特許第6153248号(P6153248)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6153248全固体リチウム二次電池用正極活物質およびこれを用いた全固体リチウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6153248
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】全固体リチウム二次電池用正極活物質およびこれを用いた全固体リチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20170619BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20170619BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20170619BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20170619BHJP
【FI】
   H01M4/525
   H01M10/0562
   H01M4/36 E
   H01M10/0525
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-108459(P2013-108459)
(22)【出願日】2013年5月23日
(65)【公開番号】特開2014-229495(P2014-229495A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田渕 光春
(72)【発明者】
【氏名】岡本 英丈
【審査官】 正 知晃
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/160707(WO,A1)
【文献】 特開2010−108793(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/125668(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウム含有ニッケル酸リチウムとリチウムジルコニウム酸化物とを含有する全固体リチウム二次電池用正極活物質であって、
上記ジルコニウム含有ニッケル酸リチウムが、LiNi1−yZr(0.8≦x≦1.1,0<y<0.08)であり、
上記リチウムジルコニウム酸化物として、少なくともLiZrを含有し、
LiZrOの含有量が、正極活物質全体に対して0.1mol%未満であることを特徴とする全固体リチウム二次電池用正極活物質。
【請求項2】
LiZrが、正極活物質全体に対して5.0mol%以下の濃度であることを特徴とする請求項1に記載の全固体リチウム二次電池用正極活物質。
【請求項3】
請求項1または2に記載の全固体リチウム二次電池用正極活物質を含んだ正極と、無機固体電解質とを備えることを特徴とする全固体リチウム二次電池。
【請求項4】
無機固体電解質が、LiS−Pであることを特徴とする請求項3に記載の全固体リチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体リチウム二次電池用正極活物質およびこれを用いた全固体リチウム二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンの普及に伴う携帯電話の高機能化、ハイブリッドカーや電気自動車の普及に伴い、長時間使用が可能であり、且つ小型・軽量で、安全性の高い二次電池が強く要望されている。このような要望に応える二次電池として、他の二次電池と比較して、高いエネルギー密度を有するリチウム二次電池が多用されている。
【0003】
しかし、従来から使用されてきた可燃性の有機溶媒を含むリチウム二次電池は過充電時や濫用時に液漏れや発火の恐れがある。今後、自動車用の電池や据え置き型など、大型電池が普及してくると考えられるが、電池の大型化に伴い放熱が困難になると上述の発火の危険性が高まり、上述した安全性の高い二次電池と言えるにはいまだ十分ではない。このため、電池の大型化に伴って、安全性の確保が重要な課題である。
【0004】
このような電池の大型化と安全性との両立という課題を解決する一つのアイデアとして、有機電解液と比較して化学的に安定で且つ液漏れや発火の恐れが無い固体電解質を用いた全固体リチウム二次電池が提案されている。
【0005】
また、リチウム二次電池の正極活物質としては、LiCoOが主流であるが、さらなる高エネルギー密度化、低コスト化および省資源化のために、LiNiO(ニッケル酸リチウム)系正極活物質の適用が検討されている。しかし、これらのニッケル酸リチウム系正極活物質には、充電時の電解液との反応性や熱的安定性に課題があり、熱暴走や上述の発火の危険性を助長する。したがって、電池の高エネルギー密度化に伴う安全性の確保もまた重要な課題である。
【0006】
このようなLiNiO(ニッケル酸リチウム)系正極活物質の熱的な安定性の改善策として、LiNiOのニッケルの一部を種々の異種元素で置換することで、熱的な安定性を改善する試みがなされてきたが、LiNiO系の正極活物質に本来期待されている高い放電容量を犠牲にしていた。熱的な安定性と高いエネルギー密度(放電容量)を両立するために、3価元素で酸素との結合力の強いアルミニウムと、ジルコニウム・イットリウムから選ばれる1種以上の元素とを一定の比率で組み合わせて、LiNiOのNiサイトを置換する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
一方で、LiNiO系正極活物質は、ニッケルが2価および3価の混合原子価状態になりやすく、このためリチウム欠損組成になりやすいので電極特性が悪くなるという問題点がある。このリチウム欠損組成を防ぐため、ニッケル系正極活物質の製造時において、一般的にニッケルに対する仕込みリチウムの原子比を定比の1以上にするが、このようなLiNiO正極活物質の粒子は、その余剰のリチウムイオンが空気中の二酸化炭素や水分と反応して炭酸塩や水酸化物の形で粒子表面上に残留しやすい。これらの炭酸塩や水酸化物は絶縁体であり電池性能悪化の一因となることから、LiNiO正極活物質の性能が著しく低い要因の一つであると考えられる。このような問題を解決するために、ニッケル酸リチウムのニッケルの一部をチタンで置換・固溶させることでニッケル酸リチウムの性能が向上することが説明されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3775552号公報
【特許文献2】特開2010−108793号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】町田ら、第53回電池討論会要旨集、2012年、3H09
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載のリチウム二次電池によると、高い放電容量を得る観点からは、いまだLiNiO系正極活物質に本来期待されている高い放電容量を発現させるにいたっておらず、不十分である。
【0011】
また、特許文献2に記載のリチウム二次電池によると、ニッケル酸リチウムのニッケルの一部をチタンで置換/固溶することで、ある程度の性能向上は見込めるものの、チタンは微粒化が困難であることから反応性に劣り、性能向上が十分ではない。
【0012】
そこで、本発明は、安全性を確保しつつ放電容量など電池性能の向上を図り得る全固体リチウム二次電池用正極としてのニッケル酸リチウム系正極活物質およびこれを用いた全固体リチウム二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に係る全固体リチウム二次電池用正極活物質は、ジルコニウム含有ニッケル酸リチウムとリチウムジルコニウム酸化物とを含有する全固体リチウム二次電池用正極活物質であって、
上記ジルコニウム含有ニッケル酸リチウムが、LiNi1−yZr(0.8≦x≦1.1,0<y<0.08)であり、
上記リチウムジルコニウム酸化物として、少なくともLiZrを含有し、
LiZrOの含有量が、正極活物質全体に対して0.1mol%未満であるものである。
【0014】
また、本発明の請求項2に係る全固体リチウム二次電池用正極活物質は、請求項1に記載の全固体リチウム二次電池用正極活物質におけるLiZrが、正極活物質全体に対して5.0mol%以下の濃度であるものである。
【0015】
さらに、本発明の請求項3に係る全固体リチウム二次電池は、請求項1または2に記載の全固体リチウム二次電池用正極活物質を含んだ正極と、無機固体電解質とを備えるものである。
【0016】
また、本発明の請求項4に係る全固体リチウム二次電池は、請求項3に記載の全固体リチウム二次電池の無機固体電解質が、LiS−Pであるものである。
【発明の効果】
【0017】
上記全固体リチウム二次電池用正極活物質およびこれを用いた全固体リチウム二次電池によると、安全性を確保しつつ放電容量などの電池性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施例に係る全固体リチウム二次電池の概略構成を示す断面図である。
図2】本発明の実施例および比較例における全固体リチウム二次電池の正極活物質に対するXRD測定の結果を示すグラフであり、第1段目〜第4段目がそれぞれ実施例1〜実施例4を示し、第5段目〜第7段目がそれぞれ比較例1〜比較例3を示す。
図3】同全固体リチウム二次電池の積層部材の成形を説明するための一部切欠斜視図であり、(a)は固体電解質の成形を説明するための図、(b)は負極層の成形を説明するための図、(c)は正極層の成形を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0019】
以下、本発明の実施例1に係る全固体リチウム二次電池用正極活物質およびこれを用いた全固体リチウム二次電池を説明する。
まず、全固体リチウム二次電池の基本的構成について図面に基づき簡単に説明する。
【0020】
この全固体リチウム二次電池は、図1に示すように、正極層2と負極層4との間にリチウムイオン伝導性の無機固体電解質3が配置(積層)されたものであり、正極層2の無機固体電解質3とは反対側の表面に正極集電体1が、負極層4の無機固体電解質3とは反対側の表面に負極集電体5が、負極層4の外周に絶縁体フィルム6が、それぞれ配置(積層)されたものである。
【0021】
上記正極層(正極合材ともいう)2には、正極活物質と固体電解質との混合物が用いられる。
以下、この正極活物質の製造方法について図面に基づき説明する。
【0022】
まず、ジルコニウム含有ニッケル酸リチウム(LiNi1−yZr)のニッケル源である水酸化ニッケル[Ni(OH)]9.97gと、ジルコニウム源である粒径100nm未満の酸化ジルコニウム(ZrO)0.04g(全遷移金属量に対して0.3mol%)とを、リチウム源である水酸化リチウム水溶液(LiOH・HO)に分散させた。この水酸化リチウム水溶液は、全遷移金属量に対してmol比で1.02倍とする。ここで、水酸化ニッケルと酸化ジルコニウムとを水酸化リチウム水溶液に分散させる理由は、より均一にリチウムを遷移金属に対して反応させるためである。
【0023】
次に、水酸化ニッケルと酸化ジルコニウムとが分散した水酸化リチウム水溶液を乾燥させた後、酸素気流中で700℃にて20時間焼成することにより、焼成混合物が得られた。この焼成混合物を粉砕処理し、さらに酸素気流中で750℃にて20時間焼成することにより、目的物質であるジルコニウム固溶正極活物質(ジルコニウム含有ニッケル酸リチウムを主成分とする2相または3相からなる物質)が得られた。なお、上記焼成温度は、上記の通り700℃および750℃に限定されず、650℃以上850℃未満であればよい。この650℃以下ではリチウム源の反応に乏しくLi/(Ni+Zr)比が1に近い試料を得るのが難しく、850℃以上はリチウムが揮発する可能性があり、また再び3価のニッケルが2価に還元されることから、Li/(Ni+Zr)比が1に近い試料を得るのが難しい。
【0024】
また、上記ジルコニウム固溶正極活物質に対して、CuKαを光源とする粉末X線回析(XRD)測定結果を、図2の第1段目に示す。この図2に示すように、上記により得られたジルコニウム固溶正極活物質には、ジルコニウム含有ニッケル酸リチウム(LiNi1−yZr)相とリチウムジルコニウム複合酸化物(LiZr)相(0.1mol%)との二相が形成されていることを確認した。
【0025】
以下、上記ジルコニウム固溶正極活物質を用いて全固体リチウム二次電池を作製する方法について説明する。
まず、無機固体電解質3を成形する。具体的には、図3(a)に示すように、冷間ダイス鋼(SDK)など超硬性の鋼材で製造された内径10mmの円筒形状の型(以下、単に円筒金型Mという)に、無機固体電解質3の原料であるリチウムイオン伝導性固体電解質[例えばLiS(70mol%)−P(30mol %)]50mgを秤量して入れ、188MPaで図3(a)に示すPの方向に1回加圧プレスして無機固体電解質3を成形する。
【0026】
次に、負極層4を成形する。具体的には、図示しないが黒鉛60mgとリチウムイオン伝導性固体電解質[例えばLiS(70mol %)−P(30mol %)]40mgとを秤量して乳鉢に入れ、十分に混合する。そして、この混合物15mgを秤量し、図3(b)に示すように、円筒金型Mに無機固体電解質3の上から入れ、それぞれ188MPaで図3(b)に示すPの方向に3回加圧プレスして負極層4を成形する。
【0027】
その後、正極層2を成形する。具体的には、上記ジルコニウム固溶正極活物質70mgとリチウムイオン伝導性固体電解質[例えばLiS(70mol %)−P(30mol %)]30mgとを秤量して乳鉢に入れ、十分に混合する。そして、この混合物20mgを秤量し、図3(c)に示すように、円筒金型Mに無機固体電解質3の上(負極層4とは反対側)から入れ、順次376MPa、752MPa、1050MPaで図3(c)に示すPの方向に加圧プレスして正極層2を成形する。
【0028】
次に、この正極層2、無機固体電解質3および負極層4からなる積層部材7を円筒金型Mから取り出す。その後、図示しないが、内径11mmの孔が形成された絶縁体フィルム6を、銅箔である負極集電体5の上に配置する。そして、上記積層部材7の負極層4が負極集電体5に接するように、積層部材7(外径10mm)を絶縁体フィルム6の孔(内径11mm)に入れる。その後、積層部材7の正極層2の上にアルミニウム箔である正極集電体1を配置して、図1に示す構成とする。
【0029】
このようにして作製された全固体リチウム二次電池を、恒温槽内に配置して30℃で維持するとともに、78.4MPaで加圧する。この状態で、充電終止電圧を4.2V、放電終止電圧を2.0V、および充電電流を0.1mA/cmとする条件下で、放電電流をそれぞれ0.1mA/cmとした場合における、放電エネルギー密度の計測結果を下記の[表1]に示す。また、上記XRD測定により確認されたリチウムジルコニウム複合酸化物の量も[表1]に示す。なお、[表1]には、他の実施例や比較例についてのデータも示す。
【0030】
【表1】
以下、実施例2〜実施例4並びに比較例1および比較例2について説明する。これら実施例および比較例は、実施例1で水酸化リチウム水溶液に分散させた水酸化ニッケルおよび酸化ジルコニウムの量を変更したものである。
【実施例2】
【0031】
本実施例2では、水酸化ニッケルの量を9.90gとし、酸化ジルコニウムの量を0.13g(全遷移金属量に対して1.0mol%)として、ジルコニウム固溶正極活物質を得た。
【0032】
また、このジルコニウム固溶正極活物質に対して、CuKαを光源とするXRD測定結果を、図2の第2段目に示す。この図2に示すように、上記ジルコニウム固溶正極活物質には、ジルコニウム含有ニッケル酸リチウム(LiNi1−yZr)相とリチウムジルコニウム複合酸化物(LiZr)相(0.7mol%)との二相が形成されていることを確認した。
【実施例3】
【0033】
本実施例3では、水酸化ニッケルの量を9.70gとし、酸化ジルコニウムの量を0.40g(全遷移金属量に対して3.0mol%)として、ジルコニウム固溶正極活物質を得た。
【0034】
また、このジルコニウム固溶正極活物質に対して、CuKαを光源とするXRD測定結果を、図2の第3段目に示す。この図2に示すように、上記ジルコニウム固溶正極活物質には、ジルコニウム含有ニッケル酸リチウム(LiNi1−yZr)相とリチウムジルコニウム複合酸化物(LiZr)相(3.5mol%)との二相が形成されていることを確認した。
【実施例4】
【0035】
本実施例4では、水酸化ニッケルの量を9.50gとし、酸化ジルコニウムの量を0.66g(全遷移金属量に対して5.0mol%)として、ジルコニウム固溶正極活物質を得た。
【0036】
また、このジルコニウム固溶正極活物質に対して、CuKαを光源とするXRD測定結果を、図2の第4段目に示す。この図2に示すように、上記ジルコニウム固溶正極活物質には、ジルコニウム含有ニッケル酸リチウム(LiNi1−yZr)相とリチウムジルコニウム複合酸化物(LiZr)相(5.0mol%)との二相が形成されていることを確認した。
【0037】
[比較例1]
本比較例1では、酸化ジルコニウムの量を0gとし、すなわち酸化ジルコニウムを用いないで、ニッケル酸リチウム(LiNiO)の正極活物質を得た。
【0038】
また、この正極活物質に対して、CuKαを光源とするXRD測定結果を、図2の第5段目に示す。この図2に示すように、上記正極活物質には、リチウムジルコニウム複合酸化物相が形成されていないことを確認した。
【0039】
本比較例1では、上述の通り、ニッケル酸リチウム(LiNiO)の正極活物質における粒子表面上に、余剰のリチウムイオンが炭酸塩や水酸化物として残留した。残留した炭酸塩や水酸化物が高抵抗成分として作用するので、上記の[表1]に示すように、作製したリチウム二次電池の電池性能(放電エネルギー密度)が低下した。
【0040】
[比較例2]
本比較例2では、水酸化ニッケルの量を9.20gとし、酸化ジルコニウムの量を1.06g(全遷移金属量に対して8.0mol%)として、ジルコニウム固溶正極活物質を得た。
【0041】
また、このジルコニウム固溶正極活物質に対して、CuKαを光源とするXRD測定結果を、図2の第6段目に示す。この図2に示すように、上記ジルコニウム固溶正極活物質には、ジルコニウム含有ニッケル酸リチウム(LiNi1−yZr)相と、第一のリチウムジルコニウム複合酸化物(LiZr)相(4.7mol%)と、第二のリチウムジルコニウム複合酸化物(LiZrO)相(3.9mol%)との三相が形成されていることを確認した。
【0042】
本比較例2では、高抵抗成分として作用する第二のリチウムジルコニウム複合酸化物(LiZrO)相が形成されているので、上記の[表1]に示すように、作製したリチウム二次電池の電池性能(放電エネルギー密度)が低下した。
非特許文献1には、ニッケル系正極活物質にLiZrOを被覆すると電池性能が良くなるとの報告があるが、本発明においては、LiZrO相が存在すると電池性能が低下するので好ましくないことを確認した。
【0043】
[比較例3]
本比較例3では、水酸化ニッケルの量を9.93gとし、酸化ジルコニウムの量を0.09g(全遷移金属量に対して0.7mol%)として、ジルコニウム固溶正極活物質を得た。
【0044】
また、このジルコニウム固溶正極活物質に対して、CuKαを光源とするXRD測定結果により、上記ジルコニウム固溶正極活物質には、ジルコニウム含有ニッケル酸リチウム(LiNi1−yZr)相と、第一のリチウムジルコニウム複合酸化物(LiZr)相(0.2mol%)と、第二のリチウムジルコニウム複合酸化物(LiZrO)相(0.7mol%)との三相が形成されていることを確認した。
【0045】
なお、現時点で添加した酸化ジルコニウムの量が少ないにも関わらず、第二のリチウムジルコニウム複合酸化物(LiZrO)相が変則的に形成された理由については不明である。
【0046】
本比較例3では、高抵抗成分として作用する第二のリチウムジルコニウム複合酸化物(LiZrO)相が形成されているので、上記の[表1]に示すように、作製したリチウム二次電池の電池性能(放電エネルギー密度)が低下した。
【0047】
以上の結果から、ジルコニウム固溶正極活物質は、その組成式が
LiNi1−yZr(0<y<0.08)
であることが好ましいといえる。yが0.08以上になると、不純物としてLiZrO(第二のリチウムジルコニウム複合酸化物)が形成され得るからである。また、LiZrOの含有量は、0.1mol%未満であることが望ましい。一連の結果から、CuKαを光源とする本XRD測定検出限界は、0.1mol%未満であると考えられるので、実施例1〜4におけるLiZrOの含有量は、0.1mol%未満であると推測される。さらに、このLiNi1−yZr(0.8≦x≦1.1,0<y<0.08)に対して、リチウムジルコニウム複合酸化物(LiZr)を5.0mol%以下の濃度で含有する範囲である。
【0048】
このように、本実施例1〜4の正極層によると、その材料である正極活物質にリチウムジルコニウム複合酸化物(LiZr)の相が形成されるので、安全性を確保しつつ電池性能の向上を図ることができた。
【符号の説明】
【0049】
1 正極集電体
2 正極層
3 無機固体電解質
4 負極層
5 負極集電体
6 絶縁体フィルム
7 積層部材
M 円筒金型
図1
図2
図3