【文献】
Alzheimer's and Dementia,2011年,Vol.7,No.4 Supp.1,p.S118,No.P1-022
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明の概要
本発明の目的は、ALSの予防および/または治療剤を提供すること、ならびにALSの予防および/または治療に有用な薬剤(以下、ALSの予防および/または治療薬という場合がある。)のスクリーニング方法を提供することである。したがって、本発明の課題は、ALSの予防および/または治療薬をスクリーニングするのに有用な新規指標およびALSに特異的な現象をin vitroで再現する手法を見出すこと、ならびに当該指標および再現手法を用いたスクリーニング系を利用して、ALSの予防および/または治療薬を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、ALS患者の線維芽細胞からiPS細胞を樹立し、運動神経細胞(MNs)へ分化誘導を行い、ALS患者由来の運動神経細胞と健常者由来の運動神経細胞とを比較して、発現量が異なる遺伝子を見出した。さらに、誘導した運動神経細胞へ亜ヒ酸塩(arsenite)を添加することによりALSに特異的な現象をin vitroで引き起こすことができることを見出した。さらに、これらの指標を用いて、アナカルジン酸誘導体がALSの予防または治療薬となり得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]アナカルジン酸誘導体を含有する筋萎縮性側索硬化症の予防および/または治療剤。
[2]筋萎縮性側索硬化症が、孤発性筋萎縮性側索硬化症である、[1]に記載の剤。
[3]筋萎縮性側索硬化症が、TDP-43の変異を伴う、[1]に記載の剤。
[4]筋萎縮性側索硬化症の予防および/または治療薬をスクリーニングする方法であって、以下の工程を含む方法:
(1)筋萎縮性側索硬化症のiPS細胞から分化させた神経細胞と試験化合物を接触させる工程、
(2)当該神経細胞中の、界面活性剤溶液に不溶性であるTDP-43のタンパク質量を測定する工程、および
(3)試験化合物と接触させなかった対照と比較して、当該不溶性TDP-43のタンパク質量を減少させる試験化合物を、筋萎縮性側索硬化症の予防および/または治療薬の候補として選択する工程。
[5]工程(1)で得られた神経細胞を亜ヒ酸塩と接触させる工程をさらに含む、[4]に記載の方法。
[6]界面活性剤溶液が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル含有水溶液である、[4]に記載の方法。
[7]筋萎縮性側索硬化症の予防および/または治療薬をスクリーニングする方法であって、以下の工程を含む方法:
(1)筋萎縮性側索硬化症のiPS細胞から分化させた神経細胞と試験化合物を接触させる工程、
(2)当該神経細胞における細胞骨格関連遺伝子の発現量を測定する工程、および
(3)試験化合物と接触させなかった対照と比較して、当該細胞骨格関連遺伝子の発現量を増加させる試験化合物を、筋萎縮性側索硬化症の予防および/または治療薬の候補として選択する工程。
[8]細胞骨格関連遺伝子が、SYNC、NEFL、MAP1LC3A、SGCA、TNNT2、KLHL5、TUBBP5、INA、MYL6B、STK38L、APP、KRT6B、DRG1、KRT19、TUBB4Q、SNCA、KIF5C、TUBB2C、KRT18、DCX、FEZ1、PDLIM1、NEFM、TNNT1、ACTN1、AKAP12、MAP1LC3B2、TUBB4およびPRPHからなる群より選択される少なくとも一つの遺伝子である、[7]に記載の方法。
[9]筋萎縮性側索硬化症の予防および/または治療薬をスクリーニングする方法であって、以下の工程を含む方法:
(1)筋萎縮性側索硬化症のiPS細胞から分化させた神経細胞と試験化合物を接触させる工程、
(2)当該神経細胞におけるRNA結合遺伝子またはRNAスプライシング関連遺伝子の発現量を測定する工程、および
(3)試験化合物と接触させなかった対照と比較して、当該RNA結合遺伝子またはRNAスプライシング関連遺伝子の発現量を減少させる試験化合物を、筋萎縮性側索硬化症の予防および/または治療薬の候補として選択する工程。
[10]RNA結合遺伝子またはRNAスプライシング関連遺伝子が、TRPS1、FUS、NUP107、EIF2S1、LSG1、KPNA4、XPO1、NOP58、RANBP2、TDP-43、SNUPN、IPO5、RBPMS、RAE1、KPNA2、G3BP1、TNPO1、IPO9、XPO6、IPO11、IPO7、XPOT、TIA1、SNRPB2、SNRPE、PRPF38A、PRPF3、SFRS7、SF3A3、RBM39、SFRS12、DHX15、PRPF4B、SF3B3、RBM28、SNRPF、SNRNP48、LSM3、SC35、TRA2B、HNRNPR、HNRNPM、SNW1、SNRPD1、SNRNP200、RBM22、SFRS1、PPP1R8、PRPF18およびU2AF1からなる群より選択される少なくとも一つの遺伝子である、[9]に記載の方法。
[11]筋萎縮性側索硬化症の予防および/または治療薬をスクリーニングする方法であって、以下の工程を含む方法:
(1)TDP-43断片を導入した、筋萎縮性側索硬化症のiPS細胞から分化させた神経細胞と試験化合物を接触させる工程、
(2)当該TDP-43断片の凝集体数を計測する工程、および
(3)試験化合物と接触させなかった対照と比較して、当該凝集体数を減少させる試験化合物を、筋萎縮性側索硬化症の予防および/または治療薬の候補として選択する工程。
[12]TDP-43断片が、TDP-43の核移行シグナルと187-192番目のアミノ酸残基を欠損させたものである、[11]に記載の方法。
[13]筋萎縮性側索硬化症の予防および/または治療薬をスクリーニングする方法であって、以下の工程を含む方法:
(1)筋萎縮性側索硬化症のiPS細胞から分化させた神経細胞と試験化合物を接触させる工程、
(2)当該神経細胞をさらに亜ヒ酸塩と接触させる工程、
(3)(2)の神経細胞の生存数を測定する工程、および
(4)試験化合物と接触させなかった対照と比較して、当該生存数を増加させる試験化合物を、筋萎縮性側索硬化症の予防および/または治療薬の候補として選択する工程。
[14]筋萎縮性側索硬化症の予防および治療薬をスクリーニングする方法であって、以下の工程を含む方法:
(1)筋萎縮性側索硬化症のiPS細胞から分化させた神経細胞と試験化合物を接触させる工程、
(2)当該神経細胞における酸化ストレスを測定する工程、および
(3)試験化合物と接触させなかった対照と比較して、当該酸化ストレスを抑制する試験化合物を、筋萎縮性側索硬化症の予防および/または治療薬の候補として選択する工程。
[15]酸化ストレスがタンパク質のマロンジアルデヒドによる修飾である、[14]に記載の方法。
[16]iPS細胞が、TDP-43遺伝子変異を有する、[4]〜[13]のいずれかに記載の方法。
[17]筋萎縮性側索硬化症の治療に使用するための医薬の製造におけるアナカルジン酸誘導体の使用。
[18]筋萎縮性側索硬化症が、孤発性筋萎縮性側索硬化症である、[17]に記載の使用。
[19]筋萎縮性側索硬化症が、TDP-43の変異を伴う、[17]に記載の使用。
【0010】
本発明によれば、アナカルジン酸誘導体をALS予防および治療用に使用すること、ならびにiPS細胞から分化させた神経細胞を用いてALSの予防または治療薬をスクリーニングすることができる。このことより、ALSの予防および治療、ならびにALS予防または治療薬の開発のために、本発明は極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1Aは、対照のiPS細胞(Control-iPS4)およびALS由来のiPS細胞(ALS-iPS1)の顕微鏡像ならびに抗Nanog抗体および抗SSEA-4抗体を用いた免疫染色像を示す。
図1BはALS患者由来の線維芽細胞のTDP-43遺伝子座の配列検査を行った結果を示す。ALS-fibro 1は343番目のグルタミンがアルギニンへ変異しており、ALS-fibro 2は337番目のメチオニンがバリンへ変異しており、ALS-fibro 3は289番目のメチオニンがセリンへ変異している。
図1Cは、レトロウイルスを用いて作製したiPS細胞におけるSOX2、OCT3/4、KLF4およびc-MYCの全mRNA量と外来性mRNA量を定量PCRで測定した結果を示す。
【
図2】樹立した各iPS細胞から作製されたテラトーマのHE染色像を示す。内胚葉、中胚葉および外胚葉に特異的な形状の細胞をそれぞれ示す。
【
図3】
図3Aは、接着培養法による神経細胞誘導のプロトコールを示す。
図3Bは接着培養法により誘導された神経細胞においてNANOG、Islet-1、HB9およびChATのmRNAの発現を確認した結果を示す。
図3Cは、接着培養法により誘導された神経細胞に対して抗Islet-1抗体、抗HB9抗体および抗Tuj1抗体により免疫染色した際の蛍光像を示す。
【
図4】
図4Aは、201B7、Control-iPS2、Control-iPS4、ALS-iPS1、ALS-iPS3およびALS-iPS4由来の神経細胞を1% Triton X-100溶液に溶解させた際の可溶性画分と不溶性画分に含有されるTDP-43のタンパク質をそれぞれ3回測定した結果を示す。
図4Bは、各iPS細胞由来の神経細胞を1% Triton X-100溶液に溶解させた際の可溶性画分と不溶性画分に対してTDP-43、SNRPB2、hnRNPA1のタンパク質量を測定した結果(IB)、および抗TDP-43抗体で沈降させた成分に対してTDP-43、SNRPB2、hnRNPA1のタンパク質量を測定した結果(IP)を示す。
図4Cは、不溶性画分におけるTDP-43、SNRPB2、hnRNPA1のタンパク質量を数値化したグラフを示す。
【
図5】HB9::GFPを導入したiPS細胞由来の神経細胞のSNRPB2(左図)およびhnRNPA1(右図)の染色像を示す。下図はTDP-43とSNRPB2(左図)およびTDP-43とhnRNPA1(右図)との共染色像を示す。
【
図6】
図6Aは、改変SFEBq法による神経細胞誘導のプロトコールを示す。
図6Bは、22日後(P1:左)、35日後(P2:中央)および50日後(P3:右)における顕微鏡像(上図)ならびにTuj1およびネスチン(Nestin)の共染色像(下図)を示す。
図6Cは、201B7、Control-iPS3、ALS-iPS2およびALS-iPS6をドルソモルフィンの有無またはSB431542の有無の条件下で作製した神経細胞(12日目(day 12)、22日目(day 22)および35日目(day 35))のTuj1、hMAP2およびHB9の発現量を定量PCRで測定した結果を示す。
【
図7】
図7Aは、HB9::GFPを導入したiPS細胞由来の神経細胞のソーティングを2回施行した結果を示す。
図7Bは、HB9::GFPを導入した各iPS細胞由来の神経細胞(対照およびALS)のGFP陽性細胞の蛍光顕微鏡像を示す。
図7Cは、HB9::GFPを導入した各iPS細胞由来の神経細胞のニューライトの長さを測定した結果を示す。
【
図8】
図8Aは、ALS-iPS細胞由来の神経細胞において発現が少なかった遺伝子のカテゴリーを示す。
図8Bは、ALS-iPS細胞由来の神経細胞における各細胞骨格関連遺伝子の対照に対する発現量の比を示す。
図8Cは、各iPS細胞由来の神経細胞におけるNEFLおよびNEFMのmRNAを定量PCRで測定した結果を示す。
【
図9】
図9Aは、ALS-iPS細胞由来の神経細胞において発現が多かった遺伝子のカテゴリーを示す。
図9Bは、ALS-iPS細胞由来の神経細胞における各核移行/RNA顆粒に関連する遺伝子の対照に対する発現量の比を示す。
図9Cは、ALS-iPS細胞由来の神経細胞における各スプライソソーム関連遺伝子の対照に対する発現量の比を示す。
図9Dは、FUS、TDP-43、TIA1およびG3BP1のmRNAを定量PCRで測定した結果を示す。
図9Eは、TDP-43のmRNAを定量PCRで測定した結果を示す。
【
図10】
図10Aは、HB9::tdTomato-ΔTDP-43を導入したiPS細胞由来の神経細胞のΔTDP-43とSMI-32(運動神経細胞マーカー)との共染色像を示す。
図10Bは、ΔTDP-43の凝集のドット数を測定した結果を示す。
図10Cは、HB9::tdTomato-ΔTDP-43を導入したiPS細胞由来の神経細胞のΔTDP-43とRNAとの共染色像を示し(下から2段目)、下段はΔTDP-43とG3BP1との共染色像(左図および左から3番目の図)またはΔTDP-43とTIA1との共染色像(左から2番目の図および右図)を示す。
図10Dは、孤発性ALS患者由来の脊髄運動神経細胞におけるTIA1(上図)およびG3BP1(下図)の染色像を示す。
【
図11】
図11Aは、亜ヒ酸塩(ARS)添加群と対照群のiPS細胞由来の神経細胞中のTDP-43、TIA-1およびG3BP1の免疫染色像(赤色)を示す。
図11BおよびCは、亜ヒ酸塩(ARS)添加群と対照群のiPS細胞由来の神経細胞を1% Triton X-100溶液に溶解させた際の可溶成分と不溶成分に含有されるTDP-43のタンパク質量をそれぞれ2回測定した結果である。
図11DおよびEは、亜ヒ酸塩(ARS)添加群と対照群のHB9::GFPを導入したiPS細胞由来の神経細胞のGFP陽性細胞数を測定した結果および蛍光顕微鏡像である。
図11Fは、亜ヒ酸塩(ARS)添加群と対照群のiPS細胞由来の神経細胞へEthD-1添加した際のEthD-1陽性細胞数を測定した結果である。
【
図12】
図12Aは、HB9::GFPを導入したiPS細胞由来の神経細胞における対照群、亜ヒ酸塩添加群ならびに亜ヒ酸塩およびアナカルジン酸の添加群のGFP陽性細胞数を測定した結果を示す。
図12BおよびCは、iPS細胞由来の神経細胞における対照群、亜ヒ酸塩添加群、亜ヒ酸塩およびアナカルジン酸の16時間添加群ならびに亜ヒ酸塩およびアナカルジン酸の48時間添加群を1% Triton X-100溶液に溶解させた際の可溶成分と不溶成分に含有されるTDP-43のタンパク質量を測定した結果およびその比を示したグラフである。
図12Dは、HB9::GFPを導入したiPS細胞由来の神経細胞における対照群、亜ヒ酸塩添加群ならびに亜ヒ酸塩および薬剤の添加群(トリコスタチン(Trichostatin)A、スプライソスタチン(Spliceostatin)Aおよびガルシノール(Garcinol))のGFP陽性細胞数を測定した結果を示す。
図12Eは、HB9::GFPを導入したiPS細胞由来の神経細胞における対照群、亜ヒ酸塩添加群ならびに亜ヒ酸塩およびアナカルジン酸の添加群のGFP陽性細胞の蛍光顕微鏡像を示す。
図12Fは、HB9::GFPを導入したiPS細胞由来の神経細胞における対照群およびアナカルジン酸の添加群のGFP陽性細胞におけるニューライトの長さを測定した結果である。
図12Gは、HB9::GFPを導入したiPS細胞由来の神経細胞における対照群およびアナカルジン酸の添加群のGFP陽性細胞におけるTDP-43のmRNA量を定量PCRで測定した結果を示す。
図12Hは、HB9::GFPを導入したiPS細胞由来の神経細胞における対照群およびアナカルジン酸の添加群のGFP陽性細胞を1% Triton X-100溶液に溶解させた際の可溶成分と不溶成分に含有されるTDP-43のタンパク質量を測定した結果を示す。
【
図13】
図13Aは、対照iPS細胞由来の神経細胞とALS-iPS細胞由来の神経細胞で発現する遺伝子のカテゴリーを比較した結果(赤色)およびALS-iPS細胞由来の神経細胞への無添加群とALS-iPS細胞由来の神経細胞のアナカルジン酸添加群で発現する遺伝子のカテゴリーを比較した結果を示す。
図13Bは、対照iPS細胞由来の神経細胞とALS-iPS細胞由来の神経細胞で発現する各シグナル伝達関連遺伝子を比較した結果(赤色)およびALS-iPS細胞由来の神経細胞への無添加群とALS-iPS細胞由来の神経細胞のアナカルジン酸添加群で発現する各シグナル伝達関連遺伝子を比較した結果を示す。
【
図14】
図14は、対照群(Veh)またはアナカルジン酸添加群(AA)の各iPS細胞由来の神経細胞から抽出した全タンパク質中のMDA(マロンジアルデヒド)修飾されたタンパク質量を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の詳細な説明
本発明は、ALSのiPS細胞、好ましくは、TDP-43に変異を有するALS患者由来のiPS細胞を分化誘導して得られた神経細胞を用いてALSの予防および/または治療薬をスクリーニングする方法、ならびにそのスクリーニング方法により同定されたアナカルジン酸誘導体を含むALSの予防および/または治療剤(以下、ALS予防・治療剤という場合がある。)を提供する。
【0013】
尚、本明細書において「筋萎縮性側索硬化症(ALS)のiPS細胞」とは、ALSに罹患した動物(好ましくはヒト)由来の体細胞から樹立されたiPS細胞だけでなく、当該疾患と相関する遺伝子多型を有するALS未発症の動物(好ましくはヒト)由来の体細胞から樹立されたiPS細胞をも包含する意味で用いられる。
【0014】
I. iPS細胞の製造方法
人工多能性幹(iPS)細胞は、特定の初期化因子を、DNAまたはタンパク質の形態で体細胞に導入することによって作製することができる、ES細胞とほぼ同等の特性、例えば分化多能性と自己複製による増殖能、を有する体細胞由来の人工の幹細胞である(K. Takahashi and S. Yamanaka(2006)Cell, 126:663-676; K. Takahashi et al.(2007), Cell, 131:861-872; J. Yu et al.(2007), Science, 318: 1917-1920; Nakagawa, M.ら, Nat. Biotechnol. 26: 101-106(2008);国際公開WO 2007/069666)。初期化因子は、ES細胞に特異的に発現している遺伝子、その遺伝子産物もしくはnon-coding RNA、またはES細胞の未分化維持に重要な役割を果たす遺伝子、その遺伝子産物もしくはnon-coding RNA、あるいは低分子化合物によって構成されてもよい。初期化因子に含まれる遺伝子として、例えば、Oct3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Klf4、Klf2、c-Myc、N-Myc、L-Myc、Nanog、Lin28、Fbx15、ERas、ECAT15-2、Tcl1、beta-catenin、Lin28b、Sall1、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3またはGlis1等が例示され、これらの初期化因子は、単独で用いても良く、組み合わせて用いても良い。初期化因子の組み合わせとしては、WO 2007/069666、WO 2008/118820、WO 2009/007852、WO 2009/032194、WO 2009/058413、WO 2009/057831、WO 2009/075119、WO 2009/079007、WO 2009/091659、WO 2009/101084、WO 2009/101407、WO 2009/102983、WO 2009/114949、WO 2009/117439、WO 2009/126250、WO 2009/126251、WO 2009/126655、WO 2009/157593、WO 2010/009015、WO 2010/033906、WO 2010/033920、WO 2010/042800、WO 2010/050626、WO 2010/056831、WO 2010/068955、WO 2010/098419、WO 2010/102267、WO 2010/111409、WO 2010/111422、WO 2010/115050、WO 2010/124290、WO 2010/147395、WO 2010/147612、Huangfu D, et al.(2008), Nat. Biotechnol., 26: 795-797、Shi Y, et al.(2008), Cell Stem Cell, 2: 525-528、Eminli S, et al.(2008), Stem Cells. 26: 2467-2474、Huangfu D, et al.(2008), Nat Biotechnol. 26: 1269-1275、Shi Y, et al.(2008), Cell Stem Cell, 3, 568-574、Zhao Y, et al.(2008), Cell Stem Cell, 3:475-479、Marson A,(2008), Cell Stem Cell, 3, 132-135、Feng B, et al.(2009), Nat Cell Biol. 11: 197-203、R.L. Judson et al.,(2009), Nat. Biotech., 27:459-461、Lyssiotis CA, et al.(2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106:8912-8917、Kim JB, et al.(2009), Nature. 461:649-643、Ichida JK, et al.(2009), Cell Stem Cell. 5:491-503、Heng JC, et al.(2010), Cell Stem Cell. 6: 167-74、Han J, et al.(2010), Nature. 463: 1096-100、Mali P, et al.(2010), Stem Cells. 28:713-720、Maekawa M, et al.(2011), Nature. 474: 225-9に記載の組み合わせが例示される。
【0015】
上記初期化因子には、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤[例えば、バルプロ酸(VPA)、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、MC 1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNAおよびshRNA(例、HDAC1 siRNA Smartpool(登録商標)(Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1(OriGene)等)等の核酸性発現阻害剤など]、MEK阻害剤(例えば、PD184352、PD98059、U0126、SL327およびPD0325901)、Glycogen synthase kinase-3阻害剤(例えば、BioおよびCHIR99021)、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、5-アザシチジン)、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、BIX-01294等の低分子阻害剤、Suv39hl、Suv39h2、SetDBlおよびG9aに対するsiRNAおよびshRNA等の核酸性発現阻害剤など)、L-channel calcium agonist(例えばBayk8644)、酪酸、TGFβ阻害剤またはALK5阻害剤(例えば、LY364947、SB431542、616453およびA-83-01)、p53阻害剤(例えばp53に対するsiRNAおよびshRNA)、ARID3A阻害剤(例えば、ARID3Aに対するsiRNAおよびshRNA)、miR-291-3p、miR-294、miR-295およびmir-302などのmiRNA、Wnt Signaling活性化剤(例えばsoluble Wnt3a)、神経ペプチドY、プロスタグランジン類(例えば、プロスタグランジンE2およびプロスタグランジンJ2)、hTERT、SV40LT、UTF1、IRX6、GLISl、PITX2、DMRTBl等の樹立効率を高めることを目的として用いられる因子も含まれており、本明細書においては、これらの樹立効率の改善目的にて用いられた因子についても初期化因子と別段の区別をしないものとする。
【0016】
初期化因子は、タンパク質の形態の場合、例えばリポフェクション、細胞膜透過性ペプチド(例えば、HIV由来のTATおよびポリアルギニン)との融合、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入してもよい。
【0017】
一方、DNAの形態の場合、例えば、ウイルス、プラスミド、人工染色体などのベクター、リポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入することができる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター(以上、Cell, 126, pp.663-676, 2006; Cell, 131, pp.861-872, 2007; Science, 318, pp.1917-1920, 2007)、アデノウイルスベクター(Science, 322, 945-949, 2008)、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクター(WO 2010/008054)などが例示される。また、人工染色体ベクターとしては、例えばヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC、PAC)などが含まれる。プラスミドとしては、哺乳動物細胞用プラスミドを使用しうる(Science, 322:949-953, 2008)。ベクターには、核初期化物質が発現可能なように、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリアデニル化サイトなどの制御配列を含むことができるし、さらに、必要に応じて、薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列、緑色蛍光タンパク質(GFP)、βグルクロニダーゼ(GUS)、FLAGなどのレポーター遺伝子配列などを含むことができる。また、上記ベクターには、体細胞への導入後、初期化因子をコードする遺伝子もしくはプロモーターとそれに結合する初期化因子をコードする遺伝子を共に切除するために、それらの前後にloxP配列を有してもよい。
【0018】
また、RNAの形態の場合、例えばリポフェクション、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入しても良く、分解を抑制するため、5-メチルシチジンおよびシュードウリジン(pseudouridine)(TriLink Biotechnologies)を取り込ませたRNAを用いても良い(Warren L,(2010)Cell Stem Cell. 7: 618-630)。
【0019】
iPS細胞誘導のための培養液としては、例えば、10〜15% FBSを含有するDMEM、DMEM/F12またはDME培養液(これらの培養液にはさらに、LIF、ペニシリン/ストレプトマイシン、ピューロマイシン、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)または市販の培養液[例えば、マウスES細胞培養用培養液(TX-WES培養液、トロンボX社)、霊長類ES細胞培養用培養液(霊長類ES/iPS細胞用培養液、リプロセル社)、無血清培地(mTeSR、Stemcell Technology社)]などが含まれる。
【0020】
培養法の例としては、例えば、37℃、5% CO
2存在下にて、10% FBS含有DMEMまたはDMEM/F12培養液上で体細胞と初期化因子とを接触させ約4〜7日間培養し、その後、細胞をフィーダー細胞(例えば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等)上にまきなおし、体細胞と初期化因子の接触から約10日後からbFGF含有霊長類ES細胞培養用培養液で培養し、該接触から約30〜約45日またはそれ以上ののちにES様コロニーを生じさせることができる。
【0021】
あるいは、37℃、5% CO
2存在下にて、フィーダー細胞(例えば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等)上で10% FBS含有DMEM培養液(これにはさらに、LIF、ペニシリン/ストレプトマイシン、ピューロマイシン、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)で培養し、約25〜約30日またはそれ以上ののちにES様コロニーを生じさせることができる。望ましくは、フィーダー細胞の代わりに、初期化される体細胞そのものを用いる(Takahashi K, et al.(2009), PLoS One. 4:e8067またはWO 2010/137746)、もしくは細胞外基質(例えば、ラミニン-5(WO 2009/123349)およびマトリゲル(BD社))を用いる方法が例示される。
【0022】
この他にも、血清を含有しない培地を用いて培養する方法も例示される(Sun N, et al.(2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106: 15720-15725)。さらに、樹立効率を上げるため、低酸素条件(0.1%以上、15%以下の酸素濃度)によりiPS細胞を樹立しても良い(Yoshida Y, et al.(2009), Cell Stem Cell. 5: 237-241またはWO 2010/013845)。
【0023】
上記培養の間には、培養開始2日目以降から毎日1回新鮮な培養液と培養液交換を行う。また、核初期化に使用する体細胞の細胞数は、限定されないが、培養ディッシュ100 cm
2あたり約5×10
3〜約5×10
6細胞の範囲である。
【0024】
iPS細胞は、形成したコロニーの形状により選択することが可能である。一方、体細胞が初期化された場合に発現する遺伝子(例えば、Oct3/4、Nanog)と連動して発現する薬剤耐性遺伝子をマーカー遺伝子として導入した場合は、対応する薬剤を含む培養液(選択培養液)で培養を行うことにより樹立したiPS細胞を選択することができる。また、マーカー遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子の場合は蛍光顕微鏡で観察することによって、発光酵素遺伝子の場合は発光基質を加えることによって、また発色酵素遺伝子の場合は発色基質を加えることによって、iPS細胞を選択することができる。
【0025】
本明細書中で使用する「体細胞」なる用語は、卵子、卵母細胞、ES細胞などの生殖系列細胞または分化全能性細胞を除くあらゆる動物細胞(好ましくは、ヒトを含む哺乳動物細胞)をいう。体細胞には、非限定的に、胎児(仔)の体細胞、新生児(仔)の体細胞、および成熟した健全なもしくは疾患性の体細胞のいずれも包含されるし、また、初代培養細胞、継代細胞、および株化細胞のいずれも包含される。具体的には、体細胞は、例えば(1)神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)、(2)組織前駆細胞、(3)リンパ球、上皮細胞、内皮細胞、筋肉細胞、線維芽細胞(皮膚細胞等)、毛細胞、肝細胞、胃粘膜細胞、腸細胞、脾細胞、膵細胞(膵外分泌細胞等)、脳細胞、肺細胞、腎細胞および脂肪細胞等の分化した細胞などが例示される。
【0026】
本発明において、体細胞を採取する由来となる哺乳動物個体は特に制限されないが、好ましくはヒトである。より好ましくは、ALS(特に、孤発性ALS)の患者または当該疾患と相関する遺伝子多型を有する非ALS患者もしくは健常人から体細胞を採取することが望ましい。ここで、遺伝子多型として、TDP-43のコーディング領域に変異を有する多型があるが、これに限定されない。TDP-43の変異として、例えば、TDP-43のアミノ酸配列における343番目のグルタミンまたは337番目のメチオニンまたは298番目のグリシンが変換される変異、好ましくは343番目のグルタミンが他のアミノ酸、好ましくはアルギニンに置換される変異および337番目のグルタミンが他のアミノ酸、好ましくはバリンに置換される変異および298番目のグルタミンが他のアミノ酸、好ましくはセリンに置換される変異が挙げられる。
【0027】
II. 神経細胞の分化誘導法
本発明において、神経細胞とは、少なくともHB9を発現している細胞を言い、好ましくはHB9およびSMI-32を発現する運動神経細胞である。
【0028】
前述のiPS細胞から、神経細胞を分化誘導する方法として、特に限定されないが、線維芽細胞フィーダー層上での高密度培養による分化誘導法(特開2008-201792)、ストローマ細胞との共培養による分化誘導法(SDIA法)(例えば、WO 2001/088100、WO/2003/042384)、浮遊培養による分化誘導法(SFEB法)(WO 2005/123902)およびそれらの組み合わせによる方法を利用することができる。
【0029】
他の態様として、コーティング処理された培養皿にiPS細胞を接着させて、任意の培地中で適宜添加物を変えて培養する接着培養法が例示される。
【0030】
当該接着培養法で用いるコーティング剤としては、例えば、マトリゲル、コラーゲン、ゼラチン、ポリ−L−リジン、ポリ−D−リジン、フィブロネクチン、ラミニンおよびこれらの組み合わせが挙げられる。好ましくは、ポリ−L−リジンとラミニンの組み合わせである。
【0031】
当該接着培養法で用いる培地としては、基本培地へ添加剤を適宜加えたものを挙げることができる。基本培地としては、例えば、Neurobasal培地、Neural Progenitor Basal培地、NS-A培地、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地、DMEM/F12培地、ハム培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、およびこれらの混合培地など、動物細胞の培養に用いることのできる培地であれば特に限定されない。より好ましくは、Neurobasal培地およびDMEM/F12の混合物である。添加剤として、血清、血清代替物(KSR)(Invitrogen)、レチノイン酸(RA)、BMP阻害剤、TGFβファミリー阻害剤、ソニックヘッジホッグ(SHH)、bFGF(FGF-2)、FGF-8、EGF、HGF、LIF、BDNF、GDNF、NT-3、アミノ酸、ビタミン類、インターロイキン類、インスリン、トランスフェリン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コラーゲン、フィブロネクチン、プロゲステロン、セレナイト、B27-サプリメント、N2-サプリメント、ITS-サプリメント、抗生物質、メルカプトエタノールが挙げられる。ここで、BMP阻害剤として、Noggin、chordin、follistatinおよびドルソモルフィン LDN-193189などが例示される。また、TGFβファミリー阻害剤として、SB431542、SB202190、SB505124、NPC30345、SD093、SD908、SD208、LY2109761、LY364947、LY580276およびA-83-01などが例示される。これらの添加剤は、適宜組み合わせて用いることができる。好ましい添加剤の組み合わせとしては、(1)NogginおよびSB431542、(2)Noggin、B27-サプリメントおよびN2-サプリメント、(3)レチノイン酸、ソニックヘッジホッグ、B27-サプリメントおよびN2-サプリメントまたは(4)BDNF、GDNF、NT-3、B27-サプリメントおよびN2-サプリメントが挙げられる。これらの組み合わせを、さらに組み合わせて用いることもできる。
【0032】
培養開始時のiPS細胞の濃度は、効率的に神経細胞を形成させるように適宜設定できる。培養開始時のiPS細胞の濃度は、特に限定されないが、例えば、約1×10
3〜約1×10
6細胞/ml、好ましくは約1×10
4〜約5×10
5細胞/mlである。
【0033】
培養温度、CO
2濃度等の他の培養条件は適宜設定できる。培養温度は、特に限定されるものではないが、例えば約30〜40℃、好ましくは約37℃である。また、CO
2濃度は、例えば約1〜10%、好ましくは約5%である。
【0034】
他の態様として、ニューロスフェアの形成後コーティング処理された培養皿に接着させて、任意の培地中で適宜添加物を変えて培養する改変SFEBq法が例示される。
【0035】
当該改変SFEBq法でのニューロスフェアの形成においては、細胞非接着性の培養器を用いることが好ましい。細胞非接着性の培養器としては、培養器の表面が、細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、細胞外マトリックス等によるコーティング処理)されていないもの、もしくは、人工的に接着を抑制する処理(例えば、ポリヒドロキシエチルメタクリル酸(poly-HEMA))またはリピジュア(Lipidure(NOF))によるコーティング処理したものを使用できる。好ましくは、コーティング剤は、リピジュアである。
【0036】
当該改変SFEBq法においてニューロスフェアを形成させるために、上記の基本培地ならびに添加剤を用いて培養することができる。好ましい培地として、DMEM/F12の混合物またはNeurobasal培地が挙げられる。また、好ましい添加剤の組み合わせとして、(1)ドルソモルフィンおよびSB431542または(2)レチノイン酸、ソニックヘッジホッグ、FGF-2およびB27-サプリメントが挙げられる。これらの組み合わせを、さらに組み合わせて用いることもできる。
【0037】
ニューロスフェアの形成開始時の細胞濃度は、効率的にニューロスフェアを形成させるように適宜設定できる。培養開始時の細胞の濃度は、特に限定されないが、例えば、約1×10
4〜約5×10
6細胞/ml、好ましくは約5×10
5〜約2×10
6細胞/mlである。
【0038】
当該改変SFEBq法において得られたニューロスフェアを培養皿へ接着させるためには、上述したいずれのコーティング剤も用いることができるが、好ましくは、マトリゲルである。
【0039】
また、当該改変SFEBq法において接着培養を行う場合、上述した基本培地ならびに添加剤を用いて培養することができる。好ましい培地として、Neurobasal培地が挙げられる。また、好ましい添加剤の組み合わせとして、BDNF、GDNFおよびNT-3が挙げられる。
【0040】
当該改変SFEBq法において、温度、CO
2濃度等の他の培養条件は適宜設定できる。培養温度は、特に限定されるものではないが、例えば約30〜40℃、好ましくは約37℃である。また、CO
2濃度は、例えば約1〜10%、好ましくは約5%である。
【0041】
このように誘導された神経細胞は、HB9などの神経幹細胞の発現マーカーによって純化させることができる。
【0042】
III. 筋萎縮性側索硬化症の予防および治療薬のスクリーニング方法
本発明は、前述の方法によって得られたALSのiPS細胞由来の神経細胞と試験化合物とを接触させ、各指標を用いることで筋萎縮性側索硬化症の予防および/または治療薬の候補物質をスクリーニングする方法を提供する。
【0043】
<不溶性TDP-43>
一実施態様において、本発明の筋萎縮性側索硬化症の予防および/または治療薬の候補物質をスクリーニングする方法(以下、本発明のスクリーニング法という。)は、以下の工程を含む:
(1)筋萎縮性側索硬化症のiPS細胞から分化誘導された神経細胞と試験化合物を接触させる工程、
(2)当該神経細胞中の、界面活性剤溶液に不溶性であるTDP-43のタンパク質量を測定する工程、および
(3)試験化合物と接触させなかった対照と比較して、当該不溶性TDP-43のタンパク質量を減少させる試験化合物を、筋萎縮性側索硬化症の予防および/または治療薬の候補として選択する工程。
【0044】
本発明において、TDP-43の溶解性を確認するために用いる界面活性剤溶液に含有される界面活性剤は、非イオン性界面活性剤であり、例えば、N,N-Bis(3-D-グルコンアミドプロピル)コールアミド(BIGCHAP)、N,N-Bis(3-D-グルコンアミドプロピル)デオキシコールアミド(Deoxy-BIGCHAP)、NIKKOL BL-9EX(ポリオキシエチレン(9)ラウリルエーテル)、オクタノイル-N-メチルグルカミド(MEGA-8)、ノイル(noyl)-N-メチルグルカミド(MEGA-9)、デカノイル-N-メチルグルカミド(MEGA-10)、ポリオキシエチレン(8)オクチルフェニルエーテル(Triton X-114)、ポリオキシエチレン(9)オクチルフェニルエーテル(NP-40)、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル(Triton X-100)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween 20)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート(Tween 40)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート(Tween 60)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(Tween 80)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル(Brij35)、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル(Brij58)、n-ドデシル-β-D-マルトピラノシド、n-ヘプチル-β-D-チオグルコピラノシド、n-オクチル-β-D-グルコピラノシド、n-オクチル-β-D-チオグルコピラノシド、n-ノニル-β-D-チオマルトシド、IGEPAL CA-630、ジギトニンまたはサポニン(大豆由来)が例示される。より好ましい界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテルであり、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル(Triton X-100)が例示される。
【0045】
本発明において、界面活性剤溶液中に含有される界面活性剤の量は特に限定されないが、0.5%から2%であり、好ましくは1%である。
【0046】
不溶性のTDP-43のタンパク質の検出は、上記溶液に不溶であったタンパク質を、SDSを含有する細胞溶解液で溶解させ、当業者に周知の方法、例えば、ELISA(固相酵素免疫検定法)やウェスタンブロット法(イムノブロット法)のような免疫測定法を用いて行うことができる。
【0047】
本発明において、TDP-43のタンパク質の代替として、上記溶液に不溶であったSNRPB2またはhnRNPA1のタンパク質を測定してもよい。
【0048】
本発明では、不溶性のTDP-43の検出を容易に行うために、筋萎縮性側索硬化症のiPS細胞から分化誘導された神経細胞と試験化合物を接触させ、さらに神経細胞を亜ヒ酸塩または過酸化水素などの酸化剤と接触させても良い。好ましい酸化剤は亜ヒ酸塩である。亜ヒ酸塩の場合、亜ヒ酸塩の添加濃度は、0.1 mMから1 mMであってよく、好ましくは0.25 mMないし0.5 mMである。添加時間は特に限定されないが、少なくとも1時間接触させることが好ましい。
【0049】
<細胞骨格関連遺伝子>
他の態様において、本発明のスクリーニング方法は、以下の工程を含む:
(1)筋萎縮性側索硬化症のiPS細胞から分化誘導された神経細胞と試験化合物を接触させる工程、
(2)当該神経細胞における細胞骨格関連遺伝子の発現量を測定する工程、および
(3)試験化合物と接触させなかった対照と比較して、当該細胞骨格関連遺伝子の発現量を増加させる試験化合物を、筋萎縮性側索硬化症の予防および/または治療薬の候補として選択する工程。
【0050】
本発明において細胞骨格関連遺伝子とは、細胞骨格を構成するタンパク質、すなわちアクチン線(繊)維、微小管および中間フィラメントを構成するタンパク質をコードする遺伝子である。例えば、表1に記載の遺伝子が例示される。
【0052】
細胞骨格関連遺伝子の発現量の測定は、当業者に周知の方法によって行われ、例えば、ノーザンブロット法、RT-PCR法、in situハイブリダーゼーション法などが例示される。
【0053】
<RNAスプライシングまたはRNA合成関連遺伝子>
他の態様において、本発明のスクリーニング方法は、以下の工程を含む:
(1)筋萎縮性側索硬化症のiPS細胞から分化誘導された神経細胞と試験化合物を接触させる工程、
(2)当該神経細胞におけるRNA結合遺伝子またはRNAスプライシング関連遺伝子の発現量を測定する工程、および
(3)試験化合物と接触させなかった対照と比較して、当該RNA結合遺伝子またはRNAスプライシング関連遺伝子の発現量を減少させる試験化合物を選択する工程。
【0054】
本発明においてRNA結合遺伝子とは、RNA分子へ選択的に非共有結合により結合するタンパク質または核酸をコードする遺伝子であり、RNAスプライシング関連遺伝子とは、DNAから転写されたmRNA前駆体からイントロンを取り除く際に必要とされるスプライソソームを構成するRNAおよびタンパク質をコードする遺伝子である。例えば、表2および表3に記載の遺伝子が例示される。
【0057】
RNA結合遺伝子およびRNAスプライシング関連遺伝子の発現量の測定は、当業者に周知の方法によって行われ、例えば、ノーザンブロット法、RT-PCR法、in situハイブリダーゼーション法などが例示される。
【0058】
<TDP-43断片の凝集体>
他の態様において、本発明のスクリーニング方法は、以下の工程を含む:
(1)TDP-43断片を導入した、筋萎縮性側索硬化症のiPS細胞から分化誘導された神経細胞と試験化合物を接触させる工程、
(2)当該TDP-43断片の凝集体数を計測する工程、および
(3)試験化合物と接触させなかった対照と比較して、当該凝集体数を減少させる試験化合物を、筋萎縮性側索硬化症の予防および/または治療薬の候補として選択する工程。
【0059】
本発明においてTDP-43断片とは、神経細胞内で凝集の核として機能し、凝集体の形成を促進する性質を有する限り、いかなるTDP-43タンパク質の断片であってもよいが、好ましくは表2に記載のTDP-43/TARDBPのNCBIアクセッション番号を参照することによって得られるアミノ酸配列のうち、核移行シグナル(NLS)である78番目から84番目のアミノ酸および187番目から192番目のアミノ酸を取り除いた、配列番号2に記載の配列を含むタンパク質である。導入されたTDP-43断片が確認できるように蛍光タンパク質と融合されたタンパク質であっても良い。
【0060】
TDP-43断片を細胞に導入する方法として、特に限定されないが、例えば、以下の方法を用いることができる。
【0061】
TDP-43断片をタンパク質の形態で導入する場合、例えばリポフェクション、細胞膜透過性ペプチド(例えば、HIV由来のTATおよびポリアルギニン)との融合、マイクロインジェクションなどの手法によって神経細胞内に導入してもよい。
【0062】
一方、TDP-43断片をDNAの形態で導入する場合、例えば、ウイルス、プラスミド、人工染色体などのベクターをリポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの手法によってiPS細胞もしくは神経細胞内に導入することができる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクターなどが例示される。また、人工染色体ベクターとしては、例えばヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC、PAC)などが含まれる。プラスミドとしては、哺乳動物細胞用プラスミドを使用しうる。ベクターには、配列番号1に記載のヌクレオチド配列を含むmRNAが発現可能なように、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリアデニル化サイトなどの制御配列を含むことができるし、さらに、必要に応じて、薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列、蛍光タンパク質、βグルクロニダーゼ(GUS)、FLAGなどのレポーター遺伝子配列などを含むことができる。プロモーターとして、SV40プロモーター、 LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、MoMuLV(モロニーマウス白血病ウイルス)LTR、HSV-TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーター、EF-αプロモーター、CAGプロモーターおよびTREプロモーター(tetO配列が7回連続したTet応答配列をもつCMV最小プロモーター)が例示される。TREプロモーターを用いた場合、同一の細胞において、tetRおよびVP16ADとの融合タンパク質またはreverse tetR(rtetR)およびVP16ADとの融合タンパク質を同時に発現させることが望ましい。ここで、TREプロモーターを有しreverse tetR(rtetR)およびVP16ADとの融合タンパク質を発現させることが可能なベクターを薬剤応答性誘導ベクターと称する。また、上記ベクターには、標的細胞の染色体へプロモーターとそれに結合する配列番号1からなる発現カセットを取り込み、さらに必要に応じて切除するために、この発現カセットの前後にトランスポゾン配列を有していでもよい。トランスポゾン配列として特に限定されないが、piggyBacが例示される。
【0063】
また、TDP-43断片をRNAの形態で導入する場合、例えばエレクトロポレーション、リポフェクション、マイクロインジェクションなどの手法によって神経細胞内に導入しても良い。
【0064】
このように導入されたTDP-43断片が細胞内で凝集した凝集体は、抗TDP-43抗体で染色または蛍光タンパク質と融合させたTDP-43断片を用いることで、蛍光を呈する凝集体として蛍光顕微鏡を用いて目視にて計数することができる。または、IN Cell Analyzer 2000(GE Healthcare)を用いて凝集体の個数を計測することができる。
【0065】
このとき、ストレス顆粒マーカーであるTIA-1またはG3BP1と共染色された凝集体の個数を計測しても良い。
【0066】
<神経細胞の生存数>
他の態様において、本発明のスクリーニング方法は、以下の工程を含む:
(1)筋萎縮性側索硬化症のiPS細胞から分化誘導された神経細胞と試験化合物を接触させる工程、
(2)当該神経細胞をさらに亜ヒ酸塩と接触させる工程
(3)(2)の神経細胞の生存数を測定する工程、および
(4)試験化合物と接触させなかった対照と比較して、当該生存数を増加させる試験化合物を、筋萎縮性側索硬化症の予防および/または治療薬の候補として選択する工程。
【0067】
本発明では、亜ヒ酸塩の添加濃度は、0.1 mMから1 mMであってよく、好ましくは0.25mMないし0.5 mMである。添加時間は特に限定されないが、少なくとも1時間接触させることが好ましい。
【0068】
神経細胞の生存数の測定方法は、当業者に汎用されている方法を用いて行うことができ、特に限定されないが、MTT法、WST-1法、WST-8法を用いて吸光度を測定する方法、またはTO(チアゾールオレンジ)、PI(ヨウ化プロピジウム)、7AAD、カルセインAM、および/またはエチジウムホモダイマー1(EthD-1)を用いて染色し、フローサイトメーターを用いて計数する方法が例示される。
【0069】
<酸化ストレス>
他の態様において、本発明のスクリーニング方法は、以下の工程を含む:
(1)筋萎縮性側索硬化症のiPS細胞から分化誘導された神経細胞と試験化合物を接触させる工程、
(2)当該神経細胞における酸化ストレスを測定する工程、および
(3)試験化合物と接触させなかった対照と比較して、当該酸化ストレスを抑制する試験化合物を選択する工程。
【0070】
本発明において酸化ストレスとは、細胞内の酸化反応と抗酸化反応とのバランスが崩れ、前者に傾いた状態を意味する。本スクリーニング法において、神経細胞における酸化ストレスは、例えば、当該細胞内のタンパク質、脂質またはDNAの酸化の程度によって評価することができ、好ましくは、細胞内タンパク質を修飾する過酸化脂質であるマロンジアルデヒドの量によって評価され得る。ここで、マロンジアルデヒド(MDA)の量は、タンパク質のリジン残基中のアミノ基または末端のアミノ基との反応によるMDA修飾タンパク質として検出することができる。例えばアミノ基への修飾としてカルボニル構造を有するN-プロペナールおよびジヒドロピリジン付加体が挙げられる。
【0071】
このようなMDA修飾タンパク質は、抗MDA抗体によって認識され、当業者に周知の方法、例えば、例えば、ELISA(固相酵素免疫検定法)やウェスタンブロット法(イムノブロット法)のような免疫測定法を用いて測定することができる。
【0072】
<試験化合物>
本発明において、試験化合物はまた、(1)生物学的ライブラリー、(2)デコンヴォルーションを用いる合成ライブラリー法、(3)「1ビーズ1化合物(one-bead one-compound)」ライブラリー法、および(4)アフィニティクロマトグラフィー選別を使用する合成ライブラリー法を含む当技術分野で公知のコンビナトリアルライブラリー法における多くのアプローチのいずれかを使用して得ることができる。アフィニティクロマトグラフィー選別を使用する生物学的ライブラリー法はペプチドライブラリーに限定されるが、その他の4つのアプローチはペプチド、非ペプチドオリゴマー、または化合物の低分子化合物ライブラリーに適用できる(Lam(1997)Anticancer Drug Des. 12: 145-67)。分子ライブラリーの合成方法の例は、当技術分野において見出され得る(DeWitt et al.(1993)Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90: 6909-13; Erb et al.(1994)Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 91: 11422-6; Zuckermann et al.(1994)J. Med. Chem. 37: 2678-85; Cho et al.(1993)Science 261: 1303-5; Carell et al.(1994)Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2059; Carell et al.(1994)Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2061; Gallop et al.(1994)J. Med. Chem. 37: 1233-51)。化合物ライブラリーは、溶液(Houghten(1992)Bio/Techniques 13: 412-21を参照)またはビーズ(Lam(1991)Nature 354: 82-4)、チップ(Fodor(1993)Nature 364: 555-6)、細菌(U.S. Patent No. 5,223,409)、胞子(U.S. Patent No. 5,571,698, U.S. Patent No. 5,403,484, and U.S. Patent No. 5,223,409)、プラスミド(Cull et al.(1992)Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 89: 1865-9)もしくはファージ(Scott and Smith(1990)Science 249: 386-90; Devlin(1990)Science 249: 404-6; Cwirla et al.(1990)Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 87: 6378-82; Felici(1991)J. Mol. Biol. 222: 301-10; U.S. Patent Application No. 2002103360)として作製され得る。
【0073】
IV. 筋萎縮性側索硬化症の予防および/または治療剤
本発明は、アナカルジン酸誘導体を有効成分とする、筋萎縮性側索硬化症の予防および/または治療剤(ALS予防・治療剤)を提供する。
【0074】
本発明において、治療対象となる筋萎縮性側索硬化症は、孤発性の筋萎縮性側索硬化症またはTDP-43に変異を有する家族性の筋萎縮性側索硬化症を対象とすることが望ましい。
【0075】
本発明において、アナカルジン酸誘導体とは式1:
【0077】
(式中、Rは、C10から17の飽和または不飽和炭化水素基を示す)
で表される化合物を意味する。Rで示されるC10から17の飽和または不飽和炭化水素基は、直鎖構造であっても分枝構造であってもよく、共役二重結合を含んでいてもよい。当該アナカルジン酸誘導体は、式1上の置換可能な任意の位置に1または2以上の置換基を有していてもよい。置換基としては、ハロゲン(塩素原子、フッ素原子、ヨウ素原子、臭素原子)、アミノ基、水酸基およびカルボニル基等が挙げられる。
【0078】
本発明で用いられるアナカルジン酸誘導体として、より好ましくは、式1中Rが、ペンタデシル基またはペンタデシル-8,11,14-トリエニル基であるアナカルジン酸である。
【0079】
アナカルジン酸誘導体は、特開平8-217720に記載の方法でカシュー油から抽出することもでき、Leancare Ltd.またはINDOFINE Chemical Company, Inc.から購入することもできる。また、必要に応じて当該分野で通常実施される手法を用いて市販のアナカルジン酸誘導体を適宜改変することによって、所望のアナカルジン酸誘導体を得ることができる。
【0080】
本発明のALS予防・治療剤は、有効成分であるアナカルジン酸誘導体をそのまま単独で、または薬理学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤等と混合し、適当な剤型の医薬組成物として経口的または非経口的に投与することができる。
【0081】
経口投与のための組成物としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられる。一方、非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、坐剤等が用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤等の剤形を包含しても良い。これらの製剤は、賦形剤(例えば、乳糖、白糖、葡萄糖、マンニトール、ソルビトールのような糖誘導体;トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、α澱粉、デキストリンのような澱粉誘導体;結晶セルロースのようなセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルランのような有機系賦形剤;および軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウムのような珪酸塩誘導体;燐酸水素カルシウムのような燐酸塩;炭酸カルシウムのような炭酸塩;硫酸カルシウムのような硫酸塩等の無機系賦形剤である)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムのようなステアリン酸金属塩;タルク;コロイドシリカ;ビーズワックス、ゲイ蝋のようなワックス類;硼酸;アジピン酸;硫酸ナトリウムのような硫酸塩;グリコール;フマル酸;安息香酸ナトリウム;DLロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウムのようなラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物のような珪酸類;および上記澱粉誘導体である)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、および、前記賦形剤と同様の化合物である)、崩壊剤(例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、内部架橋カルボキシメチルセルロースナトリウムのようなセルロース誘導体;カルボキシメチルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドンのような化学修飾されたデンプン・セルロース類である)、乳化剤(例えば、ベントナイト、ビーガムのようなコロイド性粘土;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムのような金属水酸化物;ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウムのような陰イオン界面活性剤;塩化ベンザルコニウムのような陽イオン界面活性剤;およびポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルのような非イオン界面活性剤である)、安定剤(メチルパラベン、プロピルパラベンのようなパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコールのようなアルコール類;塩化ベンザルコニウム;フェノール、クレゾールのようなフェノール類;チメロサール;デヒドロ酢酸;およびソルビン酸である)、矯味矯臭剤(例えば、通常使用される、甘味料、酸味料、香料等である)、希釈剤等の添加剤を用いて周知の方法で製造される。
【0082】
本発明におけるALS予防・治療剤の有効成分であるアナカルジン酸誘導体の投与量は、患者の症状、年齢、体重等の種々の条件により変化し得る。
【0083】
その投与量は症状、年齢等により異なるが、経口投与の場合には、1回当たり下限0.1 mg(好適には0.5 mg)、上限1000 mg(好適には500 mg)を、非経口的投与の場合には、1回当たり下限0.01 mg(好適には0.05 mg)、上限100 mg(好適には50 mg)を、成人に対して1日当たり1乃至6回投与することができる。症状に応じて増量もしくは減量してもよい。
【0084】
さらに、本発明のALS予防・治療剤は、他の薬剤、例えば、グルタミン酸作用抑制剤(例、リルゾール等)、神経栄養因子(例、インスリン様増殖因子-1、5-HT
1A受容体アゴニスト(例、ザリプロデン)等)などと併用してもよい。本発明のALS予防・治療剤およびこれらの他の薬剤は、同時に、順次または別個に投与することができる。
【0085】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0086】
iPS細胞の作製
2名のALS患者より同意のもと生検した皮膚(ALS-fibro 1およびALS-fibro 2)または対照として5名のALSを罹患していない提供者の皮膚(HDF1388、TIG107、Control-fibro 1、Control-fibro 2およびControl-fibro 3)から線維芽細胞を樹立した。これらの線維芽細胞へそれぞれ4因子(Oct3/4、Sox2、Klf4およびc-Myc)または3因子(Oct3/4、Sox2およびKlf4)を、Takahashi, K. et al., Cell, 131(5), 861, 2007に記載の方法で導入しiPS細胞を樹立した(201B7、Control-iPS1、Control-iPS3、Control-iPS6、ALS-iPS1、ALS-iPS2およびALS-iPS3)。さらに、Oct3/4、Sox2、Klf4、L-Myc、Lin28およびp53のshRNAをOkita K, et al., Nat Methods. 8(5), 409, 2011に記載の方法で導入することでiPS細胞を樹立した(Control-iPS2、Control-iPS4、Control-iPS5、ALS-iPS4、ALS-iPS5およびALS-iPS6)。これらの細胞株を表4に示す。Control-iPS4およびALS-iPS1の位相差顕微鏡像と未分化マーカー(NanogおよびSSEA-4)の染色像を
図1Aに示す。また、2名のALS患者由来の線維芽細胞(ALS-fibro 1、ALS-fibro 2およびALS-fibro 3)にはそれぞれTDP-43のQ343R、M337VおよびG298Sの変異が確認された(
図1B)。
【0087】
【表4】
【0088】
樹立したこれらのiPS細胞のうちレトロウイルスで作製した201B7、Control-iPS3、Control-iPS6、ALS-iPS1、ALS-iPS2およびALS-iPS3の外来遺伝子の発現について定量PCRで調べたところ、いずれの株においても外来遺伝子の発現が低下していることが確認された(
図1C)。また、同様にエピソーマルベクターを用いて作製されたiPS細胞においてはベクターが染色体内に組み込まれていないことを確認した。
【0089】
続いて、これらのiPS細胞の核型を調べたところ、染色体異常は確認されなかった。NanogおよびOct3/4のプロモーター領域に存在するCpG配列のメチル化をバイサルファイト法により調べたところ、各iPS細胞においてメチル化の度合いは大きく変わらなかった。
【0090】
さらに、分化誘導能として免疫不全マウスの皮下に移植しテラトーマを形成させたところ、テラトーマ内に三胚葉全ての組織に特徴的な形状が確認できた(
図2)。
【0091】
脊髄運動神経誘導(接着培養法)を用いた脊髄運動神経細胞の作製
接着培養法による脊髄運動神経細胞(MNs)の誘導はWada et al., PLoS One. 4(8): e6722, 2009に記載の方法を少し変更して行った。簡潔には、小塊に分離させたiPS細胞をポリ-L-リジン(Sigma-Aldrich)およびラミニン(BD)をコートしたディッシュに播種し、200 mM グルタミン(Life Technologies)、0.5% N2(Life Technologies)および1% B27(Life Technologies)を含有し、Neurobasal medium A(Life Technologies)とDMEM/F12(Life Technologies)を1:1で配合した培地(N2B27培地)へ100 ng/mlの組換えNoggin(R&D Systems)および10 mM SB431542(Cayman Chemical)を加えて10日間培養した。さらに、1 mM CaCl
2を含む200 U/mlコラゲナーゼで小塊を分離し、ポリ-L-リジン/ラミニンコートディッシュへ移し、100 ng/mlのNogginを含有するN2B27培地で7日間培養した。続いて、Accutase(Innovative Cell Technologies)で分離し、ポリ-L-リジン/ラミニンコートディッシュへ移し、1 mM レチノイン酸(Sigma-Aldrich)および100 ng/ml ソニックヘッジホッグ(R&D Systems)を含有するN2B27培地で7日間培養し、10 ng/ml BDNF(R&D Systems)、10 ng/ml GDNF(R&D Systems)および10 ng/ml NT-3(R&D Systems)を含有するN2B27培地で続けて培養した(
図3A)。
【0092】
得られた細胞は、ポリ-L-リジン、ラミニンおよびフィブロネクチン(Millipore)をコートしたディッシュに10,000 cells/cm
2で播種し、10 ng/ml BDNF、10 ng/ml GDNFおよび10 ng/ml NT-3を含有するN2B27培地で7日間培養して用いた。分化誘導開始0日、17日、24日および41日目でのMNsに特異的な遺伝子の発現の変化を確認したところ、41日目においてMNsとなっていることが確認された(
図3B)。また、35日目においてIslet-1、Tuj1およびHB9が陽性である細胞が確認された(
図3C)。
【0093】
不溶性TDP-43および結合タンパク質の解析
上記接着培養法で得られたMNsをシトシンアラビノシド(Sigma-Aldrich)を添加して3日培養した後、細胞を回収し1% Triton X-100を含有するTS緩衝液(50 mM Tris-HCl buffer, pH 7.5、0.15 M NaCl、5 mM エチレンジアミン四酢酸、5 mM エチレングリコールビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N',N'-四酢酸、およびプロテアーゼインヒビターカクテル(Roche))へ溶解させ、可溶性画分と不溶性画分とに分離した。画分ごとに総タンパク質量10 mgを含む細胞溶解液を調製し、SDS-PAGE法を用いてTDP-43量の比較を行った。その結果ALS患者由来のiPS細胞から誘導したMNs(ALS-MNs)においては、界面活性剤に不溶性の画分中のTDP-43のタンパク質量が有意に多いことが示された(
図4A)。本実施例において、Triton X-100溶液に対して不溶であったTDP-43断片は、43、35および25 kDaの大きさを保有していた。以上より、ALSに関与する変異TDP-43は、iPS細胞由来のMNsにおいてそのタンパク質がTriton X-100溶液へ不溶となる形状として形成されることが見出された。
【0094】
また、U2 RNPのコンポーネントであるSNRPB2および核細胞質シャトルタンパク質であるhnRNPA1の量が不溶性画分においてALS由来のMNsで増加しており、これらのタンパク質がTDP-43と結合していることが確認された(
図4BおよびC)。
【0095】
続いて、上記接着培養法で得られたMNsへ、Lee SK, et al., Development, 131, 3295, 2004に記載のHB9プロモーターへGFPを連結させた配列(HB9::GFP)を有するレンチウイルスベクターを導入し、HB9発現に連動してGFPを発現するMNsを作製した。このMNsを用いてSNRPB2、hnRNPA1およびTDP-43の細胞内局在を調べたところ、これらのタンパク質はALS-iPS細胞由来のMNs内において共局在することが確認された(
図5)。このことは、ALS患者から生検されたMNsにおいても確認された。
【0096】
これらの結果より、ALS患者のMNsにおいてTDP-43の変異によりTDP-43複合体の性質が変化することによって、RNAスプライシングや核細胞質のシャトリングが影響を受けるものと推測される。
【0097】
脊髄運動神経誘導(改変SFEBq法)を用いた脊髄運動神経細胞の作製
改変SFEBq法によるMNsの誘導は、Watanabe K, et al., Nat Neurosci, 8, 288, 2005に記載の方法を改変して行った。簡潔には、iPS細胞をLipidureコート96穴ディッシュ(NOF)上へ移し、5% KSR(Invitrogen)、DMEM/Hams’ F12(Sigma-Aldrich)、MEM-NEAA(Invitrogen)、L-グルタミン(Sigma-Aldrich)および2-メルカプトエタノールから成る培地に2 μM ドルソモルフィンおよびSB431542を加えて12日間培養した。その後、B27、1 μM レチノイン酸、100-500 ng/ml ソニックヘッジホッグおよび12.5 ng/ml FGF2を添加したNeurobasal medium(Gibco)へ交換し、10日間培養した。続いて、得られた細胞をマトリゲル(BD Biosciences)コートディッシュへ播種し、10 ng/ml BDNF、10 ng/ml GDNFおよび10 ng/ml NT-3を添加したNeurobasal mediumで13日間接着培養した。さらに、アキュターゼ(Accutase)で分離後、500,000 cells/wellでマトリゲルコート24穴プレートへ移し、15日間培養し、MNsを誘導した(
図6A)。誘導後の各iPS細胞由来のMNsは、免疫染色により各神経マーカー(Tuj1およびネスチン(Nestin))が陽性であることが確認された(
図6B)。定量PCRで確認したところ、Tuj1の発現量にバラツキが見られた(
図6C)。そこで、上述したHB9::GFPを有するレンチウイルスベクターを導入して、HB9の発現に連動して蛍光を呈するMNsを用いて、FACSによるソーティング(
図7A)により純化したHB9::GFP陽性細胞をIN Cell Analyzer 2000(GE Healthcare)を用いてハイコンテント解析(High-Content analysis)により調べたところ、ALS-MNsにおいてニューライトが短いことを確認した(
図7BおよびC)。
【0098】
ALS-MNsの遺伝子発現解析
改変SFEBq法で誘導したHB9::GFP陽性ALS-MNsにおいて特異的に発現するまたは発現しない遺伝子を遺伝子オントロジー(Gene ontology)法を用いて同定したところ、
図8AおよびBに記載の中間フィラメント細胞骨格に関連する因子の発現がALS-MNsで低下していることが確認された。これらの遺伝子のうちNEFMおよびNEFLの発現を定量PCRを用いて測定したところ、ALS-MNsにおいて有意に減少していることが確認された(
図8C)。一方、RNAスプライシングおよびRNA合成に関連するタンパク質の転写量が増加することが確認された(
図9A、BおよびC)。同様に、定量PCRによりFUS、TDP-43、TIA-1およびG3BP1の発現がALS-MNsにおいて上昇していることが確認された(
図9D)。これらの知見から、ALS-MNsにおいてRNA代謝に異常が起きていることが想定される。さらに、TDP-43およびSNRPB2の発現量がALS-MNsにおいて増加することが確認されたことから(
図9E)、TDP-43およびSNRPB2はALS-MNsにおいて自己制御が破綻してその発現がコントロールできなくなっていると推察される。しかし、このようなTDP-43を含むRNA結合タンパク質による異常なRNA代謝が、MNにとって致命的な変性を生み出しているわけではなく、TDP-43の性質変化と異常なRNA代謝による悪循環が、加齢により引き起こされ、ALS-MNsの変性につながっていると推察される。
【0099】
TDP-43の凝集の観察
ALS-MNsにおける潜在的な異常は、凝集体として存在していない可視化できない細胞質内の不溶性TDP-43の量の増加として起きていると考えられる。この不溶性TDP-43は、凝集の核が引き金となり、ALS-MNsのサイトゾルにおいて凝集し、可視化されると推定される。そこで、上述したHB9プロモーターへNonaka T, et al., FEBS Lett. 583: 394-400(2009)に記載の核移行シグナル(NLS)と187-192番目のアミノ酸残基を欠損させたTDP-43のC端断片(ΔTDP-43)と蛍光マーカーであるtdTomatoを連結させた配列(HB9::tdTomato-ΔTDP-43)を有するレンチウイルスベクターを導入し、凝集の核としてΔTDP-43を各MNsに過剰発現させた。ΔTDP-43により形成した内包物は細胞質中に局在化を示した(
図10A)。このΔTDP-43の凝集のドット数は対照のMNsと比較してALS-MNsで有意に増加していた(
図10B)。さらに、SYTO RNASelect Green Fluorescent Cell Stain(Invitrogen)を用いてRNAを染色し、抗TIA-1抗体(Protein Tech)または抗G3BP1抗体(Protein Tech)を用いて染色した。tdTomatoとこれらの染色像を蛍光顕微鏡で観察したところ、このΔTDP-43による凝集はRNAの局在と一致し、ALS-MNsでストレス顆粒マーカーであるTIA-1およびG3BP1とも一部共局在していた(
図10C)。このことは、TIA-1およびG3BP1は孤発性ALS患者のMNsの核周辺部に局在することと一致している(
図10D)。
【0100】
続いて、TDP-43の凝集とALS-MNsの細胞死における細胞質中のRNAの効果を調べるため、翻訳阻害剤でありRNA顆粒の形成の誘導剤でもある亜ヒ酸塩(ARS)の添加によるMNsに与える影響を検討した。上述したHB9::GFPを導入したALS-MNsのGFP陽性細胞へ0.5 mMの亜ヒ酸塩を添加したところ、RNA顆粒形成の促進(
図11A)と不溶性TDP-43の増加(
図11BおよびC)が確認された。また、亜ヒ酸塩添加1時間後のALS-MNsをIN Cell Analyzer 2000を用いて細胞数を計測したところ、ALS-MNsの生存数が非添加群および正常MNs群と比較して有意に減少した(
図11DおよびE)。さらに、各MNsへ亜ヒ酸塩添加1時間後に0.2 MのEthD-1(Invitrogen)を加えて30分間室温でインキュベートし、EthD-1陽性の傷害を受けた細胞数を計測したところ、亜ヒ酸塩添加群のALS-MNsにおいて有意にその数が高かった(
図11F)。これらのデータは、亜ヒ酸塩により誘導されたRNA顆粒が細胞質内でTDP-43を隔離し、ALS-MNs内の変異TDP-43が障害性の凝集を形成しやすい性質を獲得したことを示唆している。
【0101】
ALS治療用の候補剤の効果検討
ALSの治療用の候補薬剤を同定するため、転写、ヒストンアセチル化およびスプライシングに作用する既知の薬剤を亜ヒ酸塩添加の16または48時間前(5 μM アナカルジン酸、3 μMトリコスタチンAおよび100 ng/ml スプライソスタチンA)もしくは24時間前(5 μM ガルシノール)に添加しインキュベートしその挙動を観察した。すると、ヒストンアセチル化(HAT)阻害剤であり抗酸化作用を有するアナカルジン酸(AA)が亜ヒ酸塩誘導性の不溶性TDP-43の増加に伴うALS-MNsの細胞死を有意に抑制した(
図12A、BおよびC)。一方、トリコスタチンA(HDAC阻害剤)、スプライソスタチンA(スプライシング阻害剤)およびガルシノール(HAT阻害剤)にはこのような作用は見られなかった(
図12D)。AAはまた、ALS-MNsにおけるニューライトの長さを有意に増加させること(
図12EおよびF)、
TDP-43のmRNA量を減少させること、および不溶性TDP-43の量を減少させることを確認した(
図12GおよびH)。さらに、AA添加により翻訳、RNP複合体、RNA結合、RNA代謝経路、RNAプロセシング、RNAスプライシングおよびスプライソソーマル複合体に関連する因子の減少が確認され、中間フィラメント細胞骨格、中間フィラメントおよびケラチンフィラメントに関連する因子の増加が確認された(
図13A)。さらにシグナル伝達経路分析を行ったところ、AA添加により、TNFα/NF-κB、アンドロジェン受容体およびα6β4インテグリンの経路の減少が確認された(
図13B)。
【0102】
続いて、AAの抗酸化作用を確認するため、対照MNsまたはALS-MNsに対してAA添加と非添加群に分けて全タンパク質においてMDA(マロンジアルデヒド)修飾されたタンパク質の量を5-15% グラジエントゲルを用いてウェスタンブロットにより確認したところALS-MNsにおいてMDA修飾されたタンパク質が多いことが確認され、AAの添加でその量が減少することが確認された(
図14)。特に、約30 kDaから50 kDaの大きさを有するタンパク質においてこの傾向が強かった。このことから、ALS-MNsでは酸化ストレスが恒常しており、この酸化ストレスをAAによって抑制することができることが示唆された。
【0103】
以上の結果より、ALSは、(1)RNA結合タンパク質の変性、(2)RNA代謝の異常および(3)酸化ストレスの増加との一連の悪循環が続くことにより引き起こされると推察される。したがって、これらに関連する各遺伝子や現象がALSの病態を代替する指標となる。
【0104】
本発明を好ましい態様を強調して説明してきたが、好ましい態様が変更され得ることは当業者にとって自明であろう。本発明は、本発明が本明細書に詳細に記載された以外の方法で実施され得ることを意図する。したがって、本発明は添付の「請求の範囲」の精神および範囲に包含されるすべての変更を含むものである。
【0105】
ここで述べられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、ここに引用されたことによって、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
本出願は、米国仮特許出願第61/587,323号を基礎としており、その全体が本明細書に組み込まれる。