(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
NMR測定用の試料管の回転に伴って生成される回転パルス列信号に対してゲート期間を設定し、前記ゲート期間内の回転パルスの数に基づいて単位時間当たりの回転数を求める演算手段と、
前記単位時間当たりの回転数に基づいて、前記試料管の回転を制御する制御手段と、
を有し、
前記演算手段は、前記回転パルス列信号と前記ゲート期間とが非同期であることに起因して前記ゲート期間の開始側及び終了側で生じる時間差であって前記回転パルス列信号と前記ゲート期間との間の時間差を求め、前記時間差に基づいて前記単位時間当たりの回転数を補正する補正手段を含み、
前記補正手段は、n−1番目のゲート期間の終了時間差をn番目のゲート期間の開始時間差として重複的に利用し、n番目のゲート期間について求められた開始時間差及び終了時間差に基づいて当該n番目のゲート期間のゲート時間長を補正することにより、補正済みゲート時間長を求め、
前記補正済みゲート時間長に基づいて前記単位時間当たりの回転数が演算される、
ことを特徴とするNMR用試料管回転制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
NMR測定用の試料管の回転数を回転パルス列信号に基づいて求める場合、例えば
図7に示す方式が利用される。
図7に示す回転パルス列信号110は時系列順に並ぶ(図において左から右へ並ぶ)複数の回転パルスからなるものであり、それに対して一定のゲート期間Tgが順次設定される。ゲート期間Tgごとにそこに入り込む回転パルスの数がカウントされ、そのカウント値Nsから回転速度(回転周波数)Fが求められる。この回転速度Fは以下の式(1)で与えられる。
F=Ns/(M・Tg) ・・・(1)
ここでMは、試料管が1回転する間に検出される回転パルスの数である。
【0008】
ところが、
図7に示すように、ゲート期間Tgの開始時点Ts及び終了時点Teと、回転パルスの検出点(立ち上り200又は立下り)のタイミングとが一致しない場合がある。ゲート期間は回転パルス列信号に対して同期していないからである。なお、
図7において、回転パルスの立ち上りを上向きの矢印で示し、回転パルスの立下りを下向きの矢印で示す。このように、ゲート期間Tgと回転パルス列信号は同期していないので、ゲート期間Tgの開始側及び終了側において時間的なずれ、つまり時間的な誤差が生じる。最大で1周期に相当する誤差が生じ得る。従って、真の回転速度Fが存在する範囲は以下の式(2)で表され、回転速度Fの測定精度は以下の式(3)で表される。
{Ns/(M・Tg)}≦F<{(Ns+1)/(M・Tg)} ・・・(2)
1/(M・Tg)(又は±1/(2M・Tg)) ・・・(3)
【0009】
上記の時間的な誤差は回転数計測の精度を低下させるものである。この計測誤差を低減するために、ゲート期間Tgを長くして検出されるパルス信号の数を増やすことが考えられる。しかしながら、ゲート期間Tgを長くするほど回転速度を演算する時間間隔が長くなるため、計測結果を回転制御系にフィードバックするまでの時間が長くなり、フィードバック制御の応答性が低下する。また、局所的な回転速度の変動を検出することができなくなるため、その変動に応じたフィードバック制御ができなくなる。
【0010】
本発明の目的は、NMR測定用試料管の回転数の測定精度を向上させ、試料管の回転をより正確に制御できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るNMR用試料管回転制御装置は、NMR測定用の試料管の回転に伴って生成される回転パルス列信号に対してゲート期間を設定し、前記ゲート期間内の回転パルスの数に基づいて単位時間当たりの回転数を求める演算手段と、前記単位時間当たりの回転数に基づいて、前記試料管の回転を制御する制御手段と、を有し、前記演算手段は、前記回転パルス列信号と前記ゲート期間とが非同期であることに起因して前記ゲート期間の開始側及び終了側で生じる時間差を求め、前記時間差に基づいて前記単位時間当たりの回転数を補正する補正手段を含む、ことを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、回転パルス列信号とゲート期間との間において時間差が生じても、その時間差を実際に特定して、その時間差に基づいて単位時間当たりの回転数(回転速度)を補正できる。すなわち、単位時間当たりの回転数の演算に当たって、上記時間差に由来する誤差を解消又は軽減できる。これにより試料管の回転制御をより的確に行える。望ましくは、時間差に基づいてゲート期間の時間長が補正され、これにより単位時間当たりの回転数が補正される。それに代えて回転パルス数等が補正されてもよい。また、単位時間当たりの回転数が事後的に補正されてもよい。いずれにしても時間差を実際に計測してそれに基づいて補正を行えば、当該時間差に由来する誤差を解消又は軽減できる。
【0013】
望ましくは、前記補正手段は、前記ゲート期間に同期し且つ前記回転パルス列信号より高速な基準クロック信号に基づいて、前記ゲート期間の終了タイミングからその直後の回転パルスの検出タイミングまでの終了時間差を求める。ゲート期間に同期した基準クロック信号を基礎として時間差を演算すれば、ゲート期間と基準クロック信号との間において別の時間差が生じることを回避できる。また、回転パルス列信号よりも高速な基準クロック信号を基礎として時間差を演算すれば時間差の特定に際して時間分解能を高められる。望ましくは、回転パルス列信号よりも十分に高速な基準クロック信号が利用される。特に望ましくは、基準クロック信号として、ゲート期間を発生させた基本クロック信号が利用される。開始時間差については独立して計測されてもよいが、以下のように1つ前のゲート期間について演算された終了時間差をそのまま援用することが可能である。
【0014】
望ましくは、前記補正手段は、n−1番目のゲート期間の終了時間差をn番目のゲート期間の開始時間差として重複的に利用し、n番目のゲート期間について求められた開始時間差及び終了時間差に基づいて当該n番目のゲート期間のゲート時間長を補正する。この構成によれば、個々のゲート期間ごとに終了時間差を求めるだけで、結果として個々のゲート期間について開始時間差及び終了時間差の両者を特定できるから、演算量を削減して迅速に補正処理を行える。n−1番目のゲート期間の終了タイミングが生じた後に、次のn番目のゲート期間に属する最初の回転パルスの検出タイミングが生じるから、n−1番目のゲート期間についての終了時間差として、n−1番目のゲート期間の終了タイミングとその直後の回転パルスの検出タイミングとの間の時間差を特定するのが自然かつ合理的である。なお、n−1番目のゲート期間の終了タイミングを基準にしてその直前に生じた回転パルスの検出タイミングを遡って特定することにより、n−1番目のゲート期間の終了タイミングの手前側に定義される終了時間差を特定することも考えられる。その場合には、回転速度の演算に先立って、n−1番目のゲート期間内においてカウントされた回転パルス数から1が減算される。
【0015】
望ましくは、前記補正手段は、前記ゲート期間ごとに前記ゲート時間長から前記開始時間差を減算しかつ前記ゲート時間長に前記終了時間差を加算することにより補正済みゲート時間長を求め、前記補正済みゲート時間長に基づいて前記単位時間当たりの回転数が演算される。この構成によれば、回転パルス列信号に対してゲート期間を適合(ある意味において同期)させた状況下において、単位時間当たりの回転数を演算できる。別の見方をすると、回転パルス列信号における回転パルスの並びに応じて個々のゲート期間の時間長を適応的に設定した状況を構築できる。
【0016】
前記制御手段は、前記演算手段によって求められた単位時間当たりの回転数に基づいて前記試料管を回転させるジェット流の圧力を制御してもよい。ジェット流の圧力の制御において特に応答遅れが問題となり易いので、上記のような迅速かつ正確な回転速度計測を利用することが望ましい。
【0017】
前記演算手段による演算結果を表示手段に表示させる表示制御手段を更に有してもよい。この構成によれば、制御の基礎をなしたパラメータ値を表示して制御の信頼性を高められる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、非同期関係にあるゲート期間と回転パルス列信号との間で生じる時間差を求めて、その時間差により単位時間当たりの回転数が補正されるので、回転数の測定誤差を解消又は低減できる。これにより、回転数の測定精度が向上し、試料管の回転をより正確に制御することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に、本発明の実施形態に係るNMR用試料管回転制御装置を含むNMR測定システムの一例を示す。本実施形態において、NMR測定システムは固体試料に対してNMR測定を行うものであり、その際に、非常に細い試料管を超高速で回転させるものである。NMR測定用の試料管40はNMR測定用プローブ30のヘッドに設置され、NMR測定用プローブ30とともに静磁場発生装置のボア32内に挿入される。NMR測定用プローブ30のヘッドには、試料管40を回転させる図示しない試料管回転装置が搭載されている。また、NMR測定用プローブ30のヘッドには図示しないNMR検出回路が設置されている。NMR検出回路は、高周波磁場を生成し観測対象となった核種からのNMR信号を検出する送受信コイルを備えている。なお、
図1において、NMR測定システムに含まれる送受信部、分光計等については図示省略されている。
【0021】
図2に試料管40の一例を示す。
図2(a)は、試料管40を模式的に示す斜視図である。
図2(a)に示すように、試料管40は、円筒形状を有し試料を収容する試料収容部42と、試料収容部42の一端に設けられた羽根車(タービン)44と、試料収容部42の他端に設けられ試料収容部42の蓋として機能するキャップ46とを含む。上記の送受信コイルは、試料収容部42を取り囲むように配置されている。試料管40の直径(外径)は、一般的に数mm〜数十mm程度であるが、本実施形態における試料管40の直径は例えば0.75mmである。すなわち、1mm以下の非常に細い試料管40が利用されている。そのような極細径型の試料管40が非常に高速に回転駆動される。なお、測定対象の試料は固体試料である。但し、溶液試料であってもよい。
【0022】
試料管40は、空気軸受によって非接触でNMR測定用プローブ30のヘッドに保持されている。
図1に示す制御弁50及び流路52を介してポンプPから供給されたジェット流が
図2に示す羽根車44の複数の羽根に吹き付けられ、これによって試料管40を駆動する推進力が生成され、試料管40が回転する。例えば固体試料のNMR測定を行う場合、試料管40の回転中心軸が静磁場方向に対してマジック角度をもって傾斜され、その角度を維持した状態で試料管40が高速で回転させられる。試料管40の回転状態において、送受信コイルによって高周波磁場が生成され、その後の受信期間において送受信コイルによってNMR信号が検出され、NMR信号を解析することで分光スペクトルが生成される。
【0023】
図2(b)は、キャップ46側から見た試料管40を示す模式図である。
図2(a)及び(b)に示すように、試料管40のキャップ46の側面には、光を吸収又は反射する部材48が設けられている。この部材48は、例えばキャップ46の側面に塗布された黒体又は反射体である。一例としてキャップ46の側面に180°にわたって1つの部材48が塗布されているが、複数の部材48がキャップ46の側面に設けられていてもよい。なお、キャップ46の代わりに、羽根車44の先端部や試料収容部42の側面に部材48を設けてもよい。
【0024】
図1において、NMR測定用プローブ30のヘッドには、光を出射する光ファイバ34と光を受光する光ファイバ36とが設けられている。光ファイバ34から出射した光はキャップ46の側面に照射され、キャップ46の側面で反射して光ファイバ36に入射する。それらの構成は回転検出部を構成するものである。回転検出部は以下に説明するNMR用試料管回転制御装置の一部として構成されてもよい。もちろん、図示された構成は例示に過ぎないものである。
【0025】
図1に示すNMR用試料管回転制御装置10は、光電変換部12、波形整形部14、高速クロック発生部16、演算部18、制御部20、表示部22及び入力部24を含み、試料管40の回転速度を参照し、回転速度が設定値に一致するように試料管40の回転を制御する。
【0026】
光電変換部12は光ファイバ34,36に接続され、光源によって光を連続で発光して光ファイバ34に供給し、キャップ46の側面で反射して光ファイバ36に入射した反射光を受け、反射光を電気信号に変換して出力する。これにより、反射光のレベル変動を示す回転信号100が生成されて出力される。光源としては、レーザやLED等が用いられる。
【0027】
波形整形部14は回転信号100を波形整形することで、複数の回転パルスからなる回転パルス列信号110を生成して出力する。なお、回転信号100が矩形波である場合には、波形整形部14による処理は不要である。
【0028】
高速クロック発生部16は、試料管40の回転周波数(回転速度)よりも十分に高速のクロック信号を演算部18に出力する。本実施形態においては、例えば、高速クロックは装置動作の基礎となる基本クロックであり、そのクロックの分周処理によりゲート期間が生成されている。
【0029】
演算部18は、回転パルス列信号110に対して一定のゲート期間Tgを設定し、当該ゲート期間Tg内の回転パルスの数をカウントすることでカウント値Nsを得るものである。本実施形態において、演算部18は、ゲート期間Tgと回転パルス列信号110とが非同期であることに起因してゲート期間Tg前後において生じるゲート期間Tgと回転パルス列信号110との時間差を、高速クロック信号120を利用して求め、当該時間差を用いてゲート期間Tgの長さを補正する機能(補正機能)を備えている。演算部18は、カウント値Nsと補正されたゲート期間Tg’とに基づき、試料管40の回転速度F(回転周波数)を求める。
【0030】
制御部20は、制御弁50の開度を調整してジェット流の圧力を調整することで、予め設定された設定回転速度に回転速度Fが一致するようにフィードバック制御する。一例として、PID制御によりフィードバック制御を行う。また、制御部20は、回転速度Fを表示部22に表示させてもよい。なお、超音波モータ等のモータによって試料管40を回転させてもよく、この場合、制御部20は、回転速度Fが設定回転速度に一致するようにモータの駆動を制御する。
【0031】
入力部24は一例としてユーザインターフェースであり、試料管40の設定回転速度やNMR測定用プローブ30の種類等の情報が入力される。
【0032】
次に、
図3に示すフローチャートを参照して、演算部18の具体的な処理について説明する。まず、演算部18は、
図4に示す回転パルス列信号110を受け、回転パルス列信号110に対してゲート期間Tgを設定し(S01)、ゲート期間Tg内の回転パルスの数をカウントすることでカウント値Nsを得る(S02)。図示の例では、連続する複数のゲート期間Tgが回転パルス列信号110に対して設定されている。以下、n番目のゲート期間Tgに注目して説明する。nは整数である。
【0033】
図4を参照すると、回転パルス列信号110とゲート期間Tgとは同期しておらず、ゲート期間Tgの開始時点Ts及び終了時点Teと、回転パルスの立ち上りのタイミングとが一致していない。例えば、n番目のゲート期間Tgの開始時点Tsから最初の回転パルスの立ち上りまでにΔT1の時間差が生じ、n番目のゲート期間Tgの終了時点Teから次の回転パルスの立ち上りまでにΔT2の時間差が生じている。すなわち、n番目のゲート期間Tgの前側(開始側)にて、当該ゲート期間Tg内において、開始時点Tsと最初の回転パルスの立ち上りのタイミングとの間にΔT1の時間差が生じ、n番目のゲート期間Tgの後側(終了側)にて、当該ゲート期間Tg内において、終了時点Teと次の回転パルスの立ち上りのタイミングとの間にΔT2の時間差が生じている。演算部18は、以下の処理によって時間差ΔT1,ΔT2を求め、ゲート期間Tgの時間長を補正する。なお、
図4において、回転パルスの立ち上りを上向きの矢印で示し、回転パルスの立下りを下向きの矢印で示している。
図5及び
図6においても同様である。回転パルスの検出は、その立ち上り又は立下りの一方の検出をもってなされる。
【0034】
図1に示した演算部18は、高速クロック発生部16から高速クロック信号120を受け、
図5に示すように、回転パルス列信号110と高速クロック信号120とを比較し、n番目のゲート期間Tgが終了してから次の回転パルスの立ち上りまでの期間に含まれる高速クロックパルスの数をカウントし、カウント値Ncを得る(S03)。
【0035】
そして、演算部18は、高速クロック信号120の周期Tcとカウント値Ncとを用い、以下の式(4)に従って時間差ΔT2’を求める(S04)。
ΔT2’=周期Tc×カウント値Nc ・・・(4)
高速クロック信号120は高速クロック発生部16によって生成されているため、周期Tcは既知の値である。
【0036】
なお、ゲート期間Tgの終了時点Teから次の回転パルスの立ち上りまでの真の時間差ΔT2は、以下の式(5)で表される。
ΔT2’≦ΔT2<ΔT2’+Tc ・・・(5)
すなわち、周期Tc刻みで時間を検出しているため、最大で周期Tc分の誤差が生じる。但し、高速クロック信号120の周期が十分に短い場合、そのような誤差は事実上無視し得る。
【0037】
ところで、n番目のゲート期間Tgの直前に設定された(n−1)番目のゲート期間Tgに注目すると、(n−1)番目のゲート期間Tgについて求めた後側の時間差ΔT2’は、n番目のゲート期間Tgの前側の時間差ΔT1’でもある。この関係を隣接するゲート期間Tgの間で利用すべく、演算部18は、(n−1)番目のゲート期間Tgについて求めた後側の時間差ΔT2’を、n番目のゲート期間Tgの前側の時間差ΔT1’としても再利用する(S05)。すなわち、1つの時間差を2つのゲート期間Tgで重複して利用するようにしている。なお、n=1の初期ゲート期間Tgについては直前に設定されたゲート期間が存在しないため、ΔT1’=0とする。但し、試料管40の回転開始時においてゲート期間Tgの時間長に誤差が含まれていても、それは実際上問題とはならない。
【0038】
なお、真の時間差ΔT2と同様に、ゲート期間Tgの開始時点Tsから最初の回転パルスの立ち上りまでの真の時間差ΔT1は、以下の式(6)で表される。
ΔT1’≦ΔT1<ΔT1’+Tc ・・・(6)
【0039】
演算部18は、カウント値Nc、時間差ΔT1’,ΔT2’及びゲート期間Tgを用い、以下の式(7)に従ってゲート期間Tg単位で試料管40の回転速度Fを求める(S06)。
F=Ns/M(Tg−ΔT1’+ΔT2’) ・・・(7)
【0040】
すなわち、ゲート期間Tgの時間長を時間差ΔT1’,ΔT2’を用いて補正する。具体的には、補正後のゲート期間Tg’の開始時点が回転パルスの立ち上りのタイミングに一致するように、ゲート期間Tgの開始時点を時間差ΔT1’の分、後側にシフトし(開始側時間差の減算)、ゲート期間Tg’の終了時点が回転パルスの立ち上りのタイミングに一致するように、ゲート期間Tgの終了時点を時間差ΔT2’の分、後側にシフトする(終了側時間差の加算)。
【0041】
なお、式(7)中のMは、試料管40が1回転する間に検出される回転パルスの数である。
図2に示す例では、1つの部材48が試料管40の表面に設けられているため、試料管40が1回転する間に1つの回転パルスが検出されることになる。従って、この場合、M=1となる。
【0042】
演算部18はゲート期間Tgごとに回転速度Fを求め、各ゲート期間Tgに対応する回転速度Fを制御部20に出力する。すなわち、演算部18は、(n−1)番目、n番目、(n+1)番目、・・・のゲート期間Tgにおける時間差ΔT1’,ΔT2’を求め、更に各ゲート期間Tgの回転速度Fを求めて制御部20に出力する。
【0043】
制御部20は、回転速度Fが設定回転速度に一致するように、制御弁50の開度を調整することでジェット流の圧力を調整する(S07)。以降、ステップS02〜S07の処理を繰り返し実行する。これにより、ゲート期間Tgごとに回転速度Fが検出され、回転速度Fに応じたフィードバック制御が行われる。制御部20は、回転速度Fが検出される度にフィードバック制御を行ってもよいし、複数のゲート期間Tgで検出された回転速度Fの平均値に基づきフィードバック制御を行ってもよい。すなわち、1又は複数のゲート期間Tgごとにフィードバック制御を行ってもよい。
【0044】
制御部20は、回転速度Fを表示部22に表示させてもよい。この場合、制御部20は、各ゲート期間Tgにおける回転速度Fを表示部22に表示させてもよいし、複数のゲート期間Tgにおける回転速度Fの平均値を求め、その平均値を表示部22に表示させてもよい。
【0045】
図4及び
図5に示す例では、回転パルスの立ち上りを基準にして時間差ΔT1’,ΔT2’を求めているが、回転パルスの立下りを基準に時間差ΔT1’,ΔT2’を求めてもよい。
図6を参照して説明すると、演算部18は、回転パルス列信号110と高速クロック信号120とを比較し、ゲート期間Tgが終了してから次の回転パルスの立下りまでの期間に含まれる高速クロックパルスの数をカウントすることで、ゲート期間Tgの後側の時間差ΔT2’を求める。そして、演算部18は、(n−1)番目のゲート期間Tgの後側の時間差ΔT2’を、n番目のゲート期間Tgの前側の時間差ΔT1’として用い、上記の式(7)に従って回転速度Fを求める。
【0046】
参考までに、上記のようにして求められた回転速度Fの測定精度について説明する。上記のように真の時間差ΔT2は式(5)で表され、真の時間差ΔT1は式(6)で表される。従って、真の回転速度Fは以下の式(8)で表される。
{Ns/M(Tg+(ΔT2’−ΔT1’+Tc))}≦F、かつ、
F≦{Ns/M(Tg+(ΔT2’−ΔT1’−Tc))} ・・・(8)
【0047】
また、回転速度Fの測定精度は以下の式(9)で表される。
測定精度=±(Ns・Tc)/(M・Tg
2) ・・・(9)
【0048】
一例として、
ゲート期間Tg=50msec
高速クロック信号120の周期Tc=1μsec
試料管40の回転速度(回転周波数)F=50000Hz
M=1
とし、
Tg=0.05、Tc=10
−6、M=1、
Ns=2500(=F×Tg=50000×0.05)
を式(8)に代入すると、測定精度=1Hzとなる。このように、本実施形態の構成によれば、例えば、1Hzの測定精度で回転速度Fを測定することができる。
【0049】
以上のように、高速クロック信号120を用いて時間差ΔT1’,ΔT2’を求めてゲート期間Tgの時間長を補正することで、ゲート期間Tgと回転パルス列信号110との時間差に起因して生じる回転数の測定誤差を低減できるため、回転速度Fの測定精度を向上させることができる。その結果、試料管40の回転をより正確に制御することが可能となる。
【0050】
例えばジェット流の圧力によって試料管40を回転させる場合、回転にゆらぎが発生して回転信号100にゆらぎが含まれることがあるが、この場合であっても、本実施形態によると、ゲート期間Tgを補正することで回転速度Fを高精度で測定することができる。
【0051】
また、本実施形態では、ゲート期間Tgを長く設定しなくても回転速度Fを高精度で測定できるため、フィードバック制御の時間間隔が長くならずに済み、フィードバック制御の応答性が向上する。例えば上記の例によると、僅か50msecのゲート期間Tgを設定するだけで、1Hzの精度で回転速度Fを測定できるので、ゲート期間Tgの間隔でフィードバック制御を行えば、より安定的な回転制御が可能となる。
【0052】
ちなみに、高速クロック信号120のみを用いて試料管40の回転速度Fを測定することも可能であるが、すべての時間において高速クロック信号120を用いて測定を行うと、時間差ΔT1’,ΔT2’を求めるときのみに高速クロック信号120を用いる場合と比べて、検出されるデータの量が膨大になる。これに対して、本実施形態のようにゲート期間Tgを設定して回転パルスの数をカウントするとともに、時間差ΔT1’,ΔT2’を求めるときに高速クロック信号120を用いることで、取り扱うデータの量を削減することが可能となる。これにより、膨大なデータを処理するための素子が不要となり、製造コストの増大を抑制することができる。
【0053】
次に、本実施形態に係る測定方法と従来技術に係る方法とを比較する。従来技術においては、上記の式(4)に示すように、測定精度は1/(M・Tg)で表される。仮に1Hzの測定精度を得ようとすると、M=1の場合、ゲート期間Tgを1秒以上設ける必要がある。例えば固体試料を測定する場合、試料管40を6000〜100000(回転/sec)の速度で回転させる必要があるため、ゲート期間Tgを1秒以上設けてフィードバックするのでは、フィードバック制御の応答性が損なわれる。これに対して本実施形態では、1Hzの測定精度を得るためには、僅か50msec程度のゲート期間Tgを設定すれば済むため、フィードバック制御の遅れを防止し、フィードバック制御の応答性を向上させることができる。すなわち、従来技術では、1Hzの測定精度を得るために1秒以上の間隔でフィードバック制御が行われるが、本実施形態では、50msecの間隔でフィードバック制御を行っても1Hzの測定精度が得られるため、従来技術と比べてフィードバック制御の応答性が向上する。
【0054】
なお、試料管40の表面に複数の部材48を設け、M>1として回転速度Fを求めてもよい。これにより、検出の分解能が向上するため、回転速度Fの測定精度は更に向上する。しかしながら、微小な試料管40の表面に複数の部材48を規則的に設け、複数の回転パルスを規則的に出力することは容易ではないため、Mの増大だけによる測定精度の向上は容易ではない。本実施形態では、複数の部材48を設けなくても、ゲート期間Tgを補正することで測定精度が向上するため、より簡易な手法により測定精度を向上させることが可能となる。
【0055】
また、NMR測定用プローブ30の種類に応じて設定回転数を切り替えてもよい。制御部20は、例えばNMR測定用プローブ30に内蔵されているメモリからNMR測定用プローブ30の種類を示すプローブ種別情報(例えばプローブID)を取得し、予め設定されている複数の設定回転速度の中から、プローブ種別情報が示す種類に対応する設定回転速度を選択する。これにより、NMR測定用プローブ30の種類に応じた回転速度で試料管40を回転させることができる。または、ユーザが入力部24を用いてプローブ種別情報を入力し、制御部20は、入力部24から入力されたプローブ種別情報に従って設定回転速度を選択してもよい。
【0056】
上述したNMR用試料管回転制御装置10は、図示しないCPU等のプロセッサを備えている。プロセッサは、図示しないメモリに記憶されたプログラムを実行することにより、演算部18及び制御部20の機能を実現する。上記プログラムは、CDやDVD等の記録媒体を介して又はネットワーク等の通信経路を介してハードディスクドライブ(HDD)等の記憶装置に記憶される。なお、上記プログラムはハードディスクドライブ等の記憶装置に予め記憶されていてもよい。ハードディスクドライブ等の記憶装置に記憶されたプログラムがRAM等のメモリに読み出されてCPU等のプロセッサによって実行されることにより、演算部18及び制御部20の機能が実現される。