(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記反転手段は、前記遊星歯車の自転を停止させるとともに遊星歯車の公転を許容し、遊星歯車の公転を停止させるとともに遊星歯車の自転を許容するように前記遊星歯車に対する制動を制御する請求項1記載の遊星歯車装置。
前記公転制動部は、電圧の印加により粘性が変化する電気粘性流体が封入されたケース部と、ケース部から突出し、前記電気粘性流体の粘性の変化によりケース部に対する回転が制御される軸部とを備えるERブレーキからなり、
前記公転制動部の軸部が前記自転制動部のケース部に取り付けられ、公転制動部のケース部が遊星歯車装置内において不動に取り付けられた請求項1乃至請求項3いずれか記載の遊星歯車装置。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は、本発明に係る遊星歯車装置1の外観図である。なお、以下の各歯車の説明において、自転とは歯車中心の軸周りを回転することを意味し、公転とは、他の歯車の軸回りを回転することを意味する。同図において、遊星歯車装置1は、回転駆動手段としてのモーター2と、遊星歯車機構3と、反転手段4とを備える。
モーター2は、遊星歯車装置1を駆動するための駆動源であって、後述の制御手段44から出力される電気的な信号に基づいて回転動作する。信号は、例えば所定値に制御された電圧、電流であり、所望の回転トルクや回転速度が得られるように制御される。
モーター2は、出力軸2Aに取り付けられた歯車8を介して遊星歯車機構3に回転駆動力を出力する。
【0009】
遊星歯車機構3は、モーター2の回転駆動力が入力される太陽歯車31と、太陽歯車31の周りを自転又は公転する複数の遊星歯車32と、遊星歯車32の自転又は公転により回転して、太陽歯車31に入力された回転駆動力を出力する内歯車33とにより構成される。
太陽歯車31は、基台10上に回転自在に支持された軸7の一端側に固定される。この太陽歯車31が取り付けられる軸7の他端には、歯車8と噛み合い、上記モーター2からの回転駆動力が入力される歯車9が取り付けられる。なお、太陽歯車31は、モーター2の出力軸2Aに直接取り付けても良い。
【0010】
遊星歯車32は、太陽歯車31の外周に設けられ、太陽歯車31と噛み合いながら太陽歯車31の周りを自転又は公転する。本実施形態では、太陽歯車31の周りに遊星歯車32が2つ設けられるものとして説明するが、遊星歯車32は1つであっても2つ以上の複数であっても良い。
【0011】
この遊星歯車32は、平板円環状の遊星キャリア34Aに図外のベアリング等の軸受を介して回転自在に取り付けられる遊星軸34Bに固定される。この遊星キャリア34Aは、中心が太陽歯車31の軸心上にあり、遊星軸34B;34Bは、遊星キャリア34Aの中心を中心とする同心円上に互いに対向して設けられる。遊星軸34B;34Bの遊星歯車32;32と遊星キャリア34Aとの間には、後述の反転手段4を構成する従動歯車41が取り付けられる。
【0012】
内歯車33は、内周面に遊星歯車32と噛み合う歯を備える環状の歯車であって、当該内歯車33の軸心と太陽歯車31の軸心とが、同軸となるように遊星歯車32;32と噛み合って回転する。内歯車33は、遊星歯車32の自転又は公転とともに回転してモーター2から太陽歯車31に入力された回転駆動力を出力する出力軸である。
【0013】
図3(a),(b)に示すように、内歯車33の厚み方向一側部には、環状壁48が設けられる。環状壁48は、例えば、内歯車33の回転により駆動されるアーム50を取り付けるためのアーム接続部49を備える。アーム50は、延長方向が内歯車33の半径方向に沿って延長するようにアーム接続部49に取り付けられる。環状壁48は、内歯車33の一側部の一部範囲、又は全範囲を閉塞するように形成される。したがって、アームは、内歯車33の回転により、内歯車33の中心を支点として回転する。
【0014】
反転手段4は、遊星歯車32の自転及び公転に対する制動を制御して、太陽歯車31の回転方向を変えずに、内歯車33の回転方向を反転させる。
本実施形態では、反転手段4は、複数の従動歯車41:41と、制動歯車42と、制動手段43と、制御手段44とを備える。
従動歯車41は、上述のように遊星軸34Bに固定され、遊星歯車32の自転とともに自転し、遊星キャリア34Aの回転により遊星歯車32とともに制動歯車42の周りを公転する。制動歯車42は、太陽歯車31と同軸に設けられ、制動手段43により回転が制御される。制動手段43は、上記遊星歯車32の自転に対して制動力を作用させる自転制動部45と、遊星歯車32の公転に対して制動力を作用させる公転制動部46とにより構成される。
【0015】
反転手段4を上記のように構成することで、制動手段43の自転制動部45により遊星歯車32の自転を停止させるとともに制動手段43の公転制動部46により遊星歯車32の公転を許容し、出力軸である内歯車33の回転方向を太陽歯車31の回転方向と同一方向に回転させることが可能となる。また、制動手段43の自転制動部45により遊星歯車32の自転を許容させるとともに公転制動部46により遊星歯車32の公転を停止させることで、出力軸である内歯車33の回転方向を太陽歯車31の回転方向と逆方向に回転させることができる。つまり、内歯車33の回転方向を反転させることができる。
【0016】
具体的には、制動手段43の自転制動部45が制動歯車42に制動力を付与して制動歯車42に噛み合う従動歯車41を介して遊星歯車32の自転に制動力を作用させて、遊星歯車32の自転を停止させることにより、内歯車33の回転方向を逆向きに回転(反転)させることができる。また、公転制動部46が、遊星キャリア34Aの回転に制動力を付与して遊星歯車32の公転に制動力を作用させることにより、遊星歯車32を太陽歯車31の外周のその場において自転させて内歯車33を太陽歯車31と同方向に回転させることができる。
【0017】
本実施形態では、自転制動部45及び公転制動部46にERブレーキがそれぞれ適用されている。
図2は、ERブレーキの一例を示す断面図である。同図に示すように、ERブレーキは、軸51と、軸側電極板52と、ケース側電極板53と、電気粘性流体54と、これらを収容するケース55とにより構成される。軸51は、ケース55に回転自在に取り付けられ、ケース55内部における外周面には、円板状の複数の軸側電極板52が所定間隔で離間して取り付けられる。この軸側電極板52に挟まれるように、軸側電極板52の間に複数のケース側電極板53が配置される。ケース側電極板53は、ケース55の内部に不動に固定される。軸側電極板52とケース側電極板53とが設けられたケース55内部の空間には、電気粘性流体54が封入されている。軸側電極板52及びケース側電極板53は、それぞれ、ケース55外部に露出して設けられた接続端子56;57に導通する。
【0018】
例えば、軸側電極板52と導通する接続端子56をプラス極、ケース側電極板53と導通する接続端子57をマイナス極として、軸側電極板52及びケース側電極板53とに電圧を印加する。
本構成のERブレーキでは、軸側電極板52とケース側電極板53との間に電圧を印加することで、軸側電極板52とケース側電極板53との間に電界を生じさせて軸側電極板52とケース側電極板53との間に介在する電気粘性流体54の粘性を変化させることにより、ケース55を軸51と一体に回転させたり、ケース55に対して軸51のみを回転可能とする。なお、ERブレーキの構成は上記に限定されない。
また、電気粘性流体54は、印加される電圧が高くなるにつれて粘性が高くなる特性を有し、例えば、シリコンオイルなどの絶縁性の液体に金属や有機物などの分極しやすい物質の微粒子を分散させたものからなる。
【0019】
以下、自転制動部45のERブレーキと、公転制動部46のERブレーキとを区別するため、自転制動部45のERブレーキの構成を示す符号には、末尾に“A”を付し、公転制動部46のERブレーキの構成を示す符号には、末尾に“B”を付して説明する。
自転制動部45を構成するERブレーキは、軸51Aが太陽歯車31の軸心と同軸となるように基台10上において図外の軸受を介して回転自在に支持される。この自転制動部45の軸51Aの一端側には、従動歯車41と噛み合う制動歯車42が固着される。また、自転制動部45のケース55Aには、軸51Aと同軸に遊星キャリア34Aが取り付けられる。
【0020】
上記構成によれば、自転制動部45のケース55Aとともに遊星キャリア34Aが回転し、自転制動部45の軸51Aの回転により制動歯車42が回転して従動歯車41,遊星軸34B及び遊星歯車32が自転可能となる。また、ケース55Aの遊星キャリア34Aが取り付けられた逆側には、公転制動部46の軸51Bを固定するための軸固定部47を備える。軸固定部47は、公転制動部46の軸51Bが、自転制動部45の軸51と同軸で固定可能に設けられる。例えば、軸固定部47は一端側にフランジ部を有する円筒状の筒体に構成し、筒体の軸心が軸51Aと同軸上に位置するようにフランジ部を自転制動部45のケース55Aに固定する。さらに、筒体の内周面に所定ピッチの歯車を形成しておき、後述の公転制動部46の軸51Bにこの歯車とガタなく噛み合う歯車47Aを取り付けることで、自転制動部45のケース55Aに対して公転制動部46の軸51Bを同軸に固定可能である。
【0021】
公転制動部46は、軸51Bが自転制動部45の軸51Aと同軸となるように、ケース55Bが図外の固定手段により基台10上に固定される。すなわち、遊星歯車機構3の太陽歯車31の軸7と、自転制動部45の軸51Aと、公転制動部46の軸51Bとが同軸上に配置される。
【0022】
上記自転制動部45及び公転制動部46は、制御手段44と接続され、制御手段44から出力される所定電圧の印加によって、自転制動部45の軸51Aとケース55Aとが互いに回転可能となったり、軸51Aとケース55Aとが一体となったりする。また公転制動部46の軸51Bがケース55Bに対して回転可能となったり、固定されたりする。
【0023】
制御手段44は、いわゆるコンピュータであって、ハードウェア資源として設けられた演算手段としてのCPU、記憶手段としてのROM,RAM、通信手段としての入出力インターフェイス等を備える。CPUは、記憶手段に格納された制動制御プログラムに従って後述の処理を実行する。この制御手段44には、例えば、ロボットのアームに取り付けられて、アームが人や物体に接触したことを検知する検知手段80が接続される。検知手段80は圧力センサなどにより構成される。
【0024】
具体的には、制御手段44は、通常の遊星歯車機構の動作時には、自転制動部45には電圧を印加せず、公転制動部46に所定圧の電圧を出力して軸51Bをケース55Bに固定することで、自転制動部45のケース55Aを回転不能に固定して遊星キャリア34Aの回転、すなわち、遊星歯車32の公転を停止させるように制御する。ここでいう所定圧の電圧とは、電気粘性流体54の粘性が最大となるときの電圧をいう。これにより、モーター2の回転力が遊星歯車32を介して直接内歯車33に伝達されるので、モーター2による駆動効率を最大にすることができる。また、制動歯車42の回転によって回転する自転制動部45の軸51Aとケース55Aとの共回りを防止することができる。
【0025】
また、制御手段44に接続される検知手段80から接触を報知する信号が入力されたときには、自転制動部45に対して内歯車33を逆回転させるために、所定電圧を印加し、公転制動部46への電圧の印加を停止する。これにより、遊星歯車32の自転が停止され、内歯車33の回転方向が、太陽歯車31の回転方向と同一方向に回転することになる。したがって、モーター2の回転方向を切替えることなく内歯車33の回転方向を反転させることができる。
【0026】
なお、上記太陽歯車31、遊星歯車32、内歯車33の減速比の関係及び、従動歯車41と制動歯車42との減速比の関係は、出力軸である内歯車33に駆動力とモーター2の出力との関係により適宜設定すれば良い。また、従動歯車41と制動歯車42との減速比の関係は、内歯車33の回転により動作する動作対象物による動作、すなわち、内歯車33に作用するモーメントが遊星歯車32に及ぼすモーメントよりも、自転制動部45により得られる制動力が大きくなるように設定すれば良い。本実施形態の場合には、上記自転制動部45により得られる制動力が、ERブレーキ内に封入された電気粘性流体54の最大の粘性により得られる。
【0027】
以下、本発明に係る遊星歯車装置1の動作について
図3(a),(b)を用いて説明する。
通常動作として
図3(a)に示すように、モーター2が所定方向、ここでは左回転しているものとする。このモーター2の回転により、内歯車33は左向きに回転して、内歯車33の回転中心を関節の支点にして、アーム50が右から左へと移動する。
このとき制御手段44は、自転制動部45には電圧を印加せず、公転制動部46にのみ所定の電圧を印加して、公転制動部46の軸51Bをケース55Bに固定して自転制動部45のケース55Aに対して制動力を作用させる。これにより、自転制動部45の軸51Aが回転するときに、内部に封入された電気粘性流体54Aの粘性により自転制動部45のケース55Aとの共回りを防止して、自転制動部45の軸51Aの回転を自在にする。したがって、制動歯車42の回転が自由となり、従動歯車41を介した遊星歯車32への制動が解除されて太陽歯車31の外周上において遊星歯車32が公転することなく自転する。
【0028】
次に、このアーム50の移動中に目的を達成する動作の前に障害物に接触した場合、検知手段80から制御手段44に信号が出力される。この信号が入力された制御手段44は、上記自転制動部45に所定の電圧を印加するとともに、公転制動部46への電圧の印加を停止する。これにより、自転制動部45の電気粘性流体54Aの粘性が高くなって、軸部51Aとケース55Aとが一体となり、これにともなって制動歯車42と遊星キャリア34Aと従動歯車41とが一体となって遊星歯車32の公転方向に回転する。
【0029】
すなわち、
図3(b)に示すように、自転制動部45の軸部51Aとケース55Aとを一体とすることにより、遊星キャリア34Aに対する制動歯車42の自転が停止することになる。制動歯車42の自転の停止により従動歯車41が回転不能となり、遊星軸34B上に固定された遊星歯車32も自転不能となり、ちょうど太陽歯車31と内歯車33との間に詰め物をした状態となって、内歯車33の回転方向が、太陽歯車31の回転方向と同一方向に回転するように回転方向を瞬間的に反転させることが可能になる。
【0030】
以上説明したように、本発明によれば、モーター2の回転方向を逆転することなく、出力軸である内歯車33の回転方向を切替えることができる。また、本発明によれば、遊星歯車機構3を構成する太陽歯車31、遊星歯車32の軸心上に反転手段4の構成を配置できるので、上記で説明した以外の歯車機構を不用とし、装置構成を単純化することができる。
【0031】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
例えば、上記自転制動部45及び公転制動部46のそれぞれにERブレーキを用いて、遊星歯車32の自転を停止させるとともに遊星歯車32の公転を許容し、遊星歯車32の公転を停止させるとともに遊星歯車32の自転を許容するように遊星歯車32を制御するとして説明したが、ERブレーキに印加する電圧を調整して遊星歯車32や遊星キャリア34Aへの滑りを調整するように制御手段44により制御するようにしても良い。
すなわち、遊星歯車32を停止させないように自転制動部45に所定の電圧よりも小さな電圧を印加することで遊星歯車32に制動を付与することで、モーター2の出力を一定に維持したまま内歯車33の回転を徐々に減速させることができる。つまり、無段変速機としての機能を果たさせることも可能である。
【0032】
また、公転制動部46のERブレーキの電気粘性流体54Bの粘性が最大となるときのせん断応力よりも自転制動部45のケース55Aに作用する力が大きいときには、自転制動部45と公転制動部46との間に例えば、大きな減速比が得られる遊星歯車機構を設けて、自転制動部45のケース55Aへの制動力に大きな力が得られるように構成しても良い。
【0033】
また、上記実施形態では、自転制動部45及び公転制動部46とにERブレーキを用いるとして説明したがこれに限定されず、制動歯車41の回転を停止、また、遊星キャリア34Aの回転を停止できる手段であれば良い。この手段には、例えば、電磁ブレーキや制御手段44からの信号により動作する機械式ブレーキ等が挙げられる。
また、自転制御部45と公転制御部46とは、同一の手段である必要は無く、例えば一方をERブレーキとし、他方を電磁ブレーキ等としても良い。