特許第6153156号(P6153156)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6153156水素吸蔵合金及びこの水素吸蔵合金を用いたニッケル水素二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6153156
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】水素吸蔵合金及びこの水素吸蔵合金を用いたニッケル水素二次電池
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/00 20060101AFI20170619BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20170619BHJP
【FI】
   C22C19/00 F
   H01M4/38 A
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-15814(P2013-15814)
(22)【出願日】2013年1月30日
(65)【公開番号】特開2014-145122(P2014-145122A)
(43)【公開日】2014年8月14日
【審査請求日】2015年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】石田 潤
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 拓也
【審査官】 相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−058082(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/060666(WO,A1)
【文献】 特開2008−071687(JP,A)
【文献】 特開2012−174639(JP,A)
【文献】 特開2011−044388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/00
H01M 4/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:Ln1−x−yCaMgNia−bAl(ただし、式中、Lnは、Zr及び希土類元素から選ばれる少なくとも一つの元素、添字x、y、a、bは、それぞれ、0.05≦x≦0.10、0.11≦y≦0.2、3.3≦a≦3.6、0.15≦b≦0.20を示す)で表される組成を有し、
前記一般式におけるLn、Ca及びMgをA成分とし、Ni及びAlをB成分としたとき、AB型サブユニット及びAB型サブユニットが積層されてなるA型構造又はA19型構造をとる主相中に、前記一般式におけるLn、Ca及びMgをA成分とし、Ni及びAlをB成分としたとき、AB型サブユニット及びAB型サブユニットが積層されてなる結晶構造以外の構造をとる副相が含まれ
前記副相は、前記主相に比べてCa比率が高いことを特徴とする水素吸蔵合金。
【請求項2】
前記副相は、前記主相に対して0.1%以上5%以下の割合で存在していることを特徴とする請求項1に記載の水素吸蔵合金。
【請求項3】
前記副相内における、前記A成分に対する前記B成分の比(B/A)の値が2以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水素吸蔵合金。
【請求項4】
前記副相内の前記A成分中に含まれるCaの比率が50%以上であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の水素吸蔵合金。
【請求項5】
容器と、前記容器内にアルカリ電解液とともに密閉状態で収容された電極群とを備え、
前記電極群は、セパレータを介して重ね合わされた正極及び負極からなり、
前記負極は、請求項1〜4の何れかに記載された水素吸蔵合金を含むことを特徴とするニッケル水素二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵合金及びこの水素吸蔵合金を用いたニッケル水素二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル水素二次電池は、アルカリ水溶液を電解液として用いるアルカリ二次電池の一種である。かかるニッケル水素二次電池は、そこに含まれるアルカリ水溶液(アルカリ電解液)の導電率が高いことから、導電率の低い非水溶液系の電解液を用いた他の二次電池に比べ、基本的に放電特性に優れている。また、ニッケル水素二次電池は、同様なアルカリ電解液を用いるニッケルカドミウム二次電池に比べて高容量で、且つ、環境安全性にも優れている。これらのことから、ニッケル水素二次電池は、各種の電子・電気機器等、さまざまな用途に使用されるようになっている。
【0003】
このニッケル水素二次電池の負極に用いられる水素吸蔵合金は、水素を吸蔵放出可能な材料であり、ニッケル水素二次電池における重要な構成材料の一つである。このような水素吸蔵合金としては、例えば、CaCu5型の結晶を主相とする希土類−Ni系水素吸蔵合金であるLaNi5系水素吸蔵合金や、Ti、Zr、V及びNiを含むラーベス相系の結晶を主相とする水素吸蔵合金が一般的に使用されている。
【0004】
上記したLaNi5系水素吸蔵合金を負極に用いたニッケル水素二次電池(以下、LaNi5系電池という)は、高率放電特性に優れているので、大電流を必要とする電動工具やハイブリッド電気自動車等に用いられる。
【0005】
ところで、これら電動工具やハイブリッド電気自動車等は、より性能を向上させるため、更なる高容量化が望まれている。
【0006】
ここで、LaNi5系水素吸蔵合金は、その水素吸蔵量が合金1に対して水素原子1の割合であるため、これ以上の水素を吸蔵させることは実質的に困難である。このため、LaNi5系電池においては、更なる高容量化は困難であると考えられている。
【0007】
一方、上記したラーベス相系の結晶を主相とする水素吸蔵合金は、合金1に対して水素元素1以上の吸蔵が可能であることが知られている。このため、ラーベス相系の結晶を主相とする水素吸蔵合金を用いれば、原理的にはより高容量のニッケル水素二次電池を得ることが可能である。しかしながら、この水素吸蔵合金は、その表面に安定な酸化膜を生成するため水素吸蔵能力を十分に利用できない、初期活性化に時間がかかる、高率放電特性が不十分である、等の理由から高容量で且つ優れた高率放電特性を備えたニッケル水素二次電池用の負極材料としては、未だ採用されていない。
【0008】
これらの水素吸蔵合金に代わる水素吸蔵合金として、近年、希土類−Ni系水素吸蔵合金の希土類元素の一部をMgで置換した組成を有する希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金が提案されている(特許文献1参照)。この希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金は、従来の希土類−Ni系水素吸蔵合金(LaNi5系水素吸蔵合金)に比べ、多量の水素ガスを吸蔵することが可能であり、しかも、ラーベス相系の水素吸蔵合金に比べ、初期活性化が速く、高率放電特性にも優れているという特徴を有している。このため、この希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を負極材料に採用したニッケル水素二次電池(以下、希土類−Mg−Ni系電池という)は、LaNi5系電池に比べ高容量であり、しかも、ラーベス相系の水素吸蔵合金を負極材料に採用したニッケル水素二次電池(以下、ラーベス相系電池という)に比べ優れた高率放電特性を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−323469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上記した希土類−Mg−Ni系電池の高率放電特性は、ラーベス相系電池に比べて優れてはいるものの、未だ十分なものとはなってはいない。つまり、希土類−Mg−Ni系電池においては、高容量を維持しつつ、更なる高率放電特性の向上が望まれている。
【0011】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、高容量を維持しつつ高率放電特性に優れるニッケル水素二次電池の負極材料となる水素吸蔵合金及びこの水素吸蔵合金を用いたニッケル水素二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明者は、水素吸蔵合金の表面の反応性について鋭意検討した。本発明者は、この検討過程で、水素吸蔵合金中において、AB2型サブユニット及びAB5型サブユニットが積層されてなるA27型構造又はA519型構造をとる主相とは異なる構造をとる副相に着目し、この副相が主相に比べCaを多く含む場合に水素吸蔵合金の反応性が向上するとの知見を得、かかる知見のもと主相よりもCa比率の高い副相を存在させることが、得られる電池の高率放電特性の向上に有効であることを見出した。本発明者は、上記した知見のもと、ニッケル水素二次電池に対して高容量化を維持しつつ高率放電特性を向上させるべく本発明に想到した。
【0013】
すなわち、本発明によれば、一般式:Ln1−x−yCaMgNia−bAl(ただし、式中、Lnは、Zr及び希土類元素から選ばれる少なくとも一つの元素、添字x、y、a、bは、それぞれ、0.05≦x≦0.10、0.11≦y≦0.2、3.3≦a≦3.6、0.15≦b≦0.20を示す)で表される組成を有し、前記一般式におけるLn、Ca及びMgをA成分とし、Ni及びAlをB成分としたとき、AB型サブユニット及びAB型サブユニットが積層されてなるA型構造又はA19型構造をとる主相中に、前記一般式におけるLn、Ca及びMgをA成分とし、Ni及びAlをB成分としたとき、AB型サブユニット及びAB型サブユニットが積層されてなる結晶構造以外の構造をとる副相が含まれ、前記副相は、前記主相に比べてCa比率が高いことを特徴とする水素吸蔵合金が提供される。
【0014】
また、前記副相は、前記主相に対して0.1%以上5%以下の割合で存在している構成とすることが好ましい。
【0015】
また、前記副相内における、前記A成分に対する前記B成分の比(B/A)の値が2以下である構成とすることが好ましい。
【0016】
更に、前記副相内の前記A成分中に含まれるCaの比率が50%以上である構成とすることが好ましい。
【0017】
また、本発明によれば、容器と、前記容器内にアルカリ電解液とともに密閉状態で収容された電極群とを備え、前記電極群は、セパレータを介して重ね合わされた正極及び負極からなり、前記負極は、上記した何れかの水素吸蔵合金を含むことを特徴とするニッケル水素二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の水素吸蔵合金は、AB2型サブユニット及びAB5型サブユニットが積層されてなるA27型構造又はA519型構造をとる主相と、前記AB2型サブユニット及びAB5型サブユニットが積層されてなる結晶構造以外の構造をとる副相とを含み、この副相が、Ca比率の高い相となっている。この水素吸蔵合金をニッケル水素二次電池の負極材料として用いた場合、まず、上記した主相が、水素吸蔵能力に優れるA27型構造又はA519型構造の水素吸蔵合金であることから、電池の高容量化が図れる。そして、電池の充放電にともない、上記したCa比率の高い相を基点に亀裂が発生して反応性の高い新生面が生じ反応面積が増大され、更に、かかるCa比率の高い相が主相よりも先にアルカリ電解液に腐食され、これにより隣接する主相に反応性の高い表面を表出させる。このように水素吸蔵合金において反応性の高い表面の面積が増えることにより、電池反応が促進され、大電流での放電が可能となる。つまり、高率放電特性が向上する。よって、本発明のニッケル水素二次電池は、高容量で、且つ、高率放電特性に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係るニッケル水素二次電池を部分的に破断して示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るニッケル水素二次電池(以下、単に電池と称する)2を、図面を参照して説明する。
【0021】
本発明が適用される電池2としては特に限定されないが、例えば、図1に示すAAサイズの円筒型の電池2に本発明を適用した場合を例に説明する。
【0022】
図1に示すように、電池2は、上端が開口した有底円筒形状をなす外装缶10を備えている。外装缶10は導電性を有し、その底壁35は負極端子として機能する。外装缶10の開口内には、導電性を有する円板形状の蓋板14及びこの蓋板14を囲むリング形状の絶縁パッキン12が配置され、絶縁パッキン12は外装缶10の開口縁37をかしめ加工することにより外装缶10の開口縁37に固定されている。即ち、蓋板14及び絶縁パッキン12は互いに協働して外装缶10の開口を気密に閉塞している。
【0023】
ここで、蓋板14は中央に中央貫通孔16を有し、そして、蓋板14の外面上には中央貫通孔16を塞ぐゴム製の弁体18が配置されている。更に、蓋板14の外面上には、弁体18を覆うようにしてフランジ付き円筒形状の正極端子20が固定され、正極端子20は弁体18を蓋板14に向けて押圧している。なお、この正極端子20には、図示しないガス抜き孔が開口されている。
【0024】
通常時、中央貫通孔16は弁体18によって気密に閉じられている。一方、外装缶10内にガスが発生し、その内圧が高まれば、弁体18は内圧によって圧縮され、中央貫通孔16を開き、この結果、外装缶10内から中央貫通孔16及び正極端子20のガス抜き孔を介して外部にガスが放出される。つまり、中央貫通孔16、弁体18及び正極端子20は電池のための安全弁を形成している。
【0025】
外装缶10には、電極群22が収容されている。この電極群22は、それぞれ帯状の正極24、負極26及びセパレータ28からなり、これらは正極24と負極26との間にセパレータ28が挟み込まれた状態で渦巻状に巻回されている。即ち、セパレータ28を介して正極24及び負極26が互いに重ね合わされている。電極群22の最外周は負極26の一部(最外周部)により形成され、外装缶10の内周壁と接触している。即ち、負極26と外装缶10とは互いに電気的に接続されている。
【0026】
そして、外装缶10内には、電極群22の一端と蓋板14との間に正極リード30が配置されている。詳しくは、正極リード30は、その一端が正極24の内端に接続され、その他端が蓋板14に接続されている。従って、正極端子20と正極24とは、正極リード30及び蓋板14を介して互いに電気的に接続されている。なお、蓋板14と電極群22との間には円形の絶縁部材32が配置され、正極リード30は絶縁部材32に設けられたスリット39を通して延びている。また、電極群22と外装缶10の底部との間にも円形の絶縁部材34が配置されている。
【0027】
更に、外装缶10内には、所定量のアルカリ電解液(図示せず)が注入されている。このアルカリ電解液は、電極群22に含浸され、正極24と負極26との間での充放電反応を進行させる。このアルカリ電解液としては、NaOHを溶質の主体として含むアルカリ電解液を用いることが好ましい。具体的には、水酸化ナトリウム水溶液を用いる。本発明においては、アルカリ電解液の溶質は、NaOHが主体として含まれていればよく、NaOHが単独で含まれる態様であっても、NaOHに加え、例えば、KOH及びLiOHのうちの少なくとも一方を含んでいる態様であってもよい。ここで、アルカリ電解液の溶質としてKOHやLiOHも含む場合、NaOHの量は、これらKOHやLiOHの量よりも多くする。このようなNaOHを主体とするアルカリ電解液を用いた電池は、優れた自己放電特性を発揮する。
【0028】
セパレータ28の材料としては、例えば、ポリアミド繊維製不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維製不織布に親水性官能基を付与したものを用いることができる。具体的には、スルホン化処理が施されてスルホン基が付与されたポリオレフィン繊維を主体とする不織布を用いることが好ましい。ここで、スルホン基は、硫酸又は発煙硫酸等の硫酸基を含む酸を用いて不織布を処理することにより付与される。このようなスルホン基を有する繊維を含むセパレータを用いた電池は、優れた自己放電特性を発揮する。
【0029】
正極24は、多孔質構造を有する導電性の正極集電体と、この正極集電体の空孔内に保持された正極合剤とからなる。
【0030】
このような正極集電体としては、例えば、ニッケルめっきが施された網状、スポンジ状若しくは繊維状の金属体、あるいは、発泡ニッケル(ニッケルフォーム)を用いることができる。
【0031】
正極合剤は、正極活物質粒子、導電材、正極添加材及び結着剤を含む。この結着剤は、正極活物質粒子、導電材及び正極添加材を結着させると同時に正極合剤を正極集電体に結着させる働きをなす。ここで、結着剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)ディスパージョン、HPC(ヒドロキシプロピルセルロース)ディスパージョンなどを用いることができる。
【0032】
正極活物質粒子は、水酸化ニッケル粒子又は高次水酸化ニッケル粒子である。なお、これら水酸化ニッケル粒子には、亜鉛、マグネシウム及びコバルトのうちの少なくとも一種を固溶させることが好ましい。
【0033】
導電材としては、例えば、コバルト酸化物(CoO)やコバルト水酸化物(Co(OH)2)などのコバルト化合物及びコバルト(Co)から選択された1種又は2種以上を用いることができる。この導電材は、必要に応じて正極合剤に添加されるものであり、添加される形態としては、粉末の形態のほか、正極活物質の表面を覆う被覆の形態で正極合剤に含まれていてもよい。
【0034】
正極添加材は、正極の特性を改善するために添加されるものであり、例えば、酸化イットリウム、酸化亜鉛等を用いることができる。
【0035】
正極活物質粒子は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、硫酸ニッケルの水溶液を調製する。この硫酸ニッケル水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を徐々に添加して反応させることにより水酸化ニッケル粒子を析出させる。ここで、水酸化ニッケル粒子に亜鉛、マグネシウム及びコバルトを固溶させる場合は、所定組成となるよう硫酸ニッケル、硫酸亜鉛、硫酸マグネシウム及び硫酸コバルトを秤量し、これらの混合水溶液を調製する。得られた混合水溶液を攪拌しながら、この混合水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を徐々に添加して反応させることにより水酸化ニッケルを主体とし、亜鉛、マグネシウム及びコバルトを固溶した正極活物質粒子を析出させる。
【0036】
正極24は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、上記したようにして得られた正極活物質粒子からなる正極活物質粉末、導電材、正極添加材、水及び結着剤を含む正極合剤ペーストを調製する。得られた正極合剤ペーストは、例えば発泡ニッケル(ニッケルフォーム)に充填され、乾燥させられる。乾燥後、水酸化ニッケル粒子等が充填された発泡ニッケル(ニッケルフォーム)は、ロール圧延されてから裁断される。これにより、正極合剤を担持した正極24が作製される。
【0037】
次に、負極26について説明する。
負極26は、帯状をなす導電性の負極基板(芯体)を有し、この負極基板に負極合剤が保持されている。
負極基板は、貫通孔が分布されたシート状の金属材からなり、例えば、パンチングメタルシートや、金属粉末を型成形して焼結した焼結基板を用いることができる。負極合剤は、負極基板の貫通孔内に充填されるばかりでなく、負極基板の両面上にも層状にして保持されている。
【0038】
負極合剤は、負極活物質としての水素を吸蔵及び放出可能な水素吸蔵合金粒子、導電材及び結着剤を含む。この結着剤は水素吸蔵合金粒子及び導電材を互いに結着させると同時に負極合剤を負極基板に結着させる働きをなす。ここで、結着剤としては親水性若しくは疎水性のポリマー等を用いることができ、導電材としては、カーボンブラックや黒鉛を用いることができる。
【0039】
水素吸蔵合金粒子における水素吸蔵合金としては、希土類元素、Mg、Niを含む希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金が用いられる。この希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金は、以下に示す一般式(I)で表される組成を有している。
Ln1-x-yCaxMgyNia-bAlb・・・(I)
ただし、一般式(I)中、Lnは、Zr及び希土類元素から選ばれる少なくとも一つの元素、添字x、y、a、bは、それぞれ、0.05≦x≦0.10、0.11≦y≦0.2、3.3≦a≦3.6、0.15≦b≦0.20である条件を満たすことを要する。なお、上記した希土類元素は、具体的に、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luを示す。
【0040】
ここで、本発明に係る水素吸蔵合金は、主相と、この主相中に分散して存在する副相とを備えている。
【0041】
主相は、一般式(I)におけるLn、Ca及びMgをA成分とし、Ni及びAlをB成分としたき、AB2型サブユニット及びAB5型サブユニットが積層されてなるA27型構造又はA519型構造をとる、いわゆる超格子構造をなしている。このような超格子構造をなす希土類−Mg−Ni系の水素吸蔵合金は、AB5型合金の特徴である水素の吸蔵放出が安定しているという長所と、AB2型合金の特徴である水素の吸蔵量が大きいという長所とを併せ持っている。このため、主相に係る水素吸蔵合金は、水素吸蔵能力に優れるので、得られる電池2の高容量化に貢献する。
【0042】
一方、副相は、一般式(I)におけるLn、Ca及びMgをA成分とし、Ni及びAlをB成分としたき、AB2型サブユニット及びAB5型サブユニットが積層されてなる結晶構造以外の構造をとる。そして、この副相は、主相に比べてCa比率が高くなっている。このような副相が存在することにより、この副相を基点に水素吸蔵合金に亀裂が発生し、電池反応を起こす反応面の面積が増大される。更に、この副相が優先的にアルカリ電解液と反応して腐食され、これにともない隣接する主相に反応性の高い新生面が形成される。その結果、水素吸蔵合金表面での反応性が向上して電池反応が促進され、大電流での放電が可能となる。このため、得られる電池2の高率放電特性の向上が図れる。
【0043】
この副相は、主相に対する割合が0.1%より少ないと上記したような主相の反応性の向上効果が十分得られない場合がある。そして、副相の割合が多いほど上記したような反応性の向上効果が得られる。しかし、主相に対する副相の割合が5%を超えると電池の充放電に関与する主相の存在比率が低下するため、電池の高率放電特性を低下させたり、電池の高容量化を阻害し始める可能性がある。よって、主相に対する副相の割合は、0.1%以上5%以下とすることが好ましい。
【0044】
ここで、副相が主相と同じAB2型サブユニット及びAB5型サブユニットが積層されてなる結晶構造をとったとしたら、上記したような反応性の向上は得られない。よって、副相は、AB2型サブユニット及びAB5型サブユニットが積層されてなる結晶構造以外の構造をとる。具体的に副相の結晶構造は、一般式(I)におけるLn、Ca及びMgをA成分とし、Ni及びAlをB成分としたき、ABZ(0≦Z≦2)で示される構造をとることが好ましい。より具体的には、この副相の結晶構造としては、MgCu2型をとることが好ましく、また、このMgCu2型の他、Mg型、Cu型又はW型の結晶構造をとることもできる。
【0045】
ここで、副相のCa比率をなるべく高くするため、副相内における、A成分に対するB成分の比(B/A)の値は2以下となるようにすることが好ましい。
【0046】
また、Ca比率の高い相としての副相は、CaNi2、Ca単体及びこれらの中間組成であるCaNiZ(ただし、0≦Z≦2)からなることが好ましい。また、副相のCaの一部がMgや希土類元素と置き換えられていてもよいが、Ca比率が低くなりすぎると副相が主相よりも優先して腐食されなくなるので、上記したような主相の反応性の向上を得ることが難しくなる。このため、副相内におけるA成分中に含まれるCaの比率は50%以上とすることが好ましい。
【0047】
次に、上記した水素吸蔵合金粒子は、例えば、以下のようにして得られる。
まず、所定の組成となるよう金属原材料を秤量して混合し、この混合物を例えば誘導溶解炉で溶解した後、冷却してインゴットにする。得られたインゴットに、900〜1200℃の不活性ガス雰囲気下にて5〜24時間加熱する熱処理を施す。この後、室温まで冷却したインゴットを粉砕し、篩分けにより所望粒径に分級することにより、水素吸蔵合金粒子が得られる。
【0048】
また、負極26は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、水素吸蔵合金粒子からなる水素吸蔵合金粉末、導電材、結着剤及び水を混練して負極合剤ペーストを調製する。得られた負極合剤ペーストは負極基板に塗着され、乾燥させられる。乾燥後、水素吸蔵合金粒子等が付着した負極基板はロール圧延及び裁断が施され、これにより負極26が作製される。
【0049】
以上のようにして作製された正極24及び負極26は、セパレータ28を介在させた状態で、渦巻き状に巻回され、電極群22に形成される。
【0050】
このようにして得られた電極群22は、外装缶10内に収容される。引き続き、当該外装缶10内にはアルカリ電解液が所定量注入される。その後、電極群22及びアルカリ電解液を収容した外装缶10は、正極端子20を備えた蓋板14により封口され、本発明に係る電池2が得られる。
【0051】
本発明の電池2は、上記した各構成要素の組合せの相乗効果により、高容量を維持し、且つ、従来よりも高率放電特性に優れた電池となっている。詳しくは、本発明の電池2は、負極に用いられる希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金において、主相がA27型構造又はA519型構造をとることにより、水素を多く吸蔵放出することができるため、電池の高容量を維持することができる。そして、主相中にCa比率の高い副相が分散されていることにより、まず、電池の充放電にともない、上記した副相を基点に亀裂が発生して電池反応に関与する反応面の面積が増大し、更に、副相が主相よりも優先して電解液に腐食され除去されることにより、隣接する主相に反応性の高い面が表出する。このように、水素吸蔵合金において反応性の高い面を増加させることができることにより、得られる電池は、電池反応が促進され、大電流での放電が可能になり高率放電特性が向上する。よって、本発明の電池は、高容量と高率放電特性とを両立させることができる。
【実施例】
【0052】
1.電池の製造
(実施例1)
【0053】
(1)水素吸蔵合金及び負極の作製
ネオジム、カルシウム、マグネシウム、ニッケル、アルミニウムを秤量して、これらがモル比で0.84:0.05:0.11:3.33:0.17の割合となる混合物を調製した。得られた混合物は、誘導溶解炉で溶解され、インゴットとされた。次いで、このインゴットに対し、温度1000℃のアルゴンガス雰囲気下にて10時間加熱する熱処理を施した。この後、このインゴットをアルゴンガス雰囲気中で機械的に粉砕して篩分けし、400メッシュ〜200メッシュの間に残る水素吸蔵合金粒子からなる粉末を選別した。得られた水素吸蔵合金の粒子の粒径を測定した結果、かかる水素吸蔵合金粒子の平均粒径は60μmであった。
【0054】
得られた水素吸蔵合金の粉末100質量部に対し、ポリアクリル酸ナトリウム0.4質量部、カルボキシメチルセルロース0.1質量部、スチレンブタジエンゴム(SBR)のディスバージョン(固形分50重量%)1.0質量部(固形分換算)、カーボンブラック1.0質量部、および水30質量部を添加して混練し、負極合剤のペーストを調製した。
【0055】
この負極合剤のペーストを負極基板としての鉄製の孔あき板の両面に均等、且つ、厚さが一定となるように塗布した。なお、この孔あき板は60μmの厚みを有し、その表面にはニッケルめっきが施されている。
【0056】
ペーストの乾燥後、水素吸蔵合金の粉末が付着した孔あき板を更にロール圧延して体積当たりの合金量を高めた後、裁断し、希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を含むAAサイズ用の負極26を作成した。
【0057】
(2)正極の作製
ニッケルに対して亜鉛3質量%、マグネシウム0.4質量%、コバルト1質量%となるように、硫酸ニッケル、硫酸亜鉛、硫酸マグネシウム及び硫酸コバルトを秤量し、これらを、アンモニウムイオンを含む1N(規定度)の水酸化ナトリウム水溶液に加え、混合水溶液を調整した。得られた混合水溶液を攪拌しながら、この混合水溶液に10N(規定度)の水酸化ナトリウム水溶液を徐々に添加して反応させ、ここでの反応中、pHを13〜14に安定させて、水酸化ニッケルを主体とし、亜鉛、マグネシウム及びコバルトを固溶した水酸化ニッケル粒子を生成させた。
【0058】
得られた水酸化ニッケル粒子を10倍の量の純水で3回洗浄した後、脱水、乾燥した。なお、得られた水酸化ニッケル粒子は、平均粒径が10μmの球状をなしている。
【0059】
次に、上記したように作製した水酸化ニッケル粒子からなる正極活物質粉末100質量部に、水酸化コバルトの粉末10質量部を混合し、更に、0.5質量部の酸化イットリウム、0.3質量部の酸化亜鉛、40質量部のHPCディスバージョン液を混合して正極合剤ペーストを調製し、この正極合剤ペーストを正極集電体としてのシート状の発泡ニッケル(ニッケルフォーム)に塗着・充填した。正極合剤が付着した発泡ニッケルを乾燥後、ロール圧延した。圧延加工された正極合剤が付着した発泡ニッケルは、所定形状に裁断され、AAサイズ用の正極24に形成された。この正極24は、正極容量が2000mAhとなるように正極合剤を担持している。
【0060】
(3)ニッケル水素二次電池の組み立て
得られた正極24及び負極26をこれらの間にセパレータ28を挟んだ状態で渦巻状に巻回し、電極群22を作製した。ここでの電極群22の作製に使用したセパレータ28はスルホン化処理が施されたポリプロピレン繊維製不織布から成り、その厚みは0.1mm(目付量53g/m2)であった。
【0061】
一方、NaOH、LiOH及びKOHを含む水溶液からなるアルカリ電解液を準備した。ここで、NaOHの濃度は7.0N(規定度)、LiOHの濃度は0.8N(規定度)、KOHの濃度は0.02N(規定度)とした。
【0062】
次いで、有底円筒形状の外装缶10内に上記した電極群22を収納するとともに、準備したアルカリ電解液を所定量注液した。この後、蓋板14等で外装缶10の開口を塞ぎ、AAサイズのニッケル水素二次電池2を組み立てた。このニッケル水素二次電池を電池aと称する。
【0063】
(4)初期活性化処理
電池aに対し、温度25℃の環境下にて、200mA(0.1It)の充電電流で16時間の充電を行った後に、400mA(0.2It)の放電電流で電池電圧が0.5Vになるまで放電させる初期活性化処理を2回繰り返した。このようにして、電池aを使用可能状態とした。
ここで、電池aの公称容量は2000mAである。なお、かかる公称容量は、0.2Aでの16時間の充電後に0.2Aで電池電圧が1.0Vになるまで放電した際に測定した電池の放電容量とした。
【0064】
(実施例2)
ネオジム、カルシウム、マグネシウム、ニッケル、アルミニウムを秤量して、これらがモル比で0.79:0.10:0.11:3.33:0.17の割合となる混合物を調製したこと以外は、実施例1の電池aと同様にしてニッケル水素二次電池(電池b)を作製した。
【0065】
(実施例3)
先ず、20.0質量%のランタン、40.0質量%のプラセオジム及び40.0質量%のネオジムを含む第1混合物を調製した。得られた第1混合物、カルシウム、マグネシウム、ニッケル、アルミニウムを秤量して、これらがモル比で0.73:0.10:0.17:3.10:0.20の割合となる第2混合物を調製した。得られた第2混合物は、誘導溶解炉で溶解され、インゴットとされたこと以外は、実施例1の電池aと同様にしてニッケル水素二次電池(電池c)を作製した。
【0066】
(実施例4)
先ず、60.0質量%のランタン及び40.0質量%のサマリウムを含む第1混合物を調製した。得られた第1混合物、カルシウム、マグネシウム、ニッケル、アルミニウムを秤量して、これらがモル比で0.70:0.10:0.20:3.40:0.20の割合となる第2混合物を調製した。得られた第2混合物は、誘導溶解炉で溶解され、インゴットとされたこと以外は、実施例1の電池aと同様にしてニッケル水素二次電池(電池d)を作製した。
【0067】
(実施例5)
先ず、30.0質量%のランタン及び70.0質量%のネオジムを含む第1混合物を調製した。得られた第1混合物、カルシウム、マグネシウム、ニッケル、アルミニウムを秤量して、これらがモル比で0.77:0.10:0.13:3.30:0.20の割合となる第2混合物を調製した。得られた第2混合物は、誘導溶解炉で溶解され、インゴットとされたこと以外は、実施例1の電池aと同様にしてニッケル水素二次電池(電池e)を作製した。
【0068】
(比較例1)
先ず、20.0質量%のランタン、40.0質量%のプラセオジム及び40.0質量%のネオジムを含む第1混合物を調製した。得られた第1混合物、マグネシウム、ニッケル、アルミニウムを秤量して、これらがモル比で0.83:0.17:3.10:0.20の割合となる第2混合物を調製した。得られた第2混合物は、誘導溶解炉で溶解され、インゴットとされたこと以外は、実施例1の電池aと同様にしてニッケル水素二次電池(電池f)を作製した。
【0069】
(比較例2)
先ず、60.0質量%のランタン及び40.0質量%のサマリウムを含む第1混合物を調製した。得られた第1混合物、マグネシウム、ニッケル、アルミニウムを秤量して、これらがモル比で0.80:0.20:3.40:0.20の割合となる第2混合物を調製した。得られた第2混合物は、誘導溶解炉で溶解され、インゴットとされたこと以外は、実施例1の電池aと同様にしてニッケル水素二次電池(電池g)を作製した。
【0070】
(比較例3)
先ず、30.0質量%のランタン及び70.0質量%のネオジムを含む第1混合物を調製した。得られた第1混合物、マグネシウム、ニッケル、アルミニウムを秤量して、これらがモル比で0.87:0.13:3.30:0.20の割合となる第2混合物を調製した。得られた第2混合物は、誘導溶解炉で溶解され、インゴットとされたこと以外は、実施例1の電池aと同様にしてニッケル水素二次電池(電池h)を作製した。
【0071】
(比較例4)
ランタン、カルシウム、マグネシウム、ニッケルを秤量して、これらがモル比で0.60:0.20:0.20:3.50の割合となる混合物を調製したこと以外は、実施例1の電池aと同様にしてニッケル水素二次電池(電池i)を作製した。
【0072】
(比較例5)
ランタン、カルシウム、マグネシウム、ニッケル、アルミニウムを秤量して、これらがモル比で0.50:0.30:0.20:3.35:0.15の割合となる混合物を調製したこと以外は、実施例1の電池aと同様にしてニッケル水素二次電池(電池j)を作製した。
【0073】
2.水素吸蔵合金及びニッケル水素二次電池の評価
(1)水素吸蔵合金の組成分析
各実施例及び各比較例における熱処理後の水素吸蔵合金インゴットから組成分析用の試料を予め採取しておき、この試料に対し高周波プラズマ分光分析法(ICP)による組成分析を行った。その結果を水素吸蔵合金の組成として表1に示した。
【0074】
(2)水素吸蔵合金の結晶構造の分析
各実施例及び各比較例の水素吸蔵合金粉末から予め結晶構造分析用の試料を採取しておき、この試料に対してX線回折測定(XRD測定)を行った。その結果、実施例1〜3,5及び比較例1,3の水素吸蔵合金の主相の結晶構造は、Ce2Ni7型であった。実施例4及び比較例2の水素吸蔵合金の主相の結晶構造は、Ce5Ni19型であった。比較例4,5の水素吸蔵合金の主相の結晶構造は、Gd2Co7型であった。
【0075】
(3)水素吸蔵合金の副相の分析
各実施例及び各比較例における熱処理後の水素吸蔵合金のインゴットから副相の分析用の試料を予め採取しておき、この試料を所定形状に切断し、表出した断面につき電子顕微鏡(SEM)観察を行うと同時に、エネルギー分散型X線分光器(EDS)を用いて、試料の組成の分析を行った。その結果、各実施例では、主相に比べてCa比率が高い副相が主相中に分散していることを確認することができた。ここで、副相内において、Ln,Mg及びCaをA成分とし、Ni及びAlをB成分とした場合に、かかる副相は、ABZ(0≦Z≦2)で示される組成をなしていた。つまり、A成分に対するB成分の比(B/A)は2以下である。また、副相におけるA成分は、Lnが0.03〜0.20、Mgが0.00〜0.24、Caが0.59〜0.97の比で構成されていることが分析により確認できた。つまり、副相におけるA成分中のCaの比率は50%以上であった。更に、この副相は、CaNi2に類似の組成、又は、Caに類似の組成及びCaNi2とCaとの中間組成からなり、主相に比べNiとAlの和であるB成分の量が少なく、AB2型サブユニットとAB5型サブユニットとを積層してなる結晶構造、いわゆる超格子構造をとり得ないことを確認した。なお、Ca比率の高い相(副相)は、その組成からMgCu2型構造及びMg型構造と推測された。
【0076】
ここで、電子顕微鏡(SEM)観察した断面において、単位面積当たりの副相(Ca比率の高い相)の面積の比率を求め、その結果を高Ca相比率として表1に示した。この高Ca相比率は、副相が合金全体に占める割合とほぼ等しい値となり、主相中における副相の存在比率を表す。
【0077】
(4)ニッケル水素二次電池の放電容量比率
初期活性化処理済みの電池a〜電池jに対し、25℃の環境下にて、2000mA(1.0It)の充電電流で電池電圧が最大値に達した後、10mV低下するまで充電するいわゆる−ΔV制御での充電(以下、単に−ΔV充電という)を行い、その後、25℃の環境下にて1時間放置した。その後、25℃の環境下で400mA(0.2It)の放電電流で放電終止電圧が1.0Vになるまで放電させたときの電池の放電容量を測定した。このときの放電容量を基準放電容量とする。
【0078】
一方、初期活性化処理済みの電池a〜電池jに対し、25℃の環境下にて、2000mA(1.0It)の充電電流で−ΔV充電を行い、その後、25℃の環境下にて1時間放置した。その後、25℃の環境下で8000mA(4.0It)の放電電流で放電終止電圧が1.0Vになるまで放電させたときの電池の放電容量を測定した。このときの放電容量を4.0It放電容量とする。
【0079】
そして、基準放電容量に対する4.0It放電容量の比を求め、その結果を放電容量比率として表1に示した。ここで、この放電容量比率の値が高い電池ほど大電流での放電が可能であり、高率放電特性に優れていることを表す。
【0080】
【表1】
【0081】
(5)考察
(i)本発明に係る水素吸蔵合金の主相の結晶構造は、Ce2Ni7型又はCe5Ni19型であり、いわゆる超格子構造をなしている。このため、水素の吸蔵量が従来のLaNi5系水素吸蔵合金よりも多く、かかる水素吸蔵合金を用いた本発明の電池は、高容量を維持することができる。
【0082】
(ii)比較例1〜3の電池の放電容量比率は、72.7%〜75.1%であるのに対し、実施例1〜5の電池の放電容量比率は、77.5%〜80.5%であった。これより、Ca比率が高い副相を含む水素吸蔵合金を備えている実施例1〜5の電池は、Ca比率が高い副相が存在していない水素吸蔵合金を備えた比較例1〜3の電池よりも放電容量比率が高く、高率放電特性に優れていることがわかる。これより、負極に用いる水素吸蔵合金において、Ca比率が高い副相が存在することにより電池の高率放電特性が改善されることがわかる。
【0083】
(iii)比較例4の電池の放電容量比率は68.0%であり、実施例1〜5の電池の放電容量比率よりも低くなっている。比較例4の電池に用いられている水素吸蔵合金は、Ca比率が高い副相を1.0%含んでいるものの、その組成が上記した一般式(I)で表される組成から外れている。このことから、一般式(I)を満足しており、且つ、Ca比率が高い副相が存在していなければ放電容量比率を高めることができないことがわかる。
【0084】
(iv)比較例5の電池の放電容量比率は73.7%であり、実施例1〜5の電池の放電容量比率よりも低くなっている。比較例5の電池に用いられている水素吸蔵合金は、Ca比率が高い副相の比率が7.0%と実施例1〜5に係る水素吸蔵合金の副相の比率よりも高い。このことから、Ca比率が高い副相は、放電容量比率の向上に貢献するものの、その存在比率が高くなり過ぎると放電容量比率を低下させてしまうことがわかる。これは、副相が増えることにより、電池の充放電反応の主な部分に関与する主相の比率が相対的に低下するためである。よって、放電容量比率を向上させ電池の高率放電特性を改善させるには、水素吸蔵合金において、Ca比率の高い副相を主相に対して0.1%以上5%以下の割合で存在させることが好ましいと言える。
【0085】
(v)以上より、超格子構造をなす主相と、超格子構造以外の構造をとり、主相よりもCa比率の高い副相とを含む希土類−Mg−Ni系の水素吸蔵合金を負極に用いることが、ニッケル水素二次電池の高容量化と高率放電特性の両立に有効であると言える。
【0086】
なお、本発明は、上記した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能であり、例えば、ニッケル水素二次電池は、角形電池であってもよく、機械的な構造は格別限定されることはない。
【符号の説明】
【0087】
2 ニッケル水素二次電池
22 電極群
24 正極
26 負極
28 セパレータ
図1