特許第6153192号(P6153192)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社フジタの特許一覧

<>
  • 特許6153192-土壌の浄化処理方法 図000002
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6153192
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】土壌の浄化処理方法
(51)【国際特許分類】
   B09C 1/02 20060101AFI20170619BHJP
   B09C 1/08 20060101ALI20170619BHJP
   B01D 19/04 20060101ALI20170619BHJP
【FI】
   B09B3/00 304K
   B01D19/04 AZAB
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-66461(P2013-66461)
(22)【出願日】2013年3月27日
(65)【公開番号】特開2014-188451(P2014-188451A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】大井 隆資
(72)【発明者】
【氏名】吉野 広司
【審査官】 増田 健司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−112160(JP,A)
【文献】 特開2010−234217(JP,A)
【文献】 特開2006−326551(JP,A)
【文献】 特開2005−185920(JP,A)
【文献】 米国特許第5896876(US,A)
【文献】 特開2011−507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09C 1/02
B01D 19/04
B09C 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
浄化処理槽に収容された有害物質を含む土壌の上方から比重が1.0の洗浄液を噴霧することにより前記有害物質を前記洗浄液中に溶出させ前記土壌から前記有害物質を除去する第1の工程と、
前記浄化処理槽の底部から回収され前記有害物質が溶出した前記洗浄液の一部を前記第1の工程に再び使用する第2の工程と、
前記浄化処理槽の底部から回収され前記有害物質が溶出した前記洗浄液の残りから前記有害物質を除去することにより前記洗浄液を再生して前記第1の工程に再び使用する第の工程と、
前記第1の工程により前記有害物質が除去され浄化された前記土壌を前記浄化処理槽から取り出す第の工程とを含む土壌の処理方法であって、
前記第1の工程で前記噴霧時に前記洗浄液から発生する気泡を消泡する比重が1.0以上1.1以下の消泡剤を用意し、
前記消泡剤を、前記土壌に噴霧される前の前記洗浄液に予め混合しておく、
ことを特徴とする土壌の処理方法。
【請求項2】
前記消泡剤は、シリコン系エマルジョン型である、
ことを特徴とする請求項1記載の土壌の処理方法。
【請求項3】
前記有害物質は有機砒素であり、
前記洗浄液は、アルコールおよび酸を主成分とする溶液で構成され
前記第3の工程による前記洗浄液の再生は、前記洗浄液から蒸留回収された前記アルコールと酸性溶液とを混合することでなされる、
ことを特徴とする請求項1または2記載の土壌の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は土壌の浄化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド工法により地山を掘削してトンネルを構築する際、地山の地層によっては自然由来の有害物質が混入している場合がある。例えば、土丹層においては自然由来の有機砒素が混入している場合がある。
有害物質が混入した地層の掘削土を再利用するにあたっては、土壌から有害物質を除去する浄化処理を行なう必要がある。
特許文献1には、このような土壌の処理方法として、有害物質が含まれた土壌に洗浄液を噴霧して土壌を浄化する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−119950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来技術では、洗浄液の噴霧時に洗浄液から大量の気泡が発生することから、土壌の洗浄を効率よく行なう上で改善の余地がある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、洗浄液の噴霧時に洗浄液から発生する気泡を効率よく消泡することにより土壌の浄化処理の効率化を図る上で有利な土壌の浄化処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、浄化処理槽に収容された有害物質を含む土壌の上方から比重が1.0の洗浄液を噴霧することにより前記有害物質を前記洗浄液中に溶出させ前記土壌から前記有害物質を除去する第1の工程と、前記浄化処理槽の底部から回収され前記有害物質が溶出した前記洗浄液の一部を前記第1の工程に再び使用する第2の工程と、前記浄化処理槽の底部から回収され前記有害物質が溶出した前記洗浄液の残りから前記有害物質を除去することにより前記洗浄液を再生して前記第1の工程に再び使用する第の工程と、前記第1の工程により前記有害物質が除去され浄化された前記土壌を前記浄化処理槽から取り出す第の工程とを含む土壌の処理方法であって、前記第1の工程で前記噴霧時に前記洗浄液から発生する気泡を消泡する比重が1.0以上1.1以下の消泡剤を用意し、前記消泡剤を、前記土壌に噴霧される前の前記洗浄液に予め混合しておくことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
浄化処理槽に収容された有害物質を含む土壌の上方から洗浄液を噴霧するにあたって土壌に噴霧される前の洗浄液に消泡剤を予め混合するようにした。
そのため、噴霧時に洗浄液から発生する気泡を効率よく消泡することにより土壌の洗浄を効率的に行なう上で有利となり、土壌の洗浄処理の効率化を図る上で有利となる。
また、消泡剤の比重を1.0以上1.1以下の範囲内としたので、洗浄液と消泡剤とを混じりやすくすることができ、洗浄液と消泡剤とを効率良く混合して噴霧時の消泡を促進する上でより有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施の形態の土壌の浄化処理方法が適用された土壌処理設備の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に本発明の実施の形態の土壌の浄化処理方法について図1を参照して説明する。
本実施の形態では、本発明方法がトンネルの施工現場から排出される掘削土を処理する土壌処理設備10に適用された場合に説明する。
土壌処理設備10は、トンネルの外側に設置されている。
土壌処理設備10は、トンネル内から移送された掘削土から有害物質を除去して浄化土壌とするものである。本実施の形態では、有害物質が有機砒素である場合について説明する。
【0009】
本実施の形態では、土壌処理設備10は、洗浄液槽12、浄化処理槽14、蒸溜槽16、廃棄物槽18、冷却器20、アルコール回収槽22、酸性溶液槽24、消泡剤槽26を含んで構成されている。なお、土壌処理設備10は、実施の形態に限定されるものではなく、従来公知の様々な構成が使用可能である。
【0010】
洗浄液槽12は、洗浄液4を収容するものである。
洗浄液4は、有害物質としての有機砒素を土壌から溶出させるものである。
本実施の形態では、洗浄液4は、アルコールおよび酸を主成分とする溶液であり、水と、酸性溶液と、アルコールとを混合したものであり、比重はほぼ1.0である。
なお、本実施の形態では、有害物質が有機砒素である場合について説明するが、本発明は、有害物質が有機砒素以外の物質であっても無論適用可能であり、その場合は、洗浄液として土壌から有害物質を溶出させることができるものを用いればよい。
図中、符号1202は洗浄液4を混合撹拌する撹拌羽根、符号1204は洗浄液槽12と浄化処理槽14とを接続する管路、符号1206は管路1204を介して洗浄液槽12から洗浄液4を浄化処理槽14に移送するポンプを示す。
【0011】
浄化処理槽14は、有害物質を含む土壌(汚染土壌)2を収容するものである。
浄化処理槽14の内部には、洗浄液槽12から管路1204を介して移送された洗浄液4を浄化処理槽14に収容された土壌2の上方に噴霧する複数のノズル1402が配設されている。
浄化処理槽14の底部には、土壌2を洗浄した後の洗浄液4を通過させ、土壌2の流出を阻止するフィルタ1404が設けられている。
また、浄化処理槽14には、有害物質を含む土壌2を投入し、また、浄化された土壌2Aを排出する不図示の開口が設けられている。
なお、土壌2の浄化処理槽14への投入は、バックホウなどの重機50やベルトコンベヤ52を用いて行なわれる。また、浄化された土壌2Aの浄化処理槽14からの搬出は、ベルトコンベヤ54を用いて行なわれる。
図中、符号1406は浄化処理槽14の底部と、前記の管路1204の中間箇所とを接続する管路、符号1408は管路1406を介して浄化処理槽14の底部から排出された洗浄液4を管路1204に移送するポンプ、符号1410は、管路1406の中間箇所と蒸溜槽16とを接続する管路を示す。
【0012】
蒸溜槽16は、管路1410を介して移送された洗浄液4を不図示のヒータなどの加熱手段により加熱することで洗浄液4に含まれるアルコールを気化させて洗浄液4からアルコールを除去すると共に、有害物質を含む液体である廃棄物を残留させるものである。
図中、符号1602は蒸溜槽16の底部と廃棄物槽18とを接続する管路、符号1604は蒸溜槽16の上部とアルコール回収槽22とを接続する管路を示す。
【0013】
廃棄物槽18は、管路1602を介して蒸溜槽16に残留した廃棄物を回収するものである。
【0014】
冷却器20は、管路1604の中間箇所に設けられており、蒸溜槽16により気化されたアルコールを冷却して液化するものである。
【0015】
アルコール回収槽22は、冷却器20で液化されたアルコールを回収するものである。
図中、符号2202はアルコール回収槽22と洗浄液槽12とを接続する管路、符号2204は管路2202を介してアルコール回収槽22から洗浄液槽12にアルコールを移送するポンプを示す。
【0016】
酸性溶液槽24は、洗浄液4の一部を構成する酸性溶液を収容するものである。
図中、符号2402は酸性溶液槽24と管路2202の中間箇所とを接続する管路、符号2404は、管路2402を介して酸性溶液槽24から洗浄液槽12に酸性溶液を移送するポンプを示す。
【0017】
消泡剤槽26は、浄化処理槽14において洗浄液4の噴霧時に洗浄液4から発生する気泡を消泡する消泡剤6を収容するものである。
図中、符号2602は消泡剤槽26と管路1204の中間箇所とを接続する管路、符号2604は、管路2602を介して消泡剤槽26から管路1204の中間箇所を流れる洗浄液4に消泡剤6を注入して混合するポンプを示す。
消泡剤6は、洗浄液4中の気泡の薄膜の安定性を阻害し泡の生成を不可能(消泡)とするものである。
なお、本明細書において、消泡剤6は、抑泡剤、脱泡剤、破泡剤を含むものとする。
このような消泡剤6として、シリコン系エマルジョン型消泡剤、あるいは、鉱物油系オイル型消泡剤など、従来公知のさまざまな消泡剤が使用可能である。
また、洗浄液4と消泡剤6との比重が近いほど互いに混じりやすいため、消泡剤6の比重が洗浄液4の比重(ほぼ1.0)に近いことが洗浄液4中の消泡を促進する上でより有利となる。
そこで、本実施の形態では、後述する実験結果に基づいて、消泡剤6の比重を1.0以上1.1以下とした。
消泡剤6の比重が1.0以上1.1以下の範囲内であると、洗浄液4と消泡剤6とを混じりやすくすることができ、洗浄液4と消泡剤6とを効率良く混合して洗浄液4中の消泡を促進する上でより有利となる。
消泡剤6の比重が1.0を下回ると、洗浄液4に注入された消泡剤6が洗浄液4に対して浮き上がやすくなり、洗浄液4と消泡剤6とを混じりやすくする上で不利となる。また、消泡剤6の比重が1.1を上回ると、洗浄液4に注入された消泡剤6が洗浄液4に対して沈みやすくなり、洗浄液4と消泡剤6とを混じりやすくする上で不利となる。したがって、何れの場合も、消泡剤6の比重が1.0以上1.1以下の範囲内である場合に比較して洗浄液4と消泡剤6とを効率良く混合しがたく、洗浄液4中の消泡を促進する効果が少ない。
【0018】
次に、土壌処理設備10による土壌2の浄化処理の工程について説明する。
まず、浄化処理槽14に有害物質を含む土壌2(掘削土)を投入する。
次に、ポンプ1204を動作させて洗浄液槽12の洗浄液4を管路1204を介してノズル1402に移送し、ノズル1402により浄化処理槽14の土壌2の上方から洗浄液4を噴霧する。
この際、洗浄液槽12から移送されノズル1402から土壌2に噴霧される洗浄液4は、管路1204の中間箇所において、消泡剤槽26から移送される消泡剤6が予め混合されたものとなっている。
土壌2に噴霧された洗浄液4は、土壌2に含まれる有害物質を溶出し土壌2から有害物質を除去する(第1の工程)。
【0019】
有害物質が溶出した洗浄液4は、フィルタ1404を通過したのち浄化処理槽14の底部から回収され、回収された洗浄液4の一部は、管路1406を介して再びノズル1402から土壌2の上方に噴霧される。
また、浄化処理槽14の底部から回収された洗浄液4の残りは、蒸溜槽16に移送されると共に、アルコールが気化されて除去され、残りの洗浄液4が廃棄物として蒸溜槽16に残留する。
残留した廃棄物は、廃棄物槽18に回収される。
一方、蒸溜槽16で気化されたアルコールは、冷却器20により冷却されて液化されアルコール回収槽22に回収される。アルコール回収槽22に回収されたアルコールは、洗浄液槽12に移送され、酸性溶液槽24から移送される酸性溶液と共に、洗浄液槽12で混合される。
すなわち、有害物質が溶出した洗浄液4から蒸溜回収したアルコールを洗浄液4の一部として再利用することにより、洗浄液4を再生して第1の工程に再び使用する(第2の工程)。
洗浄液4により有害物質が除去され浄化された土壌2Aは、浄化処理槽14から取り出され、浄化土壌として処理場に運搬され、所定の処理が施された後、再利用される(第3の工程)。
【0020】
本実施の形態によれば、浄化処理槽14に収容された有害物質を含む土壌2の上方から洗浄液4を噴霧することにより有害物質を洗浄液4中に溶出させ土壌2から有害物質を除去するにあたって、噴霧時に洗浄液4から発生する気泡を消泡する比重が1.0以上1.1以下の消泡剤6を用意し、消泡剤6を、土壌2に噴霧される前の洗浄液4に予め混合するようにした。
そのため、噴霧時に洗浄液4から発生する気泡を効率よく消泡することにより土壌2の洗浄を効率的に行なう上で有利となり、土壌2の洗浄処理の効率化を図る上で有利となる。
そして、消泡剤6の比重を1.0以上1.1以下の範囲内としたので、洗浄液4と消泡剤6とを混じりやすくすることができ、洗浄液4と消泡剤6とを効率良く混合して噴霧時の消泡を促進する上でより有利となる。
【0021】
次に、消泡剤6と洗浄液4との混じりやすさに関する実験について説明する。
実験条件は以下の通りである。
消泡剤6は、シリコン系エマルジョン型消泡剤6と、鉱物油系オイル型消泡剤6との2種類とし、消泡剤6毎に比重を0.8、1.0、1.1、1.3の4段階に変えたものを用意した。
同量の消泡剤6と洗浄液4とを用意して混合した。
混じりやすさの評価は、シリコン系エマルジョン型消泡剤6の比重1.0の場合の混合度合いを100とする指数で評価した。
シリコン系エマルジョン型消泡剤6と、鉱物油系消泡剤6との何れの場合においても、比重が1.0以上1.1以下の範囲内のものが混じりやすいと評価され、1.0以上1.1以下の範囲外のものは混じり難いと評価された。
したがって、消泡剤6の比重を1.0以上1.1以下の範囲内とすることで、洗浄液4と消泡剤6とを混じりやすくすることができ、洗浄液4と消泡剤6とを効率良く混合して噴霧時の消泡を促進する上でより有利となることが明らかとなった。
また、シリコン系エマルジョン型消泡剤6の方が鉱物油系消泡剤6よりも洗浄液4と混じりやすいと評価された。
なお、シリコン系エマルジョン型消泡剤6は、鉱物油系消泡剤6に比較して周辺環境に与える汚染などの影響が少ないという点でも有利である。
【0022】
なお、実施の形態では、トンネル施工時に発生する土壌の浄化処理について説明したが、本発明方法は、トンネル施工時以外に発生する土壌の浄化処理に広く適用可能であることは無論である。
【符号の説明】
【0023】
2……土壌、2A……浄化された土壌、4……洗浄液、6……消泡剤、10……土壌処理設備、12……洗浄液槽、14……浄化処理槽、1402……ノズル、16……蒸溜槽、18……廃棄物槽、20……冷却器、22……アルコール回収槽、24……酸性溶液槽、26……消泡剤槽。
図1