元工程後のいずれかの段階で、中間体分散液を加熱する工程(熱処理工程)を行うことで、中間体分散液中の結合水を減少させることができるため、リチウムイオン電池に使用した場合に、グラフェンが保持しきれなくなった水の電気分解によるガス発生がもたらす電池性能への悪影響が低減される傾向がある。熱処理工程は、例えば、中間体分散液を加熱攪拌装置に投入し、乾燥させずに加熱しながら攪拌することで行うことができる。加熱温度は70℃以上が好ましく、80℃以上がさらに好ましい。グラフェンは高温条件では、ヒドロキシル基など一部の官能基が脱離することがあるため、加熱温度は150℃以下が好ましく、120℃以下がさらに好ましい。また、熱処理工程を強撹拌工程と同時に行う、すなわち加熱しながら高せん断ミキサーにより撹拌処理することが、効率よく水分を除去する観点から特に好ましい。
【0083】
また、水分除去工程で蒸留を行う場合、70℃以上に加熱しながら蒸留を行うことにより熱処理工程を同時に実施することができ、自由水・吸着水・結合水を一回の処理で同時に除去できるため好ましい態様である。この場合、70℃以上に加熱しながら真空蒸留する手法が特に好ましい。具体的にはロータリーエバポレーターや真空ライン付の加熱攪拌機などの装置を用いる手法が挙げられる。
【0084】
<グラフェン−電極活物質複合体粒子>
本発明のグラフェン分散液の用途は限定されるものではないが、一例として、グラフェンとリチウムイオン電池電極活物質粒子等の電極活物質粒子を複合化する際に有益に用いられる。ここにおいて複合化とは、電極活物質粒子の表面にグラフェンが接した状態を維持せしめることを意味する。複合化の態様としては、グラフェンと電極活物質粒子を一体として造粒したものや、電極活物質粒子の表面にグラフェンを付着せしめたものが挙げられる。
【0085】
グラフェン−電極活物質複合体粒子の製造に適用する場合、活物質としては、正極活物質、負極活物質のいずれであってもよい。すなわち、本発明のグラフェン分散液は、正極の製造にも負極の製造にも用いることができる。リチウムイオン電池電極活物質粒子に適用する場合、正極活物質は特に限定はされないが、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn)、あるいは、コバルトをニッケル、マンガンで一部置換した三元系(LiMnNiCo1−x−y)、スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn)などのリチウムと遷移金属の複合酸化物、リン酸鉄リチウム(LiFePO)などのオリビン系(リン酸系)活物質、V等の金属酸化物やTiS、MoS、NbSeなどの金属化合物等などが挙げられる。負極活物質としては、特に限定されないが、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボンなどの炭素系材料、SiOやSiC、SiOC等を基本構成元素とするケイ素化合物、チタン酸リチウム(LiTi12)、リチウムイオンとコンバージョン反応しうる酸化マンガン(MnO)や酸化コバルト(CoO)などの金属酸化物などが挙げられる。
【0086】
グラフェン−電極活物質複合体粒子は、本発明のグラフェン分散液と活物質粒子とを混合した後に、スプレードライ、凍結乾燥などの手法で乾燥することにより作製することができる。グラフェン分散液と活物質粒子とを混合する方法としては、三本ロール、湿式ビーズミル、湿式遊星ボールミル、ホモジェナイザー、プラネタリーミキサー、二軸混練機などを利用した方法が挙げられる。
【0087】
<電極ペーストの製造方法>
本発明のグラフェン分散液は、リチウムイオン電池用電極等の製造に用いられる電極ペーストの製造に用いることもできる。すなわち、電極活物質、バインダーおよび導電助剤としての本発明のグラフェン分散液を、必要に応じて適量の溶媒を加えた上で混合することにより、電極ペーストを調製することができる。
【0088】
リチウムイオン電池の電極ペーストの製造に適用する場合の電極活物質としては、前述のグラフェン−活物質複合体粒子の製造方法で述べたものと同様の活物質を用いることができる。
【0089】
バインダーとしては、特に限定されないが、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系重合体、あるいはスチレンブタジエンゴム(SBR)、天然ゴムなどのゴム、カルボキシメチルセルロース等の多糖類、ポリイミド前駆体および/またはポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル等が挙げられる。これらは2種以上の混合物として用いてもよい。
【0090】
導電助剤は、本発明のグラフェン分散液に含まれるグラフェンのみであってもよいし、さらに別に追加の導電助剤を添加しても良い。追加の導電助剤としては、特に限定されないが、例えば、ファーネスブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック等のカーボンブラック類、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト類、炭素繊維および金属繊維等の導電性繊維類、銅、ニッケル、アルミニウムおよび銀等の金属粉末類などが挙げられる。
【0091】
追加的に使用される溶媒としては、NMP、γ−ブチロラクトン、水、ジメチルアセトアミドなどが挙げられ、本発明のグラフェン分散液に含まれる溶媒であるNMPを用いることが最も好ましい。
【実施例】
【0092】
〔測定例1:X線光電子測定〕
各サンプルのX線光電子測定はQuantera SXM(PHI社製))を使用して測定した。励起X線は、monochromatic Al Kα1,2 線(1486.6eV)であり、X線径は200μm、光電子脱出角度は45°である。炭素原子に基づくC1sメインピークを284.3eVとし、酸素原子に基づくO1sピークを533eV付近のピーク、窒素原子に基づくN1sピークを402eV付近のピークに帰属し、各ピークの面積比からO/C比、およびN/C比を求めた。
【0093】
〔測定例2:比表面積の評価〕
グラフェンの比表面積測定はHM Model−1210(Macsorb社製)を使用して測定した。測定はJIS Z8830:2013に準拠し吸着ガス量の測定方法はキャリアガス法で、吸着データの解析は一点法で測定した。脱気条件は、100℃×180分とした。測定は、下記実施例で調製した還元後のグラフェン水分散液を吸引濾過器で濾過後、水で0.5質量%まで希釈して吸引濾過する洗浄工程を5回繰り返して洗浄、さらに凍結乾燥して得たグラフェン粉末に対して行った。
【0094】
〔測定例3:固形分率(G)〕
グラフェン分散液を重量既知のガラス基板上に付着させて重量を測定し、120℃に温度調整したホットプレート上で1.5時間加熱して溶媒を揮発させた。加熱前のグラフェン分散液の付着量と、加熱前後の重量差から算出した溶媒揮発量から、グラフェン分散液の固形分率G(質量%)を測定した。これを3回繰り返し、平均して求めた。
【0095】
〔測定例4:吸光度〕
各サンプルの吸光度は、U−3010形分光光度計(日立ハイテクサイエンス社製)を使用して測定した。セルは光路長10mmの石英製を用いた。測定は、下記実施例で調製したグラフェン分散液またはグラフェン粉末に、グラフェン重量分率が0.000013となるようNMPを加え、出力130W、発振周波数40kHzの超音波洗浄機(ASU−6M、アズワン社製)を用いて出力設定Highで10分間処理した希釈液に対して、事前に希釈液が含有する比率の混合溶媒でのベースライン測定をした上で行った。得られた270nmの吸光度から、下記式(1)で定義した重量吸光係数を算出した。
重量吸光係数(cm−1)=吸光度/{(0.000013×セルの光路長(cm)} ・・・(1)
また、下記式(2)で定義した吸光度比を算出した。
吸光度比=吸光度(270nm)/吸光度(600nm) ・・・(2)
【0096】
〔測定例5:グラフェンのメジアン径(D)〕
グラフェン分散液またはグラフェン粉末を、NMPを用いて0.5質量%に希釈して、HORIBA社製粒度分布測定装置LASER SCATTERING PARTICLE SIZE DISTRIBUTION ANALYZER LA−920を使用したレーザー回折/散乱式粒度分布測定法で測定した粒度分布の中央値に対応する粒子径をメジアン径(D、μm)とした。装置内の溶媒は、グラフェン分散液の溶媒と同一のものを使用し、測定前処理としての超音波の印加は実施せずに測定した。グラフェンの屈折率は1.43とした。
【0097】
〔測定例6:グラフェンの厚み(T)〕
グラフェン分散液またはグラフェン粉末を、NMPを用いて0.002質量%にまで希釈し、マイカ基板上に滴下、乾燥し、基板上に付着させた。基板上のグラフェンを、原子間力顕微鏡(Dimension Icon;Bruker社製)で観察して、グラフェンの厚みをランダムに50個測定し、その平均値をT(nm)とした。一小片で厚みにバラつきがあった場合は面積平均を求めた。
【0098】
〔測定例7:グラフェンの面方向の大きさ(S)〕
グラフェン分散液またはグラフェン粉末を、NMP溶媒を用いて0.002質量%に希釈し、ガラス基板上に滴下、乾燥し、基板上に付着させた。基板上のグラフェンをキーエンス社製レーザー顕微鏡VK−X250で観察して、グラフェンの小片の最も長い部分の長さ(長径、μm)と最も短い部分の長さ(短径、μm)をランダムに50個測定し、(長径+短径)/2で求められる数値を50個分平均してグラフェンの面方向の大きさ(S、μm)とした。
【0099】
〔測定例8:水分率測定〕
グラフェン分散液またはグラフェン粉末の水分率測定は、カールフィッシャー水分計AQ−2200と水分気化装置EV−2010(平沼産業株式会社製)を用いて、JIS K 0113:2005の8.3項に示される水分気化‐電量滴定法により測定した。水分気化装置にグラフェン分散液またはグラフェン粉末を投入して、130℃または250℃に加熱することで測定し、水分率W1(質量%)、W2(質量%)の値を得た。
【0100】
〔測定例9:電池性能評価〕
放電容量は、各実施例、比較例において特に記載した場合を除き、以下のように測定した。各実施例、比較例で調製したグラフェン分散液またはグラフェン粉末をグラフェン固形分として1.5質量部、電極活物質としてLiNi0.5Co0.2Mn0.3を100質量部、追加の導電助剤としてアセチレンブラックを1.5質量部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン5質量部、溶媒としてNMPを100質量部配合したものをプラネタリーミキサーで混合して電極ペーストを得た。この電極ペーストをアルミニウム箔(厚さ18μm)にドクターブレード(300μm)を用いて塗布し、80℃15分間乾燥後、真空乾燥して電極板を得た。
【0101】
作製した電極板を直径15.9mmに切り出して正極とし、対極として黒鉛98質量部、カルボキシメチルセルロースナトリウム1質量部、SBR水分散液1質量部からなる負極を直径16.1mmに切り出して用いた。直径17mmに切り出したセルガード#2400(セルガード社製)をセパレータとし、LiPFを1M含有するエチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=7:3の溶媒を電解液として、2042型コイン電池を作製した。上限電圧4.2V、下限電圧3.0Vでレート0.1C、1C、5Cの順に充放電測定を各3回ずつ行った後、1Cでさらに491回、計500回の充放電測定を行った。レート1Cの3回目、レート5Cの3回目、その後のレート1Cの491回目(計500回目)のそれぞれの放電容量を測定した。
【0102】
(合成例1:酸化グラフェンゲルの調製方法)
1500メッシュの天然黒鉛粉末(上海一帆石墨有限会社製)を原料として、氷浴中の10gの天然黒鉛粉末に、220mlの98%濃硫酸、5gの硝酸ナトリウム、30gの過マンガン酸カリウムを入れ、1時間機械攪拌し、混合液の温度は20℃以下で保持した。この混合液を氷浴から取り出し、35℃水浴中で4時間攪拌反応し、その後イオン交換水500mlを入れて得られた懸濁液を90℃でさらに15分反応を行った。最後に600mlのイオン交換水と50mlの過酸化水素を入れ、5分間の反応を行い、酸化グラフェン分散液を得た。熱いうちにこれを濾過し、希塩酸溶液で金属イオンを洗浄し、イオン交換水で酸を洗浄し、pHが7になるまで洗浄を繰り返して酸化グラフェンゲルを調製した。調製した酸化グラフェンゲルの、X線光電子分光法により測定される酸素原子の炭素原子に対する元素比は0.53であった。
【0103】
[実施例1]
合成例1で調製した酸化グラフェンゲルを、イオン交換水で濃度30mg/mlに希釈し、超音波洗浄機で30分処理し、均一な酸化グラフェン分散液を得た。
【0104】
当該酸化グラフェン分散液20mlと、表面処理剤として0.3gのドーパミン塩酸塩を混合し、ホモディスパー2.5型(プライミクス社製)を用いて回転数3000rpmで60分処理した(表面処理工程)。処理後に酸化グラフェン分散液をイオン交換水で5mg/mlに希釈し、希釈した分散液20mlに0.3gの亜ジチオン酸ナトリウムを入れて、40℃で1時間還元反応を行った(還元工程)。その後、減圧吸引濾過器で濾過し、さらにイオン交換水で0.5質量%まで希釈して吸引濾過する洗浄工程を5回繰り返して洗浄した。洗浄後にNMPで0.5質量%まで希釈して(NMP含有溶媒混合工程)フィルミックス(登録商標)30−30型(プライミクス社製)を用いて回転速度40m/s(せん断速度:毎秒20000)で60秒処理(強撹拌工程)して吸引濾過した。濾過後にNMPで0.5質量%まで希釈して、ホモディスパー2.5型(プライミクス社製)を用いて回転数3000rpmで30分処理して吸引濾過する工程を2回繰り返し(水分除去工程)、グラフェンNMP分散液を得た。
【0105】
得られたグラフェンNMP分散液について、測定例3に従って固形分率Gを測定し、測定例4に従って吸光度、重量吸光係数、吸光度比の値を得た。また、測定例5、6、7に従ってグラフェンのメジアン径D、グラフェンの厚みT、グラフェンの面方向の大きさS、D/S、S/Tを測定し、測定例8に従ってW1、W2、(W2−W1)/Gの値を得た。分析のため、グラフェンNMP分散液を水で3倍に希釈して吸引濾過を行った後、さらに希釈、吸引濾過を2回繰り返し、0.5質量%のグラフェン水分散液を得た後に、凍結乾燥してグラフェン粉末を得た。得られたグラフェン粉末について、測定例1、2に従って、比表面積、(W2−W1)/(G×比表面積)、O/C比、N/C比の値を得た。また、得られたグラフェンNMP分散液を用いて測定例9に従って電池性能評価を行い、放電容量を得た。得られた結果を表1および表2にまとめる。
【0106】
[実施例2]
強撹拌工程でフィルミックスの回転速度を30m/s(せん断速度:毎秒15000)に変えた以外は実施例1と同様にして、グラフェンNMP分散液を調製した。
【0107】
得られたグラフェンNMP分散液について、測定例3に従って固形分率Gを測定し、測定例4に従って吸光度、重量吸光係数、吸光度比を測定した。また、測定例6、7に従ってグラフェンの厚みT、グラフェンの面方向の大きさSを測定した。分析のため、グラフェンNMP分散液を水で3倍に希釈して吸引濾過を行った後、さらに希釈、吸引濾過を2回繰り返し、0.5質量%のグラフェン水分散液を得た後に、凍結乾燥してグラフェン粉末を得た。得られたグラフェン粉末について、測定例1、2に従って、比表面積、O/C比、N/C比の値を得た。また、得られたグラフェンNMP分散液を用いて測定例9に従って電池性能評価を行い、放電容量を得た。得られた結果を表1にまとめる。
【0108】
[実施例3]
強撹拌工程でフィルミックスの回転速度を20m/s(せん断速度:毎秒10000)に変えた以外は実施例1と同様にして、グラフェンNMP分散液を調製した。
実施例2と同様に物性評価、電池性能評価を行った。得られた結果を表1にまとめる。
【0109】
[実施例4]
表面処理剤を0.3gのアンチピリンに変えた以外は実施例1と同様にして、グラフェンNMP分散液を調製した。
実施例2と同様に物性評価、電池性能評価を行った。得られた結果を表1にまとめる。
【0110】
[実施例5]
表面処理剤を0.3gのカテコールに変えた以外は実施例1と同様にして、グラフェンNMP分散液を調製した。
実施例2と同様に物性評価、電池性能評価を行った。得られた結果を表1にまとめる。
【0111】
[実施例6]
表面処理剤を加えなかったこと以外は実施例1と同様にして、グラフェンNMP分散液を調製した。
実施例2と同様に物性評価、電池性能評価を行った。得られた結果を表1にまとめる。
【0112】
[実施例7]
表面処理剤を加え、ホモディスパー2.5型(プライミクス社製)で処理した後、酸化グラフェン分散液をイオン交換水で5mg/mlに希釈する前に、酸化グラフェン分散液を、超音波装置UP400S(hielscher社製)を使用して、出力300Wで超音波を40分間印加(微細化工程)した以外は実施例1と同様にして、グラフェンNMP分散液を調製した。
実施例1と同様に物性評価、電池性能評価を行った。得られた結果を表2にまとめる。
【0113】
[実施例8]
実施例1を引用する実施例7の最後の吸引濾過の前に、グラフェンNMP分散液を90℃2時間加熱還流処理した(熱処理)以外は、すべて実施例7と同様の操作を行い、グラフェンNMP分散液を得た。
実施例1と同様に物性評価、電池性能評価を行った。得られた結果を表2にまとめる。
【0114】
[実施例9]
フィルミックス処理まですべて実施例7と同様の処理を行った。その後水分除去のための蒸留操作として、グラフェンNMP分散液を120℃で加熱しながら、ダイアフラムポンプで真空引きして水分を除去した(水分除去工程)。さらに、90℃2時間加熱還流処理した(熱処理)後、吸引濾過を行い、グラフェンNMP分散液を得た。
実施例1と同様に物性評価、電池性能評価を行った。得られた結果を表2にまとめる。
【0115】
[実施例10]
実施例1と同様にして得たグラフェンNMP分散液と、電極活物質LiNi0.5Co0.2Mn0.3を固形分で3:100となるように混合した後、固形分率が10質量%となるようNMPで希釈してフィルミックス(登録商標)30−30型、(プライミクス社製)を用いて回転速度40m/s(せん断速度:毎秒20000)で60秒処理した。処理物をスプレードライで入口温度250℃、出口温度160℃で乾燥させ、グラフェンと電極活物質LiNi0.5Co0.2Mn0.3との複合体粒子(グラフェンー電極活物質複合体粒子)を得た。
【0116】
正極の電極活物質として当該複合体粒子を用い(100質量部)、グラフェン分散液を単体で添加しなかった以外は測定例9と同様にして電池性能評価を行った。
【0117】
実施例2と同様に物性評価を行った。得られた結果を表1にまとめる。
【0118】
[比較例1]
実施例1において、水で希釈して吸引濾過する洗浄工程の後、水で0.7質量%まで希釈して凍結乾燥させ、グラフェン粉末を得た。
【0119】
得られたグラフェン粉末について、測定例4に従って吸光度、重量吸光係数、吸光度比を測定した。また、測定例6、7に従ってグラフェンの厚みT、グラフェンの面方向の大きさSを測定し、測定例1、2に従って、比表面積、O/C比、N/C比の値を得た。得られたグラフェン粉末を用いて測定例9に従って電池性能評価を行い、放電容量を得た。得られた結果を表1にまとめる。
【0120】
[比較例2]
強撹拌工程に相当する工程として、フィルミックスの代わりにフィルミックスよりもせん断力の弱いホモディスパー2.5型(プライミクス社製)を用いて回転数3000rpmで30分処理した以外は実施例1と同様にして、グラフェンNMP分散液を調製した。このとき、ホモディスパーの回転刃の径は30mmであり、周速は4.7m/sと計算できる。攪拌時に使用した容器の内径は、50mmであり、壁面と回転刃の距離は10mmであった。せん断速度は毎秒470と計算できる。
実施例2と同様に物性評価、電池性能評価を行った。得られた結果を表1にまとめる。
【0121】
[比較例3]
水分除去工程における吸引濾過を遠心沈降に変えたこと以外は実施例1と同様にして、グラフェンNMP分散液を調製した。
実施例2と同様に物性評価、電池性能評価を行った。得られた結果を表1にまとめる。
【0122】
[比較例4]
比較例1で得られたグラフェン粉末を0.5質量%となるようNMPを添加しフィルミックス(登録商標)30−30型(プライミクス社製)で回転速度40m/s(せん断速度:毎秒20000)で60秒処理し、グラフェンNMP分散液を得た。
実施例2と同様に物性評価、電池性能評価を行った。得られた結果を表1にまとめる。
【0123】
上記の実施例のうち、実施例1、実施例7、実施例8、実施例9については、グラフェンのメジアン径D、D/S、S/T、W1、W2、(W2−W1)/G、(W2−W1)/(G×比表面積)の測定も行ったので、別に表2に結果をまとめる。
【0124】
【表1】
【0125】
【表2】
【要約】
本発明は、高分散性であり、電極材料の製造原料に用いた場合に高い導電性とイオン伝導性を維持することが可能な形態のグラフェンを提供することを目的とする。本発明は、グラフェンがN−メチルピロリドンを50質量%以上含む溶媒に分散した分散液であって、N−メチルピロリドンでグラフェン重量分率0.000013に調整した希釈液の、波長270nmにおける下記式(1)を用いて算出される重量吸光係数が25000cm−1以上200000cm−1以下であるグラフェン分散液である。
重量吸光係数(cm−1)=吸光度/{(0.000013×セルの光路長(cm)}
・・・(1)