特許第6153132号(P6153132)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6153132
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/56 20060101AFI20170619BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20170619BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20170619BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20170619BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20170619BHJP
   C08L 77/06 20060101ALI20170619BHJP
   C08L 9/02 20060101ALI20170619BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20170619BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20170619BHJP
   C09D 109/02 20060101ALI20170619BHJP
   C09D 177/00 20060101ALI20170619BHJP
   C09D 177/06 20060101ALI20170619BHJP
   C09D 163/10 20060101ALI20170619BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20170619BHJP
【FI】
   C08G59/56
   C08K7/02
   C08K5/54
   C08K5/17
   C08L63/00 Z
   C08L77/06
   C08L9/02
   C09D5/08
   C09D163/00
   C09D109/02
   C09D177/00
   C09D177/06
   C09D163/10
   C09D7/12
【請求項の数】15
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-195278(P2013-195278)
(22)【出願日】2013年9月20日
(65)【公開番号】特開2015-59195(P2015-59195A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2015年11月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】高橋 定明
(72)【発明者】
【氏名】平澤 勇人
【審査官】 大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−130676(JP,A)
【文献】 特開平09−255912(JP,A)
【文献】 特開平02−232223(JP,A)
【文献】 特開2006−342360(JP,A)
【文献】 特開2007−255039(JP,A)
【文献】 特開平07−025981(JP,A)
【文献】 特開平10−212455(JP,A)
【文献】 特開昭63−319081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高級脂肪酸、またはその誘導体から導かれる2官能以上のエポキシ樹脂(a)、
前記(a)以外のエポキシ樹脂(b)、
末端反応性ブタジエンアクリロニトリル共重合体(c)、および
ポリアミドアミン(d)
を含有し、前記ポリアミドアミン(d)として、少なくとも、変性脂環式ポリアミドアミン(d1)を含有するエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリアミドアミン(d)として、さらに、ポリオキシアルキレンポリアミンをポリカルボン酸で変性したポリアミドアミン(d2)を含有する請求項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記2官能以上のエポキシ樹脂(a)が、ヒマシ油変性エポキシ樹脂である請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
エポキシ樹脂組成物(固形分)中に、前記末端反応性ブタジエンアクリロニトリル共重合体(c)を0.2〜5質量%(固形分)の量で含む請求項1〜のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、第3級アミン(e)を含有する請求項1〜のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
さらに、シランカップリング剤(f)を含有する請求項1〜のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
さらに、顔料(g)を含有する請求項1〜のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
前記顔料(g)が、針状顔料(g−1)および/または中空球状顔料(g−2)である請求項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
さらに、繊維(h)を含有する請求項1〜のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項10】
前記繊維(h)が、ビニロン繊維である請求項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物からなる防食塗料組成物。
【請求項12】
前記防食塗料組成物が、湿潤面施工用である請求項11に記載の防食塗料組成物。
【請求項13】
コンクリート構造物の表面に、請求項11に記載の防食塗料組成物を塗布した後、該防食塗料組成物を硬化させるコンクリート構造物の補修または補強方法。
【請求項14】
コンクリート構造物の表面に、請求項または10に記載のエポキシ樹脂組成物を塗布した後、該エポキシ樹脂組成物を硬化させるコンクリート構造物の剥落防止方法。
【請求項15】
請求項1〜10のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物または請求項11もしくは12に記載の防食塗料組成物を用いて形成された塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可とう性に優れたエポキシ樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、数多くの構造物や施設などにおいては、コンクリートが多用されている。
しかしながら、近年、コンクリートの乾燥に伴う収縮、環境温度の変化に伴う膨張や収縮、あるいはコンクリート中の鉄筋の発錆による膨張、アルカリ骨材反応などに起因して、コンクリート構造体の亀裂の発生が問題となっている。例えば、海浜、河川、湖等の場所に構築されたコンクリート構造物や、あるいは海水、淡水などを多量に使用する施設においては、一旦、コンクリート構造体に亀裂が発生すると、その亀裂から、内部に海水あるいは淡水が浸入して、内部に埋設された鋼材を腐食させ、結果として、コンクリート構造体の一部が剥離したり、崩壊したりするなどの問題が発生する場合がある。
【0003】
そのためコンクリート構造物に発生する亀裂に追随し、保護することができる材料が必要とされている。
また海浜、河川、湖等の場所に構築させたコンクリート構造物は湿潤環境下にあることも多く、湿潤面においても施工可能であることが望まれている。
【0004】
これらの課題を解決するものとして特開平11−21430号公報に可とう性に優れるエポキシ樹脂組成物が提案されている。しかしながら前記公報に記載のエポキシ樹脂組成物は湿潤面への施工を目的としておらず湿潤環境下で使用することはできなかった。
【0005】
また特開昭59−84915号公報には水中や飛沫帯に対して施工可能な水中硬化型エポキシ樹脂が提案されている。しかしながら前記公報に記載のエポキシ樹脂組成物は、パテ状の組成物であるため施工にあたってはローラー塗装、ハケ塗装といった簡易な方法で施工することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−21430号公報
【特許文献2】特開昭59−84915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記のような従来技術に伴う課題を解決しようとするものであって、コンクリート構造物の乾燥面はもちろんのこと、コンクリート構造物の湿潤面への密着性に優れ、該構造物に亀裂が発生した場合でも亀裂に追随することが可能な可とう性に優れた組成物を提供すること、また、コンクリート構造物の剥落を防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、かかる課題を解決するためにつぎのような手段を採用する。
すなわち、本発明のエポキシ樹脂組成物は、
高級脂肪酸、またはその誘導体から導かれる2官能以上のエポキシ樹脂(a)、
前記(a)以外のエポキシ樹脂(b)、
末端反応性ブタジエンアクリロニトリル共重合体(c)、および
ポリアミドアミン(d)
を含有する。
【0009】
前記エポキシ樹脂組成物は、前記ポリアミドアミン(d)として、少なくとも、変性脂環式ポリアミドアミン(d1)を含有することが好ましい。
前記エポキシ樹脂組成物は、前記ポリアミドアミン(d)として、さらに、ポリオキシアルキレンポリアミンをポリカルボン酸で変性したポリアミドアミン(d2)を含有することが好ましい。
【0010】
前記エポキシ樹脂組成物において、前記2官能以上のエポキシ樹脂(a)が、ヒマシ油変性エポキシ樹脂であることが好ましい。前記エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂組成物(固形分)中に、前記末端反応性ブタジエンアクリロニトリル共重合体(c)を0.2〜5質量%(固形分)の量で含むことが好ましい。
【0011】
前記エポキシ樹脂組成物は、さらに、第3級アミン(e)を含有することが好ましい。
前記エポキシ樹脂組成物は、さらに、シランカップリング剤(f)を含有することが好ましい。
【0012】
前記エポキシ樹脂組成物は、さらに、顔料(g)を含有することが好ましい。
前記エポキシ樹脂組成物において、前記顔料(g)が、針状顔料(g−1)および/または中空球状顔料(g−2)であることが好ましい。
【0013】
前記エポキシ樹脂組成物は、さらに、繊維(h)を含有することが好ましい。
前記エポキシ樹脂組成物において、前記繊維(h)がビニロン繊維であることが好ましい。
【0014】
本発明の防食塗料組成物は前記エポキシ樹脂組成物からなる。
前記防食塗料組成物の好ましい用途として湿潤面施工用が挙げられる。
本発明のコンクリート構造物の補修または補強方法は、コンクリート構造物の表面に、前記防食塗料組成物を塗布した後、該防食塗料組成物を硬化させる補修または補強方法である。
【0015】
本発明のコンクリート構造物の剥落防止方法は、コンクリート構造物の表面に、前記エポキシ樹脂組成物を塗布した後、該エポキシ樹脂組成物を硬化させる剥落防止方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、亀裂に追随可能であり、湿潤面においてローラー塗装やハケ塗装といった簡易な方法でコンクリート構造物の保護が可能なエポキシ樹脂組成物を提供することができる。
【0017】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物は、海水などに対する長期防食性、およびコンクリート湿潤面、鉄筋、鋼板、さび面への付着性も有する。
さらに、本発明のエポキシ樹脂組成物は、無溶剤タイプにすることが可能であるため作業者の安全衛生面、自然環境面でも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[エポキシ樹脂組成物]
本発明のエポキシ樹脂組成物は、
高級脂肪酸、またはその誘導体から導かれる2官能以上のエポキシ樹脂(a)、
前記(a)以外のエポキシ樹脂(b)、
末端反応性ブタジエンアクリロニトリル共重合体(c)、および
ポリアミドアミン(d)
を含有する。
【0019】
また、任意成分として、第3級アミン(e)、シランカップリング剤(f)、顔料(g)および繊維(h)を含有することができ、さらに本発明の効果を阻害しない限りその他の成分を含有することができる。
【0020】
<高級脂肪酸、またはその誘導体から導かれる2官能以上のエポキシ樹脂(a)>
高級脂肪酸、またはその誘導体から導かれる2官能以上のエポキシ樹脂(a)は、エポキシ樹脂硬化物の架橋点間距離を大きくし、硬化物に伸度を付与するために配合する。このようなエポキシ樹脂は、前駆体である高級脂肪酸、またはその誘導体の複数有する官能基に対し化学反応を行い、その高級脂肪酸等にエポキシ基を導入することにより得られるものである。ここでいう高級脂肪酸とは、炭素数が8以上、好ましくは炭素数が12以上の脂肪族カルボン酸をさす。誘導体としては、高級脂肪酸とグリセリンとのエステルであるトリグリセリドなどが好ましく用いられる。
【0021】
高級脂肪酸、またはその誘導体から導かれる2官能以上のエポキシ樹脂(a)としては、たとえば高級脂肪酸またはその誘導体が有する二重結合を酸化してエポキシ基としたものを使用することができる。このような方法で得られるエポキシ樹脂の具体例としては、不飽和脂肪酸であるリノール酸のトリグリセリドを主成分とするアマニ油の二重結合を酸化して得られるアマニ油変性エポキシ樹脂を使用することができる。
【0022】
また、高級脂肪酸またはその誘導体が有する水酸基をグリシジルエーテルにする方法で得られたものも使用することができる。このような方法で得られるエポキシ樹脂の具体例としては、たとえばヒドロキシカルボン酸であるリシノレイン酸のトリグリセリドを主成分とするヒマシ油をグリシジル化して得られるヒマシ油変性エポキシ樹脂を使用することができる。
【0023】
さらに、複数のカルボキシル基を有する高級脂肪酸をグリシジルエーテルにする方法で得られたものも使用することができる。この方法で得られるエポキシ樹脂の具体例としては、たとえばポリカルボン酸であるダイマー酸(リノール酸の二量体を主とする混合物)のグリシジルエステルであるダイマー酸変性エポキシ樹脂を使用することができる。
【0024】
また、これらグリシジルエーテル化合物、グリシジルエステル化合物にさらにビスフェノールAグリシジルエーテルなどのポリエポキシ化合物を反応させた生成物も好ましく用いることができる。
【0025】
これらの中でも、組成物の可とう性を向上させるという観点から、ヒマシ油変性エポキシ樹脂が特に好ましい。
このような高級脂肪酸、またはその誘導体から導かれる2官能以上のエポキシ樹脂としては、例えば、ヒマシ油変性エポキシ樹脂としてErisys(R)GE−35(CVC Thermoset Specialities社製)、ヘロキシ(R)505(エー・シー・アイ・ジャパン・リミテッド製)やACRエポキシ R−1353(エー・シー・アール(株)製)等、市販されているものが使用できる。またダイマー酸変性エポキシ樹脂として、Erisys (R)GE−120(CVC Thermoset Specialities社製)、エピコート(R)871、エピコート(R)872(油化シェルエポキシ(株)製)、エポトート(R)YD−171、エポトート(R)YD−172(東都化成(株)製)、ヘロキシ(R)71(エー・シー・アイ・ジャパン・リミテッド製)等を使用することができる。炭素数12〜14のグリシジルエーテルであるEpodil(R)759(CVC Thermoset Specialities社製)等も使用できる。なお、上記商品名の(R)は登録商標等を示す。
【0026】
本発明のエポキシ樹脂組成物においては、このような2官能以上のエポキシ樹脂は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明のエポキシ樹脂組成物(固形分)中における高級脂肪酸、またはその誘導体から導かれる2官能以上のエポキシ樹脂(a)の配合量(固形分)は、特に限定されるものではないが、2〜12質量%が好ましく、3〜10質量%がより好ましい。12質量%より多いと、防食性、密着性が低下する場合がある。また、2質量%より少ないと、柔軟性が低下する傾向にある。
【0027】
<前記(a)以外のエポキシ樹脂(b)>
前記(a)以外のエポキシ樹脂(b)としては、特開平11−343454号公報、 特開平10−259351号公報などに記載の非タール系エポキシ樹脂を用いることができる。
【0028】
該エポキシ樹脂(b)としては、分子内に2個以上のエポキシ基を含むポリマーあるいはオリゴマー、およびそのエポキシ基の開環反応によって生成するポリマーあるいはオリゴマーが挙げられる。このようなエポキシ樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂、グリシジルアミン系エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾール型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、エポキシ化油系エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂などが挙げられる。中でも、ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましく、さらにはビスフェノールA型、F型のエポキシ樹脂が好ましく、特にビスフェノールA型のエポキシ樹脂が好ましく用いられる。ビスフェノール型エポキシ樹脂を用いると、密着力の優れた塗膜を形成することができる。
【0029】
このようなエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ビスフェノールAジグリシジルエーテルタイプ);ビスフェノールADエポキシ樹脂;エピクロルヒドリンとビスフェノールF(4,4’-メチレンビスフェノール)とが縮重合反応した構造のエポキシノボラック樹脂;3,4-エポキシフェノキシ-3’,4’-エポキシフェニルカルボキシメタン等が縮重合反応した脂環式エポキシ樹脂;エピクロルヒドリン−ビスフェノールAエポキシ樹脂中のベンゼン環に結合している水素原子の少なくとも1部が臭素置換された構造の臭素化エポキシ樹脂;エピクロルヒドリンと脂肪族2価アルコールとが反応した構造の脂肪族エポキシ樹脂;エピクロルヒドリンとトリ(ヒドロキシフェニル)メタンとが縮重合反応した構造の多官能性エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0030】
特に好ましく用いられる、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂としては、上記例示も含めて、たとえばビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールAポリプロピレンオキシドジグリシジルエーテル、ビスフェノールAエチレンオキシドジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAプロピレンオキシドジグリシジルエーテル等のビスフェノールA型ジグリシジルエーテルなどの縮重合物が挙げられる。
【0031】
本発明のエポキシ樹脂組成物においては、このようなエポキシ樹脂は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。このように2種以上のエポキシ樹脂を組み合わせて用いる場合には、エポキシ樹脂の平均分子量、エポキシ当量は、何れもその平均値で示す。
【0032】
このようなエポキシ樹脂のうちでは、常温(15〜25℃の温度、以下同様。)で液状から固形状のものが好ましく、また、そのエポキシ当量は通常150〜1000g/equiv、好ましくは150〜600g/equiv、特に好ましくは180〜500g/equivである。
【0033】
このようなエポキシ樹脂の平均分子量等は、得られる塗料の塗装硬化条件(例:常乾塗装あるいは焼付け塗装等)などにも依り、一概に決定されないが、その平均分子量は通常350〜20,000であり、粘度は通常12〜15Pa・s/25℃であり、エポキシ当量が通常上記範囲である。ここで、平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。
【0034】
代表的な上記エポキシ樹脂としては、常温で液状のものでは、NPEL−128(一般名:ビスフェノールAジグリシジルエーテル、NAN YA PLASTICS CORPORATION製、エポキシ当量180〜190、粘度12,000〜15,000cPs/25℃)、エピコート(R)828(一般名:ビスフェノールAジグリシジルエーテル、シェル(株)製、エポキシ当量180〜190、粘度12,000〜15,000cPs/25℃)、エポトート(R)YDF−170(一般名:ビスフェノールFジグリシジルエーテル、東都化成(株)製、エポキシ当量160〜180、粘度2,000〜5,000cPs/25℃)、フレップ(R)60(東レチオコール(株)製、エポキシ当量約280、粘度約17,000cPs/25℃)、エピコート(R)828X−90(一般名:ビスフェノールAジグリシジルエーテル・キシレン溶液、シェル(株)製、エポキシ当量約210)、エピコート(R)834X−85(一般名:ビスフェノールA型エポキシ・キシレン溶液、シェル(株)製、エポキシ当量約282)、エピコート(R)1001X−75(一般名:ビスフェノールA型エポキシ・キシレン溶液、シェル(株)製、エポキシ当量約633)、などを挙げることができ、常温で半固形状のものでは、エポトート(R)YD−134(一般名:ビスフェノールA型エポキシ、東都化成(株)製、エポキシ当量230〜270)などを挙げることができ、常温で固形状のものでは、エピコート(R)1001(一般名:ビスフェノールA型エポキシ、シェル(株)製、エポキシ当量450〜500)などを挙げることができる。本発明のエポキシ樹脂組成物は、これらエポキシ樹脂を1種または2種以上含んでいてもよい。なお、上記商品名の(R)は登録商標等を示す。
【0035】
本発明のエポキシ樹脂組成物(固形分)中におけるエポキシ樹脂(b)の配合量(固形分)は、特に限定されるものではないが、15〜35質量%が好ましく、20〜30質量%がより好ましい。35質量%より多いと、柔軟性が低下する場合がある。また、15質量%より少ないと、防食性、密着性が低下する傾向にある。
【0036】
<末端反応性ブタジエンアクリロニトリル共重合体(c)>
末端反応性ブタジエンアクリロニトリル共重合体(c)としては、主鎖にアクリロニトリルポリブタジエン骨格を有し、末端にはエポキシ基と反応する官能基、例えばアミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基を有するものを挙げることができる。
【0037】
末端反応性ブタジエンアクリロニトリル共重合体(c)は、エポキシ樹脂組成物に可とう性を付与し、コンクリートのひび割れ追従性を向上させる。又、反応硬化過程において、エポキシ樹脂組成物の構造骨格中に組み込まれるため、反応性の無いゴム成分をブレンドした樹脂組成物において問題となる耐水性を損なうという欠点を低減できる。
【0038】
本発明のエポキシ樹脂組成物(固形分)中における末端反応性ブタジエンアクリロニトリル共重合体(c)の配合量(固形分)は、特に限定されるものではないが、0.2〜5質量%が好ましく、1〜3質量%がより好ましい。5質量%より多いと、粘度が上昇し、作業性が低下する場合がある。また、0.2質量%より少ないと、柔軟性が低下する傾向にある。
【0039】
このような末端反応性ブタジエンアクリロニトリル共重合体(c)としては、末端にアミノ基を有する、「Hypro(R) ATBN 1300×16(CVC THERMOSET SPECIALITIES社製)」、「Hypro(R) ATBN 1300×42(CVC THERMOSET SPECIALITIES社製)」や、末端にカルボキシル基を有する、「Hypro(R) CTBN 1300X8 (CVC THERMOSET SPECIALITIES社製)」、「Hypro(R) CTBN 1300X31(CVC THERMOSET SPECIALITIES社製)」、等を挙げることができる。上記商品名の(R)は登録商標等を示す。
そのような末端反応性ブタジエンアクリロニトリル共重合体(c)の好ましいタイプは下記式(Ia)〜(Id)から選択される構造単位および下記式(IIa)〜(IId)から選択される末端基を含む。
【0040】
【化1】
(式中、Ra は水素原子またはメチル基を表し、Rb は−COOH、−COORc または−CONH2 を表し、Rc は脂肪族基、好ましくはメチル基を表す)
【0041】
【化2】
(式中、Rはアルキレン基を表す)
式(Ia)、(Ib)および(Ic)で表わされる構造単位の比率は好ましくは5〜50重量%、そして 式(Id)で表わされる構造単位の比率は好ましくは0〜30重量%である。
【0042】
<ポリアミドアミン(d)>
ポリアミドアミン(d)としては、主としてダイマー酸とポリアミンの縮合により生成し、分子中に反応性の第一及び第二アミノ基を有するものであり、ダイマー酸とポリアミンのモル比、脂肪酸組成中のモノマー酸/ダイマー酸/トリマー酸の比率、ポリマーの種類、官能基数によりポリアミドアミンの分子量、粘度、アミン価等は変化する。
【0043】
市販品としては、例えば、アンカマイド(R)2353(エアープロダクツ社製、変性脂環式ポリアミドアミン)、アンカマイド(R)2396A(エアープロダクツ社製、変性脂環式ポリアミドアミン);トーマイド(R)210(アミン価100、半固体)、トーマイド(R)215X(アミン価220、粘度:500〜700ポイズ/40℃)、トーマイド(R)225X(アミン価300、80〜120ポイズ/40℃)、トーマイド(R)2500(アミン価330、5〜10ポイズ/25℃),トーマイド(R)213A(ポリアミドアダクト、アミン価85、キシレン/ブタノール50%溶液)、トーマイド(R)238(ポリアミドアダクト、アミン価230、キシレン/ブタノール75%溶液)等のトーマイドシリーズ(以上、富士化成社製);バーサミド(R)100(アミン価90、半固体)、バーサミド(R)115(アミン価240)、バーサミド(R)125(アミン価345、75〜100ポイズ/40℃)、バーサミド(R)230(ポリアミドアダクト、アミン価125、キシレン/ブタノール60%溶液)等のバーサミドシリーズ(以上、ヘンケル白水社製);ゼナミド(R)250(アミン価440、5〜10ポイズ/25℃)、ゼナミド(R)2000(アミン価600、10〜25ポイズ/25℃)等のゼナミドシリーズ(以上、ヘンケルジャパン社製);
ラッカマイド(R)N−153 IM 65(アミン価100、キシレン/ブタノール65%溶液)、ラッカマイド(R)TD966(アミン価170、キシレン/ブタノール60%溶液)、ラッカマイド(R)TD973(ポリアミンアダクト、アミン価170、キシレン/ブタノール60%溶液)などのラッカマイドシリーズ(以上、大日本インキ社製);サンマイド(R)300(アミン価90、半固体)、サンマイド(R)306(アミン価210、500〜700ポイズ/40℃)、サンマイド(R)316(アミン価310、90〜110ポイズ/40℃)、サンマイド(R)X−2000(アミン価400、10〜30ポイズ/25℃)等のサンマイドシリーズ(以上、三和化学社製);ポリマイド(R)L−10−3(アミン価100、半固体)、ポリマイド(R)L−55−3(アミン価380、9.5〜25.5ポイズ/20℃)等のポリマイドシリーズ(以上、三洋化成社製);等が挙げられる。また、ポリオキシアルキレンポリアミンをポリカルボン酸で変性したポリアミドアミンとしては、例えば、ジエチレングリコールジアミノプロピルエーテルをダイマー酸で変性したポリアミドアミンであるアンカマイド(R)910(エアープロダクツ社製)等が挙げられる。上記商品名の(R)は登録商標等を示す。
【0044】
また、上記各ポリアミド形成用アミンあるいは酸を2種以上用いて重縮合してなる共重合ポリアミド、その他に、ポリアミドイミド(無水トリメリット酸と芳香族ジアミンとの反応物)等が挙げられる。
【0045】
これらポリアミドアミンは、1種単独で用いても、または2種以上組み合わせて用いてもよい。
これらポリアミドアミン系硬化剤はN.V.50〜100%に調製され、その時のE型粘度計で測定した粘度が100〜100000cPs、好ましくは500〜10000cPsの範囲にあると、取扱い性、塗工性に優れるため好ましい。
【0046】
このようなポリアミドアミン(d)は、エポキシ樹脂組成物(固形分)中に、10〜35質量%の量(固形分)で含有させることが望ましく、15〜30質量%の量(固形分)で含有させることがより望ましい。このような量でポリアミドアミン(d)が含有されると、柔軟性、塗装作業性などの点で好ましい。
【0047】
また、このようなポリアミドアミン(d)の中でも、コンクリート湿潤面への施工付着性の観点から、変性脂環式ポリアミドアミン(d1)を用いるのが好ましい。コンクリートのひび割れ追従性の観点からは、ポリオキシアルキレンポリアミンをポリカルボン酸で変性したポリアミドアミン(d2)を用いるのが好ましい。
【0048】
変性脂環式ポリアミドアミン(d1)の例としては、前記のアンカマイド(R)2353、アンカマイド(R)2396A等が挙げられる。ポリオキシアルキレンポリアミンをポリカルボン酸で変性したポリアミドアミン(d2)の例としては、前記ジエチレングリコールジアミノプロピルエーテルをダイマー酸で変性したポリアミドアミンであるアンカマイド(R)910等が挙げられる。
【0049】
ポリアミドアミン(d)として、ポリアミン等より分子量の大きい硬化剤を使用すると、低温硬化性に優れたエポキシ樹脂組成物を得ることができる。
なお、本願発明の効果を損なわない範囲であれば、ポリアミドアミン(d)に加えて、従来公知のアミン硬化剤、例えば、通常エポキシ樹脂硬化剤として利用されているポリアミン化合物、たとえば脂肪族ポリアミン、変性脂肪族ポリアミン、脂環族ポリアミン、変性脂環族ポリアミン、芳香族ポリアミン、変性芳香族ポリアミンなどを併用してもよい。
また、熱潜在性硬化剤としてはジシアンジアミドなどが挙げられる。
【0050】
<第3級アミン(e)>
本発明のエポキシ樹脂組成物が第3級アミン(e)を含有すると、硬化が促進される点で好ましい。
【0051】
第3級アミン(e)は、具体的には、トリエタノールアミン(N(C25OH)3)、ジアルキルアミノエタノール{[CH3(CH2n]2NC25OH、n:繰返し数}、トリエチレンジアミン[1,4−ジアザシクロ(2,2,2)オクタン]、2,4,6−トリ(ジメチルアミノメチル)フェノール { [CH2N(CH32]3−C65OH}、バーサミン(R)EH30(ヘンケル白水(株)製)、アンカミン(R)K−54(エアープロダクツ社製)などが挙げられる。
【0052】
第3級アミン(e)は、エポキシ樹脂組成物(固形分)中に、0.1〜3.0質量%含有させるのが好ましく、0.2〜1.0質量%含有させるのがより好ましい。
また、ポリアミドアミン(d)100質量部(固形分)に対し、1〜20質量部の割合で含有させるのが硬化性、可使時間の点で好ましい。
【0053】
<シランカップリング剤(f)>
シランカップリング剤(f)は、通常、同一分子内に2種の官能基を有し、無機質基材に対する接着力向上、塗料粘度の低下等に寄与でき、たとえば、式:X−Si(OR)3で表わされる。式中、Xは、有機質との反応が可能な官能基またはアルキル基を示す。前記有機質との反応が可能な官能基としては、例えばアミノ基、ビニル基、エポキシ基、メルカプト基、ハロゲン基、およびこれらの基を炭化水素基、または炭化水素基中にエーテル結合を介在させてなる基に付加して形成される基等が挙げられる。ORは、加水分解性基を示し、例えばメトキシ基、エトキシ基が挙げられる。
【0054】
このようなシランカップリング剤としては、具体的には、Silicone KBM−403(γ- グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業(株)製)、シランS−510(チッソ(株)製)等が挙げられる。
【0055】
このようなシランカップリング剤(f)は、エポキシ樹脂組成物(固形分)中に、0.2〜3質量%の量で含有させることが望ましく、0.5〜2質量%の量で含有させることがより望ましい。シランカップリング剤(f)をこのような量で含有させることにより、該エポキシ樹脂組成物からなる硬化物とコンクリート構造物表面との接着性が向上し、長期間水中に浸漬しても該硬化物の剥離がほとんど無く、コンクリート構造物に発生した亀裂からの腐食を効果的に防止することができる。これらの効果は、エポキシ基を含有するシランカップリング剤を添加した場合に顕著に表れる。
【0056】
<顔料(g)>
本発明のエポキシ樹脂組成物には、必要に応じ、顔料(g)を含有させることができる。顔料(g)としては、特に限定されず、公知の着色顔料、体質顔料、防錆顔料などが使用できる。顔料(g)は、その形状などにより、球状、針状、繊維状などのものがあるが、一般的には粒子の長径/短径の比であるアスペクト比の違いにより分類されることが多い。
【0057】
着色顔料としては、たとえばカーボンブラック、二酸化チタン、弁柄、酸化鉄、水酸化鉄、群青等の無機顔料、シアニンブルー、シアニングリーン等の有機顔料が挙げられる。着色顔料は、1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0058】
体質顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、カリ長石、カオリン、クレー、タルク、ベントナイト、炭酸マグネシウム、シリカ微粉末などが挙げられる。中でも、炭酸カルシウム、カリ長石、シリカ微粉末が好ましい。体質顔料は、1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0059】
防錆顔料としては、特に限定されないが、亜鉛粉末、亜鉛合金粉末、リン酸亜鉛系化合物、リン酸カルシウム系化合物、リン酸アルミニウム系化合物、リン酸マグネシウム系化合物、亜リン酸亜鉛系化合物、亜リン酸カルシウム系化合物、亜リン酸アルミニウム系化合物、亜リン酸ストロンチウム系化合物、トリポリリン酸アルミニウム系化合物、モリブデン酸塩系化合物、シアナミド亜鉛系化合物、ホウ酸塩化合物、ニトロ化合物、複合酸化物からなる群より選択された1種、または、2種以上であることが好ましい。
【0060】
また、着色顔料、体質顔料、防錆顔料は、任意の組み合わせで併用してもよい。
このような顔料(g)は、エポキシ樹脂組成物(固形分)中に、25〜50質量%の量で含有させることが望ましく、30〜45質量%の量で含有させることがより望ましい。
【0061】
また、前記顔料(g)の中でも、針状顔料(g−1)を用いると、塗膜の耐われ性や耐衝撃性などの機械的強度を向上させることができる。
針状顔料(g−1)としては、ウオラストナイト、セピオライト、クリソタイル、アモサイト、トレモライト、ゼオライト等が挙げられるが、硬化物の強度の向上、耐久性、耐水性の向上等の効果から、ウオラストナイトが好ましい。具体的には、NYAD325(商品名、NYCO Mineral社製、ウオラストナイト)、が挙げられる。 このような針状顔料(g−1)を配合する場合には、は、エポキシ樹脂組成物(固形分)中に、2〜25質量%の量で含有されていることが望ましく、10〜20質量%の量で含有されていることがより望ましい。
【0062】
さらに、前記顔料(g)の中でも、中空球状顔料(g−2)を用いると、塗膜の軽量化やたれ性の点で有利である。
中空球状顔料(g−2)としては、パーライト、フライアッシュ、樹脂中空バルーンなどが挙げられ、中でもパーライトなどの中空球状粒子が好ましい。
【0063】
中空球状顔料(g−2)とは、内部が中実でなく、完全または不完全に中空状となっており、熱伝導率の低い空気等の気体を閉鎖内包するか、又は中空部が真空若しくは減圧状態であるものである。中空球状顔料(g−2)としては、例えばセラミックバルーン、プラスチックバルーンなどが使用でき、セラミックバルーンが、高温度でも使用できるのでより望ましい。
【0064】
かかるセラミックバルーンとしては、ホウケイ酸系等のガラスバルーン、シリカバルーン、シラスバルーン、フライアッシュバルーン、ジルコニアバルーン、アルミナシリケートバルーン、焼成バーミキュライトバルーン、パーライトバルーンなどがあるが、塗膜表面の強度の点から、パーライトバルーンが好ましい。
【0065】
パーライトバルーンとしては、粒子の平均粒子径が3〜100μmで、粒子の平均比重が0.2〜0.8のものが好ましく使用できる。パーライトバルーンの市販品例としては、Onyxell ON4150(商品名、KD Ceratech社製)が挙げられる。
【0066】
このような中空球状顔料(g−2)は、エポキシ樹脂組成物(固形物)中に、0.2〜5質量%の量で含有させることが望ましく、0.3〜3質量%の量で含有されていることがより望ましい。
【0067】
<繊維(h)>
本発明のエポキシ樹脂組成物には、必要に応じ、繊維(h)を含有させることができる。
【0068】
本発明で用いうる繊維(h)の具体例としては、ガラス繊維、カーボン繊維、ビニロン繊維、ナイロン、アラミド、ポリプロピレン、アクリル、ポリエステル等の繊維、セルロース繊維、スチール、アルミナ繊維等が挙げられる。これらの繊維(h)は、コンクリート剥落防止性、塗膜補強性、を付与する場合に使用する。
【0069】
繊維(h)の中でもビニロン繊維が、コンクリート剥落防止性の点から好ましい。ビニロン繊維の市販品例としては、ビニロン AA 1.8dtex X 4mm(商品名、ユニチカ(株)製)が挙げられる。
【0070】
このような繊維(h)は、エポキシ樹脂組成物(固形物)中に、0.3〜3質量%の量で含有させることが望ましく、0.5〜2質量%の量で含有されていることがより望ましい。
【0071】
<その他の成分>
本発明のエポキシ樹脂組成物には、必要に応じて、前記顔料(g)の分散を助けるための顔料分散剤や、レベリング剤、タレ止め剤、消泡剤などを用いることができる。それらは、特に限定されるものではなく、従来公知のものを利用できる。
【0072】
<エポキシ樹脂組成物の調製>
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記成分を混合することにより調製することができる。
本発明のエポキシ樹脂組成物は、2液混合型エポキシ樹脂組成物として好適に用いることができる。好ましい実施形態は、成分(a)及び(b)を含む主剤と、成分(c)及び(d)を含む硬化剤とを、使用前に混合して用いる方法である。本発明のエポキシ樹脂組成物を2液混合型エポキシ樹脂組成物として用いる場合は、硬化剤を適宜選択することにより加熱硬化させる工法にも、加熱せずに環境温度に放置して硬化する工法にも用いることができる。
【0073】
さらに本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、成分(a)及び(b)に、さらに熱活性型硬化剤を配合して、1液型エポキシ樹脂組成物として使用することもできる。この場合は主に加熱硬化する工法に用いられる。
【0074】
本発明のエポキシ樹脂組成物が上記成分(e)〜(h)を含有し、これを2液混合型エポキシ樹脂組成物とする場合には、成分(e)〜(h)を適宜目的に応じて主剤または硬化剤のいずれかに含有させればよい。繊維(h)は、その他の成分とは別に準備し、繊維(h)以外の成分を混合した後に添加してもよい。また、繊維(h)以外の成分から前記2液を調製し、使用前に前記2液を混合して、その後繊維(h)を添加してもよい。
【0075】
<本発明のエポキシ樹脂組成物の利用>
本発明のエポキシ樹脂組成物は、可とう性に優れており、コンクリート等の亀裂に追随可能であり、また、コンクリート構造物の湿潤面への密着性に優れ、コンクリート構造物の湿潤面にローラー塗装やハケ塗装といった簡易な方法で塗布することができる。さらに、本発明のエポキシ樹脂組成物は、海水などに対する長期防食性、および鉄筋、鋼板、さび面への付着性にも優れる。
【0076】
このため、本発明のエポキシ樹脂組成物は、コンクリート構造物等の防食塗料組成物に利用することができ、湿潤面施工用の防食塗料組成物として有効に利用することができる。
【0077】
この防食塗料組成物は、たとえば、コンクリート構造物等の構造物の表面に塗布し、これを硬化させることにより使用される。このようにして、コンクリート構造物等の補修または補強を行うことができる。
【0078】
本発明のエポキシ樹脂組成物が繊維(h)を含有すると、コンクリート剥落防止性が強化される。このため、繊維(h)を含有する本発明のエポキシ樹脂組成物をコンクリート構造物の表面に塗布した後、これを硬化させることにより、コンクリート構造物の剥落防止を行うことができる。
また、本発明のエポキシ樹脂組成物が繊維(h)を含有し、さらに中空球状顔料(g−2)を多量に含有する場合は、断面修復材として好適に用いることができる。
【0079】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物に、硅砂を多量に配合させると、レジンモルタルとして好適に用いることができる。
さらに、本発明のエポキシ樹脂組成物を用いて形成した塗膜上へ、さらに上塗り塗料を塗装し上塗り塗膜を形成させることもできる。特に、長期の耐候性や美観(色相)などが要求される場合は、フッ素樹脂系やポリウレタン系の上塗塗料が好適に使用される。
【実施例】
【0080】
[実施例1〜5、7、比較例1〜4]
(主剤の調製)
表1の「主剤」に示される各原料を表1に示される配合比率(質量比)で混合し、ハイスピードディスパーで撹拌することにより実施例および比較例で用いる主剤を調製した。
【0081】
(硬化剤の調製)
表1の「硬化剤」に示される各原料を表1に示される配合比率(質量比)で混合し、ハイスピードディスパーで撹拌することにより実施例および比較例で用いる硬化剤を調製した。
【0082】
(エポキシ樹脂組成物の調製)
試験に供試する直前に、前記方法で調製した主剤と硬化剤とを、表1に小計量で示される混合比率(質量比)で、ディスパーを用いて混合してエポキシ樹脂組成物を調製した。このエポキシ樹脂組成物を下記試験に供した。
試験結果を表2に示した。
【0083】
[実施例6]
上記と同様に表1に示される各原料を表1に示される配合比率(質量比)で混合し、ハイスピードディスパーで撹拌することにより主剤および硬化剤を調製した。この主剤と硬化剤とを表1に小計量で示される混合比率(質量比)で、ディスパーを用いて混合し、さらに、表1に示される繊維(h)を小計量で示される混合比率(質量比)で電動撹拌機により混合してエポキシ樹脂組成物を調製した。このエポキシ樹脂組成物を下記試験に供した。
試験結果を表2に示した。
実施例および比較例で使用した原料を表3にまとめた。
【0084】
<湿潤面施工性>
JIS A5371に規定される300mm×300mm×60mmのコンクリート舗道板(基材)を23℃の水中に24時間完全に没水させた後、水から引き上げた。その直後に、温度23℃に調整しておいた前記主剤、硬化剤を前記調製方法により混合して得た前記エポキシ樹脂組成物をコンクリート舗道板に、0.5kg/m2を目安に、短毛ローラー(大塚刷毛製造(株)製 ウレタンくん(商品名) スモールローラー 短毛 毛丈6mm サイズ4inch 品番4S−C10)を用いて、ローラー移動速度10〜20cm/sで、ローラーを前記舗道板表面から上方側へ約45°の角度に保ちながら、前記舗道板の一方の端から他方の端までを塗装し、エポキシ樹脂組成物の基材への塗着性およびローラーのスリップ性を評価した。評価基準を以下に示した。
○:基材へ塗着可能で、塗装時にローラーのスリップが起こらない。
△:基材へ塗着可能であるが、塗装時にローラーのスリップが起きる。
×:基材への塗着が不可能。
【0085】
<ひび割れ追従性>
ひび割れ追従性試験は、土木学会基準JSCE-K532-2010「表面被覆材のひび割れ追従性試験方法」に準じて行った。
水セメント比50%、砂セメント比3のモルタルを、内のり寸法40mm×120mm×10mmの金属製型枠を用いて成形し、20℃、相対湿度80%の状態で24時間養生したのち脱型し、試験用基板を得た。その後、試験用基板を6日間温度20℃で水中養生した。水中養生終了後、試験用基板を温度23℃、相対湿度50%で7日養生し、成型時の上面、すなわちエポキシ樹脂組成物が塗布される面と反対側の面にダイヤモンドカッタにより深さ5mmのカットを入れて折り曲げ、基板を2つに切断した。
【0086】
2つに割った基板を0.8mm厚のSUS304板上で突き合わせ、側面全周を粘着テープで巻いて固定した。切断線に沿って不陸調整材をヘラで刷りこむようにして塗布し、硬化後、不陸調整材塗布面をJIS R 6252に規定される150番研磨紙を用いて研磨して、余分の不陸調整材を取り除いた。切断面に材料が流れ込まないよう注意して、両端を30mm残して、エポキシ樹脂組成物を600μmの膜厚でハケにより塗布し、温度23℃、相対湿度50%で28日養生したものを試験体とした。一部の試験体には、エポキシ樹脂組成物の塗膜の上にフッ素樹脂塗料(フローレックス上塗、中国塗料(株)製)を25μmの厚さに上塗りした。このようにして、上塗ありの試験体と上塗なしの試験体とを用意した。
【0087】
以下の試験を行った。促進耐候性試験後に供する試験体はSUS304板を取り付けたままで、JSCE-K511に準拠してキセノンアークランプ式耐候性試験機(Atlas Material Testing Solutions Ci−4000)を使用し、サイクルA条件で1500時間耐候性試験を行った後、標準試験体と同様に試験を行った。
【0088】
試験体をチャック間に遊びができるように固定し、(株)エーアンドディー社製RTC−1350Aで、5mm/minの等速度で引張る試験を行った。
表面被覆材が次のいずれかの状態になったときの伸びを引張応力-伸び曲線から測定した。
・表面被覆材が破断したとき
・目視により表面被覆材の一部の破断を確認したとき
・応力-伸び曲線上で、最大引張強さを示したき
【0089】
<付着性(標準状態)>
付着性試験は、土木学会基準JSCE-K531-2010「表面被覆材の付着強さ試験方法」に準じて行った。
【0090】
水セメント比50%、砂セメント比3のモルタルを、内のり寸法70mm×70mm×20mmの金属製型枠を用いて成形し、20℃、相対湿度80%の状態で24時間養生したのち脱型し、試験用基板を得た。その後、試験用基板を6日間温度20℃で水中養生した。水中養生終了後、試験用基板を温度23℃、相対湿度50%で7日養生し、JIS R 6252で規定する150番研磨紙を用いて、成型時の下面を十分に研磨した。
【0091】
試験用基板に、エポキシ樹脂組成物を600μmの膜厚で塗布し、温度23℃、相対湿度50%で28日養生を行った。この塗膜付きの試験用基板を試験体として以下の試験を行った。
【0092】
試験体を温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下に水平に静置し、エポキシ樹脂組成物塗膜に接着剤を塗り、40mm角の上部引張用鋼製ジグを静かに載せ、軽くすりつけるように接着し、その上に質量1kgのおもりを載せ、周辺にはみ出した接着剤をふき取り、24時間静置した。おもりを取り除き、試験体に接着した上部引張用鋼製ジグの周囲に沿って試験体に正方形状に基板まで深さ1mmの切り込みを入れた。
【0093】
下部引張用鋼製ジグおよび鋼製当て板を用いて、(株)エーアンドディー社製RTC−1350Aで試験体面に対して鉛直方向に引張力を加えて、最大引張荷重T(N)を求めた。破断するまでの荷重速度は1500N/minで試験を行った。付着強さを次の計算式によって求めた。試験は、2回行った。
【0094】
【数1】
なお、表2中の「基材破壊」は、塗膜の付着強さの測定の際、付着強さがコンクリート基材の強度を上回り、コンクリート基材が破壊されたことを示す。
【0095】
<付着性(湿潤状態)>
前記付着性評価試験で使用した試験用基板を、6日間完全没水させ、引き上げ直後に、その試験用基板に、エポキシ樹脂組成物を600μmの膜厚で塗布し、前記付着性評価試験と同様に付着強さを求めた。
【0096】
<押抜き試験>
実施例5のエポキシ樹脂組成物につき、土木学会基準JSCE-K533-2010「コンクリート片のはく落防止に適用する表面被覆材の押抜き試験方法」に準じて、押抜き試験を行った。
【0097】
供試体用基板にはJIS A5372に規定する上ぶた式U字側溝(ふた)の1種呼び名300(400mm×600mm×60mm)を使用して試験を行った。U形ふた中央部を直径100mmの円形状にコンクリート用コアドリルによりコア抜きを行った。コア抜き方向は裏面(エポキシ樹脂組成物を塗布する面(以下、施工面という)の反対側の面)より施工面に向かう方向であり、裏面より55mmの深さまで行った。
【0098】
施工面はダイヤモンドカップを使用し、表面処理を行った。U形ふたを23℃に保たれた水中に24時間水浸させた。U形ふたの上部を水中より引き上げ、U形ふたの下部30mmを水浸させた状態で表面の水滴をウエスで除去した。U形ふたの上部を水中から引き上げてから5分以内に施工面の中心部400mm×400mmに1.0mmの膜厚でエポキシ樹脂組成物を塗布した。施工はU形ふたの下部30mmを水浸させた状態で行った。U形ふたの下部30mmを水浸させた状態で、23℃で28日間養生を行い、供試体を得た。
【0099】
(株)エーアンドディー社製RTC−1350Aを用い、次の試験方法にて試験を行った。
同一条件下で作製した供試体3個を1組として実施した。供試体を、エポキシ樹脂組成物の塗膜が付された面を下側にして、スパン450mmにて支点上にセットし、エポキシ樹脂組成物の塗膜に支点が接していないことを確認した。コア中央部に鉛直に、均等に荷重がかかるよう球座を挟んで載荷した。載荷の過程で荷重および変位を記録した。載荷はまず1mm/minの速度でコア部のコンクリートが破壊するまで載荷した。その後初期ピークが確認されたら5mm/minで載荷し、その後に現れる最大荷重を測定した。最大荷重測定後、最大荷重に対して50%程度まで荷重が低下した時点で載荷を終了した。
【0100】
なお10mm、20mm、30mmの各変位において載荷を一時中止し、剥離範囲を供試体にマーキングするとともに写真記録を行った。最終的な耐荷力が確認された段階で試験を終了した。試験で得られた荷重と変位ストロークのデータより、荷重-変位曲線を作図し、変位が10mm以上における最大荷重を求めた。供試体3個につき前記最大荷重を求め、その平均値Pを算出した。平均値Pは小数点2けた目を四捨五入した。
【0101】
<塩水噴霧試験>
150mm×70mm×2.3mmのサンドブラスト鋼板(Sa2.5)、150mm×70mm×2.3mmの溶融亜鉛メッキ鋼板、150mm×70mm×2.0mmのSUS304鋼板に600μmの膜厚でエポキシ樹脂組成物を塗装し、温度23℃、相対湿度50%で28日間乾燥させることにより試験板を作製した。
【0102】
各試験板にはスクラッチを入れ、次いでJIS K5600 7-1に準じて、耐中性塩水噴霧性試験(35℃)をスガ試験機(株)STP−90V−3を用いて行った。
試験時間は2000時間とした。試験を行ったのち試験板の膨れ、汚れといった外観、スクラッチからの腐食のクリープを観察した。
【0103】
試験板の膨れ、汚れまたはスクラッチからの腐食が観察された場合を「異常あり」、試験板の膨れ、汚れおよびスクラッチからの腐食が観察されなかった場合を「異常なし」と評価した。
【0104】
【表1】
【0105】
【表2】
【0106】
【表3】