特許第6153209号(P6153209)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6153209
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】エゼチミブ及びその中間体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 205/08 20060101AFI20170619BHJP
   C07D 263/26 20060101ALI20170619BHJP
   A61K 31/397 20060101ALN20170619BHJP
   A61P 3/06 20060101ALN20170619BHJP
【FI】
   C07D205/08 102
   C07D263/26CSP
   !A61K31/397
   !A61P3/06
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-201131(P2015-201131)
(22)【出願日】2015年10月9日
(65)【公開番号】特開2016-147843(P2016-147843A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2015年10月9日
(31)【優先権主張番号】201510083806.6
(32)【優先日】2015年2月15日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】515282131
【氏名又は名称】和鼎(南京)医薬技術有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100142804
【弁理士】
【氏名又は名称】大上 寛
(72)【発明者】
【氏名】李文森
【審査官】 伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第06207822(US,B1)
【文献】 中国特許出願公開第101845010(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第103864708(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第102850390(CN,A)
【文献】 国際公開第2010/113175(WO,A1)
【文献】 DATABASE CAPLUS ON STN, AN 2013:420725, DN 159:259959, YU, C.-G., ET AL., NEW SYNTHESIS PROCESS FOR THE SYNTHESIS OF EZETIMIBE, GAOXIAO HUAXUE GONGCHENG XUEBAO, 2012, 26(6), 1014-1019
【文献】 PETER G. M. WUTS,GREENE'S PROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS, FIFTH EDITION,JOHN WILEY & SONS, INC.,2014年,PP.90-91
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エゼチミブの製造方法であって、前記方法は以下の反応ステップを含む。
(1)化合物SM1と化合物SM2とを反応させ式IIIに示す化合物を得るステップ;
【化17】

(2)式IIIに示す化合物をフッ化テトラブチルアンモニウム三水和物(TBAF)を使用して環化して化合物M1を得て、保護基R2を脱離して化合物M2を得るステップ;
【化18】


ここで、
保護基R1は、保護基R2と異なる保護基のベンジル基であり;
保護基R2は、以下の式(IV)に示すエーテル保護基であって、R3及びR4はメチル基である。
【化20】

(3)化合物M2の保護基R1を脱離して以下式(I)のエゼチミブを得るステップ。
【化24】
【請求項2】
化合物SM2は以下の式(II)に示す化合物とp−フルオロアニリンとを反応して得られることを特徴とする請求項1に記載のエゼチミブの製造方法。
【化21】

ここで、R1はベンジル基である。
【請求項3】
前記式(II)に示す化合物はヒドロキシベンズアルデヒドと塩化ベンジルとを反応して得られたことを特徴とする請求項2に記載のエゼチミブの製造方法。
【化22】

ここで、R1はベンジル基である。
【請求項4】
請求項1又は請求項2のエゼチミブの化合物中間体であって、以下の化合物M3で示される化合物中間体。
【化23】
【請求項5】
エゼチミブの製造中に用いることを特徴とする、請求項4に記載の化合物中間体。
【請求項6】
以下の式(III’)に示す化合物と、2−メトキシプロペンを反応させて化合物M3を製造する、
ことを特徴とする、請求項4に記載の化合物中間体の製造方法。
【化23】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薬物合成に関し、具体的にはコレステロール低下薬であるエゼチミブ(Ezetimibe)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エゼチミブの英語名は、Ezetimibeであり、又はエゼチミベと呼ばれ、シェリング・プラウ社とメルク社によって共同開発された初めてのコレステロール選択性の吸収阻害剤であり、且つ初めて米国FDAに許可されて流通したコレステロール選択性の吸収阻害剤類薬物である。エゼチミブの化学構成を式(I)に示す。
【化1】
【0003】
シェリング・プラウ社とメルク社の製造方法の特許US 6207822B1において、その合成経路は以下の通りである。即ち、
【化2】
【0004】
ここで、中間体は以下の二つがある。即ち、
【化3】
【0005】
プロセスの内容は004と001とを混合した後、トリメチルクロロシラン(TMSCl)とジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を加え、中間体006と007を生成し、さらにTiClを用いて低温下で反応させて005オクタデシルトリメトキシシラン(OTMS)を生成したが、反応処理後、005中の大量のトリメチルシリル(TMS)は脱離してしまう。従って、過量のビストリメチルシリルアセトアミド(Bistrimethylsilylacetamide、BSA)をさらに加えて、脱離したトリメチルシリル(TMS)を再び補充することで純粋な固体の005が得られるが、005は貯蔵し難く、空気下で、トリメチルシリル(TMS)が徐々に脱離してしまうので、次のステップの環化の際、さらにビストリメチルシリルアセトアミド(BSA)を追加する必要がある。このような繰り返しの処理は製造工程が複雑となり、大規模な薬品製造に非常に不利であり、操作がより困難となり、製造コストが大幅に増加してしまう。従って、安定且つ脱離し易く、また安価な保護基を用いて中間体を保護する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】(特になし)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術に存在する問題を解決するため、本発明はエゼチミブの製造方法を提供するものであり、この製造方法は以下の反応ステップを含む。即ち、
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)化合物SM1と化合物SM2とを反応させ式IIIに示す化合物を得る;
【化4】
(2)式IIIに示す化合物が環化することによって式M1に示す化合物が得られ、そして、保護基Rが脱離してM2に示す化合物が得られる;
【化5】
(3)M2に示す化合物の保護基Rが脱離してエゼチミブが得られる。
【化6】
ここで、Rはベンジル基、置換ベンジル基、アリール基のうち何れか一種が選ばれる;Rは、シリルエーテル保護基、又は、式IVに示すエーテル保護基である。
【化7】
【0009】
さらに、Rはトリメチルシリル(TMS)基、tert−ブチルジメチルシリル(TBS)基、トリエチルシリル(TES)基、2−メトキシプロペン基のうちの何れか一種が選ばれる。
【0010】
さらに、Rはベンジル基、Rはトリメチルシリル(TMS)基である。
【0011】
またさらに、化合物SM2は式IIに示す化合物とp−フルオロアニリンとを反応して得られる。
【化8】
ここで、Rはベンジル基である。
【0012】
さらに、式IIに示す化合物はヒドロキシベンズアルデヒドと塩化ベンジルとを反応して得られる。
【化9】
ここで、Rはベンジル基である。
【発明の効果】
【0013】
特許US7207822では、化合物001と化合物004とを反応することによって化合物005を生成するステップの収率は65%であり、化合物005から化合物003を生成するステップ(即ち、環化反応ステップ)の収率は90%である。この二つのステップに使用された反応物ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)とビストリメチルシリルアセトアミド(BSA)は価格が高く、且つトリメチルシリル(TMS)の不安定さによって製造過程においてビストリメチルシリルアセトアミド(BSA)を繰り返し追加する必要がある。しかし、本発明に記載されたエゼチミブの製造方法の利点は以下の通りである。即ち、エゼチミブの製造過程において、中間体のフェノール性水酸基が常にベンジル基に保護され、中間体の安定性を向上させる。また、製造過程において、ビストリメチルシリルアセトアミド(BSA)を追加して水酸基を保護する必要がなく、プロセス操作を大幅に簡略化した。シリル保護基について、ベンジル基の導入によって、プロセスをさらに制御することができる。また、ベンジル保護基は安価な保護基であり、本発明の製造方法は、著しく製造コストを低減することができ、大量に薬品を製造するにあたって非常に重要である。製造において、著しくプロセス操作を簡略化にすることができ、非常に高い経済的価値を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1a】(a)は4−ベンジルオキシベンズアルデヒドの液体クロマトグラム。
図1b】(b)は4−ベンジルオキシベンズアルデヒドのHNMRスペクトル。
図2a】(a)は化合物SM2の液体クロマトグラム。
図2b】(b)は化合物SM2のHNMRスペクトル。
図3a】(a)は式(III)に示す化合物の液体クロマトグラム。
図3b】(b)は式(III)に示す化合物のHNMRスペクトル。
図4a】(a)は化合物M2の液体クロマトグラム。
図4b】(b)は化合物M2のHNMRスペクトル。
図5a】(a)は本発明の製造方法によって得られたエゼチミブの化学純度の液体クロマトグラム。
図5b】(b)は本発明の製造方法によって得られたエゼチミブのキラル純度の液体クロマトグラム。
図5c】(c)は本発明の製造方法によって得られたエゼチミブのHNMRスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施例1 4−ベンジルオキシベンズアルデヒドの製造
【化10】
5Lの四口フラスコを用意し、撹拌装置を取り付け、p−ヒドロキシベンズアルデヒド(100g,1eq)、塩化ベンジル(124.4g,1.2eq)、炭酸カリウム(135.81g,1.2eq)、N,N−ジメチルホルムアミド(1000ml,10V)を加え、室温で一晩撹拌し、反応完了まで監視する。濾過、濃縮を行って、酢酸エチル(1000ml)、水(400ml)を加え、抽出、分液を行い、濾過、濃縮、乾燥して白い固体が得られ、収率が約97%であり、純度>99%である。
【0016】
実施例2 化合物SM2の製造
【化11】
2Lの三口フラスコを用意し、原料(173.7g,1eq)、p−フルオロアニリン(100g,1.1eq)、イソプロパノール(1730ml,10V)を加え、機械撹拌しながら40℃に加熱し、大量の浅黄色の結晶状の固体が徐々に析出し、40℃で2時間撹拌し、反応完了まで監視する。加熱を停止し、撹拌しながら自然に室温まで降温し、抽出、濾過を行って、冷たいイソプロパノールを用いて濾過ケークを洗い落とし、乾燥した後、浅黄色結晶体SM2が得られ、質量が238gであり、収率が95%であり、純度が99%である。
【0017】
実施例3 式(III)に示す化合物(トリメチルシリル保護基とベンジル保護基)の製造
【化12】
2Lの三口フラスコを用意し、機械撹拌し、窒素ガスの保護の下で、SM2(64.1g,1.5eq)、SM1(50g,1.0eq)、ジクロロメタン(500ml,10V)を加え、低温槽に放置し、撹拌しながら−5℃に降温させ、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)(45.3g,2.5eq)の滴下を開始し、溶液を徐々に澄清にする。クロロトリメチルシラン(TMSCl)(22.8g,1.5eq)をゆっくり滴下し、内部温度を−5℃から5℃までの間を保持し、撹拌しながら2−3時間反応させ、反応完了まで監視する。−30℃から−40℃まで降温し続け、TiCl(29.2g,1.1eq)を滴下し、滴下を完了した後、そのままの温度を保持しながら1時間反応させ、反応完了まで液体クロマトグラフィーで監視する。そのままの温度の下で、ジクロロメタン(350ml/350ml)を滴下し、放熱して温度を−30℃以下に制御し、2時間撹拌して、さらにNaHSO(250ml)溶液を加え、撹拌しながら2時間反応させ、分液を行い、水相をジクロロメタン(250ml)で一回抽出し、有機相を合わせて,無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過、濃縮を行う。
前記濃縮物にジクロロメタン(150ml)を加え、ビストリメチルシリルアセトアミド(BSA)(36.94g,1.3eq)を加え、50℃に加熱し1時間回流させ、反応完了まで薄層クロマトグラフィー(TLC)で監視する。反応液を濃縮、乾燥して、無水エタノール(300ml)を加え、室温で1時間撹拌、洗浄して、抽出、濾過を行い、乾燥して式(III)のオフホワイトの固体(93g)が得られ、収率は93%であり、純度は99%である。
【0018】
実施例4 化合物M2の製造
【化13】
500mlの三口フラスコを用意し、SM(20.0g,1eq)、フッ化テトラブチルアンモニウム三水和物(TBAF.3HO)(0.1g,1%)、ビストリメチルシリルアセトアミド(BSA)(6.8g,1.2eq)及びメチル・ターシャリー・ブチル・エーテル(MTBE)(200ml,10V)を加え、25℃まで加熱し、原料の反応完了まで監視する。
後処理は以下の通りである。即ち、酢酸(0.65eq)を加えて撹拌し、減圧下で乾燥まで脱溶媒を行って、M1が得られ、M1の残留物にイソプロパノール(5V)を加え、2Nの硫酸(0.5V)と室温で酸化を行い、原料の反応完了まで監視する。水洗、乾燥、脱溶媒を行って油状物が得られ、油状物をn−ヘキサン(360ml,18V)で一晩撹拌して固液分離され、抽出、濾過してM2の固体(16g)が得られ、収率は96%である。
【0019】
実施例5 エゼチミブの製造
【化14】
250mlの三口フラスコに、M2(12.9g)、メタノール(129ml,10V)、Pd/C(0.06g,5%)を加え、室温の下で、気球を用いて水素を入れて原料がなくなるまで水素化を行い、減圧下で脱溶媒を行い、イソプロパノールを加え、結晶析出して、固体P(エゼチミブ)が7.7g得られる。収率は90%であり、化学純度は99%であり、キラル純度は99%である。
【0020】
実施例6 式(III’)に示す化合物(2−メトキシプロペン保護基とベンジル保護基)の製造
第一ステップ:カップリング反応
【化15】
1Lの三口フラスコを用意し、機械撹拌し、窒素ガスの保護の下で、SM2(45.8g,1.5eq)、SM1(35.7g,1.0eq)、ジクロロメタン(357ml,10V)を加え、低温槽に放置し、撹拌しながら−5℃まで降温させ、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)(32.5g,2.5eq)の滴下を開始し、溶液を徐々に澄清にする。撹拌しながら2時間反応させ、反応完了まで監視し、−30℃まで続けて降温し、TiCl(20.9g,1.1eq)を滴下し、滴下を完了した後、そのままの温度を保持して2時間反応させ、反応完了まで液体クロマトグラフィーで監視する。そのままの温度でジクロロメタン(200ml)を滴下し、放熱して温度を−30℃以下に制御し、2時間撹拌して、さらにNaHSO(150ml)溶液を加え、撹拌しながら2時間反応させ、分液を行い、水相をジクロロメタン(150ml)で一回抽出させ、有機相を合わせて、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過、濃縮を行う。
上記濃縮物にジクロロメタン(100ml)を加え、ビストリメチルシリルアセトアミド(BSA)(26.4g,1.3eq)を加え、50℃に加熱し1時間回流させ、反応完了まで薄層クロマトグラフィー(TLC)で監視する。反応液を濃縮、乾燥して、無水エタノール(200ml)を加え、室温で1時間撹拌し、抽出、濾過し、乾燥して式(III’)のオフホワイトの固体(62.3g)が得られ、収率は94%であり、純度は99%である。
第二ステップ:水酸基の保護
【化16】
三口フラスコに、化合物(III’)(2.0g,1eq)、2−メトキシプロペン(0.8g,3.5eq)、p−トルエンスルホン酸ピリジニウム(0.1g,5%)、及びジクロロメタン(DCM)(20ml,10V)を加え、窒素ガスの保護の下で、内部温度20〜25℃の下で反応させ、反応液が澄清になり、原料の反応完了まで薄層クロマトグラフィー(TLC)で監視する。炭酸水素ナトリウム溶液を加え、洗浄し、有機層を炭酸ナトリウムで乾燥させ、乾燥するまで脱溶媒を行って、油状物(2.0g)が得られ,収率は90%である。後続のエゼチミブの製造のステップは実施例4と実施例5と同じである。
図1a
図1b
図2a
図2b
図3a
図3b
図4a
図4b
図5a
図5b
図5c