(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6153169
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】血管断面形状数値化装置
(51)【国際特許分類】
A61B 1/00 20060101AFI20170619BHJP
【FI】
A61B1/00 300D
A61B1/00 320Z
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-534534(P2013-534534)
(86)(22)【出願日】2011年9月21日
(86)【国際出願番号】JP2011071507
(87)【国際公開番号】WO2013042231
(87)【国際公開日】20130328
【審査請求日】2014年8月25日
【審判番号】不服2016-6181(P2016-6181/J1)
【審判請求日】2016年4月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】517172872
【氏名又は名称】那須 賢哉
(73)【特許権者】
【識別番号】517172883
【氏名又は名称】栗田 哲郎
(73)【特許権者】
【識別番号】517172894
【氏名又は名称】栗田 泰郎
(73)【特許権者】
【識別番号】517172908
【氏名又は名称】横田 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】那須 賢哉
(72)【発明者】
【氏名】栗田 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】栗田 泰郎
(72)【発明者】
【氏名】横田 大介
【合議体】
【審判長】
福島 浩司
【審判官】
田中 洋介
【審判官】
▲高▼見 重雄
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/039955(WO,A1)
【文献】
特表2012−505669(JP,A)
【文献】
村上大介 他、光干渉断層法(Optical Coherence Tomography;OCT)(IV)、日医大医会誌、2009年、Vol.5 No.3、pp.150−151
【文献】
村田隆茂 他、冠動脈ステント断面の形状と新生内膜増殖の関係について−血管内エコー法を用いた検討−、CIRCULATION JOURNAL、2001年、Vol.66 Suppl.II、p.977(146)
【文献】
Takashige Murata et al.、Impact of Cross−Sectional Geometry of the Post−Deployment Coronary Stent on In−Stent Neoinitimal Hyperplasia −An Intravascular Ultrasound Study−、Circulation Journal、2002年、Vol.66 No.5、pp.489−493
【文献】
Iwao Goto et al.、Morphological and Quantitative Analysis of Vascular Wall and Neointimal Hyperplasia After Coronary Stenting、Circulation Journal、2011年7月、pp.1633−1640
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00-1/32
JMEDPlus(JDreamIII)
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステントを血管の内腔に挿入した後の血管の断面形状において、血管の内腔の形状を数値化する血管断面形状数値化装置であって、
血球成分が内部に実質的に存在しない状態の血管の断面形状を表す画像における、前記血管の内膜と内腔との間の境界上の複数の座標を取得する座標取得手段によって取得された複数の座標に基づいて、前記内膜の形状を数値化する形状数値化手段を備え、
前記形状数値化手段は、最小自乗法を用いて前記複数の座標に最も適合する楕円を求める手段と、求めた楕円から楕円率を前記内膜の形状の扁平率として求める手段と、それぞれが前記楕円と各座標との間の距離である複数の残差のそれぞれの自乗の和に基づいて算出した値を前記内膜の形状の凸凹の程度を表す金平率として求める手段と、を備える血管断面形状数値化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステントを血管の内部に挿入した後の血管の内膜の断面形状において、血管の内膜の形状を数値化する血管断面形状数値化装置及びそれを用いた血管断面形状数値化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人体の血液の経路となる動脈系は、人体の恒常性を保持するために、また、血液の循環を保持するために、常に高い血圧にさらされている。そのため、動脈硬化や炎症などに起因して、血管に狭窄、閉塞病変を呈する。特に、心臓に酸素や栄養を供給している冠動脈に狭窄や閉塞を呈すると狭心症、心筋梗塞となり、心原性ショックや致死性不整脈などの原因となり致命的な疾患である。
【0003】
狭窄、閉塞病変の治療方法として、近年、主にステンレスの複数のステントストラットSTで構成された網状の筒の形をしたステントを用いた治療方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。具体的な治療の一例を挙げれば、
図1及び
図2に示すように、バルーンカテーテルに折りたたんだステントSをかぶせ、患者Mの心臓hの筋肉へ血液をおくり、酸素や栄養を供給する冠動脈のような血管150の狭くなった部分に挿入し、バルーンを拡張することによりステントSを血管150の内腔110内に留置させたまま、バルーンカテーテルを抜き取る。これにより、留置されたステントSは、血管150を内側から広げた状態で血管150内に固定されるので、ステントSが留置された血管150には、十分な内腔110が確保できるため、慢性期の再狭窄を減少させることができる。
【0004】
ステントを用いた治療を受けた患者は、ステントを血管内に留置してから1ヶ月以後、安定期に入るが、留置してから半年を経過すると、留置した血管の内膜層に新生内膜層が形成され、血管が再狭窄する場合がある。
【0005】
また、ステントには、金属ステントと金属ステントに薬剤を塗布した薬剤溶出ステント(細胞増殖促進作用、抗ガン剤含有などの機能性ステント)とがあり、金属ステントを用いた場合は、新生内膜により形成される血管内腔の形状は正円に近い状態を維持する傾向がある。一方、薬剤溶出ステントを用いた場合は、ステントを留置した後に、薬剤溶出ステントに塗布した薬剤の影響を受けて、血管の内膜の形状が凸凹状(金平糖の外周のような形状)になる場合がある。血管の内膜の形状が凸凹状になると、血管の内腔を流れる血液は乱流状態となり、血栓形成傾向を助長することがある。
【0006】
そこで、一般的に、ステントを留置後は、例えば、留置してから6ヶ月後に血管の造影を行ない、再狭窄が生じていないかなどの、ステントが留置された血管の評価をすることが好ましい。
そのような再狭窄が生じていないかを検査する装置として、近赤外線を用いた画像診断システム(OCT:Optical Coherence Tomography)がある。画像診断システムは、血管の内膜、中膜、外膜といった動脈の3層構造を詳細に観察することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】http://www.heart−center.or.jp/jp/heartbook.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ステントを用いた治療は新しく、様々な形状のステントや薬剤の種類が考案されており、ステントの形状や薬剤溶出ステントの薬剤の種類の研究をするにあたり、血管の内膜の形状を数値化することが重要となった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、ステントを血管の内腔に挿入した後の血管の断面形状において、血管の内膜の形状を数値化する血管断面形状数値化装置及びそれを用いた血管断面形状数値化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ステントを血管の内腔に挿入した後の血管の断面形状において、血管の内膜の形状を数値化する血管断面形状数値化装置である。血管断面形状数値化装置は、血球成分が内部に実質的に存在しない状態の血管の断面形状を表す画像における、前記血管の内膜と内腔との間の境界上の複数の座標を取得する座標取得手段によって取得された複数の座標に基づいて、前記内膜の形状を数値化する形状数値化手段と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ステントを血管の内腔に挿入した後の血管の断面形状において、血管の内膜の形状を数値化する血管断面形状数値化装置及びそれを用いた血管断面形状数値化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る血管断面形状数値化装置の概念図である。
【
図2】ステントを留置した状態の血管の一部破断図である。
【
図3】本発明に係る血管断面形状数値化装置を用いた血管断面形状数値化方法の手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図1に示した血管断面形状数値化装置に表示される血管の断面図である。
【
図5】
図4に示した血管の断面における血管の内膜の座標を表示した画面である。
【
図6】
図5に示した座標に近似する楕円を表示した画面である。
【
図7】
図1に示した血管断面形状数値化装置に表示される別の血管の断面図である。
【
図8】
図7に示した血管の断面における血管の内膜の座標を表示した画面である。
【
図9】
図8に示した座標に近似する楕円を表示した画面である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付した図面を参照して、本発明に係る血管断面形状数値化装置及びその方法を説明する。
図1に示すように、血管断面形状数値化装置10は、CPU20と、モニター30と、入力手段の一例であるマウス40とを備え、ステントSを血管150の内腔110に挿入した後の血管150の断面形状において、血管150の内膜120の形状を数値化する装置である。本実施形態では、血管断面形状数値化装置10は、一般的なパーソナルコンピュータ(登録商標)である。
CPU20は、血管断面形状数値化装置10の記憶手段(図示せず)に記憶された座標取得手段用プログラム及び形状数値化手段用プログラムによって、それぞれ、後述する座標取得手段及び形状数値化手段として機能する。本実施形態では、記憶手段に記憶されている座標取得手段用プログラムと形状数値化手段用プログラムとは別のプログラムで構成されているとして説明するが、これに限定されず、記憶手段に記憶された座標取得手段用プログラム及び形状数値化手段用プログラムを備えた座標取得・形状数値化手段用プログラムで構成されていてもよい。また、CPU20とは、別のCPUを血管断面形状数値化装置10の内部又は外部に備え、その別のCPUに座標取得手段用プログラムを実行させてもよい。
モニター30は一般的なディスプレイであり、CPU20から出力される画像信号に従って画像Gを表示させる。
マウス40は、一般的なポイント入力システムであり、モニター30によって表示された画像Gの座標を特定するために用いられる。
【0014】
画像診断システム200は、近赤外線などを発光し、血管の内部に挿入されるイメージワイヤー220と、プローブインターフェースユニット(PIU)と、システム本体230とを備える。システム本体230は、測定された画像を血管断面形状数値化装置10に出力する画像出力手段を備えている。画像出力手段は、USBメモリ、有線LAN、無線LANなどを介して測定された画像を血管断面形状数値化装置10に出力する。本実施形態では、システム本体230から血管断面形状数値化装置10に出力する画像出力手段は、有線ケーブル240を介して行われる。
【0015】
以下、
図1から
図9を参照して、血管断面形状数値化装置10の使用方法について説明する。
【0016】
まず、
図1及び
図2に示すように、医師は、イメージワイヤー220を、血管150の内腔110に挿入された筒状のステントSの内側に挿入する。このとき、血管150の血流は一時的に遮断され、また、血管150の内部にある血液は、乳酸加リンゲル液や生殖食塩水などで排除される。これにより、血球成分が血管150の内部に実質的に存在しない状態となる。
【0017】
次に、医師は、画像診断システム200を用いて、血管150の断面形状を撮影する。このとき、画像診断システム200によって撮影された撮像には、血管150の内膜120の断面形状及びステントSのステントストラットSTの断面形状が撮影されている。
【0018】
次に、医師は、画像診断システム200によって取得された撮像をモニター30に表示させるように、血管断面形状数値化装置10の操作部を操作する。
【0019】
図4に示すように、CPU20は、医師の操作部の操作に応じて、画像診断システム200によって撮影された撮像をモニター30に表示させる(表示工程:
図3のステップS11)。モニター30には、画像診断システム200によって撮影された撮像G1が表示され、撮像G1には、イメージワイヤー220と、動脈壁140とが撮影されており、動脈壁140には、内腔110と、血管150の内膜120と、血管150の内部に増殖された新生内膜130と、新生内膜130に埋設状態となったステントストラットSTとの断面形状が撮影されている。
【0020】
次に、医師は、モニター30に表示された撮像を見ながらマウス40を操作して、血管150の内膜120の位置、すなわち、血管150の内膜120と内腔110との間の境界上の位置を座標として入力する。CPU20は、医師のマウス40の操作に応じて、血管150の内膜120と内腔110との間の境界上の位置を座標として取得する(入力受付工程:
図3のステップS12)。したがって、CPU20は、血球成分が内部に実質的に存在しない状態の血管の断面形状を表す画像における、血管150と内膜120と内腔110との間の境界上の複数の座標を取得する座標取得手段として作用する。
【0021】
このようにして入力された座標は、
図5に示すように、モニター30の画面G11において、複数の座標P1として表示される。医師は、画面G11を見て、血管150の内膜120と内腔110との間の境界の形状が十分特定できる程度の数の座標が入力されたか否かを判断することができる。
【0022】
次に、医師は、入力された複数の座標P1に基づいて楕円の式、扁平率及び金平率をCPU20に計算させる操作を行う。
ここで、扁平率とは、得られた楕円が、円に比べてどれくらい扁平かを表す値であり、楕円の長半径をa、短半径をbとすると、1−(b/a)で表され、完全な円では扁平率が0になり、つぶれるに従って扁平率は1に近づく。また、簡易的に、扁平率を(b/a)で表すことがある(この場合、完全な円では扁平率が1になり、つぶれるに従って扁平率は0に近づく。)。
【0023】
また、金平率とは、求めた楕円Q1の式と、複数の座標のP1とを比較して、座標P1が楕円Q1の線上からどの程度外れているかを表す値(r
2)であ
る。これは、楕円と各座標との間の距
離の自乗の和
の残差に基づいて算出した値
であり、内膜120の形状の凸凹の程度を表す値である。
【0024】
CPU20は、医師の操作に応じて、入力された座標に基づいて楕円の式、扁平率及び金平率の計算を行う(楕円を求める工程、扁平率を求める工程及び金平率を求める工程:
図3のステップS13、S14、S15)。
【0025】
まず、CPU20は、入力された複数の座標に最も適合する楕円の式を最小自乗法にて求める。具体的には、まず、入力された座標の重心を求める。次に、その重心を原点にする極座標系に入力された座標を座標変換する。次に、楕円の式として、以下に示す媒介変数表示を用い、非線形最小自乗法により、楕円の式を決定する。
x=a・cosθcosφ−b・sinθsinφ
−x0、y=a・sinθcosφ−b・cosθsinφ
−y0
φ:媒介変数、θ:楕円の回転角、a、b:長半径、短半径、x0、y0:
楕円中心
【0026】
次に、CPU20は、算出した扁平率及び金平率をモニター30に表示させると共に、
図6に示すように、画面G12に、入力された座標P1と、得られた楕円の式に基づいて表示した楕円Q1とを表示させる。CPU20は、楕円Q1の形状がややつぶれた円の形状に近く、長半径と短半径との間に若干差があるので、扁平率(b/a)は、1から離れた値を算出する。また、CPU20は、複数の座標P1のいずれもが楕円Q1に接近しているので、高い値の金平率(高い値の金平率は凸凹形状ではないことを示す。)を算出する。このように、CPU20は、複数の座標P1に基づいて、内膜120の形状を数値化する形状数値化手段として作用する。
これにより、算出した扁平率及び金平率から、
図4に示す内膜120の形状は、ややつぶれた楕円形に近いが、なめらかな形状(凸凹形状ではない)であるといえる。
【0027】
また、画像診断システム200によって取得された撮像が
図7に示すように、内膜120が凸凹状である場合、モニター30には、以下のように表示される。
図7に示すように、モニター30には、画像診断システム200によって撮影された撮像G2が表示され、撮像G2には、凸凹状の内膜120の断面形状が撮影されている。
図8及び
図9に示すように、CPU20は、医師によって入力された複数の座標P2を表した画面G21をモニター30に表示させる(入力受付工程:
図3のステップS12)。
CPU20は、楕円Q2の形状は円の形状に近く、長半径と短半径との間にはほとんど差がないので、扁平率(b/a)は、1に近い値を算出する。また、CPU20は、複数の座標P2のうち楕円Q2に接近している座標と離れている座標とがあるので、低い値の金平率(低い値の金平率は凸凹形状が顕著なことを示す。)を算出する。これにより、算出した扁平率及び金平率から、
図7に示す内膜120の形状は、円形に近いが凸凹形状が顕著であるといえる。
【0028】
以上のように、血管断面形状数値化装置は、ステントを血管の内腔に挿入した後の血管の断面形状において、血管の内膜の形状を扁平率及び金平率をもって数値化することができる。
【0029】
なお、上記実施形態の説明では、CPU20は、血球成分が内部に実質的に存在しない状態の血管の断面形状を表す画像における、血管の内膜と内腔との間の境界上の複数の座標を取得する座標取得手段を備えるとして説明したが、座標取得手段は、CPU20以外の別のCPUを備えた装置(例えば、別の計算機)に備えられていてもよい。
【符号の説明】
【0030】
10 血管断面形状数値化装置
20 CPU
30 モニター
40 マウス
110 内腔
120 内膜
130 新生内膜
140 動脈壁
150 血管
200 画像診断システム
210 カテーテル
220 イメージワイヤー
230 システム本体
240 有線ケーブル