【文献】
SELLATHAMBY,C.V. 外2名,“Performance characteristics of a high power CO2 laser with computer vision mode and power control”,APPLIED OPTICS,1990年10月20日,Volume 29,Number 30,Pages 4499-4503
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の回折格子の回折面と前記第2の回折格子の回折面は平行とされて相対するように配され、前記第1の回折格子と前記第2の回折格子の間の光軸の中点から見て、前記第2の回折格子の格子面の構造は、前記第1の回折格子の回折面の構造と対称とされたことを特徴とする請求項6に記載のCO2レーザーモニター装置。
【背景技術】
【0002】
近年、赤外レーザーの1種であるCO
2(炭酸ガス)レーザーは、高出力で連続したレーザー光が安価で得られるために、測距、溶接等の加工を初めとした産業用や、外科手術やほくろ除去等の医療用等、広い分野で使用されている。
【0003】
CO
2レーザーを使用するにあたっては、これを適切に被照射部に照射する必要があるために、まず、CO
2レーザー光のビームプロファイルの調整(ビームの光軸、大きさの調整等)を行うことが必要である。しかしながら、CO
2レーザーの波長は10μm程度であり可視光域にはないために、その光路あるいは光軸を目視で確認することは困難である。このため、CO
2レーザー光のビームプロファイルをモニターするための装置が必要となる。このようなモニター装置として、例えば、焦電素子を用いてCO
2レーザー光を受光し、ビームプロファイルをモニターする装置が用いられている(例えば、非特許文献1)。
【0004】
また、レーザー光は一般には単色であるが、CO
2レーザーにおいては、その発振波長はCO
2分子の振動準位、回転準位によって定まる複数の波長となり、厳密には9.3μm程度、10.6μm程度などいくつかの波長帯の光が発振される。これらの波長や各々の波長の発光強度比等は一定ではなく、条件に応じて変化する。このために、CO
2レーザー光に関しては、発振波長のモニター、すなわち、そのスペクトルを調べることも望まれる。このようなモニター装置として、例えば、回折格子を用いてCO
2レーザー光を分光する装置が用いられている(例えば、非特許文献2)。
【0005】
また、CO
2レーザー光(赤外光)を対象としたものではないが、特許文献1には、配列された多数の光検出素子と回折格子とを組み合わせ、レーザー光の方向と、分光特性を同時に測定するモニター装置が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記の通り、CO
2レーザー光の場合には、異なる波長のレーザー光が混在して発振されるため、スペクトル(発振波長)を計測することは特に重要である。この際、一般には光学素子の屈折率には分散特性があるため、例えば、波長によってレンズ等の焦点距離が変わる、あるいは波長によって屈折角が変わるため光軸が変化することがある。このため、ビームプロファイルは発振波長の影響を大きく受け、ビームプロファイルを調整するにあたっても、レーザー光のスペクトルを計測できることが好ましい。
【0009】
このためには、ビームプロファイルをモニターする装置(例えば非特許文献1)と、CO
2レーザー光のスペクトルを計測する装置(例えば非特許文献2)の両方を準備すればよいことは明らかである。しかしながら、どちらの装置においても、こうしたCO
2レーザー光(波長10μm程度の赤外光)を受光する光検出素子が必要となり、この光検出素子は、可視光用に広く使用されている光検出素子と比べて高価となる。このため、こうした装置はいずれも高価となり、特にこうした装置を両方準備するために要するコストは非常に高くなる。
【0010】
この点において、特許文献1に記載の装置においては、ビームプロファイルとスペクトルの両方が測定可能である。しかしながら、特許文献1に記載の装置は、このような赤外光を対象としていない。仮にこの装置をCO
2レーザー光用とした場合においては、特に高価な赤外線検出素子を多数準備することが必要になるために、やはり非常に高価となることは明らかである。
【0011】
前記の通り、CO
2レーザーを発振する装置自身は安価であり、かつ高出力が得られるものの、こうしたモニター装置が必要となる場合は、結局、必要となる設備全体が高コストとなる。
【0012】
すなわち、低コストでCO
2レーザー光のモニターを行うことのできるCO
2レーザーモニター装置を得ることは困難であった。
【0013】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明のCO
2レーザーモニター装置は、CO
2(炭酸ガス)レーザー光のビーム広がり及びスペクトルを計測するCO
2レーザーモニター装置であって、前記CO
2レーザー光を回折する
反射型の回折格子と、表面から蛍光又は燐光を発し、前記回折格子で回折された前記CO
2レーザー光によって前記表面が照射され、前記蛍光又は燐光の発光強度が
赤外光の照射によって変動する光検出板と、前記光検出板の表面
であって前記回折格子で回折された前記CO2レーザー光が入射する入射面を2次元画像として撮像する撮像装置と、を具備することを特徴とする。
本発明のCO
2レーザーモニター装置は、前記蛍光又は燐光の励起光を前記光検出板に照射する照明部を具備することを特徴とする。
本発明のCO
2レーザーモニター装置において、前記光検出板は、前記光検出板が発する蛍光の強度が温度が上昇することによって減少する特性をもつ蛍光板であることを特徴とする。
本発明のCO
2レーザーモニター装置において、前記光検出板は、前記光検出板が発する燐光の強度が
赤外光の照射によって増大する特性をもつ蓄光板であることを特徴とする。
本発明のCO
2レーザーモニター装置は、前記回折格子を介さない前記CO
2レーザー光が前記光検出板に入射可能とされたことを特徴とする。
本発明のCO
2レーザーモニター装置は、前記CO
2レーザー光が入射する第1の回折格子と、当該第1の回折格子で回折された前記CO
2レーザー光が入射する第2の回折格子とを具備し、当該第2の回折格子で回折された光が前記光検出板を照射する設定とされたことを特徴とする。
本発明のCO
2レーザーモニター装置は、前記第1の回折格子の回折面と前記第2の回折格子の回折面は平行とされて相対するように配され、前記第1の回折格子と前記第2の回折格子の間の光軸の中点から見て、前記第2の回折格子の格子面の構造は、前記第1の回折格子の回折面の構造と対称とされたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は以上のように構成されているので、低コストでCO
2レーザー光のモニターを行うことのできるCO
2レーザーモニター装置を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態に係るCO
2レーザーモニター装置について説明する。このCO
2レーザーモニター装置においては、回折格子と、回折格子で回折された光(赤外光)を検出するための光検出板とが用いられる。光検出板は、蛍光を発する蛍光板あるいは燐光を発する蓄光板であり、赤外光が照射された箇所における蛍光や燐光の強度が変化する。蛍光や燐光の波長は可視光域にある。
【0018】
図1は、このCO
2レーザーモニター装置10の構成を示す図である。ここで、このCO
2レーザーモニター装置10によって、CO
2レーザー光100のスペクトル、光軸、ビームサイズ等を認識することができる。
【0019】
このCO
2レーザーモニター装置10においては、CO
2レーザー光100は、絞り11を介して集光光学系12に入射する。その後、このCO
2レーザー光100は、回折格子13に入射して回折される。この際、回折角度は波長により異なる。
図1においては、模式的に、波長の異なる(回折角度の異なる)3種類の回折光101〜103が示されている。回折光101〜103の波長は、回折光103>回折光102>回折光101の順となっている。
【0020】
回折光101〜103は、光検出板14に入射する設定とされる。光検出板14は、可視光を発する蛍光板あるいは蓄光板であり、表面から蛍光あるいは燐光を発するが、この蛍光あるいは燐光の強度は、表面に入射した赤外光の強度によって変化する。このため、光検出板14の表面に入射した赤外光ビームを、蛍光あるいは燐光の強度むらとして認識することができる。この状況は、撮像装置15で撮像することができる。また、光検出板14が蛍光あるいは燐光を発しやすくするために、照明部16が発した照明光16A(紫外光)が光検出板14を照射する設定とされる。照明光16Aは、光検出板14が発する蛍光や燐光の励起光となる。すなわち、光検出板14が照明光16Aを吸収することによって、蛍光や燐光が発せられる。照明光16Aが存在しなくとも、光検出板14の環境中にある他の光が励起光となる場合には、照明部16は不要である。
【0021】
絞り11は、測定対象となるCO
2レーザー光100以外の光が光路に侵入することを抑制するために用いられる。集光光学系12は、CO
2レーザー光100を集光するために用いられる。ただし、後述するように、CO
2レーザー光100の発散角自身を測定する場合には、集光光学系12は使用されない。集光光学系12は、例えばレンズを用いて構成されるが、反射鏡を用いて構成することもできる。
【0022】
また、絞り11のように発散角を制限する、あるいは集光光学系12のように発散を集束するための光学系は、特にスペクトルを計測する際には、適宜これらを光路中に設けることができる。特に、これらを複数、光路上における異なる箇所に設けることもできる。
【0023】
上記の構成において、回折格子13としては、例えば
図2にその断面形状を示すブレーズ回折格子を用いることができる。ここで、入射角(回折面の法線に対する角度)は、α、回折角をβとする。βは波長に依存し、波長が長いとβが大きくなる。また、αが大きくなるとβは大きくなる。周知のように、回折格子13の特性は、溝の密度で定まり、ここでは例えば溝を75本/mmとすることによって、波長10μm程度の光の分光に用いることができる。
図1において回折光101は光検出板14の左側に、回折光103は右側において検出され、この検出位置がβに依存し、結局、検出位置によって波長が定まる。βが大きくなると、この検出位置とβあるいは波長の関係における線形性が劣化し、かつ、撮像装置15で撮像する視野を広くする必要があるために、αは小さいことが好ましく、例えばα=5°とすることができる。
【0024】
光検出板14は、蛍光板としては、例えばMacken Instruments社製の蛍光板22−Bを用いることができる。この蛍光板は、照明光16Aによって励起され、蛍光を発する。この蛍光効率には温度依存性があるため、熱赤外の領域である10μm程度の波長の赤外光が照射された場合、照射された箇所の温度が上昇し、蛍光効率が低下する。このため、回折光101〜103によって照射された箇所の蛍光強度は低下し、撮像装置15によって撮像された画像においては、回折光101〜103によって照射された箇所は暗部として認識される。
【0025】
一方、光検出板14として、蓄光材(例えばZnS:Cu、例えば根本特殊化学株式会社製 商品名GSS)が表面に塗布された蓄光板を用いることもできる。この場合には、照明光16Aがこの蓄光材に蓄光され、回折光101〜103によって照射された箇所は温度が上昇するために、燐光を発しやすくなる。このため、蛍光板を用いた場合とは逆に、蓄光板を用いた場合には、撮像装置15によって撮像された画像においては、回折光101〜103によって照射された箇所は明部として認識される。なお、蓄光材においては、随時畜光を行うための時間が必要となる。
【0026】
上記の光検出板14と撮像装置15を用いた場合には、撮像によって得られた画像データを処理することによって、光検出板14表面の発光強度分布をより正確に認識することができる。例えば、CO
2レーザー光100がオフの状態(回折光101〜103がオフの状態)において撮像して得た画像データと、CO
2レーザー光100がオンの状態(回折光101〜103がオンの状態)において撮像して得た画像データとの差分をとることによって、回折光101〜103によって照射された箇所となる暗部や明部を強調した画像データを得ることができる。
【0027】
CO
2レーザー光の波長は10μm程度の熱赤外域であり、これを光検出板14が吸収することによって、光検出板14の表面に温度分布が生ずる。この温度分布を、上記のように、蛍光や燐光の強度分布として検出することによって、間接的に回折光の分布を検出することができる。この際、CO
2レーザーには複数の波長の光が混在するものの、スペクトルの半値幅が小さく、かつビームの広がりも小さい場合には、回折光は光検出板14における暗点又は輝点として認識される。
【0028】
しかしながら、実際には、レーザー光の発振スペクトルにおける半値幅は零ではなく、かつビームにも広がりがあり、光検出板14において検出された暗部や明部の大きさは、これらの両方の影響を受ける。この影響について、以下に説明する。
【0029】
図3は、光検出板14において2つの回折光101〜103が暗部(明部)として検出された場合の形態を模式的に示す図である。ここでは、
図3に示されたA〜Cの各領域をスポットと呼称する。スポットAは回折光101に対応し波長は9.22μm、スポットBは回折光102に対応し波長は10.37μm、スポットCは回折光103に対応し波長は10.73μmであるものとする。これらの波長は、実際のCO
2レーザー光における発振波長となっている。
【0030】
また、CO
2レーザー光は、厳密にはこれらの各々の波長において、これらの波長をピークとする極狭い分布をもって発振される。この分布の半値全幅(FWHM)は0.1μm程度である。このため、レーザー光の広がりが無視できる場合には、光検出板14を用いて0.1μmよりも高い波長分解能が得られる場合には、各波長の光の識別が可能となる。回折格子13の溝を75本/mm、α=5°とした場合において、0.1μmの波長分解能(ピーク分解能)に対応する蛍光板上の空間分解能は、0.9mmとなる。これに対応する蛍光板に対する入射角度のずれ(βのずれ)は、CO
2レーザー光の波長によって異なるが、回折格子13が上記の設定とされた場合におけるこの関係を
図4における実線で示す。この入射角度のずれは、波長9.22μm(A)では0.99°、波長10.37μm(B)では0.90°、波長10.73μm(C)では0.88°となる。このピーク分解能よりも高い分解能がなければ、上記の各ピークの分解識別が困難となる。すなわち、このピーク分解能は、検出された各スポット(波長)の認識をするために最低限必要な分解能である。
【0031】
一方、前記の光検出板14上におけるスポットの検出の分解能は、蛍光板の場合も蓄光板の場合も例えば0.25mm程度である。更に、実際には、この画像は撮像装置15で撮像され、その画像データにおける分解能も存在する。ここで、例えば撮像装置15が744×480画素のものであり、その視野を23.8mm×15.4mmとした場合には、撮像装置15の分解能は、0.032mm/画素となる。このため、スポットの検出の分解能(検出板分解能)は、光検出板14の空間分解能(0.25mm)で決定され、これは撮像装置15においては7.8画素分に対応する。光検出板14の空間分解能(0.25mm)に対応した入射角度(β)のずれを、
図4における破線で示す。この値は、前記のピーク分解能に対応した空間分解能(0.9mm)よりも小さいため、検出された各スポットと波長との対応付けをすることが充分可能である。この空間分解能に対応する波長分解能は0.03μmとなる。この分解能に対応する蛍光板に対する入射角度の変化(βの変化)は、
図4より、波長9.22μm(A)では0.28°、波長10.37μm(B)では0.25°、波長10.73μm(C)では0.25°となる。これにより、蛍光板(光検出板14)を用いて、
図3の各スポットを分解して認識することができることは明らかである。
【0032】
また、上記の検出板分解能よりも大きなスケールで
図3のスポットが移動した場合には、レーザー光の光軸がずれたと認識することができる。例えば、ピーク分解能(各波長のスポットを識別するために最低限要求される分解能)に対応するβの変化は前記の通り最大で0.99°程度であり、これを越えた光軸ずれが発生した場合には、光軸ずれの発生前後における各スポットの対応が困難となる場合がある。しかしながら、この角度に対応する光軸のずれは、例えば間隔1mにおいて17mm程度と大きな値となる。CO
2レーザー光を被照射体に照射する場合、実際には、ピエゾ素子によって反射鏡の角度が調整されることによって、その光軸が調整される。この場合、通常は0.99°よりも充分に高い精度で制御が行われる、これを越える大きな光軸ずれは発生しにくい。このため、一般的には、
図3における各スポットの認識は、光軸がずれた場合においても変わらずに可能である。また、検出板分解能を越えた光軸ずれが発生した場合には、これを検出できることは明らかである。
【0033】
実際には、レーザー光のビームは広がりをもち、
図3に示される各スポットは、W
A、W
B、W
Cで示される広がりをもつ。W
A、W
B、W
Cの検出により、ビームの広がりを検出することも上記の光検出板14を用いて可能である。また、この際に、各波長における光軸の中心を求めることもできる。これは、撮像装置15で得られた画像データから、以下の通りに行われる。
【0034】
図5(a)は、一つのスポットを含む画像データを示し、i、jはそれぞれ画素の横方向、縦方向における画素の順番に対応し、各画素の座標は(i,j)で表される。各画素には蛍光強度に応じた信号強度I(i,j)が対応して記憶されている。なお、蛍光板を用いた場合にはスポットにおける信号強度は小さくなるが、単純化のために、以下では蓄光板を用いた場合のように、スポットにおける信号強度はその周囲よりも大きくなるものとする。
【0035】
まず、一つのスポットを含む矩形領域R
0を設定し、この中でのI(i,j)の最大値I
max=I(i
0,j
0)を求める。(i
0,j
0)は、Iが最大値をとる画素の番号である。次に、横方向、縦方向における(i
0,j
0)の両側でI=I
max/e
2となる点をI(i,j)を元にして算出し、
図5(b)のように、上下左右の幅がこの点で区切られた新たな領域R
1を設定する。この領域R
1における左下の座標を(i
1,j
1)、右上の座標を(i
2,j
2)(i
1<i
2、j
1<j
2)とする。ビームの中心は、スポットの重心として認識でき、その座標(i
c,j
c)は、以下の式で算出される。
【0037】
また、ビームの広がりは、横方向でi
2−i
1、縦方向でj
2−j
1に対応して算出される。ここで、横方向においては、スペクトルにおける広がりの影響が存在するが、前記の通り、CO
2レーザー光においては、一般にはこのスペクトルにおける広がりは無視できる。このため、W
A、W
B、W
Cは、A、B、Cの各々における(i
2−i
1)×画素サイズとして求めることができる。また、これに対応するA、B、Cにおける発散角(ビームの広がり)は、
図4の場合と同様に、回折格子13における回折特性より、算出することができる。
【0038】
なお、スペクトル(発振波長)の計測をせずに、光軸、ビームの広がりのみを計測する場合には、回折格子13及び光検出板14を回転移動させ、CO
2レーザー光100の光軸上に光検出板14が直接配されるような設定とすることもできる。この場合、回折格子13による回折の影響がないために、光軸やビームの広がりをより正確かつ容易に求めることができる。この場合、例えば反射鏡等を回折格子13の代わりに用いることによって、光検出板14や撮像装置15等は移動させない構成とすることもできる。
【0039】
また、上記のCO
2レーザーモニター装置10の変形例であるCO
2レーザーモニター装置20の構成を
図6に示す。このCO
2レーザーモニター装置20においては、回折格子が2つ組み合わせて用いられている点が前記のCO
2レーザーモニター装置10とは異なる。ここで用いられる回折格子(第1の回折格子)21、回折格子(第2の回折格子)22は、各々が前記の回折格子13と同様の構成(例えばブレーズ回折格子)とされる。ただし、各々における回折面は平行とされ、これらが相対するように配される。また、ブレーズ回折格子がこれらに用いられた場合においては、
図7にその構成が拡大して示されるように、これらの間の光軸の中点Oから各々を見た場合に、回折格子22の回折面の構成は、回折格子21の回折面の構成と対称となっている。
図7の構成においては、溝の間隔は同一でありかつブレーズが形成された向きが上下で逆転した構成の回折格子21、22が用いられる。
【0040】
図7に示されるように、この構成においては、α=0°(直入射)回折格子21で回折された異なる波長の回折光101、102が、共に回折格子22に入射する。この際、回折光101の回折格子22への入射角は回折光101の回折格子21による回折角β
1、回折光102の回折格子22への入射角は回折光102の回折格子21による回折角β
2、とそれぞれ等しくなる。回折格子21、22を上記の構成とした場合には、回折格子21における入射光と回折光の関係と、回折格子22における入射光と回折光の関係とが逆転する。このため、
図7に示されるように、回折光101、102は、共に回折格子22における回折面と垂直な方向に回折される。なお、回折格子21と回折格子22は同様の構造を具備するが、
図7の構成より、回折格子22において光が照射される範囲は特に広くなるため、回折格子22は、回折格子21よりも
図7における上下方向にわたり長くすることが好ましい。
【0041】
この場合、回折格子22で回折後には、波長の異なる全ての回折光の光軸は平行となって光検出板14に入射する。また、CO
2レーザー光100の回折格子21の入射前の光軸からの発散角と、回折格子22で回折後の回折光の発散角は、ほぼ等しくなる。これに対し、前記のCO
2レーザーモニター装置10においては、発散角が大きな場合には、回折格子13で回折後の回折光の発散角は更に大きくなるために、光検出板14によってこれを計測することが困難となる場合がある。このため、CO
2レーザーモニター装置10において回折格子13を用いない場合と同様に、光軸やビームの広がりを、より単純かつ正確に求めることができる。このため、複数の絞りや集光光学系を設けることも不要となる。また、異なる波長をもつ回折光の光軸が平行となるため、回折格子22と光検出板14との間の距離を変えた場合でも、光検出板14における蛍光の強度むらの分布は変化しない。このため、
図6における各構成要素の配置の自由度が高まる。また、第1の回折格子21と第2の回折格子22との間の間隔を調整することによって、視野(回折光が光検出板14で受光される範囲)を調整することもできる。
【0042】
このCO
2レーザーモニター装置20においては、
図7中の紙面方向(入射面と垂直な方向)における集光を行うように回折格子21に入射前の光路中に円柱レンズを設けることによって、スペクトル計測における精度を高めることもできる。この際、円柱レンズによる絞り11の結像が光検出板14上でなされるように設定することによって、高精度のスペクトル計測を行うことができる。
【0043】
なお、上記のCO
2レーザーモニター装置20において、第1の回折格子21と第2の回折格子22における回折面は平行とされ、その回折面の構造は対称とされたが、要求される性能に応じて、これらの関係が厳密に成立する必要はないことは明らかである。
【0044】
(実施例)
以下、上記のCO
2レーザーモニター装置を用いて実際にCO
2レーザー光のスペクトル、光軸を計測した結果について説明する。ここで、CO
2レーザー発振装置としては、発振波長9.22〜10.61μm、出力1Wのものを用いた。まず、回折格子を1つ用いたCO
2レーザーモニター装置10(α=5°)、回折格子を2つ用いたCO
2レーザーモニター装置20(α=0°)にこのCO
2レーザー光を入射させ、光検出板14上において検出された回折光の光軸(スポットの重心:画素位置で表示)とこれに対応する波長の関係を調べた。ここで、撮像装置15の画素数は744画素×480画素(回折方向に対応して744画素)としている。CO
2レーザー光のスペクトルは、他の装置を用いて校正されている。
【0045】
図8は、この測定結果(○印(実線):CO
2レーザーモニター装置10、△印(破線):CO
2レーザーモニター装置20)である。この結果より0.0036μm/画素(CO
2レーザーモニター装置10)、0.0030μm/画素(CO
2レーザーモニター装置20)の結果が得られており、良好な検出結果が得られることが確認された。
図8に示されるように、直線性も良好であるため、CO
2レーザー光における発振波長を正確にモニターすることが可能である。
【0046】
次に、異なる2種類のCO
2レーザー発振装置を用い、実質的に3種類の発振波長をもつCO
2レーザー光を作成し、CO
2レーザーモニター装置10と同様の構成をもつ第1の実施例を用いて、光検出板14における蛍光の強度むらを撮像装置15によって撮像した。ここで、CO
2レーザー発振装置としては、(1)発振波長9.22μm、出力1W、(2)発振波長10.37μm、出力0.7W、のものを用いた。これらの光軸は同一となるように調整した。その後、蛍光の強度むらの時間経過を調べた。ここで、集光光学系12を使用せず、絞り11のみを用いている。
【0047】
図9(a)〜(c)は、蛍光の強度むらの時間経過を撮像装置15によって撮像した結果を示す。ここでは、光検出板として蛍光板が用いられ、強度むらが明暗反転して示されている。
図9(a)はある時刻T0における結果、
図9(b)はT0+90秒における結果、
図9(c)はT0+180秒における結果である。ここで、図中左側に示されたプロファイルは、各スポットの縦方向(入射面と垂直な方向)におけるプロファイルを示している。
【0048】
図示されるように、9.22μmの発光((1)による発光)と、10.37μmの発光((2)による発光)の他に、10.73μmの発光が確認された。10.73μmの発光は、(2)における10.37μmの発光がモード遷移した発光である。時刻T0(
図9(a))においては、(2)においては10.37μmの発光が支配的であり10.73μmの発光は弱かったのに対し、時刻T0+180秒(
図9(c))においては、10.73μmの発光が支配的となっている。この間、(1)の発光(9.22μm)は変化が見られない。
【0049】
このような、CO
2レーザー光に特有な複数の波長の発光を、回折格子13と光検出板14を用いて確認することができた。なお、
図9の結果より、(1)における9.22μmの発光の半値全幅は0.1μm程度、(2)における10.37μm、10.73μmの発光の半値全幅は0.10μm程度であり、
図9に示されるように、これらの3種類の波長の発光が完全に分離して検出されている。この場合の波長分解能は、光検出板の空間分解能で定まり、0.03μm程度(光検出板表面における空間分解能0.25mmに相当)であった。
【0050】
図9では3つの時刻においてしか測定結果が表示されていないが、他の時刻においても同様の測定を行い、レーザー発振装置(1)(2)の発振波長の時間変化を実測した結果が
図10である。このように、レーザー発振装置(2)におけるモード遷移が明確に検出されている。
【0051】
また、
図9において検出された9.22μmに対応するスポットと、10.37μmに対応するスポットの垂直方向(入射面と垂直な方向)における重心の位置の時間変化を調べた。これは、CO
2レーザー発振装置(1)とCO
2レーザー発振装置(2)の光軸の時間変化に相当する。この測定結果を
図11に示す。上記のCO
2レーザーモニター装置10によって、この光軸の時間変動が測定できることが確認された。
【0052】
次に、2つの回折格子を用いたCO
2レーザーモニター装置20と同様の構成をもつ第2の実施例を用い、前記と同様に、CO
2レーザー発振装置として、(3)発振波長9.22μm、出力0.1W、(4)発振波長10.57μm、出力0.1W、の2種類を用いて測定を行った。ここでは、絞りを使用せず、集光光学系(焦点距離:+100mm)を使用し、光検出板の横方向において集光される設定とした。これによる
図9と同様の測定結果(ただし時刻は1点のみ)を
図12に示す。光検出板の有効面積は30mm×20mm程度とした。
【0053】
この場合においては、集光されたために各スポットは
図9よりも横方向で小さくなり、(3)における9.22μmの発光の半値全幅、(4)における10.57μmの発光の半値全幅は共に0.08μmであった。
【0054】
このように、2つの回折格子を用いたCO
2レーザーモニター装置20によっても、CO
2レーザー光のスペクトル、光軸をモニターすることができる。特に、0.1Wという低出力のレーザー発振装置を用いた場合でも、これらをモニターすることができることが確認された。この場合の波長分解能も、光検出板14表面の空間分解能(0.25mmに相当)で定まり、0.02μmであった。
【0055】
次に、光検出板において、蛍光板、蓄光板を用いた場合の比較結果について説明する。ここでは、単純化のために、CO
2レーザー光を回折格子を介さずに光検出板に直接照射(入射角度45°)した。
図13(a)は、蓄光材(ZnS:Cu 根本化学製 商品名GSS)が塗布された蓄光板を用いた場合、
図12(b)は、蛍光板(Macken Instruments社製 商品名22−B)を用いた場合の撮像結果である。前記の通り、蓄光板(a)では照射部が明部となるポジイメージが得られ、蛍光板(b)では照射部が暗部となるネガイメージが得られている。なお、(a)の蓄光板の場合、蓄光する時間をとるため、0.3HzのサイクルでレーザーをON/OFFしている。
【0056】
図13(a)(b)の撮像データに対して、CO
2レーザー光を照射しない場合に得られた画像データの各画素における信号強度との差分を算出することによって、スポットを強調した結果を、
図14(a)(b)に示す。ここで、実線は横方向、縦方向における強度プロファイルを示す。どちらの場合においても、同様の結果が得られていることが確認できる。すなわち、光検出板として、蛍光板、蓄光板のどちらを用いることもできる。
【0057】
上記の実施例の結果より、上記のCO
2レーザーモニター装置は、吸収による光検出板の表面の温度変化を検知しやすい波長10μm程度(9〜11μm程度)のレーザー光(CO
2レーザー光)のモニターに特に好適である。この際、光軸検出の分解能、スペクトルにおける波長分解能は、光検出板における発光の位置分解能(面積30mm×20mmにおいて、0.25mm程度)で定まるが、これは、実際のCO
2レーザー光における発光波長を考慮した際には充分な値であり、波長分解能は0.02μmが得られた。
【0058】
この際、安価な材料で構成された光検出板が検出のために用いられ、他に必要なのは、やはり安価な撮像素子、回折格子等である。このため、2つの回折格子が用いられるCO
2レーザーモニター装置20においても、例えば20万円程度でこれを構成することが可能となる。すなわち、安価で充分な特性をもつCO
2レーザーモニター装置を得ることができる。