(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6153004
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】留め具、サンゴ育成方法、及び、サンゴ保護方法
(51)【国際特許分類】
A01K 61/00 20170101AFI20170619BHJP
【FI】
A01K61/00 301
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-89677(P2013-89677)
(22)【出願日】2013年4月22日
(65)【公開番号】特開2014-212704(P2014-212704A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2015年12月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129300
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】山木 克則
【審査官】
大熊 靖夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−165682(JP,A)
【文献】
特開2005−273361(JP,A)
【文献】
特開2007−198035(JP,A)
【文献】
特開2006−249659(JP,A)
【文献】
特開2011−125247(JP,A)
【文献】
特開2007−135511(JP,A)
【文献】
特開2008−200009(JP,A)
【文献】
米国特許第05359962(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00−63/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略格子状又は網状に形成されたことにより、実体部分を構成する各脚部と、複数の前記脚部により囲繞された各開口部とを備えた水生生物の保護又は育成用の水中設置部材、を水中の被設置面に固定するための留め具であって、
鍔部と、該鍔部の裏面から立設された軸部とを備え、
前記水中設置部材を前記被設置面に固定する際に、前記軸部が前記開口部を挿通した状態で前記被設置面に打ち込まれるとともに、
前記開口部を囲繞する各脚部のうちの複数と前記鍔部の裏面とが当接されることにより、前記水中設置部材が、前記鍔部と前記被設置面との間に挟み込まれる構成であり、
前記鍔部が、可撓性材料により形成されているとともに、前記軸部の立設された側に湾曲形成された留め具。
【請求項2】
前記軸部の外周面に係止構造が形成され、
該係止構造が、前記留め具を前記被設置面に打ち込む際の抵抗よりも前記被設置面から引き抜くための抵抗の方が増大する構造である請求項1記載の留め具。
【請求項3】
生分解性材料で形成された請求項1又は請求項2記載の留め具。
【請求項4】
サンゴの付着した前記水中設置部材を、請求項1〜3のいずれか一項記載の留め具で水底岩盤の表面に固定する工程を含むサンゴ育成方法。
【請求項5】
前記水中設置部材を撓ませた状態でその周縁付近の複数箇所を前記留め具で固定することにより、該水中設置部材の中央付近において、前記水中設置部材と前記水底岩盤の表面との間に空隙が形成された請求項4記載のサンゴ育成方法。
【請求項6】
略籠状に形成された前記水中設置部材を用いて、非接触状態でサンゴを被覆し、該水中設置部材の周縁付近の複数箇所を、請求項1〜3のいずれか一項記載の留め具で水底岩盤の表面に固定する工程を含むサンゴ保護方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、略格子状又は網状に形成された水生生物の保護又は育成用の水中設置部材を水中の被設置面に固定するための留め具、その留め具で水中設置部材を水底岩盤の表面に固定するサンゴ育成方法、その留め具で略籠状に形成された水中設置部材を水底岩盤の表面に固定するサンゴ保護方法などに関連する。
【背景技術】
【0002】
サンゴは、刺胞動物門に属する動物であり、炭酸カルシウムを主成分とする固い骨格を発達させるという特徴を有する。
【0003】
サンゴの個体は、ポリプ(polyp)と呼ばれる構造をとる。サンゴのポリプは、ほとんどが1cm以下の大きさで、岩盤などに定着・固着し、炭酸カルシウムを主成分とした外骨格をつくる。各個体はそれぞれ他のポリプと接近した場所に定着・固着し、集まって群体を形成する。群体内で隣り合ったポリプ同士は、共通骨格を形成するとともに、共肉部という生きた組織で繋がっており、栄養のやり取りなども行う。
【0004】
サンゴ群体の中には、大規模な骨格を自ら形成し、サンゴ礁を形成するものがあり、造礁サンゴと呼ばれる。造礁サンゴの体内には、褐虫藻が共生する。褐虫藻は、光合成により炭素化合物を合成し、そのほとんどをサンゴに供給したり、サンゴの呼吸により生じた二酸化炭素を酸素に変換したりなどしている。
【0005】
サンゴは、有性生殖と無性生殖の両方を行って増殖する。多くのサンゴでは、年に一度、ポリプの口からバンドル(卵と精子のパッケージ)を産卵する。バンドルは海面近くではじけ、受精が起きる(有性生殖)。受精卵はプラヌラ幼生となって海中を漂い、海底に着底・変態し、一個のポリプとなる。ポリプは、骨格を作りながら、出芽により、周囲に新しいポリプを生み出し(無性生殖)、サンゴ群体を形成していく。
【0006】
近年、多くのサンゴ礁が急速に破壊され、又は、危機に瀕しており、大きな問題となっている。例えば、沿岸開発、土砂・生活排水の流入などによる海水汚濁が、多くのサンゴに直接的な影響を与えている。また、地球温暖化などの異常気象で海水温が上昇することにより、サンゴから褐虫藻が抜け出し、多くのサンゴが白化し、その一部が回復せずに死滅している。その他、オニヒトデなどの食害によるサンゴの被害も甚大である。
【0007】
それに対し、サンゴ礁の再生・保護に関心が集まっており、いくつかの試みが提案されている。サンゴ礁の再生手段は、主に、有性生殖によるものと無性生殖によるものとに大別できる。また、サンゴ礁の保護手段として、オニヒトデなどによる食害を防止する手段なども種々提案されている。
【0008】
有性生殖によるサンゴ礁の再生は、一般的には、サンゴ育成用の人工基盤にプラヌラ幼生を着生させ、成長させた後、その人工基盤を再生地点に移設して行う。有性生殖によるサンゴ礁の再生手段として、例えば、特許文献1には、サンゴの卵・プラヌラ幼生の高濃度領域を形成して着生基盤にプラヌラ幼生を着生させるサンゴ増殖方法が、特許文献2には、サンゴ幼生を網状構造体及び網状構造体を敷設した基盤に着生させるサンゴ礁の造成方法が、それぞれ記載されている。
【0009】
無性生殖によるサンゴ礁の再生は、一般的には、養殖又は自然界から採取したサンゴの組織断片をサンゴ移植用の人工基盤に癒着させ、その人工基盤を再生地点に移設して行う。無性生殖によるサンゴ礁の再生手段として、例えば、特許文献3には、サンゴ群体から採取した断片を用いたサンゴ礁の造園方法が記載されている。
【0010】
食害に対するサンゴ礁の保護手段として、例えば、特許文献4には、海底設置型網構造物を使用したオニヒトデからのサンゴの食害防止法が記載されている。
【0011】
その他、水生生物の保護又は育成などを目的として、格子状又は網状の水中設置部材を水中に設置する場合がある。
【特許文献1】特開2003−219751号公報
【特許文献2】特許第4749848号公報
【特許文献3】特開平2−135033号公報
【特許文献4】特開2005−40121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
例えば、サンゴ礁の再生・保護などを含め、水生生物の保護又は育成などを目的として、格子状又は網状の水中設置部材を水中に設置・固定する場合、一般的に、潜水での作業が主となるため、簡易かつ短時間で固定作業を終了できることが好ましい。また、水中設置部材の設置・固定後、波浪などの外力の加わる環境下において、水中設置部材が固定された状態を長期間、安定的に維持する必要がある。
【0013】
従来、そのような水中設置部材の設置・固定作業には、釘・アンカーボルトなどの物理的固定手段、水中ボンドなどの化学的接着手段などが用いられているが、多くの場合、水中での作業が煩雑になることが多く、また、波浪などの外力に対し、水中設置部材を固定した状態を長期間維持することが難しいことが多かった。
【0014】
そこで、本発明は、水生生物の保護又は育成などを目的として、格子状又は網状の水中設置部材を水中に設置・固定する場合などにおいて、水中設置部材を簡易な作業で水底などに固定でき、かつ固定した状態を長期間維持できる手段を提供することなどを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明では、略格子状又は網状に形成されたことにより、実体部分を構成する各脚部と、複数の前記脚部により囲繞された各開口部とを備えた水生生物の保護又は育成用の水中設置部材、を水中の被設置面に固定するための留め具であって、鍔部と、該鍔部の裏面から立設された軸部とを備え、前記水中設置部材を前記被設置面に固定する際に、前記軸部が前記開口部を挿通した状態で前記被設置面に打ち込まれるとともに、前記開口部を囲繞する各脚部のうちの複数と前記鍔部の裏面とが当接されることにより、前記水中設置部材が、前記鍔部と前記被設置面との間に挟み込まれる構成である留め具を提供する。
【0016】
この留め具は、主に、鍔部と軸部で構成される。鍔部は、水中設置部材を水中の被設置面に固定する際、水中設置部材の脚部に当接し、水中設置部材が被設置面から脱落することを防止する。一方、軸部は、被設置面に打ち込まれ、留め具自体が被設置面から脱落することを防止する。軸部は水中設置部材の開口部を挿通した状態で打ち込まれるため、水中設置部材は鍔部と被設置面との間に挟み込まれ、固定される。
【0017】
例えば、サンゴ礁水域(サンゴ礁の形成された水域、又は、サンゴ礁が形成されていた水域)又はその周辺水域における水底岩盤などのように、主にサンゴ石灰岩で形成された水底岩盤は、多孔質で杭などの打ち込みが比較的容易である。従って、例えば、水中設置部材を水底岩盤の表面に設置する場合、ドリルなどで水底岩盤の表面を穿孔した後、その場所にこの留め具を嵌め、打ち込むことにより、潜水での作業においても、簡易かつ短時間で固定作業を終了できる。また、鍔部が水中設置部材の脱落を有効に防止するため、波浪などの外力に対しても、水中設置部材を固定した状態を長期間維持することができる。その他、この留め具は、コンクリート構造物の壁面などに水中設置部材を固定する場合などにも適用できる。
【0018】
この留め具は、鍔部が、可撓性材料により形成されているとともに、軸部の立設された側に湾曲形成された構成にしてもよい。これにより、留め具の装着前は、鍔部が水平面よりも下方側に湾曲形成されているのに対し、装着時には、水中設置部材と当接し、略平面形状に変形するとともに、弾性力によって、水中設置部材を下方に押さえつける。従って、本構成により、水中設置部材を被設置面に密着させて固定することができ、揺動が少なく強固で脱落しにくい水中設置部材の固定が可能になる。
【0019】
この留め具は、また、軸部の外周面に係止構造が形成され、その係止構造が、留め具を被設置面に打ち込む際の抵抗よりも被設置面から引き抜くための抵抗の方が増大する構造であるものであってもよい。これにより、より簡易に留め具を被設置面に打ち込むことが可能になり、かつ留め具の脱落を有効に防止できる。従って、本構成により、潜水での作業負担を軽減でき、かつ強固で脱落しにくい水中設置部材の固定が可能になる。
【0020】
水中設置部材及び/又は留め具を生分解性材料で形成してもよい。例えば、水生生物の保護又は育成などの目的を達成した時期に、各部材が分解するように設計しておくことにより、それらの部材の設置区域への残留を防止でき、環境負荷を軽減できる。
【0021】
本発明は、有性生殖によるサンゴ礁の再生と無性生殖によるサンゴ礁の再生のどちらにも適用できる。有性生殖によるサンゴ礁の再生の場合では、例えば、サンゴ育成用の水中設置部材にプラヌラ幼生を着生させ、成長させた後、この留め具を用いてサンゴの付着した水中設置部材を設置地点に固定することにより、簡易かつ確実にサンゴの育成を図ることができる。また、無性生殖によるサンゴ礁の再生の場合でも、例えば、養殖又は自然界から採取したサンゴの組織断片をサンゴ移植用の水中設置部材に癒着させた後、この留め具を用いてサンゴの付着した水中設置部材を設置地点に固定することにより、簡易かつ確実にサンゴの育成を図ることができる。
【0022】
さらに、例えば、略籠状に形成された前記水中設置部材を用いて、非接触状態でサンゴを被覆し、水中設置部材の周縁付近の複数箇所をこの留め具で水底岩盤の表面に固定することにより、オニヒトデなどの食害から、サンゴを保護できる。その他、本発明は、サンゴ礁の再生・保護の場合のみならず、水生生物の保護又は育成などを目的として、格子状又は網状の水中設置部材を水中に設置・固定する場合全てに適用可能である。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、水生生物の保護又は育成などを目的として、格子状又は網状の水中設置部材を水中に設置・固定する場合などにおいて、簡易な作業で水中設置部材を水中に固定することができ、また、波浪などの外力に対しても、水中設置部材を固定した状態を長期間維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
<本発明に係る留め具について>
以下、本発明に係る留め具について、
図1〜
図3Dを用いて説明する。なお、本発明は、略格子状又は網状に形成されたことにより、実体部分を構成する各脚部と、複数の前記脚部により囲繞された各開口部とを備えた水生生物の保護又は育成用の水中設置部材、を水中の被設置面に固定するための留め具であって、鍔部と、該鍔部の裏面から立設された軸部とを備え、前記水中設置部材を前記被設置面に固定する際に、前記軸部が前記開口部を挿通した状態で前記被設置面に打ち込まれるとともに、前記開口部を囲繞する各脚部のうちの複数と前記鍔部の裏面とが当接されることにより、前記水中設置部材が、前記鍔部と前記被設置面との間に挟み込まれる構成である留め具、を広く包含し、以下の実施形態のみに狭く限定されない。
【0025】
図1は本発明に係る水中設置部材固定手段の例を示す部分断面外観斜視模式図である。同図では、主に、本発明に係る留め具Aと水中設置部材Bと被設置面Cとが記載されており、同図中、留め具Aについては断面模式図、水中設置部材B及び被設置面Cについては外観斜視模式図である。
【0026】
図1の留め具Aは、略格子状又は網状に形成されたことにより、実体部分を構成する各脚部B1と、複数の脚部B1、B1、B1、B1により囲繞された各開口部B2とを備えた水生生物の保護又は育成用の水中設置部材Bを水中の被設置面Cに固定するための部材であり、鍔部1と、鍔部1の裏面11から立設された軸部2とを備え、水中設置部材Bを被設置面Cに固定する際に、軸部2が開口部B2を挿通した状態(符号X1参照)で被設置面C上の所定箇所C1に打ち込まれるとともに(符号X2参照)、開口部B2を囲繞する各脚部B1、B1、B1、B1と鍔部1の裏面11とが当接されることにより、水中設置部材Bが、鍔部1と被設置面Cとの間に挟み込まれる構成である。
【0027】
留め具Aは、上記の通り、水中設置部材Bを被設置面Cに固定するための部材であり、主に、鍔部1と軸部2で構成される。この留め具Aを用いることにより、水生生物の保護又は育成などを目的として、格子状又は網状の水中設置部材Bを水中に設置・固定する場合などにおいて、水中設置部材を被設置面Cに簡易かつ短時間の作業で固定でき、かつ波浪などの外力に対しても、水中設置部材を固定した状態を長期間維持することができる。
【0028】
留め具Aの材質については、特に限定されない。例えば、生分解性材料、鉄材で形成されたものなどを適用できるが、可撓性の材料を用いることが可能である点で、生分解性材料で形成されているものがより好適である。上記の通り、水生生物の保護又は育成などの目的を達成した時期に、各部材が分解するように設計しておくことにより、それらの部材の設置区域への残留を防止でき、環境負荷を軽減できる。
【0029】
生分解性材料の例として、例えば、ポリブチレンサクシネート系樹脂(例えば、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/アジペート、ポリブチレンサクシネート/テレフタレートなど)、ポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリカプロラクトン、ポリエチレンサクシネート、ポリビニルアルコール、デンプン、酢酸セルロースなどが挙げられる。また、目的・用途などに応じて、これらのいずれか複数の混合物、又は、これらを主成分とし、他の成分も含有させたものなどを、適宜、採用してもよい。
【0030】
鍔部1は、水中設置部材Bを被設置面Cに固定する際、水中設置部材Bの脚部B1に当接する部位である。鍔部1の裏面11が水中設置部材Bの脚部B1に当接することにより、水中設置部材Bを被設置面Cに固定した後、水中設置部材Bが被設置面Cから脱落することを防止する。
【0031】
鍔部1の形状は、その裏面11が、水中設置部材Bの一つの開口部B2を囲繞する各脚部B1、B1、B1、B1のうちの少なくとも複数と当接できる形状であればよく、特に限定されない。例えば、開口部B2が略四角形に形成されている場合は、その4辺(4つの脚部B1)全てと当接可能な形状に鍔部1を形成することにより、水中設置部材Bの固定をより強固にできる。鍔部1の寸法についても、特に限定されないが、例えば、水中設置部材Bの一つの開口部B2の寸法を、開口部B2の形状が略四角形の場合は最も長い一辺の長さ、略円形の場合は直径又は長径、その他の多角形状の場合は最も長い対角線の長さと定義した場合、鍔部1の寸法(最も長い対角線の長さ)は、開口部Bの寸法よりも大きく設計する必要がある。
【0032】
本発明では、鍔部1が、可撓性材料により形成されているとともに、前記軸部2の立設された側に湾曲形成された構成を備えていてもよい。
図1の留め具Aでは、鍔部1が水平面よりも下方側に湾曲形成されている(符号X3参照)。これにより、留め具Aの装着前は、鍔部1が水平面よりも下方側に湾曲形成されているのに対し、装着時には、水中設置部材Bと当接し、略平面形状に変形するとともに、弾性力によって、水中設置部材Bを下方に押さえつけることができる。従って、本構成により、水中設置部材Bを被設置面Cに密着させて固定することができ、揺動が少なく強固で脱落しにくい水中設置部材Bの固定が可能になる。
【0033】
軸部2は、鍔部1の裏面11から立設された略棒状の部位で、被設置面Cに打ち込まれ、留め具A自体が被設置面Cから脱落することを防止する。軸部2は水中設置部材Bの開口部B2を挿通した状態で打ち込まれるため、水中設置部材Bは鍔部1と被設置面Cとの間に挟み込まれ、固定される。
【0034】
軸部2の形状は、被設置面Cに打ち込み、留め具Aを固定できる形状であればよく、特に限定されない。例えば、略棒状、即ち、略円柱状、略錐状、略多角柱状などのものを用いてもよい。軸部2の寸法についても、目的・用途などに応じて適宜設定でき、特に限定されない。一般的に、軸部2を長くすると留め具Aがより脱落しにくくなり、水中設置部材Bを長期間確実に固定することが可能になるが、留め具Aを装着する作業の手間が増大するのに対し、軸部2を短くすると、留め具Aを装着する作業の手間が軽減されるが、留め具Aが脱落する危険性が増大する。
【0035】
本発明は、軸部2の外周面に係止構造21が形成され、係止構造21が、留め具Aを被設置面Cに打ち込む(符号X4参照)際の抵抗よりも被設置面Cから引き抜く(符号X5参照)ための抵抗の方が増大する構造であるものであってもよい。これにより、より低労力で簡易にかつ短時間で留め具Aを被設置面Cに打ち込むことが可能になり、かつ留め具Aの脱落を有効に防止できる。従って、本構成により、潜水での作業負担を軽減でき、かつ強固で脱落しにくい水中設置部材Bの固定が可能になる。
【0036】
例えば、軸部2の外周面から外向きに係合片を多数突出させ、その係合片を水平面よりも上方向き(鍔部1の方向)に形成することにより、また、例えば、軸部2の外周面に多数の切れ込みを形成し、その切れ込みを水平面よりも上方向き(鍔部1の方向)に形成することにより、留め具Aを被設置面Cに打ち込む際の抵抗よりも被設置面Cから引き抜くための抵抗の方が増大する構造にすることができる。
【0037】
水中設置部材Bは、水生生物の保護又は育成のために水中に設置する部材で、略格子状又は網状に形成されている。そして、略格子状又は網状に形成されたことにより、実体部分を構成する各脚部B1と、複数の脚部B1により囲繞された各開口部B2とを備える。
【0038】
水中設置部材Bの用途については、水生生物の保護又は育成のために水中に設置するものであればよく、特に限定されない。例えば、有性生殖によるサンゴ礁の再生を行う場合において、プラヌラ幼生を着生させ、成長させるために用いるサンゴ育成用の人工基盤、無性生殖によるサンゴ礁の再生を行う場合において、養殖又は自然界から採取したサンゴの組織断片を癒着させるために用いるサンゴ移植用の人工基盤、食害などからサンゴを保護するための被覆網材なども、本発明に係る水中設置部材Bに包含される。その他、サンゴ以外の水生生物の保護又は育成のための部材も、本発明に係る水中設置部材Bに広く包含される。
【0039】
水中設置部材Bの形状についても、略格子状又は網状に形成されていればよく、目的・用途により適宜設定でき、特に限定されない。例えば、サンゴ育成用などとして略平板状・略袋状などのものを用いてもよいし、サンゴ保護用などとして略籠状・略袋状などのものを用いてもよい。水中設置部材Bの寸法についても、目的・用途などに応じて適宜設定できる。例えば、縦・横(・高さ)がそれぞれ0.2〜10.0mの範囲のものを用いてもよい。また、例えば、複数の部材を繋ぎ合わせて形成してもよい。
【0040】
水中設置部材Bの材質については、目的・用途などに応じて適宜設定でき、特に限定されない。例えば、留め具Aと同様の生分解性材料で形成されていてもよい。上記の通り、水生生物の保護又は育成などの目的を達成した時期に、各部材が分解するように設計しておくことにより、それらの部材の設置区域への残留を防止でき、環境負荷を軽減できる。
【0041】
脚部B1は、略格子状又は網状に形成された水中設置部材Bの実体部分であり、例えば、略格子状の場合の骨組みの部分、網状の場合の線材の部分である。本発明に係る留め具Aで水中設置部材Bを被設置面Cに固定する際、留め具Aの軸部2が挿通さえた開口部B2を囲繞する複数の脚部B1が留め具Aの鍔部1の裏面11に当接される。
【0042】
脚部B1の幅、厚さ、断面形状などは、目的・用途・材質などに応じて、適宜設定すればよく、特に限定されない。なお、例えば、留め具Aと水中設置部材Bを同一の生分解性材料で形成した場合、水中設置部材Bの脚部B1の幅などを、留め具Aよりも小さく設計することにより、分解時間をずらすことができる。即ち、両部材の幅などを変えることにより、例えば、水中設置部材Bが先に分解され、水中設置部材Bが分解されてから留め具Aが分解されるように設計することが可能である。
【0043】
開口部B2は、複数の脚部(
図1ではB1、B1、B1、B1)により囲繞された部分であり、水中設置部材Bに多数形成された孔である。本発明に係る留め具Aで水中設置部材Bを被設置面Cに固定する際、留め具Aの軸部2が開口部B2を挿通した状態で被設置面Cに打ち込まれ、水中設置部材Bが被設置面Cに固定される。
【0044】
開口部B2の形状は、特に限定されず、例えば、略多角形(略四角形、略六角形など)、略円形などに形成されたものを適宜採用できる。開口部B2の寸法も目的・用途などに応じて適宜設定でき、特に限定されない。
【0045】
被設置面Cは、水中に存在し、かつ本発明に係る留め具Aを打ち込むことが可能な面が少なくとも形成されていればよく、被設置面の種類・材質・形状、面の凹凸、面の向きなどによって狭く限定されない。水中設置部材Bの被設置面Cとしては、例えば、水底岩盤の表面、少なくとも一部が水中に構築されたコンクリート構造物の壁面などが挙げられる。例えば、サンゴ礁の保護又は育成を目的とする場合には、サンゴ礁水域(サンゴ礁の形成された水域、又は、サンゴ礁が形成されていた水域)又はその周辺水域における水底岩盤などのように、主にサンゴ石灰岩で形成された水底岩盤の表面が、多孔質で杭などの打ち込みが比較的容易である点などから、本発明に好適である。
【0046】
図2A〜
図2Dは、本発明に係る留め具の例を示す図であり、
図2Aは正面図(又は背面図)、
図2Bは左側面図(又は右側面図)、
図2Cは平面図、
図2Dは底面図である。
【0047】
図2の留め具Aでは、軸部2がピン状に形成されており、先端部22と傘部23を備え、鍔部1に挿し込まれることにより、軸部2が鍔部1の裏面11から立設している。鍔部1は略矩形に形成され、軸部2の立設された側に湾曲形成されている。また、鍔部1には、小孔12が形成されている。軸部2の先端部22は、略円錐形に形成されている。
【0048】
図3A〜
図3Dは、本発明に係る留め具の別の例を示す図であり、
図3Aは正面図(又は背面図)、
図3Bは左側面図(又は右側面図)、
図3Cは平面図、
図3Dは底面図である。
【0049】
図3の留め具A’でも、軸部2がピン状に形成されており、先端部22と傘部23を備え、鍔部1に挿し込まれることにより、軸部2が鍔部1の裏面11から立設している。鍔部1は略十字形に形成され、軸部2の立設された側に湾曲形成されている。また、鍔部1には、小孔12が形成されている。軸部2の先端部22は、略円錐形に形成されている。
【0050】
<本発明に係るサンゴ育成方法について>
本発明は、サンゴの付着した前記水中設置部材を、本発明に係る留め具で前記水底岩盤の表面に固定する工程を含むサンゴ育成方法を全て包含する。
【0051】
例えば、略格子状又は網状に形成された水中設置部材をサンゴ育成用の人工基盤として用いて、水中設置部材にサンゴを付着させた後、その水中設置部材を本発明に係る留め具で前記水底岩盤の表面に固定することにより、低労力でのサンゴ育成用基板の設置が可能になり、サンゴ礁の再生が可能になる。
【0052】
上記の通り、本発明は、有性生殖によるサンゴ礁の再生と無性生殖によるサンゴ礁の再生のどちらにも適用できる。
【0053】
図4は、有性生殖によるサンゴ礁の再生を図る場合における、本発明に係るサンゴ育成方法の例を示す断面模式図である。
【0054】
図4では、留め具Aの軸部2を水底岩盤の表面C’に打ち込み、鍔部1と水底岩盤の表面C’とで水中設置部材Bを挟み込んで固定している。その際、水中設置部材Bを高さdだけ撓ませた状態でその周縁付近B3の複数箇所を留め具Aで固定することにより、水中設置部材Bの中央付近において、水中設置部材Bと水底岩盤の表面C’との間に空隙Sが形成されている。
【0055】
上述の通り、有性生殖によるサンゴ礁の再生は、例えば、サンゴ育成用の人工基盤にプラヌラ幼生を着生させ、成長させた後、その人工基盤を再生地点に移設して行う。その際、本発明者の観察では、プラヌラ幼生が人工基盤に着生した後、その人工基盤の下面で充分定着してから、同基板の上面へ張り出し、増殖していくことが多い。
【0056】
そこで、例えば、
図4に示すように、サンゴ育成用の人工基盤に本発明に係る水中設置部材Bを採用するとともに、前記水中設置部材Bを撓ませた状態でその周縁付近B3の複数箇所を前記留め具Aで固定することにより、該水中設置部材Bの中央付近において、前記水中設置部材Bと前記水底岩盤の表面C’との間に空隙が形成された構成にすることで、水中設置部材Bの下面でのサンゴの定着・増殖が阻害されることを防止でき、サンゴの育成を促進できる。
【0057】
図5は、無性生殖によるサンゴ礁の再生を図る場合における、本発明に係るサンゴ育成方法の例を示す断面模式図である。
【0058】
図5では、留め具Aの軸部2を水底岩盤の表面C’に打ち込み、鍔部1と水底岩盤の表面C’とで水中設置部材Bを挟み込んで固定している。水中設置部材BにはサンゴLが付着している。そして、
図5では、水中設置部材Bの周縁付近B3だけでなく、水底岩盤の表面C’と充分に密着していない箇所B4も留め具Aで固定している。
【0059】
上述の通り、無性生殖によるサンゴ礁の再生は、例えば、養殖又は自然界から採取したサンゴの組織断片をサンゴ移植用の人工基盤に癒着させ、その人工基盤を再生地点に移設して行う。その際、本発明者の観察では、サンゴの組織断片と水底岩盤とを接着させることで、サンゴの組織断片と水底岩盤との癒着を促進し、サンゴの育成及びサンゴ礁の再生を促進できる。
【0060】
そこで、例えば、
図5に示すように、サンゴLの付着した水中設置部材Bを再生地点に敷設した際に、水中設置部材Bのうち、その周縁付近B3だけでなく、水底岩盤の表面C’と充分に密着していない一又は複数の箇所B4も留め具Aで固定することにより、簡易に水中設置部材Bと水底岩盤の表面C’とを広範囲にわたって密着させることができるため、サンゴの組織断片Lと水底岩盤の表面C’との癒着を促進でき、低労力で効率的にサンゴの育成及びサンゴ礁の再生を促進できる。
【0061】
<本発明に係るサンゴ保護方法について>
本発明は、略籠状に形成された前記水中設置部材を用いて、非接触状態でサンゴを被覆し、該水中設置部材の周縁付近の複数箇所を、本発明に係る留め具で前記水底岩盤の表面に固定する工程を含むサンゴ保護方法をすべて包含する。
【0062】
例えば、略格子状又は網状に形成され、かつ略籠状に形成された水中設置部材で、非接触状態でサンゴを被覆し、水底岩盤の表面に固定することにより、オニヒトデなどの食害から、サンゴを保護できる。その際、例えば、その水中設置部材の周縁付近の複数箇所をこの留め具で固定することにより、この水中設置部材を簡易な作業で固定することができ、波浪などの外力に対しても、水中設置部材を固定した状態を長期間維持することができる。従って、長期間、サンゴをオニヒトデなどの食害から保護できる。
【0063】
図6は、本発明に係るサンゴ保護方法の例を示す断面模式図である。
【0064】
図6では、略格子状又は網状に形成され、かつ略籠状に形成された水中設置部材B’の周縁付近B’3の複数箇所に、留め具Aの軸部2を水底岩盤の表面C’に打ち込み、鍔部1と水底岩盤の表面C’とで水中設置部材Bを挟み込んで固定している。そして、略籠状の水中設置部材B’を用いて非接触状態でサンゴLを被覆している。これにより、サンゴLの生育している場所にこの水中設置部材B’を設置し、留め具Aで固定するだけの簡易な作業で、長期間かつ有効に、サンゴをオニヒトデなどの食害から保護できる。
【0065】
その他、例えば、サンゴLの付着した水中設置部材Bを水底岩盤の表面C’に留め具Aで固定した後(
図4又は
図5参照)、略籠状に形成された水中設置部材B’でそのサンゴLを水中設置部材Bごと被覆してもよい(図示せず)。これにより、水中設置部材Bを用いて有性生殖又は無性生殖により生育し、移植したサンゴを、簡易かつ有効にオニヒトデなどの食害から保護できる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
上述の通り、サンゴ礁の再生・保護などを含め、水生生物の保護又は育成などを目的として、略格子状又は略網状の水中設置部材を水中に設置・固定する場合がある。従来、そのような水中設置部材の設置・固定作業には、釘・アンカーボルトなどの物理的固定手段、水中ボンドなどの化学的接着手段などが用いられている。
【0067】
しかし、例えば、釘を用いて水中設置部材を固定する場合、波浪などの外力で外れやすく、水中設置部材を固定した状態を長期間維持することが難しいことが多い。また、アンカーボルトは、通常、主に陸上で作業するための工法であるため、アンカーボルトを用いて水中設置部材を固定する場合、潜水した状態で効率よく作業することが難しく、また、低労力かつ短時間で作業を終了することが難しいことが多い。水中ボンドなどを用いて水中設置部材を固定する場合、取り扱いが煩雑で作業性も悪い。また、化学物質を水中で用いることに対する懸念もある。さらに、固定時に外力によりボンドが流出しやすいという問題もある。
【0068】
それに対し、本発明は、留め具を被設置面に打ち込むだけの簡易な作業で水中設置部材を設置・固定できるため、潜水での作業であっても低労力かつ短時間で作業を完了できる。また、波浪などの外力に対しても、水中設置部材を固定した状態を長期間維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【
図1】本発明に係る水中設置部材固定手段の例を示す部分断面外観斜視模式図。
【
図2A】本発明に係る留め具の例を示す正面図(背面図)。
【
図2B】本発明に係る留め具の例を示す左側面図(右側面図)。
【
図3A】本発明に係る留め具の別の例を示す正面図(背面図)。
【
図3B】本発明に係る留め具の別の例を示す左側面図(右側面図)。
【
図3C】本発明に係る留め具の別の例を示す平面図。
【
図3D】本発明に係る留め具の別の例を示す底面図。
【
図4】有性生殖によるサンゴ礁の再生を図る場合における、本発明に係るサンゴ育成方法の例を示す断面模式図。
【
図5】無性生殖によるサンゴ礁の再生を図る場合における、本発明に係るサンゴ育成方法の例を示す断面模式図。
【
図6】本発明に係るサンゴ保護方法の例を示す断面模式図。
【符号の説明】
【0070】
1 鍔部
2 軸部
21 係止構造
A、A‘ 留め具
B 水中設置部材
B1 脚部
B2 開口部
B3 水中設置部材Bの周縁付近
C 被設置面
L サンゴ
S 水中設置部材Bと水底岩盤の表面C’との間に空隙