【実施例】
【0055】
つぎに、実施例について、参考例および比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、その要旨を超えない限り、これら実施例に限定されるものではない。
【0056】
まず、実施例,参考例,比較例となる非水電解液二次電池の作製に先立ち、以下に示す材料および構成部材の、調製・作製・準備を行った。
【0057】
[導電性ポリマー1の調製]
導電性ポリマー1として、テトラフルオロホウ酸をドーパントとする導電性ポリアニリン粉末を下記のように調製した。
【0058】
すなわち、まず、イオン交換水138gを入れた300mL容量のガラス製ビーカーに、42重量%濃度のテトラフルオロホウ酸水溶液(和光純薬工業社製、試薬特級)84.0g(0.402mol)を加え、磁気スターラーにて撹拌しながら、これにアニリン10.0g(0.107mol)を加えた。テトラフルオロホウ酸水溶液にアニリンを加えた当初は、アニリンは、テトラフルオロホウ酸水溶液に油状の液滴として分散していたが、その後、数分以内に水に溶解し、均一で透明なアニリン水溶液になった。このようにして得られたアニリン水溶液を、低温恒温槽を用いて−4℃以下に冷却した。
【0059】
つぎに、酸化剤として二酸化マンガン粉末(和光純薬工業社製、試薬1級)11.63g(0.134mol)を、上記アニリン水溶液中に少量ずつ加えて、ビーカー内の混合物の温度が−1℃を超えないようにした。このようにして、アニリン水溶液に酸化剤を加えることによって、アニリン水溶液は直ちに黒緑色に変化した。その後、しばらく撹拌を続けたとき、黒緑色の固体が生成し始めた。
【0060】
このようにして、80分間かけて酸化剤を加えた後、生成した反応生成物を含む反応混合物を冷却しながら、さらに、100分間、撹拌した。その後、ブフナー漏斗と吸引瓶を用いて、得られた固体をNo.2濾紙にて吸引濾過して、粉末を得た。この粉末を約2mol/Lのテトラフルオロホウ酸水溶液中にて磁気スターラーを用いて撹拌洗浄した。ついで、アセトンにて数回、撹拌洗浄し、これを減圧濾過した。得られた粉末を室温(25℃)で10時間真空乾燥することにより、テトラフルオロホウ酸をドーパントとする導電性ポリアニリン(導電性ポリマー1)12.5gを得た。この導電性ポリアニリンは鮮やかな緑色粉末であった。
【0061】
(導電性ポリマー1の電導度)
上記導電性ポリアニリン粉末130mgを瑪瑙製乳鉢で粉砕した後、赤外スペクトル測定用KBr錠剤成形器を用い、75MPaの圧力下に10分間真空加圧成形して、直径13mm、厚み720μmの導電性ポリアニリンのディスクを得た。ファン・デル・ポー法による4端子法電導度測定にて測定した上記ディスクの電導度は、19.5S/cmであった。
【0062】
(脱ドープ状態の導電性ポリマー1の調製)
上記により得られたドープ状態である導電性ポリアニリン粉末を、2mol/L水酸化ナトリウム水溶液中に入れ、3Lセパラブルフラスコ中にて30分間撹拌し、中和反応によりドーパントのテトラフルオロホウ酸を脱ドープした。濾液が中性になるまで脱ドープしたポリアニリンを水洗した後、アセトン中で撹拌洗浄し、ブフナー漏斗と吸引瓶を用いて減圧濾過し、No.2濾紙上に、脱ドープしたポリアニリン粉末を得た。これを室温下、10時間真空乾燥して、茶色の脱ドープ状態のポリアニリン粉末を得た。
【0063】
(還元脱ドープ状態の導電性ポリマー1の調製)
つぎに、フェニルヒドラジンのメタノール水溶液中に、この脱ドープ状態のポリアニリン粉末を入れ、撹拌下30分間還元処理を行った。ポリアニリン粉末の色は、還元により、茶色から灰色に変化した。反応後、メタノール洗浄、アセトン洗浄し、濾別後、室温下真空乾燥し、還元脱ドープ状態のポリアニリンを得た。
【0064】
(還元脱ドープ状態の導電性ポリマー1の電導度)
上記還元脱ドープ状態のポリアニリン粉末130mgを瑪瑙製乳鉢で粉砕した後、赤外スペクトル測定用KBr錠剤成形器を用い、75MPaの圧力下に10分間真空加圧成形して、厚み720μmの還元脱ドープ状態のポリアニリンのディスクを得た。ファン・デル・ポー法による4端子法電導度測定にて測定した上記ディスクの電導度は、5.8×10
-3S/cmであった。これより、ポリアニリン化合物は、イオンの挿入・脱離により導電性の変化する活物質化合物であるといえる。
【0065】
[導電性ポリマー2の調製]
導電性ポリマーとして、アントラキノン−2−スルホン酸をドーパントとする導電性ポリピロール粉末を下記のように調製した。
【0066】
すなわち、まず、ピロール25g(0.373mol)をイオン交換水430gに撹拌して溶解し、5.5重量%水溶液を作製した。ここへ、アントラキノン−2−スルホン酸ナトリウム1水和物を30.5g(0.093mol)溶解した。さらに、ここへ、室温下、35重量%のペルオキソ二硫酸アンモニウム水溶液243gを2時間かけて少しずつ滴下した。ブフナー漏斗と吸引瓶を用いて減圧濾過し、黒色のポリピロール粉末を得た。水洗、アセトン洗浄した後、デシケータ中、室温下、10時間真空乾燥し、粉末状の導電性ポリピロール(導電性ポリマー2)25.5gを得た。
【0067】
(導電性ポリマー2の電導度)
上記導電性ポリピロール粉末130mgを瑪瑙製乳鉢で粉砕した後、赤外スペクトル測定用KBr錠剤成形器を用い、75MPaの圧力下に10分間真空加圧成形して、直径13mm、厚み700μmの導電性ポリピロールのディスクを得た。ファン・デル・ポー法による4端子法電導度測定にて測定した上記ディスクの電導度は、10S/cmであった。
【0068】
[ポリカルボン酸金属塩(a)の準備]
ポリアクリル酸(和光純薬工業社製、重量平均分子量100万)4.4gをイオン交換水95.6gに加え、一夜静置して膨潤させた。この後、超音波式ホモジナイザーを用いて1分間処理して溶解させ、4.4重量%濃度の粘稠なポリアクリル酸水溶液100gを得た。ついで、得られたポリアクリル酸水溶液100gに、ポリアクリル酸の有するカルボキシル基の量の半分をリチウム塩化する量の水酸化リチウム粉末0.73gを加えて、ポリアクリル酸の半リチウム塩水溶液を調製し、準備した。
【0069】
[正極Iの作製](参考例用)
濃度48重量%のスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)エマルジョン(JSR社製、TRD2001)0.37gと、濃度19.8重量%のポリビニルピロリドン(PVP)水溶液(日本触媒社製、K−90W)2.12gを混合して、バインダー溶液を調製した。
【0070】
上記還元脱ドープ状態の導電性ポリマー1粉末4gと導電性カーボンブラック(電気化学工業社製、デンカブラック)粉末0.6gとを混合した後、これを上記バインダー溶液に加え、さらにイオン交換水6.9gを加えて、スパチュラでよく練った。これを、超音波式ホモジナイザーにて1分間超音波処理を施した後、フィルミックス40−40型(プライミックス社製)を用いて高剪断力を加えてマイルド分散させ、流動性を有するペーストを得た。このペーストをさらに真空吸引鐘とロータリーポンプを用いて脱泡した。
【0071】
卓上型自動塗工装置(テスター産業社製)を用い、マイクロメーター付きドクターブレ−ド式アプリケータによって、溶液塗工厚みを360μmに調整し、塗布速度10mm/秒にて、上記脱泡ペーストを電気二重層キャパシタ用エッチングアルミニウム箔(宝泉社製、30CB)上に塗布した。ついで、室温(25℃)で45分間放置した後、温度100℃のホットプレート上で乾燥した。この後、真空プレス機(北川精機社製、KVHC)を用いて、15cm角のステンレス板に挟んで、温度140℃、圧力1.5MPaで5分間プレスして、多孔質のポリアニリンシート電極(正極I)を作製した。
【0072】
[正極IIの作製](参考例用)
濃度48重量%のスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)エマルジョン(JSR社製、TRD2001)0.42gと、濃度19.8重量%のポリビニルピロリドン(PVP)水溶液(日本触媒社製、K−90W)2.45gを混合して、バインダー溶液を調製した。
【0073】
前記調製した導電性ポリマー2粉末3gと、導電性カーボンブラック(電気化学工業社製、デンカブラック)粉末0.365gとを混合した後、これを上記バインダー溶液に加え、さらにイオン交換水5gを加えて、スパチュラでよく練った。これを、超音波式ホモジナイザーにて1分間超音波処理を施した後、フィルミックス40−40型(プライミックス社製)を用いて、高剪断力を加えてマイルド分散させ、流動性を有するペーストを得た。このペーストをさらに真空吸引鐘とロータリーポンプを用いて脱泡した。
【0074】
卓上型自動塗工装置(テスター産業社製)を用い、マイクロメーター付きドクターブレ−ド式アプリケータによって、溶液塗工厚みを360μmに調整し、塗布速度10mm/秒にて、上記脱泡ペーストを電気二重層キャパシタ用エッチングアルミニウム箔(宝泉社製、30CB)上に塗布した。ついで、室温(25℃)で45分間放置した後、温度100℃のホットプレート上で乾燥し、多孔質のポリピロールシート電極(正極II)を作製した。
【0075】
[正極IIIの作製](実施例用)
前記調製した還元脱ドープ状態の導電性ポリマー1粉末4gと導電性カーボンブラック(電気化学工業社製、デンカブラック)粉末0.5gとを混合した後、これを前記4.4重量%濃度のポリアクリル酸の半リチウム塩水溶液20.4g中に加え、スパチュラでよく練った。これを、超音波式ホモジナイザーにて1分間超音波処理を施した後、フィルミックス40−40型(プライミックス社製)を用いて高剪断力を加えてマイルド分散させ、流動性を有するペーストを得た。このペーストをさらに真空吸引鐘とロータリーポンプを用いて脱泡した。
【0076】
卓上型自動塗工装置(テスター産業社製)を用い、マイクロメーター付きドクターブレ−ド式アプリケータによって、溶液塗工厚みを360μmに調整し、塗布速度10mm/秒にて、上記脱泡ペーストを電気二重層キャパシタ用エッチングアルミニウム箔(宝泉社製、30CB)上に塗布した。ついで、室温(25℃)で45分間放置した後、温度100℃のホットプレート上で乾燥した。この後、真空プレス機(北川精機社製、KVHC)を用いて、15cm角のステンレス板に挟んで、温度140℃、圧力1.5MPaで5分間プレスして、多孔質のポリアニリンシート電極(正極III)を作製した。
【0077】
[セパレータの準備]
セパレータとしては、厚さ25μm、空孔率38%、通気度620秒/100cm
3のポリプロピレン多孔質膜(セルガード社製、Celgard2400)を用いた。
【0078】
[負極の準備]
炭素質材料を含む負極としては、活物質として天然球状グラファイトを含む負極シート(パイオトレック社製、0.8mAh/cm
2)を用いた。
【0079】
[電解液iの準備]
電解液iとして、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを1:1の体積比で含む溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を1mol/Lの濃度で溶解させたものを準備した。
【0080】
[電解液iiの準備]
電解液iiとして、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを3:7の体積比で含む溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を1mol/Lの濃度で溶解させたものを準備した。
【0081】
[電解液iiiの準備]
電解液iiiとして、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを1:1の体積比で含む溶媒に、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)を1mol/Lの濃度で溶解させたものを準備した。
【0082】
[電解液用添加剤(負極被膜形成剤)の準備]
電解液用添加剤として、ビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)を準備した。
【0083】
〔参考例1〕
<ラミネートセルの作製>
正極I、負極およびセパレータを用いて積層体を組み立てた。具体的には、上述した正極Iと負極の間にセパレータ2枚が配置されるように積層し、積層体を得た。積層体をアルミニウムラミネートパッケージに入れた後、真空乾燥機にて80℃で2時間、真空乾燥した。ついで、真空乾燥したパッケージに、電解液を注入した。上記電解液としては、前記準備した電解液i100重量部に対し、電解液用添加剤としてビニレンカーボネート(VC)を2重量部の割合で添加したものを用いた。最後に、パッケージを封口して、参考例1の非水電解液二次電池を得た。なお、パッケージへの注液は、グローブボックス中、超高純度アルゴンガス雰囲気下にて行った。グローブボックス内の露点は−90℃以下であった。このようにして、ラミネートセル(非水電解液二次電池)を得た。
【0084】
〔参考例2、実施例1〜14、比較例1〜5〕
正極,電解液および電解液用添加剤の種類、並びに電解液用添加剤(負極被膜形成剤)の添加量を、後記の表1〜表5に示すものに代えた。それ以外は、参考例1と同様にして、ラミネートセル(非水電解液二次電池)を作製した。
【0085】
このようにして得られた実施例、参考例および比較例の非水電解液二次電池に関し、下記の基準に従い、重量エネルギー密度の測定を行った。その結果を後記の表1〜表5に併せて示す。
【0086】
≪重量エネルギー密度の測定≫
非水電解液二次電池を25℃の恒温槽内に静置し、電池充放電装置(北斗電工社製、SD8)を用いて、定電流一定電圧充電/定電流放電モードにて測定を行う。充電は、3.8Vに到達するまでは、0.05Cに相当する定電流で充電し、3.8Vに到達した後は、3.8V定電圧で電流値が0.05C相当の20%に減衰するまで充電を行って、これを1充電とし、ついで0.05Cに相当する電流値で電圧が2.0Vに到達するまで放電を行って、これらを1充放電サイクルとした。
ここで0.05Cとは、20時間率を示しており、20時間率とは、電池を充電あるいは放電するのに20時間を要する電流値という意味である。2サイクル目で得られた放電容量から、ポリアニリンの正味重量に対する重量エネルギー密度を測定する。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
【表4】
【0091】
【表5】
【0092】
上記各表における実施例と、参考例および比較例との対比より、負極被膜形成剤を含む電解液を用いた実施例の非水電解液二次電池は、負極被膜形成剤を含まない電解液を用いた比較例の非水電解液二次電池と同程度かそれ以上の高い重量エネルギー密度を示すことがわかる。
【0093】
≪自己放電性の測定≫
非水電解液二次電池において、前述した方法で2サイクルの充放電を行った後、電池充放電装置(北斗電工社製、SD8)を用い、開回路電圧測定モードにて、時間(hrs.)ごとの電圧(V)の変化を測定した。この結果を
図1〜
図6のグラフに示した。
【0094】
上記各グラフにおける実施例と、参考例および比較例との対比から明らかなように、実施例の非水電解液二次電池は経時による自己放電の割合が低い(グラフの曲線がなだらかである)のに対し、比較例の非水電解液二次電池は経時による自己放電の割合が高い(グラフの曲線が急激に下がっている)ことがわかる。
【0095】
そして、上記各表およびグラフの結果を総括すると、負極被膜形成剤を含む電解液を用いた非水電解液二次電池は、負極被膜形成剤を含まない電解液を用いた非水電解液二次電池と同程度かそれ以上の高い重量エネルギー密度を有し、かつ、負極被膜形成剤を含まない電解液を用いた非水電解液二次電池と比べて自己放電を抑制できることから、電池性能が高いことが明らかとなった。