【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
例1
1.材料と方法
(1)AZPのデザイン
以下の2種類のDNA領域をそれぞれ認識するジンクフィンガータンパク質(以下、実施例において「AZP」と略す)を特表2004-519211号公報に記載された認識コード表に基づいてデザインした。
a.TYLCVで保存されているステムループ領域
b.ジェミニウイルスで保存されているステムループ領域
図6の上段に示したAZP(TYLCV専用)では10個のジンクフィンガードメインを連続的に結合した。
図6の下段に示すAZP(ジェミニウイルス汎用)ではステムループ領域内でジェミニウイルスに保存されている2つの領域を認識する2種のAZPを短いペプチドで連結した。
【0049】
(2)AZP発現プラスミドの作製
TYLCV専用AZP(以下、「AZP-2」と呼ぶ)を
図7に示すスキームで作製した。まず3個ずつジンクフィンガーを連結した遺伝子をPCRにより合成し、それぞれの遺伝子を大腸菌発現ベクターのpET-21a(Novagen社)のBamH I/Hind IIIサイトにクローニングした後、得られたプラスミドの塩基配列を確認することにより、pET-TYLCV-3、pET-TYLCV-4、及びpET-TYLCV-5を得た。次にpET-TYLCV-3及びpET-TYLCV-4内の3フィンガーAZPの遺伝子をPCRにより増幅して連結し、最終的にpET-TYLCV3/4を得た。5'-TATA-3'を認識するジンクフィンガー遺伝子を作製し、上述した方法でpET-TYLCV5内の3フィンガーAZP遺伝子と連結することによりpET-TYLCV6を作製した。最後に、pE-TYLCV3/4及びpET-TYLCV6からそれぞれ6フィンガーAZP遺伝子及び4フィンガーAZP遺伝子をPCRにより増幅して連結することにより、ステムループ領域の配列を形成する33塩基のうち31塩基を認識するAZP-2発現用プラスミド(pET-TYLCV3/4/6)を作製した。
【0050】
ジェミニウイルス汎用AZP(以下、「AZP-3」と呼ぶ)を
図8に示すスキームで作製した。まずステムループ領域内でジェミニウイルスにおいて保存されている2つの領域を認識する2種のAZP遺伝子とリンカーペプチド遺伝子を組み込むため、まずプリカーサー・プラスミド(pET-MCS)を作製した。ジェミニウイルスで保存されている長いほうの領域を認識する6フィンガーAZP遺伝子をpET-TYLCV3/4からPCRで増幅し、pET-MCSにクローニングすることによりpET-TYLCV3/4-MCSを作製した。次にジェミニウイルスで保存されている短いほうの領域を認識する3フィンガーAZP遺伝子をpET-TYLCV5からPCRで増幅し、pET-TYLCV3/4-MCSにクローニングすることにより、リンカーペプチドとして6アミノ酸を有するAZP-3を発現するプラスミド(pET-TYLCV3/4-MCS-TYLCV5)を作製した。
【0051】
(3)AZPの発現
AZP発現プラスミドで大腸菌BL21(DE3)を形質転換し、得られた形質転換体をアンピリシリンを含むLB培地で37℃で培養し、OD
600が0.6-0.7になったときにIPTGを最終濃度1 mMになるように添加し、目的タンパク質の発現を誘導した。さらに3時間培養した後、遠心分離により大腸菌を回収し、タンパク質精製まで-80℃に保存した。
【0052】
(4)AZPの精製
各AZPは基本的に同じ方法で精製した。-80℃で保存した大腸菌にlysis buffer(100 mM Trs-HCl、100 mM NaCl、0.1 mM ZnCl
2、5 mM DTT、pH 8.0)10 mlを加え、凍結及び融解を3回繰り返して大腸菌の細胞壁を壊れやすくした。次に超音波破砕機にかけて大腸菌を破砕した後、遠心分離することにより目的タンパク質を含む上清を回収した。この上清を陽イオン交換樹脂のBiorex-70(Bio-Rad社)にアプライして目的タンパク質を樹脂に吸着させた後、wash buffer(50 mM Trs-HCl、50 mM NaCl、0.1 mM ZnCl
2、0.2 mM DTT、pH 8.0)で十分洗浄した。次に、elution buffer(50 mM Trs-HCl、300 mM NaCl、0.1 mM ZnCl
2、0.2 mM DTT、pH8.0)で目的タンパク質を溶出させた。目的タンパク質を含むフラクションのみを集め、限外ろ過膜で濃縮後、等量のグリセロールを加えて撹拌した後、-80℃にて保存した。AZP純度はSDS-PAGE上のクマシーブルー染色のバンドの量で判断した。各タンパク質の濃度は、Protein Assay ESL(Roche社)を用いて決定した。
【0053】
(5)RepN発現プラスミドの作製
RepNはウイルス複製タンパク質RepのN末領域部(191アミノ酸残基)でDNA結合能を有している。AZPによるRepのdirect repeatsへの結合の阻害実験に用いるためにRepNを以下の方法で調製した。感染したトマトから回収したTYLCVゲノムを用いてRepN遺伝子をPCRによりTYLCVゲノムから増幅し、AZPの場合と同様に、pET-21aのBamH I/Hind IIIサイトにクローニングした。得られたプラスミドの塩基配列を確認することによりRepN発現用のプラスミド(pET-RepN)を作製した。
【0054】
(6)RepNタンパク質の発現及び精製
RepNの発現はAZP発現の場合と同様に行い十分量の発現を得た。得られた大腸菌は、タンパク質精製まで-80℃に保存した。RepNの精製はAZPの場合と同様に行った。Biorex-70を用いたイオン交換クロマトグラフィーにおいて、elution buffer(50 mM Tris-HCl、250 mM NaCl、0.2 mM DTT、pH8.0)により溶出することにより、純度の高いRepNを得ることができた。
【0055】
(7)AZP及びRepNの複製起点への結合能の評価
各タンパク質の標的DNA配列への結合能の評価はゲルシフトアッセイにより行った。標的DNA配列を含むDNAオリゴマーを作成し、5'末端を
32Pで標識した。次に標識DNAを含むbinding buffer(10 mM Tris-HCl、100 mM NaCl、5 mM MgCl
2、0.1 mM ZnCl
2、0.05% BSA、10% glycerol、pH7.5)に所定量のタンパク質を添加し、氷上で1時間反応させた。この反応物を6%非変性アクリルアミドゲルにアプライし、4℃で2時間電気泳動した(running buffer:45 mM Tris-borate)。泳動後、ゲルをクロマト紙に載せて乾燥させた。十分乾燥した後にX線フィルムに感光させ、標識DNAのバンドを検出した。遊離DNAとタンパク質とのDNA複合体の量比が1:1になるときのタンパク質濃度が標的DNA配列との解離定数に相当する。そのタンパク質濃度に基づいてAZP及びRepNの結合能の比較を行った。
【0056】
(8)AZPによるウイルス複製タンパク質の切断阻害能の評価
(a)Rep発現プラスミドの作製-1
切断阻害能の評価には切断活性を有するfull lengthのRepが必要となるので、Rep発現プラスミドの作製を行った。RepN発現プラスミドの作製と同様に、Rep遺伝子はPCRによりTYLCVゲノムから増幅し、pET-21aのBamH I/Hind IIIサイトにクローニングした。得られたプラスミドの塩基配列を確認することによりRep発現用のプラスミド(pET-Rep)を作製した。
【0057】
(b)Rep発現プラスミドの作製-2
Rep単独では、大腸菌破砕後に可溶化の状態で検出できない場合があることから、溶けにくいタンパク質の可溶化を促進し、かつ精製が簡便なglutachione S-transferase(GST)との融合体としてRepを作製した。T7プロモーター及びGST遺伝子を含むDNA領域をGST融合タンパク質発現用のプラスミド(pET-41a, Novagen社)からPCRにより増幅し、pET-RepのBamH I/Sph Iサイトにクローニングした。DNA塩基配列を確認することにより、GST-Repタンパク質発現用のプラスミド(pET-GST-Rep)を作製した。
【0058】
(c)GST-Rep融合タンパク質の発現
3種類の大腸菌、BL21(DE3)、Rosetta 2(DE3)pLysS、及びBL21-Codon-Plus(DE3)-RILをそれぞれpET-GST-Repで形質転換し、得られた各クローンをRepNタンパク質発現時と同様に37℃、1 mM IPTGで発現誘導した。それぞれの大腸菌で発現量は同じであったが、大腸菌破砕後のGST-Repの可溶化量はBL21(DE3)において最も高かった。そこでBL21(DE 3)形質転換体を用いて30℃でのタンパク質発現を行った。
【0059】
(d)GST-Repタンパク質の精製
大腸菌ペレットをLysis Buffer (4.3 mM Na
2HPO
4, 1.47 mM KH
2PO
4, 137 mM NaCl, 2.7 mM KCl, pH7.3, 0.1 mM ZnCl
2, 5 mM DTT) 3 mLに懸濁し、ソニケーションを行った。GST- Repタンパク質の可溶化をSDS-PAGEで確認後、 遠心分離して上清のみを取り出した。20倍量の1x GST-Bind Wash Bufferであらかじめ洗浄したGST結合レジンを15 mLコニカルに移し、さらに1x GST-Bind Wash Buffer (4.3 mM Na
2HPO
4, 1.47 mM KH
2PO
4, 137 mM NaCl, 2.7 mM KCl, pH7.3) 5 mLで洗浄し、400×g、25℃、5 分間遠心して上清を丁寧に取り除いた。この前処理したレジンにソニケーション後のGST- Repタンパク質を含む上清を0.45μmメンブレンフィルターでろ過したものを添加した。4℃で一晩振盪して、レジンにGST-AZPタンパク質を吸着させた。このレジンをカラムに流し、Washing Buffer (4.3 mM Na
2HPO
4, 1.47 mM KH
2PO
4, 137 mM NaCl, 2.7 mM KCl, 0.1 mM ZnCl
2)で洗浄後、Elution Buffer (50 mM Tris・HCl, pH8.0, 0.1 mM ZnCl
2, 10 mM reduced glutathione)で溶出した。溶出した各フラクションをSDS-PAGEで確認し、GST- Repタンパク質を含むフラクションを集め、限外ろ過膜で全量が300μLになるまで濃縮した。タンパク質濃度は市販のキット (Protein Assay ECL)で決定した。
【0060】
(e)GST-AZP融合タンパク質の発現
AZPをglutachione S-transferase(GST)との融合体とし、そのGST-AZP遺伝子をT7プロモーターの下流においた、発現ベクターを大腸菌に導入した。この大腸菌をLB-Amp液体培地120 mLでOD
600が0.65〜0.75になるまで培養した。培養後, 最終濃度が1 mMとなるようにIPTGを添加し、さらに3 時間培養することにより、GST-AZPタンパク質を誘導発現させた。誘導後の大腸菌を遠心して回収して−80℃に保存した。GST-AZPタンパク質の精製はGST-Repタンパク質の精製と同じ方法で行った。
【0061】
(f)AZPによるウイルス複製タンパク質の切断阻害能の評価
Repの結合サイトを含む200塩基対からなる標識DNA(5 nM)を含む反応溶液(25 mM Tris-HCl, pH7.5, 75 mM NaCl, 2.5 mM DTT)にGST-AZP(又は性能比較実験のためにGST-RepN若しくはコントロール実験のためGST)を添加して混合し、氷上に30分間静置した。その後、最終濃度が2μM及び5 mMとなるようにGST-Rep及びMgCl
2をそれぞれ添加した後、25℃で反応させた。30分後、0.5 M EDTAを2μLを添加して反応を終了させ、フェノール処理及びエタノール沈殿を行った。Loading Buffer (80 % formamide, 10 mM EDTA ) 3μLで溶解して作製したサンプルを8%変性アクリルアミドゲルにおいて電気泳動した。
【0062】
2.結果
(1)AZPの標的DNA配列への結合能の評価
精製したAZP及びRepNの標的DNA配列への結合能をゲルシフトアッセイにより評価した。この実験においては、
32PでラベルしたDNAに各種濃度でタンパク質を添加し結合反応を行わせた後、遊離DNAとタンパク質とのDNA複合体を非変性ゲル上で分離する。遊離DNAとタンパク質とのDNA複合体のバンドの比が1:1になるタンパク質濃度(解離定数に相当)を求めたところ、TYLCV専用のAZP-2の解離定数は0.3〜1 nM(
図9)、ジェミニウイルス汎用のAZP-3の解離定数は<10 nM(
図10)であることがわかった。一方、RepNの解離定数は30 nMであった(
図11)。この実験により、デザインしたAZP-2及びAZP-3の標的DNA配列に対する結合力はいずれもRepNより強いことが確認された。
【0063】
(2)AZPによるウイルス複製タンパク質の切断阻害能の評価
精製したTYLCV専用のGST-AZP(AZP-2)は
図12のレーン4〜7に示されているようにRepによる複製起点の切断を効果的に阻害できた。その阻害効果はAZP濃度に依存しており、20μMで完全な阻害が認められた。一方、Repのドミナントネガティブ体であるRepNでは全く切断阻害が認められなかった(
図12のレーン8〜11)。RepNはDNA結合ドメインを有しており、当然のことながら阻害したいRepとはDNA結合が全く同じである。GSTについてはレーン12に見られるように切断阻害が全く見られないことからも、レーン4〜7で確認されたGST-AZPの切断阻害活性はもっぱらAZPに由来するものであることが確認された。また、GST-AZP(AZP-3)についても同様にして切断阻害能を評価した。その結果を
図13に示す。
【0064】
例2
1.材料と方法
(1)AZP形質転換トマトの作製
(a)AZPの植物用安定的発現ベクターの作製
AFP-2をコードする遺伝子の植物ゲノムへの挿入はアグロバクテリア法により行った。プロトプラスト実験用にpUC35SO-TYLCV3/4/6をpUC35SO-MCSから
図14の方法で調製し、このプラスミドから35Sプロモーター‐AZP遺伝子‐NOSターミネーターを含む領域をEcoR I及びHind IIIで切り出した。断片をアガロースゲル上で精製した後、バイナリープラスミドpBI121のEcoR I/Hind IIIサイトにクローニングしてpBI-OTYLCV3/4/6を得た。シークエンシングにより塩基配列が正しいことを確認した。AZP-3についても同様の操作を行った。
【0065】
(b)Micro-Tomの育種
72穴のプラスチックトレイに栽培土をつめ、如雨露で軽く土を湿らせた後、Micro-Tomの種をひとつずつ蒔き、その上に湿らせた土を軽くかぶせ、全体をサランラップで覆った。このトレイを人工気象室(明期:25℃、16時間;暗期:22℃、8時間)で培養した。発芽が認められた時点でサランラップをはずし、培養を同一条件下で培養を継続した。播種後約2週間経過後に苗を直径12 cmのプラスチックポットに移し、種を回収するまで培養した。
【0066】
(c)Micro-Tomの種の調製
赤く熟したMicro-Tomの実を回収し、赤道線上でナイフで2つに分割し、スパチュラですべての種を50 mlプラスチックチューブに回収した。水で軽く洗った後、1%塩酸水で10分間洗浄し、種の周囲のゼラチン層を溶解させた。次に流水で10分間種を洗浄し、余分な水分をペッパータオルで吸い取った後、室温で2日間風乾させた。乾燥した種は4℃で保存した。
【0067】
(d)Micro-Tom子葉への遺伝子導入
Micro-Tomの種子10〜20 粒を10%希釈したハイター(花王)で殺菌した後、滅菌水を用いて4回洗浄した。この種子を播種用培地(1× Murashige-Skoog (MS) 培地 、15 g/L sucrose、3 g/L gelrite)を固めたプラントボックスに播種し、6日間、25℃、16時間日長の条件で生育させた。本葉が数ミリ程度になった個体を形質転換に用いた。
【0068】
アグロバクテリア感染の前日にpBI-OTYLCV3/4/6で形質転換したアグロバクテリア C58C1RifR (GV2260) のグリセロールストック20μLを、2 mLのLB 培地 (Kan 100 mg/L、Amp 50 mg/L) に植菌し、30℃で24時間培養した。感染当日、アグロバクテリウム菌液 1 mLをエッペンドルフチューブに取り、5,000 rpm、5分間の遠心分離により集菌した。この菌体を100 μMのアセトシリンゴン、10 μMのメルカプトエタノールを含むMS培地 40 mLに懸濁させた。
【0069】
Micro-Tomの子葉をカミソリを用いて切り取り、先端から半分の付近で2つに切断した。これら子葉切片を上述のアグロバクテリウム懸濁液に浸け、10分間静置し、感染させた。滅菌したキムタオルにのせて余分な懸濁液を吸い取り、共存培地(1×MS培地、30 g/L sucrose、3 g/L gelrite、1.5 mg/L t-zeatin、40 μM アセトシリンゴン、0.1% MES、pH 5.7) に葉を置いた。フタをサージカルテープでシールし、アルミホイルで遮光して25℃で培養した。3〜4日後、感染させた子葉切片をカルス誘導培地(1× MS培地、3 g/L gelrite、t-zeatin 1.5 mg/L、Kan 100 mg/L、Augmentin 667 mg/L、0.1% MES、pH 5.7) に移した。約2週間で感染させた一部の子葉切片からカルスが形成され、シュートを形成するものも見られた。
【0070】
2週間ごとに新しいカルス誘導培地に植え継いだ。カルスから葉が3〜4枚形成された個体の子葉切片部分を切り落としてシュート誘導培地 (SIM培地; CIM培地のt-zeatin濃度を1.0 mg/Lに下げたもの)に移し、シュートの成長を促進させた。シュートが1〜2 cmの長さに伸びた時点でシュートの最下端でカルスから切り離し、発根培地(RIM培地; 1/2 x MS培地, 3 g/L Gelrite, Kan 50 mg/L, Augmentin 375 mg/L、0.1% MES pH 5.7)に植え継いだ。発根培地で2週間以内に発根した個体の根を切り落としてプラントボックス内に固化させた発根培地に植え継ぎ、発根の二次選抜を行った。プラントボックスで発根した個体を以下の順化のステップに移した。
【0071】
最初の発根培地(プレート)で2週間以内に発根しなかった個体は、切り口を薄く切り落として新しい発根培地へ植え継ぎ、再び発根を誘導した。プラントボックスの発根培地で発根が見られた個体は、結実させて種子を得るために土植えにした。この際、湿度環境等の変化で植物が枯死しないように、湿度緩やかに下げて順化させた。具体的には、プラントボックスに湿らせた土を入れ、その中に発根個体を植えて、最初は高湿度の状態にし、徐々にフタを緩めて湿度を下げた。プラントボックス内で約1ヶ月かけて十分に順化させた植物を鉢に植えて生育させた。
【0072】
2回目の発根選抜以降の植物について目的の遺伝子が導入されているかどうかをPCRによって確認した。約5 mmの本葉1枚を切り取り、CTAB法によってゲノム DNAを抽出した。最終的に300 μLのTEに懸濁したゲノム DNA溶液のうち1μLを用いてPCR法により遺伝子導入をチェックした。プライマーとしては、カナマイシン耐性遺伝子(NPT2遺伝子)が増幅されるプライマーセットと人工転写遺伝子とNOS terminator を含む領域が増幅されるプライマーセットを設計して用いた。
【0073】
(e)形質転換体からのタンパク質の抽出
形質転換植物の1〜2 cmの葉をマイクロチューブに採取した。これに液体窒素を加えて凍結させ、ホモジナイズペッスルを用いて細かく砕いた。液体窒素が気化した後、200μLのSDS サンプルバッファー(0.125 M Tris-HCl (pH 6.8), 4% SDS, 20% glycerol, 0.01% BPB, 10% 2-ME])を加え、さらにすりつぶした。95℃で10分間保温したあと、遠心後に上清を新しいマイクロチューブに移した。これを植物抽出タンパク質のサンプルとした。
【0074】
(f)ウエスタンブロット
抽出したタンパク質のうち1μLを12% SDSポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動した。分子量マーカーとしてPerfect Protein Western Marker (Novagen)を同時に泳動した。タンパク質をアクリルアミドゲルからPVDFメンブレンに転写したあと、ポンソーSを用いてタンパク質を確認した。メンブレンをブロッキング液(5% スキムミルク、0.05% tween 20, PBS)で振盪したのち、ペルオキシダーゼ標識-抗HA抗体を反応させた。分子量マーカーに対する抗体としてS-protein HRPも同時に反応させた。ECL化学発光システムを用いてX線フィルムを感光させ、シグナルを検出した。このシグナルのサイズとシグナル強度から、形質転換植物内でAZPが発現しているかどうかを検証した。
【0075】
(2)ウイルス感染実験
(a)ウイルス感染用プラスミドの作製
ウイルス感染はアグロバクテリアの感染力を利用して行った。複製起点を2つ有するウイルスゲノムコピーをバイナリープラスミドに導入するために、TYLCV及びTYLCV-mildの2種類について、目的プラスミドの作製を以下に示す2段階で行った。TYLCV-mildはTYLCVとはRepの結合するdirect repeats配列が異なり、ジェミニウイルスに対する汎用性を調べる目的で用いた。
【0076】
TYLCVのウイルスゲノムDNAから複製起点を含む0.5コピー分のDNAフラグメントをPCRにより増幅し、バイナリープラスミドpBI121のEcoR I/Hind IIIサイトにクローニングし、pBI-TYLCV(0.5)を得た。シークエンシングにより塩基配列が正しいことを確認した。TYLCVの1コピー分のDNAフラグメントを導入する際、PCRで増幅したDNAをクローニングする場合には、作製したプラスミドの塩基配列を確認する必要があるが、目的プラスミドはウイルスゲノムを1.5コピー含むので必ず重複するDNA領域があり、シークエンシングにより塩基配列が正しいことを確認することができない。そこで、一度クローニングプラスミドpBluescript II KS+にウイルスゲノム1コピー分を組み込んで、全塩基配列を確認した後にPCRを行わずに制限酵素で切り出したDNAフラグメントをpBI-TYLCV(0.5)に導入することにした。
【0077】
TYLCVのウイルスゲノムDNAから複製起点を含む1コピー分のDNAフラグメントをPCRにより増幅し、pBluescript II KS+のPst I/Hind IIIサイトにクローニングしてpBS-TYLCVを得た。シークエンシングにより全塩基配列が正しいことを確認した。次にpBS-TYLCVからBsrG I及びHind IIIでウイルスゲノム1コピー分のDNAフラグメントを切り出し、アガロースゲル上で精製後、pBI-TYLCV(0.5)のBsrG I/Hind IIIサイトにクローニングし、最終的に目的プラスミドのpBI-TYLCV(1.5)を得た。TYLCV-mildについても、同様の操作を行い、最終的に目的プラスミドのpBI-TYLCV-mild(1.5)を得ることができた。
【0078】
(b)ウイルス感染用プラスミドの感染能の確認
アグロバクテリア C58C1RifR (GV2260) のコンピテントセルを作製した。このコンピテントセルに、作製したTYLCVゲノムあるいはTYLCV-mildゲノムを1.5コピー有するバイナリーベクターを導入し、アグロイノキュレーション用のアグロバクテリアのグリセロールストックを作成し、−80℃に保存した。野生型トマトに感染する前日に、このグリセロールストックを6 mLのLB 培地 (Kan 100 mg/L、Amp 50 mg/L) に植菌し、30℃で一昼夜培養した。次にアグロバクテリアを集菌し、バッファー1 mLに懸濁させた。この懸濁液を播種後約10日の苗の子葉に注入して、感染させた。感染後定期的に植物個体の観察及び葉の中のウイルスDNAの検出を行った。そのためのDNAサンプルの作製は上述したように行い、それぞれのTYLCVに特異的なプライマーセットを用いて行って得たPCR生成物の解析により、ウイルス感染を分子レベルで評価した。
【0079】
(3)TYLCV感染耐性の評価
形質転換体T3からの苗にウイルスバイナリーベクターを保持するアグロバクテリアの懸濁液を注入し、感染症状を経時的に肉眼で確認した。また、感染させたトマトの葉からDNAを抽出し、植物体内でウイルスが増殖しているかどうかを、前項の方法に従ってPCRで検証した。
【0080】
2.結果
(1)AZP形質転換トマトの作製
Micro-TomトマトにAZP遺伝子をそれぞれアグロバクテリアを介して導入した。
図15に示す各AZP発現カセットを有するバイナリーベクターで形質転換されたアグロバクテリアを子葉切片に感染させて遺伝子を導入した。次にカナマイシンを含む培地を用いてカルスを誘導させ、シュート、次に根を誘導させた。発根が深く寒天培地に伸びている個体を選ぶことにより発根誘導時に形質転換体をさらに選別し、順化後、土に植替えることにより形質転換体を得た。
【0081】
これら形質転換体T1がAZP遺伝子を有することをPCR法により確認した。カナマイシン耐性遺伝子及びAZP遺伝子を検出するため、
図16に示すPCRプライマーセットを用いて(それぞれ図中でオレンジ色及び青色の矢印で示す)PCRを行った。
図17に示すように得られた形質転換体で両方の遺伝子が検出され、形質転換操作がうまく行われたことを確認できた。さらに念のため、AZP発現カセット全領域がトマトゲノムに挿入されていることを別のプライマーセットで確認した(
図18: ピンク色の矢印で図示)。
図19に示されているように、35SプロモーターからNOSターミネーターまで、AZP発現カセット全領域が植物ゲノムに遺伝子導入されていることを確認した。
【0082】
(2)T2及びT3植物の作製及び各ラインの解析
得られたT1植物におけるAZP遺伝子のコピー数は、T2植物のAZP遺伝子挿入個体の割合を調べ、カイ2乗検定により同定した。すなわち、各T1ラインからT2種子を回収し、それらを播種して得られた各T2個体でのAZP遺伝子の有無をPCRにより同定した。AZP-2を導入して得られたT2植物のうち、各々ひとつのラインを例として
図19に示した。
図19を例に取ると、PCR法により特定のT1ラインから得られた18個体のT2植物中、13個体がAZP遺伝子を有しており、分離比は13対5となる。もし、このT1ラインがAZP遺伝子1コピーを有しているのであれば、その分離比は3対1となるはずである。そこでカイ2乗検定により1コピーと仮定するとカイの2乗値は0.074であり、P = 0.01の臨界値は6.63であることから、この帰無仮説は棄却されない。他方、2コピー挿入と仮定すると、カイの2乗値は14.2となり、臨界値より大きくなり、この帰無仮説は棄却される。以上の検証結果から、このT1ラインは1コピー挿入体であることがわかる。そのほかのT1個体についても同様にして1コピー挿入体の選別を行った(
図20)。
【0083】
さらに各アプローチの形質転換体でのAZP発現をウェスタンブロットで確認した。各々のアプローチ用のAZP発現カセットには、あらかじめHAエピトープタグをつけて、形質転換体におけるAZPタンパク質の発現を抗HA抗体を用いてたウェスタンブロット法により検証できるようにしておいた。
図21に示すように、AFP-2を導入したT2植物についてもAZPタンパク質が強く発現されていることが確認できた。
【0084】
AZP遺伝子の1コピー挿入が確認されたT1植物から得られた各T2ラインがホモ又はヘテロのいずれであるかは、それぞれのT2植物からのT3苗のPCR解析により決定した。各T2ラインからのT3苗(各ライン約20個体の苗を使用)の葉から抽出したDNAサンプルのPCR解析により、すべての苗でAZP遺伝子の保持が確認されれば、その親であるT2ラインをホモであると断定することができる(分離比が1:3となれば、その親であるT2ラインはヘテロである)。同一のT2ラインからのすべてのT3植物において、AZP遺伝子が保持されていることから、このT2ラインはホモであることが分かった(
図22)。統計処理によりホモであることも確認した。また、T3植物においてAZPが発現していることもウェスタンブロットにより確認した(
図23)。AFP-3を用いて形質転換した植物についても、それぞれのT2植物からのT3苗について同様の操作を行ない、同様の結果を得た。
【0085】
【表1】
注)「ホモのT2を有するT1」ラインは、得られた1コピー挿入T1について解析して得られた結果を示す。
【0086】
(3)TYLCVバイナリープラスミドの作製及び感染能の確認
アグロイノキュレーション法によりMicro-Tomトマトを感染させることが可能かどうかを検証した。複数の野生型Micro-TomにTYLCVゲノムを有するアグロバクテリアを注入し、TYLCVの感染を試みた。複数回の試験を行った結果、各回とも高効率で感染させることができた。感染後約10日には若い葉においてTYLCV感染の特徴的な葉の縮退が観察された。さらに成長させた個体ではTYLCV感染の特徴的症状である葉のカーリングや黄色化が明確に観察された。感染した個体では明白な成長の阻害が認められ(
図24)、開花は多いものの、結実する確率は著しく低かった。
【0087】
アグロイノキュレーション法によるTYLCVの感染を分子レベルでも確認した。感染成立後、各ステージでの葉を回収し、すべての感染した葉でTYLCVゲノムDNAをPCR法により検出することができた。また、TYLCV-mildについても同様の実験を行ったが、TYLCVとは異なり、その感染症状はマイルドであった。特に感染初期の症状が葉の周辺の色が薄くなるという程度であり、表現系からの感染の判断は難しい場合がある。従って、表現系による判定だけでなく、PCR法により感染個体でのTYLCV-mildで複製されていることを分子レベルで同定することで正確な判定が可能になる。
【0088】
(4)AZP発現によるTYLCV感染耐性の獲得
AZP-2を導入して作製したT1植物のうちの3個体からそれぞれ得られたホモのT2ライン(表1参照)から得られたT3植物に対して上記と同様にしてTYLCVを感染させた。
図25に示されるとおり、感染した野生型(図の左側の植物)に見られるような葉の萎縮や黄色化は、形質転換トマトにおいては認められなかった。さらに、感染耐性をPCRにより分子レベルで評価した。
図26に示されているように、T3ホモ体でウイルスDNAは検出されなかった。また、ホモ体だけでなく、ヘテロ体でもウイルスDNAは検出されず、ウイルスの増殖は見られなかった。
【0089】
また、AZP-3を導入して作製したT1植物1個体から得られたT3植物にも同様にしてTYLCVを感染させたところ、
図27に示されるとおり、感染した野生型に見られるような葉の萎縮や黄色化は、形質転換トマトにおいては認められなかった。さらに、
図28に示されているように、AZP-3の形質転換体においても、ウイルスDNAは検出されなかった。