特許第6153160号(P6153160)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6153160アルミニウム合金とその製造方法、接合材とその製造方法、鉄道車両の構体及び交通輸送手段の構体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6153160
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金とその製造方法、接合材とその製造方法、鉄道車両の構体及び交通輸送手段の構体
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20170619BHJP
   B61D 17/04 20060101ALI20170619BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20170619BHJP
   C22F 1/053 20060101ALN20170619BHJP
   C22C 21/10 20060101ALN20170619BHJP
【FI】
   B23K20/12 330
   B23K20/12 360
   B61D17/04
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 630C
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 694B
   !C22F1/053
   !C22C21/10
   !C22F1/00 630M
   !C22F1/00 684C
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 686Z
   !C22F1/00 631A
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-112269(P2013-112269)
(22)【出願日】2013年5月28日
(65)【公開番号】特開2014-231067(P2014-231067A)
(43)【公開日】2014年12月11日
【審査請求日】2015年12月17日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成24年12月1日 財団法人研友社発行の「鉄道総研報告 2012年12月 第26巻第12号」に発表、平成24年12月7日 社団法人日本機械学界主催の「第19回鉄道技術連合シンポジウム(J−RAIL2012)」において文書をもって発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】712004783
【氏名又は名称】株式会社総合車両製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100104064
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 岳人
(72)【発明者】
【氏名】森 久史
(72)【発明者】
【氏名】辻村 太郎
(72)【発明者】
【氏名】石塚 弘道
(72)【発明者】
【氏名】石川 武
【審査官】 青木 正博
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2007/0215676(US,A1)
【文献】 特開2002−346770(JP,A)
【文献】 特開2005−131679(JP,A)
【文献】 特開2008−155277(JP,A)
【文献】 特開2009−113085(JP,A)
【文献】 特開2004−141946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
B61D 17/04
C22C 21/10
C22F 1/00
C22F 1/053
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械的強度が向上されたアルミニウム合金を接合した接合材の製造方法であって、
7000系アルミニウム合金の金属組織をナノ組織化するナノ処理工程と、
前記ナノ処理工程後の前記7000系アルミニウム合金を熱間圧延する圧延工程と、
前記圧延工程後の前記7000系アルミニウム合金を再結晶化処理する再結晶処理工程と、
前記再結晶処理工程後の前記7000系アルミニウム合金を摩擦撹拌接合する接合工程とを含み、
前記再結晶化処理工程は、前記7000系アルミニウム合金を373〜573Kで60〜180秒間加熱する工程を含むこと、
を特徴とする接合材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の接合材の製造方法において、
前記接合工程は、セラミックス製の回転ツールによって前記7000系アルミニウム合金を摩擦撹拌接合する工程を含むこと、
を特徴とする接合材の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の接合材の製造方法において、
前記接合工程は、セラミックス製又は金属製の裏当て部によって前記7000系アルミニウム合金の摩擦熱を蓄積させる工程を含むこと、
を特徴とする接合材の製造方法。
【請求項4】
機械的強度が向上されたアルミニウム合金の製造方法であって、
7000系アルミニウム合金の金属組織をナノ組織化するナノ処理工程と、
前記ナノ処理工程後の前記7000系アルミニウム合金を熱間圧延する圧延工程と、
前記圧延工程後の前記7000系アルミニウム合金を再結晶化処理する再結晶処理工程とを含み、
前記再結晶化処理工程は、前記7000系アルミニウム合金を373〜573Kで60〜180秒間加熱する工程を含むこと、
を特徴とするアルミニウム合金の製造方法。
【請求項5】
機械的強度が向上されたアルミニウム合金を接合した接合材であって、
7000系アルミニウム合金の金属組織をナノ組織化した後に、この7000系アルミニウム合金を熱間圧延するとともに、この7000系アルミニウム合金を373〜573Kで60〜180秒間加熱して再結晶化処理し、この7000系アルミニウム合金を摩擦撹拌接合していること、
を特徴とする接合材。
【請求項6】
機械的強度が向上されたアルミニウム合金であって、
7000系アルミニウム合金の金属組織をナノ組織化した後に、この7000系アルミニウム合金を熱間圧延するとともに、この7000系アルミニウム合金を373〜573Kで60〜180秒間加熱して再結晶化処理していること、
を特徴とするアルミニウム合金。
【請求項7】
請求項5に記載の接合材を備える鉄道車両の構体。
【請求項8】
請求項5に記載の接合材を備える交通輸送手段の構体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、機械的強度が向上されたアルミニウム合金とその製造方法、このアルミニウム合金を接合した接合材とその製造方法、鉄道車両の構体及び交通輸送手段の構体に関する。
【背景技術】
【0002】
新幹線(登録商標)の速度向上に伴って車両の軽量化が進められており、車両構体の軽量化においてはアルミニウム合金の適用が検討され、新幹線車両においても200系新幹線電車以降、構体全体にアルミニウム合金が使われている。アルミニウム合金の密度は、2.7g/cm3であり鉄と比較して小さい。また、アルミニウム合金は、加工しやすく、熱処理によって性質を調整することができる特徴があり、軽量化を検討するための金属材料として有望である。しかし、アルミニウム合金は、材料物性において熱伝導率が大きいことや酸化被膜の存在で溶接が難しいとされている。例えば、7000系アルミニウム合金のような高強度アルミニウム合金は、溶接組立時の熱影響による強度低下が著しく、応力腐食割れが生じるために薄肉化が難しいとされてきた。また、車両組立においては、溶接熱による変形や熱影響による材料組織の変形に伴う強度低下が生じるなど、溶接施工の難しい材料である。特に、高強度アルミニウム合金は、材料組織変化が複雑であり、溶接や接合が極めて難しい。一方、摩擦撹拌接合は、英国溶接研究所で開発された接合方法で、アーク溶接で認められる溶接部の熱影響や熱変形が軽微である特徴を有している。このことから、摩擦撹拌接合はアルミニウム合金の接合に有効であると考えられており、車両の製造に適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】鈴木信行、他1名,「7475アルミニウム合金の超塑性成形に伴う摩擦撹拌接合部の変形」,軽金属,一般社団法人軽金属学会,2004年12月30日,第54巻,第12号,p.551-555
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
摩擦撹拌接合は、回転工具(ツール)の回転に伴う塑性変形と摩擦発熱によって接合される。このため、摩擦撹拌接合の接合状態の良否は、ツールの材質、ツールの挿入深さ、回転数、送り速度や、ショルダ形状、ツールへの負荷荷重が影響することになる。ここで、プローブの挿入深さは一定に制御されるので、実質的には接合ツールの回転数、ツールの送り速度、ツールの材質が主な課題となる。しかし、高強度アルミニウム合金は、近年盛んに適用されつつある摩擦撹拌接合の適用が難しい材料であるとされている。例えば、従来の高強度アルミニウム合金の摩擦撹拌接合方法では、ツールの送り速度とツールの回転数との組み合わせが不適である際には、図13に示すように摩擦撹拌接合の接合部の接合線においてかじりの欠陥発生が認められる問題点がある(非特許文献1参照)。また、従来の高強度アルミニウム合金の摩擦撹拌接合方法では、ツールの鉄がアルミニウム合金の接合部に残留し、その残留鉄が腐食等に影響を及ぼす問題点がある。このため、高強度アルミニウム合金に対する摩擦撹拌接合の適用については、材料組織、接合条件及び継手形状などの点から検討することが必要になる。
【0005】
この発明の課題は、接合条件が広範囲になり接合部の継手硬さが増加し高品質の接合を行うことができるアルミニウム合金とその製造方法、接合材とその製造方法、鉄道車両の構体及び交通輸送手段の構体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、図4に示すように、機械的強度が向上されたアルミニウム合金(3a)を接合した接合材(3)の製造方法であって、7000系アルミニウム合金の金属組織をナノ組織化するナノ処理工程(#200)と、前記ナノ処理工程後の前記7000系アルミニウム合金を熱間圧延する圧延工程(#300)と、前記圧延工程後の前記7000系アルミニウム合金を再結晶化処理する再結晶処理工程(#400)と、前記再結晶処理工程後の前記7000系アルミニウム合金を摩擦撹拌接合する接合工程(#500)とを含み、前記再結晶化処理工程は、前記7000系アルミニウム合金を373〜573Kで60〜180秒間加熱する工程を含むことを特徴とする接合材の製造方法(#100)である。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の接合材の製造方法において、図2及び図3に示すように、前記接合工程は、セラミックス製の回転ツール(5)によって前記7000系アルミニウム合金を摩擦撹拌接合する工程を含むことを特徴とする接合材の製造方法である。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の接合材の製造方法において、図2及び図3に示すように、前記接合工程は、セラミックス製又は金属製の裏当て部(6)によって前記7000系アルミニウム合金の摩擦熱を蓄積させる工程を含むことを特徴とする接合材の製造方法である。
【0009】
請求項4の発明は、図4に示すように、機械的強度が向上されたアルミニウム合金(3a)の製造方法であって、7000系アルミニウム合金の金属組織をナノ組織化するナノ処理工程(#200)と、前記ナノ処理工程後の前記7000系アルミニウム合金を熱間圧延する圧延工程(#300)と、前記圧延工程後の前記7000系アルミニウム合金を再結晶化処理する再結晶処理工程(#400)とを含み、前記再結晶化処理工程は、前記7000系アルミニウム合金を373〜573Kで60〜180秒間加熱する工程を含むことを特徴とするアルミニウム合金の製造方法(#100)である。
【0010】
請求項5は、図2図4に示すように、機械的強度が向上されたアルミニウム合金(3a)を接合した接合材であって、7000系アルミニウム合金の金属組織をナノ組織化した後に、この7000系アルミニウム合金を熱間圧延するとともに、この7000系アルミニウム合金を373〜573Kで60〜180秒間加熱して再結晶化処理し、この7000系アルミニウム合金を摩擦撹拌接合していることを特徴とする接合材(3)である。
【0011】
請求項6は、機械的強度が向上されたアルミニウム合金であって、図2図4に示すように、7000系アルミニウム合金の金属組織をナノ組織化した後に、この7000系アルミニウム合金を熱間圧延するとともに、この7000系アルミニウム合金を373〜573Kで60〜180秒間加熱して再結晶化処理していることを特徴とするアルミニウム合金(3a)である。
【0012】
請求項7の発明は、図1に示すように、請求項5に記載の接合材を備える鉄道車両(1)の構体(2)である。
【0013】
請求項8の発明は、図1に示すように、請求項5に記載の接合材を備える交通輸送手段(1)の構体(2)である。
【発明の効果】
【0014】
この発明によると、接合条件が広範囲になり接合部の継手硬さが増加し高品質の接合を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明の実施形態に係る接合材を備える交通輸送手段の構体の一部を破断して示す斜視図である。
図2】この発明の実施形態に係る接合材の一部を破断して示す斜視図である。
図3】この発明の実施形態に係る接合材の一部を破断して示す断面図である。
図4】この発明の実施形態に係る接合材の製造方法の工程図である。
図5】この発明の実施例に係る試験材の鋳造したままの素材の金属組織を示す画像であり、(A)は結晶粒の状態を示す画像であり、(B)は析出物の状態を示す画像である。
図6】この発明の実施例に係る473K処理材の金属組織の画像であり、(A)は結晶粒の状態を示す画像であり、(B)は析出物の状態を示す画像である。
図7】この発明の実施例に係る573K処理材の金属組織の画像であり、(A)は結晶粒の状態を示す画像であり、(B)は析出物の状態を示す画像である。
図8】この発明の実施例に係る473K処理材及び573K処理材を接合速度500mm/minで接合したときの接合線の外観を示す画像であり、(A)は473K処理材の接合線の外観を示す画像であり、(B)は573K処理材の接合線の外観を示す画像である。
図9】この発明の実施例に係る473K処理材を接合速度500mm/minで接合したときの接合部の断面の金属組織を示す画像である。
図10】この発明の実施例に係る473K処理材を接合速度750mm/minで接合したときの接合部の断面のマクロ組織を示す画像であり、(A)は断面のマクロ組織の画像であり、(B)は欠陥部の画像である。
図11】この発明の実施例に係る573K処理材を接合したときの接合部の断面のマクロ組織を示す画像であり、(A)は接合速度500mm/minのときの断面のマクロ組織の画像であり、(B)は接合速度1250mm/minのときの断面のマクロ組織の画像である。
図12】この発明の実施例に係る473K処理材及び573K処理材の断面硬さの測定結果を示すグラフであり、(A)は473K処理材の断面硬さの測定結果を示すグラフであり、(B)は573K処理材の断面硬さの測定結果を示すグラフである。
図13】従来の7000系アルミニウム合金を摩擦撹拌接合によって接合したときの接合線の外観を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について詳しく説明する。
図1に示す交通輸送手段1は、電車又は気動車などの鉄道車両である。構体2は、交通輸送手段1の主構造である。構体2は、図1に示すように、乗客又は貨物などの重量を支持し車体の床部分又は台枠を構成する床構え2aと、この床構え2aの両縁に固定され車体の側面部分を構成する一対の側構え2b,2cと、この一対の側構え2b,2cの上縁に固定され車体の屋根部分を構成する屋根構え2dと、車両の両端部分を構成する図示しない妻構えなどを備えている。構体2は、例えば、接合材3によって形成された車外面板と室内面板とをトラス又はリブによって結合したダブルスキン構体である。
【0017】
図1図3に示す接合材3は、機械的強度が向上されたアルミニウム合金3aを接合した部材である。接合材3は、図2及び図3に示すように、アルミニウム合金(母材)3aと接合部3bとから構成されており、アルミニウム合金3aの端部同志を突き合わせた状態で摩擦撹拌接合によって突合せ溶接された板材である。接合材3は、7000系アルミニウム合金の金属組織をナノ組織化した後に、この7000系アルミニウム合金を373〜573Kで60〜180秒間加熱して再結晶化処理し、この7000系アルミニウム合金を摩擦撹拌接合している。接合材3は、例えば、鉄道車両の構体2を構成する車外面板又は室内面板と同じ厚さに形成している。
【0018】
図2及び図3に示すアルミニウム合金3aは、機械的強度が向上された高強度アルミニウム合金である。アルミニウム合金3aは、亜鉛を主要合金元素とする7000系アルミニウム合金である。このような7000系アルミニウム合金としては、アルミニウム合金の中で最も高強度であり、組成がZnを5.5%、Mgを2.5%、Cuを1.6%含み、その他に微量のCrを含むAl-Zn-Mg-Cu系合金である7075合金のような超々ジュラルミンである。アルミニウム合金3aは、7000系アルミニウム合金の金属組織をナノ組織化した後に、この7000系アルミニウム合金を373〜573Kで60〜180秒間加熱して再結晶化処理している。アルミニウム合金3aは、金属組織がナノ組織化された後に熱処理されている。アルミニウム合金3aは、素材組織の前処理としてナノ組織化し、その後に熱処理を加えて回復組織化した後に摩擦撹拌接合が実施される。
【0019】
図2及び図3に示す接合部3bは、摩擦撹拌接合によって接合された部分である。接合部3bは、アルミニウム合金3aの端部同志を突き合せた状態で摩擦撹拌接合(摩擦撹拌溶接)(Friction Stir Welding(FSW))によって溶接して、アルミニウム合金3aの端部同志が接合される。接合部3bは、図2に示すように、アルミニウム合金3aの表面に対して直交する平坦な接合面3cを備えており、アルミニウム合金3aの接合面3c同志を突き合せた状態で溶接される。接合部3bには、図3に示すように、回転ツール5のプローブ部5aの回転による摩擦熱によって生成されてこのプローブ部5aの形状に相当する摩擦撹拌層3dと、プローブ部5aの回転による摩擦熱によって素材を固相のまま塑性流動させて生成される塑性流動層3eと、プローブ部5aの回転による摩擦熱によって素材が軟化して生成される熱影響層3fとが形成される。
【0020】
図1図3に示す溶接装置4は、アルミニウム合金3aを溶接する装置である。溶接装置4は、回転する木ねじ状の工具を被接合材の接合部に挿入し、この接合部の材料そのものを撹拌して接合する摩擦撹拌接合装置である。溶接装置4は、摩擦撹拌接合によって接合部の金属組織を加工組織とし、疲労強度や破壊抵抗を溶接前よりも増加させる特徴を有する。溶接装置4は、図2及び図3に示すように、回転ツール5と裏当て部6などを備えている。
【0021】
図2及び図3に示す回転ツール5は、中心軸回りに回転する回転工具である。回転ツール5は、図示しない駆動装置によって中心軸回りに回転する硬質な丸棒であり、接合線Lに沿って水平方向に移動する際には垂直軸に対して3〜5°程度傾斜した前進角が付与される。回転ツール5は、熱伝導が小さく接合部3bに十分熱を蓄積可能であり、かつ、熱勾配の制御が容易であるセラミックス製ツールであり、このようなセラミックス製ツールとしては蓄熱性の高い窒化珪素製ツールが好ましい。回転ツール5は、プローブ部(ピン部)5aとショルダ部5bとを備えており、アルミニウム合金3aの接合面3cにプローブ部5aを挿入して、摩擦熱により軟化した部分を撹拌することによって接合する。プローブ部5aは、接合面3cを摩擦撹拌する機能を有する突起部であり、回転ツール5の先端部に形成されておりこのプローブ部5aの外周面にはねじ部5cが形成されている。プローブ部5aの長さは、アルミニウム合金3aに侵入可能なように、このアルミニウム合金3aの厚さと同一又は僅かに短く設計されている。ショルダ部5bは、プローブ部5aによって撹拌されたアルミニウム合金3aを押さえ込む機能を有する段差部である。ショルダ部5bは、回転ツール5の先端の段差部に形成されており、図3に示すようにショルダ部5bには中心軸側よりも外周部側の方が僅かに高くなるように中心軸から外周に向かってテーパ面が形成されている。
【0022】
図2及び図3に示す裏当て部6は、回転ツール5との間でアルミニウム合金3aを挟み込む部材である。裏当て部6は、回転ツール5からの摩擦圧力に耐え得るバックアップ材(ベース)として機能する定盤である。裏当て部6は、熱伝導率が小さく接合部3bに十分に熱を蓄積可能であり、かつ、熱勾配の制御が容易であるセラミックス製又は金属製ツールであり、熱伝導の小さいSUS304ステンレス鋼板が好ましい。
【0023】
次に、この発明の実施形態に係る接合材の製造方法について説明する。
図4に示す製造方法#100は、機械的強度が向上されたアルミニウム合金3aを接合した接合材3の製造方法である。製造方法#100は、アルミニウム合金3aの素材組織の前処理としてアルミニウム合金3aを加工熱処理して析出物をナノ組織化し、その後にアルミニウム合金3aに熱処理を加えてアルミニウム合金3aを回復組織化した後に、アルミニウム合金3aに摩擦撹拌接合を実施する。製造方法#100は、図4に示すように、ナノ処理工程#200と、圧延工程#300と、再結晶処理工程#400と、接合工程#500とを含む。製造方法#100では、欠陥の発生がなく接合部3bの硬さが向上するように、材質の金属組織に存在する析出物を予め微細に制御し、その後に再結晶処理によって変形抵抗を下げ、接合中の摩擦熱を利用して析出物を整える。
【0024】
ナノ処理工程#200は、アルミニウム合金3aの金属組織をナノ組織化する工程である。ナノ処理工程#200では、鋳造したままの素材の状態におけるアルミニウム合金3aの金属組織が不均一であるため、圧延加工後にみられる素材内の析出物の寸法をナノスケールで細かく分散させる。ナノ処理工程#200では、鋳造したままの素材に溶体化処理と時効処理とを実施することによって、アルミニウム合金3aの金属組織の析出物をナノレベルで制御する。ナノ処理工程#200は、溶体化処理工程#210と時効処理工程#220とを含む。
【0025】
溶体化処理工程#210は、アルミニウム合金3aを溶解度線以上の温度で加熱した後に、このアルミニウム合金3aを室温に急冷して過飽和固溶体を作る工程である。溶体化処理工程#210では、アルミニウム合金3aを加熱保持後に急冷し、このアルミニウム合金3aの材料組織を均一化して一度準安定状態にする。溶体化処理工程#210は、処理温度が373Kを下回ると均質化の問題があり、900Kを超えると割れの問題があるため、処理温度を373〜900Kに設定することが好ましい。溶体化処理工程#210は、処理時間が0.5時間を下回ると均質化の問題があり、3時間を超えると金属組織の成長に問題があるため、処理時間を0.5〜3時間に設定することが好ましい。
【0026】
時効処理工程#220は、溶体化処理工程#210後のアルミニウム合金3aを所定温度に保持し、時間の経過に伴ってこのアルミニウム合金3aの硬さが変化する時効現象を利用してアルミニウム合金3aの性質を調整する処理である。時効処理工程#220は、溶体化処理工程#210における準安定状態ではアルミニウム合金3aの機械的性質が低いため、このアルミニウム合金3aを引き続き所定温度に加熱保持して、このアルミニウム合金3aの金属組織を目的とする性質に調質する調質処理である。時効処理工程#220では、アルミニウム合金3aの過飽和固溶体を固溶度曲線よりも低い温度に保持することによって、アルミニウム合金3aの硬度を時間とともに上昇させる。時効処理工程#220は、処理温度が373Kを下回ると未時効で強度が増加しない問題があり、873Kを超えると過時効の問題があるため、処理温度を373〜873Kに設定することが好ましい。時効処理工程#220は、処理時間が0.1時間を下回ると未時効の問題があり、5時間を超えると過時効による軟化の問題があるため、処理時間を0.1〜5時間に設定することが好ましい。
【0027】
圧延工程#300は、複数の回転するロールの間にアルミニウム合金3aを通過させて、断面積を減少させながら所定の形状寸法の型材に加工する工程である。圧延工程#300では、時効処理工程#220後のアルミニウム合金3aを再結晶温度以上の温度で熱間加工することによって塑性変形させる。圧延工程#300は、圧延温度が273Kを下回るとナノ組織の制御が不可能であるという問題があり、573Kを超えると熱間割れの問題があるため、圧延温度を273〜573Kに設定することが好ましい。圧延工程#300は、圧下率が10%を下回るとナノ組織の制御が不可能であるという問題があり、96%を超えると熱間割れの問題があるため、圧下率を10〜96%に設定することが好ましい。
【0028】
再結晶処理工程#400は、アルミニウム合金3aを回復組織化する工程である。再結晶処理工程#400では、圧延工程#300による歪みによってアルミニウム合金3aの変形抵抗が高いため、この変形抵抗を下げるために再結晶化処理を実施する。再結晶処理工程#400では、圧延工程#300において塑性加工されたアルミニウム合金3aを加熱してこのアルミニウム合金3aの内部に蓄えられた歪みエネルギーを解放して歪みのない結晶粒(再結晶粒)を発生させ、アルミニウム合金3aの金属組織を再結晶化させ加工前の状態に回復させる。再結晶処理工程#400は、処理温度が373Kを下回ると再結晶が生じず、573Kを超えると金属組織の粗大化の問題があるため、処理温度を373〜573Kに設定することが好ましい。再結晶処理工程#400は、処理時間が60秒を下回ると再結晶が生じず、180秒を超えると組織粗大化や2次再結晶が生じるため、処理時間を60〜180に設定することが好ましい。
【0029】
接合工程#500は、アルミニウム合金3aを摩擦撹拌接合する工程である。接合工程#500では、摩擦撹拌接合による接合中の摩擦熱を利用してアルミニウム合金3aの金属組織の析出物を整えるために、接合中の摩擦熱を蓄積して接合部3bで温度勾配を持たせ、熱勾配によって金属組織の微細化を図る。接合工程#500では、図2及び図3に示すように、セラミックス製の回転ツール5とセラミックス製又は金属製の裏当て部6とによって再結晶処理工程#400後のアルミニウム合金3aを摩擦撹拌接合する。接合工程#500は、接合速度が500mm/minを下回ると欠陥発生の問題があり、1250mm/minを超えると割れの問題があるため、接合速度を500〜1250mm/minに設定することが好ましい。
【0030】
この発明の実施形態に係るアルミニウム合金とその製造方法、接合材とその製造方法には、以下に記載するような効果がある。
(1) この実施形態では、アルミニウム合金3aの金属組織をナノ処理工程#200でナノ組織化し、このアルミニウム合金3aを再結晶処理工程#400で再結晶化処理し、このアルミニウム合金3aを接合工程#500で摩擦撹拌接合し、アルミニウム合金3aを373〜573Kで60〜180秒間加熱する工程を再結晶化処理工程#400が含む。また、この実施形態では、アルミニウム合金3aの金属組織をナノ組織化した後に、このアルミニウム合金3aを373〜573Kで60〜180秒間加熱して再結晶化処理し、このアルミニウム合金3aを摩擦撹拌接合している。このため、摩擦撹拌接合が困難である7000系アルミニウム合金を欠陥の発生がなく接合部3bの硬さが向上するように接合することができる。その結果、接合条件が広範囲になって接合部3bの継手硬さが増加し、高品質の接合をすることができる。
【0031】
(2) この実施形態では、セラミックス製の回転ツール5によってアルミニウム合金3aを摩擦撹拌接合する工程を接合工程#500が含む。このため、施工時に蓄熱性のあるセラミックス製の回転ツール5を用いることによって、熱伝導を小さくし接合部3bに十分に熱を蓄積させることができる。
【0032】
(3) この実施形態では、セラミックス製又は金属製の裏当て部6によってアルミニウム合金3aの摩擦熱を蓄積させる工程を接合工程#500が含む。このため、施工時に蓄熱性のあるセラミックス製又は金属製の裏当て部6を用いることによって、摩擦撹拌接合時に発生する摩擦熱を裏当て部6側に放出させ、温度勾配を発生させることができる。
【実施例】
【0033】
次に、この発明の実施例について説明する。
(試験材)
試験材は、7000系アルミニウム合金として表1に示す化学成分の7075合金を用いた。表1に示す単位は、質量パーセントである。試験材は、精密鋳造法によって作成した。試験材の金属組織は、図5(A)に示すように、結晶粒径が100μm以上であり、図5(B)に示すように粒界に最大1μm程度の析出物が見られる状態であった。
【0034】
【表1】
【0035】
(試験材のナノ処理)
表1に示す試験材に対する摩擦撹拌接合の適用を検討するために、試験材の金属組織の析出物をナノレベルで制御した。試験材に対するナノ処理は一般的な処理温度よりも低めに設定し、試験材に対する溶体化処理を743Kで1時間行った後に、試験材に対する時効処理を673Kで8時間行った。時効処理後の圧延加工としては、圧延温度を373Kで圧下率を96%として熱間加工で行った。その後、熱間加工による変形抵抗を下げるために再結晶処理を行った。再結晶処理では、完全な再結晶状態と未完全な再結晶状態とを比較するために、加熱温度が473Kで一部分が再結晶化した状態の処理材(以下、473K処理材という)と、加熱温度が573Kで完全に再結晶化した状態の処理材(以下、573K処理材という)とを用意した。再結晶化処理は熱間圧延した材料を加熱炉に入れて行った。加熱時間は、析出物の粗大化を防ぐために180秒とした。
【0036】
(試験材の金属組織観察)
再結晶化処理した473K処理材及び573K処理材の金属組織について観察した。観察試料は、473K処理材及び573K処理材を精密切断で切り出した後に研磨と腐食処理とを行って、レーザ顕微鏡を用いて観察を行った。また、析出物の状態を調べるために透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope(TEM))による観察を行った。TEMの観察試料は、レーザ顕微鏡による金属組織観察片を用い、電解研磨及びツインジェット研磨機を用いて処理を行った。
【0037】
(摩擦撹拌接合の施工)
接合は、再結晶化処理を行った試験材に対して、図2及び図3に示す摩擦撹拌接合によって行った。摩擦撹拌接合は、蓄熱性の高い窒化珪素製の回転ツールを用いるとともに、熱伝導の小さいSUS304ステンレス鋼板の裏当て板を用いて試験材を接合した。回転ツールの形状は、プローブ部の外径が6mmであり、プローブ部の長さが3mmであり、ショルダ部の外径が12mmである。回転ツールの寿命を延ばすためにプローブ部には凸形のテーパ形状に設計されているものを用いた。接合条件は、回転ツールの挿入角度を接合面3cに対して3°の傾斜を与え、回転ツールの回転数を1000rpm、接合速度を500〜1500mm/min、接合長さを150mmとした。接合は、473K処理材及び573K処理材の長手方向に対して行った。
【0038】
(接合材の観察)
接合後に接合部の外観観察を行い、接合断面の金属組織を観察した。接合断面の金属組織の観察は、接合材の接合線に対する垂直断面について行い、観察試験片は精密切断機によって切断後、研磨及び腐食処理を行って得た。観察は、光学顕微鏡を用いた。また、接合速度500,1000,1250mm/minの接合材に対して、この接合材の断面に対してビッカース硬さ試験を接合後に行った。測定面は、接合方向と垂直な面とし、接合中心部から板厚中心方向に水平方向に0.5mm間隔で片側10mmまで測定を行った。測定には、微小硬度試験機を用いて測定荷重1.96N、荷重保持時間10秒で行った。
【0039】
摩擦撹拌接合に用いた473K処理材及び573K処理材の金属組織を図6及び図7に示す。図6(A)及び図7(A)は、レーザ顕微鏡で金属組織のミクロ観察を行った結果であり、図6(B)及び図7(B)はTEMで析出物の状態を観察した結果である。473K処理材及び573K処理材の結晶粒は、図6(A)及び図7(A)に示すように、図5(A)に示す鋳造したままの素材と比べて微細であることが確認された。473K処理材及び573K処理材における結晶粒の大きさには大きな差が認められなかった。しかし、図6(B)及び図7(B)に示すように、析出物の大きさには処理温度の差が認められ、473K処理材の方が573K処理材よりも析出物の大きさが大きいことが確認された。
【0040】
図8に示すように、接合線には一般的な摩擦撹拌接合による接合材と同様に、回転ツールの回転痕跡が認められた。また、接合線の端部には、金属のバリの発生が認められたが、バリはブラシで除去できる状態のものであった。図8に示すように、いずれの接合速度の条件で接合した接合材の接合線も、図13に示すようなかじりは認められなかった。
【0041】
一般的に、摩擦撹拌接合の接合部の断面の金属組織には、摩擦撹拌層、塑性流動層及び熱影響層が認められ、摩擦撹拌層内に介在物が凝集した「オニオンリング」と呼ばれる介在物の凝集組織が認められる。図9に示すように、473K処理材の摩擦撹拌接合による接合部の断面を観察した結果、一般的な摩擦撹拌接合による接合材で見られる摩擦撹拌層、塑性流動層及び熱影響層が認められた。しかし、一般的な摩擦撹拌接合による接合材で見られるオニオンリングは認められず、図9に示すように組織変化がワイングラスのような形で接合上面に広がっている状態が認められた。また、摩擦撹拌接合では、回転ツールの回転運動の接線方向が接合方向と一致する場合に最も大きな速度成分となり、反対側では速度成分が最小値となる。ここで、最大速度成分を与える側を前進側(Advancing Side(AS側))と呼び、反対側を後退側(Retreating Side(RS側))と呼ぶ。被接合材の塑性流動は、この速度成分の影響を受け、形成される接合領域はAS側とRS側とで非対称な形状となるのが一般的である。473K処理材でも、AS側とRS側とでは接合領域が非対称であることが確認された。
【0042】
473K処理材を接合速度500mm/minで接合したときの接合部の断面のマクロ組織を観察すると良好な接合断面が認められた。しかし、473K処理材を接合速度750mm/minで接合したときの接合部の断面のマクロ組織を観察すると、図10に示すように界面部に欠陥が認められた。また、473K処理材を接合速度1000mm/min以上で摩擦撹拌接合を行った際に、接合層内に流動不良が認められた。一方、573K処理材を接合速度500mm/minで接合したときの断面のマクロ組織を観察すると、図11に示すように473K処理材に比べて欠陥の発生がなく、良好な接合断面が認められた。また、573K処理材を接合速度500mm/min以上1250mm/min以下で摩擦撹拌接合を行った際にも、欠陥の発生がなく、良好な接合断面が認められたが、573K処理材を接合速度1500mm/minで摩擦撹拌接合を行った際には欠陥が認められた。接合速度500mm/minの場合と接合速度1250mm/minの場合とで573K処理材を比較すると、接合部の断面に認められる熱影響部の幅は、接合速度500mm/minの場合には広いが、接合速度1250mm/minの場合には狭い状態であることが確認された。一方、撹拌部の幅は、接合速度1250mm/minの場合の方が接合速度500mm/minの場合よりも広く、接合部の断面の金属組織が接合速度の影響を受けることが確認された。
【0043】
(断面硬さ測定結果)
図12に示す縦軸は、ビッカース硬さ(Hv)であり、横軸は接合中心部からの距離(mm)である。図12には、回転ツールのショルダ径の外側及びプローブ径範囲を同時に示している。平均母材硬さは、473K処理材が113Hvであり、573K処理材が97Hvである。撹拌部の硬さは、母材の硬さに依存せずにほぼ同等の値を示すことが確認された。また、断面硬さ分布は、接合部を中心に上に凸の分布を示すことが確認された。図12に示すように、プローブ部の形状に相当する摩擦撹拌層を中心とする接合部のビッカース硬さが140〜160Hvであり、接合速度にかかわらず強度が向上されている。一般的な7075合金の摩擦撹拌接合による接合材の断面硬さ分布は、微細析出物が再固溶するために下に凸の分布を示す。しかし、473K処理材及び573K処理材の断面硬さ分布は、図12に示すように、結晶粒の微細化又は微細析出物の増加のため接合部の断面硬さ分布が接合部を中心に上に凸の分布を示し、接合部の硬さが増加することが確認された。
【0044】
以上より、粗大な析出物が存在する473K処理材では、空隙や流動不良の内部欠陥が認められたが、析出物が微細に分散した573K処理材では欠陥の発生が認められなかった。また、473K処理材及び573K処理材の断面硬さ分布が接合部で増加し、一般的な断面硬さ分布の傾向とは逆の傾向が認められた。さらに、析出物をナノ微細分散した後に完全再結晶化を行い、摩擦撹拌接合時に蓄熱性のあるセラミックスツールを用いることにより、高強度アルミニウム合金の摩擦撹拌接合による接合性を向上可能であることが確認された。
【0045】
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
この実施形態では、鉄道車両の構体2に接合材3を適用した場合を例に挙げて説明したが、自動車、船舶、航空機又は飛翔体などの他の交通輸送手段の構体についてもこの発明を適用することができる。また、この実施形態では、アルミニウム合金3aを突き合せた状態で摩擦撹拌接合する場合を例に挙げて説明したが、アルミニウム合金3aを重ね合せた状態で摩擦撹拌接合する場合についてもこの発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、プローブ部5aがねじ部5cを有し、ショルダ部5bがテーパ面を有する場合を例に挙げて説明したがこれに限定するものではない。例えば、プローブ部5aをテーパ状にしたりねじ部5cを省略したりショルダ部5bを水平面にしたりすることもできる。
【符号の説明】
【0046】
1 交通輸送手段(鉄道車両)
2 構体
3 接合材
3a アルミニウム合金(7000系アルミニウム合金)
3b 接合部
3c 接合面
3d 摩擦撹拌層
3e 塑性流動層
3f 熱影響層
4 溶接装置
5 回転ツール
5a プローブ部
5b ショルダ部
5c ねじ部
6 裏当て部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13